大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成7年(ヨ)2385号 決定 1995年12月08日

A事件債権者(B事件債権者)

大場恵子

A事件債権者(B事件債権者)

小橋栄子

A事件債権者(B事件債権者)

青戸範子

A事件債権者(B事件債権者)

杉坂志津子

右四名代理人弁護士

中道武美

小久保哲郎

A事件債務者(B事件債務者)

医療法人南労会

右代表者理事長

松浦良和

右代理人弁護士

田邉満

主文

一  A事件債権者(B事件債権者)大場恵子、A事件債権者(B事件債権者)小橋栄子、A事件債権者(B事件債権者)青戸範子及びA事件債権者(B事件債権者)杉坂志津子が、A事件債務者(B事件債務者)に対し、各雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  A事件債務者(B事件債務者)は、A事件債権者(B事件債権者)大場恵子に対し、金六四万三一四三円及び平成七年一二月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二〇日限り、月額二一万四三八一円の割合による金員を仮に支払え。

三  A事件債務者(B事件債務者)は、A事件債権者(B事件債権者)小橋栄子に対し、金五二万八六六〇円及び平成七年一二月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二〇日限り、月額一七万六二二〇円の割合による金員を仮に支払え。

四  A事件債務者(B事件債務者)は、A事件債権者(B事件債権者)青戸範子に対し、金四四万四一五六円及び平成七年一二月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二〇日限り、月額一四万八〇五二円の割合による金員を仮に支払え。

五  A事件債務者(B事件債務者)は、A事件債権者(B事件債権者)杉坂志津子に対し、金三九万一六九八円及び平成七年一二月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二〇日限り、月額一三万五六六円の割合による金員を仮に支払え。

六  A事件債権者(B事件債権者)大場恵子、A事件債権者(B事件債権者)小橋栄子、A事件債権者(B事件債権者)青戸範子及びA事件債権者(B事件債権者)杉坂志津子がA事件債務者(B事件債務者)に対し、勤務場所をA事件債務者(B事件債務者)松浦診療所看護科とする各雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

七  A事件債権者(B事件債権者)大場恵子、A事件債権者(B事件債権者)小橋栄子、A事件債権者(B事件債権者)青戸範子及びA事件債権者(B事件債権者)杉坂志津子のその余の申立てを却下する。

八  申立費用はA事件債務者(B事件債務者)の負担とする。

理由

第一申立ての趣旨

一  主文一及び六項と同旨

二  A事件債務者(B事件債務者)は、A事件債権者(B事件債権者)大場恵子に対し、平成七年九月一日から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二〇日限り、月額二二万三四六二円の割合による金員を仮に支払え。

三  A事件債務者(B事件債務者)は、A事件債権者(B事件債権者)小橋栄子に対し、平成七年九月一日から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二〇日限り、月額一八万四二六一円の割合による金員を仮に支払え。

四  A事件債務者(B事件債務者)は、A事件債権者(B事件債権者)青戸範子に対し、平成七年九月一日から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二〇日限り、月額一五万七二九三円の割合による金員を仮に支払え。

五  A事件債務者(B事件債務者)は、A事件債権者(B事件債権者)杉坂志津子に対し、平成七年九月一日から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二〇日限り、月額一四万二九四六円の割合による金員を仮に支払え。

六  A事件債務者(B事件債務者)は、A事件債権者(B事件債権者)大場恵子、A事件債権者(B事件債権者)小橋栄子、A事件債権者(B事件債権者)青戸範子及びA事件債権者(B事件債権者)杉坂志津子に対し、A事件債権者(B事件債権者)大場恵子、A事件債権者(B事件債権者)小橋栄子、A事件債権者(B事件債権者)青戸範子及びA事件債権者(B事件債権者)杉坂志津子がA事件債務者(B事件債務者)松浦診療所看護科で勤務するのを妨害してはならない。

第二事案の概要

一  本件は、次のような事案である。

A事件債権者ら(B事件債権者ら)は、A事件債務者(B事件債務者)がA事件債権者ら(B事件債権者ら)に対してなした配転命令及び懲戒解雇は無効であるとして、申立ての趣旨記載のとおり地位保全等の仮処分命令申立てをなした事案である。

なお、以下において書証は、併合前のB事件及びAB両事件併合後のものを引用することとする。

二  基本となる事実

当事者間に争いがない事実及び疎明(<証拠略>)と審尋の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1  A事件債務者(B事件債務者)(以下「債務者」という。)は、診療所及び病院の経営等を目的として昭和五五年一月二六日に設立された医療法人であり、大阪市港区(―略、以下同じ)において、医療法人南労会松浦診療所(以下「松浦診療所」という)を、和歌山県橋本市に紀和病院(以下「紀和病院」という)を開設している。

A事件債権者(B事件債権者)大場恵子(以下「債権者大場」という)は、債務者に昭和五八年一一月七日に就職し、それ以来債務者の松浦診療所看護科の看護婦として勤務してきた。

A事件債権者(B事件債権者)小橋栄子(以下「債権者小橋」という)は、債務者に昭和六二年七月一七日に就職し、それ以来債務者の松浦診療所看護科の看護婦として勤務してきた。

A事件債権者(B事件債権者)青戸範子(以下「債権者青戸」という)は、債務者に平成二年三月二二日に就職し、それ以来債務者の松浦診療所看護科の看護婦として勤務してきた。

A事件債権者(B事件債権者)杉坂志津子(以下「債権者杉坂」という)は、債務者に平成二年九月一日に就職し、それ以来債務者の松浦診療所看護科の看護婦として勤務してきた。

債権者大場、債権者小橋、債権者青戸及び債権者杉坂(以下「債権者ら」という)は、昭和六〇年一月二六日に債務者内で結成され、平成三年八月に全国金属機械労働組合港合同に加盟した全国金属機械労働組合港合同南労会支部(以下「組合」という)の労働組合員である。

2  債務者は、債権者大場に対し、平成七年六月八日に、同年六月一五日付けをもって同債権者を債務者の紀和病院看護部の「訪問看護ステーションウェルビー」勤務とする旨の配転命令をなした。

債務者は、債権者小橋栄子に対し、平成七年八月一五日に、同月二一日付けをもって同債権者を債務者松浦診療所健診部勤務とする旨の配転命令を、債権者青戸範子に対し、同日付けをもって同債権者を債務者の紀和病院看護部勤務とする旨の配転命令を、債権者杉坂志津子に対し、同日付けをもって同債権者を債務者の紀和病院看護部勤務とする旨の配転命令をそれぞれなした。

(以下、債権者らに対する配転命令を総称して「債権者らに対する本件配転命令」といい各債権者に対する配転命令を、例えば「債権者大場に対する本件配転命令」という)

3  債務者は、平成七年八月三〇日に、債権者らに対し、いずれも

<1> 債権者らに対する本件配転命令に従わないこと

<2> 同月二一日以降連日松浦診療所処置室において「就労闘争」を繰り返し、診療所所長の再三の注意、警告を無視し、医師の指示にもとづかない医療行為を続けたこと

を理由にして、これが就業規則一七条三、四、六号、一八条一号、一九条七号及び二〇条二号に該当するとして、同月三〇日付で懲戒解雇する旨の意思表示をなした。

(以下、債権者らに対する懲戒解雇を総称して「債権者らに対する本件懲戒解雇」といい、各債権者に対する懲戒解雇を、例えば「債権者大場に対する本件懲戒解雇」という)

三  債権者らの主張

債権者らの主張はその各主張書面記載のとおりであるからこれを引用するが、要約すると次のとおりである。

1  債権者らに対する本件配転命令の無効

<1> 債権者らと債務者との間の雇用契約は、いずれも就労場所を債務者の松浦診療所看護科とした内容であって、債権者らの勤務場所を債務者紀和病院とすること、及び債務者松浦診療所健診部とすることは雇用契約の変更に当たり、債権者らの同意がない限り許されない。

しかるに、債権者らに対する本件配転命令は、債権者らの同意を得ていないから無効である。

<2> 債権者らに対する本件配転命令は、合理的根拠をもたず、債務者の松浦診療所看護科から債権者ら労働組合員を排除するために強行されたものであり、不当労働行為であり、しかも配転命令の権利の濫用として無効である。

従って、債権者らに対する本件配転命令は無効である。

2  債権者らに対する本件懲戒解雇の無効

<1> 債権者らに対する本件懲戒解雇は、懲戒事由が不存在である。

<2> 債権者らに対する本件懲戒解雇は、債務者の松浦診療所看護科から債権者ら労働組合員を排除することを目的とした不当労働行為であり、しかも権利の濫用として無効である。

従って、債権者らに対する本件懲戒解雇は無効である。

四  債務者の主張

債務者の主張はその各主張書面記載のとおりであるからこれを引用するが、要約すると次のとおりである。

1  債権者らに対する本件配転命令の業務上の必要性

<1> 債権者大場について

債務者は昭和五九年に和歌山県橋本市に紀和病院を開設したが、平成七年五月には病院所在地に訪問看護ステーションウェルビーを開設するに至った。

訪問看護ステーションは、現在の地域の需要からすれば今後訪問看護の需要は相当増加すると予測できる。従って、訪問看護ステーション所属の看護婦を早期に増員する必要がある。

債権者大場は、在宅医療に関わりたいとの希望を出している。

松浦診療所は将来訪問看護専任看護婦の設置を計画しており、債権者大場に対し、将来の布石として訪問看護ステーションウェルビーへの配転を実施する。

松浦診療所看護科は現在の六人体制で必要かつ十分である。

債権者大場の個人的な事情をみても配転に応じやすい状況にある。

<2> 債権者小橋、債権者青戸及び債権者杉坂について

債権者小橋、債権者青戸及び債権者杉坂は、診療所の勤務時間に関する業務指示に従わず、病気等を口実にして欠勤し、何時出勤するかわからない状態を続けて診療に支障が出ており、診療所の注意も無視し、放置することのできない状態に立ち入(ママ)ったと判断された。

債権者小橋、債権者青戸及び債権者杉坂は、診療所の再三の注意、警告を無視し、水野和枝(以下「水野」という)婦長に対し、いじめや嫌がらせによる就労妨害、業務妨害を行っており、放置することのできない状態に立ち至ったと判断された。

このため、債務者は配転命令をなしたものである。

2  債権者らに対する本件懲戒解雇の正当性

<1> 債権者大場について

懲戒解雇の理由は次のとおりである。

ア 平成七年六月一五日付をもって訪問看護ステーションウェルビーに勤務するよう命じられているにもかかわらず、これに従わない。

イ 平成七年八月二一日以降連日松浦診療所処置室において「就労闘争」を繰り返し、診療所所長の再三の注意、警告を無視し、医師の指示にもとづかない医療行為を続けた。

<2> 債権者小橋について

懲戒解雇の理由は次のとおりである。

ア 平成七年八月二一日付をもって松浦診療所健診部に勤務するよう命じられているにもかかわらず、これに従わない。

イ 平成七年八月二一日以降連日松浦診療所処置室において「就労闘争」を繰り返し、診療所所長の再三の注意、警告を無視し、医師の指示にもとづかない医療行為を続けた。

<3> 債権者青戸について

懲戒解雇の理由は次のとおりである。

ア 平成七年八月二一日付をもって紀和病院看護部に勤務するよう命じられているにもかかわらず、これに従わない。

イ 平成七年八月二一日以降連日松浦診療所処置室において「就労闘争」を繰り返し、診療所所長の再三の注意、警告を無視し、医師の指示にもとづかない医療行為を続けた。

<4> 債権者杉坂について

懲戒解雇の理由は次のとおりである。

ア 平成七年八月二一日付をもって紀和病院看護部に勤務するよう命じられているにもかかわらず、これに従わない。

イ 平成七年八月二一日以降連日松浦診療所処置室において「就労闘争」を繰り返し、診療所所長の再三の注意、警告を無視し、医師の指示にもとづかない医療行為を続けた。

五  争点

1  債権者らに対する本件配転命令の効力

2  債権者らに対する本件懲戒解雇の効力

3  保全の必要性

第三争点に対する判断

一  債権者らに対する本件配転命令及び本件懲戒解雇に至る経緯

疎明(<証拠略>)に審尋の全趣旨を総合すると、次のとおり認めることができる。

1  債務者は、昭和六一年三月一三日に、当時の「南労会労働組合松浦診療所分会」(組合)との間において、経営計画、組織の変更、労働条件の変更等についての「事前協議・同意約款協定」を締結した。

これは、従前両者間の関係が円滑を欠いていたため、今後は双方の協力関係のもとに、健全な労使関係を形成しようという試みであった。

昭和六二年には、債務者から松浦診療所における責任者の責任と権限に関する提案がなされた。

すなわち、松浦診療所の各科には、責任者が置かれ、業務管理(業務計画立案・実施指導・統括、業務の監査・実態把握、支出決定、残業管理・指示)、人事管理(勤務割の決定、勤怠状況の把握、残業把握、休暇に関する処理、健康管理、研修出張計画及び処理)、情報管理(部長からの指示の徹底、部長への科内状況の報告、関連部署間の連絡)を行い、各科を統括するという提案である。

債務者と組合は協議した結果、責任者の名称を主任とし、主任は管理職ではなく、特別の手当を受給されるものではないこと、主任人事に関しては、労使間で協議をつくすことなどを確認したうえ、右のとおりの内容の主任制を導入することを合意するに至った。

2  債務者と組合との間において、平成三年八月から、深刻な労働争議が継続している。

これは、債務者が、経営の合理化を達成するために、病院経営における赤字解消を理由にして、夜間診療を縮小し、それに対応して労働時間を変更し、従業員数を削減し、人件費の削減を図ったことが発端となったものである。

すなわち、債務者の経営合理化案に対して、組合はその内容に問題があるとして、協議を行なってきたが、協議の過程で債務者が平成三年八月五日に経営合理化案を実施した。

その中には労働時間の変更が含まれていたため、組合は事前協議同意約款協定違反であるとして抗議し、その後団体交渉が行われた。

しかし、協議は難航し、その過程において、さらに債務者が組合に対する対立姿勢を強め(事前協議同意約款協定については、債務者から組合に対して平成四年四月二七日に破棄が通告されている)、組合員の解雇問題もからんで両者間の関係は悪化の一途をたどった。

組合は、債務者による勤務時間の変更が無効であるとの立場から、その後も債務者に対し、その撤回を求めるとともに、組合員に対しては従来どおりの労働時間で働くことを指示し、現実にはそのとおりの内容で勤務がなされてきた。

これに対し、債務者は、賃金カットを行なうという対抗措置をとった。

その後も、債務者は、就業規則を変更して変形労働時間制を導入し、平成七年五月に労働時間を指定して通告した。

債務者が合理化案を実施した平成三年八月から平成七年に至る約四年間は、右のとおり債務者の労働時間に関する多数回にわたる変更指定にかかわらず、現実には、組合員が、従来どおりの労働時間を基本とした勤務体制を行なうことによって実施されてきたのが実情である。

3  労働時間の問題と平行して、管理職体制の問題も紛糾している。

債務者は、平成四年四月から、経営の効率化を図ることを名目として管理職体制の強化を打ち出した。

その内容は、課長職などの管理職ポストの新設が主なものである。

これに対して、組合は、債務者の打ち出した管理職強化は、組合員に対し、賃金等の労働条件が良くなることを誘因にして、組合からの脱退を慫慂するものであり、不当であるとして反撥した。

さらに組合は、課長職の導入は、従前労使合意のもとに築かれてきた主任制をなし崩し的に廃止することをねらったもので、組合員である主任が、週ごと、または月ごとに行ってきた勤務割表の作成、勤怠管理、部署の統括的業務を、課長業務に取り込み、組合員への監視と管理を強め、とりわけ組合員による従来の方式にもとづく労働時間の実施をやめさせたうえ、債務者の指示した労働時間を強制しようとするものであるとして強く反撥した。

婦長職導入も、このような管理職体制の強化の中で打ち出された。

平成七年二月三日に、債務者によって、水野が、婦長として採用され着任した。

水野婦長は、採用直後から組合に対立する姿勢を鮮明になし、その後もますます対立関係は著しいものになっていった。

松浦診療所における、水野婦長採用後現在までの組合員に対する懲戒件数は五九件、対象者は四〇名という、憂慮すべき状態になっている。

現在においては、債務者と組合との対立関係は、調整の余地がないほど紛糾した外観を呈している。

ところで、水野婦長は、平成七年二月三日に松浦診療所に着任したが、その後は組合側の抵抗のためと称して、断続的に出勤しているにすぎなかった。

水野婦長は、特に債権者大場に対し、退職を示唆するような発言をするなど、松浦診療所から排除する態度を明確にしている。

債務者は、平成七年四月二日に一名の看護婦を採用し、看護婦一名が同月一一日に育児休業から復職した後の同月一五日に、債権者大場に対し、配転の内示をした。

4  その後、松浦診療所の健診専属職員であり、組合の執行委員である佐藤信子(以下「佐藤」という)が、平成七年五月二〇日に、水野婦長に対して暴行をなしたとして、同年六月二日付けで懲戒解雇された。

これは、佐藤が、水野婦長とすれ違った際に、水野婦長からにらみつけられたため、日頃の水野婦長の態度等から、気持ちが治まらず、水野婦長の手のひらを手で軽く一回はたいたことを懲戒事由とするものである。

5  水野婦長は、平成七年五月二〇日の件で病気になったことを理由として、同月二一日から休業に入った。

債務者は、組合に対し、水野婦長へのいやがらせや業務妨害をやめるよう要求した。

これに対し、組合は、水野婦長の導入には反対の姿勢を示しているものの、いやがらせや業務妨害をしたことはなく、今後もないものとして、応答してきた。

債務者は、平成七年六月八日に、同月一五日付をもって債権者大場に対する本件配転命令をなした。

その後、松浦診療所看護科では、ますます混乱状態が深刻化していたが、債務者は、この過程において、平成七年八月一五日に、同月二一日付をもつて、債権者小橋、債権者青戸、債権者杉坂に対し、同債権者らに対する本件配転命令をなした。

その結果、現在松浦診療所看護科で勤務しうる組合員は小松恵一人のみとなった。

その後、平成七年八月三〇日に同日付をもって、債権者らに対する本件懲戒解雇がなされた。

二  争点1(債権者らに対する本件配転命令の効力)、争点2(債権者らに対する本件懲戒解雇の効力)について以上にもとづいて検討する。

1  債務者と組合との間においては、長期間にわたり、労働時間、賃金の支払い等多岐にわたる事項に関して紛争があり、全面的に対立関係が継続していた。

これは、従前経営者側と労働者とが、明確に指揮命令系統に組織化されることなく、労働時間等の労働条件についても、できるだけ労働者側の自治的運用に委ねようという、債務者の創業以来の基本的方針を、維持継続することに対して、これでは経営がいずれ成り立たなくなるという経営者側の基本的方針の見直しがなされたことを背景にして生じた問題である。

債務者側は、これを経営の合理化の名のもとに遂行しようとし、組合側は、これに対し、経営合理化の背景にある組織系統の管理強化及び労働条件等の不当な変更は許されないとして反対し、この紛争は、様々な形態をとって発展したきた。

本件発生時点を含めて現在においては、債務者と組合との対立関係は、調整の余地がないほど紛糾した外観を呈している。

本件の一連の紛争の直接の契機となった平成七年二月の水野婦長の導入も、債務者が組合から職場の運営の指導権を奪取する試みの一環としてなされたものである。

ところで、水野婦長は、平成七年二月三日に松浦診療所に着任したが、その後は、組合側の抵抗のためと称して、断続的に出勤しているにすぎなかった。

これは、債務者側が意図した水野婦長を中心とした指揮系統の改変を行なうには、長年来、まさにこのような改変を行なうことに対して、反対運動を続けてきた組合側と衝突が頻繁に生ずることは避けられず、到底業務の遂行がなしえないと判断したためである。

このため、債務者は、まず水野婦長を中心とした指揮系統を確立する前提として、松浦診療所看護科から、組合員を排除することを意図した。

まず、債務者は、従前主任として松浦診療所看護科の運営の実務を統率してきた債権者大場に対し、同看護科から排除することを目的として、同債権者に対する本件配転命令をなした。

その後、債権者大場に対する本件配転命令によって紛糾の度を増している看護科の実情をも理由の一つとして、債権者小橋、債権者青戸及び債権者杉坂に対しても、同看護科から排除することを目的として、それぞれ同債権者らに対する本件配転命令をなした。

その結果、現在松浦診療所看護科で正常に勤務しうる組合員は一人のみとなった。

2  債権者らに対する本件配転命令の効力について

<1> 債権者大場に対する本件配転命令の効力について

ア 債権者大場が債務者に採用された際には、紀和病院は未だ存在しなかったものである。

債務者では、松浦診療所から紀和病院への配転が命じられたことは、二件あるのみであり、このうち一件は本人の同意のもとに実施されたが、他の一件は本人が拒否したため、配転は実施されなかった(<証拠略>)。

その他は、松浦診療所内の部内移(ママ)動にすぎない。

そうすると、債権者大場と債務者間において、就業場所を松浦診療所とする旨の雇用契約が成立したものと一応認めることができる。

従って、本人の同意をとらずになされた債権者大場に対する本件配転命令は、右契約違反である。

イ 債務者は、債権者大場に対する本件配転命令には、業務上の必要性があると主張する。

しかしながら、配転先である訪問看護ステーションの需要を満たすためには、松浦診療所看護科に新たに看護婦を採用するかわりに、同ステーションで採用するか又は紀和病院で採用して調整する方法がより合理的であるにもかかわらず、債務者は敢えて、松浦診療所看護科に新たに一人の看護婦を採用して、債権者大場を配転させるという人事をしており、これは不自然であるものといわなくてはならない。

債権者大場は、松浦診療所における訪問看護の必要性を唱えてはいたものの、紀和病院という、居住場所から遠隔地における訪問看護の執務を希望していたわけではないことは明らかである。

債務者は、松浦診療所における将来の訪問看護ステーション開設の布石とするというが、居住場所から遠隔地における訪問看護勤務の経験を強いるほどの業務上の必要性があるとはにわかに肯認しがたい。

以上によると、債権者大場に対する本件配転命令に業務上の必要性があるとはいえない。

さらに、債権者大場は、訪問看護については未だ経験を有している者ではないのであるから、配転先である訪問看護ステーションの需要を満たすという点において、業務上の必要性があるものとはにわかに肯認しがたい。

ウ 債権者大場に対する本件配転命令は、前記のとおり、松浦診療所看護科における勤務体制を、水野婦長中心の体制に改変しようとの意図で、これに対する組合活動を行なっている組合員である債権者大場を同看護科から排除すべくなされたものであり、これが不当労働行為に該当することは明らかである。

エ 以上によれば、債権者大場に対する本件配転命令は無効である。

<2> 債権者小橋、債権者青戸及び債権者杉坂(以下、この項において、「債権者三名」という)に対する本件配転命令の効力

ア 債権者三名は、債務者に雇用される際、いずれも松浦診療所において勤務することを前提として採用された。

すなわち、債務者は、松浦診療所における欠員の補充や増員に充てるために、債権者三名を採用した。

債権者三名は、それぞれ自宅から通勤可能である松浦診療所で看護婦勤務をできるという条件のもとに応募して、採用された。

債務者では、松浦診療所から紀和病院への配転が命じられたことは、二件あるのみであり、このうち一件は本人の同意のもとに実施されたが、他の一件は本人が拒否したため、配転は実施されなかった(<証拠略>)。

その他は、松浦診療所内の部内移(ママ)動にすぎない。

以上によると、債権者三名と債務者間において、それぞれ就業場所を松浦診療所とする旨の雇用契約が成立したものと一応認めることができる。

従って、本人の同意をとらずになされた債権者青戸及び債権者杉坂に対する本件配転命令は、いずれも右契約違反である。

イ 債務者は、債権者三名に対する本件配転命令には業務上の必要性があると主張する。

しかしながら、松浦診療所看護科における労働時間については、長期間にわたり組合側が現実にその割り振りをなして運営されてきたものであり、債務者の指示した労働時間に従わなかったからといって、直ちに債権者三名を同看護科から配転させるべき必要性が生ずるとは言えない。

もともと、松浦診療所看護科における当時の混乱は、水野婦長の導入問題後、債権者大場に対する本件配転命令という、債務者側による同看護科からの組合員の排除を意図した措置によって引き起こされたものであり、自らこのように混乱した状況を作り出しておきながら、債務者の指示に従わないから配転させるというのは、著しく不合理である。

債権者三名が、水野婦長に対して、いじめや嫌がらせなどの就労妨害、業務妨害を行なったものとは認められない。

そもそも、水野婦長は、当時殆ど松浦診療所に出勤していない。

むしろ、債務者が、水野婦長中心の体制に改変しようとの意図で、組合員である債権者三名を同看護科から排除しようとしていたものであり、債務者としては、同看護科から組合員が実質的に排除されてから、右体制作りに本格的に取り組もうとしていたものである。

以上によると、債権者三名に対する本件配転命令に業務上の必要性があるとはいえない。

ウ 債権者三名に対する本件配転命令は、前記のとおり、松浦診療所看護科における勤務体制を、水野婦長中心の体制に改変しようとの意図で、これに対する組合活動を行なっている組合員である債権者三名を同看護科から排除すべくなされたものであり、これが不当労働行為に該当することは明らかである。

エ 以上によれば、債権者三名に対する本件配転命令は無効である。

なお、債権者小橋については、ア記載の契約違反には該当しないが、イ、ウ記載の理由から、同債権者に対する本件配転命令は無効である。

<3> 債権者らに対する本件懲戒解雇の効力について

ア 債務者は、債権者らが、債権者らに対する本件配転命令に従わないことを理由に懲戒解雇しているが、本件配転命令が無効であることは前記のとおりである。

イ 債務者は、債権者らが就労闘争を繰り返し、診療所所長の再三の注意、警告を無視し、医師の指示にもとづかない医療行為を続けたことを理由として掲げている。

しかしながら、労働時間について、長期間にわたり組合側が主任制のもとで決定し、現実に行われてきたことは前記のとおりであり、婦長導入問題後に、債務者が債権者ら組合員排除を意図して、債権者らに対し順次配転命令をなして、松浦診療所看護科から排除し、その結果として水野婦長を中心とする新組織導入をめざしたことに関する一連の経過についても前記のとおりである。

債務者の掲げる右理由は、長年にわたる労働争議の過程において従前行われてきた現実の診療の実態が、債務者の行なった松浦診療所看護科からの組合員排除の措置によって紛糾、混乱した結果を捉えて、これを就労闘争、医師の指示にもとつかない医療行為との表現のもとに非難するものであり、到底懲戒解雇事由に値するものではない。

さらに、債権者らは、債務者からの医師の指示にもとづかない医療行為を禁止する旨の明確な意思表示がなされた後は、看護婦業務を行なうことを中止している(<証拠略>)。

ウ 以上によれば、債権者らに対する本件懲戒解雇は懲戒事由が存在しないにも拘らずになされたものであるから、無効である。

エ 本件懲戒解雇は、債務者が、水野婦長を中心とした組織体制を導入することを目的として、これに反対する組合活動を行っている債権者ら組合員を松浦診療所看護科から排除すべきことを意図してなされたものであり、不当労働行為に該当するから無効である。

三  争点3(保全の必要性)について

1  債権者大場について

<1> 債権者大場に対する本件懲戒解雇は無効であるが、債務者は、債権者大場が雇用契約上の権利を有する地位にあることを争っているところ、本件において債権者大場に社会保険適用の取扱いを受けさせるために、債権者大場の地位保全をする必要性が認められる。

<2> 疎明(<証拠略>)に審尋の全趣旨を総合すると、次のとおり認めることができる。

債権者大場は、債務者から、毎月二〇日支払で賃金を受け取っていたが、本件懲戒解雇前の三か月間に合計六四万三一四五円支給されている(「支給額計」から「健康保険」、「厚生年金保険」、「雇用保険」、「所得税」、「住民税」及び「非課税通勤費」を控除したものの合計)から、その一か月当たりの金額は、二一万四三八一円となる。

債権者大場は、マンションで一人暮らしをしている。

債権者大場は、賃金がなければ、家計を維持できない状態であり、生活は危機に瀕している。

債権者大場は、賃金の未払いによる生活費の不足に充てるため、全国金属機械労働組合港合同から借り入れをなしている。

<3> 以上によると、債権者大場に対し、平成七年九月一日から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二〇日限り、月額二一万四三八一円の割合による金員の仮払いを受けさせる必要があるというべきである。

平成七年九月一日から同年一一月分までの月額二一万四三八一円の割合による金員の合計は六四万三一四三円であるから、金六四万三一四三円及び平成七年一二月から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二〇日限り、月額二一万四三八一円の割合による金員が、債権者大場に対して仮払いを受けさせる必要がある金員となる。

<4> 債権者大場に対する本件配転命令は無効であるが、同配転命令は、債務者の明確な不当労働行為の意図のもとになされたものである。

さらに、債務者の不当労働行為の意図とは、松浦診療所看護科から債権者大場ら組合員を排除して、水野婦長を中心とする新組織体制を確立することにあったものである。

そうすると、このような違法状態を本案判決確定に至るまで放置していては、その間において、債権者ら組合員はその活動の基盤をすべて失い、その結果たとえ本案訴訟において確定した勝訴判決を得ても、何ら法的利益を回復する余地のない事態を強いられることになるから、債権者大場に対して、その勤務場所を松浦診療所看護科とする雇用契約上の権利を有する地位を保全しておく必要性があるものというべきである。

<5> 債権者大場は、債務者に対し、松浦診療所看護科で勤務をすることの妨害禁止を求める申立てをしているが、同債権者が雇用契約上、使用者に対して勤務をすることの妨害禁止を求めうる根拠が明らかではないから、右申立ては理由がない。

2  債権者小橋について

<1> 債権者小橋に対する本件懲戒解雇は無効であるが、債務者は、債権者小橋が雇用契約上の権利を有する地位にあることを争っているところ、本件において債権者小橋に社会保険適用の取扱いを受けさせるために、債権者小橋が雇用契約上の権利を有する地位を保全する必要性が認められる。

<2> 疎明(<証拠略>)に審尋の全趣旨を総合すると、次のとおり認めることができる。

債権者小橋は、債務者から、毎月二〇日支払で賃金を受け取っていたが、本件懲戒解雇前の三か月間に合計五二万八六六二円支給されている(「支給額計」から、「健康保険」、「厚生年金保険」、「雇用保険」、「所得税」、「住民税」及び「非課税通勤費」を控除したものの合計)から、その一か月当たりの金額は、一七万六二二〇円となる。

債権者小橋は、夫(会社員)、長男、長女、次女の五人家族である。

債権者小橋は、多額の住宅ローンを負担しており、同債権者の収入がないとローンの返済ができない。

債権者小橋は、賃金がなければ、家計を維持できない状態であり、生活は危機に瀕している。

債権者小橋は、賃金の未払いによる生活費の不足に充てるため、全国金属機械労働組合港合同から借り入れをなしている。

<3> 以上によると、債権者小橋に対し、平成七年九月一日から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二〇日限り、月額一七万六二二〇円の割合による金員の仮払いを受けさせる必要があるというべきである。

平成七年九月一日から同年一一月分までの月額一七万六二二〇円の割合による金員の合計は五二万八六六〇円であるから、金五二万八六六〇円及び平成七年一二月から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二〇日限り、月額一七万六二二〇円の割合による金員が、債権者小橋に対して仮払いを受けさせる必要がある金員となる。

<4> 債権者小橋に対する本件配転命令は無効であるが、同配転命令は、債務者の明確な不当労働行為の意図のもとになされたものである。

さらに、債務者の不当労働行為の意図とは、松浦診療所看護科から債権者小橋ら組合員を排除して、水野婦長を中心とする新組織体制を確立することにあったものである。

そうすると、このような違法状態を本案判決確定に至るまで放置していては、その間において、債権者ら組合員はその活動の基盤をすべて失い、その結果たとえ本案訴訟において確定した勝訴判決を得ても、何ら法的利益を回復する余地のない事態を強いられることになるから、債権者小橋が、その勤務場所を松浦診療所看護科とする雇用契約上の権利を有する地位を保全しておく必要性があるものというべきである。

<5> 債権者小橋は、債務者に対し、松浦診療所看護科で勤務をすることの妨害禁止を求める申立てをしているが、同債権者が、雇用契約上、使用者に対して、勤務をすることの妨害禁止を求めうる根拠が明らかではないから、右申立ては理由がない。

3  債権者青戸について

<1> 債権者青戸に対する本件懲戒解雇は無効であるが、債務者は、債権者青戸が雇用契約上の権利を有する地位にあることを争っているところ、本件において債権者青戸に社会保険適用の取扱いを受けさせるために、債権者青戸が雇用契約上の権利を有する地位を保全する必要性が認められる。

<2> 疎明(<証拠略>)に審尋の全趣旨を総合すると、次のとおり認めることができる。

債権者青戸は、債務者から、毎月二〇日支払で賃金を受け取っていたが、本件懲戒解雇前の三か月間に合計四四万四一五八円支給されている(「支給額計」から、「健康保険」、「厚生年金保険」、「雇用保険」、「所得税」、「住民税」及び「非課税通勤費」を控除したものの合計)から、その一か月当たりの金額は、一四万八〇五二円となる。

債権者青戸は、一人暮らしである。

債権者青戸は、賃金がなければ、家計を維持できない状態であり、生活は危機に瀕している。

債権者青戸は、賃金の未払いによる生活費の不足に充てるため、全国金属機械労働組合港合同から借り入れをなしている。

<3> 以上によると、債権者青戸に対し、平成七年九月一日から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二〇日限り、月額一四万八〇五二円の割合による金員の仮払いを受けさせる必要があるというべきである。

平成七年九月一日から同年一一月分までの月額一四万八〇五二円の割合による金員の合計は四四万四一五六円であるから、金四四万四一五六月及び平成七年一二月から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二〇日限り、月額一四万八〇五二円の割合による金員が、債権者青戸に対して仮払いを受けさせる必要がある金員となる。

<4> 債権者青戸に対する本件配転命令は無効であるが、同配転命令は、債務者の明確な不当労働行為の意図のもとになされたものである。

さらに、債務者の不当労働行為の意図とは、松浦診療所看護科から債権者青戸ら組合員を排除して、水野婦長を中心とする新組織体制を確立することにあったものである。

そうすると、このような違法状態を本案判決確定に至るまで放置していては、その間において、債権者ら組合員はその活動の基盤をすべて失い、その結果たとえ本案訴訟において確定した勝訴判決を得ても、何ら法的利益を回復する余地のない事態を強いられることになるから、債権者青戸が、その勤務場所を松浦診療所看護科とする雇用契約上の権利を有する地位を保全しておく必要性があるものというべきである。

<5> 債権者青戸は、債務者に対し、松浦診療所看護科で勤務をすることの妨害禁止を求める申立てをしているが、同債権者が、雇用契約上、使用者に対して、勤務をすることの妨害禁止を求めうる根拠が明らかではないから、右申立ては理由がない。

4  債権者杉坂について

<1> 債権者杉坂に対する本件懲戒解雇は無効であるが、債務者は、債権者杉坂が雇用契約上の権利を有する地位にあることを争っているところ、本件において債権者杉坂に社会保険適用の取扱いを受けさせるために、債権者杉坂が雇用契約上の権利を有する地位を保全する必要性が認められる。

<2> 疎明(<証拠略>)に審尋の全趣旨を総合すると、次のとおり認めることができる。

債権者杉坂は、債務者から、毎月二〇日支払で賃金を受け取っていたが、本件懲戒解雇前の三か月間に合計三九万一六九九円支給されている(「支給額計」から、「健康保険」、「厚生年金保険」、「雇用保険」、「所得税」、「住民税」及び「非課税通勤費」を控除したものの合計)から、その一か月当たりの金額は、一三万五六六円となる。

債権者杉坂は、一人暮らしである。

債権者杉坂は、賃金がなければ、家計を維持できない状態であり、生活は危機に瀕している。

債権者杉坂は、賃金の未払いによる生活費の不足に充てるため、全国金属機械労働組合港合同から借り入れをなしている。

<3> 以上によると、債権者杉坂に対し、平成七年九月一日から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二〇日限り、月額一三万五六六円の割合による金員の仮払いを受けさせる必要があるというべきである。

平成七年九月一日から同年一一月分までの月額一三万五六六円の割合による金員の合計は三九万一六九八円であるから、金三九万一六九八円及び平成七年一二月から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二〇日限り、月額一三万五六六円の割合による金員が、債権者杉坂に対して仮払いを受けさせる必要がある金員となる。

<4> 債権者杉坂に対する本件配転命令は無効であるが、同配転命令は、債務者の明確な不当労働行為の意図のもとになされたものである。

さらに、債務者の不当労働行為の意図とは、松浦診療所看護科から債権者杉坂ら組合員を排除して、水野婦長を中心とする新組織体制を確立することにあったものである。

そうすると、このような違法状態を本案判決確定に至るまで放置していては、その間において、債権者ら組合員はその活動の基盤をすべて失い、その結果たとえ本案訴訟において確定した勝訴判決を得ても、何ら法的利益を回復する余地のない事態を強いられることになるから、債権者杉坂が、その勤務場所を松浦診療所看護科とする雇用契約上の権利を有する地位を保全しておく必要性があるものというべきである。

<5> 債権者杉坂は、債務者に対し、松浦診療所看護科で勤務をすることの妨害禁止を求める申立てをしているが、同債権者が、雇用契約上、使用者に対して、勤務をすることの妨害禁止を求めうる根拠が明らかではないから、右申立ては理由がない。

四  結論

よって、債権者らの本件仮処分命令申立ては、主文記載の限度で理由があるから、事案の性質上債権者らに担保を立てさせないで、主文記載の限度でこれを認容し、その余は理由がないから却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 杉江佳治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例