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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)10781号 判決 1997年4月18日

原告

岡山信男

原告

岡本光名

原告

加藤秀善

原告

横山博之

右四名訴訟代理人弁護士

下村忠利

三上陸

被告

大道運輸株式会社

右代表者代表取締役

安田治

右訴訟代理人弁護士

福島正

主文

一  被告は、原告岡山信男に対し金五六万一二二一円、原告岡本光名に対し六三万三六〇五円、原告加藤秀善に対し金六七万三七七七円、原告横山博之に対し金六四万三三〇一円及び右各金員に対する平成七年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文同旨

第二事案の概要

一  概要

原告らは、原告らが労務の提供をしたにもかかわらず、被告が正当な理由なく右労務の受領を拒否したとして、未払賃金の支払いを求めた。

被告は、原告らの属する労働組合がストライキを行ったため、操業不能になり、右労務の受領が不能となったのであるから、賃金請求権が発生しない等主張した。

二  当事者間に争いのない事実

1  被告は、主として石油会社からの注文によりガソリン等を配送する運送会社であり、従業員は事務員二名、配車係一名、タンクローリー運転手八名の計一一名であった。

原告らは、タンクローリーの運転業務に従事していた被告の従業員であった。

2  本件紛争当時、被告には、全日本建設運輸連帯労働組合近畿地方本部関西地区生コン支部(以下「連帯労組」という。)と運輸一般労働組合北大阪支部(以下「運輸一般」という。)の二つの労働組合が存在し、原告らはいずれも連帯労組に所属していた。原告岡山は、連帯労組大道運輸分会長であった。なお、運輸一般には従業員のうち一名が加入しており、他の従業員六名は非組合員であった。

3  平成七年八月一一日、午前五時半頃、組合宣伝車に乗った連帯労組の組合員ら十数名が、被告の尼崎事業所に参集した。この中には原告岡山並びに連帯労組の執行委員である川村賢市及び増田幸伸が含まれていた。

4  原告岡山を除く原告三名は、平成七年八月一一日、平常どおり、午前六時に被告の運転手控室に行き、タンクローリーに乗り、配車表のとおり一日中ガソリン等をガソリンスタンドに配送した。原告岡山は、同日及び翌一二日は、休暇を取っていた。

5  平成七年八月一二日以降(ただし原告岡山については、同月一一、一二日は休暇を取っていたため、同月一三日以降)同年九月二四日までの間、原告らはほぼ毎日午前五時半頃に運転手控室に行き、午後四時頃に退去していたが、被告は原告らに業務命令を発さず、原告らはガソリン等の運送業務には従事しなかった。

6  被告は、連帯労組が平成七年八月一一日以降ストライキを行ったため、操業不能となった旨主張して、原告らに対して、同月一二日から同年九月二四日までの間の賃金を支払っていない。

7  原告らの平成七年五ないし七月分の賃金額については、残業手当及び休日手当を含めるか否かの争点を除いては、別紙「原告ら四名の「三ヶ月分の賃金額」比較一覧表」記載のとおり争いがない。

原告らの賃金の支払いは、原則として毎月末締め翌月五日払いであった。

三  争点

本件の争点は、以下のとおりである。

1  賃金請求権の有無

(一) 原告らが、平成七年八月一二日から同年九月二四日までの間労務の提供をしたか。

(二) 仮に原告らによる労務の提供があったとした場合、連帯労組が平成七年八月一一日以降ストライキを行ったため、被告の操業が不可能になり、使用者である被告の責に帰すことのできない事由による操業不能として、民法五三六条二項に従い、原告ら労働者は賃金請求権を失うか否か。

2  平均賃金の算定方法

仮に原告らが賃金請求権を有するとした場合、残業手当及び休日手当を含んだ平均賃金額により不就労期間の賃金を算出することが相当か。

四  原告の主張

1  争点1(一)について

通常、被告の業務命令は配車表によってなされ、運転手は、配車表に従って油槽所に赴き、ガソリン等運送業務に従事する。しかしながら、平成七年八月一二日以降、被告から配車表による指示がなかったため、原告らは、運転手控室において待機する以外になかった。原告らは、平成七年八月一二日から同年九月二四日までの間(但し、原告岡山については同年八月一三日から同年九月二四日までの間)、就労するために運転手控室に待機し、配車係の指示があれば直ちに業務に従事できる状態で待機していたが、指示がなかったためタンクローリーには乗車できなかったのであるから、原告らは労務の提供をしたといえる。

2  争点1(二)について

連帯労組はストライキを行っておらず、被告が原告らの労務提供の受領を拒否したのであるから、被告に責に帰すべき事由がある。

3  争点2について

平均賃金の算定に当たっては、残業手当及び休日手当を含めて計算されるべきである。なぜならば、被告の違法な就労拒否がなければ、通常通り残業及び休日勤務をしているからである。

したがって、原告らの賃金不払の直前三か月分(平成七年五ないし七月)の賃金は、別紙「原告ら4名の「三ヶ月分の賃金額」比較一覧表」の原告らの主張欄記載のとおりである。

賃金不払期間の原告らの賃金は、右直前三か月分の賃金に九二分の四四(不払日数)を乗じて、原告岡山につき五六万一二二一円、原告岡本につき六三万三六〇五円、原告加藤につき六七万三七七七円、原告横山につき六四万三三〇一円となる。

4  請求原因のまとめ

よって、原告らは、被告に対し、未払賃金として、原告岡山につき五六万一二二一円、原告岡本につき六三万三六〇五円、原告加藤につき六七万三七七七円、原告横山につき六四万三三〇一円及びこれに対する弁済期の後である平成七年一〇月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五  被告の主張

1  争点1(一)について

運転手控室で待機するだけでは労務の提供があったとはいえず、油槽所へ行って配車係の指示を待つ必要がある。

2  争点1(二)について

連帯労組は、平成七年八月一一日以降、明確なストライキの外観がないが、事実上、被告の業務遂行を不能にさせるいわゆるバッチャー下ストを行ったものである。

また、連帯労組は、同日、被告に対し、口頭でストライキを通告した。

仮に原告らがストライキに参加していなかったとしても、右ストライキにより被告の操業は不可能になり、この操業不能は、使用者の責に帰すことのできない事由による操業不能であるから、民法五三六条二項に従い、原告らは賃金請求権を失っている。

3  争点2について

仮に原告らの賃金請求権が認められるとしても、その期間は連帯労組の争議行為により操業不能であり、残業及び休日勤務の生じる余地がなかった。したがって、残業手当及び休日手当分を含んだ平均賃金による賃金の算出は不当であって、原告らの直前三か月分の賃金は、別紙「原告ら4名の「三ヶ月分の賃金額」比較一覧表」の被告の主張欄記載のとおりである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

第四争点に対する判断

一  証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  被告は、主として石油会社からの注文によりガソリン等を配送する運送会社であり、従業員は事務員二名、配車係一名、タンクローリー運転手八名の計一一名であった。

原告らは、タンクローリーの運転業務に従事していた被告の従業員であった。

2  被告が、原告らに業務命令を発する方法としては、運転手控室に運転手毎に出荷地である油槽所名、納入先、品名、数量を記載した配車表を貼り、これに従って、原告らが、それぞれの油槽所に赴き、ガソリン等を積み込み、運送する運用となっていた。

3  被告は、昭和六二年二月五日付けで、当時運輸一般に属していた原告岡山を懲戒解雇し、運輸一般と労使紛争が発(ママ)じたが、同年四月一六日付けで、運輸一般との協定が成立し、原告岡山に対する懲戒解雇を撤回した(<証拠略>)。その後、原告岡山は、運輸一般を脱退して、連帯労組の大道運輸分会長になり、被告における組合活動の中核となったことから、被告との間に緊張関係があった。

本件紛争の起こった平成七年八月当時、被告には、連帯労組と運輸一般の二つの労働組合が存在し、原告らはいずれも連帯労組に所属しており、原告岡山が大道運輸分会長をしていた。なお、運輸一般には従業員のうち一名が加入しており、他の従業員六名は非組合員であった。

4  被告代表者は、運転手に対し夏期一時金を一律支給することを企図し、平成七年八月七日早朝、各運転手らに対し、一人づつ個別にその旨説得することとし、同日早朝午前五時四六分に出勤した(<証拠略>)大道運輸分会長である原告岡山に対して、説明しないまま、六分後の同日午前五時五二分以降順次出勤した(<証拠略>)他の運転手らに対し、一人づつ個別に説得を試みた。

これに対し、連帯労組は、同年八月一〇日までに、抗議活動を行うことを決定し、状況によっては、ストライキもやむを得ないと判断していたが、直ちにストライキを決行するとは決めていなかった。

5  平成七年八月一一日、午前五時半頃、組合宣伝車に乗った連帯労組の組合員ら十数名が、被告の尼崎事業所に参集し、連帯旗をたてた。この中には原告岡山及び連帯労組の執行委員である川村及び増田が含まれていた。

6  平成七年八月一一日は、原告岡山を除く原告三名は、平常通り、午前六時に運転手控室に行き、タンクローリーに乗り、配車表のとおり一日中ガソリン等をガソリンスタンドに配送した。また、被告と敷地を共用している旭運輸と一宮オイルサービスの車両も通常の業務を行った。なお、原告岡山は、同日及び翌一二日は、事前に休暇を取っていた。

7  被告代表者は、平成七年八月一一日、被告事務員に対して、原告ら連帯労組組合員については、配車表になにも記入しないよう、非組合員である二名の運転手については、早出出勤するよう指示した。被告は、翌一二日から、運転手名のみを記載し、出荷地、納入先、品名、数量欄を記載しない配車表を掲示した(<証拠略>)。被告は、同月一四日以降は、配車表を貼ることもしなくなった。

8  原告らは、平成七年八月一二日以降(ただし原告岡山については、同月一一、一二日は休暇を取っていたため、同月一三日以降)同年九月二四日までの間、ほぼ毎日午前五時半頃に運転手控室に行き、午後四時頃に退去していたが、配車表が空欄であるか掲示されず、被告が原告らに業務命令を発しなかったため、ガソリン等の運転業務には従事しなかった。

9  被告は、連帯労組がストライキを行ったため、操業不能となった旨主張して、原告らに対して、平成七年八月一二日から同年九月二四日までの間の賃金を支払っていない。

二  争点1(一)について

前記一認定事実によれば、被告が、原告らに業務命令を発する方法としては、運転手控室に運転手毎に出荷地である油槽所名、納入先、品名、数量を記載した配車表を貼り、これに従って、原告らが、それぞれの油槽所に赴き、ガソリン等を積み込み、運送する運用となっていたところ、被告代表者は、平成七年八月一一日、被告事務員に対して、原告ら連帯労組組合員については、配車表になにも記入しないよう指示し、被告は、翌一二日から、運転手名のみを記載し、出荷地、納入先、品名、数量欄を記載しない配車表を掲示し、同月一四日以降は、配車表を貼ることもしなくなったのであって、出荷地である油槽所が明らかでない上に、被告において、原告らを就労させない意図であることは明白であるから、このような場合、原告らにおいては、油槽所に行く意味がなく、配車係の指示があれば直ちに業務に従事できる状態で運転手控室に待機することで、労務の提供をしたということができる。

三  争点1(二)について

1  いわゆるバッチャー下ストライキの有無について

被告は、連帯労組が、平成七年八月一一日以降、明確なストライキの外観がないが、事実上、被告の業務遂行を不能にさせるいわゆるバッチャー下ストを行った旨主張する。

確かに、連帯労組が、かつて、いわゆるバッチャー下ストライキを行ったことは、当裁判所に顕著な事実である。

しかしながら、本件においては、外形的には業務妨害を窺わせるものが認められず、平成七年八月一一日、宣伝車に乗った連帯労組組合員ら十数名が参集した被告の尼崎事業所にあるのは事務所と駐車場に過ぎず、事実上被告の業務遂行を妨害するのは困難であること(<証拠略>)、油槽所に連帯労組組合員が赴いたことを認めるに足る証拠はなく、油槽所には十数個の給油口があるため、事実上、給油を妨害するのは困難であること(<証拠略>)、同日、原告岡山は事前に休暇を取っており、他の原告三名は配車表に従って通常の業務に従事し、被告の他の車両及び被告と敷地を共用している旭運送と一宮オイルサービスの車両も通常の業務を行い、被告の業務活動に何ら支障をきたしていないにもかかわらず、同日既に被告代表者は、原告らに対する翌一二日の配車を止めていること、翌一二日以降、業務妨害を窺わせる活動があったことを認めることができないことに照らすと、右原(ママ)告の主張は、採用できない。

2  ストライキ通告の有無について

被告は、連帯労組が、平成七年八月一一日、被告に対し、口頭でストライキを通告した旨主張し、被告代表者の供述はこれに沿う。

しかし、前記一認定のとおり、平成七年八月一一日、被告は通常に業務を遂行しており、ストライキを窺わせる行動がないこと、(証拠・人証略)、原告岡山及び被告代表者本人によれば、同年九月一日の被告代表者と連帯労組との会談において、連帯労組が業務再開を求めたのに対し、被告代表者は、連帯労組がストライキをしている旨回答し、ストライキである根拠として連帯旗と、宣伝車の存在を挙げたが、連帯労組がストライキを通告したことは根拠として述べておらず、被告代表者の供述には変遷があると認められること、並びに、ストライキ通告を否定する(証拠・人証略)及び原告岡山に照らして、右被告代表者の供述はにわかに信用することができない。

他に、被告が、原告の労務を(ママ)提供を受領しなかったことを、正当化する根拠は窺われない。

以上によれば、連帯労組はストライキを行っておらず、被告は正当な理由がなく、原告らの労務提供の受領を拒否したのであるから、原告らは賃金請求権を失わないものと認められる。

四  争点2について

平均賃金は、労働者の通常の生活資金をありのままに算出するという観点から算定すべきところ、(証拠略)及び原告岡山によれば、原告らの平成七年五月ないし七月までの間の残業及び休日勤務は、他の月に比して特に多いわけではないことが認められ、右平均賃金の趣旨に照らせば、残業手当及び休日手当を含んだ平均賃金額により不就労期間の賃金を計算することも不当ではないと考えられる。

したがって、原告らの賃金不払の直前三か月分(平成七年五ないし七月)の賃金は、別紙「原告ら4名の「三ヶ月分の賃金額」比較一覧表」の原告らの主張欄記載のとおりであると認められる。(当事者間に争いのない事実、<証拠略>、弁論の全趣旨)。

賃金不払期間の原告らの賃金は、右三か月分の賃金に九二分の四四(不払日数)を乗じて、原告岡山につき五六万一二二一円、原告岡本につき六三万三六〇五円、原告加藤につき六七万三七七七円、原告横山につき六四万三三〇一円と考えるのが相当である。

五  以上によれば、原告らが被告に対して右未払賃金及びこれに対する弁済期の後である平成七年一〇月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた本訴請求は理由がある。

(裁判官 西﨑健児)

《別紙》 原告ら4名の「三ヶ月分の賃金額」比較一覧表

<省略>

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