大阪地方裁判所 平成7年(ワ)11834号 判決 1996年6月13日
原告
株式会社朝日リビング
右代表者代表取締役
白川大福
右訴訟代理人弁護士
加島宏
同
田中稔子
被告
乙川春夫
同
乙川花子
右訴訟代理人弁護士
藤巻次雄
主文
一 被告乙川春夫は原告に対し、金四五四万円及びこれに対する平成八年一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告乙川花子に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用のうち、原告に生じた費用の二分の一と被告乙川春夫に生じた費用は同被告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告乙川花子に生じた費用は原告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは原告に対し、連帯して金四五四万円及びこれに対する被告乙川春夫は平成八年一月四日から、被告乙川花子は平成七年一二月八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告乙川春夫による業務上横領
(一) 被告乙川春夫(以下、「被告春夫」という。)は、平成六年一〇月二一日に原告に中途採用されてから平成七年八月二九日付けで懲戒解雇されるまで、営業社員として原告に勤務しており、主として顧客を回り建築工事、塗装工事、及びこれらの補修工事の注文をとること、契約を締結すること、現場で工事の進行を監督すること、代金を集金すること等の業務に従事していた。
(二) 被告春夫は、原告入社後、別紙横領行為一覧表記載のとおり、業務として顧客から集金した代金の一部を勝手に流用して入金を遅らせたり、着服横領していた。
(三) 横領した金額は、判明したものだけでも、合計金四五四万円を下らない。
2 被告乙川花子による身元保証
被告乙川花子(以下「被告花子」という。)は、平成六年一〇月二一日、被告春夫が原告に就職するに際し、期限の定めのない身元保証書を原告に提出して、同被告が原告に損害を与えたときには本人と連帯して損害賠償の責任を負担することを確約した。
3 よって、原告は被告らに対し、被告春夫については不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告花子については身元保証契約による保証債務履行請求権に基づき、金四五四万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である被告乙川春夫は平成八年一月四日から、被告乙川花子は平成七年一二月八日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める。
二 請求原因に対する認否
1 被告春夫
請求原因1の事実は認める。
2 被告花子
請求原因1の事実は不知。
同2の事実は認める。
三 抗弁
1 被告春夫(相殺)
(一) 被告春夫は原告に対し、原告が被告春夫の自宅から無断で物品や現金を持ち出したことによる損害賠償請求権として合計金四九八万円の反対債権を有している。
(二) 被告春夫は原告に対し、平成八年五月一七日の本件口頭弁論期日において、前項記載の反対債権をもって本訴請求債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
2 被告花子(免責決定)
被告花子は、平成六年一一月九日大阪地方裁判所に自己破産の申立てをし、平成七年一月二五日午前一〇時破産宣告を受けた。そして、同年七月七日免責決定を得、同決定は同年八月二三日に確定した。
四 抗弁に対する認否
1 被告春夫の抗弁について
抗弁1(一)の事実は否認する。
2 被告花子の抗弁について
抗弁2の事実は認める。
但し、被告花子の本件保証債務が具体的に発生したのは、被告春夫の横領行為のあった平成七年二月二一日以降であり、これは破産宣告時(平成七年一月二五日)以降に生じたものであって破産債権ではありえないから、免責の対象外である。
第三 証拠
本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因について
1 請求原因1の事実は、原告と被告春夫との間では争いがなく、被告花子との間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証、同第三号証の1ないし6、同第四号証の1ないし3、同第五号証の1ないし4、同第六号証の1ないし4並びに弁論の全趣旨により認められる。
2 同2の事実は、原告と被告花子との間で争いがない。
二 抗弁について
1 被告春夫の抗弁
被告春夫は、自己の有する反対債権で本訴請求債権と相殺する旨主張するが、本訴請求債権は被告春夫の不法行為によって生じた債権であるところ、このような不法行為債権を受働債権として相殺することは民法五〇九条により禁じられているのであるから、この主張は主張自体失当である。
2 被告花子の抗弁
抗弁2の事実は、当事者間に争いがない。
この点につき原告は、被告花子の本件保証債務が具体的に発生したのは被告春夫の横領行為のあった平成七年二月二一日以降であり、これは破産宣告時(平成七年一月二五日)以降に生じたものであって破産債権ではありえないから、免責の対象外である旨主張する。
しかし、破産法一五条が破産債権を破産宣告前に原因をもつものに限定しているのは、破産財団が同法六条一項の固定主義の原則にもとづいて破産宣告時の財産に限定されることと対応して、破産宣告を基準時として、その時の総財産から弁済を受ける期待をもつ債権者のみを破産債権者として手続に参加させることとしたものであり、その趣旨からするならば、破産債権の要件としての「破産宣告前の原因」とは、債権の発生原因の全部が宣告前に備わっている必要はなく、主たる原因が備わっていれば足りるものと解するべきである。
本件についてみると、原告の被告花子に対する保証債務履行請求権の主たる発生原因は平成六年一〇月二一日に締結された原告・被告花子間の身元保証契約であり、これは破産宣告前の主たる発生原因による債権であるといえるから、具体的に保証の対象となる主債務が発生したのが破産宣告以降であったとしても、破産債権に当たるものと解するのが相当である。
そうだとすると、原告の被告花子に対する保証債務履行請求権も被告花子に対する平成七年八月二三日確定の免責決定によって免責されることとなり、したがって、原告の主張には理由がない。
三 以上によれば、原告の本訴請求のうち、被告春夫に対して金四五四万円及びこれに対する本訴状到達の日の翌日であることが本件記録上明らかな平成八年一月四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由があるからこれを認容し、被告花子に対する請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用につき民訴法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官田中澄夫)
横領行為一覧表
(単位・円)
顧 客
工事内容
契約日
契約額
(消費税
込金額)
集金日
集金額
入金日
入金額
横領金額
(集金額
-入金額)
1
岡村忠男
大阪府豊中市曽根西町3丁目17番18号
屋根葺き替え工事
仕様変更による追加
95.01.26
3,500,000
500,000
95.02.21
1,000,000
95.02.28
2,000,000
95.03.08
2,000,000
95.03.27
1,000,000
95.03.27
1,000,000
95.08.28
500,000
500,000
養生シート掛け
95.01.19
30,000
95.01.19
30,000
0
30,000
追加しっくい工事
95.03.
230,000
95.04.12
230,000
0
230,000
2
高山和也
大阪府豊中市曽根西町3丁目17番23号
屋根葺き替え工事一式
95.01.27
5,150,000
95.03.08
3,000,000
95.03.08
1,000,000
2,000,000
95.03.29
2,000,000
95.03.29
2,000,000
未150,000
3
水谷三郎
豊中市服部本町2丁目6番2号
屋根葺き替え工事一式
仕様変更による追加
95.01.27
2,008,500
95.03.03
1,250,000
95.03.07
1,000,000
250,000
250,000
95.03.07
1,008,500
95.03.23
1,000,000
95.03.27
8,500
養生シート掛け
95.01.20
30,000
95.01.20
30,000
0
30,000
4
(株)中江ビル
大阪市西成区聖天下2丁目11番18号
中江ビル漏水補修工事、屋上防水塗装、中江ビル外壁補修工事
95.05.20
1,050,000
95.06.02
1,030,000
95.06.27
1,500,000
95.
580,000
95.07.27
580,000
1,500,000
以上4顧客分の合計
13,778,500
13,628,500
未150,000
9,088,500
4,540,000