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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)2300号 判決 1997年10月30日

大阪市港区波除六丁目一番三〇号

原告

株式会社大一

右代表者代表取締役

西井弘和

右訴訟代理人弁護士

赤沢敬之

井奥圭介

右輔佐人弁理士

北谷壽一

野間明

東京都大田区蒲田四丁目九番八-二〇三号

被告

戸部建設株式会社

右代表者代表取締役

佐伯雅昭

右訴訟代理人弁護士

木下洋平

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙イ号製品説明書記載の物件を製造し、販売してはならない。

二  被告は前項記載の物件を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金一五〇万円及びこれに対する平成七年三月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  事実関係

1  原告の権利

(一) 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その実用新案登録請求の範囲第1項記載の考案を「本件考案」という)を有している(争いがない)。

登録番号 第二〇四〇九二七号

考案の名称 公衆施設用外開きドアの開閉装置

出願日 昭和六三年一一月二六日(実願昭六三-一五三九八一号)

出願公告日 平成五年一二月七日(実公平五-四六五九四号)

登録日 平成六年一一月二一日

実用新案登録請求の範囲

「1 公衆施設1内の部屋2の出入り口にドア3を外開き方向にのみ開閉揺動自在に設け、ドア3を付勢手段4で閉止側へ付勢し、ドア3を付勢力に抗して内側からは押し開き可能に、外側からは引手具5で引き開き可能に構成した公衆施設用外開きドアの開閉装置において、

ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し、被掛止用凹部9に引手具5の掛止用凸部6aを着脱自在に係合するように構成したことを特徴とする公衆施設用外開きドアの開閉装置。

2  (略)。」(別添実用新案公報〔甲二。以下「本件公報」という〕参照)

(二) 本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、本件考案の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という)の記載に照らせば、次の構成要件に分説するのが相当と認められる。

A 公衆施設1内の部屋2の出入り口にドア3を外開き方向にのみ開閉揺動自在に設け、ドア3を付勢手段4で閉止側へ付勢し、ドア3を付勢力に抗して内側からは押し開き可能に、外側からは引手具5で引き開き可能に構成した公衆施設用外開きドアの開閉装置において、

B ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し、被掛止用凹部9に引手具5の掛止用凸部6aを着脱自在に係合するように構成したこと

を特徴とする公衆施設用外開きドアの開閉装置。

(三) 本件考案の奏する効果について、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には次のとおり記載されている。

イ 当該出入り口のドアは内側からは押し開き可能に構成されているので、従来例同様、緊急避難時に安全に脱出できる(本件公報4欄42行ないし44行)。

ロ ドアは付勢手段で閉止されているが、ドアの外側面に被掛止具が固定されており、被掛止具に形成された被掛止用凹部に引手具の掛止用凸部を着脱自在に係合させ、引手具を引くことによりドアを外側から引き開ける事が出来る(同5欄1行ないし5行)。

ハ 公衆施設内の特定の施設を利用する者には、特別料金と引き替えに引手具を渡しておけばよく、見張り人なしで無賃侵入者を排除することができる(同欄12行ないし6欄1行)。

2  被告は、後記の点を除き当事者間に争いのない別紙イ号製品説明書記載の物件(以下「イ号製品」という)を製造し、販売している。イ号製品の特定について、被告は、原告主張の別紙イ号製品説明書において、ドア枠材103aの穴121の幅は約五ないし六mmであり、四角金属板123の挿通穴122の幅は約四mmである旨を記載すべきであり、その図3及び図4を別紙「物件目録の訂正図面」のとおりに訂正すべきであると主張して当事者間に争いがある。

二  原告の請求

原告は、イ号製品は本件考案の技術的範囲に属すると主張して、実用新案法二七条一項・二項、民法七〇九条・実用新案法二九条一項に基づき、イ号製品の製造販売の停止及びイ号製品の廃棄並びに損害金一五〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年三月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

三  争点

1  イ号製品は、本件考案の技術的範囲に属するか。

2  被告が原告に対して損害賠償責任を負う場合に、賠償すべき損害の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(イ号製品は、本件考案の技術的範囲に属するか)について

【原告の主張】

イ号製品は、以下のとおり、本件考案と完成品としての全体構成、全体構成が奏する効果を同じくしており、ただ完成品を作るための部品である被掛止具を二工程に分けてドア外側面に作っている点で異なるにすぎず、技術的思想としても効果においても実質的に同一といえる範囲のものであるから、本件考案の技術的範囲に属するものである。

1 イ号製品の構成は、別紙イ号製品説明書及び添付図面のとおりである。

被告は、ドア枠材103aの穴121と四角金属板123の挿通穴122のいわゆる「規制機能」が争点の一つになっているのであるから、それぞれの穴の幅を約五ないし六mm、約四mmという数値で特定すべきである旨主張するが、イ号製品は、工場において大量に生産される製品とは異なり、個々の工事現場でドア枠材への穴開けや四角金属板の取付作業等が行われるものであるから、作業の仕方やサウナ室のドアの形態等に由来する差異が生じる余地があり、現に、被告が施工した三か所の公衆浴場における施工例(乙二)においても、ドア枠材に開けられた穴の幅や長さは各施工例で異なり、その幅は被告が主張するような約五ないし六mmに限定されているわけではない。

2(一) イ号製品の構成は、本件考案の構成要件に対応させて分説すると、次のとおりである。

a 公衆浴場内のサウナ部屋の出入り口にドア103を外開き方向にのみ開閉揺動自在に設け、ドア103を付勢手段104で閉止側へ付勢し、ドア103を付勢力に抗して内側からは押し開き可能に、外側からは引手具105で引き開き可能に構成されている。

b1 内部に空洞部120を有するドア枠材103aに穴121を開口し、

b2 前記穴121の前面に細長の挿通穴122を形成した四角金属板123を固定し、

b3 引手具105を前記挿通穴122、穴121及び穴121背後の空洞部120の一定の奥行を有する空間に入れ、

b4 引手具105の掛止用凸部106aをドア枠材103aの穴121回りの背面部分に着脱自在に係合するように構成されている。

(二) イ号製品は、右の構成を備えることにより、次のような効果を奏する。

イ 出入り口のドア103は部屋の内側からは押し開き可能に構成されているので、部屋内の者は素手でドア103を押すだけで自由に開放でき、緊急避難時の安全を確保できる。

ロ ドア103は付勢手段104で常時閉止されているので、ドア103を外側から開くには、引手具105を四角金属板123に形成した挿通穴122、ドア枠材103aに開口した穴121及び穴121背後の空洞部120の一定の奥行を有する空間に入れ、引手具105の掛止用凸部106aをドア枠材103aの穴121回りの背面部分に係合させた状態で引手具105を引くことによってのみ行うことができる。

ハ 公衆浴場の入場者のうち、サウナ部屋に入りたい者には、サウナ部屋の入室料金と引き替えに引手具105を手渡すようにすればよく、見張り人なしでサウナ部屋への無賃侵入を排除することができる。

3(一) イ号製品の構成aは、本件考案の構成要件Aと全く同一である。

(二) イ号製品の構成b「(b1)内部に空洞部120を有するドア枠材103aに穴121を開口し、(b2)前記穴121の前面に細長の挿通穴122を形成した四角金属板123を固定し、(b3)引手具105を前記挿通穴122、穴121及び穴121背後の空洞部120の一定の奥行を有する空間に入れ、(b4)引手具105の掛止用凸部106aをドア枠材103aの穴121回りの背面部分に着脱自在に係合するように構成されている。」は、本件考案の構成要件B「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し、被掛止用凹部9に引手具5の掛止用凸部6aを着脱自在に係合するように構成したこと」と実質的に同一である。

(1) 本件考案の構成要件Bは、右2(一)のイ号製品の構成に対応させて次のとおり分解することができる。

B1 ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し、

B2 被掛止用凹部9に引手具5の掛止用凸部6aを着脱自在に係合するように構成したこと。

イ号製品の構成b1ないしb4には、本件考案の構成要件B1、B2にある「被掛止具」「被掛止用凹部」という文言はないが、このことは、以下のとおり構成の同一性を妨げるものではない。

(2) イ号製品は、本件考案の構成要件B1、B2にいう「被掛止用凹部9」を備えている。

ⅰ まず、イ号製品は、b1の構成すなわち「内部に空洞部120を有するドア枠材103aに穴121を開口」することによって、空洞部120を有するドア枠材103aには本来なかった、穴121と穴121回りの背面部分と穴121背後に広がる空洞部120の一定の奥行を有する空間とが新たに形成されるところ、右「穴121と穴121回りの背面部分と穴121背後に広がる空洞部120の一定の奥行を有する空間」は、ドア枠材103aの背面に相当する内側面を持ち、表面に相当する外側面よりは凹んだ一種の「凹部」を形成しているということができる。

ⅱ 一方、本件考案の構成要件B1における「被掛止用凹部9」は、本件明細書の記載から、

B1-1 掛止用凸部6aを含む、引手具5の先端部分が挿入できる奥行があること。

B1-2 掛止用凸部6aが係合できる部分があること。

B1-3 指などが挿入できず、引手具5の先端部分だけが挿入できるように規制する部分(挿通穴)があること。

という三つの構成を備えていることが明らかである。けだし、被掛止用凹部とは、文字どおり「掛止されるための凹部」という意味であり、掛止されるためには、掛止の前提として、引手具の掛止用凸部6aが挿入できる奥行が必要であり(B1-1)、引手具によりドアを引くことができるためには、被掛止用凹部に引手具の掛止用凸部6aが係合できる部分が必要であり(B1-2)、更に、被掛止用凹部に指先などを入れることができるのでは、引手具なしにサウナ室に入ることができるので、指先などが入らないように規制する部分が必要である(B1-3)ことが明らかであるからである。

ⅲ そこで、イ号製品の構成b1ないしb4を本件考案の構成要件B1における「被掛止用凹部9」の構成B1-1ないしB1-3と比較対照すると、

イ号製品の構成b3の一部「穴121及び穴121背後の空洞部120の一定の奥行を有する空間」は、本件考案の「被掛止用凹部9」が備えている構成B1-1「掛止用凸部6aを含む、引手具5の先端部分が挿入できる奥行があること」と共通し、

イ号製品の構成b4「引手具105の掛止用凸部106aをドア枠材103aの穴121回りの背面部分に着脱自在に係合するように構成されている」は、本件考案の「被掛止用凹部9」が備えている構成B1-2「掛止用凸部6aが係合できる部分があること」と共通し、

イ号製品の構成b2「穴121の前面に細長の挿通穴122を形成した四角金属板123を固定し」は、ドア枠材103aに開けられる穴121は四角金属板123の挿通穴122より大きく、したがって挿通穴122は挿入できる物を専用の引手具105の先端部分に規制する機能があるから、本件考案の「被掛止用凹部9」が備えている構成B1-3「指などが挿入できず、引手具5の先端部分だけが挿入できるように規制する部分(挿通穴)があること」と共通する。

したがって、イ号製品の構成b3の一部「穴121及び穴121背後の空洞部120の一定の奥行を有する空間」は、一種の「凹部」を形成し、その「凹部」は引手具105の掛止用凸部106aを掛止するためのものであり、更にイ号製品は構成b2「前記穴121の前面に細長の挿通穴122を形成した四角金属板123を固定し」を備えているから、本件考案の構成要件B1-1、B1-2、B1-3をすべて備えていることになり、イ号製品の完成品としてのドアの外側面には、実質的な「被掛止用凹部9」が形成されていることが明らかである。

ⅳ 被告は、イ号製品では、「指などが挿入できず、引手具5の先端部分だけが挿入できるように規制する部分(挿通穴)があること」という機能はドア枠材の穴自体が果たしており、四角金属板は美感の観点から必要であるにすぎず、「公衆施設用外開きドアの開閉装置」としての本来の機能上は全く不要なものである旨主張する。

しかしながら、前記1のとおり、イ号製品は、工場において大量生産される製品とは異なり、個々の工事現場でドア枠材への穴開けや四角金属板の取付作業等が行われるものであるから、作業の仕方やサウナ室のドアの形態等に由来する差異が生じる余地があり、ある施工例について当てはまることが当然に他の施工例についても当てはまるとはいえない。現に、被告が施工した前記三か所の公衆浴場の施工例(乙二)のうち「多賀良湯」における施工例では、ドア枠材に本来の細長い穴に連通して大きな円形の穴が開けられており、そのままでは人がそこに指を入れてドアを開けることが可能であるから、少なくともこの施工例においては、四角金属板が規制機能を有することは明らかである。すなわち、イ号製品においてドア枠材の外側面に開けられる穴の幅は被告主張の五ないし六mmを最低値として相当程度変動するものであり、その穴のうえに固定される四角金属板123は、ドア枠材に開けられる穴の幅いかんにかかわらず、開口部を約四mmに統一するのである。そして、施設利用者が掛止させようと鍵その他の物を穴の中へ入れようとしても阻止されるのは、ドア枠材に開けられた穴の周囲ではなく、四角金属板に開けられた挿通穴の周囲に接触するためであるから、この四角金属板が規制機能を果たしている箇所であることは明らかである。

仮にイ号製品においてドア枠材に開けられる穴の幅が被告主張のように五ないし六mm程度に統一されていたとしても、四角金属板により更に幅四mm程度に狭められるものである。ドア枠材に開口された穴の幅が約六mmの場合、指先を相当程度中へ入れることができるから、ドアを開けることができる可能性は十分あるのに対し、約四mmの場合は、指先さえも中へ入れることが困難になるのであって、穴の幅が約四mmであるか六mmであるかは、有意的な差異をもたらす。また、ロッカーのキーや自動車のキーで簡単にサウナ室のドアが開けられるようでは、サウナ室への無賃入場を防止することはできないところ、ドア枠材に開口された穴の幅が大きくなるほど穴に挿入したキーの傾斜角度が大きくなり、傾斜角度が大きくなるほどキーを引っかけてドアを開けることがたやすくなる。したがって、ドア枠材に開けられた穴の幅を四角金属板によって更に約四mm程度狭めることにより、入浴客がその指先や所持するキーの類を穴にひっかけてサウナ室のドアを開けることができる可能性を相当程度低減することができるのであるから、この点でも、四角金属板は実用上十分な規制機能を有しているといえる。

被告は、狭い穴に指先をかけて侵入しようとするような非常識な者がいるとも思われないと主張するが、そもそも本件考案は、サウナ室に無賃入室する非常識者がいることを前提に、それをいかに防止するかという問題意識に基づいて考案されたものである。

(3) イ号製品は、本件考案の構成要件B1にいう「被掛止具8」を備えている。

ⅰ 本件考案の構成要件B1では、被掛止具を取り付けるドアの構造は一切限定されていないので、内部に空洞部を有するドア枠材を使用するドアであってもよいし、ドアの外側面に被掛止具を固定する時期も一切限定されていないので、ドア製造メーカーに依頼して予め被掛止具を固定したドア枠材を製造し、本件考案にかかるドアを工場で製造してから、現場でサウナ室に取り付けてもよいことは明らかである。つまり、被掛止具は必ずドア枠材と一体化されてその一部となるのであるから、構成要件B1「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し、」は、ドア製造工程のどの段階で、内部に空洞部を有するドア枠材に被掛止具と同じ機能をもつ構造をどのような加工方法、加工順序により形成するかという単に製造上の問題になる。

また、本件考案における被掛止具は、ドア枠材に固定されたときに被掛止具として機能すればよいのであるから、二つ以上の部分に分けて製造しても何ら問題はない。例えば、本件考案の第二実施例の場合、ドアの開閉装置として完成したときに被掛止具19の空洞部となる碗状部分と、挿通穴を開口した前壁18aを含む板部分とに二つに分けて製造し、その後に両者を溶接やビスで接合して完成させることもでき、その際、まず碗状部分だけをドア枠材の内部に形成し、次に挿通穴を有する板部分を右碗状部分上に固定する方法によれば、文言上は「(前もって)被掛止具8に被掛止用凹部9を形成」していないが、本件考案の技術的範囲に含まれることは明らかである。

ⅱ 右の観点からイ号製品について検討すると、イ号製品においては、「内部に空洞部120を有するドア枠材103aに穴121を開口」する(b1)工程において、本件考案の第二実施例における「被掛止用凹部19における前壁18a背面と空洞部」の構成(構成要件B1-1、B1-2に相当)を製造し、また、「細長の挿通穴122を形成した四角金属板123を固定」する(b2)工程において、第二実施例における「被掛止用凹部19における挿通穴が形成された前壁18a」の構成(構成要件B1-3に相当)を製造していることが明らかである。

すなわち、イ号製品は、本件考案における被掛止具に該当する構成を、二つの工程に対応して順次ドアの外側面に製造していくものであって、ドアの外側面に被掛止具を固定するという本件考案と実質上何ら変わらないものである。第二実施例における「被掛止用凹部19における前壁18a背面と空洞部」の構成を製造するために、既にあるドア枠材の空洞部につながるようにドア外側面に穴を開けることで代用することぐらいは、製造者が適宜選択すべきレベルのことである。完成品としてのドアの全体構成からイ号製品をみると、本来引っ掛かるべきものが何もないドアの外側面に穴を開けることで被掛止用凹部を構成するために、引手具が入る大きさの空洞部を有するドアを意図的に選択したにすぎないからである。

このようにイ号製品の構成が適宜選択すべきレベルのものであることは、本件考案の出願人が本件考案を広く公衆施設のドア一般に適用できると認識していることからも裏付けられる。当業者が、本件考案を公衆施設のドアに適用する場合、その公衆施設のドアの具体的な構成(例えば、木製のドア、鉄製のドア、硬化樹脂製のドア、クッション布張りのドア、ドア内部に空洞部が全くないドア、ドア枠材にのみ空洞部を有しているドア等)、ドア自体の製造工程を考慮に入れて被掛止用凹部を製造する手順を考えることは自明のことだからである。

この点について、被告は、本件考案の実施例とイ号製品とを対比することにより本件考案の技術的範囲を論ずること自体相当でないばかりか、イ号製品が二工程からなるという前提そのものが誤りであると主張するが、原告は実施例とイ号製品とを対比しているのではなく、本件考案の実用新案登録請求の範囲第1項の「被掛止用凹部9に引手具5の掛止用凸部6aを着脱自在に係合するように構成した」という技術的思想を、イ号製品と対比させて具体的に説明するために、一例として第二実施例(本件公報第3図、第4図)を参照しているにすぎない。右第1項に記載された「被掛止用凹部」「掛止用凸部」「着脱自在に係合する」はいずれも極めて広い概念であり、「被掛止用凹部」「掛止用凸部」の形状及び構成や「着脱自在に係合する」係合の仕方には、出願当時の公知技術で自明な範囲のいろいろな形態が含まれることは明らかである。また、イ号製品が二工程になるという前提そのものが誤りであるとの主張は、イ号製品における四角金属板が単なる「美的」なものではなく「規制機能」を有する以上、根拠を欠く。

ⅲ そして、本件実用新案権は、完成品である「ドアの開閉装置」の全体構成に付与されているのであって、その完成品を作るための工程上の部品である「被掛止具」を主体として付与されているものではないことに注意しなければならない。すなわち、本件考案の考案者は、<1>ドアを外開き方向にのみ開閉揺動自在に設けること、<2>ドアが簡単に開かないように閉止側へ付勢すること、<3>ドアに通常設けられるノブ等を設けないこと(実用新案登録請求の範囲には記載されていないが、自明のことである)、<4>一対一に対応する凹部と凸部の係合によりドアを開けるようにし、ドア側に凹部、引手具側に凸部を設けること(これを逆に、引手具側に凹部、ドア側に凸部を設けたのでは、侵入者は引手具がなくても、ドア側の凸部を手で持ってドアを開けることが可能となる)、という全体構成を詳細に明示した上で、構成要件B「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し、被掛止用凹部9に引手具5の掛止用凹部6aを着脱自在に係合するように構成した」という極めて広い概念を本件明細書において明確に開示している。「被掛止用凹部」とは「引手具の掛止用凸部が掛止できる凹部」の意味であるから、課題を解決するための技術的思想としての右基本構成<1>ないし<4>が明らかになっている以上、碗状部品と板部品の二つの部品を組み合わせて作る凹部やドア枠材に穴を開口することにより形成する凹部というのは、いわゆる設計上の微差の範囲内のものである。

ⅳ このように、イ号製品における構成b1「内部に空洞部120を有するドア枠材103aに穴121を開口し」を経て構成b2「前記穴121の前面に細長の挿通穴122を形成した四角金属板123を固定し」に至る工程は、その二つの工程によって本件考案にいう「被掛止具」を順次ドアの外側面に製造していくことと実質的に変わらないから、イ号製品は「被掛止具8」を備えているということができる。

(4) 以上のように、イ号製品の構成bと本件考案の構成要件Bとの相違は、本件考案の第二実施例において被掛止具18に形成されている被掛止用凹部19の構成を、イ号製品においては既にあるドア枠材の空洞部につながるように外側面に開けた穴の前面に細長の挿通穴122を形成した四角金属板123を固定することで構成している点のみであり、その相違はいわゆる設計上の微差にすぎず、何ら構成上の同一性を妨げるものではない。

したがって、イ号製品の構成bは、本件考案の構成要件Bと実質的に同一である。

4 イ号製品は、その基本的思想、効果においても本件考案と同一である。

(一) 本件考案の課題は、公衆施設内の部屋(例えば、公衆浴場のサウナ部屋)が緊急避難時の安全性から錠前等のロック装置を設けることができないことに鑑み、部屋の出入り口のドアを内側からは自在に開けられるようにしながら、外側からは無賃入室できないようにすることである。この課題を解決するために、ドアを内側からは押し開き自由に構成するとともに、外側からは特定形状の引手具にしか係合しない被掛止構造をドア外側面に設けて、引手具を有する者だけがドアを引き開くことができる構成にしたものである。本件考案は、このような構成を採用し、部屋に入るための特別料金と引き替えに引手具を渡すことにすれば、緊急時の安全を確保しつつ、見張り人なしで無賃入室者を排除できるという、公衆施設の管理において極めて有用な効果を奏することができるのである。本件考案のかかる効果、すなわち前記第二の一1(三)のイないしハの効果は、完成品であるドアと専用の引手具の組合せによる全体構成がなす効果であることに注意しなければならない。このことは、仮に本件考案にかかるドアに通常のドアのようにノブを取り付けたり、外開きドアではなく内開きドアとすると、右のような効果を奏することができなくなることから明らかである。特許庁は、従来の技術では公衆施設内のドアにおいて緊急避難時の安全性を確保しつつ無賃入室を防止する方法がないことを考慮したうえで、その課題を簡単安価な構成で解決した本件考案の先駆的な全体構成を評価して実用新案権を付与したのである。

(二) イ号製品は、本件考案のこの先駆的な基本的思想をそのまま有するものであるから、その奏する前記2(二)のイないしハの効果は、本件考案の効果と全く同一である。にもかかわらず、被告は、本件考案によってはじめて示された全体構成を公知の技術であるかのように主張し、更に本件考案の完成品であるドアの構成の一部をドア枠材に穴を開けることで代用したことをもってイ号製品が本件考案とは別の技術であるが如く主張するものであって、到底容認できない。

【被告の主張】

イ号製品は、本件考案の構成要件B中の「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し」との要件を充足しないから、本件考案の技術的範囲に属しない。

1 イ号製品の特定について、ドア枠材103aに開口された穴121と四角金属板123に形成された挿通穴122のいわゆる「規制機能」が争点の一つになっているのであるから、原告主張の別紙イ号製品説明書の「2、構成」において、それぞれの穴の幅を約五ないし六mm、約四mmという数値で特定すべきであるとともに、添付の図面中、図3及び図4は、別紙「物件目録の訂正図面」のとおりに訂正すべきである。

2 イ号製品の構成についての原告の主張は、右1の被告の主張に反しない限度で認め、イ号製品が本件考案と同様の効果を奏することは認める。

3(一) イ号製品が本件券案の構成要件Aを充足していることは争わない。

(二) イ号製品は、本件考案の構成要件B中の「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し」との要件を充足しない。

(1) まず、イ号製品においては、内部に空洞部120を有するドア枠材(框)自体に直接、加工することによって、穴121を開口させているところ、ドア枠材103aはドア103そのものの基本的構成であり、ドアの外側面に本件考案の「被掛止具」に相当する部材を「固定」する構造ではないから、イ号製品は、本件考案の構成要件B中の「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し」との要件を充足しない。

また、イ号製品は、本件考案の構成要件B中の「被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し」との要件も充足しない。なぜなら、「凹部」とは、「表面がくぼんでいる部分」のことであり、「くぼむ」とは、「一部分が落ち込んで低くなる」ことを意味するところ、イ号製品には、穴121とその背後の空洞部120があるのみで、「一部分が落ち込んで低くなる」という意味の「くぼんでいる部分」は存在しないからである。右構成要件Bにいう「被掛止用凹部9」について、これを原告主張のようにB1-1、B1-2、B1-3という三つの構成を備えていると読み替えるのは相当でない。

(2) 原告は、イ号製品において四角金属板123が「固定」されていることをもって、本件考案にいう「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し」との要件を充足する旨主張するかのようであるが、本件考案にいう「被掛止具8」は、「被掛止用凹部9を形成し」たものでなければならないから、イ号製品における単に「挿通穴122」を形成しただけの四角金属板123は、本件考案にいう「被掛止具8」に相当するものではない。

(3) 仮に、アルミ製ドアのメーカーがその製造段階においてきれいに穴を開けたものを提供できるならば、イ号製品における四角金属板のようなものは不要である。しかし、そのようなものは提供されないのが実情であり、既存のドアについて、無賃入室者排除装置を設置することを依頼されたときに、被告が現場において穴開けと四角金属板の取付けを行うのであるが、このことによって、イ号製品の技術的思想の本質が、ドア枠材(框)そのものに穴を開け、そこに引手具を引っ掛けてドアを開くことを可能にするという点にあることに何ら変わりはない。

ドア枠材(框)に穴を開ける手順は、まず、四角金属板をドア枠材(框)の所定の箇所に当て、四角金属板の挿通穴の中心線を鉛筆などで印し、四角金属板の挿通穴の幅(約四mm)よりは直径の太いドリル(約五ないし六mm)で、右中心線に数mm程度の間隔で丸穴を数個開け、その後、これらの丸穴を繋げるように残された金属部分を工具で削り落とし、繋がった穴の周囲にヤスリをかけて外形を仕上げるというものである。かかる方法では、ドア枠材(框)に穴をきれいに開けることが事実上困難であるため、予めきれいな細長い挿通穴を形成してある四角金属板でドア枠材に開けた穴を覆うことにより美的効果を果たさせるべく、四角金属板を取り付けるものであり、四角金属板は美感の観点から必要であるにすぎない。

原告は、イ号製品の四角金属板の挿通穴が「規制機能」を有する旨主張するが、これはそもそも実用新案登録請求の範囲の記載を離れた議論である。しかも、通常のキーの幅は約二・五ないし三・五mmで、人間の指の幅は約一五ないし二〇mmであり、イ号製品のドア枠材に開口された細長の穴の幅は約五ないし六mmであって本来人間の指が入るほどの大きさではないから、原告のいうB1-3「指などが挿入できず、引手具5の先端部分だけが挿入できるように規制する部分(挿通穴)があること」という機能はドア枠材の穴自体が果たしているのであって、このように本来人間の指が入るほどの大きさではない穴の幅を更に四角金属板の挿通穴によって幅約四mmに規制したからといって、何らの「規制」の意義もなく、一方、通常のキーを斜めに挿入して強引にドアを開けようとすれば、開けられてしまうことは十分に考えられることであって、このような者に対しては、イ号製品は無力に近い(この点は、本件考案も全く同様である)。したがって、四角金属板は、無賃入室者を排除するという本件考案の目的からは何らの実質的意義を有せず、「公衆施設用外開きドアの開閉装置」としての本来の機能上は全く不要なものであることが明らかである。

原告は、穴の幅が四mmであるか六mmであるかは、有意的な差異をもたらすと主張するが、ドアに指先がすっぽり入らないほどの幅の穴しか開いていないならば、何らかの特別な道具を持っていない限り入ってはならないということであろうというぐらいは通常の入浴客であれば容易に理解することであり、通常サウナ室の入口には特別料金を要する旨が明示されており、周りに人がいるにもかかわらず、狭い穴に指先をかけて侵入しようとする非常識な者がいるとも思われない。

(4) 原告は、本件考案の第二実施例とイ号製品との類似性を指摘し、イ号製品が本件考案の技術的範囲に属することの理由付けにするが、そもそも本件考案の実施例とイ号製品とを対比することにより本件考案の技術的範囲を論ずること自体相当でないばかりか、イ号製品が二工程からなるという前提そのものが誤りである。しかも、本件考案の第二実施例も、被掛止具18というドアとは別の部材をドアの外側面に固定する点で、第一実施例と同じであるばかりでなく、更に鍵の形状をした引手具15は、旋回という付加的動作をさせなければ機能しないものであるから、被掛止具18というドアとは別の部材を必要とせず、かつ引手具15に旋回という動作をさせる必要もないイ号製品とは、技術的思想が異なるものである。

4(一) イ号製品が本件考案と同様の効果を奏することは前記のとおりであるが、登録実用新案と同様の効果を奏する技術がすべて当該登録実用新案の技術的範囲に属するわけではない。すなわち、「実用新案権は物品の形状、構造又は組合せに係る考案に与えられるものであって効果自体に実用新案権が付与されているものでないことはいうまでもないから、その考案が意図した効果と同一の効果を奏し、その効果を奏するに至る経過においてその考案と一部重複するようなことがあるとしても、その考案と形状、構造又は組合せを異にする物品は、その登録実用新案権の権利範囲には入らないといわなければならない。」(東京地方裁判所昭和四七年(ワ)第七四四三号昭和四九年一一月二九日判決)換言すれば、実用新案登録の対象となる考案の本体は、効果それ自体ではなく、独特の効果をもたらすところの考案の構成にあるのであり、このような構成こそ、実用新案登録請求の範囲に記載されている必須の構成要件に外ならないのである。

そして、イ号製品は、前記のとおり本件考案の必須の構成要件であるB中の「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し」との要件を充足しないのであるから、本件考案とは構成を異にし、その技術的範囲に属しないのである。

(二) 本件考案は、ドアとは別部材である「凹部9を形成した被掛止具8をドア3の外側面に固定すること」を必須の構成要件とし、ドア3の外側面に固定されるべき被掛止具8には、前もって「凹部を形成」しておかなければならないのに対し、イ号製品は、「凹部9を形成した被掛止具8」のような、ドア枠材と別個の部材を外側面に固定するのではなく、ドア枠材そのものに現場で穴開け加工をすることを本質とするのであるから、このように別の部材もその固定という付加的工程も必要としないイ号製品が、本件考案とは技術的思想として別のものであることは明白である。

また、本件明細書と図面に具体的に開示されている「凹部9を形成した被掛止具8」と「引手具5」の組合せは、複雑で特殊な形状のものであり、その特殊形状に対応するドアにしか取り付けることができないのに対し、イ号製品は、空洞部を備えたドア枠材であれば、あらゆるタイプのものに現場で加工して、無賃入室者を排除する設備とすることができる。

以上のとおり、イ号製品に示されている技術的思想は、課題解決手段として考えられる最も単純明快なものであり、これと同等の技術的思想は本件明細書には何ら開示も示唆もされていないのであるから、イ号製品は、本件考案からのいわゆる自明の範囲にある設計変更程度のものではない。

二  争点2(被告が原告に対して損害賠償責任を負う場合に、賠償すべき損害の額)について

【原告の主張】

被告は、現在までに、少なくとも神奈川県川崎市内の三か所の浴場施設において、イ号製品を施工、販売した。原告が本件考案を実施した場合の浴場施設一か所当たりの標準的な純利益は少なくとも五〇万円以上であり、被告がイ号製品を施工、販売した場合の純利益も同程度と推定される。したがって、被告が、右三か所の施工により得た純利益の合計は一五〇万円以上である。

右利益の額は、実用新案法二九条一項により、原告が被告の本件実用新案権侵害行為によって被った損害の額と推定される。

第四  争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(一)(イ号製品は、本件考案の技術的範囲に属するか)について

1  まず、イ号製品の特定について、原告が別紙イ号製品説明書及び添付図面のとおりであると主張するのに対して、被告は、ドア枠材103aに形成された穴121の幅を約五ないし六mm、四角金属板123に形成された挿通穴122の幅を約四mmという数値をもって特定すべきであるとともに、添付の図面中、図3及び図4は別紙「物件目録の訂正図面」のとおりに訂正すべきである旨主張する。

そこで、検討するに、乙第一、第二号証(被告が施工した三か所の公衆浴場におけるイ号製品の施工例)によれば、ドア枠材103aに開口された穴121は細長矩形状であって、その幅は、引手具の幅及び四角金属板123に形成された挿通穴122の幅よりやや大きく、約五ないし六mmであり、四角金属板123に形成された挿通穴の幅は約四mmであることが認められ、いずれも右数値を超える幅のものが存在すると認めるに足りる証拠はない。

検乙第一号証の1ないし3、右乙第一、第二号証及び弁論の全趣旨によれば、イ号製品は、工場において同一規格に基づき大量に生産されるような製品ではなく、個々の施工現場において、サウナ室のドアを取り外すことなく、そのままの状態で、ドリルを使用して手作業によりドア枠材に細長矩形状の穴121を開け、その上にあらかじめ約四mm幅の挿通穴122を形成した四角金属板123をビスにより四隅で固定するものであることが認められるから、四角金属板123に形成される挿通穴122の幅は約四mmで一定しているということができても、ドア枠材103aに開口される穴121の幅は、使用するドリルの太さの違いにより、常に同じ寸法になるとは限らない。しかしながら、ドア枠材103aに開口する穴121の幅を約五ないし六mmとしているのは、上から固定する四角金属板123に形成された穴の幅が約四mmであることから、四角金属板123をビスにより四隅で固定する際にドア枠材103aの穴121とずれないように位置決めを容易にするためであると考えられ、ドア枠材103aの穴121をそれ以上に大きく開口する必要性は認められない。

したがって、イ号製品の特定については、被告の主張に従い、別紙イ号製品説明書の「2 構成(b)」において「穴121を開口し」とあるのを「幅約五ないし六mmの穴121を開口し、」に、「細長の挿通穴122」とあるのを「幅約四mmの細長の挿通穴122」に各改めるとともに、図3及び図4は別紙「物件目録の訂正図面」のとおりに訂正するのが相当である。

2  そこで、イ号製品を本件考案と対比するに、イ号製品の構成(a)が本件考案の構成要件Aを充足することは明らかである(被告も認めるところである)ので、イ号製品の構成(b)が構成要件B「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し、被掛止用凹部9に引手具5の掛止用凸部6aを着脱自在に係合するように構成したこと」を充足するか否かについて検討するに、原告は、イ号製品の構成(b)は、構成要件B中の「被掛止具」「被掛止用凹部」という文言はないが、構成要件Bと実質的に同一であるとし、まず、右「被掛止用凹部」について、イ号製品における「穴121及び穴121背後の空洞部120の一定の奥行を有する空間」は、ドア枠材103aの背面に相当する内側面を持ち、表面に相当する外側面よりは凹んだ一種の凹部を形成し、その「凹部」は引手具105の被掛止用凸部106aを掛止するためのものであり、更に、イ号製品は穴121の前面に細長の挿通穴122を形成した四角金属板123を固定する構成を備えているから、イ号製品の完成品としてのドアの外側面には、実質的な「被掛止用凹部9」が形成されている旨主張する。

甲第二号証(本件公報)によれば、本件考案は、公衆浴場内のサウナ室等の出入口のドアを内側からは自在に開けられるようにしながら、外側からは無賃入室できないようにすることを技術的課題とし、右技術的課題を解決するための手段として前記第二の一1(二)記載の構成要件A、Bからなる構成を採用し、これにより同(三)のイないしハ記載の効果を奏するものであることが認められるところ、本件明細書の実用新案登録請求の範囲第1項には、「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し、被掛止用凹部9に引手具5の掛止用凸部6aを着脱自在に係合するように構成した」(構成要件B)との記載があり、「考案の詳細な説明」の欄の「課題を解決するための手段」の項にも同旨の記載があるから、被掛止具8はドアの外側面に固定されるものであり、被掛止用凹部9は、この被掛止具8に形成されるものであって、被掛止具8の一部であり、被掛止具8の他の部分より凹んだ部分であることが明らかである。本件考案の実施例を示す第1図(第一実施例)及び第3図、第4図(第二実施例)にも、ドア自体とは別部材である被掛止具8又は18がドアの外側面に取り付けられ、被掛止具8又は18の一部分として被掛止用凹部9又は19が形成されたものが示されており、これ以外の形状、構造を具体的に示唆する記載は本件明細書には存しない。したがって、本件考案にいう「被掛止具8」とは、ドア3の形状、構造に関わりなく、それ自体を取り出して把握することが可能な、ドア3とは別部材として存在する形状、構造のものであり、「被掛止用凹部9」とは、このようにドア3とは別部材である被掛止具8にその一部として形成された凹部であると解する外はない。

これに対し、イ号製品は、原告のいう「穴121及び穴121背後の空洞部120の一定の奥行を有する空間」を備えており、この空洞部に引手具105を挿入して引手具105の被掛止用凸部106aをドア枠材103aの穴121回りの背面部分に着脱自在に係合する構造であるところ、かかる構造は、そもそもドア枠材自体の内部が空洞になっていることから、ドア枠材に穴121を開けることにより必然的に生じるものであって、右「穴121及び穴121背後の空洞部120の一定の奥行を有する空間」をもって「くぼんでいる部分」という通常用いられる意味での「凹部」ということは困難である。また、仮に、これを「凹部」と呼ぶとしても、ドア枠材そのものにより形成されている空洞部分の一部分であって、ドア枠材とは別部材の被掛止具にその一部として形成されているものではない以上、本件考案にいう「被掛止用凹部9」に当たるということはできない。

原告は、本件考案の構成要件Bを更にB1「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し、」とB2「被掛止用凹部9に引手具5の掛止用凸部6aを着脱自在に係合するように構成したこと」に分解した上、構成要件B1における「被掛止用凹部9」は本件明細書の記載からB1-1、B1-2、B1-3という三つの構成を備えていることが明らかであるとし、イ号製品は右構成B1-1、B1-2、B1-3をすべて備えていることになり、イ号製品の完成品としてのドアの外側面は実質的な「被掛止用凹部9」が形成されていることが明らかである旨主張するのであるが、本件考案にいう「被掛止用凹部9」は、右の構成B1-1、B1-2、B1-3に加えて、ドア3とは別部材である被掛止具8にその一部として形成された凹部であることを要するのであるから、右主張は採用することができない。

この関係で、挿通穴121を開口した四角金属板123について原告のいう規制機能の存否に争いがあるところ、前記1認定のドア枠材103aへの穴121の開口の仕方に照らせば、四角金属板123は主として美感を目的として固定されるものと考えられるものの、ドア枠材103aの穴121の幅が約五ないし六mmであるのに対し、四角金属板123の挿通穴122の幅がこれより狭い約四mmである以上、四角金属板123を固定することにより、引手具105によらないでドア103を開けられる可能性をいくらかでも低減しているものと認められるから、その限度で原告のいう規制機能を有しているということができるが、このことは前記認定判断を左右するものではない。

3  また、本件考案にいう「被掛止具8」について、原告は、本件考案においては被掛止具を取り付けるドアの構造は一切限定されていないので、内部に空洞部を有するドア枠材を使用するドアであってもよいし、ドアの外側面に被掛止具を固定する時期も一切限定されていないので、ドア製造メーカーに依頼して予め被掛止具を固定したドア枠材を製造し、本件考案にかかるドアを工場で製造してから、現場でサウナ室に取り付けてもよく、また、ドア枠材に固定されたときに被掛止具として機能すればよいのであるから、二つ以上の部分に分けて製造しても何ら問題はなく、例えば、本件考案の第二実施例の場合、ドアの開閉装置として完成したときに被掛止具19の空洞部となる椀状部分と、挿通穴を開口した前壁18aを含む板部分とに二つに分けて製造し、その後に両者を溶接やビスで接合して完成させることもでき、その際、まず椀状部分だけをドア枠材の内部に形成し、次に挿通穴を有する板部分を右椀状部分上に固定する方法によれば、文言上は「(前もって)被掛止具8に被掛止用凹部9を形成」していないが、本件考案の技術的範囲に含まれることは明らかであるところ、イ号製品においては、「内部に空洞部120を有するドア枠材103aに穴121を開口」する工程において、本件考案の第二実施例における「被掛止用凹部19における前壁18a背面と空洞部」の構成を製造し、また、「細長の挿通穴122を形成した四角金属板123を固定」する工程において、第二実施例における「被掛止用凹部19における挿通穴が形成された前壁18a」の構成を製造しているのであり、すなわち、イ号製品は、本件考案における被掛止具に該当する構成を、二つの工程に対応して順次ドアの外側面に製造していくものであって、ドアの外側面に被掛止具を固定するという本件考案と実質上何ら変わらないものであり、第二実施例における「被掛止用凹部19における前壁18a背面と空洞部」の構成を製造するために、既にあるドア枠材の空洞部につながるようにドア外側面に穴を開けることで代用することぐらいは、製造者が適宜選択すべきレベルのことである旨主張する。

本件考案において、被掛止具を取り付けるドアの構造は一切限定されていないので、内部に空洞部を有するドア枠材を使用するドアであってもよいこと、ドアの外側面に被掛止具を固定する時期も一切限定されていないので、ドア製造メーカーに依頼して予め被掛止具を固定したドア枠材を製造し、本件考案にかかるドアを工場で製造してから、現場でサウナ室に取り付けてもよいこと、また、ドア枠材に固定されたときに被掛止具として機能すればよいのであるから、二つ以上の部分に分けて製造しても何ら問題はなく、例えば、本件考案の第二実施例の場合、ドアの開閉装置として完成したときに被掛止具19の空洞部となる椀状部分と、挿通穴を開口した前壁18aを含む板部分とに二つに分けて製造し、その後に両者を溶接やビスで接合して完成させることもでき、その際、まず椀状部分だけをドア枠材の内部に形成し、次に挿通穴を有する板部分を右椀状部分上に固定する方法によってもよいことは、原告主張のとおりである。しかし、本件考案にいう「被掛止具8」は、前示のとおり、ドアの外側面に固定されるものであり、ドア3の形状、構造に関わりなく、それ自体を取り出して把握することが可能な、ドア3とは別部材として存在する形状、構造のものであるから、本件考案を実施するに当たり「被掛止具8」について製造者が適宜選択、設計できる範囲は、「被掛止具8」となる部材の材質や形状、ドアへの固定手段、固定位置、「被掛止具8」にその一部として形成される「被掛止用凹部9」の具体的な形状や位置等にとどまるのであって、イ号製品のように、「被掛止具8」あるいは「被掛止用凹部9」をドアそのものに内在させ、外部から部材を付加するという要素をなくすことは、製造者が適宜選択、設計できる範囲を超えるものといわなければならない(イ号製品における「四角金属板123」は、ドアの外側面に固定されるものであり、ドア3の形状、構造に関わりなく、それ自体を取り出して把握することが可能な、ドア3とは別部材として存在する形状、構造のものであるから、「四角金属板123」をもって本件考案にいう「被掛止具8」に該当すると解する余地はあるが、そう解しても、前示のとおり、イ号製品において本件考案にいう「被掛止用凹部9」に該当すると原告の主張する「穴121及び穴121背後の空洞部120の一定の奥行を有する空間」が、ドア枠材とは別部材の被掛止具にその一部として形成されているものではない以上、本件考案にいう「被掛止用凹部9」に当たるといえないことに変わりはない)。本件考案において被掛止具を取り付けるドアの構造は一切限定されていないので、内部に空洞部を有するドア枠材を使用するドアであってもよいというのは、ドア枠材とは別部材の被掛止具8を取り付ける対象であるドア枠材の内部が詰まっているか空洞であるかを問わないというにとどまり、内部が空洞であるドア枠材を使用する場合には「被掛止具8」あるいは「被掛止用凹部9」をドア枠材とは別部材で形成しないということまで意味するものではない。また、「被掛止具8」は二つ以上の部分に分けて製造しても何ら問題はないとして原告が挙げる本件考案の第二実施例の場合も、まず椀状部分だけをドア枠材の内部に形成し、次に挿通穴を有する板部分を右椀状部分上に固定する方法を採りうるとしても、やはり「被掛止具8」あるいは「被掛止用凹部9」がドア枠材とは別部材であることに変わりはない。

この点について、原告は、本件考案の考案者は、<1>ドアを外開き方向にのみ開閉揺動自在に設けること、<2>ドアが簡単に開かないように閉止側へ付勢すること、<3>ドアに通常設けられるノブ等を設けないこと、<4>一対一に対応する凹部と凸部の係合によりドアを開けるようにし、ドア側に凹部、引手具側に凸部を設けること、という全体構成を詳細に明示した上で、構成要件Bという極めて広い概念を本件明細書において明確に開示しているのであり、「被掛止用凹部」とは「引手具の掛止用凸部が掛止できる凹部」の意味であるから、課題を解決するための技術的思想としての右基本構成<1>ないし<4>が明らかになっている以上、椀状部品と板部品の二つの部品を組み合わせて作る凹部やドア枠材に穴を開口することにより形成する凹部というのは、いわゆる設計上の微差の範囲内のものである旨主張するが、実用新案権は、具体的な物品の形状、構造又は組合せに係る考案に対して付与されるものであり、本件考案においては、その物品の形状、構造として、構成要件B中の「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し」という構成を採用したものであって、本件実用新案権は右<4>のような抽象的な形状、構造に対して付与されたものではないから、前記説示に照らし、イ号製品と本件考案との形状、構造上の差異をもっていわゆる設計上の微差ということはできない。

4  また、原告は、イ号製品が本件考案の技術的範囲に属するとする理由として、イ号製品は、その基本的思想、効果においても本件考案と同一であると主張する。

イ号製品が本件考案の奏する前記第二の一1(三)のイないしハ記載の効果と同様の効果を奏することは被告も認めるところであるが、前示のとおり、実用新案権は具体的な物品の形状、構造又は組合せに係る考案に対して付与されるものであり、その考案が奏する効果に付与されるものではないのであって、同じ効果をもたらす技術的思想は一つに限られるものではないから、効果が同一であるからといって直ちに考案として同一であるとか、その差異は設計上の微差にすぎないということはできない。

本件考案は、前示のとおり、公衆浴場内のサウナ室等の出入口のドアを内側からは自在に開けられるようにしながら、外側からは無賃入室できないようにすることを技術的課題とし、右技術的課題を解決するための手段として前記構成要件A、Bからなる構成を採用したものであって、その課題解決の原理は、「ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成」するというもの、すなわちドア枠材自体とは別部材である被掛止具8にその一部として被掛止用凹部9を形成するというものであるのに対し、イ号製品における右課題解決の原理は、ドア枠材に穴を開口してドア枠材自体の空洞部を被掛止用に利用するというものであるから、イ号製品は、本件考案とは課題解決の原理を異にするのであって、原告主張のように基本的思想が同一であるということはできない。

5  以上のとおり、イ号製品は、本件考案の構成要件Bにいう「被掛止具8」の構成は備えていると解する余地があるとしても、「被掛止具8に形成された被掛止用凹部9」の構成を備えておらず、したがって、構成要件Bを充足しないから、本件考案の技術的範囲に属しないものといわなければならない。

二  結論

してみれば、原告の請求はいずれも理由のないことが明らかであるから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

イ号製品説明書

1. 図面の簡単な説明

図1は引手具の側面図、図2は外開きドアの正面図、図3は四角金属板付近の拡大図、図4は図3のⅣ-Ⅳ線断面図、図5は図3のⅤ-Ⅴ線断面図である。

2. 構成

(a)公衆浴場内のサウナ部屋の出入り口にドア103を外開き方向にのみ開閉揺動自在に設け、ドア103を付勢手段104で閉止側へ付勢し、ドア103を付勢力に抗して内側からは押し開き可能に、外側からは引手具105で引き開き可能に構成している。

(b)内部に空洞部120を有するドア枠材103aに穴121を開口し、前記穴121の前面に細長の挿通穴122を形成した四角金属板123を固定し、引手具105を前記挿通穴122、穴121及び穴121背後の空洞部120の一定の奥行を有する空間に入れ、引手具105の掛止用凸部106aをドア枠材103aの穴121回りの背面部分に着脱自在に係合するように構成している。

図1

<省略>

図2

<省略>

図3

<省略>

図4

<省略>

図5

<省略>

物件目録の訂正図面

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 平5-46594

<51>Int.Cl.3  E 05 B 3/00 65/10 識別記号 B Z 庁内整理番号 9129-2E 8404-2E <24><44>公告 平成5年(1993)12月7日

請求項の数 2

<54>考案の名称 公衆施設用外開きドアの開閉装置

<21>実願 昭63-153981 <55>公開 平2-74469

<22>出願 昭63(1988)11月26日 <43>平2(1990)6月7日

<72>考案者 西井浩三 大阪府大阪市港区路2丁目21-8 ユニハイム市岡902

<71>出願人 株式会社大一 大阪府大阪市港区波除6丁目1番30号

<74>代理人 弁理士 北谷寿一

審査官 辻野安人

<57>実用新案登録請求の範囲

1 公衆施設1内の部屋2の出入り口にドア3を外開き方向にのみ開閉揺動自在に設け、ドア3を付勢手段4で閉止側へ付勢し、ドア3を付勢力に抗して内側からは押し開き可能に、外側からは引手具5で引き開き可能に構成した公衆施設用外開きドアの開閉装置において、

ドア3の外側面に被掛止具8を固定し、被掛止具8に被掛止用凹部9を形成し、被掛止用凹部9に引手具5の掛止用凸部6aを着脱自在に係合するように構成したことを特徴とする公衆施設用外開きドアの開閉装置。

2 引手具5の先端部6において、その一側部に円弧状の掛止用凸部6aを形成するとともに、その他側隅部に接当面6bを形成し、

被掛止具8の被掛止用凹部9内において、その一側面に円弧状の被掛止用凹入面9aを凹設するとともに、その他側面に傾斜状の受面9bを形成し、

引手具5の掛止用凸部6a及び接当面6bを被掛止具8の被掛止用凹入面9a及び傾斜状受面9bに係合接当させた状態において、引手具5の取手部7を接当面6bと傾斜状受面9bとの接当箇所よりも掛止用凸部6a側へ偏位させて構成した請求項1に記載の公衆施設用外開きドアの開閉装置。

考案の詳細な説明

<産業上の利用分野>

この考案は公衆施設用の外開きドアの開閉装置に関するものである。

<従来の技術>

例えば、公衆浴場内のサウナバスや公衆娯楽場内の映画鑑賞室、遊戯室あるいは有料トイレツト等では入場料の他に特別入室料金を支払つて、複数の人が入室して利用する。この種の公衆施設では緊急避難時の安全な脱出を考慮して、その部屋の出入り口のドアには錠前等のロツク装置を設けてはならないことになつている。

このため従来では、この種の部屋の出入り口には内・外いずれの側からでも自由に開閉し得るようなドアが設けられている。

<考案が解決しようとする課題>

このため、上記従来例では当該部屋への無賃入室のおそれがある。本考案はこのような事情に鑑みてなされたもので、当該出入り口のドアを内側からは自在に開け得るようにしながら、外側からは無賃入室できないようにすることを技術課題とする。

<課題を解決するための手段>

本考案は上記課題を解決するために以下のように構成される。

即ち、公衆施設内の部屋の出入り口にドアを外開き方向にのみ開閉揺動自在に設け、ドアを付勢手段で閉止側へ付勢し、ドアを付勢力に抗して内側からは押し開き可能に、外側からは引手具で引き開き可能に構成した公衆施設用外開きドアの開閉装置において、ドアの外側面に被掛止具を固定し、被掛止具に被掛止用凹部を形成し、被掛止用凹部に引手具の掛止具凸部を着脱自在に係合するように構成したことを特徴とするものである。

<作用>

本考案では、外開きドアは付勢手段の閉止側への付勢力に抗して内側からは押し開き可能に構成されており、部屋内にいる者は自由に外へ出ることが出来る.一方、外側からは引手具を持つ者だけがドアを外開きすることができる。なお、この引手具は公衆施設の入場料金徴収所や案内所等で賃貸される。即ち、ドアの外側面に固定された被掛止具の被掛止用凹部に引手具の掛止用凸部を係合してドアを引き開きすることが出来る。つまり、引手具なしにこのドアは開かないのである。

<実施例>

以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明する。第1図は第1の実施例を示す要部縦断側面図、第2図は第1の実施例に係る外開きドアの正面図、第5図は公衆施設の一例を示す公衆浴場の平面図である。

第5図に示すように公衆浴場1内には浴槽12の他にサウナバス用の部屋2が配置されており、この部屋2の出入り口に外開き方向にのみ開閉揺動自在なドア3が設けられている。なお、第5図中符号13は浴場内への出入り口である。

上記ドア3は第2図に示すように、蝶番11、11で揺動回転自在に支持されており、ドアチエツカ4で閉止側へ付勢して閉止されているが、内側からはこの付勢力に抗して、自由に押し開き出来るように構成されている。

一方、ドア3の外側面Ⅰ部には、引手具(第1図5)で引き開きできるように被掛止具8が固定されている。

上記第1の実施例では引手具5は薄板材で形成され、第1図で示すように、引手具5の先端部6には一側部へ円弧状の掛止用凸部6aが突出して形成され、他側隅部に円弧状の接当面6bが形成されている。

一方、被掛止具8は人の指先が入らない程度の細い被掛止用凹部9が形成され、その被掛止用凹部9内には、一側面に円弧状の被掛止用凹入面9aが凹設され、この凹入面9aに連続させて他側面に傾斜状の受面9bが形成されている。

次に、引手具5でドア3を開くときの操作について説明する。

先ず、引手具5の先端部6を被掛止具8の被掛止用凹部9に挿入する。次いで、引手具5の掛止用凸部6aを被掛止用凹入面9aに装着させるとともに、引手具5の接当面6bが傾斜状の受面9bに接当するまで取つ手7を持ち上げ方向(矢印A)に旋回させる。すると、引手具5の接当面6bが受面9bに沿つて進入し、引手具5の掛止用凸部6aは被掛止用凹入面9aに嵌着して停止する。

なお、この状態では引手具5の取手部7は接当面6bと傾斜状受面9bとの接当箇所よりも掛止用凸部6a側(第1図では下側)へ偏位しており、この取手部7を持つて矢印B方向へ引くと接当面6bの接当位置を支点として引手具5に回転モーメントが作用する。つまり、この回転モーメントによつて掛止用凸部6aと被掛止用凹入面9aとが係合したまま、ドアは引き開き可能になる。なお、上記引手具5以外の鈎部材を使用しても、被掛止用凹入面9aに掛止係合することはできないので、ドアは開かない。

第3図は第2の実施例を示す要部縦断側面図、第4図はその正面図である。

この実施例では、引手具15の先端部には一側部へ掛止用凸部16aが突出形成され、一方の被掛止具18には人の指先が入らない程度の細い被掛止用凹部19が形成され、被掛止用凹部19内は空洞状になつている。

従つて、引手具15の先端部を凹部19内に挿入して少し旋回させれば、掛止用凸部16aが被掛止具18の前壁18aに掛止する。そのまま引手具15の取手部17を手前へ引けばドア3は引き開き可能になる。

以上の説明では2種類の実施例について例示したが、本考案はこれに限るものではなく、多様な変形を加えて実施し得ることは多言を要しない。

<考案の効果>

以上の説明で明らかなように、本考案は前記のように構成され作用することから次のような効果を奏する。

イ 当該出入り口のドアは内側からは押し開き可能に構成されているので、従来例同様、緊急避難時に安全に脱出できる。

ロ ドアは付勢手段で閉止されているが、ドアの外側面に被掛止具が固定されており、被掛止具に形成された被掛止用凹部に引手具の掛止用凸部を着脱自在に係合させ、引手具を引く事によりドアを外側から引き開ける事が出来る。

ハ 特に被掛止用凹部を前記請求項2に記載したように、その一側面に円弧状の被掛止用凹入面を凹設し、その他側面に傾斜状の受面を形成した場合にはこれ用の引手具以外の鈎部材を使用しても掛止係合することはできず、ドアを外側より引き開けることができない。

つまり、公衆施設内の特定の施設を利用する者には、特別料金と引き替えに引手具を渡しておけばよく、見張り人なしで無賃侵入者を排除することができる.

図面の簡単な説明

第1図は、本考案の第1の実施例を示す要部縦断側面図、第2図は第1の実施例に係る外開きドアの正面図、第3図は第2の実施例を示す要部縦断側面図、第4図はその正面図、第5図は公衆施設の一例を示す公衆浴場の平面図である。

1……公衆施設、2……部屋(サウナバス)、3……ドア、4……付勢手段、5……引手具、6……引手具の先端部、6a……掛止用凸部、6b……接当面、8……被掛止具、9……被掛止用凹部、9a……被掛止用凹入面、9b……傾斜状受面。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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実用新案公報

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