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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)3369号 判決 1995年9月27日

甲事件原告兼乙事件被告(以下「原告」という。)

氏家征男

右訴訟代理人弁護士

大西佑二

尾崎幸弘

甲事件被告兼乙事件原告(以下「被告」という。)

株式會社トヨシマ

右代表者代表取締役

田邊晋

右訴訟代理人弁護士

高島照夫

熊谷尚之

中川泰夫

石井教文

池口毅

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  原告は、被告に対し、別紙不動産目録記載の建物部分を明け渡し、平成七年四月一日から右明渡済みまで一か月一〇万円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

(甲事件)

1  原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は、原告に対し、平成七年二月以降、一か月二七万五四〇〇円の割合による金員を支払え。

(乙事件)

主文二項と同旨

第二事案の概要

本件は、被告が原告を懲戒解雇したところ、原告が、右懲戒解雇は、無効であると主張して、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と解雇後の未払賃金の支払を求めたのに対し(甲事件)、被告が右懲戒解雇が有効であると主張して、原告に対し、社宅の明渡しを求めた(乙事件)事案である。

一  争いのない事実

1(一)  被告は、自動車部品の製造販売を主な業務とする株式会社である。

(二)  原告は、昭和三八年三月、被告と雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結し、昭和六〇年三月には、被告の出向命令により被告の台湾における子会社である晋豊工股有限公司(以下「訴外会社」という。)に自動車部品を製造する工場の工場長として単身で出向勤務し、被告会社から平均月二七万五四〇〇円、訴外会社から毎月一五日末日の二回払で月八万一〇〇〇台湾ドル(約二八万円)の給与の支払を受けていた。

2(一)  原告は、訴外会社に出向中の昭和六〇年一二月から平成六年六月までの八年六か月余りの間、少なくとも、二五三回にわたり、仮払金名下に訴外会社の金計三二六万四六二五台湾ドル(約一一三二万円、以下「本件仮払金」という。)の支払を受けた。

(二)  被告は、平成六年一一月、訴外会社を清算することを決定し、清算手続に入るとともに、原告との間で、2の金員の返済方法について交渉した。

(三)  原告は、平成六年一二月五日、訴外会社から退職金名目で一五万四八四〇台湾ドル(約五三万円)の支払を受けた。

3  原告は、平成七年三月一五日、原(ママ)告に対し、本件仮払金三二六万四六二五台湾ドルを被告に返済する義務のあることを認めるなどの記載のある誓約書(<証拠略>)に署名した。

4  被告は、平成七年三月二〇日、原告の2の行為が就業規則所定の諭旨解雇及び懲戒解雇の該当事由である「業務に関し不正を働き、金員その他、私利をはかったとき」(五八条四項八号)に当たるとして、原告に対し、懲戒解雇の意思表示(以下「本件懲戒解雇」という。)をした。

5  被告は、原告との間で、被告の所有する別紙(略、以下同じ)不動産目録記載の建物部分(以下「本件社宅」という。)を社宅として原告に使用させる、使用料を一か月三万円とする、入居資格は、被告の社員又は役員で被告総務部長の許可を得たものに限定する旨の契約(以下「本件社宅使用契約」という。)を締結し、原告が本件社宅を占有している。

二  原告の主張

1  原告の行為は、以下のように懲戒解雇事由に当たらない。

(一) 原告は、本件仮払金を借り受けたものであり、終始返済の意思を有していたのであるから、原告の行為は、着服とはいえず、懲戒解雇事由に当たらない。

(二) 原告は、訴外会社に出向していた被告社員であり、訴外会社の現地責任者として社長代理的な地位にあった藤居芳久(以下「藤居」という。)に対し、生活費の不足を相談し、その承諾を得て本件仮払金の交付を受け始め、その後、訴外会社の経理担当者から仮払金の支払を受けていたのであるから、原告の本件仮払金の受領は、被告の承諾があるものというべきであり、懲戒解雇事由に当たらない。

(三) また、少なくとも、原告が、藤居の許可を得たことで右行為が被告の承認を得た行為であると考える相当な理由があったのであるから、原告の右行為はやむを得ないものというべきである。

(四) 原告は、訴外会社から通勤手当の支給を受けず、交際費その他の必要経費についてもほとんど支給されず、訴外会社から支給された給与では、生活に困難があったため、本件仮払金を借り受けたものであり、原告の右行為は、やむを得ないものというべきであり、本件懲戒解雇は重きに失する。

(五) なお、原告が、平成六年一二月五日、訴外会社から一五万四八四〇台湾ドル(約五三万円)の支払を受けたのは、退職金として支払を受けたものではなく、藤居が、原告が被告からボーナスの支払を受けていないことを知り、訴外会社から原告に右金員の支払をしたものである。原告は、右支払が退職金名下であったことを帰国するまで知らなかった。

2  したがって、本件懲戒解雇は無効であり、原告は、被告に対し、雇用契約上の地位を(ママ)権利を有する地位にあり、本件懲戒解雇後も、本件雇用契約に基づき、少なくとも賃金として一か月二七万五四〇〇円の割合による金員の支払を求めることができる。

よって、原告は、被告に対し、本件雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び平成七年二月以降一か月二七万五四〇〇円の割合による賃金の支払を請求する(甲事件)。

また、原告は、本件雇用契約上の地位を有する以上、本件社宅を使用する権利を失わないのであるから、被告の本件社宅明渡請求及び賃料相当損害金の支払請求は理由がない。

二(ママ) 被告の主張

1  原告の行為は、就業規則所定の懲戒解雇事由に該当し、本件懲戒解雇が(ママ)有効である。

(一) 被告の出向規程は、出向者が出向先において、制裁に該当する行為をした場合には、被告の就業規則に基づき処分する旨定めるところ(一〇条)、被告の就業規則は、従業員の懲戒として、譴責、減給、昇給停止、降格、諭旨解雇及び懲戒解雇がある旨(五七条)、その基準として、「業務に関し不正を働き、金員その他私利をはかったとき」諭旨及び懲戒解雇に付する旨(五八条四項八号)、情状により、処分を加重又は軽減する旨を各定める(同条)。

(二) 被告は、平成六年七月四日から九日にかけて、経理部員を訴外会社に派遣して経理監査を行った結果、原告が、訴外会社から本件仮払金名下に金計三二六万四六二五台湾ドル(約一一三二万円)の支払を受けたことが判明し、原告が右金員を着服して費消したことを自白した。

原告は、右金員を各支払日に訴外会社の経理課員に指示して支出させた上、毎年決算期にその年度の累積額を仮払金名下に帳簿記載させていたものであり、原告の右行為は、訴外会社の金員を着服したもので、就業規則所定の懲戒解雇事由である「業務に関し不正を働き、金員その他私利をはかったとき」に当たる。

(三) しかも、被告が、右不祥事と業績不振から、同年一一月、訴外会社の清算を決定し、清算手続を開始したが、原告は、右清算手続における現地従業員に対する退職金支給の際、自分が出向者であるにもかかわらず、被告及び訴外会社の代表者に無断で、同年一二月五日、訴外会社経理係に指示して、自分に対し、退職金を支払わせたものであり、右行為も被告の就業規則所定の懲戒解雇事由である「業務に関し不正を働き、金員その他私利をはかったとき」に当たることが明らかである。

(四) なお、原告に対する通勤手当等が不十分なため、原告が生活苦に陥ったものでないことは明らかである。

(1) 被告は、原告のために、当初、工場の所在する新竹市内に訴外会社が社宅を賃借すると共に、訴外会社への通勤については、原告を含む従業員全体に通勤用バスチケットを交付していた。

(2) 原告は、その後、藤居が台北市内に転居したのに倣って、被告に無断で、右社宅の賃貸借契約を解約した上、台北市内の居宅を賃借し、工場まで電車通勤をするようになった。しかし、右賃料と光熱費も訴外会社が負担しており、また、右通勤費は、往復一二〇台湾ドル(約四一六円)、月二五日出勤として約一万円にすぎない。なお、訴外会社の経理監査と清算事務のため訪台した被告経理社員は、原告に対し、右通勤費を清算するよう勧めたが、原告は、金額が少ないので良いと述べ、これを辞退した。

(3) 原告は、工場長であり、交際費の支払を受ける必要がないのに、平成四年一月から平成六年八月まで、訴外会社から七八万七〇四七台湾ドル(約二七三万円)の交際費の支払を受けており、被告経理社員に対し、右金員を自己の飲食費として使用したことを認める。

2  したがって、本件雇用契約は、本件懲戒解雇により終了したものというべきであるので、原告の甲事件請求は理由がない。

3(一)  原告と被告は、本件社宅使用契約の際、被告の寮・社宅規程(以下「社宅規程」という。)の約款に従う旨合意したところ、右規程には、社宅の管理は、被告総務部長の担当とする、入居者が入居の資格を失った場合、被告総務部長は退去を命ずることができ、入居者は、右退去命令から三日以内に退去しなければならない旨の定めがある。

(二)  原告は、本件懲戒解雇により、平成七年三月二〇日、被告の従業員たる地位を失い、本件社宅使用契約所定の入居資格を喪失したため、被告総務部長は、原告に対し、同日、三日以上の猶予期間を定めて、同月末日限り、本件社宅の退去を命じた。

(三)  本件社宅の賃料相当損害金は、一か月一〇万円を下回らない。

よって、被告は、原告に対し、本件社宅の所有権に基づき、その明渡及び平成七年四月一日から右明渡済みまで一か月一〇万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める(乙事件)。

三  主たる争点

本件懲戒解雇の効力

四  証拠

記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三争点に対する判断

一  本件懲戒解雇の効力

1  当事者間に争いのない事実、証拠(<証拠・人証略>)、原告本人尋問の結果(ただし、後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると、訴外会社は、被告が九九・八七パーセントの株式を所有して、台湾で設立した子会社であること、原告は、訴外会社に工場長として出向中、昭和六〇年一二月から平成六年六月までの八年六か月余りの間、少なくとも、二五三回にわたり、訴外会社の経理課社員に指示して、訴外会社から計三二六万四六二五台湾ドル(約一一三二万円、以下「本件仮払金」という。)を支出させて、右金員の交付を受け、これを飲食代、遊興費などの私用の目的に費消して領得し、毎年決算期にその年度の右支出額の累積額を仮払金名下に帳簿に記帳させていたことが認められる。

2  被告の出向規程(<証拠略>)は、出向者が、出向先において、制裁に該当する行為をした場合には、被告の就業規則に基づき処分する旨定め(一〇条二項)、被告の就業規則(<証拠略>)は、従業員の懲戒の種類を、譴責、減給、昇給停止、降格、諭旨解雇及び懲戒解雇とし(五七条)、その基準として、「業務に関し不正を働き、金員その他私利をはかったとき」を諭旨解雇及び懲戒解雇事由とし(五八条四項八号)、情状により、処分を加重又は軽減する旨定めているところ(同条)、1判示の原告の行為は、就業規則所定の懲戒解雇事由である「業務に関し不正を働き、金員その他私利をはかったとき」に当たることが明らかである。

そして、原告は、被告のほぼ一〇〇パーセント出資の子会社である訴外会社の工場長として、工場に働く全従業員を管理監督すべき地位にある上、昭和六二年ころ以降、被告が派遣した日本人の出向者が現地責任者である藤居と原告のみであったことからすれば(<証拠略>)、訴外会社の管理者として、その職務上の責任が極めて重かったにもかかわらず、二五〇回以上の多数回にわたり、同社の金員を私用に費消したものであり、その行為態様自体、被告及び訴外会社の職場秩序を著しく害するものであることが明らかである上、費消額も邦貨で約一一〇〇万円を超える莫大なものであり、原告自身、返済する資力に乏しいことを自認していること(<証拠略>、原告本人尋問の結果))(ママ)に照らせば、被告に与えた損害も甚大で回復困難であり、以上のような職場秩序違反の内容、程度、被告の損害など本件における諸般の事情に照らし、本件懲戒解雇が重きに失するということはできない。

3(一)  原告は、本件仮払金を借り受けたものであり、返還の意思を有していたので、懲戒解雇事由に当たらない旨主張するようである。

しかし、たとえ、後日返還する意思があったとしても、訴外会社の金員を職務外の使途に充てるために交付を受け、これを飲食代、遊興費等の私用の目的に費消した上、決算期に仮受(ママ)金として累積額を帳簿に記載させるという行為態様自体、被告及び訴外会社の職場秩序を著しく害するものであること、原告が交付を受けた金員の総額が邦貨で一一〇〇万円を超え、原告の資力では返済困難な莫大な額になっていることに照らせば、原告の右行為は、たとえ、原告に返済の意思があったとしても、訴外会社及び被告が承認を求められても承認しないことが明らかな行為であって、就業規則所定の懲戒解雇事由である「業務に関し不正を働き、金員その他私利をはかったとき」に当たることが明らかであり、原告の右主張は、採用できない。

(二)  原告は、本件仮払金の支出について、被告の現地責任者として社長代理的な地位にあった藤居の承諾を得て本件仮払金の交付を受け始めたものであり、被告の承諾を得たものというべきであるので、懲戒解雇事由に当たらないし、また、原告が、藤居の許可を得たことで右行為が被告の承認を得た行為であると考えたことに相当な理由があったのであるから、原告の行為がやむを得ないものであった旨主張するようである。

しかし、前判示のように、原告が交付を受けた金員の総計が邦貨で一一〇〇万円を超え、原告の資力では、返済困難な莫大な額になっている上、訴外会社の金員を職務外の使途に充てるために交付を受け、これを飲食代、遊興費等の私用の目的に費消するなどの原告の右行為態様自体、被告及び訴外会社の職場秩序を著しく害するものであることに照らせば、原告の右行為は、訴外会社及び被告が承認を求められても承認しないことが明らかな行為であること、原告の右行為が発覚する発端となった経理監査は、藤居が派手に遊興をしているという疑惑から開始されたものであり、(<証拠略>)、藤居自身、訴外会社の金員八六七万五七五七台湾ドル(約三〇一〇万円)を私的に流用したとして、被告から責任を追及され、所有不動産を処分するなどして、被告に弁償したこと(<証拠・人証略>)などの点に照らすと、本件全証拠によっても、藤居が原告の右行為を承認する権限を有していたことを認めるに足りず、被告が原告の右行為を承認したものとは認められない。

また、右判示の点に、原告自身、妻に対する手紙(<証拠略>)の中で、訴外会社の金員を費消した理由として、訴外会社の承認を受けたと考えたことを挙げず、仕事の苦労から、「悪いこととはわかりながら、ついつい大酒を飲んで自分の心の痛手をごまかした生活をしながら今日まで来てしまったこと」などを挙げていることを考え併せれば、原告が、右行為について被告の承認を得た行為であると考える相当な理由があったものとも認めるに足りない。

したがって、原告の右主張は、採用できない。

(三)  原告は、訴外会社から支給された給与では、生活に困難があったため、本件仮払金を借り受けたものであって、やむを得ないものというべきであり、本件懲戒解雇は、重きに失する旨主張するようである。

しかし、前判示の事実、証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告会社から平均月二七万五四〇〇円、訴外会社から毎月一五日末日の二回払で月八万一〇〇〇台湾ドル(約二八万円)の給与の支払を受けており、被告会社からの給与で日本に居住する家族が、訴外会社からの給与で被(ママ)告が生活していたこと、被(ママ)告が訴外会社から支払を受けた給与額は、訴外会社の現地採用社員より、はるかに高額であったこと、被(ママ)告の家族には、被告会社から社宅が提供され、その使用料は時価より相当低額であったこと(平成七年三月当時月三万円)、原告は、台北市内の居宅を賃借し、工場まで電車通勤していたが、右居宅の賃料と光熱費は訴外会社が負担し、右通勤費の額は、往復一二〇台湾ドル(約四一五円、月二五日出勤として約一万円)にすぎないこと、原告は、工場長であり、営業的な活動のため交際費の支払を受ける業務上の必要性が高いとは認められないところ、平成四年一月から平成六年八月まで、訴外会社から七八万七〇四七台湾ドル(約二七三万円)の交際費の支払を受けていたこと、原告が、被告に対し、日本人出向者の派遣増員や、原告の被告への復帰を求めたことが認められるものの、生活費の不足を訴えたことを認めるに足りる証拠がないこと、原告自身、妻に対する手紙の中で、訴外会社の金員を費消した理由として、生活費の不足を挙げず、日々の仕事の苦労から、「悪いこととはわかりながら、ついつい大酒を飲んで自分の心の痛手をごまかした生活をしながら今日まで来てしまったこと」などを挙げていること(<証拠略>)などの点に照らすと、本件全証拠によっても、原告が生活費の不足から右行為をしたものと認めるに足りず、ほかに原告の右行為がやむを得ないものであった旨の原告主張事実を認めるに足りる証拠はなく、原告の右主張も採用できない。

4  以上によれば、本件懲戒解雇は有効であり、本件雇用契約は、本件懲戒解雇により、平成七年三月二〇日限り終了したものというべきであるので、本件雇用契約が存続することを前提とする原告の甲事件請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

二  社宅明渡請求

1  被告は、原告との間で、被告がその所有する本件社宅を社宅として原告に使用させる、使用料を一か月三万円とする、入居資格は、被告の社員又は役員で被告総務部長の許可を得たものに限定する旨の本件社宅使用契約を締結したことは、前判示のとおりであり、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、原、被告は、本件社宅使用契約締結の際、被告の社宅規程の約款に従う旨合意したこと、右規程には、社宅の管理は、被告総務部長の担当とし、入居者が入居の資格を失った場合、被告総務部長は退去を命ずることができ、入居者は、右退去命令から三日以内に退去しなければならない旨の定めがあること、被告総務部長は、原告に対し、平成七年三月二〇日ころ、三日以上の猶予期間を定めて、同月末日限り、本件社宅を退去すべき旨を命じたこと、本件社宅の賃料相当損害金は、一か月一〇万円を下回らないことがいずれも認められ、右認定に反する証拠はない。

2  そして、原告は、本件懲戒解雇により、平成七年三月二〇日、被告の従業員たる地位を失い、本件社宅使用契約所定の入居資格を喪失したことは、前判示のとおりであるので、1判示の事実によれば、被告は、原告に対し、同年四月一日以降、本件社宅所有権に基づき、本件社宅の明渡し及び同日以降右明渡済みまで一か月一〇万円の割合による賃料相当損害金の支払を請求することができる。

3  したがって、被告の乙事件請求は、理由がある。

三  結語

以上によれば、原告の甲事件請求は、理由がないのでいずれも棄却し、被告の乙事件請求は、理由があるので認容すべきである。なお、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。

(裁判官 大竹たかし)

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