大阪地方裁判所 平成7年(ワ)4633号 判決 1996年7月05日
第一事件原告兼第二事件被告
西川宏治
第一事件被告兼第二事件原告
宮内正徳
第一事件被告
中西明徳
主文
一 第一事件被告宮内正徳、同中西明徳は第一事件原告西川宏治に対し、連帯して金八五万〇二二〇円及びこれに対する平成七年二月二四日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第一事件原告西川宏治のその余の請求を棄却する。
三 第二事件被告西川宏治は第二事件原告宮内正徳に対し、金八四四六円及びこれに対する平成七年二月二四日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 第二事件原告宮内正徳のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は第一事件、第二事件を通じ、これを五分し、その一を第一事件原告兼第二事件被告西川宏治の、その余を第一事件被告兼第二事件原告宮内正徳、第一事件被告中西明徳の負担とする。
六 この判決は第一、第三項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 第一事件関係
被告らは原告に対し、連帯して金一〇七万五二七六円及びこれに対する平成七年二月二四日(事故日)から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第二事件関係
被告は原告に対し、金九万二二三〇円及びこれに対する平成七年二月二四日(事故日)から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、交差点における大型貨物自動車と普通乗用自動車の衝突物損事故に関し、普通乗用自動車の保有物兼運転者が、大型貨物自動車の運転者に対し民法七〇九条に基づき、保有者に対し民法七一五条に基づき、損害の賠償を求め(第一事件)、逆に大型貨物自動車の保有者が普通乗用自動車の運転者に対して民法七〇九条に基づき損害の賠償を求めた(第二事件)事案である。
一 争いのない事実
1 事故の発生
<1> 日時 平成七年二月二四日午前九時四〇分頃
<2> 場所 大阪府茨木市豊川三丁目一番六号先路上
<3> 関係車両
第一車両 原告西川運転、保有の普通乗用自動車(大阪三五と七一七号、「以下原告車」という。)
第二車両 被告中西運転の大型貨物自動車(大阪一一に四四五六号、以下「被告車」という。)
<4> 事故態様
原告車が被告車に衝突した。
2 被告宮内の地位
被告宮内は被告車の保有者であると共に、被告中西の使用者であり、被告中西はその業務として被告車を運転していた。
二 争点
1 本件事故態様、過失相殺
(原告の主張の要旨)
本件事故は原告車が第一車線を直進していたところ、前方を走行していた被告車が第二車線に進路を変更したうえ、方向指示器も点けずに、第二車線から左折してきたため、原告車はこれを避けきれずその側面に衝突したものである。よつて、本件事故の責任はすべて被告中西にあり、仮にそうでないとしても大半の責任は被告中西にあるから、大幅な過失相殺がなされるべきである。
(被告らの主張の要旨)
被告車は第一車線を走行中、左折の合図を出したうえで左折を開始し、左折が間もなく終了しようとした際に原告車に追突された。よつて、本件事故の責任はすへて前方注視を怠つた原告西川にある。仮にそうでないとしても大半の責任は原告西川にあるから、大幅な過失相殺がなされるべきである。
2 原告車の損害
(原告西川の主張の要旨)
<1> 修理代金 九七万五二七六円
<2> 弁護士費用 一〇万円
3 被告車の損害
(被告の主張の要旨)
<1> 修理代金 四万二二三〇円
<2> 休車損害 五万円
第三争点に対する判断
一 争点1(本件事故態様、過失相殺)について
1 証拠上容易に認められる事実
証拠(甲一ないし四、検甲一の一ないし八、乙一ないし三、原告西川本人、被告中西本人)によれば次の各事実を認めることができる。
<1> 本件事故は、別紙図面のように、両側に歩道のある片側二車線の市街地を北西から南東に走る道路(以下「第一道路」という)と、それに北東方向から突き当たる幅員約七メートル(以下の表示はいずれも約である)の道路(以下「第二道路」という)によつてできた信号機によつて交通整理が行われているT字型交差点におけるものである。第一道路の最高制限速度は時速五〇キロメートルに規制されている。
第一道路の北側の歩道は幅二・二メートルで、本件交差点北西角付近では別紙図面のように、やや丸みを持たしてあり、車道との段差もほとんどないが、本件交差点の西詰め横断歩道付近より北西においては、車道との間に段差があるうえ、鉄柵が設けられている。
<2> 原告車・被告車ともに第一道路の北西から南東に進行して、本件交差点に至つたものであり、本件交差点の北西角付近で、原告車前部が被告車の左後輪付近に追突している。追突時点において、第一道路の対面信号は青であり、第二道路の別紙図面に示した停止線には一台の普通乗用自動車が信号待ちしていた。
<3> 原告車は普通乗用自動車であり、被告車は幅二・四九メートル、長さ一〇・四九メートルに及ぶ大型貨物自動車である。本件事故によつて、原告車前部が中破し、被告車後部左側が小破した。
2 原告西川及び被告中西の供述の要旨
<1> 原告西川の供述の要旨
原告は、第一車線(歩道よりの車線)を先行してきた被告車が第二車線に進路変更したうえ、左折の合図を出しながら同車線から第二道路に進入しようとしているのを認め、急制動をかけたが及ばず、追突に至つた。
<2> 被告中西の供述の要旨
時速約五〇キロメートルで被告車を走行させていたが、交差点手前で時速三〇キロメートルに減速し、左折の合図を出した。更に一〇ないし一五キロメートルに減速して、左折を開始し、左折終了の間際に原告車に追突された。第二車線寄りに走行したことはあるが、第二車線内に入つたことはない。
3 裁判所の認定
右対立する供述中、原告西川供述を採用する。その理由は以下のとおりである。
証拠(検乙一ないし九)によれば、被告車は第一車線からでも第二道路に進入することが可能であること、右進入方法をとると、前記停車車両と接触しないためには、左折時において相当程度の減速を要すると共に、交差点の北西角の歩道に被告車の左後輪を乗り上げざるを得ないことが認められる。この場合、前記各車両の衝突箇所からみて、衝突時点における両車両の位置関係は、別紙図面<3>、<ウ>と示された位置しかないことになる。そして右位置は被告らの自認するところでもある。ところが、右位置関係からすると、原告車は路側帯を、更には、段差のある歩道と車道の間の鉄柵に沿つて走行してきたことになるが、このようなことは考えられないことである。したがつて、中西供述は採用できない。
被告らは、「第一車線からそのまま左折できる以上、第二車線に進路変更する必要はない。」と主張するが、第一車線から左折したのでは前記のとおり、歩道に乗り上げるうえに、停車車両とかろうじてすり抜けられるにすぎないのに対し、第二車線から進入すれば、このような無理はせずにすむのでこの点の被告らの主張は理由に欠ける。
他方、原告西川の供述には格別の矛盾は認められない。被告らは、原告西川供述の矛盾点として、<1> 原告西川の供述中には衝突地点の二八メートル手前で原告車の時速が五〇キロメートル、被告車の時速が一五キロメートルであるとの部分があり、これが正しいとした場合、本件事故は起こり得ない事故が起こつたということになること、<2> 原告西川は、被告宮内の事務所に示談交渉に赴き、事故直後も原告車を自分で修理するかのような言動をとつた。自らの過失が小さいと思つていたのなら説明できない行動であることを挙げる。
確かに原告西川の供述中には、右<1>に指摘された部分があり、これだけを取り上げた場合、本件事故は起こり得ない事故が起こつたもので、原告西川の供述には矛盾があるということができる。しかし他の車両の速度とその間の距離を正確に把握すること自体そもそも困難であり、これだけをもつてして原告西川の供述が信用性に欠けるとは言えない。距離と速度の把握が正しいことを前提とすると、被告中西供述にも大きな矛盾がある。即ち、被告中西は交差点の相当手前で減速を始め、その際の原告車との距離は五〇メートルしかなかつたというのであり、前記のとおり、第一車線から左折する際には更に相当程度の減速を要するのであるから、左折直前に後部から追突されたのなら理解できるものの、左折がほば終了した時点での本件事故は起こり得ない事故が起こつたということになる。<2>の原告西川が交渉に赴いたという点は、その性格や示談を急いでいたかによつて左右される。また、本件事故が追突事故であつたために、事故直後においては原告西川が自分の方が悪いと思いこんだとしてもあながち不思議なことではなく、原告西川が原告車を自分で修理するといつたかどうかは、被告車の走行状態を認定するうえで重要な事柄とは言い難い。
4 過失相殺についての裁判所の判断
右認定事実によれば、被告中西は第一車線を走行する原告車に注意を払わず第一車線に車線変更したうえ、更に交差点を左折しようとした過失がある。他方、原告西川にも右前方を走行する被告車の動静に十分な注意を払わなかつた過失がある。
右過失の内容を対比し、前記道路状況を考えあわせると、その過失割合は原告西川の二に対し被告中西が八とみるのが相当である。
二 争点2(原告車の損害)
九七万五二七六円(主張同額)
証拠(甲二)によれば、原告車の修理に九七万五二七六円を要することが認められる。
三 争点3(被告車の損害)
<1> 修理代 四万二二三〇円(主張同額)
証拠(乙一)によれば、被告車の修理に四万二二三〇円を要することが認められる。
<2> 休車損 〇円(主張五万円)
被告宮内の供述によれば、被告車はまだ修理をしていないうえに、仕事が空いて休車損が生じないのを見はからつて修理をなす予定であることが認められる。したがつて、休車損の主張が理由に欠けることは明かである。
第四賠償額の算定
一 第三の二において認定した原告西川の損害額に第三の一で認定した被告中西の過失割合八割を乗じると、七八万〇二二〇円(九七万五二七六円×〇・八、円未満切捨)となる。
右金額、本件審理の内容・経過に鑑み相当弁護士費用は七万円と認める。
二 第三の二において認定した被告宮内の損害額に第三の一で認定した原告の過失割合二割を乗じると、八四四六円(四万二二三〇円×〇・二)となる。
(裁判官 樋口英明)
事故発生状況図