大阪地方裁判所 平成7年(ワ)6716号 判決 1997年6月24日
原告(反訴被告)
安岡富子
ほか四名
被告(反訴原告)
株式会社橘運送
被告
林宏郁
主文
一 原告(反訴被告)有限会社安岡建設は、被告(反訴原告)株式会社橘運送に対し、金四三六万五五〇〇円及びこれに対する平成六年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告(反訴被告)安岡富子は、被告(反訴原告)株式会社橘運送に対し、金二一八万二七五〇円及びこれに対する平成六年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告(反訴被告)濱野三枝子、同安岡勇治及び同勝浦美智子は、被告(反訴原告)株式会社橘運送に対し、各自金七二万七五八三円及びこれに対する平成六年一二月五日から各支払済みまで年五分の割台による金員を支払え。
四 原告(反訴被告)らの請求及び被告(反訴原告)株式会社橘運送のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、本訴反訴を通じて、これを一二分し、その一一を原告(反訴被告)らの負担とし、その余を被告(反訴原告)株式会社橘運送の負担とする。
六 この判決は、第四項を除き、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴請求
被告(反訴原告)株式会社橘運送及び被告林宏郁は、各自、原告(反訴被告)安岡富子に対し、金一七二〇万二四九九円、同安岡勇治に対し、金五七三万四一六六円、同濱野三枝子に対し、金五七三万四一六六円、同勝浦美智子に対し、金五七三万四一六六円、同有限会社安岡建設に対し、金一〇二万〇九二〇円及び右各金員に対する平成六年一二月五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴請求
1 原告(反訴被告)有限会社安岡建設は、被告(反訴原告)株式会社橘運送に対し、金七二八万〇九二八円及びこれに対する平成六年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告(反訴被告)安岡富子は、被告(反訴原告)株式会社橘運送に対し、金三六四万〇四六四円及びこれに対する平成六年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 原告(反訴被告)濱野三枝子、同安岡勇治及び同勝浦美智子は、被告(反訴原告)株式会社橘運送に対し、各自金一二一万三四八八円及びこれに対する平成六年一二月五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本訴事件は、被告林宏郁が運転する普通貨物自動車と安岡衛が運転する普通貨物自動車(原告(反訴被告)有限会社安岡建設所有)とが衝突して安岡衛が死亡した事故につき、安岡衛の妻子ないし右車両の所有者である原告(反訴被告)らが被告(反訴原告)株式会社橘運送に対しては、自賠法三条ないし民法七一五条に基づき、被告林宏郁に対しては、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。
反訴事件は、右事故によつて、被告林宏郁が運転する普通貨物自動車(被告(反訴原告)株式会社橘運送所有)が損傷を被つたとして、被告(反訴原告)株式会社橘運送が原告(反訴被告)有限会社安岡建設に対しては、有限会社法三二条、商法七八条二項、民法四四条一項に基づき、その余の原告(反訴被告)らに対しては、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。
以下、原告(反訴被告)を単に「原告」といい、被告(反訴原告)を単に「被告」ということにする。
二 本訴請求における争いのない事実等
1 事故の発生
左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
記
日時 平成六年一二月五日午前一〇時三五分ころ
場所 大阪府堺市大浜西町府道高速湾岸線湾下七・一キロポスト先路上
事故車両一 普通貨物自動車(大阪四七つ四二三一)(以下「安岡運転車両」という。)(原告有限会社安岡建設所有)
右運転者 安岡衛
事故車両二 普通貨物自動車(なにわ八八か二六六〇)(以下「林運転車両」という。)(被告株式会社橘運送所有)
右運転者 被告林宏郁
態様 事故車両一と事故車両二とが衝突したもの
2 安岡衛の死亡・相続
本件事故の結果、安岡衛は、平成六年一二月五日死亡した。
安岡衛の死亡当時、原告安岡富子は安岡衛の妻、同安岡勇治、同濱野三枝子及び同勝浦美智子は安岡衛の子であつた。
3 林運転車両の保有者及び被告株式会社橘運送の事業の執行本件事故当時、被告株式会社橘運送は、林運転車両を所有する保有者であつた。
本件事故当時、被告林宏郁は被告株式会社橘運送の従業員であつた。本件事故は、被告林宏郁が被告株式会社橘運送の業務に従事している間に発生した。
4 損害の填補
本件事故に関し、自動車損害賠償責任保険に基づき、原告有限会社安岡建設を除く原告らは、二一〇二万三三五二円の支払を受けた。
5 被告株式会社橘運送の選任監督上の過失
被告株式会社橘運送が被告林宏郁の選任監督につき注意を怠つたかどうかは、本件事故発生と関係がない(弁論の全趣旨)。
6 林運転車両の構造上の欠陥・機能障害
林運転車両の構造上の欠陥・機能障害の存否如何は、本件事故発生と関係がない(弁論の全趣旨)。
三 反訴請求における争いのない事実
1 事故の発生
前記二1のとおり。
2 安岡衛の死亡・相続
前記二2のとおり。
3 原告有限会社安岡建設における安岡衛の地位等
本件事故当時、安岡衛は原告有限会社安岡建設の代表者であつた。
本件事故は、安岡衛が原告有限会社安岡建設代表者としての職務を行つている間に発生した。
四 本訴請求における争点
1 被告林宏郁の過失の有無
(原告らの主張)
本件事故は、左側車線を走行中の安岡運転車両が右側車線へ進路変更しようとした際、右側車線を高速度で走行してきた林運転車両が安岡運転車両に衝突し、安岡衛が車外へ投げ出されて死亡したというものである。
被告林宏郁には、前方を注視すべき義務、適切なブレーキ操作をすべき義務、安全な速度で走行すべき義務を怠つた過失がある。
(被告らの主張)
本件事故直前、林運転車両は右側車線を走行し、安岡運転車両はその前部が林運転車両の尾部とほぼ並ぶ状態で左側車線を走行していた。林運転車両は、右側車線が混んでいたため、時速約八〇キロメートルから徐々に減速し、左曲りの緩やかなカーブにさしかかつたところ、安岡運転車両はカーブに沿つて曲ることなく、直進する状態で林運転車両の左後方から左やや前方に入り込むような形で衝突してきた。被告林宏郁には右のような衝突は予見できず、過失はない。
2 損害の額
(原告らの主張)
(一) 原告有限会社安岡建設を除く原告らの損害
治療費(馬場記念病院・佐藤医院) 六万〇六〇〇円
文書料 一万円
逸失利益 二五八五万七七五〇円
慰謝料 二五〇〇万円
葬儀費用 一五〇万円
弁護士費用 三〇〇万円
(二) 原告有限会社安岡建設の損害
全損車両価格 八七万円
レツカー代及び車保管料 六万〇九二〇円
弁護士費 九万円
(被告らの主張)
否認する。
3 安岡衛の過失の有無
(被告らの主張)
前記1(被告らの主張)のとおり、本件事故は、安岡衛が前方を確認し、自車をその走行車線からみだりに外れないように走行すべき注意義務を負つていたにもかかわらず、前方を確認せず、漫然と左側車線から右側車線に進入したために起きたものである。また、安岡衛が車外へ投げ出されたのは、安岡衛がシートベルトを装着していなかつたことによるものである。
(原告らの主張)
本件事故の態様及び原因は、前記1(原告らの主張)のとおりであり、安岡衛には過失はない。
五 反訴請求における争点
1 安岡衛の過失の有無
(被告株式会社橘運送の主張)
前記四3(被告らの主張)記載のとおり。
(原告らの主張)
前記四3(原告らの主張)記載のとおり。
2 損害の額
(被告株式会社橘運送の主張)
(一) 林運転車両の修理費用 三九六万五五〇〇円
(二) 評価損 一一五万五〇〇〇円
(三) 営業損害(休車損) 一五〇万〇四二八円
(四) 弁護士費用 六六万円
3 被告林宏郁の過失の有無(過失相殺)
(原告らの主張)
前記四1(原告らの主張)記載のとおり。
(被告株式会社橘運送の主張)
前記四1(被告らの主張)記載のとおり。
第三争点に対する判断
一 本訴請求における争点1及び3について(本件事故の態様)
1 前記争いのない事実及び証拠(甲一、乙三、四1、被告林宏郁本人)によれば、次の事実が認められる。
本件事故現場は、大阪府堺市大浜西町府道高速湾岸線(以下「湾岸線」という。)湾下七・一キロポスト先路上である。制限速度は時速八〇キロメートルとされていた。本件事故前、被告林宏郁は、林運転車両(約三トンの冷凍肉を搭載中)を運転し、北から南に向かつて湾岸線の右側車線を時速約八〇キロメートルで走行していた。安岡衛は、安岡運転車両を運転し、同じく北から南に向かつて湾岸線の左側車線を時速約八〇キロメートルで走行していた。両車は、林運転車両の尾部が安岡運転車両の前部とほぼ並ぶ状態でしばらく並走していた。林運転車両は、進路前方がやや混んできたことから、徐々に減速し、本件事故現場にさしかかつたところ、安岡運転車両はカーブに沿つて曲ることなく、そのまま直進し、あたかも林運転車両に吸いよせられるような状態で林運転車両の左後方から左やや前方に入り込むような形で衝突した(右衝突時の林運転車両の位置は別紙図面<1>地点、安岡運転車両の位置は同図面<ア>地点。)。林運転車両は右衝突の衝撃で湾岸線の右側側壁に衝突し、その反動で左方向に前進し、右側車線内の同図面<3>地点でいつたん停止した。他方、安岡運転車両は、右衝突の衝撃で湾岸線の左側側壁に衝突し、その反動で右方向に向きを変えて前進し、停止していた林運転車両に再度衝突した。安岡衛は、車外に投げ出され、同図面<オ>地点の路上に倒れていた。
以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 本訴請求における争点1について判断する。右認定事実によれば、衝突時点の両車両の位置関係は安岡運転車両が林運転車両の左前方に若干出ていたことになるが、これは、前にいた林運転車両が減速中であつた反面、安岡運転車両がカーブに沿つて曲ることなくそのまま直進してきたため衝突の瞬間の位置関係が結果的にそのようになつたにすぎず、本件事故の態様としては、右側車線を走行していた林運転車両のやや後方で左側車線を走行していた安岡運転車両が左曲りの緩やかなカーブに沿つて曲ることなく林運転車両の左後方からそのまま直進したために両車の衝突が起きたものというべきである。右事故態様によれば、被告林宏郁が、前方を注視すべき義務、適切なブレーキ操作をすべき義務、安全な速度で走行すべき義務を怠つたということはできず、林運転車両の運行に関して注意を怠つた点はないものと認められる。
3 本訴請求における争点3について判断する。
右1において述べたとおり、本件事故は、右側車線を走行していた林運転車両のやや後方で左側車線を走行していた安岡運転車両が左曲りの緩やかなカーブに沿つて曲ることなく林運転車両の左後方からそのまま直進したために両車の衝突が起きたものであるから、安岡衛には、進路前方を注視し、自車をその走行車線からみだりに外れないように走行すべき注意義務に反した過失があると認められる。
二 本訴請求のまとめ
以上のとおり、被告林宏郁に過失が存したとは認められないから、原告らの本訴請求のうち、被告株式会社橘運送に対する民法七一五条に基づく請求及び被告林宏郁に対する民法七〇九条に基づく請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
また、被告林宏郁には運行に関して注意を怠つた点はなく、安岡衛に過失が存したと認められること及び前記本訴請求における争いのない事実等5、6によれば、被告株式会社橘運送は自賠法三条に基づく責任につき免責されることになるから、原告らの本訴請求のうち、被告株式会社橘運送に対する自賠法三条に基づく請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
三 反訴請求における争点1及び3について(本件事故の態様)
右一において述べたとおり、安岡衛には、進路前方を注視し、自車をその走行車線からみだりに外れないように走行すべき注意義務に反した過失があると認められ、他方、被告林宏郁には過失が存したと認めることはできない。
四 反訴請求における争点2について(損害の額)
1 林運転車両の修理費用 三九六万五五〇〇円
証拠(乙一、五)によると、林運転車両の修理費用は三九六万五五〇〇円であると認められる。
2 評価損
林運転車両につき、本件事故によつて破損した箇所を修理しても残存すべき価値の減少を認めるに足りる証拠はない。
3 営業損害(休車損)
林運転車両が運行されていれば得られたであろう利益に関する証拠としては、林運転車両の売上と経費(高速代及び油代)を整理した乙六があるが、同書証は原始的な資料ではない上、経費を網羅したものかどうかについては疑問が残り、他に右得られたであろう利益を認めるに足りる証拠はない。
4 弁護士費用 四〇万〇〇〇〇円
本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、弁護士費用としては四〇万円を相当と認める。
五 反訴請求のまとめ
右認定事実及び前記争いのない事実によれば、被告株式会社橘運送の反訴請求は、原告有限会社安岡建設に対し、金四三六万五五〇〇円、原告安岡富子に対し、金二一八万二七五〇円、原告濱野三枝子、同安岡勇治及び同勝浦美智子に対し、各自金七二万七五八三円及びこれに対する本件事故日である平成六年一二月五日から各支払済みまで民法所定の年五分の割台による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
六 結論
以上の次第で、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、被告株式会社橘運送の反訴請求は、前記五の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき、同法一九六条一項を適用し、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判官 山口浩司)
別紙図面
交通事故現場の概況(三)現場見取図