大阪地方裁判所 平成7年(ワ)9084号 判決
原告 株式会社岡田組
右代表者代表取締役 岡田英二郎
右訴訟代理人弁護士 中田祐児
被告 中村勤
被告 上田正行
被告 山田勝男
右三名訴訟代理人弁護士 島武男
同 畑良武
同 佐野正幸
同 堀井昌弘
同 上田憲
同 奥岡眞人
右三名訴訟復代理人弁護士 岡本成史
被告ら補助参加人 四国総合開発株式会社
右代表者代表取締役 中村勤
右訴訟代理人弁護士 井野口有市
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用のうち、鑑定に要した費用は被告らの負担とし、補助参加によって生じた費用はこれを二分し、その一を被告ら補助参加人の負担とし、その余は原告の負担とし、その余の費用はこれを二分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは、被告ら補助参加人(以下「補助参加人」という。)に対し、各自金二九億円及びこれに対する平成七年九月二三日から支払済みまでいずれも年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、補助参加人の株主である原告が、補助参加人の代表取締役兼取締役又は取締役であった被告らに対し、補助参加人から株式会社中村企画(以下「中村企画」という。)に別紙物件目録一ないし六二記載の各土地(ただし、枝番号を除く。以下「本件土地」という。)を代金四億八〇〇〇万円で売却したことが、利益相反行為に該当し(商法二六六条一項四号)、また、取締役としての忠実義務違反(同項五号)にも該当し、そのため補助参加人に損害を及ぼしたとして、同法二六六条一項四号及び五号並びに同条二項に基づいて、補助参加人に対してその損害を賠償するように求めた株主代表訴訟である。
一 当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠(枝番号を含む。以下同様。)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実
1 当事者等
(一) 原告は、補助参加人に対して被告らの責任を追及する訴えの提起を請求した日(平成七年七月六日)の六か月前から引き続き補助参加人の株式を保有する株主である(甲七五、七六)。
また、原告は、土木建築及びしゅんせつ工事の請負等を目的とする株式会社である。
(二) 被告中村勤(以下「被告中村」という。)は、補助参加人及び中村企画において代表取締役兼取締役の地位にあり、被告上田正行(以下「被告上田」という。)及び被告山田勝男(以下「被告山田」という。)は両社において取締役の地位にあった。
(三) 補助参加人は、昭和五九年六月二九日に設立されたゴルフ場及びゴルフ練習場の経営等を目的とする株式会社で、額面株式一株の金額は五万円、発行済株式総数は一〇〇〇株、資本の額は五〇〇〇万円であり、その株式は、中村企画が六〇〇株、安達建設株式会社(以下「安達建設」という。)が二〇〇株、原告が二〇〇株を、それぞれ保有している。
補助参加人は、昭和六三年八月一日、本店所在地を徳島市内から大阪市内にある中村企画の本店所在地に移転しており、中村企画と事務室を共同使用している。また、補助参加人の総務及び経理は、中村企画の総務・経理統括部長が担当している。
なお、原告が提訴請求をした時点における、補助参加人の最終の貸借対照表(平成六年九月三〇日現在)の負債の金額は、九八億〇八一七万〇四三六円である(甲一、八、七五、七六、検甲一、乙五二、六三、七四、証人須賀昭五)。
(四) 中村企画は、昭和五六年四月二五日に有限会社から株式会社に組織変更した、ゴルフ場の総合企画及び経営管理等を目的とする会社で、額面株式一株の金額は五〇〇円、発行済株式総数は二万株、資本の額は一〇〇〇万円であり、その株式は、被告中村が一万八五〇〇株、その妻良子が一五〇〇株、それぞれ保有している(甲二、乙五〇、五二、五七)。
2 本件売買
(一) 補助参加人は、本件土地を含むゴルフ場用地において、ゴルフ場「徳島フォレストゴルフ倶楽部」(以下「本件ゴルフ場」という。)を昭和六三年六月仮オープンし、同年九月正式にオープンした。
(二) 被告中村は、平成元年二月一日、補助参加人及び中村企画の代表取締役として、本件土地を補助参加人から中村企画に代金四億八〇〇〇万円で売却する旨の売買契約を締結し(以下「本件売買」という。)、同年三月八日、本件売買を原因とする所有権移転登記手続をした。
(三) 補助参加人は、これに先立つ平成元年一月二九日、被告らが出席して取締役会を開催し、本件土地を中村企画に代金四億八〇〇〇万円で売却するとの議案を可決している(乙一、被告中村)。
3 提訴請求
原告は、補助参加人(監査役佐々木正義)に対し、平成七年七月六日に到達した書面で、本件売買により、補助参加人に損害が生じたとして、被告らの責任を追及する損害賠償の訴えを提起するよう請求したが、補助参加人は、右請求の日から三〇日を経過するも、訴えを提起しなかった。
4 本件売買の解消
(一) 補助参加人及び中村企画は、それぞれ取締役会の承認を得た上、平成一二年一月一二日、<1>本件売買契約が錯誤により無効であることを確認する、<2>中村企画は、本件土地について、本件売買を原因としてされた所有権移転登記の抹消登記手続、又は補助参加人に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をする、<3>補助参加人は、中村企画に対し、本件売買代金四億八〇〇〇万円の返還義務があることを確認するなどの合意をし、その旨の確認書(乙八一)を交わした。そして、補助参加人及び中村企画は、右の<2>につき、同年二月九日開催の取締役会において、所有権移転登記の抹消登記手続に代えて、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をするとの決議をそれぞれした上、中村企画は、本件土地のうち、本件売買後に分筆され、交換あるいは売却して所有権移転登記手続をしていた別紙物件目録六-二及び四四-二記載の各土地を除いた本件土地(同目録六及び四四記載の各土地を除き、同目録六-一、四四-一及び四四-三記載の各土地を加える。)について、同月一〇日、補助参加人に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をした(甲八〇ないし八二、乙七九ないし一四六、一五〇)。
(二) 中村企画及び補助参加人は、平成一二年四月六日、<1>中村企画は、別紙物件目録六-二記載の土地との交換によって取得した同目録六三記載の土地について、補助参加人に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をする義務があることを確認する、<2>中村企画は、補助参加人に対し、同目録四四-二記載の土地を売却したことにより受領した三〇万三〇三六円(売買代金一六万三一四六円及び別件補償金一三万九八九〇円)並びにこれに対する受領の日から支払済みまでの利息金の支払義務があることを確認し、同月末日までに支払うなどとの合意をし、右合意内容を記載した覚書(乙一四七)を交わし、同日、それぞれ取締役会の承認を得た。そして、中村企画は、補助参加人に対し、同月一二日、三〇万三〇三六円及び利息金八万二〇九三円を支払い、同月一九日、別紙物件目録六三記載の土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をした(乙一四七、一五二ないし一五七)。
二 争点
1 本件売買が、商法二六六条一項四号(利益相反行為)及び五号(忠実義務違反)に該当する違法なものかどうか。本件売買により、補助参加人に損害が生じたかどうか。生じたとすれば、その損害額はいくらか。
(原告の主張)
(一) 本件土地は、約四二億円もの莫大な費用を投じてゴルフ場として開発が完了しており、毎年相当の売上げと収益を生むものであり、本件売買当時、少なくとも三三億八〇〇〇万円の価値があった。
(二) 本件売買当時、被告中村は、補助参加人及び中村企画の代表取締役兼取締役であり、被告上田及び同山田は、両社の取締役であった。
(三) 被告中村は、右のように高額な価値のある本件土地を、補助参加人を代表して、中村企画に対し、土地の取得価格に金利等を加えただけのわずか四億八〇〇〇万円という不当な廉価で売却し、被告上田及び同山田は、補助参加人の取締役として、取締役会において本件売買をする旨の決議に賛成した。
(四) 被告らの右行為は、補助参加人に何らの利益も与えず、中村企画に一方的に有利な利益相反取引(商法二六六条一項四号)に該当し、取締役としての忠実義務に違反する(同項五号)。
(五) 本件土地は、本件売買当時、少なくとも、その後に株式会社太陽神戸銀行(さくら銀行)及び徳島信用金庫のために設定された根抵当権の極度額合計三三億八〇〇〇万円相当額の価値があったから、本件売買により、補助参加人は、本件売買価格四億八〇〇〇万円との差額二九億円の損害を被ったものである。
(被告らの主張)
(一) 本件土地の取得費及び諸経費は、中村企画の信用のもとに調達したものであって、本件土地の実質的所有者は中村企画である。そのため、本件土地の所有権移転登記は、本来であれば「真正なる登記名義の回復」を原因とすべきところ、税理士の意見を参考に「売買」という形式をとったものである。
(二) 補助参加人は、本件ゴルフ場用地を取得するに当たり、中村企画との間で、本件ゴルフ場オープンの後、中村企画に本件土地をその取得原価に金利分等の経費相当分を上乗せした価格で売却する旨の合意を締結しており、取締役会においてもその旨承認されていた。
(三) 本件売買の代金額は、土地の取得原価四億二九三六万八二八九円に支払利息金を加算して決定したものである。ところで、本件土地は雑種地であり、平成元年当時の時価は約八億円(一平方メートル当たり二〇〇〇円)であったが、中村企画が補助参加人に対し本件売買と同時に本件土地を賃貸するという特約付きであり、補助参加人の借地権(更地価格の五〇パーセント)を考慮すれば、本件売買の代金額はむしろ高額であった。
(四) 本件売買は、本件土地の素地部分のみを対象としており、造成工事部分はその対象外である。したがって、本件売買の代金は素地部分の価格として妥当なものである。
(五) したがって、補助参加人に損害はない。
2 補助参加人に生じた損害が回復されたかどうか。
(被告らの主張)
(一) 本件土地の価格が三〇億円であったとすると、売買代金を四億八〇〇〇万円とした本件売買契約の意思表示はその要素に錯誤があって無効である。
(二) 補助参加人と中村企画は、平成一二年一月一二日、本件売買が無効であることを確認し、中村企画は、同年二月一〇日、別紙物件目録六-二及び四四-二記載の二筆の土地を除いた本件土地につき、補助参加人に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をした。そして、中村企画は、補助参加人に対し、同年四月一二日、同目録四四-二記載の土地を売却したことにより受領した三〇万三〇三六円(売買代金一六万三一四六円及び別件補償金一三万九八九〇円)並びにこれに対する受領の日から支払済みまでの利息金八万二〇九三円を支払い、同月一九日、同目録六-二記載の土地との交換によって取得した同目録六三記載の土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をした。
(三) したがって、補助参加人に生じた損害は回復されている。
(原告の主張)
(一) 仮に、本件売買契約の意思表示がその要素に錯誤があって無効であったとしても、四億四〇〇〇万円で取得した山林に少なくとも四二億八六四七万円もの巨額の工事費用を投じて完成させた本件ゴルフ場を、わずか四億八〇〇〇万円で売却しているのであるから、表意者に重大な過失がある。
(二) 本件土地には、本件売買後、株式会社太陽神戸銀行(さくら銀行)のために、債務者を中村企画とする極度額合計二四億八〇〇〇万円の根抵当権が設定されており、右被担保債権である借入金の元本がなお一八億四八七四万円残存し、中村企画には右借入金を返済する資力がないから、補助参加人には、少なくとも、右借入金元本相当額の損害が残っている。
(三) 原告が本件訴訟を提起したのは平成七年九月八日であり、平成一一年一一月一〇日には口頭弁論が終結され、平成一二年二月二三日に判決が言い渡される予定となっていたところ、被告らは、判決言渡しの直前である同月一七日付けの準備書面において、突然、本件土地について、中村企画から補助参加人に名義変更したから損害が回復された旨主張したものであって、被告らの右主張は、時機に後れて提出された攻撃防禦方法である。
第三当裁判所の判断
一 本件訴えの適法性について
1 株主は、取締役に対して株主代表訴訟を提起するにあたり、事前に会社に対し取締役の責任を追及する訴えを提起するよう請求しなければならない(商法二六七条一項、二項)。そして、同法二七五条ノ四後段は、会社が右提訴請求を受けるについては、監査役が会社を代表する旨定めているが、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律二五条は、同法第三章の適用を受ける資本の額が一億円以下の株式会社で負債の合計金額が二〇〇億円以上の会社に該当しない会社について商法二七五条ノ四後段の適用を排除しているから、右会社では同法二六一条により代表取締役が会社を代表して右提訴請求を受けるものと解される。したがって、原告の補助参加人に対する事前の提訴請求は、代表取締役に対してなされるべきであったこととなるが、前記認定のとおり、本件においては監査役に対してなされており、手続上の瑕疵が存在する。
2 しかしながら、商法二六七条一項、二項が、株主代表訴訟において事前に提訴請求を行うべきであるとしているのは、一次的に原告として取締役の責任を追及する義務を負う会社に対し、訴訟を提起することの要否を検討する機会を与えるためである。しかるに、本件においては、事前の提訴請求を受ける利益を有する会社(補助参加人[代表取締役被告中村])が、手続上の瑕疵について問題とすることなく、進んで被告らに補助参加している。このように、事前の提訴請求を受ける利益を有する会社が、いわば、被告ら取締役に対してその責任を追及する意思のないことを表明しているものと認めるべき場合には、もはや前記の手続上の瑕疵を理由に本件訴えが不適法であるとまではいえないものと解するのが相当である。
二 争点1(被告らの行為の違法性等)について
1 前記第二の一の事実に、証拠(甲一ないし三、八、一二、四七ないし五〇、五七、五九ないし六四、六六ないし七一、七四ないし七六、八〇、八一、検甲一、二、乙一ないし七、一五ないし二〇、四〇ないし四六、四八、五〇、五二、五四、五七ないし六一、六三、七四、七六ないし一五七、証人須賀昭五、被告中村、鑑定の結果)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件売買の経緯等につき、以下の事実が認められる。
(一) 原告は、昭和五九年ころ、地元の有力者から本件ゴルフ場の開発を持ちかけられたが、ゴルフ場の開発、経営について経験がなかったことから、知人に紹介された被告中村に本件ゴルフ場の開発を依頼することとし、原告自身は右開発に当たり土木建設工事を請け負うこととした。
そして、被告中村は、本件ゴルフ場の開発及び運営をするため、昭和五九年六月二九日、補助参加人を設立してその代表取締役兼取締役に就任し、また、被告上田及び同山田は取締役に就任した。補助参加人は、その後第三者割当ての方法で新株を発行し、原告は、昭和六〇年一二月一日、二〇〇株を保有する株主となった(甲七五、七六)。
(二) 補助参加人は、昭和六〇年ころから、本件土地を含む本件ゴルフ場用地の買収あるいは借地権の取得を進め、総額三億八六三五万四八四九円(現金二億六九五四万六七〇四円及び現金に代えて発行した会員権相当額一億一六八〇万八一四五円)を上回る資金を費やし、買収しかつ補助参加人名義で所有権移転登記を経由した本件土地を貸借対照表の固定資産の部に土地として計上した。計上した金額(取得原価)は昭和六三年九月三〇日現在で、四億二九三六万八二八九円である(甲六九、乙五、八四ないし一四六、鑑定の結果)。
右買収等の資金には、補助参加人が株式会社三和銀行から借り入れた資金や、昭和六〇年一二月ころから本件ゴルフ場の会員の縁故募集を始め、昭和六一年六月ころからは一般会員の募集を行い、それによって補助参加人が得た会員の入会保証金(昭和六三年九月三〇日現在で七五億九八〇〇万円)、登録料(昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの間では三億一五三〇万九五三〇円)が充てられた(甲六四、乙五、七四)。
なお、本件ゴルフ場用地は、本件土地、原所有者から補助参加人に対する所有権移転登記が経由されていない補助参加人所有地及び補助参加人の賃借地のほか、中村企画所有地によって構成されているが(乙七六、鑑定の結果)、本件土地を除くその余の土地については、その取得の経緯、資金等を明らかにするに足りる証拠は提出されていない。
(三) 補助参加人は、四国建設コンサルタント株式会社に対し、昭和六〇年ころ、本件ゴルフ場の開発許可申請等の業務を、業務委託料一七八〇万円で委託した(甲六三)。そして、補助参加人は、同年一〇月一日、右開発許可申請書を提出し、安達建設と原告は、連名で、本件ゴルフ場の建設工事完成保証書を、昭和六一年一月一〇日徳島県知事に対し、また、同月二七日同県神山町町長に対し、それぞれ提出した(甲六四、六六、六七)。さらに、補助参加人は、同年二月二二日、安達建設及び原告の連帯保証の下、徳島県及び同県神山町との間で、本件ゴルフ場の開発に関する協定を締結した(甲六八)。その結果、補助参加人は、同月二四日、本件ゴルフ場の開発許可を得ることができた(甲六四)。
(四) 本件土地は、補助参加人が買収した当時概ね山林であった。補助参加人は、昭和六一年七月一日、原告に対し、本件ゴルフ場神山コースの建設工事を、代金二一億円(後に、追加工事代金を加え二二億一一四七万円に増額変更)、工期は昭和六三年一〇月三一日までとして発注し(甲六一、七二)、また、昭和六一年七月一日、山崎建設株式会社に対し、本件ゴルフ場のコース造成工事を、代金二〇億七五〇〇万円、工期は昭和六三年四月末日までとして発注した(甲六二)。
このほか、補助参加人は、原告に対し、昭和六二年七月ころ、本件ゴルフ場の管理棟の新築その他の工事を、代金一億二五〇〇万円、工期は昭和六三年五月三一日までとして、また、クラブハウスの新築工事を代金六億円、工期は右同日までとして、それぞれ発注した(甲七〇、七一)。
昭和六一年九月二五日に起工式が行われ、工事は、遅くとも、平成元年二月一日には完了していた(甲六四)。そして、補助参加人は、本件ゴルフ場を、昭和六三年六月二六日仮オープンし、同年九月正式にオープンした。
(五) 補助参加人は、ゴルフ場を経営する会社が通常行う会計処理を行っており、貸借対照表(昭和六三年九月三〇日現在)の固定資産(総額五八億八三三四万四四六九円)の部に、土地(非償却資産)として四億二九三六万八二八九円のみを計上し、ゴルフコースの測量費用、地盛り、地ならし、芝張り等の造成費用をゴルフ場設備(非償却資産)として三二億五五二八万八〇五六円、排水施設、舗装道路(カート道路)等の造成費用は構築物(償却資産)として一一億二九〇八万〇二二六円をそれぞれ計上した。なお、補助参加人は、本件土地を中村企画に売却した後も、右を上回る金額をゴルフ場設備及び構築物として計上している(甲八、四八、五九、六〇、乙五、七、六〇、六一、七七)。
(六) 補助参加人は、昭和六三年六月二六日、株式会社阿波銀行との間で、本件土地(ただし、別紙物件目録六二記載の土地を除く。)について、債務者を補助参加人、極度額を一〇億円、被担保債権の範囲を銀行取引、手形債権及び小切手債権とする根抵当権設定契約を締結し、同年八月三日、その旨の登記手続をした(なお、中村企画は、平成八年五月二三日、同目録六三記載の土地につき、右根抵当権[ただし、極度額は七億円である。]を設定し、同日その旨の登記手続をした。)(甲五〇、八〇、八一、乙八四ないし一四六、一五四)。
また、補助参加人は、昭和六三年一二月二日、株式会社太陽神戸銀行(さくら銀行)との間で、本件土地(ただし、別紙物件目録六二記載の土地を除く。)について、債務者を補助参加人、極度額を九億円、被担保債権の範囲を銀行取引、手形債権及び小切手債権とする、根抵当権設定契約を締結し、同年一二月一三日、その旨の登記手続をした(なお、中村企画は、平成元年五月一七日、同目録六二記載の土地につき、右根抵当権を設定し、同年九月一三日その旨の登記手続をした。そして、中村企画は、平成三年六月一七日、右根抵当権の債務者を中村企画に変更し、同日その旨の登記手続をした。さらに、中村企画は、平成八年五月二三日、同目録六三記載の土地につき、右根抵当権を設定し、同日その旨の登記手続をした。)(甲五〇、八〇、八一、乙八四ないし一四六、一五四)。
(七) 補助参加人は、平成元年一月二九日、被告ら少なくとも取締役三名の出席を得て取締役会を開催し、本件土地を、貸借対照表の固定資産の部に土地として計上されていた四億二九三六万八二八九円に、本件土地の買収に充てた借入金の支払利息を加算した四億八〇〇〇万円で中村企画に売却する旨、出席取締役の全員一致をもって承認可決した(乙一)(なお、安達建設から派遣されていた取締役亡鳥海房助[平成六年一二月三日死亡]が右取締役会に出席していた否かについては、取締役会議事録[乙一]の記載内容等に照らし断定し難い。)。
被告中村は、補助参加人及び中村企画の代表取締役として、平成元年二月一日、本件売買契約を締結し(乙二)、同年三月八日、中村企画のため本件売買を原因とする所有権移転登記手続をした(甲五〇、乙八四ないし一四六)(なお、本件売買契約書[乙二]の末尾に列記されている物件の表示のうち、「徳島県名西郡神山町阿野字歯ノ辻四六三番三所在」とあるのは「同所字長谷四六三番三所在」の誤記であり、「徳島県名西郡神山町阿野字歯ノ辻一〇二番二所在雑種地五二平方メートル」は本件売買契約の対象ではなく、単なる誤記であり、また、右物件の表示中の合計面積の記載のうち「山林二一三一平方メートル」は「山林三六四九平方メートル」の、「計四〇五三八九・六六平方メートル」は「計四〇六九〇七・六六平方メートル」のそれぞれ誤記であると認められる。)。
(八) 補助参加人は、中村企画から、本件土地を、<1>使用目的・ゴルフ場、<2>期間・平成元年二月一一日から三年間、双方に異議なきときは期間をさらに三年間延長することができる、<3>保証金・五〇〇〇万円、<4>賃料・一か月当たり三一〇万円との約定で賃借した(乙三)(もっとも、土地賃貸借契約書[乙三]は、その記載内容[日付が「平成元年」とのみ記載され、また、被告中村の氏名が「中村勤務」と印字されている。]等正式に作成された文書であるか疑問が残る。)。
また、補助参加人は、平成元年三月二〇日、中村企画に、本件ゴルフ場のコース維持管理を委嘱することとし、<1>中村企画が本件ゴルフ場に人員を派遣して労力を提供する、<2>補助参加人は、中村企画に対し、管理に必要な機械、器具、資材、農薬、肥料及び消耗品を無料で提供する、<3>補助参加人は、中村企画に対し、管理料として、年額六六〇〇万円を平成元年四月より支払う旨中村企画と合意した(甲四七)。
この結果、補助参加人は、中村企画に対し、本件土地の賃料、管理料等を支払うこととなり(金額はその後増額されている。)、補助参加人からの収入が中村企画の主な売上げとなっている(甲八、一二、四九、乙一五ないし一九)。
(九) 中村企画は、平成元年二月一日、株式会社太陽神戸銀行(さくら銀行)との間で、本件土地について、債務者を中村企画、極度額を四億八〇〇〇万円、被担保債権の範囲を銀行取引、手形債権及び小切手債権とする根抵当権設定契約を締結し、同年四月一一日、その旨の登記手続をした(なお、平成八年五月二三日、別紙物件目録六三記載の土地につき、右根抵当権を設定し、同日その旨の登記手続をした。)(甲五〇、八〇、八一、乙八四ないし一四六、一五四)。
また、中村企画は、平成元年八月一〇日、株式会社太陽神戸銀行(さくら銀行)との間で、本件土地について、債務者を中村企画、極度額を二〇億円、被担保債権の範囲を銀行取引、手形債権及び小切手債権とする根抵当権設定契約を締結し、同年八月一一日、その旨の登記手続をした(なお、平成八年五月二三日、別紙物件目録六三記載の土地につき、右根抵当権を設定し、同日その旨の登記手続をした。)(甲五〇、八〇、八一、乙八四ないし一四六、一五四)。
さらに、中村企画は、平成四年七月三〇日、徳島信用金庫との間で、本件土地について、債務者を補助参加人、極度額を九億円、被担保債権の範囲を信用金庫取引、手形債権及び小切手債権とする根抵当権設定契約を締結し、同日、その旨の登記手続をした(なお、平成八年五月二三日、別紙物件目録六三記載の土地につき、右根抵当権を設定し、同日その旨の登記手続をした。)(甲五〇、八〇、八一、乙八四ないし一四六、一五四)。
なお、中村企画は、平成八年五月二三日、徳島信用金庫との間で、別紙物件目録六三記載の土地につき、債務者を補助参加人、極度額を三億円、被担保債権の範囲を信用金庫取引、手形債権及び小切手債権とする根抵当権設定契約を締結し、同日その旨の登記手続をした(乙一五四)。
(一〇) 被告中村は、本件ゴルフ場の運営の目処がついたことから、補助参加人を事業基盤として新規事業に乗り出すこととした。まず、被告中村及びその妻良子が全株式を保有する中村企画は、新規事業として、広島市安佐北区可部町において、ゴルフ場開発を計画し、その事業主体として、昭和六三年一〇月三一日、丘陵開発株式会社(額面株式一株の金額は五万円、発行済株式総数は一〇〇〇株、資本の額は五〇〇〇万円であり、その株式は、中村企画が一〇〇〇株全て保有している。)を設立したが、その資金は主として補助参加人からの借入金をもってこれに充てた(甲三、乙五〇、五四)。補助参加人は、昭和六三年九月一九日、取締役会を開催し、中村企画に対してゴルフ場開発資金を四〇億円を上限として貸し付けることを承認可決しており(乙六)、平成八年三月末日現在の貸付残額は、貸付元金三二億一五一〇万五五二二円、未収利息金六億六三九二万六六一三円、合計三八億七九〇三万二一三五円である。なお、中村企画は、その後の経済情勢の変動を考慮してゴルフ場開発を断念し、製砂事業、工業・物流団地の開発等を企画したが、事業は進んでいない(甲一五、検甲二、乙二〇、四一ないし四六、四八、五八、五九)。
(一一) 本件売買の時点(平成元年二月一日)における本件土地の正常価格は、原価法による積算価格を標準として評価することが相当であり、素地価格に、ゴルフ場の土地に化体した工事費及び金利相当分(五パーセント)を加算した三〇億五三六一万円を下回ることはないものと評価することができる。
すなわち、素地価格を算定するに当たっては、本件土地が本件ゴルフ場用地全体の一部であり(ゴルフ場用地の登記簿上の合計面積は五一万五一九六・五平方メートルであり、このうち本件土地が四〇万六九〇七・六六平方メートル、本件土地を除く中村企画からの賃借地が一万三三七五・八二平方メートル、中村企画以外からの賃借地が八万六八九四・九一平方メートル、所有権移転登記が経由されていない補助参加人所有地が八〇一八・一一平方メートルである。)、本件ゴルフ場用地は一団の土地として機能し、これを構成する個々の土地の実測面積及び境界の特定が困難であることから、一平方メートル当たり四五〇円である本件ゴルフ場用地全体の価格をまず算定し、これを本件土地とその余の本件ゴルフ場用地の面積とで比例配分することが簡明かつ妥当であり、その結果本件土地の素地価格は三億三七一四万円と算出される(なお、鑑定書別紙ゴルフ場用地のうち、中村企画からの賃借地の合計地積「四一万二九六四・四八平方メートル」は「四二万〇二八三・四八平方メートル」の、その他の賃借地の合計地積「八万八八九四・九一平方メートル」は「八万六八九四・九一平方メートル」のいずれも誤記である。また、中村企画からの賃借地のうち、「徳島県名西郡神山町阿野字歯ノ辻二一九番一所在の雑種地三万八七三〇平方メートル」は「同所二一九番所在の雑種地四万五五〇四平方メートル」の、「同所字長谷四九三番一所在の雑種地七万九七〇八平方メートル」は「同所所在の雑種地八万〇二八六平方メートル」のいずれも誤記であり、「同所四六三番四所在の雑種地三三平方メートル」は「同所四九三番四所在の雑種地三三平方メートル」の誤記であり本件土地に含まれない。)。
そして、本件土地に投下されている造成工事費等のうち、補助参加人の貸借対照表(昭和六三年九月三〇日現在)の固定資産の部に計上されているゴルフ場設備については、その内訳が、伐採焼却工事、切盛土工事、造形仕上げ、張芝工事等といったゴルフ場用地としての形成に大きく作用している費用項目等となっており、本件土地に不可分として化体しているものと認められることから、これを本件土地価格の算出基準に加えることとし、ゴルフ場設備の費用項目の合計価格(三二億五五二八万八〇五六円)を、素地価格の算出の場合と同様に、本件土地とその余の本件ゴルフ場用地の面積とで比例配分すると、本件土地に化体した工事費は二五億七一〇六万円と算出される。
右の素地価格及び本件土地に化体した工費費に金利相当分を加算することにより、本件売買の時点における本件土地の正常価格は三〇億五三六一万円を下回ることはないものと評価されるのである(鑑定の結果)。
ところで、前記(六)認定のとおり、本件売買の時点において、本件土地(ただし、別紙物件目録六二記載の土地を除く。)には、根抵当権者を株式会社阿波銀行(極度額一〇億円)及び株式会社太陽神戸銀行(さくら銀行)(極度額九億円)、債務者をいずれも補助参加人とする極度額合計一九億円の各根抵当権が設定されていた。確かに、根抵当権は、被担保債権の優先弁済を受けるために目的物の担保価値を把握することをその本質とし、競売手続により被担保債権の負担が確定して実行されるまでは、目的物の使用収益を制約するものではない。しかしながら、根抵当権が設定されている不動産の取引において売買代金を決定するに当たっては、根抵当権の極度額を控除することが一般の取扱いであると考えられることからすれば、補助参加人と中村企画との間の本件売買における本件土地の正常価格を判断するに当たっても同様の考慮を行うことが必要であるものと考えられる。
したがって、本件売買の時点における本件土地の正常価格は、最も控え目に見て、三〇億五三六一万円から右極度額一九億円を控除した一一億五三六一万円を下回ることはないものと解するのが相当である。
(一二) 本件訴訟は平成七年九月八日に提起され、平成一一年一一月一〇日に口頭弁論が終結され、判決言渡期日が平成一二年二月二三日と指定された。
被告中村は、平成一二年一月一二日、補助参加人及び中村企画の代表取締役として、<1>両社は、本件売買契約が錯誤により無効であることを確認する、<2>中村企画は、本件土地について、本件売買を原因としてされた所有権移転登記の抹消登記手続、あるいは、後順位登記権利者の同意が得られなかった場合には、補助参加人に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をする、<3>補助参加人は、中村企画に対し、本件売買代金四億八〇〇〇万円の返還義務があることを確認するなどの合意をし、その旨の確認書(乙八一)を交わした(なお、右確認書に添付されている不動産一覧表に記載されている物件の表示のうち、「徳島県名西郡神山町阿野字歯ノ辻四六三番三所在」とあるのは「同所字長谷四六三番三所在」の誤記であり、「徳島県名西郡神山町阿野字歯ノ辻一〇二番二所在雑種地五二平方メートル」は本件売買契約の対象ではなく、単なる誤記であり、また、右物件の表示中の合計面積の記載のうち「山林二一三一平方メートル」は「山林三六四九平方メートル」の、「計四〇五三八九・六六平方メートル」は「計四〇六九〇七・六六平方メートル」のそれぞれ誤記であると認められる。また、補助参加人及び中村企画は、平成一二年一月一一日、それぞれ取締役会を開催して、右合意の締結を承認する旨の決議をしている。)(乙七九ないし八一)。
そして、補助参加人及び中村企画は、平成一二年二月九日、それぞれ取締役会を開催し、後順位登記権利者のうち徳島信用金庫の同意は得ることができたものの、株式会社さくら銀行の同意を直ちに得ることが困難であることから、所有権移転登記の抹消登記手続に代えて、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をすることを確認する旨の決議をした。加えて、補助参加人は、右取締役会において、根抵当権者を株式会社さくら銀行、債務者を中村企画として本件土地に設定されていた極度額合計三三億八〇〇〇万円の根抵当権(本件売買の前である昭和六三年一二月二日に補助参加人が設定した極度額九億円の根抵当権、並びに本件売買の同日又は後である平成元年二月一日及び同年八月一〇日に中村企画が設定した極度額四億八〇〇〇万円及び二〇億円の各根抵当権)について、改めて、債務者を中村企画として設定することを承認する旨の決議をした(乙八二、八三)。
(一三) 補助参加人は、昭和六一年四月一五日、市原正義との間で、本件ゴルフ場の建設予定地内にある同人所有の徳島県名西郡神山町阿野字歯ノ辻二三一番地所在山林三〇三一平方メートルの一部(一七〇六平方メートル)と、補助参加人所有の徳島県名西郡神山町阿野字歯ノ辻二三二番地所在山林五六八九平方メートルの一部(二六八八平方メートル)とを交換をする、ただし所有権移転登記手続をしないとの不動産交換契約覚書(乙一四八)を交わした。その後、中村企画は、平成七年六月一五日、市原正義との間で、右合意の趣旨を再確認する内容の覚書(乙一四九)を交わした。そして、中村企画は、同年一一月二一日、別紙物件目録六記載の土地を同目録六-一及び六-二記載の各土地に分筆した上、平成八年一月一五日、市原正義所有で本件ゴルフ場の一部を構成し本件ゴルフ場のため必要である同目録六三記載の土地と、中村企画所有で本件ゴルフ場のため不要であった同目録六-二記載の土地とを交換し、同年五月二三日、その旨の所有権移転登記手続をした。加えて、中村企画は、同日、同目録六三記載の土地について、株式会社阿波銀行、株式会社さくら銀行及び徳島信用金庫のために、(六)(九)記載の各根抵当権を設定しその旨の登記手続をした(甲八〇、乙八九、一五四)。
また、補助参加人が、本件ゴルフ場の開発当初から、徳島県に対し、付近の道路整備を要請していたところ、平成七年ころこれが実現する運びとなった。中村企画は、平成七年四月一〇日、徳島県に対し、道路予定地に含まれていた別紙物件目録四四-二記載の土地を、同県から提示のあった代金一六万三一四六円で売却するとともに、同目録四四-一記載の土地に存在する補償物件の移転、除去及び収去等についても、同じく提示のあった補償金一三万九八九〇円でこれに応じることを約した。そして、中村企画は、同年七月二七日、同目録四四記載の土地を同目録四四-一ないし三記載の各土地に分筆した上、同年八月一日、同目録四四-二記載の土地について、徳島県に対し、売買を原因とする所有権移転登記手続をした(甲八一、乙一二八、一五〇、一五一、一五七)。
なお、右のとおり、中村企画が市原正義との間で土地を交換し、徳島県との間で道路用地の売買をした際、中村企画のために交渉等を担当したのは、補助参加人の渉外部長仁志忠義であった(乙一五七)。
(一四) 中村企画は、別紙物件目録六-二及び四四-二記載の各土地を除いた本件土地(同目録六及び四四記載の各土地を除き、同目録六-一、四四-一及び四四-三記載の各土地を加える。)について、平成一二年二月一〇日、補助参加人に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をした(甲八〇、八一、乙八四ないし一四六)。
被告らは、これをもって本件土地全てにつき補助参加人の所有名義が回復したと主張していた。しかるに、右二筆の土地につき回復していないとの指摘を受けると、中村企画及び補助参加人は、平成一二年四月六日、<1>中村企画は、別紙物件目録六-二記載の土地との交換によって取得した同目録六三記載の土地について、補助参加人に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をする義務があることを確認する、<2>中村企画は、補助参加人に対し、同目録四四-二記載の土地を売却したことにより受領した三〇万三〇三六円(売買代金一六万三一四六円及び別件補償金一三万九八九〇円)並びにこれに対する受領の日から支払済みまでの利息金の支払義務があることを確認し、同月末日までに支払うなどの合意をし、その旨の覚書(乙一四七)を交わし、同日、それぞれ取締役会の承認を得た。そして、中村企画は、補助参加人に対し、同月一二日、三〇万三〇三六円及び利息金八万二〇九三円を支払い、同月一九日、別紙物件目録六三記載の土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をした(乙一四七、一五二ないし一五六)。
2(一) 以上認定の事実関係によれば、補助参加人及び中村企画の代表取締役を兼任していた被告中村は、両社の取締役会において、両社の取締役を兼任していた被告上田及び同山田の賛成を得た上、本件ゴルフ場用地のうち、正常価格が一一億五三六一万円を下回ることはない本件土地をわずか四億八〇〇〇万円で補助参加人から中村企画に売却したものであり、補助参加人は、本件土地の低廉な代金による本件売買により、少なくとも、正常価格と売買価格との差額六億七三六一万円相当の損害を被り、その反面、中村企画は、右損害相当額の利益を得ている。したがって、被告中村は、商法二六五条一項の利益相反取引をなしたことに基づき、また、補助参加人の代表取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反したことに基づいて、損害賠償責任を負うものといわざるを得ない。そして、被告上田及び同山田は、取締役会において本件売買を承認したことにより、利益相反取引、並びに善管注意義務及び忠実義務違反について、同法二六六条二項に基づく損害賠償責任を免れないというべきである。
(二) これに対し、被告らは、補助参加人が、本件ゴルフ場用地を取得するに当たり、中村企画との間で、本件ゴルフ場オープンの後、中村企画に本件土地をその取得原価に金利分等の経費相当分を上乗せした価格で売却する旨の合意を締結していた旨主張しており、これに沿う証拠として、補助参加人と中村企画との間の覚書(乙四)、被告中村及び証人須賀昭五の陳述書(乙五七、七四)及び証言がある。
しかしながら、本件売買を承認した取締役会議事録(乙一)及び本件売買の契約書(乙二)には、右合意について記載されていないこと(被告らは、売買予約契約書、取締役会議事録等が作成されていないことを認めている。)、被告中村は、平成一〇年三月二五日に実施された本人尋問において、本件売買契約と同時に賃貸借契約を締結した旨述べるも、売買予約の合意については全く触れていないこと、被告らは、右合意の存在を、本件訴訟が提起されてから三年以上経過した後の同年一二月二五日付け準備書面で、初めて主張したことなどからすると、被告らの前記主張に沿う証拠を採用することはできず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。
(三) さらに、被告らは、本件土地は雑種地であり、平成元年当時の時価は約八億円であったが、中村企画が補助参加人に対し本件売買と同時に本件土地を賃貸するとの特約付きであり、補助参加人の借地権を考慮すれば、本件売買の代金額はむしろ高額であった、また、本件売買は、本件土地の素地部分のみを対象としており、造成工事部分はその対象外であるから、本件売買の代金額は不当でない旨主張しており、その根拠として、<1>本件ゴルフ場用地は、所有地と借地が渾然一体となっており、個々の土地について境界を確定し地積を確定することは社会経済的に不可能であり(乙七六)、それぞれが独立した所有権あるいは借地権の対象として区分できる状態になく、独立した取引の対象とはならない、<2>本件ゴルフ場用地は、全体としてゴルフ場の施設(設備)の一部としてゴルフ場に付随して取引の対象となり得るにすぎず、土地のみでは取引の対象とはならない、<3>ゴルフ場造成工事は、ゴルフ場用地を構成する個々の土地を取引の対象として付加価値を高めるものではなく、ゴルフ場施設全体としての工事であり、造成工事費用は、ゴルフ場施設(設備)として税務会計上は「建設仮勘定」として区分経理され、ゴルフ場の造成完了時には「ゴルフ場施設(設備)」として区分経理されるから、本件土地を含むゴルフ場用地は、底地としての所有権及び借地権としてのみの評価しか受けない、<4>本件売買は、いわば底地の売買であり、上土権(うわつちけん)ともいえるゴルフ場の造成工事費に相当する資産は、なお補助参加人の固定資産(ゴルフ場設備)として留保されている、<5>中村企画は、本件売買と同時に、補助参加人に対し、本件土地を、使用目的は「ゴルフ場として使用する」、期間は「本件ゴルフ場が存続する限り永遠で、解除できない」との約定で賃貸しているから中村企画が本件土地を独占的に処分できるのは、本件ゴルフ場が廃止された場合に限られ、その場合、本件土地は素地の価値しかない、<6>仮に、本件売買の対象にゴルフ場の造成工事費等に相当する資産を含めるとすると、本件土地の賃借料が高額になり、補助参加人の経営自体が危ぶまれることになるなどと主張している。
しかしながら、前記認定のとおり、本件売買の時点においては、補助参加人から本件ゴルフ場神山コースの建設工事等を受注した原告及び山崎建設株式会社は既にその工事を完了しており、補助参加人は本件ゴルフ場の営業を始めていたのであり、本件土地は、形状として、単なるゴルフ場用の土地(素地)にとどまるものではなく、地盛り、地ならし、芝張り等がされ、排水施設、舗装道路(カート道路)等を備えたゴルフ場用地として完成していたのである。確かに、補助参加人の貸借対照表上、ゴルフ場造成工事費はゴルフ場設備(非償却資産)あるいは構築物(償却資産)として計上されているけれども、これは、ゴルフ場を経営する会社における合理的な会計処理を行うという目的によるものである。本件売買の対象となった本件土地は、ゴルフ場用地として完成しゴルフ場用地として機能している土地それ自体であり、社会通念上本件土地に化体し一体となった造成工事費に相当する資産を区別して除き、素地部分のみであったものと想定することはできない。
加えて、本件ゴルフ場用地が所有地と借地とで構成され個々の土地の境界及び地積が明確でないことから、直ちに、本件土地が独立した取引の対象とならないとか、底地(素地)としての評価しか受けないとはいえない。
また、補助参加人と中村企画との間の本件土地の賃貸借期間は三年間であり、双方に異議なきときに三年間延長できるという約定は設けられているものの、解除ができないとの約定はない(乙二)。
そして、仮に、補助参加人が本件土地を適正な価格で中村企画に売却したとすれば、中村企画は、本件土地を補助参加人に賃貸するに当たり、より高額の賃料を要求することになることが予想されるけれども、高額の賃料を支払うことにより補助参加人の経営自体が危ぶまれるのであれば、補助参加人としては、本件土地を中村企画に譲渡しなければよいだけである。
(四) 以上の次第で、被告らの主張は、いずれもこれを採用することができない。
三 争点2(損害の回復の有無)について
1(一) 前記(二1(一二)ないし(一四))認定の事実関係によれば、被告中村は、補助参加人及び中村企画の各取締役会の承認を得た上、平成一二年一月一二日、補助参加人及び中村企画の代表取締役として、本件売買契約を合意解除したこと、中村企画は、別紙物件目録六-二及び四四-二記載の各土地を除いた本件土地(同目録六及び四四記載の各土地を除き、同目録六-一、四四-一及び四四-三記載の各土地を加える。)について、同年二月一〇日、補助参加人に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をしたこと、中村企画は、本件ゴルフ場のため不要であった同目録六-二記載の土地との交換によって取得し、既に本件ゴルフ場の一部となっていた同目録六三記載の土地について、同年四月一九日、補助参加人に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をしたこと、中村企画は、補助参加人が要請していた本件ゴルフ場付近の道路整備のための用地として同目録四四-二記載の土地を徳島県に売却したことにより受領した三〇万三〇三六円(売買代金一六万三一四六円及び別件補償金一三万九八九〇円)及び利息金八万二〇九三円を、同月一二日、補助参加人に対し支払ったことがそれぞれ認められる。
以上によれば、本件売買により本件土地が補助参加人から中村企画に低廉な価格で譲渡されたことによって補助参加人が被った前記損害は回復されたものと解するのが相当である。
(二) これに対し、原告は、本件土地には、本件売買後、株式会社太陽神戸銀行(さくら銀行)のために、債務者を中村企画とする極度額合計二四億八〇〇〇万円の根抵当権が設定されており、補助参加人には、少なくとも、その被担保債権である借入金の元本相当額の損害が残っている旨主張している。
確かに、前記(二1(六)、(九))認定の事実関係によれば、原告主張のとおり、中村企画は、本件売買後、本件土地について、株式会社太陽神戸銀行(さくら銀行)のために、債務者を中村企画とする極度額合計二四億八〇〇〇万円の根抵当権を設定しており、補助参加人に対し真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をした際にも、右根抵当権設定登記は抹消されていない。
しかしながら、前記認定のとおり、補助参加人の株式の六〇パーセントを中村企画が保有し、中村企画の株式の全てを被告中村とその妻良子が保有していること、被告中村が補助参加人及び中村企画の代表取締役兼取締役を兼ねており、被告上田及び同山田が両社の取締役を兼ねていたこと、中村企画の総務・経理統括部長が中村企画のみならず補助参加人の総務及び経理を担当していたこと、中村企画が市原正義との間で土地を交換し、徳島県との間で道路用地の売買をした際、中村企画のために交渉等を担当したのが補助参加人の渉外部長仁志忠義であったこと、中村企画と補助参加人が事務室を共同使用していること、被告中村は、本件ゴルフ場の運営に目処がつくや、補助参加人を事業基盤として新規事業に乗り出すこととし、中村企画が一〇〇パーセント出資する子会社を設立し、広島市安佐北区可部町においてゴルフ場開発を計画し、ついで、製砂事業等を企画したが、その際、新規事業の資金は主として補助参加人からの借入金をもってこれに充てていること、本件売買契約が合意解除された後、補助参加人が平成一二年二月九日に開催した取締役会において、原告指摘の根抵当権(担保権者をさくら銀行、債務者を中村企画とする極度額合計二四億八〇〇〇万円の根抵当権)について、改めてこれを設定することを承認する旨の決議をしていること(したがって、被告中村は、補助参加人を中村企画のグループ企業であると位置付け、補助参加人の負担の下で中村企画が利得を得ても中村グループ全体としては何の問題もないと考えており、補助参加人が中村企画とは資本の構成を異にし独立の法人格を有することに対する意識が希薄であることが窺われること)などの諸事情が認められる。
以上認定の事実関係によれば、原告指摘の根抵当権は、本件土地の所有名義が補助参加人であったか中村企画であったかに関わりなく設定されたものと推認され、したがって、本件売買と前記根抵当権の設定との間に相当因果関係があるとは認められないから、右根抵当権の負担が損害の回復を妨げるものとはいえないものというべきである。原告の主張は採用することができない。
2(一) なお、被告らは、本件売買契約の意思表示はその要素に錯誤があって無効である旨主張している。
しかしながら、前記認定のとおり、確かに、本件土地は、補助参加人の貸借対照表(昭和六三年九月三〇日現在)の固定資産の部に「土地」として四億二九三六万八二八九円の取得原価が計上されていたが、補助参加人は、買収した当時概ね山林であった本件土地を含む本件ゴルフ場用地に約四二億円の造成工事費を投じてゴルフ場として完成させていること、本件土地は、ゴルフ場用地として機能している土地それ自体であり、社会通念上本件土地に化体し一体となった右造成工事費に相当する資産を区別して除き、素地部分のみが本件売買の対象となるものと想定することはできないことがそれぞれ認められる。そして、中村企画が本件売買後本件土地について極度額合計三三億八〇〇〇万円の根抵当権を設定していることからすれば、被告中村は、本件土地が造成工事により価値を高めていることを承知していたものと推認される。
以上認定の事実関係によれば、被告中村は、補助参加人及び中村企画の代表取締役として本件売買を行うに当たり、本件売買の四億八〇〇〇万円という代金額が不当に低額であることを認識していたものと推認されるから、本件売買契約の意思表示に要素の錯誤があったものとは認められず、本件売買契約が錯誤により無効であったものとはいえない。したがって、既に判示したとおり、被告中村は、平成一二年一月一二日、補助参加人及び中村企画の代表取締役として、本件売買契約を合意解除したものと評価することが相当である。
(二) また、原告は、被告らの損害回復の主張は時機に後れて提出された攻撃防禦方法である旨主張している。
確かに、原告指摘のとおり、被告らが初めて損害回復の主張を行ったのは、口頭弁論終結後、判決言渡期日(平成一二年二月二三日)の直前である同月一七日付け準備書面においてではあるが、前判示のとおり、補助参加人及び中村企画が本件売買契約を合意解除したのは、同年一月一二日であるから、被告らの右主張は、時機に後れて提出された攻撃防禦方法であるとはいえないものというべきである。
第四結論
よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、補助参加人の損害が回復した経緯を考慮してこれを定めることとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 池田光宏 裁判官 桑原直子 裁判官 松田道別)
別紙<省略>