大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成7年(ヲ)5710号 決定 1995年7月31日

申立人

千葉隆子

申立人

島津悦子

上記両名代理人弁護士

横清貴

相手方

田端清

主文

一、頭書基本事件において、当裁判所が、平成六年三月四日、別紙物件目録1記載の不動産(以下「本件土地」という。)についてした競売開始決定を取り消す。

二、頭書基本事件において、当裁判所が、平成六年三月四日、別紙物件目録2記載の不動産(以下「本件建物」という。)についてした競売開始決定中、申立人両名の各持分に関する部分を取り消す。

三、申立人のその余の申立てを棄却する。

四、申立費用は相手方の負担とする。

理由

一、異議申立ての趣旨及び理由

別紙「執行異議申立書」記載のとおり

二、当裁判所の判断

1. 一件記録によれば次の事実を認めることができる。

(1)  頭書基本事件において、相手方は、麻田幸夫所有の本件土地・建物に対し、本件土地については昭和六三年六月二八日設定、平成三年七月二五日変更(債権の範囲)、同年一〇月一一日譲渡及び変更(債権の範囲)の極度額一億円の、本件建物については平成三年七月二五日設定、同年一〇月一一日譲渡及び変更(債権の範囲)の極度額一億円の共同根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)に基づき競売を申し立て、平成六年三月四日に競売開始決定を得、同月七日にその旨の差押登記がされた。

(2)  ところが、本件土地については相手方が本件根抵当権の譲渡を受ける平成三年一〇月一一日以前であり、本件建物については本件根抵当権が設定される昭和六三年六月二八日以前である昭和六三年七月四日に、申立人両名のために、いずれもその持分二分の一につき当裁判所のいわゆる処分禁止仮処分の決定(以下「本件仮処分」という。)がされ、翌五日その旨の登記がされた。

(3)  その後、本件仮処分の本案判決(大阪高等裁判所平成三年(ネ)第二七五四号建物明渡・所有権確認等請求控訴事件)により、申立人両名が、本件土地・建物につきそれぞれ四分の一宛の持分を有することが確定し、平成七年四月二七日に真正な登記名義の回復を原因とする持分各四分の一の所有権一部移転の登記がされた。

2. 根抵当権の設定が処分禁止仮処分にいう処分行為に当たることはいうまでもないが、根抵当権の譲渡もまたこれに当たるというべきである。

けだし、根抵当権の譲渡は、譲渡人たる根抵当権者と譲受人との合意によりされるが、根抵当権設定者の承諾がなければその効力は生じない(民法三九八条ノ一二第一項)。しかしながら一度譲渡されると、当該根抵当権は譲受人に絶対的に移転し、譲受入の債権であって当該根抵当権について定められている債権の範囲に属し、かつ当該根抵当権について定められている債務者に対するものは全て担保され、この債権は譲受け後に取得されるものも当然含まれるので、極度額で上限が画されているとはいえ、譲受け前の被担保債権額以上の債権を負担させられるおそれがあるなど、仮処分権利者に不測の損害を与え兼ねないからである。

3. そこでこれを本件についてみるに、前記事実関係のもとにおいては、本件土地については、本件根抵当権の譲渡は、少なくとも本件仮処分の効力の及ばない申立人両名の持分以外の麻田幸夫の持分については効力が生じていることになるが、本件根抵当権が本件土地の持分全部に設定され、その実行により本件土地全体が差押えの対象とされている以上、上記持分に関してのみ本件根抵当権の譲渡を認めることはできないので、結局、本件仮処分の効力により、その効力は全て否定されるといわざるをえない。

次に本件建物については、本件根抵当権の設定が本件仮処分に後れるので、本件仮処分の効力により、本件根抵当権は、申立人両名の各持分部分に関する限りその効力を有しないといわざるをえない。

そうすれば、本件不動産競売開始決定は、本件土地に関しては本件根抵当権を有効に譲り受けることができなかった担保権を有しない者からの申立てに基づくものとして、その全部の取消しを免れないし、また本件建物に関しては一部担保権の設定されていない部分に対するものが含まれているものとして、その部分の取消しを免れない。

三、以上によれば、本件異議申立ては上記説示の限度で理由があるので、民執法二〇条、民訴法八九条、九二条ただし書を適用して主文のとおり決定する。

執行異議申立書

異議申立人(所有者) 千葉隆子

異議申立人(所有者) 島津悦子

異議申立人代理人 弁護士 横清貴

御庁平成六年(ケ)第三〇八号事件の競売開始決定に対して異議を申立てる。

申立の趣旨

別紙物件目録記載不動産に対する本件各競売開始決定を取消す。

との決定を求める。

申立の理由

<1> 別紙物件目録記載の不動産に関する、申立外幸福銀行から相手方田端清に対する根抵当権の譲渡(平成三年一〇月一一日第一七三一号)及び根抵当権の変更登記(平成三年一〇月一一日第一七三二号)が異議申立人らの処分禁止の仮処分登記(昭和六三年七月五日第一〇八〇号)に後れるものであることは登記簿上明らかである。

本件各競売申立は上記根抵当権に基づくものであるが、根抵当権の譲渡及び債権の範囲の変更はいずれも、債務者(仮処分債務者)麻田幸夫の「承諾」及び「合意」という「処分行為」を前提とするものであるから処分禁止の仮処分に抵触し、仮処分債権者(所有者)である異議申立人らに対抗出来ない。

<2> 異議申立相手方田端清は本件仮処分に抵触する仮処分債務者麻田幸男の処分行為を前提として敢えて本件根抵当権の譲渡を受け、債権の範囲の変更をした上で、本来本件根抵当権に包含されていなかった既存債権を本件根抵当権に包含させ(仮処分登記後の重大な不利益行為である)、本件競売申立をしている。

従って、いずれも異議申立人らに対する関係で根抵当権の譲渡も債権の範囲の変更も対抗出来ないのである。

<3> 異議申立人らの持分は各四分の一であるから、本来この持分を基準に判定すべきところであるが、根抵当権の譲渡も債権の範囲の変更も一個の行為で分割することが出来ないので、異議申立人らに対する関係では根抵当権の譲渡及び債権の範囲の変更全部が全て無効になる。

従って、異議申立相手方田端清は別紙物件目録記載の不動産にそもそも担保権を有しないし、被担保債権も存在しないことになるので、別紙物件目録記載の不動産に関する競売開始決定は担保権がない又は被担保債権が存在しないのになされたことになるからその全部が違法である。

<4> 尚、本来仮処分に基づき上記根抵当権の譲渡・債権の範囲の変更・差押に関する各登記は抹消されるべきであり、民事執行法第一八三条四号に基づき競売手続の停止及び取消を求める予定であったが、大阪法務局枚方出張所は先例がないことを理由に申請後五か月余にわたって処分を保留した後、明確な理由も付さないままに平成七年五月二二日、不動産登記法第四九条二号に基づき異議申立人らの申立を却下した。

上記処分が処分禁止の仮処分の効力及び不動産登記法第一四六条の解釈を誤ったものであることは明らかであるので平成七年六月一六日審査請求をした。

審査請求の結果によっては、更に行政不服審査法に基づき訴訟を提起する予定である。

<5> 尚、現在異議申立相手方債権者田端清に対して、担保権不存在確認・根抵当権抹消登記手続請求訴訟を提起すべく準備中である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例