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大阪地方裁判所 平成8年(フ)2816号 決定 1999年4月30日

主文

本件異議申立てを却下する。

理由

一  申立ての要旨

異議申立人は、破産者に対して、貸付金三八三三万七〇七五円及び手数料一万〇三〇〇円(受付番号二一-一、二)を有し、同債権を担保するために、別紙物件目録<略>の不動産(以下「本件不動産」という。)に根抵当権(別除権)を有するものであるが、最終配当に際し、破産管財人に対して、遅くとも平成一一年三月六日までに別除権を放棄する旨の意思表示をしたにもかかわらず、破産管財人は、上記債権を配当に加えるべき債権としなかったのは不当・違法であるとして、破産管財人に対して配当表を更正するよう命じることを求めている。

二  当裁判所の判断

本件破産管財人が、上記債権を配当表に加えなかったのは、別除権放棄による抹消登記がされた登記簿謄本の提出がなかったことに基づくので、この点に関する取扱いの当否が問題となる。

別除権者が破産手続の最後配当を受けるためには、最後配当に関する除斥期間内に破産管財人に対しその権利を放棄する旨の意思表示をすることを要するところ(二七七条)、別除権者が別除権を放棄するには、放棄の意思表示のみならず、別除権が消滅した旨の登記(本件では根抵当権設定登記の抹消登記)が必要であると解するのが相当である。なぜならば、破産法は、担保権者に別除権者として特別な地位を認めつつも、一般債権者の犠牲の下に担保権者が必要以上に保護される結果とならないよう、その別除権の行使によって弁済を受けられない債権額についてのみ破産債権者としての権利を行使することができる旨規定している(九六条参照)ことに鑑みれば、別除権者が、破産債権者として破産手続上権利行使する場合、すなわち、別除権を放棄する場合においても、一般債権者の犠牲のもとに別除権者が必要以上に保護される結果となることのないよう、客観的に別除権を行使し得ない状態にあることが必要であると解されるからである。また、異議申立人が有する根抵当権は、登記によってその存在が公示されている以上、別除権の放棄による消滅についても、その登記を経由しなければ第三者に対抗し得ないと解されるところ、破産管財人は、別除権(根抵当権)の放棄に関し、登記を経なければ対抗し得ない「第三者」(民法一七七条)に当たると解されるから、かかる観点からも、本件における配当の要件として、別除権が消滅した旨の登記が必要になるというべきである。さらに、本件不動産は、一番抵当権者によって競売申立てがなされているところ、異議申立人は、その有する根抵当権設定登記の抹消登記を経なければ、たとえ債権届出をしなくても、競売手続における配当表上、根抵当権者として扱われ、配当を受けうる地位に立つことになり、前記九六条の趣旨を潜脱するような事態が生じかねないことに鑑みれば、本件のように既に不動産競売が申し立てられている場合においては、なおさら一層、二七七条の配当の要件として、異議申立人が不動産競売手続において根抵当権者として扱われて配当を受けうる地位に立つことのないよう、根抵当権の消滅を記載した抹消登記を要求するのが相当である(なお、異議申立人は、破産管財人が本件不動産を放棄したことは無効である旨主張するが、本件のような法人破産においても、破産財団からの放棄を認めるのが相当であるから、上記主張にも理由がない。さらに、異議申立人は、既に平成九年六月四日付「別除権受戻しに関する回答書」において、本件不動産が無価値である旨判断しており、この段階においては、未だ破産管財人が本件不動産を財団から放棄していなかった以上、破産管財人に対して別除権を放棄する旨の意思表示をなし、その別除権放棄による抹消登記手続の協力を求めることは十分可能であったというべきであるから、異議申立人に対して、権利放棄の意思表示を証するために時間的に過大な負担が強いられたものとも認め難い。)。

三  以上によると、本件異議申立ては理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

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