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大阪地方裁判所 平成8年(ヨ)1730号 決定 1997年12月12日

債権者

社団法人日本音楽著作権協会

右代表者理事

加戸守行

右代理人弁護士

北本修二

債務者

株式会社光陽

右代表者代表取締役

金燦圭

右代理人弁護士

洪性模

許功

安由美

主文

一  債務者は、大阪市住吉区長居三丁目二番二九号所在の「カラオケルームネットワーク」の別紙店内見取図一ないし三、五ないし八、一〇、一一号室において、別添カラオケ楽曲リスト及びカラオケ楽曲リスト(追録)各記載の音楽著作物を次の方法により使用してはならない。

1  カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽を再生して演奏する方法。

2  カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させて演奏する方法。

二1  債務者は、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器に対する占有を解いて、これを執行官に引渡さなければならない。

2  執行官は、右機器を保管しなければならない。

3  執行官は、右機器を債務者が使用することができないよう適当な措置を講じるとともに、右機器がその保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。

三  申立費用は債務者の負担とする。

理由

第一  事案の概要

本件は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和一四年法律第六七号)に基づき許可を受けた唯一の音楽著作権仲介団体であり、内外国の音楽著作物の著作権者からその著作権ないし支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移転を受けるなどしてこれを管理し(内国著作物についてはその著作権者からその著作権信託契約約款により、外国著作物についてはその著作権者から著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約による。以下、債権者が管理する音楽著作物を「管理著作物」という)、国内の放送事業者をはじめ、レコード、映画、出版、社交場、有線放送等の各種分野における音楽著作物の使用を許諾し、使用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である債権者が、「カラオケルーム ネットワーク」(以下「本件店舗」という)を経営している債務者に対して、債務者は本件店舗に別紙物件目録記載のカラオケ関連機器一式を備えた歌唱室を設け、各歌唱室において顧客に飲食物を提供するとともに、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器一式を操作し又は操作させて別添カラオケ楽曲リスト及び同カラオケ楽曲リスト(追録)記載の管理著作物を再生し、又は、再生した伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させて演奏する方法により使用しているところ、右のような管理著作物の使用について債権者の許諾を得ていないので著作権侵害に当たると主張して、本件店舗において別添カラオケ楽曲リスト及び同カラオケ楽曲リスト(追録)記載の管理著作物を再生し、又は、顧客に歌唱させて演奏する方法により使用することの停止、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器の執行官保管等を求めるものである。

第二  争点

一  債務者は、伴奏音楽の再生し、又は、顧客に歌唱させて演奏する方法により管理著作物を使用しているといえるか。

二  歌唱室内において伴奏音楽を再生し、又は、顧客に歌唱させて演奏する方法による使用は、管理著作物を「公に」演奏しているといえるか。

三  カラオケ歌唱室は著作権法施行令附則三条一号に当たるか。

四  通信カラオケ業者からその製作した楽曲ソフトの利用許諾を受けたことにより、伴奏音楽を再生し、又は、顧客に歌唱させて演奏する方法により管理著作物を使用することにつき、債権者の許諾を受けたことになるか。

五  本件申立は権利濫用か。

第三  当裁判所の判断

一  疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1  債務者は、平成四年八月より、その肩書地である大阪市住吉区長居三丁目二番二九号において本件店舗の営業を始め、平成六年一二月八日、次いで平成七年二月中旬、株式会社大阪有線放送社(以下「大阪有線」という)との間で、器材の購入、一端末(一室)当たり定額の楽曲使用料及び早見表代金の支払いを含めたU―kara加入契約を締結した(疎乙一、二、三、四)。

なお、U―kara加入申込書裏面の契約約款には次の記載がある。

「第四条(楽曲使用許諾料)

① 乙は甲から買い受けた商品によってカラオケの利用を開始することができますが、乙の所有するコマンダーに蓄積されたU―kara用楽曲(第六条に従って送信された新譜の楽曲を含み、以下「U―kara用楽曲」という。)の使用権は甲が有し、乙はU―kara楽曲使用許諾料を支払わずにU―kara用楽曲を使用することはできません。

② 乙は甲に対し表記記載のU―kara楽曲使用許諾料として翌月分を毎月末日までに前払いにて支払うものとします。」

「第五条(楽曲及び映像ソフトに関する特約)

乙は乙が甲から提供を受けるU―kara用楽曲及び表記記載の商品のうち動画CDに蓄積された映像ソフトについては正当な著作権者に著作権が帰属することを認識し、これを複製、改変、編集もしくはその他の行為を行ってはならないものとします。」

2  本件店舗での営業形態は以下のとおりであり、本件店舗はいわゆるカラオケボックスである。すなわち、本件店舗内には合計九室の小部屋があり、いずれも防音構造となっている(以下、当該小部屋を「カラオケ歌唱室」という)。債務者は、右1の契約に基づいて購入した器材を含め、別紙物件目録記載の通信カラオケ装置一式(受信、再生、配信装置)及びリモコン装置を本件店舗内に設置すると共に、各カラオケ歌唱室それぞれにアンプ、モニターテレビ、マイク、スピーカー等を設置している(疎甲六、七、乙六)。債務者は、本件店舗に来店した客から人数及び利用時間を聞いた上で他の客の入っていない空きのカラオケ歌唱室に案内し、機器の操作方法について客が説明を求めた場合に説明をする。なお、料金は利用時間によって決まり、退店する際に支払うこととなっている。顧客はカラオケ歌唱室内に設置されたカラオケ関連機器を自ら操作して、伴奏音楽を再生し、またモニターテレビに歌詞文字を写し出して、これに合わせて歌唱する。カラオケ歌唱室内には飲食物を注文するためのメニューが用意されており、室内のインターフォンで注文すると従業員が注文した飲食物を運んでくる。入店時に申告した利用時間の五分前になると室内のインターフォンでその旨連絡があり、客は利用時間の延長をするか、そのまま利用を終えるか選択することができる。そして、退店する際には飲食代金及び利用時間に応じて計算した室料の支払をする。従業員は注文の飲食物を運んできたときのほか、各カラオケ歌唱室内にはいないのが通常である。(疎甲七)

3  債権者は、次のとおり、債務者に対して、管理著作物利用許諾契約の締結の必要性を説明するなどした。(疎甲六)<省略>

二  争点一(債務者は、伴奏音楽を再生し、又は、顧客に歌唱させて演奏する方法により管理著作物を使用しているといえるか)及び争点二(歌唱室内において伴奏音楽を再生し、又は、顧客に歌唱させて演奏する方法により使用することは、管理著作物を「公に」演奏しているといえるか)について

1  争点一について、債権者は、音楽著作物の使用主体は自ら現に音楽著作物を実演している者に限定されない、いわゆるカラオケスナックにおける顧客の歌唱についてもカラオケスナックの店舗経営者が音楽著作物の使用主体となるというのが判例(最高裁判所第三小法廷昭和六三年三月一五日判決。民集四二巻三号一九九頁。以下「キャッツアイ事件判決」という)であり、右判例の多数意見はその理由として、「客のみが歌唱する場合でも、客は、上告人らと無関係に歌唱しているわけではなく、上告人らの従業員による歌唱の勧誘、上告人らの備えおいたカラオケテープの範囲内での選曲、上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであって、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるものであるからである。」と述べているところ、カラオケ歌唱室においては、客が伴奏音楽を選曲し、伴奏音楽を再生するためのリモコンを操作し、もっぱら客のみが歌唱しているものの、店舗経営者は①「カラオケボックス」「カラオケルーム」等の名称・標示を掲げ、不特定多数の客をカラオケ歌唱のため店内に勧誘している、②各カラオケ歌唱室毎にリモコン装置を含むカラオケ装置を設置し、客が自ら容易にカラオケ装置を操作しうるようにしており、更に、求められればカラオケ装置の操作方法を客に説明している、③各カラオケ歌唱室内で利用させるためにカラオケ用CD又はLDあるいは通信カラオケ設備を置くことで、客に対して歌詞付楽曲の伴奏音楽を収録したカラオケソフトを提供している、④各カラオケ歌唱室毎に、マイク及び店が提供する歌詞付楽曲を掲載した早見表(索引リスト)を備え置き客の利用に供している、⑤各歌唱室毎に、防音装置を施すなどして、カラオケ歌唱のための環境を作り出している、⑥店側が指定した特定の部屋において客に歌唱させている、⑦店側が許容した時間内でのみ客に歌唱をさせている、ということからみて、カラオケ歌唱室内における伴奏音楽の再生及び客の歌唱はいずれも店舗経営者の管理下に行われており、しかも店舗経営者はこれによって営業上の利益を上げることを目的としているので、キャッツアイ事件判決多数意見に照らすと、店舗経営者が管理著作物の使用主体であり、よって、本件においても店舗経営者である債務者が管理著作物を使用している主体であると主張する。

また、争点二について、債権者は、カラオケ歌唱室においては、一緒に行った者同士が交互に歌唱するのであって、自ら歌唱する目的の他、他者の歌唱を聞く目的とを合わせ有している、著作権法が演奏権等について「公に」の要件を設けたのは著作物の経済的利用として観念するには足りないような使用を除く趣旨であるところ、店舗経営者は、来店する客が右のような目的を有していることを利用して営業しているので著作物の経済的利用をしているといえ、しかも、特定の時点で特定のカラオケ歌唱室内で歌唱している客とこれを聞いている客とは相互に知り合いであっても、店舗経営者からみれば各カラオケ歌唱室内の客は次々と来退店し入れ替わる不特定の者であるから、カラオケ歌唱室内において伴奏音楽を再生し、又は顧客に歌唱させて演奏することはいずれも「公に」行われているということができる旨主張する。

これに対して、債務者は、①店舗の従業員による歌唱の勧誘行為は行われていないこと、②カラオケ装置は客が自ら操作すること、③各カラオケ歌唱室は防音構造となっており、ある部屋での歌唱は他の部屋には聞こえず、客の歌唱が一定の雰囲気を醸成し、他の客の来集を喚起するという効果がないことを挙げ、カラオケ歌唱室での歌唱行為については客の独立性が高度に確保され、歌唱のイニシアチブは客にあるというべきである、店舗経営者は歌唱の場及びその為の装置を提供する対価として客から利用料金を徴収しているにすぎないのであって、来集する不特定の客に聞かせる目的を有しているものではない旨主張する。

2  まず、伴奏音楽の再生による演奏について検討するに、本件において、右一2のとおり、債務者は各カラオケ歌唱室内に別紙物件目録記載のカラオケ関連装置一式を設置し、客が自ら容易にカラオケ装置を操作しうるようにしており、更に、求められればカラオケ装置の操作方法を説明すること、各カラオケ歌唱室内において通信カラオケ機器等カラオケ機器一式を置いて、客に対して歌詞付楽曲の伴奏音楽を収録したカラオケデータを提供し、客は提供されたデータの範囲内で選曲するという事実が認められるところ、かかる事実からすると、債務者又はその従業員がカラオケ関連装置一式を直接操作する代わりに、客に自己の好む楽曲を好きなタイミングあるいは好きな順で自ら操作することを承諾しているのであって、実質的には、債務者がカラオケ関連装置一式を操作して客に対して伴奏音楽を提供しているということができる。そして、債務者にとって本件店舗に来店する客は不特定多数であることは明らかである。

以上により、債務者は、伴奏音楽を再生して演奏している主体であって、「公に」再生して演奏しているということができる。

3  次に、顧客の歌唱による演奏について検討するに、本件店舗における料金の徴収形態は、右一2のとおり入室後のタイムチャージであって、客はその時間内にカラオケ装置を操作して歌唱しなくても料金を請求されるのであって、現に歌唱するか否かはあくまでも客自身が決定することである。しかしながら、客のみによる歌唱も店舗経営者の歌唱と同視しうるとしたキャッツアイ事件判決は、歌唱するか否かの自由が客にはないことを理由として店舗経営者を著作物の使用主体としたものではない。しかも、右一2及び審尋の全趣旨によれば、債務者は、各カラオケ歌唱室毎にマイク及び店が提供する歌詞付楽曲を掲載した早見表(索引リスト)を備え置いて客の利用に供しており、客は債務者が指定した特定のカラオケ歌唱室において、(利用時間の延長ができるとしても)債務者が許容した時間内で歌唱することが認められ、また、客が歌唱する曲目は債務者が契約した通信カラオケ業者が製作したカラオケデータ内に収録されているものに限定されているので、客は債務者と無関係に歌唱しているということはできず、その管理下に歌唱しているものということができる。

確かに、各カラオケ歌唱室は防音壁構造となっているため、カラオケ歌唱室内での歌唱音は他のカラオケ歌唱室には聞こえないし、債務者はある特定のグループが利用中の歌唱室内に別のグループの客を案内して利用させることはなく、当該グループ以外の者が立ち入ることを予定していない。このため、歌唱により醸成される雰囲気は当該カラオケ歌唱室内限りのものであって、店舗全体の雰囲気に影響を及ぼすものではない。しかしながら、いわゆるカラオケスナックは、その営業の主たる目的が飲食物の提供であって、客は飲食物の提供を受けることを目的として来店するのであって、カラオケ歌唱ができることはあくまでも付加的なものにすぎないのに対して、カラオケ歌唱室は、歌唱の場を提供すること自体を主たる営業の目的としており、むしろ飲食物の提供は付加的なものであって、客は自ら歌唱し又は知り合いの歌唱を聞くために歌唱する場所の提供を受けることを目的として来店するのである。したがって、債務者はカラオケスナックの経営者のように、カラオケ歌唱により醸成される雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益の増大させることを意図しているというよりも、むしろ客が歌唱する場及び装置を提供するということ自体により、より直接的に営業上の利益を得ているのである。

以上のとおり、客は債務者の管理の下に歌唱しているということができ、また、債務者は歌唱する場と装置を提供することにより営業上の利益を得ているのであるから、著作権法上の規律の観点からは債務者自身が歌唱により音楽著作物を使用しているのと同視するべきである。

そして、右のとおり、カラオケ歌唱室における客の歌唱についても債務者がその主体であるとする以上、債務者にとって本件店舗に来店する個々の客はいずれも不特定であることは明らかであるから、債務者は不特定の者に聞かせる目的をもって、すなわち「公に」歌唱の方法による演奏によって音楽著作物を使用しているというべきである。

4  以上のとおりであるから、争点一及び争点二について、本件店舗の経営者である債務者は、公に、伴奏音楽を再生し、又は、顧客に歌唱させて演奏する方法により管理著作物を使用しているということができる。

三  争点三(カラオケ歌唱室は著作権法施行令附則三条一号に当たるか)について

1  債権者は、カラオケ歌唱室内で再生して演奏される伴奏音楽は債権者の承諾に基づき大阪有線が演奏を録音したものであり、適法に録音された音楽著作物を再生することは「放送又は有線送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものを除き」当面の間自由に行いうる(著作権法附則第一四条)が、カラオケ歌唱室は「喫茶店その他客に飲食をさせる営業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、又は客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの」(著作権法施行令附則第三条一号)に当たるので、カラオケ歌唱室内で伴奏音楽を再生して演奏するに際しては債権者の承諾を得ない限り著作権を侵害する旨主張する。

2 本件店舗は、前記一2のとおり付加的とはいえ、飲食物を提供していることは明らかであるから「喫茶店その他客に飲食をさせる営業」に当たる。

カラオケ歌唱室内における伴奏音楽の再生は歌唱を行うためになされるのであって、伴奏音楽自体を聞くことを主たる目的とするものではない。しかしながら、そもそも「鑑賞」とは「芸術作品を理解し、味わうこと」(広辞苑第四版)をいい、言葉の意味からしてその形式、方法や主たる目的であるかどうかを特に限定していないので、伴奏音楽であることから直ちに「鑑賞」の対象とならないとまでいうことはできない。歌唱するにあたって必ずしも伴奏音楽を要しないことからすると、伴奏音楽に合わせて歌唱すること又は伴奏音楽に合わせた歌唱を聴くということは、伴奏音楽をも芸術作品として理解し、味わっているというべきである。したがって、歌唱している客本人はもちろんのこと、同じカラオケ歌唱室内にいる者も伴奏音楽を鑑賞しているというべきである。そして、前記一2のとおり、各カラオケ歌唱室は防音構造となっており、室内にはカラオケ関連機器一式が設置されているところ、これらの装置を利用して客は伴奏音楽を再生して演奏し、しかも、カラオケ歌唱室が防音構造であるため他の客に気兼ねすることなく、再生して演奏する伴奏音楽に合わせて歌唱することができるのであるから、債務者は「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けている」ということができる。のみならず、債務者は本件店舗に「カラオケルーム ネットワーク」の名称を付して、カラオケ歌唱室の営業であることを標榜しているから、「客に音楽を鑑賞させることを内容とする旨を広告し」ているということもできる。

3  したがって、カラオケ歌唱室は著作権法施行令附則三条一号に当たる。

四  争点四(通信カラオケ業者からその製作した楽曲ソフトの利用許諾を受けたことにより、伴奏音楽を再生し、又は、顧客に歌唱させて演奏する方法により管理著作物を使用することにつき、債権者の許諾を受けたことになるか)について

1  債務者は、大阪有線との間で、平成六年一二月八日、平成七年二月中旬ころ、U―kara通信カラオケシステムに関して楽曲使用許諾契約を締結し、現在まで、大阪有線に対して一端末(一室)当たり一定額の楽曲使用料を支払って同社の承諾を受けU―kara楽曲データを利用している、大阪有線がその製作した楽曲データの使用を許諾したことにより、はじめて債務者は楽曲データを使用することができるのであり、両者は法的にも事実的にも不可分一体である、債権者が大阪有線に対してU―karaの楽曲データを製作するに当たって管理著作物を使用することの承諾をした際、大阪有線がその製作した楽曲データをカラオケ歌唱室を有する店舗に送信し、送信を受けた店舗において再生が行われ、これに合わせて歌唱が行われることは明白であったのであるから、債権者はそのような再生を行うこと、更には再生された伴奏音楽に合わせて歌唱が行われること自体も承諾したことになるので、右事業の相手方である債務者の楽曲データ利用に伴う管理著作物の使用も適法となる、したがって、本件においても債務者は大阪有線からその製作した楽曲データの利用許諾を受けたことにより、伴奏音楽を再生し、又は顧客に歌唱させて演奏する方法により管理著作物を使用することについて、債権者の許諾を受けたことになる旨主張する。

2  確かに、大阪有線が承諾しない限りその製作した楽曲データを利用することはできないのであるから、これにより伴奏音楽を再生し、又は、伴奏音楽に合わせて顧客が歌唱することはありえないという意味で両者は密接に関連しているし、大阪有線がその製作した楽曲データをカラオケ歌唱室を有する店舗に送信し、送信先の店舗において伴奏音楽が再生され、再生された伴奏音楽に合わせて顧客が歌唱することは当然に予想される。しかしながら、楽曲データの製作行為と製作された楽曲データの再生行為とは明らかに性質の異なる行為であるから、右のような事情があるからといって、債権者が大阪有線に対して楽曲データの製作について与えた承諾をもって直ちに再生行為まで承諾したということは困難である。疎甲第一一号証によっても、債権者が大阪有線に対して承諾したのは、管理著作物を使用した楽曲データの製作及びカラオケ歌唱室を有する店舗への送信行為であって、個々の送信先店舗における伴奏音楽を再生して演奏すること等までも承諾したとまで認めることはできない。

債務者の主張は、独自の見解に基づくものであって、採用できない。

五  争点五(本件申立は権利濫用か)について

1  債務者は、U―karaの楽曲データはその製作をした大阪有線が所有権を有していること、楽曲データを蓄積しているコマンダーや動画CDプレーヤーのメンテナンスを行っているのは大阪有線であるとして、U―karaシステムを利用して楽曲データの送信先店舗で伴奏音楽を再生し、歌唱する事業の主体は大阪有線であり、当該システム利用により管理著作物を使用する最終責任は大阪有線にあるところ、債権者は「業務用通信カラオケの受信先店舗等における著作物の著作権侵害」の問題として社団法人音楽電子事業協会(AMEI)及びその会員である大阪有線と交渉中であり、大阪有線に対する管理著作物侵害に対する法的措置を猶予しておきながら、大阪有線との契約に基づきその製作した楽曲データを使用している債務者の行為に対して、著作権侵害を理由に差止等の法的措置を求めるのは権利の濫用に他ならず、到底許されるものではない旨主張する。

2  しかしながら、本件全証拠によっても、債務者と大阪有線とは楽曲データの使用契約を締結しているほか何らの関係も認められないし、大阪有線は楽曲データ使用契約に基づき一端末(一室)当たり定額の使用料の支払いを受けているにすぎないのに対して、債務者は各カラオケ歌唱室の使用料の他、飲食物を提供することによりその対価を得ていること、売上げの多寡は利用客数に影響されるところ、利用客の確保は宣伝広告やどのようなサービスを提供するか等店舗の経営者である債務者の経営努力に負うところが大きいことからすると、U―karaシステムを利用して楽曲データの送信先店舗で伴奏音楽を再生し、又は、再生した伴奏音楽合わせて顧客が歌唱して演奏する方法により管理著作物を使用している責任を債務者が免れるものではないことは明らかであるから、右1の債務者の主張はその前提からして採用することができない。

六  結論

以上のとおりであるから、本件において、債権者主張の被保全権利を認めることができ、かつ、審尋の全趣旨によれば、保全の必要性も認められることから、主文のとおり決定する。

(裁判官小出啓子)

別紙<省略>

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