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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)131号 判決 1998年8月31日

原告

上野義和

右訴訟代理人弁護士

村松昭夫

寺沢達夫

被告

インチケープマーケティングジャパン株式会社

右代表者代表取締役

成田攻

右訴訟代理人弁護士

竹林節治

畑守人

中川克己

松下守男

福島正

右訴訟復代理人弁護士

竹林竜太郎

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告と原告との間に雇用契約関係が存在することを確認する。

2  被告は、原告に対し、平成七年六月七日から毎月二五日限り二六万四〇〇九円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告は、各種物品の売買及び輸出入業並びに機械類の修理及び据付け等を目的とする株式会社である。被告における右事業は、元々はドッドウェル・エンド・コムパニー・リミテッド(以下「ドッドウェル社」という。)として展開されていた事業が、平成七年三月一日、分離再編されたものである。

(二) 原告は、平成三年五月にドッドウェル社に入社し(当時契約社員。平成五年一月から正社員。)、右会社が被告に分離再編された後も、被告のインダストリアル事業のなかのドミノインクジェット部(コーディング部)の大阪サービスセンター(以下「サービスセンター」という。)に勤務し、インクジェットプリンタ(高速・無接触方式印字機)の修理、点検、取扱説明、据付け、立上げ等のサービスエンジニアの業務を担当していた。

2  被告による解雇

しかるに、被告は、原告を平成七年六月七日付で解雇したとして、原告の従業員たる地位を否認し、同日より後の賃金を支払わない。

3  原告の賃金

被告における原告の賃金は、毎月二〇日締め、二五日支払であり、被告による解雇前三か月の平均額は、二六万四〇〇九円である。

4  請求

よって、原告は、被告に対し、雇用契約に基づき、被告と原告との間に雇用契約関係が存在することの確認及び平成七年六月七日から毎月二五日限り賃金二六万四〇〇九円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の各事実は全て認める。

三  抗弁

1  解雇の意思表示

被告は、原告に対し、平成七年四月二六日付書面で、同年六月三〇日付で退職するよう勧告した。原告が右勧告を拒否したため、被告は、原告に対し、平成七年五月二日、被告就業規則三九条二号に該当するとして、同年六月七日付で解雇するとの意思表示をし、右意思表示は同年五月二日ころ原告に到達した。

2  解雇事由

(一) JA兵庫の件

原告は、平成五年三月一日、被告ドミノインクジェット部大阪営業部営業課長林佳男(以下「林」という。)とともに、インクジェットプリンタの据付け、立上げのために、兵庫県経済農業協同組合連合会(以下「JA兵庫」という。)加西精米工場を訪問した。その際、林は、同工場の最高責任者であり、インクジェットプリンタの同工場への導入を決定した田中工場長と面識があったので、原告を田中工場長に引き合わせ、原告に「名刺を出して挨拶をしてください。」と言ったところ、原告はズボンのポケットに左手を突っ込んだまま、会釈をするでもなく、突っ立ったまま平然と「名刺がない。」と言い、申し訳なさそうな素振りも見せないため、林はひどくその場の対応に困った。

(二) 三王ハウジングの件

原告は、平成五年六月二一日ころ、被告がその販売代理店であるマークテック株式会社(以下「マークテック」という。)から、宮川工機株式会社(以下「宮川工機」という。)を通して、三王ハウジング株式会社(以下「三王ハウジング」という。)に納入したインクジェットプリンタの修理のため三王ハウジングを訪れたが、その際、「おたくの取扱いが悪い。こんな取扱い方をしたら壊れても当たり前だ。」などときつい調子で顧客を非難し、そのくせ自らは、「(修理に必要な)パーツを持っていない。」「こんなのは直せない。」などと言って、修理をしないで帰ってしまうことが再三あった。そのため、三王ハウジングがひどく立腹し、平成五年六月二一日の修理の直後、宮川工機から被告名古屋営業所所長の坂口に対し、「今来ているおたくのサービスマンは、あれは何だ。」というきつい苦情があった。そこで、坂口は、新田に連絡し、新田から原告に対して厳重な注意と指導がなされた。

また、平成六年一月一〇日には、坂口が、マークテックの部長安倍と共に、宮川工機の営業課長である林に呼びつけられ、「三王ハウジングから、据付けの担当者(原告)の対応が悪く、二度とドッドウェルの製品を使いたくないとのクレームがあったので、しかるべく対処して欲しい。」との依頼を受け、結局、被告は原告を担当から外した。

(三) 積水ハウス兵庫の件

原告は、平成六年三月三一日、被告の顧客である積水ハウス株式会社(以下「積水ハウス」という。)兵庫工場にインクジェットプリンタのノズル詰まりの修理(インクの交換)に赴き、同工場内で、プリンタのタンク内の古いインクを抜き取り、残留しているインクを除去するためタンクを真水で洗浄し、その後、持参した新しいインクをタンク内に注入するなどして右修理を終えたが、その際、洗浄後のインクを含んだ廃液約一〇リットルを同工場の排水溝に積水ハウスに無断で捨てた。

平成六年四月一日、積水ハウスから、被告に対し、「排水溝に一五〇メートルに渡ってインクが大量に流れている。場合によっては弁償を要求する。」という内容の苦情の電話があったので、林が、同日午前八時四〇分ころ、サービスセンターにいる原告に電話し、早急に対処するよう指示したところ、原告は、「他の仕事があって行けない。」「そんなに言うのなら、林さんが自分で行ってくれ。」等と返答して指示に従わなかった。

その後も積水ハウスから被告に対して対処を求める苦情があり、林が強く指示したので、原告はようやく同工場に赴き、積水ハウスの担当者中川とともに排水溝を一五〇メートルに渡って清掃し、回収した廃液をドラム缶に入れ、積水ハウスにおいて処理してもらったのである。なお、この件について、サービスセンター課長の新田陽介(以下「新田」という。)が同工場に駆けつけ、積水ハウスに対して謝罪することになった。

(四) 関西急送の件

被告は、平成四年八月、株式会社ダイフク(以下「ダイフク」という。)にインクジェットプリンタ二台を納入し、ダイフクは同年一〇月にシステムの一部として同社の顧客である関西急送株式会社(以下「関西急送」という。)に販売し、据付けが完了した。

原告は、平成六年五月三日、二四日の両日、右インクジェットプリンタの印字濃度が変動するというトラブルの修理のため関西急送に赴いたが、その際の原告の態度につき、同月二五、六日ころ、ダイフクの子会社である大福工営株式会社に苦情があり、同社西脇出張所所長の村田からダイフクの製造管理課の伊賀上氏を通じ、被告名古屋営業所に、原告を二度と関西急送に行かせないようクレームが入った。

(五) 三木ミノルタの件

原告は、平成六年五月一九日、顧客である三木ミノルタ工業株式会社(以下「三木ミノルタ」という。)の担当者三方から、プリンタのノズル詰まりの修理を依頼する電話を受けたが、三方に対し、「それでも講習を受けたのですか。自分でできないんですか。」等と、サービスマンとしては考えがたい非常識な応対をし、右依頼を拒絶した。

その後、三木ミノルタでは、自社で修理を試みたようであるが、上手くいかず、結局、被告に対して再度の依頼があり、同月二〇日、原告が三木ミノルタに赴いた。修理に際し、ノズルのOリングが無かったため、原告は新しいOリングを装着したが、右Oリングについては、三木ミノルタが自社で修理(ノズルの洗浄)をする際に、誤って紛失したものと判断し、右プリンタの保証期間内ではあったが、ユーザーの責に帰すべき故障であるとして、出張費用の請求をするよう被告に報告した。被告は、右報告に基づき、三木ミノルタに、八万二一七六円(消費税別)を請求した。

三木ミノルタの係長中川から、林に対し、「お宅のサービスマンは、修理を頼んだときに、『それでも講習を受けたのですか。自分でできないんですか。』等と、きつい言い方をした。客に対してもうちょっと言い方があるのではないのか。あそこまで言われたら自分で修理せざるを得ない。そのために保証期間内なのに出張費用を請求されることになったが、いいですよ、いくらでも払いますよ。そのかわり、もうお宅とは一切取引はしません。」等と苦情があった。林は驚いて、三木ミノルタに赴き、中川らに丁重に謝罪したが、その理解は得られず、三木ミノルタとの取引はその後無くなった。

(六) ニッサン石鹸の件

平成六年七月一三日、ニッサン石鹸株式会社(以下「ニッサン石鹸」という。)兵庫工場へのインクジェットプリンタの納入が予定されており、原告は、その前日、新田から、本来の担当である福原に代わって右機器の納入に行き、その際に顧客の依頼があればこれに従うように指示を受けた。しかるに、原告は、ニッサン石鹸から納入時の立上げと監視立会を依頼されたにもかかわらず、これを拒絶した。そのため、被告は、ニッサン石鹸兵庫工場の課長川内から、抗議のファックスや電話を受けた。

林が原告に注意したところ、原告は、「納品とは何か、立ち上げとは何か、その定義を言ってくれ。」「納品の要請があったので、納品に行っただけのことです。」と食ってかかり、全く反省の色がなかった。林が「君は誰に機械を渡したのか。」と追及すると、原告は、「名前を聞いていない。」「担当者が何か言っていたが、よく分からないのでそのまま置いて帰った。」等と言うばかりであった。

(七) スドージャムの件

原告は、平成六年七月一五日、林から、株式会社スドージャム(以下「スドージャム」という。)三木工場の印字サンプルの作製を指示されたところ、同社から預かったサンプルの瓶の一部(二本)を紛失した上、林の指示内容と異なる印字をした。

林が印字が異なることを指摘すると、原告は「何故ダメなのですか。別に構わないじゃないですか。」等と述べて、最終的に林の強い指示に従って作り直したが、反省の態度がなかった。

(八) モトヤの件

原告は、平成五年八月二〇日、モトヤ株式会社(以下「モトヤ」という。)から預かったサンプル二枚のうちの一枚を不注意で落として紛失した。

そのうえ、原告は、右紛失について言い訳をし、挙げ句の果てには「依頼書の書き方が悪い。書式そのものが悪い。だからサンプルが無くなるのだ。」等と責任転嫁の態度に終始し、何ら反省の態度を示さない。また、原告は、自らの弁明を正当化するためか、被告社内の合議で決められた依頼書の書式を無視し、自ら書式を作成し、営業マンに対し、自らの書式による依頼書でなければサンプルを作製しない旨申し向けた。

(九) トサカンの件

原告は、平成六年八月二三日、株式会社トサカン(以下「トサカン」という。)からの依頼により、プリンタ修理のため同社に赴いたが、その際、説明する相手の知識、能力に応じた説明をしなかった。そのため、同年九月五日、被告ドミノインクジェット部大阪営業部部長渡邉隆春(以下「渡邉」という。)が、右プリンタを被告から仕入れてトサカンに売却した極東エンジニアリング株式会社(以下「極東エンジニアリング」という。)の技術部長富永から、トサカンでの原告による取扱い説明が不適切であるとの苦情を受けた。

(一〇) オリオンビールの件

原告は、平成六年一〇月二一日ころ、渡邉から二回にわたり、オリオンビールのサンプル作製の指示を受けたが、指示と異なる印字によるサンプルを作った。一回目は、ラベル印字ドット数七×一〇(太字)のサンプル作製を指示したのに、原告は、一部のサンプルにつき、七×五(細字)のものを作製して提出した。また、二回目は、文字間スペースをシングルとする指示を受けたのに、ダブルと間違えて作製した。

(一一) 日本電装の件

被告名古屋営業所から印字サンプル作製の依頼があり、これを原告が作製したが、その出来が非常に悪く、日本電装株式会社(以下「日本電装」という。)から、「こんなことでは注文は無理です。」と、断られた。名古屋営業所長の坂口が、何とかもう一度だけチャンスを欲しいと日本電装に頼み込み、原告が再びサンプルを作製したが、その出来が初回のものより更に悪く、名古屋営業所の番がわざわざ大阪まで出向いて再び作製したが、結局、時すでに遅く、日本電装からの受注は得られなかった。作製の難しいサンプルであったとしても、最初のサンプル以上のものを作るべく努力するのが当然であるのに、最初のものより出来の悪いものを平然と提出したのは、原告に何とか受注に結びつけようと努力する姿勢が欠如していることの現れである。

(一二) 日本精化の件

原告は、日本精化株式会社(以下「日本精化」という。)の印字サンプルを作製したが、競争他社のものに明らかに劣っていたため、新田と渡邉が改めて印字サンプルを作製し直した。原告は、出来の悪いサンプルを提出しながら、何ら反省する態度がない。

(一三) 被告による厳重注意とそれに対する原告の反応

原告は、(一)ないし(一二)のとおり、平成六年以前だけをとっても、顧客と数々のトラブルを引き起こし、被告の社内でも上司の指示に従わない態度をとった。被告の粘り強い指導にもかかわらず、自己の勤務のあり方についても問題意識を抱くこともなかったため、被告はたまりかねて、平成六年一一月二八日、ドミノインクジェット部部長筒井紘一(以下「筒井」という。)と渡邉において、一連のトラブル等に関して原告から事情を聴取した上、厳しく反省と自覚を促し、勤務態度が改善されない場合は、被告としても厳しい対応をとらざるを得ないことを原告に警告した。

これに対し、原告は、同年一二月一日、筒井宛に書面を提出したが、その中で、(三)については、「積水ハウスの苦情に対して一番最初に対応したのも私である、私のおかげで新規のマシーンの受注が成った」と述べ、そもそも廃液の垂れ流し自体原告の不始末であるから、原告自身が対応するのはあまりにも当然のことであり、受注についても、林などの謝罪や値引き等により、ようやく漕ぎ着けたものであるにもかかわらず、原告の手柄のように述べ、(五)については、三木ミノルタとの間のトラブルの原因は、林の無理な売り込みであるとして責任を転嫁し、(六)については、「林さんの仕事の進め方は、サービスに必要以上の負担を負わすものであり、それが今回の事件の発端になっているものと推定されます。」等と述べ、(七)については、「迅速にサンプルを作り直し林さんの感謝も得ている。」と述べ、(九)については、取扱説明が不十分であったことを認めようとせず、自らがサービスマンにおける職務能力の最低ランクに位置するグレードIにあることから、「この問題でグレードIになにが問えるでしょう。」、また、トサカンで夜間に作業したことを指して、「感謝されこそすれ、非難されることはない。」等と述べ、(一〇)については、自己の非を認めようとせず、「単に渡邉部長のサンプルを見る目が違っていた(RDの赤は粘度が高く太字に見えなかった)だけです。」等と強弁し、(一一)については、「上野の責任で逸注に至っているは明確に否定されている(それほど出しにくいデンソーのロゴであった。)」と、根拠のない弁明をするなど、被告が数々のトラブルを指摘して厳重に注意したのに対し、何ら反省の態度を示すことなく開き直り、不合理な弁明、責任転嫁に終始する態度をとった。

(一四) 極東エンジニアリング問合せの件

原告は、平成七年一月ころ、極東エンジニアリングの社長である衣笠大吉(以下「衣笠」という。)から、同社の取引先である岡山ミネラルウォーターとモスビヴァレッジの件について、電話で問合わせを受けたが、「モスビヴァレッジの件は東京でやっているので私は一切知りません。」と述べて何の対応もしなかった。そのため、渡邉は、平成七年一月二四日、衣笠から苦情を申し立てられた。

右電話応対について、新田が原告に注意したところ、注意されたことに不服そうな態度であり、何ら反省の様子がなかった。

(一五) 神郷カントリーの件

原告は、平成七年三月一三日、一四日の両日、インクジェットプリンタの納入先である神郷カントリーに赴き、その工場責任者らに取扱説明を行ったが、その際、「今言ったでしょう。何遍同じことをいえば分かるのか。」等と、厳しい調子で担当者を責めるような説明を行った。この説明には、極東エンジニアリングの衣笠と神郷カントリーの岡崎社長(以下「岡崎」という。)が居合わせていた。

早速、衣笠が林に右原告の担当者を馬鹿にしたような説明に対して厳重な抗議を申し入れた。驚いた林は、神郷カントリーに赴き、岡崎、衣笠両社長に謝罪したが、両社長から、「二度とあの人を出さないでくれ。」と言われた。また、衣笠による抗議は渡邉にもなされたが、その際、衣笠は、福原に担当を変えるように指名をしてきた。

林が、原告に注意したところ、原告は、「私はちゃんと説明しました。」の一点張りで、全く自分の非を認めようとはしなかった。新田による注意に対しても同様であった。

平成七年四月七日付で、極東エンジニアリングから被告に対し、抗議文がファックスで送付された。右文書において、同社は、「納入時における取扱説明においても、一般に今まで使用した事のない客先に対する説明としては充分とは言えず、専門的な経験のある、貴社技術者のいわば一人よがりの説明に終始する場合が多く、客先不満も一再ならずあり」と、従前からの原告のたび重なる不始末を指摘した上で、「とりわけ三月一三日、一四日の神郷カントリーに於ける説明に至っては、客先社長、取扱者の激怒をかい、設置者としての当社の責任も云々されるに至り、誠に困惑した次第で」あると述べている。

3  就業規則該当性

被告の就業規則三九条二号には、勤務成績が著しく不良で、改善の見込みがないと会社が認めたときは、従業員を解雇しうるとの規定がある。

原告に2の(一)ないし(一二)の各所為があり、平成六年一一月には、被告の筒井、渡邉において厳しく反省を促したのに、2(一三)記載のように反省の態度がなく、そのうえ、右警告後の平成七年三月にいたり、2(一四)、(一五)のとおり、原告は再び顧客との間でトラブルを引き起こした。これらは、被告就業規則三九条二号の「勤務成績が著しく不良で、改善の見込みがないと会社が認めたとき」に該当する。

四  抗弁に対する認否

1  解除(ママ)の意思表示

抗弁1の事実は認める。

2  解雇事由

(一) 抗弁2(一)の事実のうち、原告が平成五年三月一日、林とともにJA兵庫加西精米工場を訪問したこと、その際、林から工場長の田中を紹介されたこと、そのとき原告が名刺を切らせていたことは認めるが、その余は否認する。原告は、「名刺を切らせていて申し訳ありません。サービスを担当している上野と申します。よろしくお願い致します。」と田中工場長に挨拶した。

(二) 抗弁2(二)の事実のうち、原告が三王ハウジングの担当を外されたことは認め、その余の事実は否認する。

原告が三王ハウジングに赴いたのは、平成四年六月の据付けと、平成五年六月修理の二回だけである。原告は、クレームを言われる対応はしていない。

(三) 抗弁2(三)の事実のうち、原告が、平成六年三月三一日、顧客である積水ハウス兵庫工場にインクジェットプリンタのノズル詰まりの修理(インクの交換)に赴き、同工場内で、プリンタのタンク内の古いインクを抜き取り、残留しているインクを除去するためタンクを真水で洗浄し、その後、持参した新しいインクをタンク内に注入するなどして右修理を終えたが、その際、洗浄後のインクを含んだ廃液を同工場の排水溝に積水ハウスに無断で捨てたこと、積水ハウスから、被告に対し、同年四月一日、同工場の排水溝にインクが大量に浮遊していると指摘して苦情の電話があったこと、原告が兵庫工場に赴き、積水ハウスの担当者中川とともに排水溝を一五〇メートルに渡って清掃し、回収した廃液をドラム缶に入れ、積水ハウスにおいて処理してもらったこと、右廃液の件について、新田が同日積水ハウス兵庫工場に駆けつけて謝罪したこと、原告が積水ハウス兵庫工場の担当であることは認め、その余の事実は否認する。

インクの交換作業を終えるまでには、古いインクの入っていた専用ポリタンクを三回ほど繰り返して洗浄する必要があり、廃液は三〇リットルくらいにもなるので、この廃液を持ち帰るためには大きな容器が必要となるが、当時、被告にはそのような容器はなかった。したがって、サービスマンの多くは、廃液の量が多くなった場合は、顧客の担当者と相談して現場で処理していたというのが実情であり、被告の指導もそのような内容であった。また、作業の前日、原告は、新田から廃液は捨てて来いといわれていた。そのため、前記の洗浄が終わったとき、積水ハウスの担当者がいなかったこともあって排水溝に流したのである。本件で原告が交換したインクは水性インクで毒性はなく、無害である。

そして、平成六年四月一日の原告による事後処理は適切であった。すなわち、原告は、同日午前八時三〇分ころサービスセンターに出勤し、事務所内にあるFAXの書面を見て積水ハウスから苦情が来ていることを知り、すぐに積水ハウスの担当者中川から電話も入ったため、午前八時五〇分ころ、自動車で出発して、午前一〇時四〇分ころ、積水ハウス兵庫工場に到着した。そして、すぐに排水溝の掃除に入った。サービスセンターを出るまでに林から指示を受けたことはなく、従って、その指示を拒絶したこともない。

(四) 抗弁2(四)の事実は否認する。被告の主張はクレームの時期、原告が据付けをしたかどうかに関して著しく変遷しており、全くの事実無根である。

(五) 抗弁2(五)の事実のうち、原告が、平成六年五月二〇日、プリンタ修理のために三木ミノルタに赴いたこと、修理に際し、ノズルのOリングが無かったため、原告が新しいOリングを装着したこと、原告が右プリンタの保証期間内ではあったがユーザーの責に帰すべき故障であるとして三木ミノルタに対して出張費用を請求するよう被告に報告したことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告は、同月一九日に三方と電話での応対はしたことはなく、従って修理を求められてこれを拒絶したことはない。

被告と三木ミノルタとの間でその後取引がないのは三木ミノルタの需要がなかったからに過ぎない。

(六) 抗弁2(六)の事実のうち、平成六年七月一三日、ニッサン石鹸兵庫工場へのインクジェットプリンタの納入が予定されており、前日、新田から原告に対し、本来の担当である福原に代わって納入に行き、その際、顧客の依頼があればこれに従うように指示を受けたこと、原告が林に対し、「納品とは何か、立ち上げとは何か、その定義を言ってくれ。」「納品の要請があったので、納品に行っただけのことです。」と言ったことは認め、その余の事実は否認する。

原告は、元々の担当であった福原からは納品だけしか依頼されておらず、福原は、立会はニッサン石鹸から頼まれても必要ないと言っていた。

当日は、プリンタの納入をしたが、接続やチェックなども行い、いつでも使用できるようにしてきたし、ニッサン石鹸の担当者からも、立上げと監視の立会の依頼は全くなかった。

林は原告に事情を聞いただけであり、注意というものではなかった。これは電話でのやりとりであったが、原告が右のような発言をしたのは、原告が事実を正確に伝えても林がそれを信用せず、しつこく質問をしてきたからである。

(七) 抗弁2(七)の事実のうち、原告がスドージャムのサンプルについて指示と異なる印字をしたことは認め、その余の事実は否認する。

原告がサンプルの瓶を紛失したことはない。印字も、指示と異なるものの、上段と下段を逆にしただけで、印字の大きさ、形、見栄えなどを確認するというサンプルの目的には何ら反していない。

林から指摘された後は、原告は、これに従い、迅速に対応している。

(八) 抗弁2(八)の事実のうち、原告が、モトヤから預かったサンプル二枚の内の一枚を不注意で落として紛失したこと、自ら依頼書の書式を作成したことは認め、その余の事実は否認する。

原告は平成五年度前半に依頼書の書式を作成しているが、その書式が利用しやすいため、本件以前に渡邉部長を除く多くの営業マンに受け入れられ、利用されている。

(九) 抗弁2(九)の事実のうち、平成六年八月二三日、原告がプリンタの修理にトサカンに赴いたことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告のトサカンでの修理作業は、深夜一一時から午前〇時三〇分、翌午前八時から九時三〇分までと、そもそも取扱説明を現場で行うような時間的余裕はなく、原告は何ら取扱説明をしていないのであるから、被告の主張は全くの濡れ衣である。

(一〇) 抗弁2(一〇)の事実のうち、原告が、平成六年一〇月二一日ころ、渡邉からオリオンビールのサンプル作製の指示を受けたことこと(ママ)は認めるが、その余の事実は否認する。

原告は指示と異なる印字をしたことはない。原告は渡邉部長の指示どおり、七×一〇のサンプルを作製した。また、文字間のスペースはダブルとしたが、シングルとの指示はなかった。

(一一) 抗弁2(一一)の事実のうち、被告名古屋営業所から日本電装の印字サンプル作製の依頼があり、原告が二回にわたり作製したことは認めるが、日本電装と坂口の交渉の事実は知らないし、その余の事実は否認する。

サンプルの出来が悪かったとしても、それは原告の能力の問題ではなく、ドミノのプリンタでは日立のプリンタより性能が劣るためにきれいに印字ができなかっただけである。また、出来の良し悪しの主張も主観的である。

(一二) 抗弁2(一二)の事実は否認する。この件に原告は全く関与していない。

(一三) 抗弁2(一三)の事実のうち、原告が、平成六年一二月一日、筒井宛に書面を提出し、その中で、(三)については、「積水ハウスの苦情に対して一番最初に対応したのも私である、私のおかげで新規のマシーンの受注が成った」と述べたこと、(六)については、「林さんの仕事の進め方は、サービスに必要以上の負担を負わすものであり、それが今回の事件の発端になっているものと推定されます。」等と述べたこと、(七)については、「迅速にサンプルを作り直し林さんの感謝も得ている。」と述べたこと、(九)については、「この問題でグレードIになにが問えるでしょう。」「感謝されこそすれ、非難されることはない。」等と述べたこと、(一〇)については、「単に渡邉部長のサンプルを見る目が違っていた(RDの赤は粘度が高く太字に見えなかった)だけです。」と述べたこと、(一一)については、「上野の責任で逸注に至っているは明確に否定されている(それほど出しにくいデンソーのロゴであった)。」と述べたことは認め、その余の事実は否認する。

(一四) 抗弁2(一四)の事実のうち、原告が平成七年一月ころ、衣笠から岡山ミネラルウォーターとモスビヴァレッジの件について電話で問い合わせを受けたこと認(ママ)めるが、渡邉が衣笠から苦情を申し立てられたことは知らず、その余の事実は否認する。

原告は、「私には分かりませんので、東京の方に聞いてください。」と適切に答えたものであり、「私は知りません。」の一言で終わりというものではなかった。

(一五) 抗弁2(一五)の事実のうち、原告が、平成七年三月一三日、一四日の両日、インクジェットプリンタの納入先である神郷カントリーに赴き、その工場責任者らに取扱説明を行ったこと、この説明に神郷カントリーの岡崎が居合わせていたことは認め、その余の事実は否認する。

原告は、普通の説明をしており、何ら相手を馬鹿にしたような発言はしていない。現に、原告は、説明をした工場長からも、途中で口を挟んできた岡崎からも、説明の仕方の問題で現場で抗議をされていない。

平成七年四月七日付の同社の抗議文についても、原告のことを言っているとは読めない。極東エンジニアリング関係の取扱説明は、原告のみがしていたわけではない。

3  就業規則該当性

抗弁3の事実は否認する。

五  再抗弁

1  解雇権濫用

(一) 一般にサービス部門は、顧客との直接の対応が要求されるものであり、顧客とのトラブルは不可避である。被告における原告以外のサービスマンも、顧客への態度、口のききかたなどの点において原告と同等であり、原告の勤務ぶりは他の従業員に何ら遜色ないものであった。現に、原告が出張で出向いた顧客の件数は、年々増えており、平成五年に一八〇件であったのが、平成六年には一九三件、解雇された平成七年は五月までに既に六八件に上っている。また、解雇通告後の平成七年五月上旬にも、被告は、原告を北陸乳業へプリンタの据付け等のために訪問させている。

(二) 被告は、原告の顧客との間のトラブル、サンプル作製の不十分さを解雇事由としつつ、原告をサービスマン以外の業務に就かせたことは一度もないし、原告は本件解雇に至るまで被告から具体的な懲戒処分も受けたことがない。これは解雇事由の軽微性を裏付けるものである。

(三) 原告には、遅刻・早退・無断欠勤などは全くなく、サービスセンターでは一番早く出勤していた等、勤怠の点では非常に真面目であった。このことは、原告が契約社員であったころから原告を知っており、直接の上司であった新田も認めるところであったし、現に新田は、原告の解雇の必要性を感じておらず、上司に原告の解雇について進言することは一度もなかった。また、原告の上司である部長の吉田清は、原告作製のサンプルにつき、極めて高い評価をしていた。

(四) サービスセンターの同僚からも、原告に対して仕事上の苦情はなく、業務に支障が生じるほど協調性が欠けていたわけではないし、顧客の中にも、原告がよくやってくれるという評価をする者もいた。

(五) 被告が退職勧告の文書で指摘した原告の引き起こしたトラブルについての被告の判断は極めて一方的なものであり、原告の言い分を聞こうという姿勢が全くない。具体的な個々の解雇事由についての被告の主張は、原告に対する恣意的な評価に基づいて些細な出来事を針小棒大に主張しているだけである。

(六) 以上のとおり、被告による原告の解雇は解雇権の濫用であり、無効である。

2  労働協約違反(就業規則三九条二号の制限規定)

(一) 平成七年三月一日付の分離再編の内容は、ドッドウェル社の各事業分野を、その事業内容・雇用関係・物的施設を変更せずに六社に分割したにすぎず、インチケープグループとしては今後も一体として機能することが前提となっている。また、新会社設立の手続を省くために、従来からあった被告の法人格を利用し、営業譲渡の形式を取ったにすぎない。したがって、ドッドウェル社と被告とは実質的に同一であり、単に同一企業の法律的な組織形態を変更したにすぎないのであるから、全く別の企業に営業の一部を譲渡する通常の営業譲渡とは同一に論じ得ない。本件においては、労働協約を引き継がない合理的理由のない限り、ドッドウェル社とドッドウェル労働組合との間の平成五年七月一日付労働協約「解雇及び配置転換に関する協定書」(以下「本件労働協約」という。)は当然に承継される。

(二) 本件労働協約が被告就業規則三九条二号に優先適用されるところ、本件労働協約一条五項は「組合員が会社の業務を著しく阻害し、若しくは会社に重大な損害を及ぼした場合。」に解雇を制限している。

(三) しかるに、原告は、右のように制限された解雇事由に該当しないから、被告による本件解雇は無効である。

3  解雇手続違反

(一) 再抗弁2(一)のとおり。

(二) 本件労働協約が被告就業規則三九条二項に優先適用されるところ、本件労働協約三条一項は、「第一条による解雇は組合との事前協議をなし、会社、組合双方の同意をもってこれを行う。」と規定している。被告は、組合の同意はおろか、組合との事前協議さえ行っていない。したがって、被告の本件解雇は手続的にも無効である。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(解雇権濫用)

(一) 再抗弁1(一)の事実のうち、原告が出張で出向いた顧客の件数が、平成五年に一八〇件であったのが、平成六年には一九三件、解雇された平成七年は五月までで既に六八件に上っていること、解雇通告後の平成七年五月上旬にも、被告は、原告を北陸乳業へプリンタの据付け等のために訪問させていることは認め、その余の事実は否認する。

被告のサービスセンター(東京、大阪、名古屋)に勤務する従業員の内、日常的に対外的な技術サービス活動に従事する者は一〇名以上に上るが、原告のように顧客から慢性的にクレームが来るケースは他にない。

(二) 同1(二)の事実のうち、原告が本件解雇に至るまで被告から具体的な懲戒処分を受けたことがないことは認め、その余の事実は否認する。ただし、懲戒処分ではないが、解雇の約半年前の平成六年一一月二八日には、平成六年中の原告の不祥事に対し厳重に反省を促し、今後同様の事例があった場合は解雇もあり得るとの警告をしている。

原告が顧客との間でトラブルを頻発させるため、被告としては、原告をできるだけ顧客と接触しない業務に従事させようと考え、サンプル作製等の内勤作業を命じることが多くなった。

(三) 同1(三)の事実のうち、原告には、遅刻・早退・無断欠勤などは全くなく、サービスセンターでは一番早く出勤していた等、勤怠の点では非常に真面目であったことは認め、その余の事実は否認する。

吉田の評価は、サンプル作製の量についてのものであり、質についての評価は含まれていない。また、原告による執拗な申出に対するリップサービスにすぎない。

(四) 同1(四)の事実は否認する。

(五) 同1(五)の事実は否認する。

2  再抗弁2(労働協約違反・就業規則三九条二号の制限規定)

(一) 再抗弁2(一)の事実のうち、分離再編に当たり、従来からあった被告の法人格を利用したことは認め、その余の事実は否認する。

本件の分離再編は、営業譲渡によるものだから本件労働協約は承継されない。もとドッドウェル社の従業員は、新設会社(被告を含む)との間で個別に新たな労働契約を締結しているし、ドッドウェル社から分離再編された新設会社(被告を含む)は、ドッドウェル社の就業規則を引き継がず、それぞれが新たに就業規則を制定している。

(二) 同2(二)のうち、協定書の内容は認めるが、その余の事実は否認する。本件労働協約は被告を拘束するものではない。

(三) 同2(三)の事実は否認する。被告の解雇は有効である。

3  再抗弁3(解雇手続違反)

(一) 再抗弁3(一)の事実は否認する。

(二) 同3(二)の事実は否認する。被告は、本件解雇に当たって、組合との間の無用の紛争を防止するために、組合と事前協議を行い、組合の同意を得た。その経過は以下のとおりである。

本件解雇に関する労使間の協議は、被告東京本社の人事部長相原悦夫(以下「相原」という。)と、インチケープ労働組合の書記長菅野俊之(以下「菅野」という。)との間で行われた。

第一回目の協議は、平成七年四月中旬であるが、相原から、菅野に対し、極東エンジニアリングからの厳しい苦情の状況、原告の処遇については被告社内で検討中である旨を説明した。

同月二七日、再び協議がもたれ、相原は、菅野に対し、同月二六日付で原告に対し退職勧告を行ったこと、退職勧告に至った理由等について説明した。菅野は、「今までの状況からは仕方ないですね。」と了承した。

同年五月一一日、菅野から相原に対して、原告に対する解雇通知の内容についての確認があり、相原が説明したところ、菅野からは特段の意見はなかった。その後、組合からも、本件に関し、何らの申し入れや異議申し立てはない。なお、右協議はいわゆる団体交渉の形を取っていないが、前記のような形で協議を行うことについて組合側で特段の異論なくなされたものであり、有効である。

したがって、仮に本件労働協約が被告に承継されているとしても、本件解雇は協定書三条一項との関係で、何ら問題ないものである。

理由

一  当事者及び雇用契約等

請求原因1ないし3の各事実は、全て当事者間に争いがない。

二  解雇

1  解雇の意思表示

抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

2  解雇事由

(一)  JA兵庫の件

原告が平成五年三月一日、林とともにJA兵庫加西精米工場を訪問したこと、その際、林から工場長の田中を紹介されたこと、そのとき原告が名刺を切らせていたことは当事者間に争いがない。

(証拠略)(林の報告書)には、林が田中に原告を紹介しようと引き合わせた際、原告はズボンのポケットに左手を突っ込んだままで会釈をするでもなく、突っ立ったままで平然と「名刺がない。」と言い、申し訳なさそうな素振りも見せなかったとの記載があるが、これに対し、原告本人(第一回)は、「名刺を切らして申し訳ありませんけれども、サービスの上野と申します。よろしくお願い致します。」と田中に挨拶した旨述べ、(証拠略)の記載と原告の供述とは相反するところ、後述のように、原告本人の供述には信用できない部分も多くあり、右紹介の際に林が期待するような行動をしなかった可能性がないではないが、その直後に社内で原告の態度が問題とされたことは窺われないし、右の原告がしたという挨拶は社会人としてあまりにも当然の行動であって、前記(証拠略)の報告書だけで、原告に、その程度の常識もないとまで認定することはできないというべきである。

(二)  三王ハウジングの件

(証拠・人証略)によれば、被告は、被告の販売代理店であるマークテックから、宮川工機を通して、三王ハウジングにインクジェットプリンタを納入したこと、原告が、平成四年六月一六日の据付け後も、平成五年六月二一日等、修理のために何度か三王ハウジングを訪れた際、「お宅の取扱いが悪い。こんな取扱い方をしたら壊れても当たり前だ。」などときつい調子で顧客を非難し、自らは、「(修理に必要な)パーツを持ってない。」「こんなのは直せない。」などと言って修理を断ったことがあったため、三王ハウジングがひどく立腹していたこと、平成五年六月二一日の修理の直後、宮川工機から被告名古屋営業所の所長坂口に対し、「今来ているおたくのサービスマンは、あれは何だ。」というきつい苦情があったため、坂口は、新田に連絡し、新田から原告に対して厳重な注意と指導を行ったこと、平成六年一月一〇日、坂口が、マークテックの安倍部長と共に、宮川工機の営業課長である林に呼びつけられ、同営業課長から両名に対し、「三王ハウジングから、据付けの担当者(原告)の対応が悪く、二度とドッドウェルの製品を使いたくないとのクレームがあったので、しかるべく対処して欲しい。」との申出があったこと、被告は原告を三王ハウジングの担当から外したこと(この点は争いがない)を認めることができる。原告は、三王ハウジングに赴いたのは平成四年六月と平成五年六月の二回であり、その際、クレームを言われるような対応をしていないというのであるが、原告本人(第一回)も、新田に三王ハウジングからクレームがあったといわれて注意を受けた旨、その際、同社からの修理依頼を断ったことがあると告げた旨を述べるところであり、その後、原告が同社の担当を外されたことからすれば、同社が被告に対して強い苦情を申し入れたことが認められ、そうであれば、それだけの原因となる所為が原告にあったと推認することができる。してみれば、前記認定のような苦情を言われたとの(証拠略)の記載は信用できるものであり、他方、これに対する原告の右供述部分は信用することができないといわなければならない。

(三)  積水ハウス兵庫の件

原告が、平成六年三月三一日、顧客である積水ハウス兵庫工場にインクジェットプリンタのノズル詰まりの修理(インクの交換)に赴き、同工場内で、プリンタのタンク内の古いインクを抜き取り、残留しているインクを除去するためタンクを真水で洗浄し、その後、持参した新しいインクをタンク内に注入するなどして右修理を終えたが、その際、洗浄後のインクを含んだ廃液を同工場の排水溝に積水ハウスに無断で捨てたこと、積水ハウスから、被告に対し、同年四月一日、同工場の排水溝にインクが大量に浮遊していると指摘する苦情の電話があったこと、原告が兵庫工場に赴き、積水ハウスの担当者中川とともに排水溝を一五〇メートルに渡って清掃し、回収した廃液をドラム缶に入れ、積水ハウスにおいて処理してもらったこと、右廃液の件について、新田が同日積水ハウス兵庫工場に駆けつけて謝罪したこと、原告が積水ハウス兵庫工場の担当であることは当事者間に争いがない。

ところで、(証拠略)によれば、林は、同日午前八時三〇分ころ、自宅において右中川から苦情の電話を受けたため、同日午前八時四〇分ころ、原告に電話して、積水ハウスからの苦情を処理するよう指示をしたこと、原告は、これに対し、「他に仕事があるので行けない。そんなに言うのなら林さんが自分で行ってくれ。」等と返答したこと、そのため、困惑した林が中川に電話して謝罪し、直ちには行けない旨話したこと、これに中川が憤慨したので、林において、再度原告に電話するなどしたが、原告は同日午前九時前には積水ハウスに向かい、前述のとおり清掃を行ったことを認めることができる。原告本人(第一回)は、林から指示を受け、これを拒絶したことはない旨の供述をするが、(人証略)の証言、同本人尋問の結果によれば、中川は前述のように、林の自宅に苦情の電話を入れたほか、サービスセンターにも苦情をファクシミリで送信し、更に電話をかけたことを認めることができ、これによれば、中川の強い抗議の姿勢が見てとれ、そうであれば、電話を受けた林がこれをそのまま放置するとは考えられず、速やかにサービスセンターに電話したことが窺えるのであって、その電話を受けたはずの原告がその事実をことさらに否定するのは、その供述の信用性を損なうものであり、これを採用することはできない。

また、原告本人(第一回)は、本件の前日、課長の新田から廃液は捨ててこいと言われていたと述べるが、(証拠・人証略)に照らし、採用できない。なお、原告本人(第一回)は、インクについて、毒性はないもので、その廃液を排水溝に流しても無害である旨の供述をするが、同人の供述によっても、その量は三〇リットル程度あり、これを排水溝に流して良いようなしろものでなかったことは明白である。

なお、(証拠略)によれば、原告は同年四月一四日付で、筒井に対し、自らの非を認めた報告書を提出し、更に、同月二七日付で始末書を提出したことが認められる。

(四)  関西急送の件

(証拠略)によれば、被告が、平成四年八月、ダイフクにインクジェットプリンタ二台を納入し、ダイフクは同年一〇月にシステムの一部として同社の顧客である関西急送に販売し、据付けが完了したこと、その後、インクジェットプリンタの印字濃度が変動するというトラブルがあったため、平成六年五月三日、二四日の両日、原告が関西急送に修理に赴いたが、その際の原告の態度につき、同月二五、二六日ころ、ダイフクの子会社である大福工営株式会社に苦情があり、同社西脇出張所村田所長からダイフクの製造管理課伊賀上氏を通じ、被告名古屋営業所に、原告を二度と関西急送に行かせないようクレームが入ったこと、以後、被告は、原告の同僚の北野を関西急送の担当にしたことが認められる。

原告は、全くの事実無根と主張するが、(証拠略)によれば、平成六年五月三日、二四日の両日、原告が関西急送に修理に赴いたことが認められるのに、原告は右修理に赴いたことまで否定するもので、その主張を採用することはできない。

(五)  三木ミノルタの件

原告が、平成六年五月二〇日、プリンタ修理のために三木ミノルタに赴いたこと、修理に際し、ノズルのOリングが無かったため、原告が新しいOリングを装着したこと、原告が右プリンタの保証期間内ではあったがユーザーの責に帰すべき故障であるとして三木ミノルタに対して出張費用を請求するよう被告に報告したことは当事者間に争いがない。

(証拠・人証略)によれば、右プリンタは平成五年九月に被告が三木ミノルタに納入したもので、右納入に際し、同月一六日ころ、その取扱について講習会を実施し、三木ミノルタの三方がこれに参加していたのであるが、原告は、平成六年五月一九日、三方から、プリンタの修理依頼の電話を受けた際、「それでも講習を受けたのですか。自分でできないんですか。」等と、三方を非難する口調で応対して依頼を拒絶したこと、そのため、三木ミノルタでは被告への修理依頼を一旦断念し、自社で修理を試みたが、結局修理することができず、再度被告サービスセンターに依頼し、同月二〇日、原告が修理のために出張したこと、そして、その後、被告は原告の報告に基づいて三木ミノルタに出張費用の請求をしたこと、ところが、三木ミノルタの係長中川から林に対して原告の電話応対を非難し、今後被告とは取引をしないといった内容の電話があったこと、林がそれを受けて三木ミノルタに謝罪に赴いたが、その後被告と同社との間には取引がないことを認めることができる。

原告本人(第一回)は三方からの電話に応対したのは原告ではなく新田であると述べるが、(証拠略)及び同本人尋問の結果によれば、原告は三木ミノルタの件が問題となった当初は、歯切れの悪い弁解をして新田が電話に応対したとは主張せず、その氏名を主張したのは本件解雇に関して原告が提起した仮処分事件においてであると認められ、その氏名を主張しなかった合理的理由があるとは認められないところであるし、(人証略)の証言に照らしても、採用することができない。

(六)  ニッサン石鹸の件

平成六年七月一三日、ニッサン石鹸兵庫工場へのインクジェットプリンタの納入が予定されており、前日、新田から原告に対し、本来の担当である福原に代わって納入に行き、その際、顧客の依頼があればこれに従うように指示されたことは当事者間に争いがない。

そして、(証拠・人証略)及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は、同月一三日、ニッサン石鹸兵庫工場に赴き、インクジェットプリンタを納入したが、その際、課長の川内か柳楽かその他の者かはともかく、ニッサン石鹸側から立上げと監視立会の依頼を受けたにもかかわらず、「立上げはお宅でやってくれ。」と述べて帰ったことを認めることができる。原告本人(第一回)は、立上げの依頼を受けたことはなく、ニッサン石鹸による苦情は、ニッサン石鹸の川内がプリンタの値段を安くさせるためにした策略ないしでっち上げであると述べ、(証拠略)の報告書にも同趣旨の記載をしているが、これは原告の単なる推測にすぎず、原告がそのように推測する根拠も薄く、右事実を認めるに足りる証拠はない。

そして、(証拠・人証略)によれば、被告はニッサン石鹸兵庫工場の川内及び柳楽からの抗議を受け、原告に電話で注意したところ、原告は自己の非を認めなかったことを認めることができる。右電話において、原告が林に対し、「納品とは何か、立ち上げとは何か、その定義を言ってくれ。」「納品の要請があったので、納品に行っただけのことです。」と言ったことは当事者間に争いがない。

(七)  スドージャムの件

原告がスドージャムのサンプルについて指示内容と異なる印字をしたことは当事者間に争いがない。

なお、被告は、原告がスドージャムから預かったサンプルの瓶のうち二本を紛失したと主張するが、(証拠・人証略)によっても、スドージャムから預かった本数が不明確であり、被告において原告がその内二本を紛失したと推測した根拠もサンプルを入れた箱に隙間ができていたという薄弱なものであることからすれば、原告がサンプルの瓶二本を紛失したことまで認定することはできない。

ところで、(証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は当初、指示内容のうち一部のみ、しかも、上段と下段を逆にしたサンプルしか作製しなかったことが認められるが、原告本人(第一回)の供述によれば、指示された印字のロゴの収録されたロム(記憶媒体)が存在しなかったので、納期遅れを起こさないために、上下反対のもので間に合わせたというのである。同供述によれば、右サンプルについては、林の指摘によって、上段と下段が指示内容どおりのサンプルを作製したことが認められるが、この点について反省の態度はみられない。

(八)  モトヤの件

原告が、モトヤから預かったサンプル二枚の内の一枚を不注意で落として紛失したことは当事者間に争いがない。

原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告はサンプル紛失後、その原因がサンプル作製依頼書の書式にあるとして、新たな作製依頼書の書式を作成して(右作成は当事者間に争いがない。)、これをサンプル作製依頼に使用させたが、その内、ほとんどの者はこれを使用せず、最終的にこれを使用していたのは林だけであったと認めることができる。被告は、原告が右サンプル作製依頼書の使用を他の者に強要した旨主張するが、右作製依頼書の内容には、使用しやすいか否かは別として、従来の書式を改善する部分があり、その使用そのものを不適当とはいえないし、次第に使われなくなっているとの事実からすれば、その使用を原告が強要したとまではいえない。

(九)  トサカンの件

平成六年八月二三日、原告がプリンタの修理にトサカンに赴いたことは当事者間に争いがない。そして、(証拠・人証略)によれば、渡邉が、平成六年九月五日、極東エンジニアリングに赴き、同社の技術部長富永と面談した際、トサカンでの原告によるプリンタ取扱説明が説明する相手の知識、能力に応じたものでなく不適切であったとの苦情が出されたことが認められる。

これに対し、原告は本人尋問(第一回)において、(証拠略)(作業明細書)に記載されたトサカンでの作業時刻からして、そもそもトサカンでは取扱説明をしていない、したがって、説明が不適切であったという問題はそもそも生じない旨の供述をし、(証拠略)にも同様の趣旨の記載が見られる。また、原告より先に、プリンタの据付けのためにトサカンを訪れている大崎との関係につき、渡邉の供述が変遷しており、その供述に信用性がない旨主張する。

しかし、渡邉は、富永技術部長から苦情を受けたのが平成六年九月五日であったことは、当初から一貫して供述するところであり(<証拠略>)、(証拠略)によれば、大崎がトサカンを訪問したのが平成六年七月二七日から三一日まで、(証拠略)によれば、原告がトサカンを訪問したのは平成六年八月二三日及び二四日であることが認められるところ、富永技術部長からの苦情の時期から考えて、それが大崎ではなく原告に向けられたものと考えるのが合理的である。

(一〇)  オリオンビールの件

原告が、平成六年一〇月二一日ころ、一回、渡邉から、オリオンビールのサンプル作製の指示を受けたことは当事者間に争いがない。被告は、原告に対する右サンプル作製の指示は二回されたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。ただ、(証拠略)によれば、原告は、文字間スペースをシングルとする作製依頼に対し、これをダブルとするサンプルを作製したことが認められる。

(一一)  日本電装の件

被告名古屋営業所から日本電装の印字サンプル作製の依頼があり、原告が二回にわたり作製したことは当事者間に争いがない。

(証拠・人証略)によれば、日本電装の印字サンプルは同社へのプリンタ販売交渉の過程で作製されたものであるところ、原告が作製したサンプルが同社とプリンタ販売の交渉をしていた競争他社が作製したサンプルより劣っていたが、その原因は、競争他社のプリンタが、被告のそれに比べて印字ドット数が多く、よりきめの細かい印字が可能であったことにあると認められる。そうすると、被告が日本電装から受注を得られなかったことについて原告に責があるとすることは酷というべきである。なお、被告は、最初に作製したサンプルより二回目に作製したサンプルのほうが出来が悪かったことが問題であるとするが、作製し直したサンプルが最初のものより劣っていたとする証拠はない。

(一二)  日本精化の件

(証拠略)によれば、平成六年六月二九日ころ、林から原告に対し、日本精化向けのサンプルの作製が指示されたことを認めることができるが、当時、原告がサンプル作製担当であったものの、作業の都合上他の者が作製することもあり、(証拠略)のサンプル記録にも原告の氏名が記載されていないから、右のサンプルを原告が作製したとまで認めることはできない。そうであれば、そのサンプルが劣ったものであったとしても、これをもって原告を責めることはできない。

(一三)  被告による厳重注意とそれに対する原告の反応

(証拠・人証略)によれば、被告は、平成六年一一月二八日、筒井と渡邉において、原告から事情を聴取し、前述の非違行為を指摘して厳しく反省と自覚を促し、原告の勤務態度が改善されない場合は、被告として厳しい対応をとる旨告げて警告したのに対し、原告は、筒井宛に書面を提出したことを認めることができる。右書面には、(三)については、「積水ハウスの苦情に対して一番最初に対応したのも私である、私のおかげで新規のマシーンの受注が成った」、(六)については、「林さんの仕事の進め方は、サービスに必要以上の負担を負わすものであり、それが今回の事件の発端になっているものと推定されます。」、(七)については、「迅速にサンプルを作り直し林さんの感謝も得ている。」、(九)については、「この問題でグレードIになにが問えるでしょう。」「感謝されこそすれ、非難されることはない。」、(一〇)については、「単に渡邉部長のサンプルを見る目が違っていた(RDの赤は粘度が高く太字に見えなかった)だけです。」、(一一)については、「上野の責任で逸注に至っているは明確に否定されている(それほど出しにくいデンソーのロゴであった)。」との記載があることは当事者間に争いがないところ、その全体の内容は、自らの非を認めるものではなく、弁解と責任転嫁に終始していると認められる。

(一四)  極東エンジニアリング問合せの件

原告が、平成七年一月ころ、極東エンジニアリングの社長衣笠から、岡山ミネラルウォーターとモスビヴァレッジの件について問合せを受けたことは当事者間に争いがない。

原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は衣笠からの問合せに対し、モスビヴァレッジの件については、東京の者に聞いてくれと返答したのみで、引継などの処理はしなかったことを認めることができる。

(証拠・人証略)によれば、極東エンジニアリングは、被告からインクジェットプリンタを購入して飲料品等の製造ラインや充填ラインを作製し、これを販売する会社であって、被告の重要な顧客であり、右岡山ミネラルウォーター、モスビヴァレッジの件についても、右ラインの販売等に関するもので、被告の営業と関係のある問合せであったと認められるが、その問合せが、重要な顧客の社長からのものであったことからすれば、担当が他の部署であったとしても、担当者に引き継ぐなり、折り返し連絡をさせるような処理をすべきであったというべきである。そして、(証拠略)によれば、原告は右対応について新田から注意されたが、不服そうな態度を示したことを認めることができる。

(一五)  神郷カントリーの件

原告が、平成七年三月一三日、一四日の両日、インクジェットプリンタの納入先である神郷カントリーに赴き、その工場責任者らに取扱説明を行ったこと、この説明に神郷カントリーの社長岡崎が居合わせていたことは当事者間に争いがない。

(証拠・人証略)及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、三月一三日、一四日の神郷カントリーでの取扱説明は、極東エンジニアリングが被告から仕入れたインクジェットプリンタを組み込んだミネラルウォーター製造ラインを販売したことによってなされたものであり、その場に、岡崎のほか、極東エンジニアリングの社長衣笠が居合わせたこと、その説明において、原告は、神郷カントリーの工場担当者らに対して、「今言ったでしょう。何遍同じことを言えば分かるのか。」等と、厳しい調子で担当者を責めるような説明をしたことが認められる。原告は右事実を否認するが、原告自身、その本人尋問(第一回)において、岡崎を怒らせたこと自体は認める供述をしており、(証拠・人証略)に照らしてこれを採用することができない。

(証拠略)によれば、極東エンジニアリングは、平成七年四月七日、その社長名義で、被告の林に宛てて、抗議の書面を送付し、これを受け取った林は、極東エンジニアリングに赴き、衣笠及び偶々所用で同社に所在した岡崎に謝罪したが、その際、両名から原告を派遣しないよう言われたこと、林が原告に注意したところ、原告は適切に説明したとして自分の非を認めなかったことを認めることができる。なお、原告は、右抗議の書面は原告のことをいうものではないというが、確かにそのすべてが原告のことを示すものではないが、同年三月一三日、一四日と年月日を特定して非難する部分が原告をさすことは間違いない。

3  就業規則該当性

(証拠略)によれば、被告の就業規則三九条二号には、勤務成績が著しく不良で、改善の見込みがないと会社が認めたときは、従業員を解雇しうるとの規定があることを認めることができる。

そして、被告主張の解雇事由については、前述のとおり、2(一)、(二)及び(三)を除いて概ね認めることができるところ、その認定した個々の事実については、それだけをもって解雇事由とするにはいささか些細な事実にすぎないものもあり、モトヤ、スドージャム、オリオンビールのサンプル作製に関する件などは、これを解雇事由とすることはいささか苛酷の感をぬぐえないところであるが、積水ハウス、三木ミノルタ、ニッサン石鹸、トサカンの件は、被告の対外的信用にかかわる事柄であって、短期間に何度もこのような問題を起こすことは、経営者にとって看過しえないことであり、また、その各所為についての原告の反省は希薄であり、平成六年一一月二八日には、筒井と渡邉において、右各事項に関し、原告から事情を聴取した上、厳しく反省と自覚を促し、勤務態度が改善されない場合は、被告としても厳しい対応をとらざるを得ないことを原告に警告したのであるが、これに対し、原告は前述の筒井宛の書面(<証拠略>)のとおり、反省の態度を示すことなく、弁解と責任転嫁に終始する態度をとったもので、そのうえ、右警告後の平成七年三月にいたり、2(一四)、(一五)のとおり、原告は再び極東エンジニアリングとの間でトラブルを引き起こし、同社に対して被告の信用を相当に低下させたものといえ、前述のように同社は被告にとって重要な顧客であることからすれば、右トラブルは決して軽微といえず、むしろ重大なものであり、これが被告による原告に対する厳重な注意のわずか四か月足らずの内に二度もなされたもので、被告による注意を原告が重大なこととして認識していなかったことを窺わせる。また、原告は神郷カントリーの件についても、事後に何ら反省の態度を示さず、自らはきちんと説明をしたと言い張るなど、素直に自分の非を認めないなど、反省の態度が窺われない。これらを総合すれば、原告の所為は、被告就業規則三九条二号の「勤務成績が著しく不良で、改善の見込みがないと会社が認めたとき」に該当する。

三  解雇権濫用

1  原告が出張で出向いた顧客の件数が、平成五年に一八〇件であったのが、平成六年には一九三件、解雇された平成七年は五月までで六八件であること、解雇通告後の平成七年五月上旬にも、被告は、原告を北陸乳業へプリンタの据え付けのために訪問させていることは当事者間に争いがない。ところで、原告は、サービス部門においては顧客とのトラブルは不可避であるといい、確かに顧客側が原因でこれが生ずることもないとはいえないが、前述のように、比較的短い期間に何度もあるということはないであろうし、原告のトラブルの回数は、右の原告が出向いた顧客の件数を考慮しても少ないとはいえないものである。そして、(証拠・人証略)によれば、原告については従来から顧客からの苦情が多いことが指摘されており、改善目標として苦情を減らすことが挙げられていたことが認められるにもかかわらず、原告本人(第一回)は、これを重大な問題と思っていないので目標にしていなかったというのであり、右苦情の多さの原因は、原告の勤務態度にあるといわざるを得ない。

2  原告が本件解雇に至るまで被告から具体的な懲戒処分を受けたことがないことは当事者間に争いがないが、これをもって、本件解雇事由が軽微であるということはできない。前述のように、被告は、原告の一連の不祥事に対し、平成六年一一月二八日、厳重注意をしてその反省を促しているのに、再度、同様のトラブルを引き起こしたことは、これを軽微ということができない。また、(人証略)によれば、原告の業務については、できるだけ外部の顧客と接するものを減らすために、原告をサンプル担当にした面もあることが認められ、原告をサービスマン以外の業務につかせたことがないとはいえない。

3  原告には、遅刻・早退・無断欠勤などは全くなく、サービスセンター内では一番早く出勤していた等の非常に真面目な側面があったことは当事者間に争いがないし、同僚間では業務に支障が生じるほど協調性が欠けていたわけではなく、顧客の中には原告を誉める者もあり、仕事熱心な側面もあったことを認めることができるものの、他方、(証拠略)によれば、自己の被告内での評価が低いことに関して、深い不満を持ち、技術部長の吉田に対して、賞与の減額に関して脅迫まがいの書面を送付したこともあることが認められる。

4  以上によれば、右のとおり、原告には評価されるべき点も認められるが、そうでない部分もあり、前述のとおり、解雇事由を全体としてみた場合の重大性や、解雇前に注意や警告を受けたのにこれに対する反省がないということからすれば、右のような評価すべき点があるからといって、被告による解雇が著しく不合理であって、社会通念上相当なものとして是認することができないとはいえず、解雇権の濫用ということはできない。

四  労働協約違反(就業規則三九条二号の制限規定)

本件の分離再編は、従来からあった被告の法人格を利用し、営業譲渡によってなされたことは当事者間に争いがない。原告はドッドウェル社と被告とが実質的に同一である旨主張するのであるが、(証拠・人証略)によれば、被告はドッドウェル社と別個の組織を持ち、その拘束を受けず、物的施設についても別個であって、ドッドウェル社とは別個の法人であり、両社を同一視することができるほどの事由はない。なお、被告はドッドウェル社の一部門を分離して別法人としたものではあるが、右部門が被告に属したことが営業譲渡によるものであることには相異なく、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、ドッドウェル社から被告に移った従業員との間で個別に新たな労働契約を締結していること、また、ドッドウェル社の就業規則を引き継がず、新たに就業規則を制定していること、被告については別個の労働組合も結成されており、組合はドッドウェル社の労働協約の承継を主張するも、被告はこれを拒否していることが認められる。なお、被告においては、三六協定がなされないまま労働者の残業が行われているが、右残業がなされているからといって、ドッドウェル社における三六協定を被告が承継しているとはいえない。

以上のような本件分離再編の実態からすると、本件労働協約がドッドウェル社から被告に当然に承継されたとはいえない。してみれば、本件労働協約が被告に承継されたことを前提とする再抗弁2は理由がない。

五  解雇手続違反

再抗弁3についても、本件労働協約を被告が承継したことを前提とする主張であるところ、本件労働協約を被告が承継したといえないことは前述のとおりであって、再抗弁3も理由がない。

六  結語

以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 松尾嘉倫 裁判官 和田健)

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