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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)1724号 判決 1997年11月28日

第一事件原告兼第二事件被告(以下「原告」という)

吉内正治

右訴訟代理人弁護士

戸谷茂樹

第一事件被告兼第二事件原告(以下「被告」という)

株式会社国善コーポレーション

右代表者代表取締役

髙橋国善

第二事件原告(以下「原告」という)

髙橋国善

右被告及び原告髙橋国善訴訟代理人弁護士

爲近百合俊

主文

一  被告株式会社国善コーポレーションは、原告吉内正治に対し、一五万円及びこれに対する平成八年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告吉内正治のその余の請求を棄却する。

三  被告株式会社国善コーポレーション及び原告髙橋国善の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告吉内正治と被告株式会社国善コーポレーションとの間では、これを三分し、その一を被告株式会社国善コーポレーションの、その余を原告吉内正治の負担とし、原告吉内正治と原告髙橋国善との間では、原告髙橋国善の負担とする。

五  この判決は、原告吉内正治勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(第一事件)

被告株式会社国善コーポレーション(以下「被告会社」という)は、原告吉内正治(以下「原告吉内」という)に対し、一〇七五万二六四八円及びこれに対する平成八年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(第二事件)

一  原告吉内は、被告会社に対し、四七七万五〇〇〇円及び内一〇万円に対する平成八年四月一七日から、内五二万五〇〇〇円に対する同年七月一六日から、内一〇万円に対する同月二三日から、内七五万円に対する同年九月一四日から、内三三〇万円に対する同年一二月一三日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告吉内は、原告髙橋国善(以下「原告髙橋」という)に対し、一二〇万円及び内一〇〇万円に対する平成八年四月一日から、内二〇万円に対する同年一二月一三日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告吉内が、被告会社に対し、未払の給与(基本給及び歩合給)があるとして、その支払を求めた(第一事件)のに対し、被告会社及びその代表取締役である原告髙橋が、原告吉内が本訴を提起する前に債権仮差押をし、さらに本訴を提起したことが、不法行為に該当する等として、原告吉内に対し、損害賠償等を求めた(第二事件)事案である。

一  争いのない事実等

1  被告会社は、不動産の売買及び賃貸の媒介並びに不動産の売買等を業とする株式会社であり、原告吉内は、昭和六三年一月頃より被告会社に雇用され、近年は営業課長の地位にあったが、平成七年一二月二〇日、被告会社を解雇された。原告髙橋は、被告会社の代表取締役である。

2  原告吉内の賃金は、基本給と歩合給で構成されており、平成七年八月頃以降は、基本給は月額一五万円であった。

3  被告会社は、木村忠雄及び本郷博之両名の所有する枚方市所在の土地(以下「本件土地」という)を平成七年九月二五日二億五八三九万二五〇五円で買い取り、同日根本愛文(以下「根本」という)に対して、本件土地を三億一〇〇六万八〇〇〇円で転売した(以下これらの取引を「本件土地取引」という)。なお、登記名義は、中間省略の方法により、所有者から根本に直接移転された。

4  被告会社は、原告吉内に対し、平成七年九月二五日に一〇〇万円(なお、被告会社は、このとき支払った額は二〇〇万円であると主張している)、同年一〇月四日に二〇万円、同年一一月一四日に一〇〇万円を支払った。

5  被告会社は、平成七年一二月二〇日、原告吉内に対し、同月二五日をもって同原告を解雇する旨の意思表示をした。被告会社は原告吉内の一二月分の給与のうち、基本給一五万円を支払っていない。

6  原告吉内は、平成八年一月八日(書証略)、債務者を被告会社、請求債権を原告吉内が被告会社に対して有する平成七年一二月分基本給一五万円及び未払歩合給残金一〇六〇万五六四八円の合計一〇七五万五六四八円の内金九〇〇万円とし、差押債権を被告会社が本件土地取引に関して根本に対して有する売買代金債権として、大阪地方裁判所に対し債権仮差押命令の申立をし(以下「本件仮差押命令申立」という)、同日仮差押決定を得た(以下「本件仮差押決定」という)。

二  第一事件に関する当事者の主張

(原告吉内)

1 原告吉内の歩合給は、原告吉内の担当する取引の仲介手数料又は売買の差益から被告会社が支出した直接経費を控除した粗利益のうち三割と定められていた。

2 被告会社は、平成七年一二月分の原告吉内の給与のうち、以下のとおり一〇七五万二六四八円を支払っていない。

(一) 基本給一五万円

(二) 歩合給一〇六〇万二六四八円

(1) 本件土地取引は、原告吉内が入手した情報に基いて成立したものであり、原告吉内は、本件土地取引における契約の成約のために重要なすべての場面に同席したほか、造成残土の処理、物件に付着する国税の差押の抹消手続、既存宅地証明書の入手の確認、実測測量の手配及び立合、分筆の立合等、土地売買に関する多様な条件の調整及び事務処理を担当した。したがって、本件土地取引は、原告髙橋と原告吉内の共同作業として行われたものであり、原告吉内は所定の歩合給を取得する権利を有する。

(2) 本件土地取引により被告会社が得た純利益は、転売利益から紹介者に対する謝礼九〇〇万円を差し引いた四二六七万五四九五円であるから、原告吉内の歩合給は、その三割の一二八〇万二六四八円となる。

(3) 被告会社は、原告吉内に対し、平成七年九月二五日に一〇〇万円、同年一〇月四日に二〇万円、同年一一月一四日に一〇〇万円を支払ったので、その残金は一〇六〇万二六四八円である。

(被告会社)

1 原告吉内は、被告会社において不動産の売買及び賃貸の媒介業務だけを担当しており、その歩合給は仲介手数料の三割と定められていたが、不動産売買業務は担当していなかった。

2 本件土地取引は、原告髙橋が自ら行った業務であり、原告吉内は、本件土地に何か動きがあるらしい旨原告髙橋に告げただけであって、何らの寄与もしていない。ただ、原告髙橋は、当時原告吉内の勤務態度、勤務成績が劣悪であったため、同人を退職させざるを得ないと考えていたことから、同人に退職に当たり幾ばくかの金を与え、また、土地売買業務についての知識を与えるため、本件土地取引の交渉の席に同席を許したり、契約書の起案を命じたりしただけである。したがって、原告吉内主張のような歩合給が発生する余地はない。

3 被告会社は、原告吉内に対し、平成七年九月二五日に二〇〇万円、同年一〇月四日に二〇万円、同年一一月一四日に一〇〇万円を支払ったが、これは、歩合給としてではなく、原告吉内が当時困窮していたことから、契約書の起案に対する報酬として、被告会社代表者が温情によって与えたものである。

4 本件土地取引においては、被告会社に土地所得税、譲渡所得税が課税されており、原告吉内主張の売買差益は過大である。

三  第二事件に関する当事者の主張

(被告会社及び原告髙橋)

1 原告吉内は、同原告と被告会社との間の歩合給に関する合意及び本件土地取引の経緯が前記のようなものであって、同原告に本件土地取引に関する歩合給など発生する余地がないことを十分に認識しながら、これが存在するかのように仮装して本件仮差押命令申立をした。

そして、被告会社の従業員であった藤田勝子(以下「藤田従業員」という)に、原告吉内の未払給与が同原告の主張するとおりの額である旨記載した虚偽の証明書を作成させ、また、自らが作成した報告書に被告会社が事務所を閉鎖して業務を停止しているとの虚偽の記載をし、これらを疎明資料として提出することにより、担当裁判官を騙して錯誤に陥らせ、本件仮差押決定を騙取した。

さらに、原告吉内は、本件仮差押命令申立におけると同様、存在しない請求権をあたかも存在するかのように仮装して判決を騙取しようとし、本訴(第一事件)を提起した。

2 また、原告吉内は、かねてよりの知合いである原告髙橋の元妻の実兄である広田和章(以下「広田」という)と共謀し、被告会社に前記歩合給を支払わせるため、広田をして原告髙橋に対し、執拗に嫌がらせや脅迫を繰り返させた。この行為は、平成八年三月末頃、原告髙橋の代理人の抗議により収束するまで継続した。

3 原告吉内の右各不法行為により被告会社は次のような損害を被った。

(一) 被告会社は、根本に対し、本件土地取引に関する債権の取立が事実上できなくなり、資金繰りに困窮することとなって、市中の金融機関からの借入を余儀なくされ、その紹介料として平成八年四月一七日に一〇万円、同年七月二三日に一〇万円をそれぞれ支出し、また、利息として、同年七月一六日に五二万五〇〇〇円、同年九月一四日に七五万円を支払った。

(二) 原告髙橋は、前記2記載の嫌がらせや脅迫行為により、精神的苦痛を被り、その慰謝料は一〇〇万円が相当である。

(三) 被告会社は、本件第一事件を原告吉内が提起したことにより、弁護士に訴訟追行を委任せざるを得なくなり、着手金として六二万円、報酬として一二五万円の計一八七万円の支払を余儀なくされた。

(四) 被告会社及び原告髙橋は、本件第二事件の提起を弁護士に依頼し、着手金として、被告会社は二一万円、原告髙橋は一〇万円の、報酬として、被告会社は四二万円、原告髙橋は一〇万円の、それぞれ支払を余儀なくされた。

4 被告会社は、原告吉内から無心されては同原告に対し少額の金銭の貸付を繰り返し、その貸付金合計額は、原告吉内の解雇時点で計八〇万円であった。

(原告吉内)

1 原告吉内の本件仮差押申立及び本訴(第一事件)の提起が不法行為になるとの主張は争う。

2 原告吉内が、広田に対し、不法な交渉を依頼した事実はなく、また、広田が原告髙橋を脅迫した事実もない。

四  本件の主たる争点

1  本件土地取引に関する原告吉内の歩合給請求が認められるか(第一事件)。

2  原告吉内の本件仮差押命令申立及び本訴(第一事件)の提起が不法行為となるか。また、原告吉内が広田と共謀して、原告髙橋に対し、嫌がらせ、脅迫をしたことがあるか(第二事件)。

3  被告会社の原告吉内に対する貸金が存在するか(第二事件)。

第三当裁判所の判断

一  争点1(原告吉内の歩合給請求)について

1  当事者間に争いのない事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 被告会社においては、従業員の給与は固定給と歩合給で構成されており、固定給の額及び歩合の率は従業員によって異なっていた。そして、媒介業務(不動産の売買又は賃貸等の仲介業務)の場合は、割り当てられた従業員が担当者として専属で業務を遂行することから、担当者に対し、被告会社の取得する仲介手数料に対する一定割合としてあらかじめ定められた歩合給が支払われることになっていたが、売買業務(被告会社自らが買主及び売主となることにより、売買差益を取得する業務)の場合は、これが被告会社の一般的な業務内容ではなく、もっぱら代表者である原告髙橋が中心となって業務を遂行せざるを得ないこともあって、関与した従業員との間で、個別に歩合給の額が定められることになっていた。

原告吉内の場合は、平成七年七月までは、基本給が月額二〇万円、仲介手数料に対する歩合の割合が二五パーセントであったが、同年八月以降、基本給が月額一五万円、仲介手数料に対する歩合の割合は三〇パーセントに変更された。

なお、原告吉内は、宅地建物取引主任の資格は有していない。

(二) 原告吉内は、平成七年八月頃、知り合いであった藤田俊文から、本件土地を所有者が売りたいと言っているとの話を聞き、藤田俊文及び株式会社ティーオーの高橋という人物らとともに、本件土地を見に行き、法務局及び市役所で本件土地について調査し、帰社してから、本件土地を売却する話がある旨を原告髙橋に報告した。

そのころ、原告髙橋が、たまたま被告会社を訪れた根本に本件土地の話をしたところ、同人は本件土地に興味を示し、家が建つのであれば、坪六〇万円程度で購入してもよいとの意向を示した。

(三) そこで、原告髙橋は、原告吉内に対し、<1>不動産登記簿謄本及び公図の取り寄せ、<2>枚方市役所において本件土地が既存宅地であるかどうかの確認をすること、<3>買付証明書を高橋に対しファックスで送付すること等を命じて行わせた。

一方、原告髙橋は、平成七年八月二〇日頃、本件土地の売主側の仲介者である芳谷武(以下「芳谷」という)と会い、その後は原告髙橋と芳谷において、本件土地取引の条件等についての交渉が行われた。原告吉内は、原告髙橋の指示で、図面や書類等を芳谷に届けたり、原告髙橋が本件土地所有者とともに既存宅地である旨の証明書を自治会から取得するのに同行したり、本件土地取引の契約書を起案したりしたが、実質的な売買の交渉に携わることはなかった。

2  以上の事実に基いて検討する。

(一) 原告吉内は、被告会社と原告吉内との間には、原告吉内に対し、本件土地取引に関して被告会社が得た売買差益の三割の歩合給を支払う旨の合意があった旨主張する。しかしながら、前記認定のとおり、原告吉内は、本件土地取引の情報を入手して被告会社にもたらしたほかは、本件土地取引に関しては、単純な事務作業を行っていたに過ぎないことが明らかであるところ、独立の不動産業者であればともかく、宅地建物取引主任の資格も持たない不動産会社の一従業員が、情報をもたらしただけで売買差益の三〇パーセントもの歩合給を取得することは、一般的には考えにくいことであるから、そのような内容の歩合給請求権が認められるためには、被告会社との間にその旨の明確な合意が存在しなければならないというべきである。そして、以上に認定した事実関係によれば、歩合率三〇パーセントというのは、あくまで媒介業務における歩合率であって、売買業務である本件土地取引に関し、原告吉内に対し同様の割合の歩合給を支払う旨の合意が存在したとは、認めることができない。

(二) この点に関し、原告吉内本人は、本件土地取引に関し、原告吉内と被告会社との間で歩合給に関する合意が成立したかのような供述をする。しかしながら、その供述は、極めて曖昧であるうえに、売買業務の場合の歩合は物件ごとに社長(原告髙橋)と話し合って決める旨供述する一方で、売買業務の場合でも歩合は一律に三〇パーセントと決まっていたと供述するなど、内容も定まっておらず、到底信用するに足りない。

なお、原告吉内本人及び原告髙橋本人によれば、原告髙橋は、本件土地取引に携わるようになった直後、原告吉内に対し、「歩合を上げたとたん大きな仕事ができたな。新車でも買え」とか、藤田従業員に対し「原告吉内に金が入ったら服でも買ってもらえ」と言ったことが認められるが、原告髙橋本人によれば、被告会社としては、当初は本件土地取引に関しては仲介業者として関与する予定であったことが認められるから、この発言が、売買業務としての本件土地取引に関する原告吉内の歩合について言及したものであるとは直ちには考えられず、これらの発言をもって、原告吉内の主張する合意の存在を推認することはできない。

(三) また、原告吉内の未払歩合給が同原告主張のとおりである旨の藤田従業員の証明書(書証略)が存在するが、原告髙橋本人及び弁論の全趣旨によれば、藤田従業員は、原告吉内の歩合給の額等について、必ずしも正確に知りうる立場にはなかったものと認められるから(なお、付言すると、右証明書に記載された金額は、原告吉内が主張する金額と完全に一致してはいない)、この証明書の存在によって原告吉内の主張する合意を推認することはできない。

さらに、(証拠略)によれば、被告会社は、原告吉内の歩合給の請求に対し、その額について明示的に異論を挟んだ形跡がなく、根本からの回収が未了であることを理由に支払を拒んでいるに過ぎないかのようであるが、この文面から、被告会社が原告吉内主張の額の歩合給の発生を認めているものとまでは考えられない。

3  したがって、その余の点について判断するまでもなく、争点1に関する原告吉内の主張は理由がなく、原告吉内の主張する歩合給の請求は認められない。

二  争点2(原告吉内の不法行為)について

1  保全処分の申立及び本訴の提起が不法行為であるという点について

保全処分の申立又は訴の提起が憲法により保障された権利であることに鑑みると、これが不法行為となるためには、当該保全処分又は訴訟において申立人(提訴者)の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであり、かつ、申立人(提訴者)がそのことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて保全処分を申し立て(訴えを提起し)たなど、保全処分の申立又は訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく担当性を欠くと認められるときに限られるものと解すべきである。

これを本件について見ると、原告吉内が本訴第一事件及び本件仮差押命令申立において主張する歩合給請求権の存在は認められないのであるが、原告吉内が、被告会社に歩合給により雇用されていた従業員であり、本件土地取引に関しても一定の貢献をしていること、本件土地取引においては、歩合給に関する明確な合意は存在しないものの、被告会社は原告吉内に対し一定の報酬を与えるつもりであって、事実、被告会社は、平成七年九月から一一月にかけ、原告吉内に対し、相当の金額(原告吉内の主張によれば二二〇万円、被告会社の主張によれば三二〇万円)を支払っていること等の事実があり、これに原告吉内本人の供述をあわせ考慮すれば、原告吉内が、歩合給請求権が存在しないことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たにもかかわらず、あえて本件仮処分申立及び本訴の提起に及んだとまでは断定できないというべきである。なお、原告吉内が本件仮差押命令申立時に提出した報告書(書証略)に、被告会社が事業を閉鎖したとの記載があるが、原告吉内本人及び原告髙橋本人によれば、被告会社が当時経営難に陥っており、平成七年一二月頃には、原告髙橋が、原告吉内に対し、会社を辞めるか一人でやるか迷っている旨の発言をしたことが認められるから、これが全くの虚偽であるとはいえないというべきであるし、藤田従業員の証明書(書証略)についても、原告吉内が藤田従業員を騙してことさら虚偽の証明書を書かせたと認めるに足りる証拠はない。

2  広田による脅迫について

証拠(略)によれば、原告吉内は、原告髙橋の元妻の兄である広田に対し、原告吉内の歩合給に関する問題の解決を依頼し、広田は、平成八年一月初旬頃から、原告吉内の歩合給について原告髙橋と交渉したことが認められる。しかしながら、広田が、原告髙橋に対して、脅迫的言動をしたことを認めるに足りる的確な証拠はないし、また、仮に広田がそのような言動をしたとしても、これが原告吉内と共謀して行われたものであることを認めるに足りる証拠もない。

したがって、この点に関する原告髙橋の主張は理由がない。

三  争点3(貸金)について

(書証略)によれば、被告会社の貸付金帳簿には、平成七年四月一日現在の原告吉内に対する貸付金残高が八〇万円である旨の記載があることが認められる。しかしながら、被告会社は、この貸付金の発生原因事実について何ら主張立証をしない(原告髙橋本人によれば、貸付当時の帳簿は破棄し、いつ貸し付けたものかも記憶にないという)。また、原告髙橋本人によれば、この貸付金は、被告会社としても、そもそもこのような紛争にならなければ返還をもとめないような趣旨のものであったことが認められる。

これらによれば、争点3に関する被告会社の主張は認められないというべきである。

四  結論

以上の次第であるから、原告吉内の請求は、当事者間に争いがない平成七年一二月分の基本給一五万円及びその遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、被告会社及び原告髙橋の請求はいずれも理由がない。

(裁判官 谷口安史)

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