大阪地方裁判所 平成8年(ワ)2688号 判決 1997年3月27日
原告
樋口富男
被告
西村弘美
主文
一 被告は、原告に対し、金三六三万一〇〇九円及び内金三三〇万一〇〇九円に対する平成四年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
被告は、原告に対し、金一四六一万一四七五円及び内金一三六一万一四七五円に対する平成四年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、交差点で原告運転の普通貨物自動車と被告運転の普通乗用自動車とが衝突して原告が負傷した事故に関し、原告が、被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償(内金)を請求した事案である。
一 争いのない事実
1 次の事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(一) 日時 平成四年五月三〇日午後六時四五分ころ
(二) 場所 大阪府八尾市東山本町五丁目八番二一号先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(大阪七七ぬ七六六、以下「被告車」という。)
(四) 被害車両 原告運転の普通貨物自動車(大阪四一そ四八一八、以下「原告車」という。)
(五) 事故態様 本件交差点を東進中の原告車と北進中の被告車が衝突したもの
2 被告の責任原因
被告は、本件交差点手前に一時停止線があるから、同所で一旦停止し、前方左右を確認して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて漫然と本件交差点に進入した過失により本件事故を引き起こしたのであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告に生じた損害に対し賠償責任を負担する。
3 後遺障害
原告は、本件事故による後遺障害につき、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)で自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺障害等級表(以下「等級表」という。)一四級一〇号の認定を受けた。
4 損害のてん補
原告は、本件事故の損害のてん補として、被告から文書費四万六八八〇円(原告主張の文書料とは別のもの)、自賠責保険から一四級の後遺障害分の保険金七五万円の合計七九万六八八〇円の支払いを受けた(乙一ないし五の各1、2)。
二 争点
1 過失相殺
(被告の主張)
原告は、本件交差点進入時において、徐行義務違反、前方不注視などの落ち度があつた上、シートベルト未装着で運転していたのであるから、原告の過失割合は少なくとも三割を下回らない。
(原告の主張)
被告は、本件交差点が、原告走行道路の方が広く、左方優先の関係にあり、自己走行道路には一時停止の規制があるにもかかわらず、一時停止して前方左右の確認を怠つて本件交差点に進入した過失があるのに対し、原告は前方左右を注視しつつ、徐行しながら進行したのであるから、原告には過失はない。なお、原告はシートベルトを装着していた。
2 損害(特に後遺障害等級)
(原告の主張)
原告は、本件事故により、特に腰部に常時痛みがあり、仕事にもつけない状態であつて頑固な神経症状が残存しているといえるから、少なくとも等級表の一二級一二号に該当する。
(被告の主張)
原告の後遺障害は、その症状が愁訴を主とするものであつて、CT、MRI、X線及び神経学的検査上、異常が認められないなど客観的他覚的所見に乏しいから、等級表一四級一〇号が相当であり、また、神経ブロツク注射、針等の治療も一切効果がなく、その症状発現に心因的要因がかなり影響しているものといえること等からすれば、労働能力喪失期間は三年が相当である。
第三争点に対する判断
一 争点1(過失相殺)について
1 前記争いのない事実及び証拠(甲二、三、二〇、検乙一の1ないし12、原告本人、被告本人)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件交差点は、南北道路と東西道路が交差する十字型交差点である。南北道路は、幅三・四メートルの北行一方通行道路であり、最高速度は時速三〇キロメートルに規制され、本件交差点手前には一時停止の標識がある。東西道路は、幅四・三メートルの相互通行可能な中央線のない道路であり、最高速度は時速二〇キロメートルに規制されている。そして、西から本件交差点まではやや上り坂で本件交差点南西角に民家があることもあつて、北行車両と東西道路の東行車両は相互に見通しが良くなく、同交差点北東角にカーブミラーが設置されている。また、路面はいずれもアスフアルト舖装であり、本件事故当時は乾燥していた。
(二) 被告は、被告車を運転して南北道路を時速三〇キロメートル位で北進中、停止線の約一〇メートル手前でカーブミラーを見たが、東行車両が認められなかつたのでそのまま進行したところ、停止線辺りで本件交差点進入直前の東行き原告車を発見し、ブレーキを踏んだが間に合わず、本件交差点中央辺りで自車前部と原告車の運転席ドア付近が衝突し、原告車は自車に押されて本件交差点北東角の橋の欄干に当たつて停止した。
(三) 原告は、原告車を運転して東西道路を東進し、時速約二〇キロメートルで本件交差点に進入したところ、進入と同時に北行きの被告車を発見し、危ないと感じたときは既に前記のとおり衝突していた。なお、原告が運転時にはシートベルトを着用する習慣があつたと供述していること、被告が原告のシートベルト着用を否定するのは、本件事故後警察官が駆けつけてきて原告に免許提示を求めた時点で胸元にベルトがなかつたように思うというにすぎないこと等からすれば、原告は本件事故時にシートベルトをしていたものと認められる。
2 以上の事実によれば、本件事故は、被告が、本件交差点に進入するに当たり、一時停止の規制があつたのであるから、停止線手前で一旦停止して特に見通しの悪い西側から進行してくる東行車両の動静を確認すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、停止線の約一〇メートル手前でカーブミラーを見たのみで減速することなく漫然進行したために生じたものであることが認められるが、他方、原告にも、本件交差点手前で十分減速して北行車両を確認して本件交差点に進入すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠つた過失が認められる。そして、前記事故態様、双方の過失内容等を考慮すれば、原告の過失割合は一割五分が相当である。
二 争点2(損害)について(円未満切捨て)
1 後遺障害の等級
(一) 証拠(甲四ないし一〇、一一の1ないし21、一二ないし一五、一六の1、2、一七の1、2、一八ないし二〇、三〇の1ないし16、原告本人)によれば、原告の治療経過等は以下のとおりであつたことが認められる。
原告は、本件事故により頭部・腰部打撲、左前前腕挫滅創、頸椎捻挫等の傷害を受け、医療法人貴島会貴島病院本院(以下「貴島病院」という。)に本件事故当日の平成四年五月三〇日から同年七月二日まで三四日間入院した。入院当初あつた頭部外傷による意識障害、CT上の浮腫はまもなく改善し、頸部痛、左手のしびれ等も軽減したため、通院によりリハビリ治療を受けることとなつた。しかし、退院後から腰痛が次第にひどくなり、同年七月二二日ころ、今川病院でMRIを撮つたが、異常が認められなかつたので、内服、湿布、温熱療法、運動療法による治療を受けた。同年一一月ころ、小林整骨院にも通院し、さらに、平成五年七月二六日、右貴島病院からの紹介で大阪労災病院を受診し、硬膜外ブロツクを中心に針治療、レーザー照射等の治療を約三か月間受けたが、いずれも効果がなかつた。そして、その間の平成五年七月三一日、貴島病院で症状固定と診断され(貴島病院への実通院日数三一七日)、後遺障害として、自覚症状「五ないし一〇分の坐位・立位の保持で頸部・腰部の痛みが出現し、その保持が困難となること」等、他覚症状「左前腕以下の尺骨神経領域の知覚鈍麻、筋力低下」等が診断され、自賠責保険では、右腰痛につき、医証及び画像所見上、右症状を裏付ける有意な所見はなく、医学的に説明することが困難であるから、後遺障害として捉えられない旨判断し、結局、左上肢の神経症状についてのみ、等級表の一四級一〇号に該当すると認定した。なお、平成五年一二月ころ、貴島病院で脊髄造影検査を受けたが、右結果も異常はなかつた。
(二) 以上の治療経過等によれば、原告主張の腰痛等の後遺障害は、本件事故により生じた症状であると認められるが、右症状中、特に腰痛についてはその症状を裏付ける他覚的所見が乏しいこと等から、原告主張の等級表一二級に相当する後遺障害を認めることはできず、結局、原告の後遺障害は、総合して等級表一四級一〇号にとどまるものと認められる。そして、右後遺障害による労働能力喪失率は五パーセントとし、右喪失期間は一〇年を認めるのが相当である。
2 治療費・文書料(主張額二万八四四〇円) 二万八四四〇円
原告は、本件事故により、症状固定までの治療費(未払分)一万〇一八〇円と文書料一万八二六〇円の合計二万八四四〇円を要したことが認められる(甲二二の1、2、二三の1ないし8、10、二四の1、2、二五、二六の1、2、二七、二八の1)。
3 入院雑費(主張額四万四二〇〇円) 四万四二〇〇円
原告は、本件事故により、前記のとおり三四日間入院したが、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円が相当であるから、右費用は四万四二〇〇円となる。
4 入院付添看護費(主張額一五万三〇〇〇円) 一五万三〇〇〇円
原告は、本件事故により、前記のとおり三四日間入院したが、一日当たりの入院付添看護費は四五〇〇円が相当であるから、右費用は一五万三〇〇〇円となる。
5 通院交通費(主張額二八万七二九〇円) 一九万六五四〇円
原告は、貴島病院と小林整骨院への通院交通費を主張するが、小林整骨院は治療の必要性が判然としないから、貴島病院への通院交通費一九万六五四〇円(往復のバス・電車代六二〇円、通院日数三一七日)のみを認める(弁論の全趣旨)。
6 入通院慰謝料(主張額一二四万円) 一二四万円
前記した入通院期間、原告の受傷内容等に勘案すれば、一二四万円が相当である。
7 後遺障害逸失利益(主張額一一五三万六九八五円) 二一一万一九八六円
原告は、平成三年度の年収五三一万六五八三円を得ており、本件事故がなければ、症状固定当時においても、少なくとも右程度の収入を得られたものと認められるところ(甲二一の1、2、原告本人)、本件事故により、前記認定したとおり、一四級一〇号の後遺障害を残し、五パーセントの労働能力を症状固定から一〇年間喪失したものと認めるのが相当であるから、ホフマン方式により中間利息を控除して後遺障害逸失利益を算定すると、以下のとおり二一一万一九八六円となる。
5,316,583×0.05×7.9449=2,111,986
8 後遺障害慰謝料(主張額二三〇万円) 一〇〇万円
前記した後遺障害の内容、程度等に勘案すれば、一〇〇万円が相当である。
9 以上の損害合計は四七七万四一六六円となるが、前記した一割五分の過失相殺をし、既払金七五万七〇三二円(自賠責保険金七五万円に原告の負担すべき文書料四万六八八〇円の一割五分に相当する七〇三二円を加えた額)を控除すると、三三〇万一〇〇九円となる。
10 弁護士費用(主張額一〇〇万円) 三三万円
本件事案の内容、認容額等を考慮すると、三三万円が相当である。
三 以上によれば、原告の請求は、金三六三万一〇〇九円及び弁護士費用を除く内金三三〇万一〇〇九円に対する本件事故日である平成四年五月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐々木信俊)