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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)750号 判決 1997年12月19日

原告

松本勝己

被告

田倉和則

主文

一  被告は原告に対し、金一三二七万九五五三円及び内金一二〇七万九五五三円に対する平成六年六月二六日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その五を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金八七七二万六五六七円及び内金八一二二万八三〇三円に対する平成六年六月二六日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通乗用自動車を運転中、追突事故に遭い傷害を負った原告が、右追突車両を運転していた被告に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実及び証拠上明らかな事実(以下証拠で認定する場合は( )内に認定に供した主たる証拠を示す)

1  事故の発生(争いがない)

(一) 日時 平成六年六月二六日午後七時三〇分頃

(二) 場所 大阪市北区西天満四丁目一一番先路上

(三) 関係車両 被告運転の普通乗用自動車(和泉五三も二一八八号、以下「被告車」という)

原告運転の普通乗用自動車(なにわ五五ま六〇〇六号、以下「原告車」という)

訴外林直紀運転の普通乗用自動車(大阪七九さ九八二一号、以下「林車」という)

(四) 事故態様 被告車が原告車に追突し、その衝撃により、原告車が林車に追突した(以下「本件事故」という)。

2  被告の責任原因(1の争いのない事故態様から明らかに認められる)

被告は、過失があるので民法七〇九条の賠償責任を負う。

3  後遺障害の認定(甲九の1、2)

自動車保険料率算定会は原告の後遺障害は自動車損害賠償保障法施行令二条後遺障害別等級表(以下単に「等級表」という)一四級に該当するとの判断をなした。

二  争点

1  後遺障害の程度、素因減額の適否

(原告の主張の要旨)

原告は、平成七年四月二五日、神経障害のために軽易な労務以外の労務ができないという障害を残して症状固定した。右障害は等級表七級四号に該当するものである。

(被告の主張の要旨)

原告の障害は他覚的所見を伴わない神経症状で、また右障害は、事故前からの原告の頸椎及び腰椎の椎間板の変形に由来するもので、本件事故と相当因果関係がない。仮に右障害と本件事故との相当因果関係が肯定できるとしても、右変形が原告の愁訴を増大させたものであるから相当程度の素因減額がなされるべきである。

2  損害額全般

(原告の主張額)

(一) 入院雑費 一万九五〇〇円

計算式 一三〇〇円×一五日=一万九五〇〇円

(二) 休業損害 五八三万一九三六円

計算式 七〇〇万二二九七円÷三六五日×三〇四日=五八三万一九三六円

(三) 逸失利益 六四五二万六八六七円

計算式 七〇〇万二二九七円×九・二一五=六四五二万六八六七円

一般的に等級表七級の労働能力喪失割合は五六パーセントとされているが、原告が就いていた大工という職業は頸部及び腰部の負担が重く、原告の後遺障害の内容、程度に照らすと就労は不可能である。

(四) 入通院慰謝料 一三五万円

(五) 後遺障害慰謝料 九五〇万円

よって、原告は被告に対し、(一)ないし(五)の合計八一二二万八三〇三円及び(六)相当弁護士費用六四九万八二六四円の総計八七七二万六五六七円並びに弁護士費用を除く八一二二万八三〇三円に対する本件事故日である平成六年六月二六日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三争点に対する判断

一  争点1(後遺障害の程度、素因減額の適否)について

1  認定事実

証拠(甲二ないし六、八、九の1、2、一〇、一一の1ないし56、一二の1ないし14、一三、一四、一五の1ないし4、二〇ないし二二、二八、原告本人)及び前記争いのない事実を総合すると、次の各事実を認めることができる。

(一) 原告(昭和一四年二月二四日生)は、事故当時五五歳の健康な男性であったが、本件事故によって、頸部捻挫、外傷性頸部症候群、腰部捻挫の傷害を負い、

(1) 事故当日である平成六年六月二六日から平成七年一月九日まで城東中央病院で通院治療を受け(実通院日数一〇二日)、

(2) 平成七年一月一〇日から同年一月二四日まで同病院で一五日間入院治療を受け、

(3) 平成七年一月二八日から同年四月二七日まで同病院で通院治療を受け(実通院日数四六日)、

(4) また同病院と並行して大阪赤十字病院で平成六年一二月一三日から平成七年四月二五日まで通院治療を受けた(実通院日数五日)。

原告は、初診時において、頸部痛を訴えたが、平成六年七月に入ると左腰部から左下腿の痛みが生じ、痛み止めを継続して服用していたが、耳鳴りとこれによる不眠、足の痺れが高まったため、入院し、退院後も、平成七年四月まで治療を継続し、その間、頸部痛・腰痛が継続していた。

(二) 症状固定

原告は平成七年四月二五日、大阪赤十字病院において症状固定の診断を受けたが、その際の後遺障害診断書(甲六)によれば、他覚的所見として、<1>頸椎に軽度の運動制限(前屈五五度、後屈四〇度、右屈四〇度、左屈三五度、右回旋四五度、左回旋七〇度)、<2>腰椎に運動制限(前屈二〇度、後屈一〇度、右屈一五度、左屈二〇度、右回旋四五度、左回旋五〇度)、<3>腕神経叢圧痛左+、頸椎圧迫テスト左+、肩圧迫テスト左+、デストラクテングテスト陽性、肩甲骨上角部圧痛、三角筋圧痛、菱形筋圧痛がいずれも左+、上腕二頭筋反射、三頭筋反射、腕橈骨筋反射、膝蓋腱反射、アキレス腱反射がいずれも著しく低下し、握力右五〇キログラム、左二九キログラム、<4>レントゲンないしMRI画像上、第五、第六頸椎間に軟骨症、第五腰椎に分離症があることが指摘されている。

(三) 原告の愁訴、就労状況

原告は、昭和三〇年ころから大工として就労していたが、本件事故後、仕事を休みがちとなり、平成六年夏ころから仕事を始めたが、当初軽微な仕事しかできなかった。その後、仕事の範囲はやや広がり、鋸を引く作業は何とかできるようになったが、天井を張る仕事は、めまいを起こすため短時間しかできず、カンナかけは左手でカンナを押さえきれず、くぎを打つ作業も左手の握力の低下、指の痺れのために困難を伴い、何度か左手を金槌で打ち付けたことがある。また、高所での作業も左足のつま先に力が入らないためできず、脚立での作業も昼間しかできなかった。

原告は、現在においても右のような就労制限があるほか、「足が冷たく、よく躓くようになった。また、左手の人差指が思うように曲がらず、手を広げた場合には、人差指と中指がくっついてしまう。」という症状を訴えている。

(四) 医師の見解

前記大阪赤十字病院医師大庭健は、「相当著明な頸部神経症状である。」とし、被告は同医師から、大工の仕事は避けた方がよいといわれている。

また前記城東中央病院医師森本周平は、「本件事故に遭わなかった場合、原告の脊椎の変形が病的症状をもたらした可能性は低い。」旨の意見を述べている。

(五) 自動車保険料率算定会の認定

自動車保険料率算定会は原告の後遺障害は等級表一四級一〇号に該当すると認定している。

2  判断

(一) 後遺障害・その存続期間について

前記認定事実によれば、原告は等級表一二級一二号に該当する後遺障害を残したと考えられる。即ち、原告の腰部、頸部の痛みは事故後、一貫して存し、右症状は、反射の低下、テスト結果等の一定の客観的所見を伴っており、反射の低下の程度も著しく、主治医も相当著明な頸部の神経症状としているところに鑑みても、等級表一二級一二号程度に達していると認められる。

そして、右障害は、その性質上永続するものとは認められないが、反面、事故後現在に至るも基本的に継続していることに鑑みると、症状固定時から少なくとも七年間継続するものと認める。

しかしながら、右等級を超える後遺障害を裏付ける他覚的所見は認められない。

次に、被告は素因減額の主張をしているのでこれについて検討するに、原告の第五、第六椎間板の変形、腰椎の変形が本件事故による傷害と相俟って前記各症状を引き起こしたことが推認できるが、右変性は経年性によるもので、しかも本件事故前においては病的症状をもたらしていなかったことを考えると、これは個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきもので、右素因は素因減額の対象とはなり得ない。

二  争点2(損害額全般)について(本項以下の計算はいずれも円未満切捨)

1  入院雑費 一万九五〇〇円

(主張同額)

一の1において認定したように、原告は一五日間入院し、一日あたりの入院雑費は一三〇〇円とするのが相当であるから総額は一万九五〇〇円(一三〇〇円×一五日)となる。

2  休業損害 三一七万八八五七円

(主張五八三万一九三六円)

(一) 認定事実

証拠(甲七の1ないし4、一六の1ないし4、二〇、原告本人)によれば、原告は、本件事故当時、簡単な仕事は単独で、外装等を伴う仕事は臨時の職員を雇用して、大工業を営んでいたこと、平成四年の売上額九四三四万八一〇〇円、所得額二四八万四三六三円(但し、専従者給与控除前は九六八万四三六三円)、平成五年の売上額六六三七万二三五〇円、所得額一九〇万八二〇〇円(但し、専従者給与控除前は七三〇万八二〇〇円)、平成六年の売上額七六八二万八八四二円、所得額二三九万八八四四円(但し、専従者給与控除前は七七九万八八四四円)、平成七年の売上額六五〇三万八六〇八円、所得額三八三万四〇五〇円の赤字(但し、専従者給与控除前は一五六万五九五〇円)として各税務申告をなしていた。後に税務調査が入り、平成四年の所得額は四五八万四三六三円、平成五年の所得額は四〇〇万八二〇〇円、平成六年の所得額は四四九万八八四四円とする修正申告がなされた。

専従者は原告の妻と長男であるが、妻は電話番程度の仕事しかなしておらず、長男が原告に伴われて作業した場合には長男に対する日当は別に支払われている。

(二) 判断

(1) 基礎収入について

原告の事業規模、売上額、専従者の就労実態に鑑みると、原告は少なくとも平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計、男子労働者五五歳から五九歳までの平均年収六三六万一二〇〇円程度の収入を得ていたと認められる。

原告は、賃金センサスを上廻る収入を主張しているが、その立証としては不十分といわざるを得ない。

(2) 労働能力喪失率について

修正申告がなされるなどの経緯からして申告所得が実体を反映していないと認められ、しかも、本件事故後、大きな仕事が入ったこと(原告本人)などから、前記申告所得の増減によって、原告の休業損害を確定することは相当でなく、(1)の収入を基礎に原告の労働能力喪失割合によって、休業損害額を算定するのが相当である。

原告の入通院状況、就労状況、症状の推移、大工仕事が頸部及び腰部の負担を伴うものであることから、事故日から症状固定日まで平均してその六〇パーセントの労働能力を失っていたものとして算定するのが相当である。これによると前記金額が求められる。

計算式 六三六万一二〇〇円÷三六五日×三〇四日×〇・六=三一七万八八五七円

3  逸失利益 五二三万一一九六円

(主張六四五二万六八六七円)

前記認定の原告の障害の部位、程度、職業、性別、年齢等を総合し、自賠及び労災実務上等級表一二級の労働能力喪失率が一四パーセントと取り扱われていることは当裁判所に顕著であることからみて、原告は本件事故による後遺障害によってその労働能力の一四パーセントを喪失し、これは前記のように七年間継続すると認められる。前記収入を基礎に、ホフマン方式により逸失利益を算定すると右金額が求められる。

計算式 六三六万一二〇〇円×〇・一四×五・八七四(七年間に対応するホフマン係数)=五二三万一一九六円

4  入通院慰謝料 一三五万円

(主張同額)

原告の傷害の部位、内容、程度、入通院期間、状況に鑑み、右金額をもって慰謝するのが相当である。

5  後遺障害慰謝料 二三〇万円

(主張九五〇万円)

原告の障害の内容、程度に鑑み、右金額をもって慰謝するのが相当である。

第四賠償額の算定

一  損害総額

第三の二の合計は一二〇七万九五五三円である。

二  弁護士費用 一二〇万円(主張六四九万八二六四円)

一の金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、原告が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告が負担すべき金額は一二〇万円と認められる。

三  結論

一、二の合計は一三二七万九五五三円である。

よって、原告の被告に対する請求は、右金額及び弁護士費用を除く一二〇七万九五五三円に対する本件事故日である平成六年六月二六日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 樋口英明)

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