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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)7666号 判決 1997年12月18日

原告

新恵里

被告

奥田潤

主文

一  被告は、原告に対し、一八〇一万五五三八円及びこれに対する平成五年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一九二〇万〇五三八円及びこれに対する平成五年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交差点内における原動機付自転車と自動二輪車の衝突事故に関し、原動機付自転車を運転して右事故により負傷した原告が、自動二輪車を運転していた被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害の賠償を求めた事案である。

一  前提となる事実

以下のうち、1、2、5は当事者間に争いがない。3は甲第二号証の四、第三号証の一、第四号証の一ないし三、第五号証及び弁論の全趣旨により、4は甲第二号証の一六、第九号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨により認めることができる。

1  被告は、平成五年一〇月一日午前八時五五分ころ、自動二輪車(京都を六四一六、以下「被告車両」という。)を運転して、京都市北区大宮南田尻町五八番先の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)を北から南へ進行するにあたり、本件交差点を南から東へ右折しようとしていた原告運転の原動機付自転車(京都市北る六二七、以下「原告車両」という。)に被告車両を衝突させた(以下「本件事故」という。)。

2  被告は、本件事故によって原告が受けた損害について、民法七〇九条に基づきこれを賠償すべき義務を負う。

3  原告は、本件事故後、救急車により医療法人浜田会浜田病院(以下「浜田病院」という。)に搬送されて治療を受けた後、本件事故当日の平成五年一〇月一日から平成七年五月八日まで堀川病院に通院して治療を受け(実日数一〇四日)、同日同病院において症状固定の診断を受け、自動車保険料率算定会調査事務所により自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令二条別表一〇級一一号に該当するとの認定を受けた。

4  原告は、昭和四七年一〇月二一日生まれの女性で、本件事故当時は二〇歳で京都産業大学法学部法律学科在学中であったが、平成八年三月に同大学を卒業後、同年四月に大阪教育大学大学院に進学し、現在は同大学院教育学研究科学校教育専攻在学中で、平成一〇年三月に同大学院を卒業する見込みである。

5  原告は、自動車損害賠償責任保険から五六四万三一四五円の支払を受けた。

二  争点

1  本件事故態様(過失相殺を含む)

(原告の主張)

本件事故は、被告が、対面信号が青色から黄色に変わったため急加速して本件交差点を通過しようとしたところ、本件交差点内に南から進行してきて右折のためセンターライン付近に寄っていた原告車両を発見したが、原告車両がそのまま右折するものと軽信し、センターラインをオーバーして直進しようとしたところ、原告が自車線内に原告車両を停止させたため、被告車両の前部を原告車両の左前部に側面衝突させて原告車両を横転させたというものであり、被告は、センターラインオーバー、前方注視義務違反等の過失により本件事故を発生させた。

(被告の主張)

原告は、本件交差点を南から東へ右折するに際し、本件交差点南側停止線手前で対面信号が黄色に変わったため、早回り(小回り)右折をしようとして、徐行減速することなく漫然と時速三〇キロメートルで本件交差点の南詰横断歩道上から南行車線進路に入って本件交差点に進入したものである。他方、被告は、時速二〇キロメートルで本件道路の南行車線を走行していたところ、本件交差点の北詰横断歩道中央付近に達したとき対面信号が黄色に変わり、更に本件交差点に進入したところ、原告車両が南行車線内に進路を変更して早回り右折をしてきたので、原告車両との衝突を避けるため、進路を若干右側に変更した。ところが、原告車両が南行車線を直進進行してきたため、被告は急制動の措置を講じたが、南行車線内で原告車両左前部と被告車両左前部が衝突したものである。本件事故は、原告が停止線での停止義務を怠ったうえ、著しい前方不注視により容易に発見し得る被告車両を見落とし、しかも徐行することなく早回り右折しようとしたことにより発生したものであり、本件事故の発生には原告に九割を下らない過失があるというべきである。

2  原告の後遺障害

(原告の主張)

原告は、本件事故により、左踵骨骨折、左距骨骨折、左足関節内果骨折、左足関節外側側副靱帯損傷、左肩挫傷、左膝挫傷等の傷害を負い、平成七年五月八日左足首の機能に著しい障害を残して症状が固定した。原告の右後遺障害は、自賠法施行令二条別表一〇級一一号に該当する。

(被告の主張)

本件事故後原告を診察した浜田病院の診断では、原告の受傷内容は左足関節捻挫のみであり、原告が本件事故によって骨折等の傷害を負ったことには疑問がある。しかも、原告は、入院治療を受けたことはなく、原告の症状固定時までの治療費をみても国民健康保険からの支給額を合計しても僅か二四万〇一九四円にすぎず、原告が、本件事故によって原告主張のような重傷を負ったとは考えられない。

3  原告の損害

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件事故態様)について

1  前記第二の一1の事実、甲第二号証の二、三、七、一二ないし一九、乙第三号証の一、三ないし五及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点は、東西に通ずる道路と南北に通ずる道路(以下「本件道路」という。)とが交差する信号機により交通整理の行われている交差点であり、両道路はいずれも歩車道の区別のある片側各一車線の道路であり、本件交差点の各手前には横断歩道が設置されている。

(二) 被告は、本件事故当時、被告車両を運転して本件道路を北から南へ向けて時速四〇キロメートルを下回らない速度で直進していたところ、右前方約二八・一メートルの地点の本件交差点の南詰停止線の中央線付近を右折の合図を出して対向進行してくる原告車両を認め、原告車両は早回りで右折するものと予想し、前記速度で右に進路を変更して本件交差点中央付近を進行したところ、早回りで右折するとことなく本件交差点に進入してきた原告車両を衝突直前に気づき、右転把したが及ばず原告車両左前部に被告車両左前部を衝突転倒させた。

(三) 原告は、本件事故当時、原告車両を運転して時速約二五キロメートルで本件道路の北行車線左端を南から北へ向けて進行し、本件交差点を右折するため方向指示器を点灯して中央線寄りに進路を変更した後そのまま北行車線の中央線寄りを直進中、本件交差点の南詰横断歩道の約六・九メートル手前で対面信号が青色から黄色に変わるのを認め、停止しようとして減速しながら本件交差点南詰横断歩道北寄り付近に進入した際、被告車両が中央線寄りに進路を変更してきたため、衝突の危険を感じ急制動の措置を講じるとともに右転把したが及ばず、前記のとおり被告車両に衝突され、原告車両は本件交差点の南東角に横転停止した。

(四) 本件事故当時、本件交差点の南東角付近にいた中出岳は、原告車両と被告車両との衝突音で本件事故の発生に気付き、本件事故直後に本件交差点の南詰横断歩道より北方の本件交差点内に原告車両と原告が転倒停止しているのを目撃し、その場で原告に声をかけたうえ原告車両を歩道上に移動させるなどの救護を行った。また、本件交差点の南東角付近に居住し、本件事故当時自宅内にいた原田洋子も、衝突音が聞こえたので外を見ると本件交差点南詰横断歩道より北方の本件交差点内の南東角付近に原告車両と原告が転倒しているのを目撃した。

2  被告は、原告車両が本件道路の南行車線内に進路を変更して早回り右折を開始した後、右折を中止し本件道路の南行車線を直進進行したため、本件事故が発生したと主張しており、甲第二号証の一五によれば、被告は、警察官の取調べに対し、原告車両が右折のウインカーを出しており、近回り右折すると思ったので右に進路を変更したところ、原告が近回り右折から通常の方法による右折の進路に変えたと供述していることも認められる。しかし、前記原告車両の速度や原告車両と被告車両との衝突地点等に照らすと、原告は右折のため北行車線中央線寄りに進路を変更した後は北行車線をそのまま直進していたとするのが自然であり、原告がいったん本件交差点を早回り右折しようとした後これをやめて直進したことを窺わせる客観的な事情はなんら窺われないばかりか、被告において原告車両が早回り右折をしようとしていると予測したのが合理的な根拠に基づくものであると認めるに足りる事情も見当たらない。また、原告が被告車両に衝突される直前に右転把していること、原告車両左前部と被告車両左前部とが衝突していること、原告及び原告車両は東側に転倒していること等に照らすと、原告が、本件事故前に本件道路の南行車線を走行したと認めることもできない。

3  以上によると、被告は、本件交差点を信号に従い、北から南へ向けて時速四〇キロメートルを下らない速度で直進するにあたり、右前方約二八・一メートルの地点の本件交差点の南詰停止線の中央線付近を右折の合図を出して対向進行してくる原告車両を認めたが、原告車両は早回りで右折するものと軽信し、原告車両の動静注視不十分のまま漫然前記速度で右に進路を変更して本件交差点中央付近を進行した過失により、早回りで右折するとことなく本件交差点に進入してきた原告車両を衝突直前に気付き右転把したが及ばず、本件交差点南詰横断歩道の北方の本件交差点内の本件道路の中心線の延長上付近で原告車両左前部に被告車両左前部を衝突させたものと認められる。

4  ところで、甲第二号証の一七及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、対面信号が黄色に変わったため停止しようとして減速した際、後続車両による追突の危険を避けるためバックミラーを見ていて前方はあまり見ておらず、前方を見たときには被告車両が接近して来ていて、急制動の措置を講じるとともに右転把したが及ばず本件事故が発生したことが認められるが、本件事故は、被告が原告車両が早回り右折するものと軽信し、本件交差点手前で中央線寄りに進路を変更したことから発生したもので、被告が直進車として当然な進路を取ってさえいれば発生しなかったものというべきであり、他方、原告は、前方を注視することにより被告車両が右のように直進車としては異常な進路を取っていることに気付いたとしても、その後の被告車両の進路等を瞬時に予測するのは困難であったといわざるをえず、原告に過失相殺として考慮すべき過失を認めることはできない。

二  争点2(原告の後遺障害)について

1  前記第二の一3の事実、甲第二号証の四、一九、第三号証の一、第四号証の一ないし三、検甲第一、第二号証、乙第一号証の一、二、第四、第五号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 原告は、大学への通学途中で本件事故に遭い、本件事故後救急車で浜田病院へ搬送された。浜田病院では原告を左足関節捻挫と診断し、レントゲン検査等の結果原告に打撲程度で骨折等はしていないと説明したうえ、患部のテーピング固定等の処置を行い、松葉杖による負荷歩行を指導をした。原告は、その後、本件事故現場に戻って事後処理に当たり、被告とともに警察署に出頭するなどした後自宅へ戻り休んでいたが、夕方四時ころより痛みが激しくなり、堀川病院を受診した。

(二) 原告は、堀川病院では左踵骨骨折、左距骨骨折、左足関節内果骨折、左足関節外側側副靱帯損傷と診断され、本件事故当日の平成五年一〇月一日から平成七年五月八日まで堀川病院に通院して治療を受けた。

(三) 原告は、平成七年五月八日、堀川病院で症状固定の診断を受けたが、その際歩行後の疼痛、ランニングができない、軽度の跛行がある、階段、坂道の歩行が困難等の自覚症状があるほか、下腿周囲経は右三四センチメートルに対し左三二・五センチメートルで、左下腿に筋萎縮が認められたほか、足関節の運動は、背屈では右は他自動ともに一五度、左は他動マイナス一〇度、自動マイナス一五度、底屈では右は他自動ともに六五度、左は他動五〇度、自動四五度であった。

(四) 原告は、現在でも、左足首を反らしたりすることができないので、階段を降りるときや傾斜面を下るときに不自由があり、一日中歩くと左足首が痛んでくる等と訴えており、また、踵のない靴を履くと運動が制限されるため、踵のない靴を履くときや室内でスリッパを履くときには踵に装具を付けている。

2  右によれば、原告は、本件事故による傷害により左足関節の機能に著しい障害を残したものと認められ、右は自賠法施行令二条別表一〇級一一号に該当するものと認められる。

この点、被告は、本件事故後原告を診察した浜田病院の診断では、原告の受傷内容は左足関節捻挫のみであり、原告が本件事故によって骨折等の傷害を負ったことには疑問があると主張するが、前記のとおり、原告が本件事故当日受診した堀川病院では左踵骨骨折、左距骨骨折、左足関節内果骨折、左足関節外側側副靱帯損傷と診断されているのであって、本件事故後原告が堀川病院を受診するまでの間に原告が本件事故とは別の原因で左足関節に傷害を負ったと考える余地は極めて乏しく、右のような疑問を差し挟む余地はないというべきである。また、被告は、原告が入院治療を受けたことはなく、また、治療費が比較的低額であることを指摘して、原告が本件事故によって原告主張のような重傷を負ったとは考えられないと主張するが、根拠のない憶測に過ぎず、右主張もまた採用できない。

三  争点3(原告の損害)について

1  治療費等 一六万八一二〇円(請求どおり)

甲第四号証の一、二によれば、原告は堀川病院で受けた治療のための費用として一二万三九四〇円を支払ったことが認められる。また、甲第七号証によれば、原告は、両足底装具代として、株式会社洛北義肢に対し四万四一八〇円を支払ったことが認められる。

2  逸失利益 一六二八万〇五六三円(請求どおり)

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は現在のところ将来の職業は未定であるが、中学と高校の社会科の教員免許を持っており、就労の意思及び能力があることは認められるところ、大阪教育大学大学院卒業予定の平成一〇年三月から六七歳に至るまでの四二年間は就労が可能であり、本件事故に遭わなければ、右期間中平成六年賃金センサス・産業計・企業規模計・学歴計・二五ないし二九歳の女子労働者の平均年収である三三九万九五〇〇円を下回らない収入を得ることができたものと認められる。そして、原告は、前記後遺障害により右期間を通じてその労働能力の二七パーセントを喪失したものと認められるから、右収入を基礎に右期間に相当する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除すると、本件事故による原告の逸失利益は次のとおり一七八六万八九九五円となる(円未満切捨て)から、原告は、後遺障害による逸失利益として、少なくとも原告主張額である一六二八万〇五六三円の損害を受けたものと認められる。

計算式 3,399,500×(23.832-4.364)×0.27=17,868,995

なお、右の点について、被告は、原告に足関節になんらかの後遺障害が残ったとしても、それは労働能力の二七パーセントも喪失するような重篤なものとは考えられないと主張するが、確たる根拠もない主張であり採用できない。また、被告は、原告が将来右障害の影響のない職種を選択すれば労働能力の喪失はないともいえると主張するが、右のように職種の選択の範囲が制限されること自体が労働能力の喪失にほかならないのであって、被告の右主張もまた採用できない。

3  慰謝料 五六〇万円(請求五六四万円(通院分一二四万円、後遺障害分四四〇万円))

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件事故によって受けた精神的苦痛を慰藉するためには、五六〇万円の慰謝料をもってするのが相当である。

4  物損 一万円(請求どおり)

甲第八号証の一、二、乙第三号証の一によれば、原告は、本件事故により原告車両が大破したためこれを廃車処分し、平成七年三月二五日右廃車費用として有限会社南星商会に一万円を支払ったことが認められる。

四  結論

以上によれば、本件事故による原告の損害は二二〇五万八六八三円となるところ、これより原告が自動車損害賠償責任保険から支払を受けた五六四万三一四五円を控除すると、残額は一六四一万五五三八円となる(なお、被告は、原告が国民健康保険から支払のあった二二万六二五四円を損益相殺として右より控除すべきであると主張するが、原告は、本訴において治療費のうちの自己負担分のみを請求しているにすぎないので、右主張は採用できない。)。

本件の性格及び認容額に照らすと、弁護士費用は一六〇万円とするのが相当であるから、結局、原告は、被告に対し、一八〇一万五五三八円及びこれに対する本件事故の日である平成五年一〇月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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