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大阪地方裁判所 平成8年(行ウ)134号 判決 1998年10月26日

原告

関西単一労働組合

右代表者執行委員長

大谷修

右訴訟代理人弁護士

竹下政行

上原康夫

被告

大阪府地方労働委員会

右代表者会長

川合孝郎

右訴訟代理人弁護士

佐野久美子

右指定代理人

中美子

奥田正行

田中哲男

田中敏明

被告補助参加人

株式会社駸々堂

右代表者代表取締役

大渕馨

右訴訟代理人弁護士

中筋一朗

益田哲生

種村泰一

勝井良光

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が平成五年(不)第四号及び同年(不)第五号不当労働行為救済申立併合事件について、平成八年六月二七日付けでした原告の申立を棄却する旨の命令を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が参加人を被申立人として被告に対し申し立てた不当労働行為救済申立事件について、被告が原告の申立を棄却する旨の命令を発したため、原告がその取消を求めた事案である。

一  前提となる事実(いずれも争いがないか、証拠〔<証拠略>〕及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実である。)

1  参加人は、株式会社駸々堂書店が、平成四年一二月一日株式会社京都駸々堂を合併し、商号を株式会社駸々堂と変更した株式会社である。

参加人には、従来、駸々堂書店労働組合(以下「書店労組」という。)、労働組合北大阪ユニオン駸々堂分会(以下「北大阪ユニオン」という。)等四つの労働組合が存在したが、同年一二月五日、書店労組の執行部支持派の組合員ら一一名が、駸々堂書店連帯労働組合(以下「連帯労組」という。)を結成した(なお、連帯労組の結成が労働組合の「分裂」に該当するかどうかについては、争いがある。)。また、臨時労働者である高城冨枝(以下「高城」という。)が、同年一一月二五日関西単一労働組合(関西単一労働組合は、昭和四七年に結成された関西地方における個人加入の合同労組である。)に加入し、さらに、同年一二月一〇日臨時労働者である岨幸二(以下「岨」という。)及び巽幸子(以下「巽」という。)が関西単一労働組合に加入し、高城、岨及び巽の三名は、関西単一労働組合駸々堂分会を結成した。

その後、平成七年三月一二日、連帯労組と関西単一労働組合が組織統一し、原告が結成された(以下、組織統一前の関西単一労働組合を「旧関単労」という。)。

2  参加人は、書店労組及び北大阪ユニオンに対しては、労働協約により、年間延べ二一〇日間の時間内組合活動休暇を保障しており、右日数の範囲内で、組合員が就業時間内に組合活動をすることを認めていた。また、参加人には、かつて臨時労働者によって組織された駸々堂書店労働者組合(以下「臨労組」という。)が存在したが、参加人は、臨労組に対しては、労働協約により、年間延べ四二日間の時間内組合活動休暇を保障していた(なお、臨労組は、平成二年一二月三一日解散した。)。

3  平成四年一二月二八日に開催された連帯労組及び旧関単労と参加人との間の団体交渉において、旧関単労及び連帯労組が時間内組合活動休暇を保障するよう求めたのに対し、参加人は、時間内組合活動休暇に関する労働協約の協議に入る前に、<1>平成四年一二月二三日及び二四日、参加人の梅田店において、連帯労組及び旧関単労の組合員が業務妨害を行ったこと、<2>同月二四日、連帯労組の東定男委員長(以下「東委員長」という。)が参加人の酒井文吉部長(以下「酒井」という。)に対し暴言を吐いたこと、<3>同月二五日、両組合員が参加人本部事務所に押し掛け業務を妨害したことの三点(以下、単に「三点」ということがある。)について謝罪するよう求め、右謝罪がない限り時間内組合活動休暇に関する労働協約の協議には応じられないとの態度をとった(以下、「これを「三点先議」という。)。

その後も、参加人は、平成五年一月一一日、同年二月三日及び同年三月一三日の団体交渉において、三点先議を主張し、時間内組合活動休暇に関する労働協約に関する協議を行うことを拒否している。

4  参加人は、連帯労組及び旧関単労の組合員が、時間内組合活動休暇と称する不就労を続けているとして、平成四年一二月分の賃金において、連帯労組の組合員六名について出勤奨励手当三〇〇〇円をカットし、平成五年一月分の賃金において、連帯労組の組合員六名については出勤奨励手当及び基本給につき、旧関単労の組合員二名については、基本給(時間給)につき、それぞれ相当分のカットをした。

5  連帯労組及び旧関単労は、参加人が右両組合員に対して時間内組合活動を理由として賃金カットをしたこと及び右両組合との間で労働協約問題に関する誠実な団体交渉を拒否していることが不当労働行為に該当するとして、平成五年二月一日、それぞれ、被告に対し、参加人を被申立人として、不当労働行為救済申立をした(平成五年(不)第四号、第五号、以下「本件事件」という。)。両事件は併合して審理されたが、原告は、前記組織統一により、平成七年九月七日付けで本件事件の申立人の地位を承継した(なお、以下、組織統一前の本件事件の申立人双方を称して単に「原告」ということがある。)。

6  被告は、平成八年六月二七日付けで、右各救済申立を棄却する旨の命令を発した(以下「本件命令」という。)。

二  原告の主張(本件命令の違法性)

1  手続上の違法性

(一) 釈明義務違反

被告は、労働組合及び労働者の団結権を実効的に保護することを使命とする労働問題の専門機関であって、不当労働行為救済申立事件の審理及び判断に当たっては、当該申立に直接かかわる事情のみならず、使用者の従来からの不当労働行為の繰り返し等の紛争の実情ないし労使関係全体を考慮することが要求されているところ、原告と参加人との間では、本件事件の他にも不当労働行為救済申立事件が係属し、その内容は、原告と参加人間の紛争の実情ないし労使関係全体を把握するために不可欠であった。したがって、被告は、本件事件の審理に当たり、本人(ママ)で手続を追行していた原告に対し、別事件にかかる資料等を提出するよう促すなどの釈明の措置を講ずべきであった。それにもかかわらず、被告はそのような釈明の措置を怠ったのであって、本件命令には、被告において適切な釈明権の行使を怠った違法がある。

(二) 手続の適正な進行を図らなかった違法

本件事件の審理中である平成五年八月から平成六年四月にかけて、連帯労組の組合員であり、カットされた賃金相当分の回復を求めていた槙田恭子(以下「槙田」という。)、石原哲也(以下「石原」という。)、谷口律子及び津崎多恵子(以下「津崎」という。)の四名(以下「槙田ら四名」という。)から、自己の分については救済を求めない旨の文書(以下「本件文書」という。)が被告に対し提出されたが、被告は、右文書の存在を申立人である原告に直ちに告知することなく、同年四月二一日の調査期日において、初めて槙田ら四名を救済の対象から除外する決定をした旨原告に通知した。

この被告の処置に関しては、以下のような違法があり、本件命令は取消しを免れない。

(1) 本件文書が送付されたことは、原告が求める救済の内容にかかわる重要な事態であり、かつ、原告は、槙田ら四名の権利利益を救済の対象から除外することについて、意見書を提出し、反対の意見を表明したのであるから、被告は、本件命令において、右四名を救済の対象から除外するか否かについての判断をすべきであった。しかしながら、本件命令には、何ら右事実にかかる記載がない。

(2) 被告は、槙田ら四名から本件文書を受け取った後、これを申立人である原告に開示することなく、槙田ら四名の意思を直接確認する手続を取り、槙田ら四名の権利利益部分を救済の対象から除外した。これは、明らかに憲法及び法令に違反するものである。すなわち、本件事件の申立人は原告であり、申立に対する処分権限を有しているのは原告のみであるから、救済申立ての内容について原告に釈明を求めるべきであり、原告の意思を確認することなく救済申立の対象を変更することは許されない。また、被告が、連帯労組を脱退した旨の文書を提出した右四名に対し、直接の意思確認を行ったことは、組合員の確保、維持を含めた労働組合の運営の自由を侵害するものである。

(3) 本件文書は、参加人の酒井が、槙田ら四名に働きかけて被告に提出させたものであり、そのような行為自体参加人の不当労働行為である。そして、原告は、右参加人の行為を知れば、直ちに、実効確保の措置勧告を申し立てるか、別個に不当労働行為救済申立てをすることができたにもかかわらず、被告が本件文書を受け取ったことを直ちに原告に告知しなかったことにより、そのような機会を失った。

2  判断内容における違法性

(一) 時間内組合活動に対する賃金カットについて

(1) 連帯労組は、書店労組が分裂して結成された労働組合であり、書店労組と駸々堂との間の労働協約を当然に引き継ぐものである。また、仮にそうでないとしても、労働協約の余後効により、右労働協約の効力が連帯労組に及ぶと解すべきである。したがって、右労働協約の効力が連帯労組に及ばないことを前提として、連帯労組の組合員の時間内組合活動休暇を認める根拠がないとした本件命令は違法である。

(2) 仮に書店労組の労働協約の効力が当然には連帯労組に及ばないとしても、書店労組がその路線対立の結果ほぼ均等割合で分裂し、その後書店労組と連帯労組との間には深刻な対立があったのであるから、参加人は、両組合の取扱いに関し、中立を保持すべき義務があったというべきである。しかしながら、参加人は、右中立保持義務に反し、労使協調路線を取る書店労組には従前どおり時間内組合活動休暇を保障しながら、参加人に対する対立的闘争方針を取る連帯労組に対してはこれを拒否するという差別的取扱いを行い、これによって原告の組織力の低下を図ったのであるから、かかる差別的取扱いは、不当労働行為に該当する。

(3) 参加人と連帯労組及び旧関単労との間では、平成四年一二月一〇日、時間内組合活動休暇については、協議が成立するまでは保留扱いとする旨の合意が成立した。これは、新たな協約が締結されるまでは従前の取扱いを継続するという趣旨であるから、参加人が、右両組合員の時間内組合活動につき賃金カットを行ったのは、右合意に反するものである。

(4) 参加人は、従来より、明確な労働協約の締結がなくとも、労働組合に対し、時間内組合活動休暇を承認しており、参加人においては、結成された労働組合に対し、等しく時間内組合活動休暇の取得を認めるという労使慣行が成立していた。したがって、右慣行に反し、連帯労組及び旧関単労に対してのみ時間内組合活動休暇を承認せず、その組合員の賃金をカットしたことは、不当労働行為に該当する。

(二) 不誠実団交について

(1) 参加人は、連帯労組及び旧関単労が時間内組合活動休暇に関する団体交渉を要求したのに対し、三点先議を主張し、<1>平成四年一二月二三日及び二四日の業務妨害行為、<2>同月二四日の東委員の(ママ)暴言、<3>同月二五日の業務妨害行為の三点について謝罪することを要求し、右謝罪に応じなければ時間内組合活動に関する協議には応じられないとの態度をとり続けた。

しかしながら、参加人が主張する三点なるものは、いずれも、参加人の信義に反する対応や言動がその原因となっているものや、組合内部の問題であって、これらにつき連帯労組又は旧関単労が謝罪すべきものではない。このような参加人の三点先議の主張が、団体交渉における不誠実な対応に該当することは明らかである。なお、本件命令は、参加人が他の議題については団体交渉に応じている旨認定するが、参加人が応じたのは、同年一二月二一日の年末一時金及び同月二八日の一組合員の労働条件についてのみであって、到底他の議題について誠実に団体交渉に応じているとはいえない。

したがって、参加人の三点先議の主張をあながち不当なものとはいえないとし、かかる参加人の態度を団体交渉における不誠実な対応と認めなかった本件命令は、違法である。

(2) 仮に、三点について原告が謝罪すべきであったとしても、三点先議に固執し、四年もの長期にわたり団体交渉を一般的に拒否し続けた参加人の対応は、明らかに不誠実な対応であって、不当労働行為に該当する。参加人が団体交渉に応じないのは、原告を嫌悪する不当労働行為意思によるものであって、三点先議はこれを正当化する口実に過ぎない。

三  被告及び参加人の主張(本件命令の適法性)

1  手続上の違法性について(被告の主張)

(一) 釈明義務違反について

いかなる事項についてどの程度の釈明を行うかは、労働委員会会長の職権事項であり、釈明権の行使を怠ったことによって手続が違法になるものではない。また、本件事件においては、提出された書証、証人等から、十分に適切な判断を下すことができたのであって、被告が釈明を求める必要はなかった。

(二) 本件文書の取扱いについて

(1) 本件事件においては、槙田ら四名が原告を脱退したことやその経緯が直接判断に影響を与えるものではなく、また、右四名を救済の対象から除外することは審問期日において原告に告知しているのであるから、右の点について命令書に記載がないからといって、本件命令が違法になるものではない。

(2) 組合員の個別の権利利益にかかわる部分について、当該組合員が積極的に権利利益を放棄する旨の意思表示をし、又は労働組合の救済命令申立てを通じて権利利益の回復を図る意思のないことを表明したときは、労働組合は当該組合員の個別の権利利益の回復を求めることはできない。被告は、槙田ら四名から本件文書が送付されたため、右四名に対しその文書の内容が真意に出たものであるか否かを確認したところ、いずれも真意であることが確認されたので、本件救済の対象から除外することを決定したものであるが、本件文書の記載内容は、積極的に権利利益を放棄する旨の意思表示に当たることは明らかであって、原告は、槙田ら四名について救済を求めることはできないのであるから、被告の取った措置に何ら違法な点はない。

また、原告には、本件文書の存在について告知を受けてから、実効確保の措置勧告の申立てや新たな不当労働行為救済申立てをする時間的余裕は十分にあった。

2  判断内容の違法性について(被告及び参加人の主張)

(一) 時間内組合活動に対する賃金カットについて

(1) 連帯労組は、多数決に敗れた書店労組の一部組合員が同組合を脱退し、新たに役員を選出し、規約を設けるなどして結成した新組合であり、書店労組はその後も役員を改選するなどして存続しているのであって、連帯労組の結成は、法的な意味での労働組合の分裂には該当しない。

したがって、参加人が、連帯労組との間では労働協約が存在しないものと取扱い、書店労組との間では旧来の労働協約関係に従った取扱いをしたのは当然のことであって、何ら問題とされるいわれはない。

(2) 参加人と連帯労組及び旧関単労との間で、時間内組合活動の取扱いについて保留扱いとする旨の合意が成立した事実はない。平成四年一二月一〇日にされた両組合からの保留扱いの提案に対し、参加人は、とりあえず検討する旨応えたが、同月一四日、応じない旨の回答をしている。

(3) 参加人において、労働組合には等しく時間内組合活動休暇の取得を認めるとの労使慣行が成立していた事実はない。参加人は、労働協約が存在しない労働組合との間では、会社との協議、交渉時間に限って便宜供与を認めていたに過ぎない。

(二) 三点先議について

時間内組合活動休暇は、使用者が労働組合のために行う特別の便宜供与であり、正常な労使関係が保たれていることが当然の前提となるものである。しかしながら、連帯労組及び旧関単労は、行き過ぎた業務妨害活動や暴言など、労使の信頼関係を損なう行動を繰り返していたのであって、当時、組合活動休暇の付与等の便宜供与の前提となるべき労使の信頼関係は完全に損なわれていた。参加人が、かかる状況に鑑み、組合活動休暇などの便宜供与の前提として、三点先議を主張したのはやむを得ないことである。そして、参加人が三点先議を主張したのは、時間内組合活動休暇に関する労働協約問題についてのみであって、他の団交議題について三点先議を持ち出したことは全くない。

また、その後も原告はありとあらゆる業務妨害行為等を繰り返しており、本件事件の審問終結時においても、労使間の信頼関係は完全に損なわれていたから、参加人が、審問終結時まで三点先議を主張し続けたのもやむを得ないところである。

四  争点

1  本件命令の手続に違法な点があるか(主として、被告が本件文書が提出されたことを原告に直ちに告げることなく槙田ら四名の権利利益を救済申立ての対象から除外したことが、違法であるか。)

2  参加人が、旧関単労及び連帯労組について、時間内組合活動休暇を認めずに賃金カットしたことが不当労働行為となるか。

3  時間内組合活動休暇についての労働協約の締結に関する団体交渉において、参加人が三点先議を主張したことが、誠実団交義務に反するか。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(手続上の違法性)について

1  釈明義務違反について

原告は、被告は本件事件の解決に当たり労使紛争の全体を考慮すべきであり、原告に対し釈明権を行使して別事件の資料等の提出を促すべきであったにもかかわらず、その義務を怠ったと主張するが、本件全証拠を精査しても、被告が立証を促さなければならないほど原告の立証活動が不十分であったとは到底認められないし、他事件の資料が本件事件の解決に不可欠であったとも認められないから、原告に別事件の資料等を提出させなかった被告の措置に何ら違法な点はなく、原告の主張は理由がない。

2  本件文書の取扱いについて

(一) 証拠(<証拠・人証略>、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件事件が継続(ママ)中であった平成五年八月から平成六年四月にかけて、連帯労組の組合員である槙田ら四名から、被告に対し、いずれも連帯労組を脱退したこと(なお、槙田及び石原については、同時に参加人を退職したこと)を理由に、本件事件においてもはや救済を求めない旨の文書(本件文書)が提出されたこと、被告は、槙田ら四名に対し、それぞれ、電話でその真意を確認したところ、いずれも、真意に相違ない旨述べたため、本件事件における救済申立ての対象から、槙田ら四名の権利利益にかかる部分を除外することとし、その旨を平成六年四月二一日に開かれた調査期日において、申立人である連帯労組及び旧関単労に対し告知したこと、その後、両組合は、参加人に対し、同年五月二九日及び三一日付けで、槙田及び津崎が本件文書を提出したのは酒井の慫慂によるものであるとの趣旨の報告書を提出し、同年一〇月三一日付けで、本件文書の存在を直ちに原告に告知することなく、直接槙田ら四名の意思を確認し、同人らの個別の権利利益にかかる部分を救済申立ての対象から除外した被告の措置は不当である旨の意見書を提出したことが認められる。

(二) ところで、労働組合が申立人となった組合員個人の雇用契約上の権利利益の回復を求める不当労働行為救済申立事件においては、たとえ組合員が当該労働組合を脱退したとしても、労働組合には、なおも右組合員の権利利益について救済を求める固有の利益があるから、直ちに右組合員の権利利益にかかる部分が救済申立ての対象から除外されるものではない。しかしながら、右組合員が、積極的に、救済を求めない旨の意思を表示し、又は労働組合の救済命令申立てを通じて右の権利利益の回復を図る意思のないことを表明したときは、労働組合は、右意思に反して当該組合員の権利利益の回復を求めることはできないと解すべきである(最高裁第三小法廷昭和六一年六月一〇日判決民集四〇巻四号七九三頁参照)。

この観点から本件を見ると、槙田ら四名は、本件文書において、それぞれ救済を求めないことを明示しており、被告は、同人らに対し、それが真意であることを確認したというのであるから、同人らは、被告に対し、積極的に救済を求めない旨の意思を表示したというべきであり、原告は、同人らの個別の権利利益にかかる部分については、もはや救済を求めることはできないといわなければならない。したがって、被告が槙田ら四名の権利利益にかかる部分を救済申立の対象から除外したことは、適法である。

なお、この点につき、連帯労組及び旧関単労は、本件文書が参加人の不当労働行為によって提出されるに至ったもので、槙田ら四名の真意ではない旨の意見書及び連帯労組が槙田及び津崎から事情を聴取した内容を記載した報告書を提出したのに対し、被告は、改めて調査等をしなかったことが認められるけれども、槙田ら四名の真意を確認するについて、どのような調査をするかは、被告の裁量に委ねられている職権事項であるから、被告が、従前の真意の確認で十分であり、改めて調査をする必要がないと考え、改めて調査をしなかったとしても、本件命令の手続が違法となるものではない。

もっとも、仮に、槙田ら四名による本件文書の提出が、槙田ら四名の真意によるものでなかった場合には、被告が、同人らの権利利益部分を救済申立ての対象から除外したことは、誤った措置であったことになるけれども、槙田ら四名による本件文書の提出が真意でなかったことを認めるに足りる証拠はない(<証拠略>には、本件文書の提出が酒井の指示によるものであるとの記載があり、<人証略>及び原告代表者本人も同趣旨の証言ないし供述をするが、たとえそれが事実であったとしても、右酒井の行為が不当労働行為になる可能性があるにとどまり、直ちに本件文書の提出が真意でないことにはならない。)。そのうえ、被告が、本件事件において、原告の救済申立てを棄却したことは、後述のとおり正当なのであるから、結局、槙田ら四名を救済申立ての対象から除外したことが仮に誤りであったとしても、本件命令の結論に何ら影響を及ぼさないのであり、この点からも、被告の措置の違法性を論ずる利益はない。

(三) なお、原告は、槙田ら四名を救済申立ての対象から除外した理由が命令書に記載されていないことを捉えて違法であると主張するが、本件命令は申立てを棄却する命令であって、槙田ら四名が救済申立ての対象に含まれるか否かは結論に何ら影響を及ぼさないのであるから、かかる経緯が命令書に記載されていなくとも違法であるとはいえない。

また、被告が原告に本件文書の存在を直ちに告知しなかったことにより、原告は実効確保の措置勧告の申立てや新たな不当労働行為救済申立てをする機会を奪われた旨主張するが、そもそもかかる事実上の機会が奪われたとしても本件命令が違法となるものではないし、また、被告は平成六年四月二一日に本件文書の存在を原告に告知しており、その後右のような申立てをする機会は十分にあったといえるから、原告の主張は理由がない。

二  争点2及び3(判断内容の違法性)について

1  前記前提となる事実、証拠(<証拠・人証略>、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 参加人は、従来からの経営危機を乗り切るため、駸々堂グループ傘下の企業を統合して経営体質を改善することを計画し、平成四年八月ころから、当時参加人に存在した四労働組合に対し、同年一二月一日付けで株式会社京都駸々堂と合併すること、それに伴い従業員の労働条件等についても見直したいこと等を説明し、理解を求めたが、各労働組合は、基本的には、従来の労働条件を維持すべきであるとの立場から、臨時労働者を含む従業員の労働条件の変更に反対していた。そのような中、参加人は、同年一一月ころ、労働組合に加入していない臨時労働者に対し、従来の雇用契約を終了させ、労働条件を切り下げた新たな雇用契約を締結するための個別の交渉を開始したところ、臨時労働者である高城は、これに応じず、同月二五日旧関単労に加入し、従来の雇用契約を同年一二月一日以降も継続することを要求した。

(二) 当時の書店労組の執行部(委員長は、後に連帯労組の委員長となる東委員長である。)は、書店労組としても、高城を支援し、旧関単労と共闘すべきであると考え、同年一一月三〇日に開催された臨時組合大会において、同年一二月一日の企業合同による労働条件等の変更が予想されるとして、旧関単労との共闘を含む闘争方針を提案したが、否決された。そのうえ、新会社発足後も正社員の労働条件が従来どおりであることが確認されたとして、今後会社から攻撃があるまで闘争体制を解くことが決議され、執行部の闘争方針は全て否決された。

(三) 同年一二月五日、東委員長ら書店労組の執行部は、再度臨時組合大会を開催し、書店労組の解散及び新組合の結成を提案したが、否決された。

そこで、執行部全員及び執行部提案に賛同した組合員は、臨時大会の場から退席し、別の場所で連帯労組結成の集会を開催し、新たに規約の作成及び役員の選任を行った。その結果、連帯労組の委員長には、東委員長が選任された。連帯労組に参加した組合員は計一一名であった。

一方、書店労組は、同月八日に新執行部を選出し、直ちにその旨参加人に通知した。

(四) 同月七日午前一一時ころ、連帯労組の東委員長及び旧関単労の大谷修委員長(以下「大谷」という。)らが参加人の本部事務所を訪れた。

その際、連帯労組は、組合結成通知書を提出するとともに、書店労組が分裂したのであるから、書店労組と参加人との間の労働協約は、連帯労組にも引き継がれるべきものであるとして、その旨の確認及び平成四年度年末一時金の支給等を求める要求書を提出した。同時に、この日参加人を訪れた連帯労組の組合員らは、参加人に対し、時間内組合活動休暇の使用届出書を提出した。

また、旧関単労は、参加人に対し、参加人が以前臨労組と締結していた労働協約及び労使慣行を旧関単労が引き継ぐことの確認等を求める内容の申入書及び平成四年度年末一時金に関する要求書を提出した。

そして、両組合は、これらの問題等についての団体交渉を、同月一二日に行うことを要求した。

(五) 同月八日、参加人の酒井は、連帯労組の谷口律子副委員長(以下「谷口副委員長」という。)に対し、同月一二日の団体交渉は日程の調整がつかず開催できない旨回答するとともに、連帯労組は新たに結成された労働組合であり、便宜供与の基礎となるべき労働協約が締結されていないから、時間内組合活動は認められないとして、同月七日については年休届けを出すように伝えた。

(六) 同月一〇日午前一〇時ころ、鉢巻、腕章を着用した連帯労組及び旧関単労の組合員約一〇名が、組合活動休暇を取得したとして、事前の予告なく参加人の本部事務所を訪れ、受付において、時間内組合活動休暇を認めよ等の抗議を口々に大声で行った。このため、訪れた客が引き返すなどの状況となったため、応対した参加人の治武久和専務(以下「治武」という。)及び酒井が両組合員らを会議室に入れてその場を収拾した。

その席上で、連帯労組は、書店労組の労働協約を引き継いでいるので、時間内組合活動休暇を認めるべきであると主張したが、酒井は、新しい労働組合であり、労働協約がないから認められない旨答えた。また、大谷は、話合いがつくまで、時間内組合活動休暇の処理を保留してはどうかと発言した。

(七) 同月一四日午前一〇時ころ、鉢巻、腕章を着用した連帯労組及び旧関単労の組合員約二〇名が、事前の予告なく参加人の本部事務所を訪れ、受付において、「一時金の回答をしろ。」「時間内組合活動休暇を認めろ。」等の抗議を口々に大声で行った。このため、従業員は仕事が手につかなくなり、訪れた客が引き返すなどの状況となったため、応対した参加人の上田太一取締役専務(以下「上田」という。)、治武及び酒井は、両組合員らを会議室に入れてその場を収拾した。

席上、参加人から一時金に関する回答があり、また、岨、巽の雇用契約の取扱いに関する応酬があったが、その後、両組合員らは、重ねて、時間内組合活動休暇を認めることを要求したのに対し、上田は、「基となるべき労働協約が締結されていないので認めることはできない。」と改めて従前の回答を行った。

なお、連帯労組の組合員らは、右抗議の場で同日の時間内組合活動休暇の使用届出書を提出したが、参加人側は、これは認められないとしながらも、一応受け取った。

(八) 同月一六日、参加人の梅田店において、連帯労組の組合員である中雅彦が、書店労組の組合員である東法江(以下「東従業員」という。)に対し、「連帯労組を辞めたい。」旨の話をし、これに対し、東従業員が、「それは自分の問題だから自分自身で決めたらよい。」と答える等のやりとりがあった。

(九) 同月一八日、連帯労組及び旧関単労と参加人との間で団体交渉が開催され、冒頭、参加人は、両組合に対し、同月一四日の抗議行動を非難し、今後かかることのないよう申し入れた。

この席上、連帯労組が書店労組の労働協約を引き継いでいる旨主張したのに対し、参加人は、これを否定し、一から交渉する必要がある旨答え、同労組に対し、労働協約に関する要求書を提出するよう求めた。

一方、旧関単労は、参加人に対し、岨及び巽の新雇用契約を撤回し、労働条件を同年一一月以前の状態に戻すこと及び臨労組の労働協約のコピーの交付を要求した。参加人は、岨及び巽の新雇用契約の撤回は拒否したが、臨労組の労働協約のコピーの交付については検討する旨回答した。

(一〇) 同年一二月二一日、連帯労組及び旧関単労と参加人との間で団体交渉が開催され、連帯労組は、書店労組と駸々堂書店との間で締結された労働協約と同一内容の労働協約を新たに締結するよう求めた要求書を提出し、参加人は検討する旨回答した。また、参加人は、旧関単労が同月一八日の団体交渉で求めた岨及び巽の新雇用契約撤回を改めて拒否するとともに、臨労組との労働協約のコピーの交付には応じられない旨回答した。

なお、同月七日に両組合から要求があった同年の年末一時金については、この同月二一日の団体交渉で妥結し、一時金は翌日支給された。

(一一) 同月二三日午前九時三〇分ころ、連帯労組の東委員長及び旧関単労の大谷ら五名が、事前の予告なく参加人の梅田店を訪れ、店舗裏にある他の店舗と共用の倉庫において勤務中の東従業員に対し、前記同月一六日のやりとりについて、「あんた、連帯労組の切り崩しをしているやろ。」などと問いただし、謝罪を迫った。そして、東従業員が「今仕事中だから困る。ここでは他の人にも迷惑がかかる。」と述べると、両組合員らは、「仕事で困るんだったら家までいって話をしても良い。」などと発言し、また、大谷が「外へ出て話をしよう」と言って東従業員を外へ連れ出そうとしたため、東従業員が「暴力はやめてください。」と抗議するなど、騒然となった。

両組合員らは、他の従業員の制止も聞かず東従業員に対する抗議行動を約一時間にわたって続け、その間東従業員は業務に就くことができず、近隣の店舗から「そんな大声でしゃべらんといてください。」「(自分の)店の中まで聞こえて迷惑している。」等の苦情が寄せられた。

(一二) 同月二四日午前九時ころ、東委員長と旧関単労の組合員一名が、事前の予告なく参加人の梅田店を訪れ、入荷商品の処理業務を行っていた同店の梅寺繁利店長(以下「梅寺店長」という。)に対し、前記同月一六日のやりとりに関し、「就業時間中に東従業員が連帯労組の切り崩しの話をしているにもかかわらず、その現場を目にしながら黙認した。」として抗議した。これに対し、梅寺店長は、「忙しいから話はできない。」と述べたが、東委員長らはなお大声で抗議を続けた。

(一三) 同日午後三時ころ、酒井は、電話で、連帯労組の谷口副委員長に対し、「基になるべき労働協約が存在しないので、時間内組合活動休暇は認められない。また、従前時間内組合活動休暇として届け出られたものについては、欠勤扱いとする。」旨伝えた。

その後、東委員長は、酒井に電話をし、「時間内組合活動休暇を認めないとはどういうことや。保留するというたやないか。」と抗議し、酒井が「保留するとは言っていない。労働協約がない状態なので時間内組合活動は認められない。」と答えるなどし、言い争いとなったが、その際、東委員長は、「あほんだら」と発言し、酒井が「上司にあほんだらとはどういうことや。謝れ。」と注意したが、東委員長は謝罪しなかった。

(一四) 同月二五日午前一〇時ころ、鉢巻、腕章を着用した連帯労組の東委員長及び旧関単労の大谷委員長ら両組合員六名が事前の予告なく参加人の本部事務所を訪れ、受付付近において、「要求書を持ってきた。谷口副社長を呼べ。」と口々に大声で述べ、応対した参加人の野村修方部長及び酒井らが「要求書を預かるから帰るように。」と述べたが、帰ろうとしなかった。

そこで、役員室にいた参加人の谷口常雄副社長(以下「谷口副社長」という。)及び上田が、エレベーターホールの出入口付近に出て、受付にいた両組合員らに対し、「そこでは仕事の邪魔になるから外で話をするので、こちらへ出てこい。」「君らは今勤務中じゃないか。職場に戻って仕事に就きなさい。」等と言ったところ、両組合員は「こっちへ来いというのは失礼や。」「今日は定例の執行委員会の届出を出している。」等と言い返してその場を動かなかった。谷口副社長及び上田は、事態が収拾できないためいったん役員室に戻ったが、酒井がこの状況を写真に撮影したこともあって、両組合員らは、「このままでは闘争はなんぼでも拡大するぞ。」「アルバイトを四〇人解雇して、また社員も解雇するのか。」「こんなことは組合つぶしやないか。」等と口々に大声で叫び、参加人側ともみ合いになった。そこで、参加人側は、事態を収拾するため、谷口副社長、上田、東委員長、大谷の四名で話し合うことを提案したが、両組合は、六名全員でなければ応じられないとしてこれを拒否した。

その後、両組合員は、要求書を置いて約一時間後に退出した。

(一五) 右同日、参加人は、連帯労組に対し、同労組との間には労働協約が存在しない状況の中で、組合員四名が事前の予告もなく会社に押し掛け業務を妨害したことは職場離脱であるとして、厳重に注意するとともに、今後かかる行為があれば厳重な処分を行うこともある旨文書で通告した。また、同日、旧関単労に対しても、組合員が会社に押し掛け業務を妨害したことは遺憾である旨文書で抗議した。

そして、参加人は、連帯労組の組合員六名に対し、同組合員らが時間内組合活動休暇と称し就労しなかった時間について、会社の承認なく職場離脱したものとして、欠勤扱いとすることとし、平成四年一二月分の賃金から出勤奨励手当三〇〇〇円をカットした。ただし、本給そのものの減額は見送った。

(一六) 同月二八日、連帯労組及び旧関単労と参加人との間で団体交渉が開催された。冒頭、参加人は、両組合に対し、出席者を各五名ずつとすることを求めたが、両組合はこれに応じず、あわせて約二〇名の組合員が出席して団体交渉が行われた。

席上、参加人は、時間内組合活動休暇に関する問題に入る前に、<1>平成四年一二月二三日及び二四日の業務妨害行為、<2>同月二四日の東委員長の暴言、<3>同月二五日の業務妨害行為について、謝罪するよう求めた(三点先議)。

しかしながら、両組合は、三点については会社側の言動こそ批判されるべきであり、謝罪する必要はないとしてこれを拒否し、まず時間内組合活動休暇の問題に入り、三点についてはその後に協議すべきであると主張したため、団体交渉は三点及び時間内組合活動休暇に関する内容の協議には入らずに終了した。もっとも、旧関単労の組合員高城及び岨の労働条件については協議が行われ、高城については、平成五年一月以降も当面従前の労働条件を継続することが確認された。

(一七) 平成五年一月一一日、連帯労組及び旧関単労と参加人との間で再度団体交渉が開催されたが、参加人が三点先議を主張したのに対し、両組合は、参加人が労働協約の組合活動に関する点についてまず回答すべきであり、その後に三点について協議すべきだと主張し、話合いは物別れに終わった。

なお、この団体交渉の席上、両組合が「もし三点先議に応じたら、会社は組合活動の諸権利について回答するのか。」と質問したところ、参加人(谷口副社長)は、「仮定の話では回答できない。」と述べた。

(一八) 同月二五日、参加人は、連帯労組の組合員六名及び旧関単労の組合員二名について、時間内組合活動休暇と称する不就労を続けているとして、同年一月分の賃金につき、それぞれ相当分の賃金カットをした。

(一九) 同年二月三日、連帯労組及び旧関単労と参加人との間で団体交渉が開催され、両組合が賃金カットについて抗議し、その明細を明らかにするよう要求した。また、時間内組合活動休暇の問題については、参加人が三点先議を主張したのに対し、両組合は、参加人が労働協約中の組合活動に関する点についてまず回答すべきであると主張し、実質的協議に入らずに終了した。

両組合と参加人は、同年三月一三日にも団体交渉を開催したが、ここでは春闘要求については協議がされたものの、時間内組合活動休暇に関する労働協約問題については、やはり参加人が三点先議を主張したのに対し、両組合がこれを拒否したため、実質的協議に入ることができなかった。

その後も、現在に至るまで、参加人は一貫して三点先議を主張し、原告に対し、時間内組合活動休暇を認めていない。

2  以上の事実に基づいて検討する。

(一) 賃金カットについて

(1) 原告は、書店労組が(現)書店労組と連帯労組とに分裂したとして、連帯労組は書店労組の労働協約を当然に引き継ぐ旨主張する。しかしながら、前記認定によれば、連帯労組は、書店労組の臨時組合大会においてその提案が受け入れられなかった同労組の執行部及びその支持派が、同労組を脱退し、新たに結成した労働組合であるというべきであるから、連帯労組が書店労組の労働協約を引き継ぐという原告の主張は根拠がない。

原告は、連帯労組の結成は、書店労組の分裂によるものであると主張するが、労働組合の分裂とは、労働組合が、内部対立によりその統一的な存続、活動が極めて高度かつ永続的に困難となり、その結果新組合成立の事態が生じた場合をいうと解されるところ、本件においては、書店労組の半数近くの組合員が新組合を結成したといっても、執行部方針は明確に否決されており、その意味で書店労組の統一的意思は明確に存在していたこと、執行部による解散の提案も多数決により否決されていること、残留した組合員らは、従来の規約に則り、新たに執行部を選出していること等を考慮すると、書店労組の存続・活動が極めて高度かつ永続的に困難になったとは認められず、従来の書店労組は、連帯労組結成後も組織的同一性を保ちつつ存続していたというべきである。したがって、連帯労組の結成は、執行部及びその支持派が、その闘争方針が否決されたことにより、自主的に書店労組を脱退して新組合を結成したものというべきであるから、これを法的概念における労働組合の分裂であると解することはできない。

また、原告は、労働協約の余後効についても主張するが、労働協約の余後効とは、労働協約の失効後、新たに労働協約が締結されるまでの間、組合員の労働条件に関し、暫定的に失効した労働協約と同一の取扱いをすることが当事者の合理的意思に合致する場合に、そのような取扱いをすることをいうところ、本件は、一部組合員が労働組合を脱退し、新たな労働組合を結成した場合であり、また、参加人が連帯労組について書店労組との労働協約を適用する意思を全く有していなかったことは前記認定の事実によって明らかであるから、余後効を認める余地はないというべきである。

以上により、書店労組の労働協約の効力が当然に連帯労組にも及ぶことを前提とする原告の主張は、いずれも理由がない。

(2) 原告は、連帯労組に時間内組合活動休暇を認めないことは、使用者の中立保持義務に反し、不当に連帯労組を差別するものであるとも主張する。しかしながら、使用者は、労働組合に対し、就業時間内の有給の組合活動休暇を認める義務があるものではなく、労組法上許される範囲内の便宜供与としてこれを認めることが許されるに過ぎない。そして、複数の組合が存在する場合において、全ての労働組合に当然に同一の取扱いをしなければならないものではなく、異なった取扱いをすることが、労働組合に対する不当な支配介入又は不利益取扱いに該当する場合にのみ、そのような取扱いが不当労働行為に該当するに過ぎない。

この見地からみると、後述するように、参加人が連帯労組に対し時間内組合活動休暇を認めなかったのは、同労組による業務妨害行為を伴う違法な組合活動が繰り返し行われたため、時間内組合活動休暇に関する労働協約が締結されなかったことによるものであって、参加人の不当労働行為によるものではないというべきであるから、原告の主張は理由がない。

(3) 原告は、平成四年一二月一〇日、参加人と連帯労組及び旧関単労との間で、時間内組合活動休暇を保留扱いとし、賃金カットはしない旨の合意が成立したと主張する。

しかしながら、そのような合意が成立したことを認めるに足りる証拠はない。この点については、(人証略)、原告代表者本人が原告の主張に沿う証言をし、(証拠略)(大谷及び東委員長の陳述書)等にもかかる記述があり、右両名は地労委の審問においても同様の供述をしているところである。また、平成四年一二月一〇日、時間内組合活動休暇を要求する連帯労組及び旧関単労と、認められないとする参加人との間で言い争いになった際、大谷が、時間内組合活動休暇については保留扱いとしてはどうかとの発言をしたことは前記のとおりである。そして、参加人は、同日右発言に対し検討する旨答え、同月一四日に保留扱いには応じられない旨回答したと主張するが、参加人が、本件事件の答弁書においてはこれと異なる主張をしており、この点に関する本件事件の審問期日における上田及び酒井の証言も、変遷がみられあるいは曖昧であったりして必ずしも信用できないこと等を考慮すると、参加人がかかる明確な対応をとったのかどうかは疑わしい。しかしながら、(人証略)及び原告代表者本人によれば、大谷が保留扱いの発言をした際、「保留扱い」の意味内容を同人が説明したことはなく、また、参加人との間でその意味内容について確認したこともなかったというのであるから、同人のいう「保留扱い」が、原告の主張するように労使間で協議が整うまでは時間内組合活動にも賃金を保障する取扱いを意味するものであるということが、参加人と両組合との共通認識であったとは到底考えられない。これに加え、それまで時間内組合活動休暇を認めない立場で一貫していた参加人が、労使間で協議が整うまでの間は時間内組合活動にも賃金を保障するとの合意に直ちに応じるとは想定し難いこと、事実参加人は、同月一四日、一八日及び二一日の両組合との折衝ないし団体交渉においても、一貫して時間内組合活動休暇は労働協約がないので認められないとの立場を堅持していたこととも考え併せると、仮に参加人が右保留扱いの発言に対し応じるかのようにとらえられかねない対応をしたとしても、参加人と両組合との間で、時間内組合活動に賃金を保障する趣旨での保留扱いの合意が成立していたとは到底認めることができないといわなければならない。したがって、原告の主張は採用できない。

(4) 原告は、参加人においては、労働協約が締結されていなくとも時間内組合活動休暇を認めるという労使慣行が形成されていた旨主張する。しかしながら、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。参加人は、北大阪ユニオンに対しても時間内組合活動休暇を認めているが、証拠(<証拠・人証略>、原告代表者本人)によれば、これは、労働協約に基づくものであること、同組合は労働協約が成立するまでは時間内組合活動休暇を使用しなかったことが認められるから、原告の主張するような労使慣行が存在するとは認められない。

(二) 三点先議について

(1) 参加人が時間内組合活動休暇に関する協議に入る前提として、連帯労組及び旧関単労に対し謝罪を求めた三点とは、<1>平成四年一二月二三日及び二四日に梅田店で両組合員が業務妨害を行ったこと、<2>同月二四日に東委員長が参加人の酒井に対し暴言を吐いたこと、<3>同月二五日に両組合員が参加人本部事務所に押し掛け業務を妨害したことの三点であるので、右各行為が正当なものといえるかどうかを検討する。

まず、平成四年一二月二三日及び二四日の梅田店における連帯労組及び旧関単労組合員による抗議行動は、いずれも就業時間内に行われたもので、東委員長は一方的に職場を離脱しているうえに、二三日については、勤務中の一従業員である東従業員を数名で取り囲み、外へ連れ出そうとするなどして同人の就労を妨害し、さらに、大声で叫ぶなどして近隣の店舗の業務にも支障を与えたものであり、また、同月二四日についても、勤務中の梅寺店長に対し、大声で抗議したというものであって、いずれも、就業時間内に行わなければならないような事情は全く認められず、参加人の業務を妨害する行為であることは明らかであって、正当な組合活動であるとは到底評価できないものである。また、同月二五日の抗議行動は、やはり就業時間内に行われたもので、連帯労組の組合員については一方的に職場を離脱しているうえに、本部事務所に多勢で押し掛け、大声で叫ぶなどして参加人の業務に支障を与えたものであって、これも就業時間内に行わなければならない事情は全く認められず、参加人の業務を妨害する行為であって、正当な組合活動であるとは到底評価できないものである。さらに、同月二四日の東委員長の発言も、酒井を侮辱するもので、右発言に至るいきさつを考慮したとしても、それが適切でないことは、明らかである。

(2) ところで、使用者は、労働組合との間で、団体交渉を行うべき義務を負い、右団交義務は、必ずしも形式的に団体交渉の席に着くだけではなく、議題について誠実に協議すべき義務をも包含するものである。しかしながら、前記のように、連帯労組及び旧関単労は、独自の見解に基づき、就業時間内に組合活動休暇と称して一方的に職場を離脱し、業務妨害行為を伴う違法な組合活動を繰り返していた事実に鑑みると、参加人が、両組合に対する便宜供与たる性格を有する時間内組合活動休暇に関する協議を行う前提として、右業務妨害行為に対する謝罪を求め、右謝罪がない限り時間内組合活動休暇に関する協議に応じないことは、あながち不当なこととはいえない。なぜなら、参加人は両組合に対し時間内組合活動休暇を付与すべき義務を負うものではないから、両組合が違法な業務妨害行為を伴う組合活動を行っている状況においては、時間内組合活動休暇を承認すべき前提を欠くと考え、その協議を行わなかったとしても、そのことについて参加人を責めることはできないからである。そして、参加人は、団体交渉そのものを拒否しているわけではなく、また、一時金の支給、高城及び岨らの労働条件、春闘要求等の議題においては三点先議を持ち出すことなく協議に応じていることをも考慮すれば、参加人の三点先議の主張は、誠実団交義務に反するものではなく、不当労働行為には該当しないというべきである。

なお、原告は、参加人が本件事件の審問終結時まで長期間にわたり時間内組合活動休暇に関する労働協約の協議に応じなかったのは、連帯労組及び旧関単労を嫌悪する不当労働行為意思によるものであって、三点先議はその口実に過ぎないとも主張するが、証拠(<証拠・人証略>、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、右両組合は、三点について謝罪したことは一切なく、かえって、就業時間内における業務妨害を伴う抗議行動が当然の権利であるかのような独自の見解に立ち、平成五年一〇月以降も、繰り返し参加人の店舗に押し掛けて業務妨害を伴う抗議行動を行っていることが認められるから、参加人が、現在に至るまで三点先議を主張し続けていることも、やむを得ないことであるといわなければならず、原告の主張は理由がない。

三  結論

以上の次第で、原告の主張はいずれも理由がなく、本件命令は適法であるから、原告の主張を棄却することとする。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 谷口安史 裁判官 和田健)

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