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大阪地方裁判所 平成9年(わ)2595号 1998年6月30日

本籍

大阪府羽曳野市高鷲二丁目三三〇番地

住居

同市高鷲八丁目三二番地の六

国家公務員

京屋博

昭和二一年三月二二日生

本籍

同府南河内郡河南町大字寛弘寺四三〇番地

住居

同町大宝二丁目二番五号

不動産仲介業

藤原勇

大正一四年一一月一日生

主文

被告人京屋博を懲役一年六月及び罰金一五〇〇万円に、被告人藤原勇を懲役一年に処する。

被告人京屋博においてその罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人両名に対し、この裁判確定の日から三年間、被告人京屋博はその懲役刑、被告人藤原勇はその刑の執行をそれぞれ猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人京屋博は、実父京屋増治郎から依頼を受け、同人所有にかかる大阪府羽曳野市高鷲八丁目六七番一号ほか二筆の土地を代金二億五千万円余で売却するとともに同人の所得税確定申告手続を行っていたもの、被告人藤原勇は、同京屋から依頼を受け、右各土地の売買契約の仲介をするとともに右京屋増治郎の所得税確定申告手続に関与したものであるが、被告人両名は、前田隆司及び松下庸泰と共謀の上、右京屋増治郎が右各土地を譲渡したことに関し、同人の所得税を免れようと企て、同人の平成五年分の総合課税の総所得金額が五七一万八〇七〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が二億三八五五万七一六一円で、これに対する所得税額が七一九九万三五〇〇円(別紙1の修正損益計算書参照)であるにもかかわらず、同人が、右前田に対し、金額二億五〇〇〇万円の連帯保証債務を負い、その履行のために前記各不動産を譲渡し、かつ、その履行に伴う求償権の行使が不能になったかのごとく仮装する行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成六年三月三日、大阪府富田林市若松町西二丁目一六九七番地一所在の所轄富田林税務署において、同署署長に対し、平成五年分の総合課税の総所得金額が五七一万八〇七〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が零円で、これに対する所得税額が四二万六四〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成五年分の所得税七一五六万七一〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)(括弧内の甲乙の数字は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

一  被告人両名の各公判供述

一  被告人京屋博(三通)及び同藤原勇の各検察官調書(乙三〇~三二、三六)

一  前田隆司及び松下庸泰の各検察官調書(乙三四、三五)

一  脱税額計算書(甲八七)

一  査察官調査書(甲八八~九五)

一  証明書(甲九六)

一  「所轄税務署の所在地について」と題する書面(甲九七)

(法令の適用)

罰条 いずれも平成七年法律九一号による改正前の刑法六〇条、所得税法二三八条一項、二四四条一項、被告人京屋につき、情状によりさらに所得税法二三八条二項

刑種の選択 被告人京屋につき懲役及び罰金の併科刑、被告人藤原につき懲役刑をそれぞれ選択

労役場留置 被告人京屋につき前記刑法一八条

執行猶予 いずれも前記刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、被告人両名が、日本同和同盟連合会と称する同和団体の総会長の地位にあった前田隆司ら、いわゆる脱税請負人と共謀の上、被告人京屋の実父が所有していた土地の売却にかかる長期譲渡所得約二億四千万円を秘し、同人の所得税七一五六万七一〇〇円を不正に免れたという所得税法違反の事実である。

被告人京屋は、相続税対策として着手したマンション建設計画がとん挫し、多額の損が生じていたことから、右土地の売却益を少しでも残しておこうと考えて、仲介業者の被告人藤原に脱税話を持ちかけ、同被告人において、以前から付き合いがあり、約一八〇〇万円を貸し付けていた前記前田らに本件脱税工作を依頼するに至ったものであって、その動機・経緯等に被告人らのため特にしん酌すべき点は見当たらない。また、その手口も、多額の保証債務が存在するかのような内容虚偽の金銭消費貸借契約証書を作成したり、その履行を装うため、右土地の売却代金を右前田名義の銀行口座に振り込むなど、まことに悪質巧妙というほかない。本件脱税の金額は七千万円以上の多額に及んでおり、いわゆるほ脱率も高いほか、右前田らに多額の報酬を約して脱税工作を依頼した被告人両名の行為が、いわゆる脱税請負人のこの種犯行を誘発し、助長することとなった点も無視することができないのであって、その結果は重大である。加えて、被告人京屋は、大蔵省に勤務する国家公務員として、納税義務を始めとする国民の義務をよりいっそう遵守すべき立場にありながら、自己の個人的利益のために本件犯行に及んだものであり、その社会的影響も考慮すると、同被告人の刑事責任は重いといわなければならない。また、被告人藤原も、同京屋の依頼によるとはいえ、安易に同和団体の代表者を紹介し、本件犯行を実現に導いたのであって、その果たした役割は軽視できず、同人の刑事責任もやはり重いというほかない。

他方、被告人らは、安易な気持ちから脱税を思い立ったものであるが、その実現にあたっては、既に同種の犯行を実行したことがあり、脱税工作を請負うことによって多額の報酬を目論んでいた前記前田らにそそのかされる形で実行の意思を固めたものであり、脱税の手段方法も、右前田らの発案によるものであって、被告人両名は、その指示に従ったにすぎないこと、被告人両名とも、本件犯行後は真しな反省の情を示していること、被告人京屋において、本件犯行の発覚後直ちに修正申告を行い、本税に過少申告加算税や重加算税などの附加税を含め、その全額を納付済みであること、被告人両名に本件犯行による利得は残っておらず、かえって被告人京屋が前記前田らに支払った脱税報酬のうち二五〇〇万円余は同人らが利得したままとなるなどの経済的な不利益を被っていること、また、被告人京屋が本件起訴に伴い休職を余儀なくされるなどの社会的制裁も受けていること、被告人京屋はこれまで前科前歴がなく、国家公務員としてまじめに勤務してきたものであり、被告人藤原も本件とは事案を異にする罰金前科以外には前科がなく、同じく正業に従事してきたものであること、被告人京屋が禁錮以上の刑に処せられた場合、公務員の職を失う可能性があることなど、被告人両名のために有利又はしん酌すべき事情も認められる。

そこで、これらの諸情状を総合して考慮し、被告人両名に対し、主文の懲役刑(被告人京屋にはさらに罰金刑)を科するとともに、その刑の執行を猶予するのが相当と判断した次第である。

(検察官花﨑政之、私選弁護人田中森一各出席。求刑・被告人京屋に対し懲役一年六月及び罰金二〇〇〇万円、同藤原に対し懲役一年)

(裁判官 畑山靖)

修正損益計算書

自 平成5年1月1日

至 平成5年12月31日

京屋増治郎

<省略>

税額計算書

京屋増治郎

<省略>

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