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大阪地方裁判所 平成9年(わ)2727号 1998年9月18日

本店所在地

大阪市東住吉区中野二丁目七番二三号

株式会社加世田組

右代表者代表取締役

加世田良美

本籍

鹿児島県姶良郡加治木町本町一四一番地

住居

大阪市東住吉区中野二丁目三番一八号

会社役員

加世田良美

昭和一九年一一月二七日生

右の両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中井隆司出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社加世田組を罰金三四〇〇万円に、被告人加世田良弘を懲役一年六月に処する。

被告人加世田良弘に対し、この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社加世田組(以下「被告会社」という。)は、大阪市東住吉区中野二丁目七番二三号に本店を置き、鳶・土木工事業等を営むもの、被告人加世田良弘は、被告会社の実質的経営者としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人加世田良弘は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一  被告会社の平成三年八月一日から平成四年七月三一日までの事業年度における実際の所得金額が一億四〇一四万三七七八円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が五一六六万二六〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、架空の外注費等を計上するなどの方法により、右所得を秘匿した上、同年九月三〇日、大阪市平野区平野西二丁目二番二号所在の所轄東住吉税務署において、同署署長に対し、右事業年度の所得金額が零円で、これに対する法人税額が零円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度分の法人税五一六六万二六〇〇円を免れ

第二  被告会社の平成四年八月一日から平成五年七月三一日までの事業年度における実際の所得金額が七五〇九万四四九一円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が二七三七万四五〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、前同様の方法により、、右所得の一部を秘匿した上、同年九月三〇日、前記東住吉税務署において、同署署長に対し、右事業年度の所得金額が九六万九五四二円で、これに対する法人税額が二四万五六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度分の法人税二七一二万八九〇〇円を免れ

第三  被告会社の平成五年八月一日から平成六年七月三一日までの事業年度における実際の所得金額が二億二七八四万〇六八五円(別紙三の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が八四六六万二二〇〇円(別紙三の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、前同様の方法により、、右所得の一部を秘匿した上、同年九月二九日、前記東住吉税務署において、同署署長に対し、右事業年度の所得金額が二七五七万五二六八円で、これに対する法人税額が九五六万二八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度分の法人税七五〇九万九四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(各項目末尾の数字は、証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人加世田良弘及び被告会社代表者加世田良美の当公判廷における各供述

一  被告人の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書(50、51)

一  鈴木茂弘及び加世田貞美の検察官に対する各供述調書(38、39)

一  大蔵事務官作成の検察官調査書二五通(13ないし37)

一  大蔵事務官作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(8)

一  大阪法務局登記官作成の登記簿謄本(47)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(「記録第1号」と表示されているもの)(2)

一  東住吉税務署長作成の証明書(平成四年九月三〇日申告に係る法人税確定申告に関するもの)(5)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(「記録第2号」と表示されているもの)(3)

一  東住吉税務署長作成の証明書(平成五年九月三〇日申告に係る法人税確定申告書に関するもの)(6)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(「記録第3号」と表示されているもの)(4)

一  東住吉税務署長作成の証明書(平成六年九月二九日申告に係る法人税確定申告書に関するもの)(7)

一  大阪税務局査察部査察統括第二課国米智裕作成の報告書二通(11、12)

(法令の適用)

被告人加世田良弘の判示第一ないし第三の各所為は、いずれも、平成一〇年法律第二四号附則一二条により同法による改正前の法人税法(以下「旧法人税法」という。)一五九条一項に該当するので、判示各罪についていずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用して同被告人に対しこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

また、被告人加世田良弘の判示各所為は、いずれも、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、右各所為につき、平成一〇年法律第二四号附則一二条により旧法人税法一六四条一項に従い同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して、右の罰金額はいずれもその免れた法人税の額に相当する金額以下とし、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により旧刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金の多額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金三四〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告会社の業務を実質的に統括していた被告人加世田良弘が、将来不況になった際の資金繰りなどに備える必要を感じるとともに、一生懸命働いて稼いだ金を税金として徴収されるのは馬鹿らしいという心境から、三事業年度にわたって合計約一億五四〇〇万円の法人税をほ脱したという事案である。そして、同被告人が企業の実質的経営者として不況に備えて資金を確保する必要性を感じた心情自体は理解できるものの、それがために脱税という方法を選択することは極めて安易かつ自己中心的な行為というほかなく、類似した経済的条件にある大多数の企業経営者が適法な経営努力によってその目的達成を図っていることとの対比から見ても、その動機に客観的意味で酌量の余地があるとはいい難い。また、犯行の態様は、正規の税額の概要を知りながら、経理事務を担当していた実弟や税理士に、ほ脱率が極めて高率となるような具体的な税金額を示して指示を与え、右実弟が更に事務員に虚偽の賃金内訳明細書を作成させるなど、直接・間接に第三者を犯行に巻き込んで行ったものであり、結果としてほ脱額、ほ脱率も高額・高率であって、悪質というほかない。

したがって、各被告人の刑事責任を軽視することはできない。

他方、被告人加世田良弘が当初から事実を認めて本件各行為を反省し、被告会社において既に本税の全部を納付しているほか、延滞税及び重加算税についても逐次その納付に努めていること、本件所得の形成は、被告人加世田良弘の経営手腕と努力によるもので、その過程に違法性がないこと、被告会社が本件によりいくつかの自治体等から指名停止の処分受けたり、金融機関から融資を拒絶されるなど、一定の社会的制裁を受けていることなど、被告人両名のため有利に斟酌すべき事情も見出せるので、これら諸情状を総合考慮の上、各被告人に対してそれぞれ主文掲記の刑を定めた上、被告人加世田良弘の懲役刑については、その執行を猶予することとしたものである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 植野聡)

(別紙一の1)

修正損益計算書

自 平成3年8月1日

至 平成4年7月31日

株式会社加世田組

<省略>

(別紙一の2)

税額計算書

自 平成3年8月1日

至 平成4年7月31日

株式会社加世田組

<省略>

(別紙二の1)

修正損益計算書

自 平成4年8月1日

至 平成5年7月31日

株式会社加世田組

<省略>

(別紙二の2)

税額計算書

自 平成4年8月1日

至 平成5年7月31日

株式会社加世田組

<省略>

(別紙三の1)

修正損益計算書

自 平成5年8月1日

至 平成6年7月31日

株式会社加世田組

<省略>

(別紙三の2)

税額計算書

自 平成5年8月1日

至 平成6年7月31日

株式会社加世田組

<省略>

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