大阪地方裁判所 平成9年(わ)4299号 1998年10月02日
本籍
大阪府茨木市下中条町四四八番地の五
住居
同市奈良町一六番四六号 シャンテハイツ二〇二号
税理士事務所事務員(元税理士)
長谷川治雄
昭和三一年三月一三日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中井隆司、弁護人亀井正貴(主任)各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年二月及び罰金八〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、所有不動産を譲渡した杉澤美智子の所得税確定申告手続に関与したものであるが、同人並びにその所得税確定申告手続に関与した杉澤ヒサ子、中島美一及び平井一人と共謀の上、右杉澤美智子の所得税を免れようと企て、同人の平成六年分の総合課税の総所得金額が一一二一万九〇九四円、分離課税の長期譲渡所得金額が二億二二三三万四八〇四円(別紙1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が六六〇七万五七〇〇円(別紙2税額計算書参照)であるにもかかわらず、虚偽の領収証を作成して譲渡費用を支出したかのように仮装する行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成七年三月一五日、大阪府枚方市大垣内町二丁目九番九号所在の所轄枚方税務署において、同署署長に対し、平成六年分の総合課税の総所得金額が一一二一万九〇九四円、分離課税の短期譲渡所得金額が一三万九四五一円、長期譲渡所得金額が一五一一万六八〇〇円で、これに対する所得税額が四七七万二七〇〇円(別紙2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、所得税六一三〇万三〇〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書二通
一 分離前の相被告人杉澤美智子、同杉澤ヒサ子及び同中島美一の当公判廷における供述
一 杉澤美智子(四通)、杉澤ヒサ子(二通)、中島美一(三通)及び平井一人(三通)の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の査察官調査書一二通
一 枚方税務署長作成の証明書
一 収税官吏作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面
(法令の適用)
被告人の判示所為は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)六五条一項、六〇条、平成一〇年法律第二四号附則二〇条により同法による改正前の所得税法二三八条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑及び罰金刑の併科を選択し、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年二月及び罰金八〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、旧刑法一八条により金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判が確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の事情)
本件は、税理士であった被告人が、杉澤美智子の所有不動産の処分にかかわっていた不動産業者中島美一から、右杉澤の譲渡所得税の脱税を持ち掛けられたことから、多額の報酬を得る目的で、右中島と共に右杉澤方を訪れ、脱税計画を説明して安心させるなどした挙げ句、同和団体役員である平井一人らとも共謀の上、架空の譲渡費用を計上することにより、その所得税約六一〇〇万円余りをほ脱させたものである。動機に酌むべきものがないのはもとより、税理士としてあるまじき犯行であって、共犯者の間で果たした役割も軽視できないこと、二億二〇〇〇万円もの多額の架空経費を計上することにより、所得税額を、九二パーセント余り圧縮した上、関与税理士欄に平井の署名がある申告書を提出するなど、その犯行手口も大胆であることなどに照らすと、犯情は芳しくなく、その刑責は重い。しかし、他方では、共犯者間における役割が一段低いものであることは否定できないこと、被告人には前科がなく、本件発覚後は素直に事実を認め、税理士会を脱会して事務員として働くとともに、不起訴となることを願って弁護人の助言に従ったものとはいえ、本件での報酬相当額を法律扶助協会に寄付するなどして、反省の情を示していること、勤務先の税理士が今後の監督を約束していることなど、被告人のため酌むべき事情も認められるので、これらの事情を総合考慮して、主文のとおり量刑した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 的場純男)
別紙1
修正損益計算書
自 平成6年1月1日
至 平成6年12月31日
杉澤美智子
<省略>
<省略>
<省略>
別紙2
税額計算書
自 平成6年1月1日
至 平成6年12月31日
杉澤美智子
<省略>