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大阪地方裁判所 平成9年(わ)4498号 1998年10月16日

国籍

大韓民国

住居

富山市堀川町五八三番地の三四

会社員

木下孝次郎こと李判

一九四一年七月一四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中井隆司出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、富山市桜町二丁目二番二三号所在の三書堂ビルほか二か所において、「キャッシュセンターロータリー」の名称で消費者金融業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  平成四年分の実際の総所得金額が一億一七五四万〇五八四円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が五四三一万八五〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、総所得金額が二一八六万二五七〇円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が六四七万九五〇〇円(別紙一の2税額計算書参照・なお申告書は誤って六二八万一〇〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿した上、平成五年二月一六日、同市丸の内一丁目五番一三号所在の所轄富山税務署において、同署署長に対し、右所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成四年分の所得税四七八三万九〇〇〇円を免れ

第二  平成五年分の実際の総所得金額が一億一〇八九万一〇七四円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が五〇九九万四〇〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、総所得金額が二三九一万三四一六円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が七五〇万五〇〇〇円(別紙二の2税額計算書参照・なお申告書は誤って七三〇万六五〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿した上、平成六年二月一六日、前記富山税務署において、同署署長に対し、右所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成五年分の所得税四三四八万九〇〇〇円を免れ

第三  平成六年分の実際の総所得金額が一億一九四九万六二四二円(別紙三の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が五二七一万二五〇〇円(別紙三の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、総所得金額が二五四三万一七五九円(別紙三の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が六三九万二四〇〇円(別紙三の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿した上、平成七年二月二三日、前記富山税務署において、同署署長に対し、右所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成六年分の所得税四六三二万〇一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(各項目末尾の数字は、証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書(34、35)

一  施秀雄の検察官に対する供述調書(10)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二二通(平成八年五月一三日付け・「記録第二〇-七二号」と表示されたものを除く各通)(11ないし32)

一  大蔵事務官作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(8)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(「記録第1号」と表示されたもの)(2)

一  富山税務署長大蔵事務官作成の証明書(平成四年分の確定申告に関するもの)(5)

判示第二及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の平成八年五月一三日付け検察官調査書(「記録第二〇-七二号」と表示されたもの)(33)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(「記録第2号」と表示されたもの)(3)

一  富山税務署長大蔵事務官作成の証明書(平成五年分の確定申告に関するもの)(6)

判事第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(「記録第3号」と表示されたもの)(4)

一  富山税務署長大蔵事務官作成の証明書(平成六年分の確定申告に関するもの)(7)

(法令の適用)

被告人の判示第一ないし第三の所為は、いずれも、平成一〇年法律第二四号附則二〇条により同法による改正前の所得税法二三八条に該当するので、判示各罪について所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し、罰金刑については情状により同条二項を適用して、右の罰金額はいずれもその免れた所得税の額に相当する金額以下とし、以上は平成七年法律第九一号附則二条二項により同法による改正後の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科することとし、同条二項により判示各罪の罰金額を合計し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が自らの営む前記「キャッシュセンターロータリー」の事業資金の確保のため、判示の各脱税に及んだ事案であるが、その動機に酌量すべき点は見当たらないほか、ほ脱額は合計約一億三七六五万円、ほ脱率は平均約八七パーセントと高額かつ高率である。また、被告人は、平成元年ころから継続的に脱税を行っていたもので、常習性も否めない。

したがって、被告人の刑事責任は相当重いというべきである。

他方、被告人が本件各事実を認めて、自己の行為を深く反省し、修正申告に基づいて、本件各年分の本税及び延滞税を既に全額納付し、重加算税についても完済の目処が立っていること、本件所得の形成過程に違法性がないこと、被告人が前記「キャッシュセンターロータリー」を法人化した上、税理士に経理を委託してその健全化を実践していること、さらに、被告人の前科が相当以前の罰金前科一犯のみにとどまっていることなど、被告人に有利な情状も見いだすことができる。

これらの諸情状を総合し、かつ、被告人の現在における経済的状況をも斟酌すると、被告人に対しては、主文掲記の刑期及び罰金額を定めた上、懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 植野聡)

(別紙一の1)

修正損益計算書

自 平成4年1月1日

至 平成4年12月31日

<省略>

(別紙一の2)

税額計算書

<省略>

(別紙二の1)

修正損益計算書

自 平成5年1月1日

至 平成5年12月31日

<省略>

(別紙二の2)

税額計算書

<省略>

(別紙三の1)

修正損益計算書

自 平成6年1月1日

至 平成6年12月31日

<省略>

(別紙三の2)

税額計算書

<省略>

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