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大阪地方裁判所 平成9年(わ)4968号 1998年9月25日

本籍

大阪市中央区日本橋一丁目五番地

住居

大阪市大正区泉尾一丁目二五番一八号

医師

島田耕一

昭和三一年一一月二八日生

本籍

大阪市中央区日本橋一丁目五番地

住居

大阪市大正区泉尾一丁目二五番一八号

会社役員

島田芳子

昭和三六年五月二八日生

右両名に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中井隆司出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人島田耕一を罰金一七〇〇万円に、被告人島田芳子を懲役一年に処する。

被告人島田耕一において右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人島田芳子に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人島田耕一は、大阪市中央区道頓堀二丁目一番一号において、「島田美容外科」の名称で診療所を営んでいたもの、被告人島田芳子は、同診療所の経理事務を担当していたものであるが、被告人島田芳子は、被告人島田耕一の業務に関し、同被告人の所得税を免れようと企て、

第一  平成五年分の実際の総所得金額が六七二五万七四四九円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が二八七九万〇七〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、診療収入の一部を除外するなどして、総所得金額が六八六万四六四五円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が六六万六〇〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿した上、平成六年三月一五日、同市港区磯路三丁目二〇番一一号所在の所轄港税務署において、同署署長に対し、右所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成五年分の所得税二八一二万四七〇〇円を免れ

第二  平成六年分の実際の総所得金額が六四七五万八四二九円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が二五七七万一四〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、前同様の方法により、総所得金額が八四五万六八一九円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が九六万七九〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿した上、平成七年三月一五日、前記港税務署において、同署署長に対し、右所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成六年分の所得税二四八〇万三五〇〇円を免れ

第三  平成七年分の実際の総所得金額が五五五三万一〇一七円(別紙三の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額がこ一〇四万五〇〇〇円(別紙三の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、前同様の方法により、総所得金額が六三九万九五四二円(別紙三の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が六四万三八〇〇円(別紙三の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿した上、平成八年三月一五日、前記港税務署において、同署署長に対し、右所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成七年分の所得税二〇四〇万一二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(各項目末尾の数字は、証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人両名の当公判廷における供述

一  被告人島田耕一の検察官に対する供述調書二通(20、21)

一  被告人島田芳子の検察官に対する供述調書五通及び大蔵事務官に対する質問てん末書(22ないし27)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書七通(11ないし17)

一  収税官吏作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(8)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成五年分に関するもの)(2)

一  港税務署長作成の証明書(平成五年分の確定申告に関するもの)(5)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成六年分に関するもの)(3)

一  港税務署長作成の証明書(平成六年分の確定申告に関するもの)(6)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成七年分に関するもの)(4)

一  港税務署長作成の証明書(平成七年分の確定申告に関するもの)(7)

(法令の適用)

被告人島田芳子の判示第一ないし第三の各所為は、いずれも、平成一〇年法律第二四号附則二〇条により同法による改正前の所得税法(以下「旧所得税法」という。)二三八条に該当するので、判示各罪についていずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号附則二条二項により同法による改正後の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用して同被告人に対しこの裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

また、被告人島田芳子の判示各所為は、いずれも、被告人島田耕一の業務に関してなされたものであるから、被告人島田耕一については、右各所為につき、平成一〇年法律第二四号附則二〇条により、旧所得税法二四四条一項に従い同法二三八条所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して、右の罰金額はいずれもその免れた所得税の額に相当する金額以下とし、以上は平成七年法律第九一号附則二条二項により同法による改正後の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金の多額を合計した金額の範囲内で同被告人を罰金一七〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、美容整形外科を営む被告人島田耕一の妻でその経理を担当していた同島田芳子が、夫の勤労による所得を税金として徴収されるのがもったいないという心情に駆られるとともに、万一の医療過誤の際に高額の賠償金を支出しなければならないという不安感も手伝って、三年にわたって合計七三〇〇万円余りの脱税に及んだ事案であるが、右のような動機に客観的に酌量の余地がないことは明らかであり、また、脱税の手段は、単に売上除外を行うほか、税理士事務所の事務員に執拗に依頼して架空の宣伝広告費を上乗せさせるという、第三者を犯行に巻き込む行為にも出ており、悪質というべきであり、ほ脱額、ほ脱率も高額・高率である。さらに、同被告人は、平成二年分の確定申告から本件同様の手段による脱税をしていたのであって、常習性も否めない。

したがって、被告八島田芳子の刑事責任を軽視することはできず、また、被告人島田耕一についても、その業務が多忙であるとはいえ、業務の重要な一環である経理面を全面的に同芳子にゆだね、その適正さの検証を怠っていたもので、監督懈怠の程度は顕著である。

他方、被告人島田芳子が本件各事実を認めて、自己の行為を友省していること、本件所得の形成過程に違法性がないこと、被告人両名は、修正申告に基づいて、本件の本税のほか、重加算税及び延滞税についても既に完納していること、被告人島田耕一が、従前の監督が不十分であったことを反省し、一定限度で経理の適正さをチェックすることを実践していること、本件が新聞に報道されるなど被告人らが一定の社会的制裁を受けていること、被告人らに前科がないこと等、被告人らに有利な情状も見いだすことができ、これらの諸情状を総合すると、被告人両名について、それぞれ主文掲記の刑を定めた上、被告人島田芳子の懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 植野聡)

(別紙一の1)

修正損益計算書

自 平成5年1月1日

至 平成5年12月31日

島田耕一

<省略>

(別紙一の2)

税額計算書

<省略>

(別紙二の1)

修正損益計算書

自 平成6年1月1日

至 平成6年12月31日

島田耕一

<省略>

(別紙二の2)

税額計算書

<省略>

(別紙三の1)

修正損益計算書

自 平成7年1月1日

至 平成7年12月31日

島田耕一

<省略>

(別紙三の2)

税額計算書

<省略>

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