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大阪地方裁判所 平成9年(わ)5051号 1998年11月13日

国籍

大韓民国

住居

大阪市阿倍野区阿倍野筋三丁目一二番三―六〇四号

会社役員

文野昌義こと文昌義

一九六七年九月九日生

右の者に対する所得税法違反、大麻取締法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中井隆司出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金一七〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

押収してあるチャック付ポリ袋入り大麻樹脂一袋(平成一〇年押第九六五号の1)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  大阪市浪速区稲荷二丁目七番一八号において、「ウイング」の名称でテレビゲーム機卸売業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

一  平成六年分の実際の総所得金額が七七四九万六七六〇円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が三二一八万八五〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、総所得金額が五四六万二〇一二円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が四二万二七〇〇円(別紙一の2税額計算書参照・なお申告書には誤って三六万二七〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿した上、平成七年三月一四日、同市西成区千本中一丁目三番四号所在の所轄西成税務署において、同署署長に対し、右所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成六年分の所得税三一七六万五八〇〇円を免れ

二  平成七年分の実際の総所得金額が一億〇三四七万五三三七円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が四四九四万三五〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、総所得金額が八一〇万六四七九円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が九五万五八〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿した上、平成八年三月一五日、前記西成税務署において、同署署長に対し、右所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成七年分の所得税四三九八万七七〇〇円を免れ

第二  みだりに、平成八年一〇月一七日、同市浪速区稲荷二丁目七番一八号所在の株式会社ウイング事務所において、大麻約五・一五二グラムを所持し

たものである。

(証拠の標目)

(各項目末尾の数字は、証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

判示第一の一及び二の各事実について

一  被告人の検察官に対する平成九年一一月二一日付け及び同月二七日付け(二通)各供述調書(45ないし47)

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(44)

一  平野千代子(二通)及び坂上行男の検察官に対する各供述調書(10ないし12)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二七通(平成九年六月二〇日付けで「記録21―2号」「記録21―3号」「記録21―4号」「記録21―5号」とそれぞれ記載された四通を除く各通)(17ないし33)

一  大蔵事務官作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(7)

判示第一の一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成六年分に関するもの)(2)

一  阿倍野税務署長作成の証明書(「記録第5号」と記載されたもの)(4)

一  大蔵事務官作成の平成九年六月二〇日付け査察官調査書二通(「記録21―4号」と記載されたもの及び「記録21―5号」と記載されたもの)(13、15)

判示第一の二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成七年分に関するもの)(3)

一  阿倍野税務署長作成の証明書(「記録第7号」と記載されたもの)(6)

一  大蔵事務官作成の平成九年六月二〇日付け査察官調査書二通(「記録21―2号」と記載されたもの及び「記録21―3号」と記載されたもの)(14、16)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する平成九年一一月二七日付け及び同年一二月一日付け各供述調書(49、50)

一  大蔵事務官作成の臨検捜索てん末書及び差押てん末書(35、36)

一  被告人作成の差押物件還付受領証(37)

一  被告人作成の任意提出書(38)

一  検察事務官作成の領置調書(39)

一  検察官作成の鑑定嘱託書の謄本(40)

一  技術吏員作成の鑑定書(41)

一  押収してあるチャック付ポリ袋入り大麻樹脂一袋(平成一〇年押第九六五号の1)(42)

(法令の適用)

被告人の判示第一の一及び二の各所為は、いずれも、平成一〇年法律第二四号附則二〇条により同法による改正前の所得税法(以下「旧所得税法」という。)二三八条に、判示第二の所為は大麻取締法二四条の二第一項に、それぞれ該当するので、判示第一の一及び二の各罪について所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し、罰金刑については情状により旧所得税法二三八条二項を適用して、右の罰金刑はいずれもその免れた所得税の額に相当する金額以下とし、以上は平成七年法律第九一号附則二条二項により同法による改正後の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第一の二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第一の一及び二の各罪所定の罰金の多額を合計し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金一七〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、押収してあるチャック付ポリ袋入り大麻樹脂一袋(平成一〇年押第九六五号の1)は判示第二の罪に係る大麻で犯人の所有するものであるから、大麻取締法二四条の五本文によりこれを没収することとする。

(量刑の理由)

本件各犯行のうち、まず、所得税法違反の点については、そのほ脱額は二年分合計七五〇〇万円以上の高額にのぼり、ほ脱率は平均約九八パーセントと極めて高率である。被告人は、景気がよいうちに脱税により事業資金を確保しようという安易な考え方のもとに、開業後二、三年間は税務調査を受けることがないという風評に乗じて犯行に及んだもので、右のような動機・経緯に酌量の余地がないことはもとより、被告人がそのような動機により事業開始直後にあたる平成五年分の確定申告時から脱税を行っていたことに照らすと、被告人の納税意識の希薄さは明らかであり、その行為を一過性のものとして軽視することはできない。また、大麻の所持の点についても、被告人は、ディスコで知り合った外国人から、酒をおごるなどした謝礼として本件大麻を渡され、ただでくれるならもらっておこうという極めて軽薄な気持ちでこれを受け取った後、漫然と所持を続けていたもので、被告人の薬物に対する安易な態度は厳しく責められるべきである。

したがって、被告人の刑事責任は相当重いというべきである。

他方、所得税法違反については、犯行態様が特に巧妙なものではないこと、所得の形成過程に違法性がないこと、被告人が本件各事実を認めて、自己の行為を深く反省し、修正申告に基づいて、本件各年分の本税のほか、延滞税、重加算税等を既に全額納付し、市・府民税についても順次その納付に努めており、かつ、適正な税務申告を励行していること、本件を契機に一部の主要な取引先から取引を中止されるなどの社会的制裁を受けていること、また、大麻の所持についても、入手の契機に偶発的な面があるほか、被告人が大麻を現実に使用したり、第三者に拡散する行為に出た事実もないこと、被告人が所得税法違反の嫌疑に係る押収物に大麻が含まれていることを自ら査察官に申告し、その後も事実を認めて反省していることなど、被告人に有利な事情も指摘できる。

これらの諸情状を総合し、かつ、被告人の現在における経済的状況をも加味すると、被告人に対しては、主文掲記の刑期及び罰金額を定めた上、懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 植野聡)

(別紙一の1)

修正損益計算書

自 平成6年1月1日

至 平成6年12月31日

<省略>

(別紙二の1)

修正損益計算書

自 平成7年1月1日

至 平成7年12月31日

<省略>

(別紙一の2)

税額計算書

自 平成6年1月1日

至 平成6年12月31日

<省略>

(別紙二の2)

税額計算書

自 平成7年1月1日

至 平成7年12月31日

<省略>

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