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大阪地方裁判所 平成9年(わ)5182号 1998年12月04日

本籍

鹿児島県大島郡伊仙町大字伊仙四三〇番地

住居

大阪府守口市滝井元町三丁目四番一号

不動産売買・仲介業

久保進

昭和三二年一〇月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中井隆司出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪府守口市大庭町一丁目三番一九号において、富士住建販売の名称(平成八年に「フジヒサハウジング」に名称変更)で不動産売買・仲介業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  平成五年分の実際の総所得金額が一億五三一三万九三六四円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が七一五八万九〇〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、総所得金額が一二四九万六七三四円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が二二三万〇四〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿した上、平成六年三月一五日、同府門真市殿島町八番一二号所在の所轄門真税務署において、同署署長に対し、右所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成五年分の所得税六九三五万八六〇〇円を免れ

第二  平成六年分の実際の総所得金額が八七九二万三五一六円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が三六八一万四六〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、総所得金額が一六一七万〇五六一円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が二七九万四三〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿した上、平成七年三月一五日、前記門真税務署において、同署署長に対し、右所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成六年分の所得税三四〇二万〇三〇〇円を免れ

第三  平成七年分の実際の総所得金額が九四八二万九六八一円(別紙三の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が三九六一万一七〇〇円(別紙三の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、総所得金額が一六八三万九九三九円(別紙三の1修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が二五三万〇九〇〇円(別紙三の2税額計算書参照)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿した上、平成八年三月一五日、前記門真税務署において、同署署長に対し、右所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成七年分の所得税三七〇八万〇八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(各項目末尾の数字は、証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(43)

一  西村佳隆の大蔵事務官に対する質問てん末書(11)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書三〇通(12ないし41)

一  大蔵事務官作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(8)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成五年分に関するもの)(2)

一  門真税務署長作成の証明書(平成五年分の確定申告に関するもの)(5)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成六年分に関するもの)(3)

一  門真税務署長作成の証明書(平成六年分の確定申告に関するもの)(6)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成七年分に関するもの)(4)

一  門真税務署長作成の証明書(平成七年分の確定申告に関するもの)(7)

(法令の適用)

被告人の判示第一ないし第三の所為は、いずれも、平成一〇年法律第二四号附則二〇条により同法による改正前の所得税法二三八条に該当するので、判示各罪について所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し、罰金刑については情状により同条二項を適用して、右の罰金額はいずれもその免れた所得税の額に相当する金額以下とし、以上は平成七年法律第九一号附則二条二項により同法による改正後の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪の罰金額を合計し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が事業資金の確保のため、三年分にわたり、合計一億四〇〇〇万円余りの所得税をほ脱した事案であるが、その動機に特に酌量すべき理由は窺われず、また、被告人は、現場台帳等を見て各年度の実際の所得金額の概要を十分認識しながら、各年その一ないし二割程度の所得しか申告しないばかりか、右申告に際し、顧問先の会計事務所の事務員に、真実それだけの所得しかない旨の嘘を申し向け、これを自己の手足として利用していたのであって、犯情は芳しくない。また、そのほ脱額は前記のとおり高額であるほか、ほ脱率も約九五パーセントと高率である。さらに、被告人は、平成二年ころから継続して脱税を行っていたもので、常習性もないとはいえない。

したがって、被告人の刑事責任を軽視することはできない。

しかしながら、被告人が、本件犯行後、自発的に修正申告を行い、これに基づいて、各本税のほか、重加算税及び延滞税をも既に完納していること、本件犯行を反省していること、コンピューターを導入して経理の適正化を実践する試みを行っていること、地域社会に対する貢献も認められること等、被告人に有利な情状も見いだすことができ、これらの諸情状を総合すると、被告人に対しては、主文掲記の刑期及び罰金額を定めた上、懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 植野聡)

(別紙一の1)

修正損益計算書

自 平成5年1月1日

至 平成5年12月31日

久保進

<省略>

(別紙二の1)

修正損益計算書

自 平成6年1月1日

至 平成6年12月31日

久保進

<省略>

(別紙三の1)

修正損益計算書

自 平成7年1月1日

至 平成7年12月31日

久保進

<省略>

(別紙一の2)

税額計算書

自 平成5年1月1日

至 平成5年12月31日

久保進

<省略>

(別紙二の2)

税額計算書

自 平成6年1月1日

至 平成6年12月31日

久保進

<省略>

(別紙三の2)

税額計算書

自 平成7年1月1日

至 平成7年12月31日

久保進

<省略>

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