大阪地方裁判所 平成9年(ワ)10124号 判決 1999年9月27日
本訴原告兼反訴被告
林一雄
右訴訟代理人弁護士
山下潔
(他七名)
本訴被告兼反訴原告
バイエル薬品株式会社
右代表者代表取締役
ヴォルフガング・プリシュケ
本訴被告
見永武芳
右両名訴訟代理人弁護士
竹林節治
畑守人
中川克己
福島正
松下守男
竹林竜太郎
(なお、本件では、以下、本訴原告兼反訴被告を単に「原告」といい、本訴被告兼反訴原告及び本訴被告をいずれも単に「被告」という)
主文
一 原告の訴えのうち、被告バイエル薬品株式会社に対し、本判決確定後に支払期日の到来する賃金の支払を求める部分を却下する。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 原告は、被告バイエル薬品株式会社に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成八年四月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は、本訴反訴とも、原告の負担とする。
五 この判決は、第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴
1 原告が、被告バイエル薬品株式会社に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告バイエル薬品株式会社は、原告に対し、平成八年一二月二五日以降、毎月二五日限り八五万二四八三円の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告に対し、各自三〇〇万円及びこれに対する平成八年二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴
原告は、被告バイエル薬品株式会社に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成八年四月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本訴
原告は、被告バイエル薬品株式会社(以下「被告会社」という)の従業員であり、懲戒解雇された者であるが、その効力を争い、被告会社に対し従業員の地位確認及び賃金支払を求めるとともに、<1>被告会社による違法文書に関する査問、<2>被告見永武芳(以下「被告見永」という)による退職強要、<3>被告会社による自宅待機命令、<4>右懲戒解雇がそれぞれ不法行為を構成するとして、被告らに対し、慰藉料の支払を求めるものである。
被告会社の右懲戒解雇事由は、<1>原告が無断で別紙(一)記載の物品一九点合計約一五〇〇万円相当を購入したこと、<2>被告会社のために返金を受けた一〇万円を領得したことの二点である。
二 反訴
被告会社が、原告の右懲戒解雇事由<1>の行為によって一四〇〇万円を超える損害を受けたとして、その内一〇〇〇万円の賠償を求めるものである。
第三前提事実(争いがない事実等)
一 当事者
1 被告会社は、大阪市淀川区(以下、略)に本店を置き、滋賀県甲賀町に工場を、全国四八か所に支店、営業所を置き、医薬品、薬事法による医薬部外品、化粧品等の輸入、販売等を目的とする株式会社であり、資本金二二億七三四二万五〇〇〇円、従業員数約一九〇〇人である。
2 原告は、昭和四八年三月岐阜薬科大学製造薬学科卒業、昭和五一年三月京都大学工学部大学院合成化学科修士課程を修了し、薬剤師、臨床検査技師の資格を有する者であり、前記大学院での研究を終了した後、帝人株式会社生物医学研究所、防衛医科大学第二内科医局、株式会社スペシャル・レファレンス・ラボラトリー等に研究員として勤務し、昭和六一年一二月一日から、被告会社に勤務している者である。ただし、正式の雇用は、同月二一日からである。
3 被告見永は、被告会社の取締役であるとともに、研究開発本部長として同部門の責任者である。
二 原告のコージネイト市販後調査担当等
1 原告は、被告会社の研究開発部門の一つである品質保証部門(以下「QAD」という)に所属し、滋賀工場に勤務していた。原告の上司はQADアナリシスマネージャーの橋本公明(以下「橋本」という)であり、その上司は被告見永である。
2 被告会社においては、平成五年九月、血友病治療薬である遺伝子組換え型血液凝固第Ⅷ因子製剤「コージネイト」の販売を開始し、同時に、その市販後調査(以下「PMS」という)が開始された。PMSは、薬事法一四条の四第六項により、一定の医薬品等について製造の承認を受けた者に義務づけられるもので、当該薬品の再審査申請(同条の四第一項)の資料としても必要なものであり、その目的は、開発段階で明らかでなかった安全性(特に副作用)、有効性に関する調査である。
3 被告会社は、コージネイトのPMS業務を遂行するに当たり、奈良県立医科大学(以下「奈良医大」という)に対し、その一部である集中測定業務等を委託した。奈良医大においては、同大学小児科の吉岡章教授(以下「吉岡教授」という)、嶋緑倫助教授(以下「嶋助教授」という)らが責任者となって右業務が実施され、被告会社からは原告が派遣されて右業務に当たった。なお、奈良医大に派遣された被告会社の従業員は原告のみであった。
右PMS業務の内容は、具体的には、<1>IgE測定方法の確立試験、<2>抗体検査の実施(全国の血友病患者の血漿検体を集中測定する)、<3>凝固因子検査の実施であったが、原告はこの内、主として<1>及び<2>の業務に関与していた。
4 抗体検査のための抗体測定項目は、当初、マイルス法による三種類と奈良-BY法による三種類の合計六項目であったが、マイルス法と奈良-BY法とで異なる検査結果が出ることがあり、マイルス法の問題点が指摘され、その改良がなされるとともに、検査方法は、次第に、奈良-BY法に置き換えられていった。また、検査項目は、平成六年夏ころから増加するに至った。
平成六年一〇月一日、東京において、コージネイトを使用する医師二〇〇名以上が参加してコージネイト研究会が開催された。この研究会に、被告会社からは、被告見永、営業取締役の長谷川裕(以下「長谷川」という)、PMS統括責任者の平川能武(以下「平川」という)らPMS関係者が参加した。研究会の席上、IgE抗体測定についての質問が出席者からあり、当時からIgE抗体測定方法の確立が求められていた。その後、平成七年一月一〇日、九州NTT病院土屋医師の患者にアナフラキシー(様)ショック症状を呈する患者が出たこともあり、IgE抗体測定の方法としては、平成七年六月ころは、レリスポット法が検討されていた。
三 物品購入手続等
1 被告会社においては、物品を購入するについて、購買規定を設けているが、これによれば、購買依頼者は、予算化された購買計画を購買責任者に通知し、購買責任者は、購買計画に基づき購買予定を作成する(一五条)。購買依頼者は、購買計画に基づき購買を希望する物品の規格、数量及び納入時期を定め、所定の購買依頼書をもって購買責任者に依頼する(一六条)。購買責任者は、市場調査の後、原則として三業者を選択して見積書を入手し、価格、品質、納期、支払及びその他の条件について交渉を行い、比較検討する。それに基づき、主管責任者が取引先及び価格を決定する。
一回の発注金額が二〇万円以上の場合、総括責任者または主管責任者の承認を得て、購買責任者が発注する。発注方法は、注文書の発行をもって行う。
一回の発注金額が二〇万円未満の場合、購買依頼者または規格管理者は一業者からの見積書をもって必要事項を検討し、それぞれ取引先及び価格を決定し(一七条)、購買依頼者または規格管理者が直接口頭で発注する(一八条)。
2 奈良医大におけるコージネイトのPMS業務に関し、被告会社は委託先である奈良医大に対し、研究委託費を支払っていた。右委託費以外に、PMS業務に関して被告会社が支出すべき経費としては試薬類や消耗品的器材類があり、これらについては予めPMSにおいて予算(経費予算)化されていた。
物品を購入する現実の手続は、原告が発注する場合、原告において業者に納入を指示し、物品が納入されたとき、納品書に原告が署名し、納入業者において、右署名のある納品書を添えた請求書を、PMSマネージャーである富田秀一(以下「富田」という)に提出し、これが富田から経理に回されて、業者に代金が支払われるという経路をとる。
3 平成七年三月一日、平川、長谷川、橋本、富田、老松秀夫、原告及び西崎兼太郎(以下「西崎」という)が出席して、奈良医大とコージネイトPMS・QADとの打ち合わせが開催され(以下「打ち合わせ会」という)、の打ち合わせ会において、同年度の予算について合意された。打ち合わせ会の議事録の二項には、「予算(試薬代等の実費)」との項目に、
<1> 抗体検査(rFⅧ、BKH、C7F7)費用 Total 一〇〇〇万円/年
<2> IgE測定費用 二〇〇万円/年
<3> IgE測定方法確立試験 五〇〇万円
<4> インヒビター及び各種抗体陽性検体についての確認試験費用(Max六例×四〇万円) 二四〇万円
と記載され、右予算額の合計は一九四〇万円である。
四 本件各物品の購入
原告は、平成七年七月から平成八年二月にかけて、被告会社名で、有限会社ワールドサイエンス(以下「ワールドサイエンス」という)に対し、別紙(一)記載のとおり、その番号1の1ないし3、2ないし19の各物品を発注し、各物品はいずれも別紙(一)記載の納品場所に納入された。
これらは概ね一件あたり二〇万円を超える物品であったが、その請求書及び納品書は、原告がワールドサイエンスの代表取締役である山崎保正(以下「山崎」という)に指示をして、実際の物品名ではなく、PMS業務に使用できる二〇万円未満の消耗品(主として試薬類)の名称(延べ一四〇品目)を記載して作成させたものである。具体的には、原告において、実際の購入物品に代わる「代替商品」をカタログリストにマークを記入して山崎に指示し、山崎は購入物品の値段と代替商品の値段とを照合したメモを作成して原告に提示し、原告の了解を得た上で内容虚偽の納品書及び請求書を作成していた(書証略)。
右物品の合計価額(ワールドサイエンスの申告による実際の売買価格であり、「定価」より減額されている)は、一四四三万三一八四円であり、被告会社は、ワールドサイエンスに対し、平成八年三月二七日までに、右金額を支払った。
五 違法文書問題
1 平成六年一月ころから、厚生省、被告会社役員宅、従業員宅等に頻繁に嫌がらせなどを記載した文書が送付されるという事件が発生し(以下、便宜「違法文書問題」という)、これについて平成七年六月から被告会社による調査が行われていた。
2 原告は、平成七年九月四日、被告会社本社(大阪市淀川区所在)において被告会社の指示により、被告会社が委託した調査機関「クロール・アソシエイト」(以下「クロール」という)の調査員であるフレッド・シュミット(以下「シュミット」という)、パトリック・マラニーと面談した。右両名は、原告に対し、違法文書問題の犯人調査への協力を依頼し、文書(一連の違法文書のうちの一通)の写しを示し、原告が知っていることはないか質問したが、原告は「心当たりはない」と答えた。
3 なお、原告は、平成七年一一月末ころ、JR瀬田駅前ホテルのロビー喫茶室にて、上司であるQADマネージャーの橋本と会い、橋本から、同年一二月一日付け人事発令で前任の生物学的製剤管理者である植野一郎(以下「植野」という)が平成八年一月一日付で離任するので、その後任をするようにとの被告見永の指示を伝えられた。そこで、原告は、被告会社の指示命令に従って、植野からの引継作業に入り、その中で、植野から、出荷できない血液製剤が工場に六ロット保管されていることを聞かされた。
原告は、平成八年二月四日から同月一〇日まで、品質管理責任者の会議に出席のため、アメリカ合衆国に出張した。
原告は、平成八年二月一三日から同月二九日まで、被告会社滋賀工場において、薬事法二三条において準用する同法一五条二項の規定による生物学的製剤管理者を兼務した。
4 被告会社は、平成八年二月二六日夕刻、原告に対し、同月二七日午後一時に大阪ヒルトンホテル二一二六号室に行き、シュミットと面談するようにとの指示を行い、原告は、時間の変更を求めたうえ、同月二七日午後四時三〇分に右ホテルに出向いた。そして、シュミット、フランク・コロニー(以下「コロニー」という。同人も、前記調査機関クロールの調査員である)が原告と面談した。
シュミットは、原告に対し、原告が被告会社に業務報告のために提出した書面(これが原本か写しかについては争いがある。また、(書証略)と同一のものかについて争いがある)を示して、これが原告作成の文書であるか否かの確認を求め、原告が、これを自己作成の文書であると確認して、その右下に、確認の意味で署名した。シュミットは、その文書にある印字の際に生じたと考えられるマークと、違法文書の一部に残されている周期的なマークが酷似していることなどを述べ、原告が違法文書の送付者ではないかと問い質したが、原告は自分が送付者ではないと回答した。
コロニーは、同日、原告に対し、ホテルの一室でポリグラフ検査を実施し、原告が右ホテルから退室したのは午後一一時三〇分ころであった(シュミットが、原告に疑いがかけられている理由を説明したのが、ポリグラフ検査の前であるか、後であるかは争いがある)。
5 原告が前記調査機関の調査員との面談を拒否したため、被告見永は、平成八年二月二九日、大阪ヒルトンホテルにおいて原告と話し合った。その際、被告見永は、原告に対し、(書証略)を示し、原告が犯人であると疑っていること及びその理由を具体的に説明し、任意退職を求めた。
6 被告会社は、平成八年三月一日、原告に対し、自宅待機を命令した。
原告は、違法文書問題に関し、身の潔白を主張し、弁護士である代理人を委任して抗議したことから、右自宅待機命令は解除され、平成八年七月一日から京都薬科大学(以下「京都薬大」という)に派遣された。原告は、平成八年五月一五日、大阪簡易裁判所に、被告会社に対する民事調停を申し立て、右調停は次項の懲戒解雇当時も継続中であった。
六 本件懲戒解雇等
1 被告会社は、平成八年一二月二四日、原告を本社に呼び出し、被告会社ヒューマンリソースマネージャーの七野雄樹において、原告に対し、口頭で、懲戒解雇する旨の通告をし、翌日、解雇通告書を送付した(以下「本件懲戒解雇」という)。右解雇通告書によれば、懲戒解雇事由は、次の二点にあり、これらが就業規則一八条三項二号「会社の諸規則に違反し、又は会社の指示命令に従わず故意に会社の秩序を乱した者」、同四号「許可なく会社の金品を持出し、融通使用した者」、同五号「故意又は過失により業務に支障を生じさせ、又は会社に損害を与えた者」に該当し、仮に右各号に該当しないとしても、同一三号「その他前各号に準じる行為をなした者」に該当するというものである。
(一) 原告は、奈良医大小児科の専修生として、PMS業務に必要な測定実施業務に従事していたが、平成七年七月より平成八年二月までの八か月間に、被告会社規定の手続きを経ることなく、私用のため購入したと判断せざるを得ないものが含まれている物品一九品目(別紙(一)のとおり、総額約一五〇〇万円。以下、「本件物品」という)を無断でワールドサイエンスから購入し、同社をして上記業務に必要な消耗品一四〇品目以上に分割した不正納品書及び請求書を提出させた。
(二) 原告は、ワールドサイエンスから過払いとして返金を受けた一〇万円を勝手に使用した。
2 被告会社は、毎月二五日に賃金を支払っているが、原告の平成八年の年間の賃金総額は、賃金月額四九万五二九〇円の二〇倍に、住宅手当月額二万七〇〇〇円の一二倍を加えた一〇二二万九八〇〇円であった。原告が、本訴において請求する賃金月額は、右年間賃金額を一二か月で除した八五万二四八三円である。
第三争点
一 本件懲戒解雇の解雇事由の有無
1 物品無断購入(反訴請求原因事実でもある)
2 現金一〇万円領得
二 解雇権濫用
三 原告に対する被告見永及び被告会社の不法行為
1 不法行為の成否
(一) 被告会社による違法文書問題の査問
(二) 被告見永による退職強要の有無
(三) 被告会社による自宅待機命令
(四) 被告会社による本件懲戒解雇
2 原告の損害額(慰藉料)
四 右物品無断購入による被告会社の損害(反訴請求原因事実)
第四争点に関する当事者の主張
一 争点一1について
1 被告会社の主張
本件物品の購入は、原告が、被告会社に無断でしたものであり、もって被告会社の秩序を乱し、損害を与えたものである。右無断購入は、懲戒解雇事由に該当し、被告会社に対する不法行為を構成する。
(一) 原告は、平成七年三月一日の打ち合わせ会において、本件物品の購入が予算化され、本件物品について被告会社による包括的承認がなされた旨主張するが、その議事録の記載を素直に読めば、その主張が正しくないことは明白である。
右議事録には、「測定項目及び予定検体数」の増加状況が、数字を挙げて明記されており、合計一九四〇万円の予算が「試薬代等の実費」として明記されている。打ち合わせ会において、試薬等の消耗品以外の機器の購入については何ら話し合われていない。一九四〇万円が経費予算であることは明らかである。
試薬について、このように予算が決まったのは、原告が、大量の試薬が必要であると主張したためであり、その必要がなかったとすれば、原告は当初から、被告会社を欺いていたことになる。
(二) 原告は、本件物品の購入は、富田の承諾を得ていた旨主張するが、無断購入が発覚した際、原告は、富田に対し、「奈良医大所有の試薬類をPMS業務に使用させてもらっていたので、これを補填するために、奈良医大の必要とする試薬類を被告会社の経費で購入している」と虚偽の弁明をしており、このことは、富田が本件物品の購入を知らず、また、原告に承諾を与えていなかったことの根拠となる。
富田が分割伝票の指示をした旨の記載のある(書証略)は、その提出時期、提出の経緯、記載内容のいずれからも原告が偽造した書面である。
(三) 本件物品のうち、別紙(一)記載7ないし9のマッキントッシュのパソコン及びその付属品、11のデジタルビデオカメラは、それらの本来の用途、仕様や、納入場所や設置場所が原告の自宅であること、PMS業務における必要性がないことなどから、原告が私用で購入したものである。
他の購入物品については、椅子を除き、一般論としては「業務用」の機器類に属するものであるといえるものの、PMS業務に関する必要性がほとんど認められないこと、現に右業務に使用した形跡がほとんどないこと、PMS業務と全く関係のない京都薬大に勝手に移そうとしていたこと(一部の物品については、被告会社の指示を無視して現に京都薬大に移していた)等の事情から見て、業務上の必要性に基づき購入したものとはいえない。
5及び13の椅子について、原告は、奈良医大のものを買い替えたというのであるが、被告会社が、奈良医大の椅子を、高級品に買い替えなければならない理由は全くない。
2 原告の主張
本件物品は、被告会社の承認のもとに購入したものであり、業務に必要なものである。被告会社においては、PMSで固定資産の購入が事実上困難であったこと、税法上、経費として損金処理する際便宜であった等の事情から、二〇万円未満へ分割して請求することが常態化しており、(書証略)にあるとおり、分割伝票も富田から原告に対して指示があった。
本件物品の購入は、懲戒解雇事由として根拠を欠くものであるし、被告会社に対する不法行為ともならない。
(一) 原告は、被告会社から、免疫応答に関する試験による抗体確認試験、二次元電気泳動法による確認試験、アレルギーIgE抗体測定等を行うことを指示され、その実施のために本件物品の購入が必要となった。また、被告会社は、平成七年度は、奈良医大との間で受託研究契約を締結し、PMSに関する基礎的研究をも委託するようになった。そこで、原告は、平成七年二月二三日、富田に新たな実験のための機器購入予算として二〇〇〇万円程度が必要になることを具申し、その了解を得た。そして、同年三月一日に開催された、PMSとQADのマネージャーを交えての平成七年度のPMSに関する打ち合わせ会で一九四〇万円が予算化され、その内の約一五〇〇万円が機器の購入に、残りが試薬類の購入に当てられることになった。すなわち、被告会社は、右予算の枠内において、原告に対し、PMSの基礎的研究に必要な試薬、機器の選定及び購入について包括的に承認をしたのである。
(二) 原告は、PMSに必要な予算の執行については、機器の購入を含め、すべて富田の指示のもとに行っている。伝票を二〇万円以下に分割したことについても、代替商品として試薬等の消耗品を業者に記載させたのも、富田から指示を受けたので、これに従ったのである。
(書証略)は、平成七年五月二六日、原告が富田と橋本に送付したファックスの写しであり、これには二〇万円以下に分割した伝票を回すように指示を受けたことが記載されている。
(三) 本件機器のPMS業務における必要性は次のとおりである。
(1) レリスポット法関連機器(本件物品1の1ないし3、2及び15)
マイルス法の欠陥を克服するために、原告は嶋助教授に相談の上、免疫応答に関する試験としてレリスポット法を採用し、被告会社もこれを承認していた。そこで、本件物品1の1から3、2及び15の機器の購入が必要になった。すなわち、本件物品1の1(オリンパス顕微鏡)は深度の深い顕微鏡であり、同1の2(写真撮影装置)は顕微鏡本体の付属品であり、同1の3(照明装置)は1の2(写真撮影装置)と一緒に使用するものであり、同2(卓上高速遠心機)はレリスポット法で使用する抗体産生細胞を集める機器であり、同15(pHメーター)は試薬等のpHを調整する機器である。
(2) 二次元電気泳動法(本件機器3及び15)について
二次元電気泳動法を採用した目的は、第一にマイルス法の欠陥、限界を克服すること、第二に、糖鎖の質を測定することにある。インヒビター発生の要因となる糖鎖の質の差異の調査のために本件物品3(ファルマシア電気泳動装置)及び試薬等のpHを調整する機器である15(pHメーター)が必要になった。このことは、被告会社も認識している。
(3) IgE抗体測定方法確立試験(本件機器6、7、8、9及び15)について
平成六年一〇月一日のコージネイト研究会で、同研究会座長のIgE抗体測定を行うかとの被告会社に対する問いかけに同意する形でIgE抗体測定について決定された。その後、平成七年一月一〇日、九州NTT病院土屋医師の患者にアナフィラキシー(様)ショック症状(喉頭蓋狭窄)を呈する患者が出現したことにより、IgE抗体の測定が急務となった。血中IgE抗体の濃度はIgG抗体濃度に比べて数千分の一から数万分の一であるため、数千倍から数万倍の感度の測定方法が必須であって、新たな機器として発光分析器の購入が必要であることはPMS関係者全員の共通の認識となっていた。本件機器6(ルミノスキャンRS)はそのための発光分析器であり、7(マッキントッシュPC)、8(オプションTAKE150)、9(プリンターBJC-880T)及び15(pHメーター)の機器はその関連機器である。7のマッキントッシュが必要なのは6のルミノスキャンをデルタソフトというプログラムで動かすためであり、9のプリンターはデータの打ち出しに必要である。
(4) 共同研究(本件機器10、11、12、14、15、16、17)について
本件機器10、11、12、14、15、16及び17は「中和抗体のサブクラス確認」という奈良医大と原告との共同研究に関わる。被告見永より、共同研究に必要な経費はPMSに請求するよう指示された。
IgG抗体には1から4のサブクラスがあり、IgG4サブクラスはインヒビターに対しては中和抗体(インヒビターの働きを遮断する)としての性格をもっている。そして、PMS業務を遂行していく過程で、ロー・タイター(希釈)のインヒビター産生患者の場合には、IgG抗体のサブクラスはすべてIgG4サブクラスであったのに対し、ハイ・タイターのインヒビター産生患者の場合には、最初はIgG4以外のサブクラスが産生し、その後、IgG4の産生に伴いIgG3が低下していくという現象(スイッチング)が発見された。このスイッチングが何を意味するかを明らかにすることが患者の予後を推察するのに有用であるとの観点から、IgG4サブクラスの役割が何であるかを明確にする必要が生じた。右研究では、人免疫グロブリン製剤からサブクラス別抗体の分離精製を行うアプローチ(A系列)と、黄色ぶどう球菌によるアトピー性皮膚炎の患者が黄色ぶどう球菌の毒素でどのようなサブクラス抗体の組織変化を示すのかを解明するアプローチ(B系列)の二系列の実験を実施することとしたが、右A系列でのサブクラス抗体の分離精製及びB系列の毒素の精製に10、12、14、15、16及び17の各機器が必要になった。すなわち、本件物品10(日立L-7470検器)は電気電導度を用いて分離精製度を検出する検出機器であり、14(日立検出器7400)は紫外線吸光光度で分離精製度を検出する検出機器であり、16(フラクションコレクター)は分離精製された液を集める機器であり、12(レコーダー)は検出器で検出された分離の程度を記録する記録計であり、15(pHメーター)は試薬等のpHを測定する器機であり、17(チャートペン)は記録計に取り付けるペンである。
本件機器11(パナソニックデジタルビデオカメラ)については、奈良医大動物実験施設が小児科研究室から離れた建物にあり、しかも、立入りに際しては白衣の着替えやIDカードによる管理が行われていた関係で立入りが煩雑であったため、観察を完全にするためにビデオカメラが必要になった。
(5) 本件物品4の恒温セルホルダー(UV分光光度計のセル部分を取り囲んで温度を一定に保つ装置)の購入は、コージネイトの品質として最も重要な「力価の測定」に関する問題の解明が業務として原告に課されたことによるが、原告は上司に業務上の必要性を説明の上、承認を得て購入した。
本件物品13の椅子については、原告がPMSにおいて奈良医大から使用させてもらっていた研究室のパソコン及びプリンタに備付けの椅子が壊れており、怪我を負いかねない危険なもので、購入の必要があったところ、富田が購入を了解し、平成七年度の予算内で処理するよう指示した。
二 争点一2について
1 被告会社の主張
平成七年二月二七日当時、実際の購入機器と代替商品の金額が異なっていたため、被告会社からワールドサイエンスに対して九万九〇〇〇円が過払いとなっていた。同日、原告が「器具洗いのおばさんに支払う一〇万円」の支払を求めたため、山崎は、右過払い金一〇万円を返還することを提案し、同年四月二六日に原告に交付し、原告はこれを領得した。
原告は、右現金は中井うた子(以下「中井」という)にチップの箱詰めを依頼するためのアルバイト料としてワールドサイエンスから受領したものであると弁明するが、全く不自然、不合理である。この時期にワールドサイエンスはチップを納入していないし、中井は古くから奈良医大にアルバイトとして雇用されている女性であり、原告やワールドサイエンスが奈良医大の了解なく雇用するということはありえない。
2 原告の主張
原告が山崎から預かったのは、ワールドサイエンスが雇ったアルバイトの中井に支払うべきアルバイト代であり、被告会社への過払い金ではない。
原告が奈良医大で行っていた業務は当初の予定より大幅に増加したので、原告は上司に平成七年度から増員を要求し、アルバイトを雇うことの承認を得たが、吉岡教授も富田もこの点に何の対応もしなかったため、原告において、平成八年二月初め、中井にPMS業務の手伝いを依頼した。そして、そのアルバイト代を捻出する手段として原告は、同年一月ころ、山崎に対し、「バラ詰めチップ」を仕入れた後、中井に箱詰めの作業をしてもらい、「バラ詰めチップ」と「箱詰めチップ」の代金の差額(月々約五万円)を中井にアルバイト代としてワールドサイエンスから支払ってもらい、残りの時間に原告の業務の雑用を手伝ってもらうということで了解を得た。原告は、そのアルバイト代を預かったのである。なお、ワールドサイエンスに発注したチップは納入が間に合わず、中井が二週間にわたって箱詰め作業をしたのは、ナカライテスク株式会社から納入されたチップである。
三 争点二について
1 原告の主張
<1>被告会社では固定資産の購入に関する経理規定は従業員に周知徹底されておらず、富田でさえ固定資産とする機器の購買予算(投資予算)の組み方を知らなかったこと、<2>被告会社では経理手続は極めて流用的かつ便宜的になされており、品目を変えて物品の購入を行うことが常態化していたこと、<3>本件物品について二〇万円以下の分割伝票にしたのは富田の指示であったこと、<4>本件物品は全て被告本社に引き上げられていること、<5>原告は、昭和六一年一二月一日に被告会社に入社後、主としてQADに所属し、誠実に勤務し、その知識・経験を評価され生物学的製剤管理者に就任していること、<6>原告はそもそも被告会社の経理規定の内容を知らされておらず、分割伝票による処理がそれに違反しているという認識はなかったこと、<7>被告会社が懲戒解雇以外の懲戒処分を検討した形跡がないことなどからすると、斟酌すべき情状は多々あり、当該事由が悪質、重大であり、原告を企業外に排除しなければその運営が阻害されるとか改善の見込みがないとは到底いえないことは明らかである。
被告会社があえて原告を懲戒解雇に処したのは、原告が医薬品の有効性、安全性等に真面目に取り組むことを嫌悪し、企業脅迫に名を借りて、原告に対して、いわれのない人格支配、人間の尊厳に対する侵害の所為に及び、それが功を奏しないと見るや、経理上の問題を取り上げ、それを口実に原告を被告会社から放逐しようと意図したからに他ならない。
従って、本件懲戒解雇が懲戒権を濫用したものであり無効であることは明らかである。
2 被告会社の主張
原告の本件物品の不正購入は、社内規律及び企業秩序を著しく乱す行為であり、到底看過しえない。金額が、約一四四〇万円という多額にのぼる上に、長期にわたって反復、継続して行っている。会社の目をごまかすため、実際に納品された物品とは全く異なる消耗品に分割した内容虚偽の納品書及び請求書を業者に指示して会社に提出させるなど、その方法は計画的かつ巧妙であり、極めて悪質である。
従って、本件懲戒解雇は懲戒権の濫用にあたらず、有効である。
四 争点三について
1 原告の主張
被告見永は、被告会社取締役であり、かつ、研究開発部門の責任者である。原告に対する被告会社の査問、退職強要、自宅待機命令及び本件懲戒解雇は、被告見永によって企てられ、これを会社が追認する形でなされたものである。すなわち、被告見永は、原告が所属するQAD、原告が技術的サポートとして派遣されたPMSを統括する立場にある者であって、原告による誠実な職務の遂行(生物学的製剤管理者としての意見勧告)を最も疎んじた者であり、虚偽の証拠(書証略)を捏造してまで、原告を違法文書問題の犯人にでっち上げ、被告会社から排除しようと画策した。
(一) 被告らは、原告が被告会社に提出したという業務文書と、脅迫犯人が作成した違法文書に同一のコピー機による周期的なマークがあること、右両文書の書き癖に共通点があること等の不十分な根拠しかないまま、平成八年二月二七日午後四時三〇分から午後一一時三〇分までの間、大阪ヒルトンホテル二一二六号室において、業務命令として原告に違法文書問題の犯人であるかについての調査を受けさせ、原告をポリグラフ検査をするなどして査問した。調査、査問を担当したシュミットは、前述の周期的なマークを根拠に、原告を一方的に脅迫犯人と決めつけ、犯人でないならば受けろと、半ば強制的にポリグラフ検査を実施した。
(書証略)は、原告が被告会社に提出した業務文書ではなく、被告会社によって偽造された可能性がある。原告が送付した(書証略)の原本には、被告ら主張のマークはなかった。
(二) 平成八年二月二九日、再びホテルの一室での査問が実施され、被告見永は、原告の弁明には一切耳を貸さず、原告が立会を求めた乗井弁護士の面前で、「君が犯人であることは間違いない。わたしは一〇〇パーセント黒だと確信している。証拠資料も十分集めた。会社は警察に刑事告訴し、同時に民事事件として損害賠償を起こし君の家族の生活を壊すこともできる。ただ、今任意に退職するなら、大問題にならないよう自分が取り計らってもいい。家が家宅捜索されてもいいのか、子供がどうなってもいいのか」と原告を脅迫し、退職を強要した。
(三) 被告見永の脅迫は、被告会社が何らの理由を示さないまま、平成八年三月一日に原告に自宅待機命令を出した後も続き、同月一一日ころ、「子どもを裁判所までひっぱり出すぞ」「弁護士をこの問題に関わらせるな」と脅迫を続け、「君は奈良医大で覚せい剤を合成した。大学に警察が入ると迷惑がかかるので、奈良医大に行くな」等と、奈良医大への立入りを禁じた。同月一三日ころ、被告見永は、「弁護士抜きの裏取引に応じろ。三月一八日に弁護士抜きで出社しろ。これは、業務命令だ」と、業務命令を振りかざして、原告に弁護士を排除しての交渉を迫った。
そして、被告会社は、右の退職強要に原告が応じなかったため、何ら理由のない経理問題を持ち出して、原告を懲戒解雇したのである。
(四) 被告会社による違法な査問、被告らによる退職強要、その後の被告会社による不当な自宅待機命令及び本件懲戒解雇により、原告は甚大な精神的苦痛を被った。これを金銭に評価すると三〇〇万円を下らない。
2 被告らの主張
(一) 違法文書の記載内容に従業員しか知り得ない機密情報や特殊専門的知識が含まれていることや、実在の従業員の氏名が冒用されていることなどから、違法文書問題の犯人は、被告会社内の人物であると思われ、企業秩序やモラルにも深刻な悪影響をもたらすようになり、被告会社はこのまま傍観できなかった。いきなり刑事告訴により警察の捜査に委ねることには問題があるものの、被告会社の調査だけでは能力的な限界があることや、社内の上下関係が調査対象者に影響を与える可能性があることから、社外の調査専門機関であるクロール・アソシエイトの協力を得て調査を行うことになった。
(二) 面接調査とポリグラフ検査のいずれについても、予め被告会社においてリストアップした者(原告を含む)に対し、事前に文書による同意を得て実施したものであり、直接的に物証に乏しい本件のようなケースでは、この種の調査の必要性は顕著である上に、その態様においても何ら違法なものではない。半ば強制的にポリグラフ検査を受けさせたとか、不当な恫喝を行ったというようなことはない。
(三) 被告会社が原告に対して調査したのは、次の理由によるものである。<1>違法文書に書かれている機密データや特殊専門的知識に通じている従業員は極めて限られており、原告もその中に含まれていること、<2>違法文書の一部にコピー機のドラムの汚れによる周期的なマークが見られるところ、同様のマークが原告が自宅で作成して被告に提出した業務上の文書にも見られたこと、<3>違法文書に顕著に表れている犯人の書き癖が、原告が業務上提出した多数の文書にも明らかに認められること、<4>原告の同意を得て実施したポリグラフ検査においても、原告は高い疑義反応を示していることである。これを詳述すれば次のとおりである。
(1) 違法文書の一部には、ある時期(平成七年九月以降)、コピー機のドラムの汚れによる特異的、周期的なマークが見られるようになったが、これと同じマークが、原告が被告会社に提出した報告文書である(書証略)にも明確に認められた。両者のマークが同一のコピー機に由来する可能性が極めて高いことは専門機関の鑑定によって証明されている。
(2) 違法文書の「書きグセ」について多数の違法文書には、幾つかの顕著な書きグセがある。書き出しの「前略」や「拝啓」の後に読点を入れることや、文中に読点が多く、「さて、」「もし、」等が繰り返し出てくる。右と同様の書きグセが、原告が自宅で作成して提出した業務上の文書である(書証略)にもみられる。
(3) 原告に対して自宅待機命令が発令された平成八年三月一日以降も違法文書は送付され続けており、(書証略)はそのうちの一通である。宛て先は、被告会社の従業員であり、(書証略)の宛て先と同一人物である。(書証略)には、「我々はわざと手紙に或間隔(二・四×三・一四)で線を入れておいたんだよ」という記載があるが、これは被告会社による調査の最終段階で判明した情報であり、社内でも極秘事項とされていたものであって、調査に従事した者以外でこの情報を知るのは、原告と原・被告双方代理人のみである。もう一点は「林は結構頑張っているようだ」「林の様になりたくなければ…」という記載であるが、原告は自宅待機になる前は奈良医大に一人で勤務していたので、自宅待機になっただけでは他の従業員は気が付かないはずであり、原告が他の者に話さない限り、原告以外の者が書けない内容である。また、(書証略)には、米国バークレーの品質保証部門において保管されている書類のコピーが同封されていたが、右コピーを入手可能な極めて限られた範囲の者に原告も含まれていた。
(四) 以上のとおりであり、違法文書問題について、被告会社が原告に対して調査を行ったことは、その目的・手段の何れにおいても正当なものであり、不法行為となる余地はない。また、被告見永による「退職強要」なる事実は一切存在しない。なお、自宅待機命令及び本件懲戒解雇については、前述のとおり、それ自体が正当、有効なものであるから、これが不法行為に該当することはあり得ない。
五 争点四(被告会社の損害)
1 被告会社の主張
本件物品が被告会社にとって購入する必要がなかったことは前述のとおりであり、仮に必要性があったとしても、それは原告が判断することではなく、原告が無断でこれらを購入し、その代金一四四三万三一八四円を被告会社に支払わしめた以上、その額は被告会社の損害といえる。
本件物品の一部については、業者に売却して換金することが可能であるところ、その見積額は、別紙(二)記載のとおり、三七万円であるから、損益相殺による一四一六万三一八四円が原告により賠償されるべき被告会社の損害額となる。被告会社は、右損害のうち、一〇〇〇万円の内金請求をする。
2 原告の主張
前述のとおり、本件物品は、すべて被告会社の業務のために必要な物品であったから、その購入によって被告会社に損害を与えたことにはならない。
第五争点に関する当裁判所の判断
一 訴えの利益について
本件訴えで、原告は、被告会社に対して、従業員たる地位の確認を求めるとともに、将来分の賃金を請求するところ、右将来分の賃金の請求のうち、本判決確定後に履行期が到来するものについては、原告の労務提供の程度について確定せず、賃金支払の前提となる諸事情も確定しないから、これを現時点で請求することはできないものというべく、訴えの利益を欠くものとして却下する。
二 争点一1について
1 打ち合わせ会での予算
原告は、平成七年三月一日の打ち合わせ会でPMS業務について一九四〇万円が予算化され、その内の約一五〇〇万円が機器の購入に、残りが試薬類の購入に当てられることになっており、右予算の枠内において、被告会社は、原告に対し、PMSの基礎的研究に必要な試薬、機器の選定及び購入について包括的に承認をした旨主張する。
(一) (証拠略)によれば、平成六年四月にPMSにおける抗体測定の項目が当初の六項目から二一項目に増えたが、その後もPMS業務に関して一年間に必要となる試薬代の総額は、多く見積もっても五〇〇万程度であることが認められ、これと比較して打ち合わせ会で予算化された一九四〇万円は著しく高額であるといえる。また、(証拠略)によれば、打ち合わせ会の議事録を作成するもととなった西崎作成のメモには、「Total 一〇〇〇万円/年」、「IgE測定方法確立試験 二〇〇万円/年」、「IgE toatl五〇〇万円」という記載(なお、IgE測定方法確立試験とIgE測定費用の金額が右議事録と逆になっている)があるものの、右予算が試薬代として計上されているものである旨の記載がないことが認められる。右各事実を総合すれば、打ち合わせ会でPMS業務に関して予算化された一九四〇万円のすべてが試薬代等の消耗品のための経費予算であり、機器等の購入のための投資予算が全く含まれていないとは考えにくいから、打ち合わせ会に出席していた富田や西崎が一九四〇万円の内訳を正しく理解していたかはともかく、IgE測定方法確立等のために必要な機器の購入のための予算を含むものとして一九四〇万円が計上されたことが認められる。(書証略)には右認定に反する記述もあるが、採用できない。
(二) もっとも、右の一九四〇万円が機器購入予算を含むものとして打ち合わせ会で承認されたものであるからといって、直ちに被告会社が原告に対して、購買規定の定める手続きを経ることなく自由にPMS業務に関連する機器を購入することを包括的に承認していたとまでは認められない。被告会社が原告に本件物品の購入を承認したというためには、少なくとも右打ち合わせ会において出席者の間で個々の機器等について機種や購入金額について具体的に議論がなされ、それをもとに一九四〇万円の予算が合意されていなければならないところ、(書証略)のいずれにもそのような議論がなされたことを示す記載はなく、他にそのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、右打ち合わせ会においてPMS業務に関して平成七年度の予算として、投資予算を含んで一九四〇万円が計上されたことのみをもって、本件物品の購入について被告会社が包括的に承認をしたということはできないし、ましてや、その購入権限を原告に包括的に与えたということはできない。
2 本件物品購入及び分割伝票についての富田の指示
(一) 原告は、本件物品の購入及び伝票の二〇万円未満の分割処理について富田からの指示があった旨主張し、原告本人もこれに沿う供述をする。
しかし、(証拠略)は、右事実を明確に否定するところである。富田は本件物品がPMS業務等に必要な物品か否かを決定する立場になく、その必要性について原告や奈良医大の意見に従わなければならない事情もないうえ、本件物品のうちには、ビデオカメラ、パソコン、高級椅子など、品名からは必要性を推認できない物も存在したのに、その必要性について奈良医大に問い合わせたり、上司に伺いを立てたりした形跡は全くないが、これによれば、(証拠略)は信用できるというべきである。また、(書証略)によれば、原告が被告会社名でワールドサイエンスから購入した試薬の品目や数量について被告会社が原告に確認した際、原告は、伝票に記載されたとおりの試薬等を購入した旨の虚偽の回答をしていることが認められるところ、本件物品の購入及び伝票の分割処理について富田から原告に対する指示があって、被告会社がそれを承認しているとすれば、原告が右のような回答をするとは考えにくく、この点からも、原告が本件物品の購入について富田の了解を得たり、指示を受けていなかったことが裏付けられ、前記原告本人の供述は採用できない。
原告は、伝票の分割処理が被告会社において常態化していた旨の主張もするが、(書証略)によれば、ワールドサイエンスの山崎は、本件において原告から、分割伝票の処理を指示されるまで、被告会社とのそれまでの取引で分割伝票を発行するという処理をしたことがなかったことが認められ、原告が主張するように、被告会社において分割伝票の処理が常態化していたという原告の主張を裏付ける証拠はない。
(二) なお、(書証略)は富田が原告に機器購入に際して分割伝票によるとの指示をしたことを記載内容とし、原告本人は、これを富田と橋本にファクシミリで送信したと述べるが、(証拠略)によれば、(書証略)は、本件訴訟に先立つ仮処分事件の抗告審で初めて提出されたものであるところ、右抗告審までそのようなファクシミリを送付したとの主張は一切なされず、その原審の最終主張書面では債権者の手元に残されている資料はごくわずかであると主張していたことが認められる。また、(書証略)によれば、嶋助教授が不整脈で欠勤したのは平成七年五月一日及び二日であり、その後は平常通り勤務していたことが認められるが、(書証略)には、同月二六日の時点で嶋助教授が自宅で休養中であることを前提とする記載がある。さらに、(書証略)には、平成七年五月二六日の時点で、レリスポット法に用いる実体顕微鏡がオリンパス社のものになる見込みであるとの記載があるが、原告が同年六月二〇日に富田に提出したレリスポット法開発についてのレポートには何らこの点について触れられておらず、(書証略)の右記載は内容が不自然である。右のような(書証略)の提出時期や記載内容が客観的な事実に反することや、被告会社の購買規定に反する処理をすることを複数の者に文書で送信し、確認すること自体の不自然さに加え、(書証略)としては原告が代理人弁護士の事務所にファックスで送信した受信文書が提出されており、原本である原稿自体は右代理人に交付したが紛失した、右原稿は業務文書として被告会社のQADの業務担当者から原告の自宅に送付されてきたが、送付状は破棄したため手許にない等の原告本人の供述の不合理さ、不自然さに照らし、平成七年五月二六日に原告が(書証略)と同じ内容の文書を作成し、富田及び橋本に送付したとは到底考えられない。
結局、(書証略)は、本件訴訟に先立つ仮処分事件のが抗告審係属中に原告により、平成七年五月二六日に作成されたように装って作成されたものといわざるを得ず、これを原告の主張を裏付けるものとして採用することはできない。
3 本件物品のPMS業務における必要性
本件物品の必要性については、原告が主張する目的についていえば、これを否定するまでの根拠はない。ただ、その必要性の程度については、実体顕微鏡のように高度なものから、椅子のように業務と直接の関係がないものもある。そして、(人証略)によれば、本件物品のうちには、嶋と相談のうえ購入されたものもあれば、全く原告の判断で購入されたものもあり、原告は、平成八年六月に奈良医大から京都薬大へ勤務場所が移転するのに伴い、その後も奈良医大でPMS業務が係属するにもかかわらず、本件物品を含む機器類を、マルチチャンネルピペットを除いてすべて奈良医大から、PMS業務の行われていない自宅もしくは京都薬大へ移動させており、その後、PMS業務は本件物品を使用せずに行われていることを認めることができる。
以上によれば、本件物品の必要性をもって被告会社の正規の購入手続をとれない事情があったとはいえないし、これが右購入手続をとらないことを被告会社が了解していたことの裏付けとなるものではない。
4 懲戒事由該当性
以上のとおり、原告による本件物品の購入は、被告会社に無断でなされたものであり、被告会社に知られないように二〇万円未満の試薬等の消耗品でワールドサイエンスに伝票を発行させるという巧妙な手口によって被告会社の購買規定によるチェックを回避していたものである。
右行為が就業規則一八条三項二号「会社の諸規則に違反し、又は会社の指示命令に従わず故意に会社の秩序を乱した」、同四号「許可なく会社の金品を持出し、融通使用した」、同五号「故意又は過失により業務に支障を生じさせ、又は会社に損害を与えた」に該当することは明らかである。
三 争点一2について
1 (書証略)に争点一1における前記認定事実を総合すれば、次の事実が認められる。
ワールドサイエンスは、本件物品の取引に当たり、原告からの指示で実際の購入機器と異なる試薬類で伝票を発行していたため、現実の購入代金額と被告会社からの入金額に齟齬が生じ、被告会社から過払いが生じるようになり、平成八年二月二七日の時点では過払金が九万九九〇〇円となっていた。同日、ワールドサイエンスの代表者である山崎が奈良医大に原告を訪問した際、原告は、山崎に対し、伝票上は洗浄済みのガラス器具を購入したことにし、現実には洗浄していないガラス器具を購入し、その差額の中からガラス洗浄のアルバイト代として中井(約三〇年間にわたって、奈良医大に雇われているアルバイトの女性)に一か月あたり五万円を支払いたいと申し入れたが、山崎は、そのような処理をせず、右過払金として一〇万円を被告会社に支払うので、それを中井へのアルバイト代に充当すればよいと提案した。結局、その後、ワールドサイエンスと被告会社の間でガラス器具の取引はなされなかったが、山崎は、日立UV検出器等の設置等のために再び奈良医大を訪問した同年四月二六日、原告に右過払い金一〇万円を交付した。原告は、その後、ワールドサイエンスから受領した右過払い金を被告会社に入金していない。
2 原告は、山崎から預かったのは、ワールドサイエンスが雇ったアルバイトの中井に支払うべきアルバイト代である旨主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない上、原告は中井がアルバイトとして箱詰めをしたチップはワールドサイエンスから購入したものではないと主張しているのであり、ワールドサイエンスが中井に一〇万円を支払う根拠は全くない。また、(書証略)(ワールドサイエンスの現金出納帳)には、「バイエルアルバイト料」「100000」との記載があるが、アルバイト代へ充当する話が存在した以上、右認定事実に必ずしも反するものではない。
3 原告は、ワールドサイエンスから被告会社への過払い金一〇万円を受領しつつ、被告会社に入金していないのであるから、右行為が就業規則一八条三項二号「会社の諸規則に違反し、又は会社の指示命令に従わず故意に会社の秩序を乱した」、同四号「許可なく会社の金品を持出し、融通使用した」、同五号「故意又は過失により業務に支障を生じさせ、又は会社に損害を与えた」に該当することは明らかである。
四 争点二について
1 原告は、有利な情状を縷々主張するが、伝票上、代替商品で処理されるのが被告会社で常態化していたこと、原告が富田の指示によって二〇万円以下の分割伝票で処理したこと、原告が経理規定の内容を知らず、分割伝票による処理がそれに違反している認識がなかったことなどの各事実は、いずれもこれを認めるに足りる証拠はない。
なお、原告は、被告会社があえて原告を懲戒解雇に処したのは、原告が医薬品の有効性、安全性等に真面目に取り組むことを嫌悪したためであるとも主張するが、これを裏付ける的確な証拠はなく、原告の憶測に過ぎないというべきである。
2 争点一1に関する前記認定事実によれば、原告の行為は、不正購入の金額が、約一四四〇万円という多額にのぼる上に、長期にわたって反復、継続しており、被告会社の経理の手続の盲点をついて、実際に納品された物品とは全く異なる二〇万円未満の消耗品に分割した内容虚偽の納品書及び請求書を業者に指示して提出させるなど、その方法が計画的かつ巧妙であるから、原告に有利なあらゆる事情を考慮しても、被告会社のした本件懲戒解雇が著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないとはいえず、解雇権の濫用にはあたらない。
五 争点三について
1 (証拠略)に前提事実を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 平成八年二月二六日、被告会社の違法文書問題に関する調査の打ち合わせ会において、調査機関であるクロールから、被告会社に対し、違法文書に見られる書き癖や周期的なマークが、原告が被告会社に提出していた業務文書にも見られるとの報告があり、被告会社は、原告が犯人であるとの嫌疑を持った。そこで、被告会社は、同日夕刻、原告に対し、翌二七日午後一時に大阪ヒルトンホテル二一二六号室に行き、シュミットと面談するようにとの指示を行い、原告は、時間の変更を求めたうえ、同月二七日午後四時三〇分に右ホテルに出向き、シュミット、コロニー(なお、(書証略)によれば、同人の正しい呼称は「コノリー」と思われるが、以下では当事者の主張どおり、「コロニー」という)が原告と面談した。
シュミットは、原告に対し、原告が被告会社に業務報告のために提出した書面(書証略)を示して、これが原告作成の文書であるか否かの確認を求め、原告が、これを自己作成の文書であると確認して、その右下に、確認の意味で署名した。シュミットは、その文書にある印字の際に生じたと考えられるマークと、違法文書の一部に残されている周期的なマークが酷似していること等を述べ、原告が違法文書の送付者ではないかと問い質した。
また、ポリグラフ検査の専門家であるコロニーは、原告に対し、違法文書問題の犯人であるか否かについて、事前に文書による同意書を提出させ、ポリグラフ検査を実施した。右同意については、シュミットにおいて、白だというならポリグラフ検査にかけてもいいかと問い、原告はこれに「ああ、いいよ」と言って承諾したもので、ポリグラフ検査前、原告は相手方を試すつもりで、シュミットに対し、「ポリグラフというのはあまり信用できないそうじゃないか。テレビの特集でポリグラフも完璧じゃないとやっていた」等と述べたり、機械の説明を求め、検査中には、いたずらをするつもりで腹式呼吸と胸式呼吸を織り交ぜるなどした。検査後、シュミットらはその検査の結果から、原告が犯人ではないかとの疑いをますます強め、原告を追及したが、原告は、ポリグラフの専門家と分かるものを見せろ等と要求したり、自分は犯人ではないと強固に主張した。原告が右ホテルから退室したのは午後一一時三〇分ころであった。
(二) 被告見永は、平成八年二月二九日、大阪ヒルトンホテルにおいて、シュミット、原告訴訟代理人の乘井弥生弁護士立会のもと、違法文書問題について原告と話し合った。その際、被告見永は、原告に対し、(書証略)を示し、原告が犯人であると強く疑っていること及びその理由を具体的に説明し、原告やその家族に与える影響を考え、任意退職を求めた。それに対し、原告は、任意退職に応じるかどうかを考える時間が欲しい、代理人である山下潔弁護士とも相談したいといって、返事を留保した。
(三) 被告会社は、平成八年三月一日、違法文書の犯人と疑う者を従前どおり就労させることは不都合であると考え、原告に対し、文書で自宅待機命令を出した。被告は、右自宅待機期間中も、原告に対して従前どおりの賃金を支払った。
同月四日、任意退職についての原告の返事を聞くため、被告見永とシュミット、原告と山下潔弁護士の四者で面談が持たれたが、山下潔弁護士が原告に対する被告会社の対応を非難したため、結局任意退職の話題に入ることなく面談は終了した。その後、遅くとも同月一八日までに、被告会社は、代理人弁護士に事件を委任し、同月二一日に双方の代理人同士の面談が予定されていた。
2 右認定事実によれば、違法文書問題に関する被告会社による原告の査問、それに続く被告見永による退職勧奨及び被告会社による自宅待機命令は、何らの客観的な裏付けもなく行われたわけではなく、原告が違法文書の送付者ではないかと疑わせる事情が一応存在している。また、その態様も、ポリグラフ検査については事前に同意書をとり、その同意は任意になされたものと認められる上、検査中の原告の態度も、調査員と駆け引きを行ったり、故意に呼吸法を変えてみるなどしていることからみて、実施方法においても強制にわたるものではなく、被告見永との面談は代理人弁護士立会のもとで行われ、結局被告会社からの退職勧奨に応じていないなどの事情からは、原告が主張するような強制や、脅迫にわたるようなものであったとは認めがたい。原告は、被告見永が、原告に対し、「子供を裁判所に引っぱり出す」「弁護士抜きの裏取引に応じろ」等と述べたかのように主張し、原告本人、(書証略)記述はこれに沿うが、これを裏付ける証拠はないうえ、その供述部分は誇張に過ぎるもので、これを採用することはできない。
また、本件懲戒解雇が相当なものであることは前記のとおりである。
従って、被告らによる査問、退職勧奨、自宅待機命令及び本件懲戒解雇は、原告に対する不法行為を構成せず、原告の慰謝料請求には理由がない。
3(一) 原告は、(書証略)は、原告が被告会社に提出した業務文書ではなく、原告を陥れるために被告会社によって偽造された可能性があると主張し、原告本人も、(書証略)がシュミットらとの面談で示された文書ではない、原告が(書証略)をコピーして橋本に提出した報告文書にはマークなどなく、平成八年二月二九日に橋本から右報告文書のコピーを受領したが、代理人の乘井弁護士に渡したので自分は所持していない旨供述する。
しかし、原告自身、(書証略)の「林一雄」名義の署名が自ら記載したものであることを供述するし、橋本から受領したというコピーについての供述内容も信用できないから、(書証略)の作成に関する原告の供述は憶測にすぎず、(書証略)は、原告がシュミットらとの面談で示された文書であるといわざるを得ない。
(二) また、原告は、生物学的製剤管理者としての原告の勧告を嫌った被告らが、原告を排除するために違法文書の犯人に仕立て上げようとした旨主張する。
しかし、仮に原告が主張する勧告意見がすべてあったとしても、(書証略)によれば、被告会社が、それを嫌悪して原告を排除する態度をとっていたとは考えにくく、また、原告が勧告意見を述べたと主張する時期より後に、被告会社は現実に原告を生物学的製剤管理者として任命している等の事情からは、この点の原告の主張は憶測に過ぎないというべきである。
六 争点四について
1 前記認定のとおり、原告は、被告会社に無断で被告会社名で本件物品を購入し、別紙(二)のとおり、被告会社からワールドサイエンスに対して一四四三万三一八四円の支払をなさしめたのであるから、被告には右金額の損害が生じている。本件物品中には、ある程度の汎用性のある機器も含まれるものの、原告が本件物品を被告会社に無断で購入するという不法行為がなければ被告会社は一四四三万三一八四円の支出はしていなかったのであるから、被告会社からワールドサイエンスに対する支払総額である一四四三万三一八四円が被告会社の損害額になるというべきである。被告会社は、右のうちの一〇〇〇万円を一部請求するので、その限度で原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求を認容することとする。
2 原告は、本件物品は、被告会社に必要な物品であったから、被告会社に損害はない旨主張するが、被告会社はその必要性を認めず、これを使用していないのであるから、原告の右主張は採用できない。
七 結論
以上の次第であるから、原告の本件訴えのうち、本判決確定後に支払期日の到来する賃金の支払を求める部分を訴えの利益がないので却下し、その余の請求部分はいずれも理由がないので棄却し、被告会社の請求は全部理由があるので認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 川畑公美 裁判官 和田健)
別紙(略)