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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)10750号 判決 2000年4月11日

原告

関西美工株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

東畠敏明

右補佐人弁理士

【B】

被告

株式会社アスカ

右代表者代表取締役

【C】

右訴訟代理人弁護士

川口憲彰

主文

一  被告は、別紙目録一ないし六掲載の各標章を付した商品用容器、包装用紙、商品箱を使用する方法によって、せっけん類及び化粧品を販売し、又は販売のために展示してはならない。

二  被告は、別紙目録一ないし六掲載の各標章を付したせっけん類及び化粧品の商品用容器、包装用紙、商品箱、ラベル、カタログ、ちらし類を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金三六〇〇万円を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

(争いのない事実等)

一  原告はシャンプー容器、化粧品容器そのほかのプラスチック製品の製造・販売を行っている会社である。

被告は、せっけん類及び化粧品の通信販売を業としている会社である。

二  原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有する(甲1、2)。

登録番号 第一五〇七八二六号

登録商標 別紙商標公報該当欄記載のとおり

商品の区分 旧第四類

指定商品   せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類(ただし「薫料」を除く。)

出願日 昭和五二年八月一八日

出願番号 商願昭五二-五九九一〇号

出願公告日 昭和五六年五月一六日

出願公告 商標出願公告昭五六-二二三九三号

登録日 昭和五七年四月三〇日

なお、本件商標権の登録当初は、スワロー化研工業株式会社が商標権者であったが、その後、同社は、原告に対し、本件商標権を譲渡し、平成六年九月一二日、その旨の登録がなされた。

三  被告は、その販売するシャンプー、ソープ、洗剤、ヘアーパック、ヘアーエッセンス、オイル、ローションの各商品の商品用容器、包装用紙、商品箱、ラベルに、平成六年一月一七日の被告設立以降、別紙被告標章目録一ないし五記載の各標章を、平成一〇年六月以降はそれらに加えて別紙被告標章目録六記載の標章(以下「被告標章一」などといい、併せていう場合には、単に「被告標章」という。)を付すとともに、これら商品を通信販売するためのカタログ、チラシ類に表示・記載し、全国規模の情報誌を利用して、せっけん類及び化粧品の通信販売を行っている(甲5、6、7、12、13、14)。

(原告の請求)

原告は、被告が、被告標章を、その販売するシャンプー、ソープ、洗剤、ヘアーパック、ヘアーエッセンス、オイル、ローションの各商品の商品用容器、包装用紙、商品箱、ラベルに付し、これら商品を通信販売するためのカタログ、チラシ類に表示・記載する行為は、原告の本件商標権を侵害する行為であるとして、右各行為の差止め等を求めるとともに、損害賠償(使用料相当額)を求めている。

第三争点

一  被告標章は本件商標に類似するか

二  原告には損害が明らかに発生していないか

三  損害の額

四  原告の本訴請求は権利濫用に該当するか

第四当事者の主張

一  争点一について

【原告の主張】

1 被告標章一ないし五は、いずれもアルファベットの「ASUKA」又は片仮名文字の「アスカ」を要部とするものである。これに対し、本件商標もアルファベットの「ASUKA」と片仮名文字の「アスカ」を上下二段に構成したものである。

したがって、被告標章は、いずれも、本件商標と同一又は類似である。

2 被告標章六は、アルファベットを「aska」と構成するものである。これに対し、本件商標は、アルファベットの「ASUKA」と片仮名文字の「アスカ」を上下二段に構成したものである。

被告標章六は、その文字構成により「アスカ」と発音されるものであることは明らかで、「アスカ」の称呼を有する本件登録商標に明らかに類似する。

【被告の主張】

1 被告標章一ないし五が本件商標に類似していることは、争う。

2 被告標章六は、文字を図案化したモノグラム商標「 、  、 」とアルファベット文字「s」を組合せた結合商標である。

「 」は、数字「0」又はアルファベット文字「O」と数字「1」又はアルファベット文字「l」又は「I」とを組み合わせてモノグラム化したものであり、これによりアルファベット小文字「a」は、想像できない。むしろギリシャ文字「α」に近いものである。

「  」は、アルフット文字「s」とを組合せたモノグラム化したものであり、これによりアルファベット小文字「k」を想像できない。

「 」は、アルファベット文字「I」とアルファベット小文字「O」とを組合わせ、モノグラム化したものであり、アルファベット小文字「a」を想像できない。

以上のようなモノグラムからなる被告標章六からは、特定の称呼は生じず、本件商標と類似しない。

※ HP上では図案化したモノグラム商標の表示は省略

二  争点二(損害の不発生)について

【被告の主張】

本件商標は、原告の関係する業者に小規模かつ短期間使用されただけで、顧客吸引力は全く認められないから、被告が本件商標に類似する商標を使用したとしても、本件商標が被告の売上に全く寄与していないことは明らかであり、原告に得べかりし利益としての使用料相当額の損害は発生していない(最判平成九年三月一一日・民集五一巻三号一〇五五頁参照)。

【原告の主張】

被告の主張は争う。

三  争点三(損害の額)について

【原告の主張】

被告は、平成六年一月一七日の被告設立以降は被告標章一ないし五を、平成一〇年六月以降はそれらに加えて被告標章六を付した商品用容器、包装用紙、商品箱、カタログ、チラシ類に使用する方法によってシャンプー、ソープ、洗剤、ヘアーパック、ヘアーエッセンス、オイル、ローションを販売したが、平成六年一月一七日から平成一一年五月二五日までの間の右行為により、四八〇〇万円の使用料相当額の損害を受けた。なお、被告は、平成九年及び平成一〇年に限ってみても二七億〇一八六万九三七〇円の売上を得ており、原告は、右売上に使用料率三パーセントを乗じた八一〇五万六〇八一円の使用料相当額の損害を被っている。

よって、原告は、被告に対し、本件商標権侵害に基づき、前記使用料相当額のうち金三六〇〇万円の支払を求める。

【被告の主張】

被告が、平成九年一月一日以降に被告標章一ないし五を、平成一〇年六月から平成一〇年一二月三一日まではそれらに加えて被告標章六を付した商品用容器、包装用紙、商品箱、カタログ、チラシ類に使用する方法によってシャンプー、ソープ、洗剤、ヘアーパック、ヘアーエッセンス、オイル、ローションを販売し、二七億〇一八六万九三七〇円の売上を得ていることは認める。

その余の原告の主張は争う。

四  争点四(権利濫用)について

【被告の主張】

1 本件商標は、更新前三か月の間に使用された事実がないところ、被告は、本件商標の指定商品中、平成九年六月六日付で化粧品について、同年一二月一日付でせっけん類について、それぞれ、特許庁に対し、原告の不使用を理由とする登録の取消審判請求を行っており、本件商標権は、右指定商品についてはその登録を早晩取り消されることになる。

したがって、原告の本訴請求は権利の濫用である。

2 仮に、使用が認められたとしても、その使用は、本件訴訟提起の準備及び被告からの不使用審判取消請求を予想して、その根拠を作出すべくなされた駆け込み使用にすぎない。他方、被告は全国規模での営業活動を展開しており、その使用する商標は著名性を有するまでになっている。

したがって、原告が、本件商標権に基づき権利行使をすることは、被告に対し、原告の利益に比肩し得ない著しい損害を与えることになるから、権利の濫用である。

【原告の主張】

原告は、本件商標を化粧品及びせっけん類について通常使用権を許諾して使用しており、被告の主張は理由がない。

その余の被告の主張は争う。

第五争点に関する判断

一  争点一について

1  本件商標について

本件商標は、上段にアルファベット「ASUKA」を横一列に構成し、下段に片仮名「アスカ」を横一列に構成してなる商標であり、その称呼は、「あすか」である。

2  被告標章との対比

(一) 被告標章一について

被告標章一は、太字のアルファベット「ASUKA」を横一列に構成したものであり、「あすか」との称呼が生じる。

本件商標と被告標章一を比較すると、外観が類似し、称呼が同一であるから、被告標章一は本件商標と類似する。

(二) 被告標章二について

被告標章二は、部分的に二重線のデザインが施されたアルファベット「ASUKA」を横一列に構成したものであり、「あすか」との称呼が生じる。

本件商標と被告標章二を比較すると、外観が類似し、称呼が同一であるから、被告標章二は本件商標と類似する。

(三) 被告標章三について

被告標章三は、左右に大きくデザインした字体でアルファベット「A」をそれぞれ配すると共にその間にアルファベット「SUK」を配し、左右のAの文字の一部を湾曲線で結んで横一列に構成したものであり、「あすか」との称呼が生じる。

本件商標と被告標章三を比較すると、外観が類似し、称呼が同一であるから、被告標章三は本件商標と類似する。

(四) 被告標章四について

被告標章四は、太字の片仮名「アスカ」を縦一列に構成したものであり、「あすか」との称呼が生じる。

本件商標と被告標章四を比較すると、外観が類似し、称呼が同一であるから、被告標章四は本件商標と類似する。

(五) 被告標章五について

被告標章五は、漢字「株式会社」とその四倍角程度の大きさの片仮名「アスカ」を右の順序で横一列に構成したものである。被告標章五のうち「株式会社」は、「アスカ」よりも小さく記載され、それ自体識別力を有しない単語であるから、被告標章五の要部は「アスカ」にあり、「あすか」との称呼が生じる。

本件商標と被告標章五の要部を比較すると、外観が類似し、称呼が同一であるから、被告標章五は本件商標と類似する。

なお、被告標章五は、被告の名称であるが、右のように「株式会社」よりも「アスカ」を強調した字体となっているので、被告の名称を普通に用いられる方法で表示しているとは認められず、商標法二六条一項一号は適用されない。

(六) 被告標章六について

(1) 被告標章六は、「 」、「s」、「  」及び「 」の四個の文字ないしは記号を、左から順に横一列に並べてなる標章である。被告は、被告標章六は、文字を図案化したモノグラム商標「 」、「  」及び「 」と、アルファベット文字「s」を組合わせた結合商標であると主張するところ、なるほど「s」はアルファベット文字であることは明らかであるし、その余の三つについても、個別的に見ると、被告が主張するように、アルファベット文字又は数字を組合わせて一字状に図案化したモノグラム(組字)であると認識できなくはない。しかし、他方、これら三個の文字ないし記号は、それぞれアルファベットの「a」及び「k」をデフォルメし図案化したものと認識できなくもなく(一番右側の「 」は、「a」をデザイン化した一番左側の「 」を左右対称にひっくり返したものともいえる。)、取引の実情によっては、被告標章六が全体としてアルファベット四文字を横一列に並べた「aska」をデザイン化してなる標章であると、需要者に認識され得ることも否定できないものというべきである。

(2) 比較する商標が類似するか否かは、取引の実情に照らし、一般的需要者が通常払う注意力を基準に検討する必要があるが、前記争いのない事実等と証拠(甲5、6、12、13、14)によれば、被告標章六の使用態様に関連して次の事実が認められる。

ア 争いのない事実等記載のとおり、被告は、平成六年一月一七日の被告設立以降、被告標章一ないし五を、その販売するシャンプー、ソープ、洗剤、ヘアーパック、ヘアーエッセンス、オイル、ローションの各商品の商品用容器、包装用紙、商品箱、ラベルに付し、これら商品を通信販売するためのカタログ、チラシ類に表示・記載していたところ、特に、被告が販売するローション等のスキンケア化粧品のパッケージ、ボトルには、被告標章二を表示し、シャンプー等のヘアケア商品のボトルには被告標章三を表示していた(甲5、6、12)。

イ 争いのない事実等記載のとおり、被告は、本件訴え提起後である平成一〇年六月ころから被告標章六を使用し始めたが、そのころ被告が配布した通信販売の広告(甲13)には、表面左上に「アスカ」と記載され、表面右上に囲みで「ASUKA(被告標章二のもの)から     へ パッケージ・ボトル・ロゴをリニューアル!」、「おかげさまで、発売以来、三二万人の方々にご愛用いただいてきたアスカが、六月からスキンケアのパッケージを新しいデザインに変えさせていただきました。」などと記載されている。そして、表面中央に被告標章六をパッケージ、ボトルに表示した各スキンケア商品の写真が掲載され、その付近に当該商品の価格が「アスカ価格」として表示されている。また、広告の裏面下部には、被告標章三をボトルに表示したシャンプー等のヘアケア商品が「自信のアスカ商品ラインナップ」との表示と共に掲載され、被告標章五が被告商品の注文用電話番号と共に記載されている。

ウ また、イ以外の、被告標章六が使用されている通信販売の広告(甲14)には、表面上部に「アスカ」と記載され、表面中央に被告標章六をパッケージ、ボトルに表示した各スキンケア商品の写真が掲載され、裏面には、被告標章六をパッケージ、ボトルに表示した各ヘアケア商品の写真が「アスカは表示指定成分を一切含みません。」との表示と共に掲載され、被告標章五が被告商品の注文用電話番号と共に記載されている。

争いのない事実等記載のとおり、被告は、通信販売により石けん類や化粧品を販売しているのであるから、その広告の記載は被告標章六の使用態様を検討するに当たり重視すべきところ、右事実からすると、被告は、「あすか」の称呼を、被告が販売する石けん類及び化粧品の統一的ブランド名として使用しており、被告標章六に接した需要者(被告が被告標章六を使用し始める前から被告のスキンケア商品又はヘアケア商品を知っていた需要者はもちろん、そうでない需要者も含む)は、被告標章六を前記広告におけるその他の被告標章等と関連づけて観察し、被告標章六は「あすか」との称呼が生じるアルファベット「aska」をデザイン化したものであると認識するものと認められる。

そうすると、本件商標と被告標章六を比較した場合、その称呼が同一であるから、被告標章六は本件商標と類似するというべきである。

(七) 以上より、被告標章はいずれも本件商標と類似する。

二  争点二(損害の不発生)について

被告は、原告に損害が発生していないことは明らかであると主張する。

商標法三八条三項は、商標権者は、故意又は過失により自己の商標権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる旨を規定するところ、商標権は、商標の出所識別機能を通じて商標権者の信用を保護するとともに、商品の流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を図ることにその本質があり、特許権や実用新案権等のようにそれ自体が財産的価値を有するものではないから、登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても、当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上に全く寄与していないことが明らかなときは、得べかりし利益としての使用料相当額の損害も生じていないというべきであるから、当該第三者は損害賠償の責を免れることはができる(被告も引用する最高裁判所平成九年三月一一日判決・民集五一巻三号一〇五五頁参照)。

しかし、本件では、争いのない事実等記載の事実及び既に判示したところから明らかなように、被告は、被告標章を、その販売する石けん類及び化粧品の商品用容器、包装用紙、商品箱、ラベルに付し、これら商品を通信販売するためのカタログ、チラシ類に表示・記載するというように、被告標章を主として使用し、被告標章に共通する「あすか」の称呼を、被告が販売する石けん類及び化粧品の統一的ブランド名として使用していたことが認められるのであるから、被告標章の使用が被告の売上に寄与していることは明らかである(前記最高裁判決とは事案を異にするものである。)。

したがって、被告の被告標章の使用により、原告に損害の発生していないことが明らかであるということはできず、被告の主張は採用することができない。

三  争点三(損害額)について

原告は、被告が被告標章を使用したことに対する使用料相当額のうち、金三六〇〇万円の支払を求める一部請求をしているところ、本件に現れた一切の事情(本件商標が有する顧客吸引力、被告の使用態様等)を考慮すれば、被告が被告標章を使用したことによって、原告に対し支払うべき使用料相当額は、被告が被告標章を使用したことにより得た売上額に一・五パーセントを乗じた金額と認めるのが相当である。

ところで、被告が、平成九年及び一〇年に、被告標章を、自己が販売するシャンプー、ソープ、洗剤、ヘアーパック、ヘアーエッセンス、オイル、ローションの各商品の商品用容器、包装用紙、商品箱、ラベル、カタログ及びチラシ類に使用し、合計二七億一八六万九三七〇円の売上を得たことについては当事者間に争いがない。そうすると、被告が、平成九年及び一〇年に、被告標章を使用したことによって原告に対し支払うべき使用料相当額は、金四〇五二万八〇四〇円と見るのが相当である。

したがって、使用料相当額算定の基礎とすべきその余の期間(平成六年九月一二日から平成八年一二月三一日までと、平成一一年一月一日から同年五月二五日まで)の売上を検討するまでもなく、原告の請求は理由があることとなる。

四  争点四(権利濫用)について

1  被告は、本件商標権は、石けん類及び化粧品については登録商標の不使用を理由にその登録が早晩取り消されることになると主張するが、本件全証拠によるもそのような事実を認めるには足りない。

2  また、被告は、原告による本件商標の使用は、駆け込み使用にすぎず、被告は全国規模での営業活動を展開しており、その使用する商標は著名性を有するから、原告が、本件商標権に基づき権利行使をすることは、被告に対し、原告の利益に比肩し得ない著しい損害を与えると主張する。

しかし、被告主張のような事情の下で、商標権者の権利行使が権利濫用になるといえるためには、少なくとも、被告標章から被告の出所しか生じないといえる程度に被告標章が著名でなければならないと解されるところ、被告標章が、そのような著名性を獲得していると認めるに足る証拠はない。

3  以上より、被告の権利濫用の主張は採用することができない。

五  よって、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央)

<以下省略>

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