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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)12440号 判決 1998年11月27日

主文

一  原告は、被告に対し、別紙交通事故目録記載の交通事故による損害賠償債務として金三二九万一七九五円及びこれに対する平成五年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を越える債務を負担していないことを確認する。

二  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告は、被告に対し、別紙交通事故目録記載の交通事故による損害賠償債務として金一九三万八七五一円及びこれに対する平成五年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を越える債務を負担していないことを確認する。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、被告に対し、被告が交通事故により損害を受けたが、原告が主張する債務額を越える債務を負担しないことの確認を求めた事案である。(なお、被告は、いわゆる本人訴訟であり、反訴を提起しなかった。)

二  争いのない事実及び証拠(甲一、一一の一と二、一二の一ないし二〇、一三の一ないし二〇、弁論の全趣旨)上明らかに認められる事実

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

別紙交通事故目録記載の交通事故が発生した。

2  責任

原告は、運行供用者であり、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償義務を負う。

原告には、右後方確認義務違反がある。したがって、原告は、被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。

3  被告が負った傷害と入通院の状況

(一) 被告は、本件事故により、右膝外側側副靭帯損傷、

仙骨骨折、全身打撲、擦過傷、頸部捻挫などの傷害を負った。

(二) 被告は、治療のため、次のとおり入通院をした。

(1) 医療法人寿楽会大野記念病院 平成五年七月二五日から同月二六日まで(二日間)入院

(2) 医療法人徳州会野崎病院(外科) 平成五年七月二六日から同年八月一一日まで(一七日間)入院し、同月一二日から平成七年一月九日まで(実日数二〇二日)通院

(3) 住友病院(耳鼻咽喉科) 平成五年一一月一二日から同年一二月六日まで(二五日間)と平成六年四月一日から同月二六日まで(二六日間)入院し、平成五年八月二五日から平成六年五月二七日まで(実日数七二日)通院

(4) 若杉耳鼻咽喉科 平成五年八月二三日から同年一一月九日まで(実日数一五日)通院

4  症状固定

被告(昭和二五年一二月三日生まれ、本件事故当時四二歳)が負った傷害のうち、右側頭部外傷と右癒着性中耳炎は平成六年五月二七日症状固定したが、そのほかの傷害は遅くとも平成七年一月九日までに症状固定した。

三  原告の主張の要旨

1  損害

(一) 治療費 一六四万七〇九二円

(二) 通院交通費 四万一一五〇円

(三) 入院雑費 五万七二〇〇円

(四) 休業損害 七二三万六八四〇円

被告は、平成五年七月二五日から平成六年一二月二六日まで仕事をすることができなかった。

(五) 入通院慰謝料 一八〇万円

(六) 物損 五万円

2  過失相殺

原告と被告の過失割合は、九〇対一〇とするのが相当である。

3  損害のてん補など

既払分は、八〇一万一三三四円である。

四  被告の主張の要旨

1  後遺障害

被告は、本件事故により、難聴の後遺障害が残った。

2  休業損害

原告主張額には、賞与の損害が含まれていない。

また、被告は、本件事故により、長期にわたり、勤務していた会社を欠勤しなければならなかったが、そのため、長期欠勤を理由に解雇された。そして、不況という社会的状況、被告の年齢のため、再就職することはきわめて困難であったし、勤務先が決まっても、これまでよりも低い年収(一年で一五〇万円の減収)しか得られない。したがって、再就職先が決まるまでの間得られなかった収入、次の勤務先が決まってからの減収分を賠償すべきであり、年間一五〇万円の五年の減収分を求める。

3  慰謝料

被告及びその家族は、本件事故により、非常に大きな苦労を強いられたので、慰謝料は通常の三倍を請求する。

4  物損

被告が所有していたヘルメット、ブーツなどが壊れ、四四万五〇〇〇円の損害を被った。

また、被害車両を新たに中古で購入しようとすると、三〇万円が必要である。原告主張額では、中古の単車を購入することはできない。

5  過失相殺

原告は、後方をよく見ないで、急に進路変更をした。

そして、被告が加害車両を発見するのとほとんど同時に、加害車両に衝突した。被告は衝突を避けることができなかった。したがって、被告に過失はない。原告自身も一〇〇パーセント過失があることを認めていた。

五  争点

1  損害

2  過失相殺

第三判断

一  損害

1  治療費 一六五万五九八一円

証拠(甲一一の二、甲一三の一ないし二〇、弁論の全趣旨)によれば、被告は、治療費として、合計一六五万五九八一円の損害を被ったと認めることが相当である。

2  通院交通費 四万一一五〇円

証拠(弁論の全趣旨)によれば、被告は、平成五年七月二六日、大野記念病院から徳州会野崎病院への転院のため、タクシーを利用し、九二九〇円を負担したこと、同年八月二五日、同年九月一日、同月八日、タクシーを利用し、三万〇七〇〇円を負担したこと、同年一一月四日、同月二七日、同月二九日、電車を利用し、一一六〇円を負担したことが認められる。

したがって、通院交通費として、合計四万一一五〇円の損害を被ったと認めることができる。

3  入院雑費 九万一〇〇〇円

入院雑費は、入院期間七〇日について、一日一三〇〇円が相当である。

4  休業損害 七三〇万〇五〇〇円

(一) 証拠(甲三ないし八、乙二の一と二、六、弁論の全趣旨)によれば、被告は、本件事故当時、株式会社ラビットサプライ(従業員約二〇名)に勤務していたこと、それまで三ないし四年間勤務していたこと、本件事故前の平成五年五月から七月までは合計一二五万二五〇〇円の給与を得ていたこと、したがって、 一か月あたり四一万七五〇〇円の給与を得ていたこと、本件事故により傷害を負い、入通院をしたが、退院後も痛みやしびれがあったこと、本件事故が発生した平成五年七月二五日から平成六年一二月二四日まで、会社を欠勤し、給与がまったく支給されなかったこと、平成五年の冬期賞与が八二万円減額され支給されなかったこと、平成六年の夏期賞与が三〇万七五〇〇円減額され支給されなかったこと、平成六年冬期賞与が三二万八〇〇〇円減額され支給されなかったこと、本件事故による長期休暇のため、平成六年一二月二六日付けで解雇されたこと、その後、バイトをして収入を得ていたが、平成九年一一月二八日から株式会社近畿精機製作所に勤務し、手当を含め一か月二九万〇七三〇円の給与を得ていることが認められる。

(二) これらの事実によれば、原告は、本件事故日の平成五年七月二五日から症状固定日の平成七年一月九日まで約一七か月の間のうち、本件事故のため、入院期間約二か月と、通院期間のうち九か月の間、休業せざるを得なかったと認められる。したがって、一か月の給与四一万七五〇〇円に一一か月を乗じた四五九万二五〇〇円が休業損害と認められる。また、合計一四五万五五〇〇円の賞与を受けることができなかったと認めることができる。

したがって、休業損害は、合計六〇四万八〇〇〇円と認められる。

(三) また、前記認定事実によれば、原告は、症状固定日までの約一七か月の間欠勤し、会社が長期休暇を理由に原告を解雇したことが認められる。そうすると、本件事故による欠勤のため、会社を解雇されたと認めることが相当である。

したがって、再就職先を見つけるまでの相当期間の収入、または、再就職先から得られる給与とこれまで得ていた給与との差額のうち相当額は、本件事故と相当因果関係がある損害ということができる。そして、相当因果関係がある損害として、これまでの一か月の収入の三か月分である一二五万二五〇〇円を損害と認めるべきである。

なお、原告は、給与の差額の五年分相当額が損害である旨の主張をするが、再就職先を見つけるまでの期間の収入または再就職先から得られる給与との差額などは、事故以外にも、様々な事情によって決まるから、そのすべてを本件事故と相当因果関係がある損害ということはできず、相当額に限られるというべきである。したがって、被告の主張を採用することはできない。

(四) 休業損害などは、合計七三〇万〇五〇〇円である。

5  入通院慰謝料 二〇〇万円

入通院慰謝料は、二〇〇万円が相当である。

6  後遺障害及び後遺障害慰謝料

(一) 被告は、本件事故により、難聴の後遺障害が残ったと主張し、甲一〇号証の後遺障害診断書を提出し、同旨の供述をする。

後遺障害診断書によると、本件事故により、右側頭部打撲、意識障害があり、平成五年八月初旬、右耳痛、右難聴に気づいたこと、右耳に伝音性難聴があり、聴力レベルは、一一ないし一三デシベルであることが認められる。

(二) しかし、これだけでは、どのような原因で難聴になったかはわからず、本件事故により難聴の後遺障害が残ったと認めるに足りない。

また、証拠(甲九、二九、三〇、調査嘱託の結果)によれば、自動車保険料率算定会は、次の理由で、被告が主張する後遺障害は等級に該当しない旨の認定をしたと認められる。すなわち、本件事故後入院した大野記念病院及び翌日に転院した徳州会野崎病院のいずれの初診時も、頭部外傷や頭痛の訴えが認められないこと、住友病院耳鼻科では、右癒着性中耳炎と診断され、軽度の難聴が認められているが、初診が本件事故による受傷から一か月後であること、住友病院耳鼻科の初診時に、鼓膜陥凹癒着との所見があるが、本件事故から耳鼻科初診時までの間に、右耳の出血、腫脹、耳痛などの鼓膜陥凹癒着の原因となる外傷所見や炎症所見が認められないこと、右耳のCT画像上外傷所見に乏しく、かえって、右耳錐体骨部に本件事故以前からの変性所見が見られること、耳鼻科治療によっても、聴力に改善が見られないことから、本件事故と難聴は相当因果関係がないと判断した。

そして、これらの理由を検討すると、やはり被告が提出した証拠だけでは、難聴が後遺障害であると認めるに足りない。

7  物損 一〇万円

(一) 証拠(甲一四、被告の供述)によれば、被害車両は、本件事故により、いわゆる全損となり、被害車両の時価額は五万円であること、本件事故時に被告が装着していたヘルメットやブーツなどが本件事故により損傷し、その時価額は明らかではないが、少なくとも五万円を下らないと思われることなどを認めることができる。

したがって、物損は一〇万円と認められる。

(二) これに対し、被告は、被害車両について三〇万円の損害を受けた旨の主張をするが、時価額を越える損害を認めることはできない。

8  雑費 一一万四四九八円

証拠(被告の供述、弁論の全趣旨)によれば、被告は、川村義肢から購入した歩行を補強するための装具、眼鏡などの雑費として、合計一一万四四九八円の損害を被ったと認められる。

9  合計 一一三〇万三一二九円

二  過失相殺

1  証拠(甲二、乙五、被告の供述)によれば、原告は、側道を進行中、本線に入ろうとし、ハンドルを右に切ったこと、ハンドルを切ってから約一七メートル進み、本線の第一車線と第二車線の境界付近で、初めて被害車両を発見し、危険を感じ、ブレーキをかけたが、すぐに衝突したこと、つまり、原告が被害車両を発見したときには、被害車両は加害車両右前部にいたこと、被告は、時速五〇ないし六〇キロメートルで、本線の第二車線付近を走行していたこと、本線の最高速度は、時速六〇キロメートルであること、原告は被告に対し、平成五年八月二三日付け(本件事故の約一か月後)で、本件事故について、原告に一〇〇パーセントの過失がある旨の書面を作成したことなどが認められる。

2  これらの事実によれば、原告は本線に入り、直前の被告を発見し、被害車両と衝突しているから、原告は被害車両を確認していなかったこと、被告は秒速約一六メートルで進行しているから、加害車両を発見しても衝突を避けられなかったこと、原告自身も、一〇〇パーセントの過失があることを認めていることが認められる。

したがって、原告と被告の過失割合は、一〇〇対〇とすることが相当である。

三  損害のてん補など

証拠(弁論の全趣旨)によれば、既払分は、八〇一万一三三四円であると認められる。

四  結論

したがって、原告は、被告に対し、三二九万一七九五円を支払う義務がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤清文)

交通事故目録

(一) 日時 平成五年七月二五日午後〇時一五分ころ(天候晴れ)

(二) 場所 大阪市西区阿波座一丁目一番一〇号

(三) 加害車両 普通乗用自動車(京都五二む五三一七)

運転者 原告

(四) 被害車両 自動二輪車(一大阪か九九一九)

運転者 被告

(五) 事故態様 原告は、右方向に指示器を出しながら南側側道を西進し、西本町交差点で本線中央に進路変更したが、本線中央を西進中の被害車両に接触し、被害車両は転倒した。

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