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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)13360号 判決 1999年9月01日

原告

金澤俊次

ほか一名

被告

木津運送株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告金澤俊次に対し、金一一四四万八一八二円及びうち金一〇四四万八一八二円に対する平成八年一〇月二七日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して、原告金澤俊次に対し、金二九七四万四三二三円及びうち金二六七四万四三二三円に対する平成八年一〇月二七日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告らは、連帯して、原告金沢達也に対し、金二九七四万四三二三円及びうち金二六七四万四三二三円に対する平成八年一〇月二七日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (本件事故)

(一) 日時 平成八年一〇月二七日午後一一時二〇分ころ

(二) 場所 大阪市住之江区南港中一丁目一番先路上

(三) 加害車両 普通貨物自動車(なにわ八八か三二七〇)

(四) 右保有者 被告木津運送株式会社(以下「被告会社」という。)

(五) 右運転者 被告萩原茂樹(以下「被告萩原」という。)

(六) 被害者 亡金沢美津俊(以下「亡美津俊」という。)

(七) 態様 加害車両の進行車線上に倒れていた亡美津俊の腹部付近を加害車両が轢過し、亡美津俊は、大阪府立病院において、腹部圧挫損傷(骨盤骨折)による外傷性ショックを直接の死因として、平成八年一〇月二八日午前一一時二四分、死亡した。

2  (原告ら)

原告らは、いずれも本件事故で死亡した亡美津俊の子であり、その相続人(法定相続分は各二分の一)である。

なお、原告金澤俊次(昭和六〇年九月二日生)は、亡美津俊の前妻金澤律子との長男であり、原告金沢達也(平成四年二月一六日生)は、前妻金沢美穂との長男であり、いずれも未成年者で母が親権者である。

(亡美津俊は、姓の文字を、前妻美穂と婚姻時に「金澤」から「金沢」と更正されているので、亡美津俊及び原告達也及びその親権者美穂と他の親族と姓の文字が異なっている。)

3  (本件事故の発生に至る経緯、先行する暴行行為)

(一) 亡美津俊は、友人の橋本修一(以下「橋本」という。)運転の車に同乗させてもらい(他に同乗者として吉田美紀がおり、橋本が運転する車には事故前合計三名の乗員があった。)、住之江から南港地区の亡美津俊の自宅に送られる途中であり、南港フェリーターミナル方向から南港大橋を渡りきった下り車線を降りきった場所に位置する本件事故現場の付近交差点に向かおうとしていた。

(二) 本件交差点に至るまで道中で橋本の運転する車に対し、幅寄せ等の走行妨害行為をするワゴン車(ニッサンセレナ)があった。

(三) 橋本は、南港大橋を南から北側へ渡り、その下り線を降りきったところに所在する本件交差点で車を停車させた。

本件交差点の南側進入路線は、片側(北方向)五車線であり、左歩道側の車線に橋本がその車を停車させたものであり、これに続き運転してきた後続の前記ワゴン車も停車した。

(四) そこで、それらいやがらせ行為に対し抗議しようと、橋本及び亡美津俊は、車を下車して、後続の停止したワゴン車に歩いて向かい、抗議した。

ところが、走行中は、ワゴン車には窓部分にシールドシールが貼ってあり内部がよく見えなかったが、後部に乗っていたものも含め六名の若者がワゴン車から降りてきて、車の周辺で二手に分かれて亡美津俊及び橋本に対し激しい暴行を加えた。

(五) 亡美津俊は、激しい暴行を加えられて、数名の若者に本件交差点の南側部分(片側五車線)の歩道側から右側に引きずられて、走行車線の一番端の右折用の車線に運ばれた。そして、そのまま更に暴行を受けて遂には意識を失い道路上にうつ伏せに倒れたままで動かなくなり、亡美津俊に暴行を加えていた若者たちは更に橋本への暴行へ加わり、亡美津俊はそのまま路上に横臥した状態で数分間放置された。

(六) その後、数分して同車線を右折するために通過した被告萩原運転の被告車両に亡美津俊は轢かれ、翌日、搬送された大阪府立病院で死亡した。

(七) 被告らと共同不法行為関係にたつと思われる亡美津俊に対して暴行行為を働いた若者六名は、本件事故発生直後、直ちに現場から逃走しており、現在も逮捕されていない。

4  (被告らの責任)

(一) 被告萩原には脇見運転(前方不注視)の過失があり、民法七〇九条の責任がある。

(二) 被告木津運送株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告萩原を雇用し、本件事故はその業務執行中の事故であり、また、加害車両を自己のため運行の用に供していた。

(三) 本件事故は、事故発生に先行してなされた氏名不詳の六名の若者による亡美津俊に対する暴行及び保護義務違反による不法行為の必然的結果である。すなわち、

(1) 六名の若者は、激しい暴行後において動けなくなった亡美津俊を本件事故発生場所に横臥させたまま放置すれば、本件事故が発生するおそれがあることは当然に予測され、またはそれを認識しながら保護義務を怠った。

(2) 本件事故は、亡美津俊が放置され、横臥させられた状態になって、その数分後に(しかも、若者たちによる亡美津俊の同乗車両運転手である橋本に対する暴行が引き続き行われていた状況であった。)、その同一場所において、本件加害車両を運転していた被告萩原の進行方向前方右側にあたる道路端における若者らによる橋本らへ暴行に気をとられて、その進行車線前方を十分に確認しなかった過失により、被告萩原運転の被告車両に亡美津俊が轢かれたものである。

よって、若者たちの亡美津俊への暴行及び保護義務違反による先行事件と本件事故とは、時間的にも場所的にも近接・連続しており、関連共同性は明らかであり、両者は共同不法行為関係にある。

5  (損害) 八〇八〇万五五六六円

(一) 治療費 二五三万八一五〇円

(二) 逸失利益 五〇八〇万五五六六円

死亡時年齢 四〇歳

六七歳を就労可能年数とするホフマン係数 一六・八〇四

生活費控除率 四割

事故前年度の年収(平成七年度) 五〇三万九〇三五円

503万9035円×16.804×(1-0.4)=5080万5566円

(三) 慰謝料 三〇〇〇万円

亡美津俊及び原告ら二名の慰謝料の合計

(四) 弁護士費用 六〇〇万円

よって、原告らは被告らに対し、自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条、七一五条に基づき、連帯して、本件事故の損害賠償請求として、各原告に対し金二九七四万四三二三円及びこのうち弁護士費用を除いた金二六七四万四三二三円に対する本件事故の日である平成八年一〇月二七日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は知らない。

3  同3(一)は否認する。

本件の全体状況に照らせば、亡美津俊が乗っていた車両を運転していたのは、亡美津俊自身であったのではないかとの疑問が存する。

同3(二)のうち、運手者は否認し、その余は知らない。

同3(三)は争う。

被告車両が事故現場に進行してきたとき、原告車両は、五車線のうちの真ん中の車線に停車しており、その後方に別のワゴン車が停車していた。

同3(四)は知らない。

ワゴン車に抗議に行ったのは亡美津俊であり、橋本は、亡美津俊が暴行を受けるのを止めに入ろうとして暴行を受けたというのが実際のところのようである。

同3(五)のうち、亡美津俊が右端の車線上に倒れたまま放置されていたことは認め、その余は知らない。

同3(六)のうち、亡美津俊が放置されてから本件事故発生までの時間は知らず、その余は認める。

同3(七)のうち、若者六名が逮捕されていないことは認め、被告らが若者六名と共同不法行為関係に立つことは争う。

4  同4(一)は否認する。

本件事故の責任は、全面的に亡美津俊もしくは同人に暴行を加えた若者らにあり、被告らに責任はない。

本件事故現場は、片側四ないし五車線を有する道路で、反対方向の道路との間は、上を走っている高速道路と金網フェンスとで物理的にも距離的にも完全に隔てられており、道路左側の歩車道も金網柵で明確に区別されていることから、自動車専用道路に準ずる道路であるということができるが、このように道路の真ん中で、しかも左端の歩道から最も離れた右端の車線上で、意識を失ったまま人が横臥しているなどということは、運転者にとって、およそ予測することが不可能である。

しかも、本件事故当時は、夜間であって道路の見通しは悪く、特に、被告萩原が走行してきた右端の車線は、周りに照明がないことから、左寄りの車線に比べても、なお一層暗かったため、道路上に人が横臥しているのを発見することは不可能であった。

したがって、被告らには本件事故について責任は認められない。

同4(二)は認める。

同4(三)は争う。

5  同5(一)は知らない。

同5(二)のうち、事故前年度の年収は知らず、その余は争う。

亡美津俊は単身生活をしていたのであるから、生活費控除率は少なくとも五割とするのが相当である。

同5(二)は争う。

判例実務上認められている相当額を超える。

同5(三)、(四)は争う。

三  抗弁

1  (過失相殺)

仮に、被告らの責任が存するとしても、本件事故の態様及び発生の経緯からすれば、大幅な過失相殺がなされるべきである。

なお、原告らは、亡美津俊には何らの落ち度もなかったかのように主張するが、そもそも、亡美津俊らは、真ん中の車線上で停止して後続のワゴン車を無理矢理停止させたうえ、自分の方からワゴン車に向かっていったのであるから、喧嘩を誘発したのは明らかに亡美津俊自身である。

そして、喧嘩というのは、本来的に不測の事態を生じさせうる性質のものであるのだから、喧嘩を誘発させるような行動をとったこと自体に亡美津俊の過失が存したというべきである。

2  (損害填補)

原告らは自賠責保険から平成九年一〇月二八日、合計二七三一万六九二〇円の支払を受けた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

亡美津俊の路上横臥は、前記若者たちの先行不法行為の結果であり、仮に、若者たちの暴行誘発について亡美津俊に関連があるとしても、暴行を受けること、ましてやこのような激しい一方的な暴行を受け、しかも抵抗できない状況で危険地域である中央分離帯付近の車線上に放置されることは予測もできず、このような自己の生命、身体の安全を全く守れない状態に陥ったことについて、仮に過失相殺を認めることは、極めて被害者に酷にすぎる結果となり、それらは共同不法行為者間の求償関係で考慮すべき事項である。

2  抗弁2は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故)は当事者間に争いがない。

二  請求原因2(原告ら)は、証拠(甲二の1ないし3)により認められる。

三  請求原因3(本件事故の発生に至る経緯、先行する暴行行為)

証拠(甲五、六、乙一ないし三、五、証人橋本修一、被告萩原本人)によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場の状況は、別紙現場見取図(以下、地点を指示する場合は同図面による。)記載のとおりである。、

2  亡美津俊は、本件事故当日は、友人の橋本、吉田美紀、三好正彦とゴルフに行き、その帰宅途中カラオケに寄った後、橋本運転の車両(クラウン)(以下「橋本車両」という。)で、まず右三好を住之江区北島の自宅に送り、その後、亡美津俊(後部座席)、橋本(運転)、吉田(助手席)の三人で、亡美津俊の住居(住之江区南港中三―三―三三―五〇八)に帰宅途中、幅寄せ等をして橋本車両に嫌がらせをする車両(ニッサンセレナ)(以下「訴外車両」という。)があり、これに立腹した橋本は、本件事故現場にいたり、訴外車両を追い越して前に出、車線中央付近に(甲地点)橋本車両を停止させ、そのため停止した訴外車両(あ地点)に橋本と亡美津俊が向かい、訴外車両の乗員に向かい文句を言ったところ、同車に乗っていた六名の若者が降りてきて、亡美津俊及び橋本に殴るの暴行を加え、亡美津俊は、<×>地点に連れて行かれ、右暴行のために同所に横臥した。

3  橋本に対する暴行(付近)が続いていたところへ、加害車両が本件事故現場に至り、<2>地点で二台の停車車両と付近で橋本が若者らから馬乗りになられているところを見て、そちらに気をとられながら進行したところ、<3>地点で横臥していた亡美津俊を轢過した。

4  本件事故現場においては、道路上の物体について約二七メートルの距離で視認可能であった。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

四  請求原因4(被告らの責任)

1  前記認定の本件事故発生の経緯からすれば、被告萩原に前方不注視の過失があることは明らかである。

2  (二)は当事者間に争いがない。

3  若者らの亡美津俊に対する暴行及び本件事故の発生については、その時間的、場所的接着性からして、関連共同性があるというべきであり、共同不法行為となる。

五  請求原因5(損害)

1  治療費 二五三万八一五〇円

証拠(甲七)により認められる。

2  逸失利益 四二三三万七九七二円

証拠(甲四)によれば、亡美津俊(昭和三一年二月一四日。死亡当時四〇歳)は、本件事故当時株式会社湊製作所に勤務し、本件事故前年の平成七年の収入は五〇三万九〇三五円で、配偶者あるいは扶養親族はいなかったことが認められるから、亡美津俊の逸失利益の現価は、就労可能年数二七年、生活費控除率五割として、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると、次の計算式のとおり四二三三万七九七二円(一円未満切り捨て。以下同じ。)となる。

503万9035円×(1-0.5)×16.804≒4233万7972円

3  慰謝料 合計二四〇〇万円

亡美津俊の死亡による慰謝料は、亡美津俊について二〇〇〇万円、原告らそれぞれについて各二〇〇万円と認めるのが相当である。

4  以上を合計すると、六八八七万六一二二円となる。

六  抗弁1(過失相殺)

前記認定の本件事故発生の経緯からすると、若者から暴行を受け、本件事故発生地点に横臥することになったことには、亡美津俊にその誘発行為があると言うべきであり、本件道路は通常歩行者等が存在しないところである(乙二)ことを考慮すると、本件事故については、被告萩原に関しては、前記損害の三割を過失相殺するのが損害の公平な分担の趣旨にかなうものである。

そこで、前記六八八七万六一二二円からその三割を控除すると、四八二一万三二八五円となる。

七  抗弁2(損害填補)

自賠責保険金二七三一万六九二〇円が支払われていることは当事者間に争いがないから、これを控除すると二〇八九万六三六五円(原告それぞれについて一〇四四万八一八二円)となる。

八  弁護士費用(請求原因5(四))

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は原告それぞれについて一〇〇万円と認めるのが相当である。

九  よって、原告らの請求は、各一一四四万八一八二円及び弁護士費用を除く一〇四四万八一八二円に対する本件事故の日である平成八年一〇月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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