大阪地方裁判所 平成9年(ワ)2776号 判決 1999年5月11日
原告
加藤学
ほか一名
被告
安田火災海上保険株式会社
ほか一名
主文
一 被告井上博は、原告加藤学に対し、金八五八万四二〇一円及び内金八四三万七二一五円に対する平成八年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告井上博は、原告加藤真弓に対し、金七五八万四二〇一円及び内金七四三万七二一五円に対する平成八年六月一六日から支払済みまで年三分の割合による金員を支払え。
三 被告安田火災海上保険株式会社は、原告加藤学の被告井上博に対する本判決が確定したときは、原告加藤学に対し、金八五八万四二〇一円及び内金八四三万七二一五円に対する平成八年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告安田火災海上保険株式会社は、原告加藤真弓の被告井上博に対する本判決が確定したときは、原告加藤真弓に対し、金七五八万四二〇一円及び内金七四三万七二一五円に対する平成八年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
七 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告井上博は、原告加藤学に対し、金三七七五万四三一七円及び内金三七六〇万七三三一円に対する平成八年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告井上博は、原告加藤真弓に対し、金二六〇〇万四三一七円及び内金二五八五万七三三一円に対する平成八年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告安田火災海上保険株式会社は、原告加藤学の被告井上博に対する本判決が確定したときは、原告加藤学に対し、金三七七五万四三一七円及び内金三七六〇万七三三一円に対する平成八年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告安田火災海上保険株式会社は、原告加藤真弓の被告井上博に対する本判決が確定したときは、原告加藤真弓に対し、金二六〇〇万四三一七円及び内金二五八五万七三三一円に対する平成八年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告井上博運転の自動二輪車が横断歩道を歩行中の加藤亮に衝突し、同人を死亡させた事故につき、同人の両親である原告らが被告井上博に対しては、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求し、原告加藤学との間で自家用自動車総合保険契約を締結していた被告会社に対しては、同契約の無保険車傷害条項に基づき、保険金を請求した事案である。
一 争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)
1 事故の発生
左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
記
日時 平成八年六月一六日午後三時二六分頃
場所 大阪府池田市鉢塚三丁目七番一四号先路上(以下「本件事故現場」という。)
事故車両 自動二輪車(一大阪に五五一八)(以下「被告車両」という。)
右運転者 被告井上博(以下「被告井上」という。)
歩行者 加藤亮(平成元年八月二〇日生)(以下「亮」という。)
態様 被告車両が横断歩道を歩行中の亮に衝突した。
2 亮の死亡
亮は、本件事故により脳挫傷の傷害を負い、平成八年六月一八日午後七時頃、死亡した。
3 原告らの地位
原告らは、亮死亡当時、その両親であった。
4 被告安田火災海上保険株式会社の地位
原告加藤学は、被告安田火災海上保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)との間で、平成七年一〇月二三日から平成八年一〇月二三日までの間、自家用自動車総合保険(SAP)契約をしていたものである。
被告井上は、本件事故当時、任意保険に加入していなかった。本件事故は、無保険車の所有、使用または管理に起因するものである。
5 損害の填補
原告らは、本件交通事故に関し、自賠責保険から合計二九〇〇万円の支払を受けた。
二 争点
1 事故態様(被告井上の過失、過失相殺)
(原告らの主張)
被告井上は、時速四〇キロメートルに制限されている市道を南から北へ時速一〇〇キロメートル以上で走行中、前方に信号機が設置されていない横断歩道があるにもかかわらず、横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行せず、かつ、前方を注視して運転しなければならないのに漫然と右スピードのまま走行し、うかつにも横断歩道を歩行中の亮にすら気づかず、被告車両の前部を亮に衝突させて本件事故を生じさせたものであるから、民法七〇九条による損害賠償責任を負う。
(被告らの主張)
被告車両の走行速度は時速約六〇キロメートルである。
本件事故が発生したことについては、理容店回転灯等により見通しがよくなかった歩道上から、亮が車道に飛び出してくるような状態で横断し始めたことも関係しており、この点は過失相殺として考慮されるべきである。
2 損害
(原告らの主張)
(一) 逸失利益 二九〇九万〇四二一円
ただし、右のうち二八三三万円を請求する。
(二) 死亡慰謝料 三〇〇〇万円
(三) 葬儀費用 二九八万四六六三円
(四) 原告学固有の慰謝料 七〇〇万円
(五) 原告学の逸失利益 一一七五万円
(六) 原告真弓固有の慰謝料 七〇〇万円
(七) 自賠責保険金(二九〇〇万円)についての確定遅延損害金(平成八年六月一六日から七四日間分) 二九万三九七二円
(八) 弁護士費用 合計五四〇万円(各原告につき二七〇万円)
(被告らの主張)
否認する。
3 損害の填補
(被告らの主張)
原告らは、本件交通事故に関し、被告井上から一〇〇万円の支払を受けた。
(原告らの主張)
原告らが被告井上から一〇〇万円の支払を受けたことは認めるが、右支払が損害の填補としての性質を有することは争う。
第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)
一 争点1について(事故態様)
1 前記争いのない事実、証拠(甲一、二〇ないし二三、二六ないし二九、三七ないし四二)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
本件事故現場は、大阪府池田市鉢塚三丁目七番一四号先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場を通る道路(以下「本件道路」という。)は、南北方向に走る片側一車線の市道であり、各車線の幅員は約三・四メートルであり、車道の脇には歩道が設置されている。本件道路の制限速度は時速四〇キロメートルに規制されていた。本件道路の見通しはよい。
被告井上は、平成八年六月一六日午後三時二六分頃、被告車両を運転して本件道路の北行車線を南から北に向かって時速約六〇ないし七〇キロメートルで走行し、別紙図面<1>地点で前方に横断歩道があるのを認め、同図面<2>地点において同図面<ア>地点を西から東に横断歩行していた亮に気付き、急ブレーキをかけようとしたが間に合わず、同図面<3>地点において同図面<4>地点の亮に衝突し、亮を同図面<ウ>地点に転倒させ、被告車両は同図面<4>地点に転倒した。
以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。被告らは、理容店回転灯等により見通しがよくなかったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。むしろ、前掲各証拠によれば、本件横断歩道付近の歩道上の見通しはさほど妨げられていないし、亮の歩行態様は早歩き程度であったと認められる。
2 右認定事実によれば、本件事故は、被告井上の前方注視義務違反及び速度調節義務違反の過失により起きたものであると認められる。右認定事実から過失相殺を導くことはできないし、他に過失相殺を相当とすべき事情を認めるに足りる証拠はない。
二 争点2及び3について(損害、損害の填補)
1 損害額(損害の填補分控除前)
(一) 逸失利益 二二四七万四四三〇円
証拠(甲一、四)及び弁論の全趣旨によれば、亮(平成元年八月二〇日生)は、本件事故当時六歳の男子であったことが認められる。亮は、本件事故に遭わなければ、一八歳から六七歳まで稼働することができたと認められるから、平成八年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計男子労働者(一八から一九歳)の平均賃金である年額二四四万四六〇〇円(当裁判所に顕著)を基礎とし、生活費控除率を五割として、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、右稼働期間内の逸失利益の現価を算出すると、二二四七万四四三〇円となる。
(計算式) 2,444,600×(1-0.5)×18.387=22,474,430(一円未満切捨て)
(二) 死亡慰謝料 一六〇〇万円
本件事故の態様、亮の年齢、原告らは別途固有の慰謝料を請求していることその他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、亮の死亡慰謝料としては、一六〇〇万円とするのが相当である。
(三) 葬儀費用 一〇〇万円
葬儀費用については一〇〇万円の限度で本件事故と相当因果関係があるものと認められる。
(四) 原告学固有の慰謝料 三〇〇万円
本件事故の態様、亮の年齢、亮と原告学との関係、本件事故以後における原告学の状態その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告学の固有の慰謝料としては、三〇〇万円とするのが相当である。
(五) 原告学の逸失利益 認められない。
原告学は、本件事故の結果、抑うつ症が悪化し、当時の勤務先を退職することを余儀なくされたとして退職後一〇年間の逸失利益を主張するが、同原告は既に平成元年一〇月頃から不眠、抑うつ感等が生じて箕面市立病院や正岡クリニックに通院を続けていたこと、本件事故前から職場でも部下をもつ責任者として相応しくない勤務状況であったこと(乙一〇、一一)に照らし、原告学が退職したことにより損害を生じたとしても、これをもって本件事故と相当因果関係にある損害とみることはできない。
(六) 原告真弓固有の慰謝料 二〇〇万円
本件事故の態様、亮の年齢、亮と原告学との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告真弓の固有の慰謝料としては、二〇〇万円とするのが相当である。
(七) 自賠責保険金(二九〇〇万円)についての確定遅延損害金(平成八年六月一六日から七四日間分) 二九万三九七二円
本件事故日は平成八年六月一六日であるところ、自賠責保険金二九〇〇万円は、平成八年八月二九日に支払われたから(甲六九1、2、弁論の全趣旨)、右二九〇〇万円につき、原告らの請求する七四日分の確定遅延損害金(年五分の割合)は二九万三九七二円となる(一円未満切捨て)。
2 損害額(損害の填補分控除後)
右損害額の(一)ないし(三)及び(七)を合計すると三九七六万八四〇二円となるところ、原告らはこれを各二分の一の割合(各一九八八万四二〇一円)で取得している計算になる。この外、原告らはそれぞれ固有の損害があるから、これを右金額に加算すると、原告学は二二八八万四二〇一円、原告真弓は二一八八万四二〇一円となる。
原告らは、本件事故に関し、自賠責保険から二九〇〇万円、被告井上から一〇〇万円の支払を受けているから、各原告につき各一五〇〇万円を前記損害額から控除すると、原告学の残額は七八八万四二〇一円、原告真弓の残額は六八八万四二〇一円となる。なお、原告らは、被告井上から支払われた一〇〇万円につき損害の填補としての性質を有することを争っているが、右支払は当座の費用として支払われにものであること(甲四九)、右支払の額に照らすと、損害の填補としての性質を有するものと認められる。
3 弁護士費用 各七〇万円
本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、被告井上に負担させるべき各原告の弁護士費用は七〇万円をもって相当と認める。
被告保険会社は、弁護士費用は無保険車傷害条項に基づく保険金の内容には含まれないと主張する。しかしながら、右認定の弁護士費用は、原告らの被告井上に対する訴訟に関して必要かつ相当な損害にあたるものであるから、無保険車傷害条項に基づく保険金の支払対象たる「損害」の内容を構成するものというべきである。
4 まとめ
以上のとおりであるから、原告学の損害賠償請求権の金額は八五八万四二〇一円(前記1(七)の確定遅延損害金の同原告分一四万六九八六円を除くと八四三万七二一五円)、原告真弓の損害賠償請求権の金額は七五八万四二〇一円(前記1(七)の確定遅延損害金の同原告分一四万六九八六円を除くと七四三万七二一五円)となる。
三 結論
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 山口浩司)
別紙図面