大阪地方裁判所 平成9年(ワ)4971号 判決 1997年8月28日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の不動産について、平成元年九月二五日設定を原因とする大阪法務局堺支局平成七年三月二〇日受付第四二八八号(別紙物件目録一記載の不動産につき)、同四二八九号(同目録二記載の不動産につき)の各根抵当権設定仮登記に基づく本登記手続をせよ。
第二 事案の概要
一 前提となるべき事実(争いない事実、甲1ないし七、八の1、2、弁論の全趣旨)
1 亡播磨實は、平成元年九月二五日、原告に対する合計四億円の借受金債務を担保するために、原告のために、別紙抵当権目録記載のとおりの根抵当権の設定契約をした。
2 しかし、右播磨の希望により、原告は、必要書類及び印鑑証明を徴した上、右根抵当権の設定登記手続を留保した。
3 ところが、右播磨は平成七年一月三〇日死亡したため、原告は、右根抵当権について仮登記仮処分命令を得た上、同年三月二〇日、平成元年九月二五日設定を原因とする根抵当権設定仮登記(大阪法務局堺支局平成七年三月二〇日受付第四二八八号、同四二八九号)を了した。
4 その後、右播磨の法定相続人全員が相続放棄をしたため、平成八年四月一五日、大阪家庭裁判所堺支部によって桐山昌己が右播磨の相続財産管理人として選任された。
二 争点
右の場合に、原告は、被告に対し、仮登記に基づく本登記手続を請求することができるか。
第三 争点に対する判断
一 本件におけるように、法定相続人全員が相続放棄し、相続人が不存在となったときは、清算を主目的とする相続財産法人が成立するが(民法九五一条)、右清算は、家庭裁判所の選任にかかる相続財産管理人によって、相続債権者及び受遺者に対する請求申出の催告(公告)を経た上、限定承認の場合の清算手続を準用して行われる(同九五七条)。
しかして、相続放棄の効力が相続開始の時点に遡ることから(同九三九条)、この場合の清算は相続開始時点においてなされることとなるため、相続債権者において抵当権等の優先権を有する場合でも、相続開始の時点で右優先権につき対抗要件を具備しなければ、これを他の相続債権者及び受遺者に対抗することができず(同九二九条但書、一七七条)、その結果、右優先権を主張する者は、相続放棄の取消等の特段の事情のない限り、その登記義務者に対しても、右対抗要件の具備を請求することはできなくなるものと解するのが相当である。
二 本件の場合、原告は、その主張する根抵当権につき仮登記を経由しているものの、右仮登記自体が亡播磨實にかかる相続開始の時点より後になされたものであることが明らかであるから、これに基づく本登記を経たとしても他の相続債権者等に対抗するに由なく、したがって、登記義務者である被告に対しても、右仮登記に基づく本登記請求をすることはできないものといわざるをえず、また、本件においては、前記特段の事情を認めるに足りる主張立証もない。
三 原告の請求は理由がない。
(別紙)
物件目録
一、堺市五月町九七番壱
宅地 七〇四・四参平方メートル
二、堺市五月町九七番地
(主たる建物の表示)
家屋番号 参八番
木造瓦葺弐階建 居宅
床面積 壱階 弐八参・五参平方メートル
弐階 九〇・弐壱平方メートル
(付属建物の表示)
符号1
木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建 物置