大阪地方裁判所 平成9年(ワ)5280号 判決
原告 上田さだ子
原告 上野敬子
右同所
原告 上野昌之
原告 上田展義
右同所
原告 有限会社上重
右代表者代表取締役 上田さだ子
右同所
原告 有限会社ムク
右代表者代表取締役 上田展義
右六名訴訟代理人弁護士 中坊公平
同 藤本清
同 飯田和宏
同 長尾博史
同 東岡弘高
同 豊島時夫
被告 住商リース株式会社
右代表者代表取締役 中川英彦
被告 松本正治
右両名訴訟代理人弁護士 熊谷尚之
同 高島照夫
同 石井教文
同 池口毅
同 佐藤吉浩
被告 日本スリーエス株式会社
右代表者代表取締役 杉山賢一
被告 杉山賢一
被告 礒田正敏
右三名訴訟代理人弁護士 後藤孝典
主文
一 被告日本スリーエス株式会社、被告杉山賢一及び被告礒田正敏は、連帯して原告上田さだ子に対し金二億一五二八万九五八〇円、原告上野敬子に対し金三二〇七万七五九三円、原告上田展義に対し金三〇二四万〇三三三円、原告上野昌之に対し金一一五万四三九六円及びこれらに対する平成九年六月一五日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
二 原告上田さだ子、原告上野敬子、原告上田展義及び原告上野昌之の、被告スリーエス株式会社、被告杉山賢一及び被告礒田正敏に対するその余の主位的請求、その余の被告らに対する主位的請求、被告住商リース株式会社に対する予備的請求並びに原告有限会社上重及び原告有限会社ムクの主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告らに生じた費用の二分の一と被告日本スリーエス株式会社、被告杉山賢一及び被告礒田正敏に生じた費用を被告日本スリーエス株式会社、被告杉山賢一及び被告礒田正敏の負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告住商リース株式会社及び被告松本正治に生じた費用を原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
1 主位的請求
被告らは、原告上田さだ子(以下「原告さだ子」という。)に対し連帯して金二億四〇六五万七四一九円、原告上野敬子(以下「原告敬子」という。)に対し連帯して金七四〇四万一八〇〇円、原告上田展義(以下「原告展義」という。)に対し連帯して金七三五四万〇一九六円、原告上野昌之(以下「原告昌之」という。)に対し連帯して金二三六万〇八七八円、原告有限会社上重(以下「原告上重」という。)に対し連帯して金一一七四万五九四五円、原告有限会社ムク(以下「原告ムク」という。)に対し連帯して金三二万九一一六円及びこれらに対する平成九年六月一五日(訴状送達翌日以後)から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
2 予備的請求
被告住商リース株式会社(以下「被告住商リース」という。)及び被告スリーエス株式会社(以下「被告スリーエス」という。)は、原告さだ子に対し連帯して金二億四〇六五万七四一九円、原告敬子に対し連帯して金七四〇四万一八〇〇円、原告展義に対し連帯して金七三五四万〇一九六円、原告上重に対し連帯して金一一七四万五九四五円、原告ムクに対し連帯して金三二万九一一六円及びこれらに対する平成九年六月一五日(訴状送達翌日以後)から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告らが、被告らが亡上田重人(以下「亡重人」という。)の相続人である原告さだ子、原告敬子及び原告展義並びに亡重人から死因贈与を受けた原告昌之に対し、A社B社方式と称される節税方策(以下「A社B社方式」という。)及び商品ファンドの購入を違法な断定的判断の提供等により勧誘し、その結果損害を被ったなどと主張して、主位的に被告らに対し共同不法行為及び使用者責任(民法七一九条、四四条一項、七一五条)に基づき、予備的に被告住商リースに対し原告上重との間の地位譲渡契約の債務不履行、被告スリーエスに対し原告上重との間の経営コンサルティング契約の債務不履行に基づき、損害賠償を請求(遅延損害金の請求を含む。)している事案である。
一 争いのない事実等
1 当事者等
(一)(1) 原告さだ子は、亡重人の妻である。
原告敬子は、亡重人及び原告さだ子の養子である。
原告昌之は、原告敬子の夫である。
原告展義は、原告昌之・原告敬子夫妻の長男であり、亡重人及び原告さだ子の養子でもある。
亡重人は、平成五年三月二五日に死亡し、原告さだ子、原告敬子、原告展義は、相続によりその遺産を取得し、原告昌之は、亡重人から死因贈与を受けた(以下、右相続及び死因贈与を総称して「本件相続等」という。)
(2) 原告上重は、亡重人及び原告さだ子の出資により平成四年二月七日に設立された有価証券の投資及び運用業務等を目的とする有限会社である。設立当時の原告上重の代表取締役は亡重人、取締役は原告敬子、原告昌之及び原告展義であり、監査役は原告さだ子であった。原告上重は、平成八年二月一日、休業した。
原告ムクは、亡重人及び原告さだ子の出資により平成四年三月一〇日に設立された有価証券の投資及び運用業務等を目的とする有限会社である。設立当時の原告ムクの代表取締役は原告昌之、取締役は亡重人、原告展義、原告敬子であり、監査役は、原告さだ子であった。原告ムクは、平成八年三月一日、休業した。
(二) 被告住商リースは、各種リース、金融、商品投資販売等を目的とする株式会社である。
被告松本正治(以下「被告松本」という。)、荒木幸志(以下「荒木」という。)、田中利光(以下「田中」という。)及び房本博之(以下「房本」という。)は、平成四年当時、被告住商リースの従業員であり、被告松本は、業務企画推進部商品開発課課長代理の職に、荒木は、大阪営業本部営業第四部主任の職にそれぞれあった。
(三) 被告スリーエスは、企業経営に関する計画の作成受託業務等を目的とする株式会社である。
被告杉山賢一(以下「被告杉山」という。)は、A社B社方式を発案した税理士であり、被告スリーエスを始め、ベンチャーキャピタル会社であるスリーエスキャピタル株式会社、コンピューターソフト総研株式会社であるスリーエス総研株式会社等八つの会社の代表者である。また、被告杉山は、職業会計人が相続の事前対策を提案し、それを実行することによって事業の承継を円滑に行えるようにすることを目的とする日本事業承継コンサルタント協会(以下「コンサルタント協会」という。)の設立者の一人であり副理事長である。
被告礒田正敏(以下「被告礒田」という。)は、平成二年七月から平成七年一二月までの間、住友生命保険相互会社から出向し、被告スリーエスの取締役とコンサルタント協会の副理事長秘書を兼務していた者であり、現在、出向期間満了により、住友生命保険相互会社事業推進部で勤務している。
(四) 今田博史(以下「今田」という。)は、平成四年当時、株式会社みどり銀行(旧株式会社兵庫銀行。以下「兵庫銀行」という。)甲子園支店の次長であった者である。
(五) 岸原宏明(以下「岸原」という。)は、今田の知人であり、平成四年から原告らの顧問税理士として従事していた者である。岸原は、平成元年ころから、税務、経営コンサルティングを業とする株式会社リック(以下「リック」という。)の代表取締役であった。
2 平成三年五月二日、商品投資に係る事業の規制に関する法律(以下「商品ファンド法」という。)が公布され(公布の日から一年以内に施行予定)、平成四年四月二〇日、施行された。
3 本件ファンド
(一) 住商リースマネージド・ファンドIV(以下「本件ファンド」という。)とは、投資家が英領ケイマン諸島に設立される被告住商リースの関係会社と匿名組合契約を締結して右会社(営業者)の事業に出資し、営業者が右出資金によりケイマン諸島に先物運用をするための会社(先物運用会社)と安定運用を行う会社(安定運用会社)を設立した上、右会社において、資金運用を行い、投資家に対する利益配当及び出資金の償還を実現することを内容とする商品ファンドである。本件ファンドには、Aユニット(標準型)とBユニット(安定指向型)があり、Aユニットは、先物運用会社への投資率約三〇パーセント、安定運用会社への投資率約七〇パーセントの組合せにより、先物運用による大きな利益の獲得を目的とするユニットであり、Bユニットは、先物運用会社への投資率一五パーセント、安定運用会社への投資率約八五パーセントの組合せにより、先物運用リスクを最小限に抑えて安定運用による利益の獲得に重点を置いた保守的なユニットである。
(二) 被告住商リースは、平成三年一二月六日、モルガン・グレンフェル・リミテッドとの合弁で、ケイマン諸島において、本件ファンドにつき、営業者となるSTKIVマネージメント・リミテッド(以下「STK」という。)を設立し、同日、STKは、先物運用会社SLMFIV・フューチャーズ・リミテッド及び安定運用会社SLMFIV・スタビリティ・リミテッドをそれぞれ設立した。被告住商リースは、同月九日を本件ファンドの申込締切予定日(募集予定額三〇億円。ただし、申込状況により先物運用資金が八億円を下回る場合は、本件ファンドの設定をとりやめることがある。)、同月一六日を払込締切予定日、同月二〇日を設定予定日とした。そして、同月二四日、被告住商リースは、本件ファンド六一口(Aユニッ卜四一口、Bユニット二〇口)、一口四九〇〇万円、総額二八億八九〇〇万円を設定し、同日、被告住商リースを匿名組合員、STKを営業者として、右両者間に本件ファンドAユニット二三口分一一億二七〇〇万円を出資する旨の匿名組合契約が成立した。なお、被告住商リースは、平成四年一月三一日、後記本件相続税対策の実施の際、本件ファンドのうちAユニット二三口にかかる匿名組合員の地位を被告スリーエスに譲渡し、STKは、右譲渡を承諾した。
(三) 本件ファンドは、安定運用部分については、大手商社である日商岩井が、日商岩井の子会社による元本額買戻について保証しており、先物運用部分については、資産価値が半分に目減りした場合には先物運用を中止して確定利回りの商品に変更して損害を拡大しないようにしている(ストップロス)ため、日商岩井が倒産等をしない限りは、元本額がほぼ確保できるようになっていた。
4 評価基本通達
(一) 財産評価基本通達(昭和三九年四月二五日付直資五六・直審(資)一七国税庁長官通達。ただし、平成六年六月二七日付課評二ー八・課資二ー一一三による改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)一八五、一八六ー二等によれば、取引相場のない株式等の評価については、まず株式等を相続した者が同族株主以外の株主等に該当するか否かにより区分し、同族株主以外の株主に該当する場合は、配当還元方式により評価し、右に該当しない場合は、純資産方式、類似業種比準価額方式又は右二方式の併用方式により評価することとされ、そのいずれによるかは当該株式等の発行会社の規模等による区分に応じて定められるが、開業後三年未満の会社については、会社の規模にかかわらず純資産方式により計算することとされている。そして、純資産方式は、評価しようとする株式等の発行会社の相続開始時における各資産を評価基本通達の定めるところにより評価し、その価額の合計額から相続開始時における各負債の金額の合計額及び評価基本通達一八六ー二の定めにより計算した法人税等相当額を控除した残額を、相続開始時における発行済み株式(出資)数で除して計算した金額を一株当たりの評価額とするものであり、法人税等相当額は、評価差額に五一パーセントを乗じて計算した金額とされる。
また、評価基本通達六には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と規定されている。
(二) 国税庁は、平成五年一〇月、各税務署に対し、金融機関からの借入金で第一の同族会社を設立し、その会社の出資の全部を著しく低い受け入れ価額で現物出資して第二の同族会社を設立するという手法によって取引相場のない株式の価額と簿価との評価差額を恣意的に作り出し、相続税の負担の軽減を図る事案については、評価基本通達六の適用により、個別具体的事案ごとに恣意的に作り出された差額に対する法人税額等は控除しないとする取扱いを示した(同月一五日付資産評価企画官情報第一号)。
(三) 国税庁資産評価企画官室企画専門官は、同年一一月一日付の公刊物(乙六。週刊税務通信二三〇二号)において、右(二)のような一連の行為により、本来独立した経済主体として営業活動を行うべき会社に対して、企業活動の基本資産とはなり難い第一の会社の株式等を、しかも著しく低い価額で現物出資することに経済的合理性はなく、恣意的に評価差額を作り出して相続税の負担を軽減することを目的とするものであることが明らかであるから、相続税の算定に当たり、第二の会社の取引相場のない株式の評価は評価基本通達一八五に定める純資産価額方式によることを基本とするものの、現物出資により恣意的に作り出された評価差額に対する法人税額等相当額は控除しないで計算することとなる旨の見解を発表した。
(四) 評価基本通達は、平成六年六月二七日付で改正され(以下、同日付改正後の同通達を「平成六年改正通達」という。)、同年八月一日以後の相続等については、評価対象たる取引相場のない株式の評価に当たり、その株式を発行している会社の資産の中に、現物出資で受け入れた取引相場のない株式があり、その受入価額が帳簿上著しく圧縮されている場合には、その圧縮された差額を加算して評価差額を零とすることにより、法人税額相当額の控除をしないこととされた(乙三)。
5 A社B社方式
A社B社方式とは、手持資金で、あるいは資金を借り入れて出資し、第一会社(株式会社又は有限会社)を設立し、第一会社の出資持分を取得し、その後、取得した出資持分の全部ないし一部を現物出資して第二会社(株式会社又は有限会社)を設立することによって、前記4(一)の評価基本通達を形式的に適用することにより、法人清算時類似の法人税額等相当額の五一パーセント控除を得て、第二会社の株式又は出資持分の相続税財産評価額を圧縮する方式である。
6 原告さだ子及び亡重人は、平成五年当時、時価十数億円の土地を所有し、所有地の一部の上にビルを建て、兵庫銀行甲子園支店に賃貸しているほか、駐車場も経営して不動産で収入を得ていた。
7 本件勧誘及び本件相続税対策
被告らは、平成三年末ないし平成四年初旬にかけて、亡重人及び原告らに対し、A社B社方式と本件ファンドを組み合せた節税方策の勧誘をした(以下、被告らがなした右勧誘を「本件勧誘」という。なお、本件勧誘の時期及び内容等については、後記のとおり争いがある。)。その結果、亡重人及び個人原告らは、金融機関からの借入金を原資として有限会社二社を設立し、右会社が本件ファンドを購入して、その事業にすると同時にその運用益金をもって右借入金の利息負担を補うことを内容とする相続税対策(以下「本件相続税対策」という。)を採用し、以下のとおりの契約締結等をした。
(一) 亡重人及び原告さだ子と兵庫銀行は、平成四年一月三一日、亡重人及び原告さだ子各自が兵庫銀行から各五億円の当座貸越しを受けられる旨の当座貸越契約を締結した(甲三七の1、2)。そして、亡重人及び原告さだ子は、右契約に基づき、同日を利息起算日として兵庫銀行から各三億二七〇〇万円ずつ借り入れ、原告さだ子の口座に同年二月五日、亡重人の口座に翌六日、それぞれ兵庫銀行から右各金員が振り込まれた。右貸金の金利は、変動金利制とされ、右貸付当時は年八・一パーセントであったが、その後、別紙一のとおり変更された。
(二) 亡重人及び原告さだ子は、平成四年二月七日、被告住商リースから、連帯して八億〇五〇〇万円を借り入れた(甲二一ないし二三)。右貸金の金利は、変動金利制とされ、当初は年七・五パーセントであった。
(三) 亡重人及び原告さだ子は、平成四年二月七日、右(一)の兵庫銀行からの借入金及び右(二)の被告住商リースからの借入金を原資として一四億五〇〇〇万円を出資し、原告上重を設立した。原告上重の設立時における総出資口数は一四五口で、その一口当たりの金額は五万円であったが(資本の総額七二五万円)、出資一口に対する払込金額は一〇〇〇万円であり(払込総額一四億五〇〇〇万円)、払込金額総額一四億五〇〇〇万円のうち、七二五万円が資本金に、一四億四二七五万円が資本準備金にそれぞれ組み入れられた。
(六) 原告上重は、平成四年二月一〇日、被告スリーエスから本件ファンドの匿名組合員の地位を譲り受け、STKが右譲渡につき異議なき承諾をした(甲二九。以下「本件地位譲渡契約」という。)。原告上重と被告スリーエスは、その際、右譲渡代金につき原告上重から被告住商リースに直接支払う旨合意し、原告上重は、被告住商リースに対し、本件ファンドの代金一一億五〇六九万円(含消費税)を送金した(甲七五)。また、同日、原告上重は、亡重人及び原告さだ子の被告住商リースに対する前記(二)の借受金債務の担保として本件ファンドを被告住商リースに提供する旨の契約を締結した(甲三〇の1)。
(七) 亡重人及び原告さだ子は、平成四年三月一〇日、現金で各一八〇万円合計三六〇万円を出資するとともに、原告上重の出資一四四口(亡重人七三口中の七二口、さだ子七二口全部)を現物出資して、原告ムクを設立した。原告ムクの総出資口数は九〇口で、その一口当たりの金額は五万円であり(資本の総額四五〇万円)、現物出資された原告上重の出資一四四口に係る原告ムクの受入価額は九〇万円であった。これにより、亡重人及び原告さだ子は、それぞれ、原告ムクの出資四五口(以下「本件出資」という。資本金二二五万円に相当)を取得した。
8 被告スリーエスは、平成四年二月七日、原告上重との間で、同被告が同原告の経営に対してコンサルティングを行う旨の契約(以下「本件経営コンサルティング契約」という。)を締結し、同日、リックとの間で、リックが同被告の経営に対してコンサルティングを行う旨の契約を締結した(丙一一)。
リックは、右契約に基づき、被告住商リースから、右契約締結の約一週間後に着手金四〇〇万円を受け取り、平成四年から平成六年ころまでの間月額一七万五〇〇〇円の報酬を受け取った。
9 配当方針変更の通知
STKの代表者松沢研二は、平成四年七月六日、原告上重に対し、本件ファンドの配当機会を増やすためとして、次のとおり、本件ファンドの配当方針の変更を通知した(甲三六。以下「本件変更通知」という。)。
現行の配当 本件ファンドの毎決算期に先物運用会社の純実現利益の二五ないし五〇パーセントの利益分配金を支払う。
変更後の配当 先物運用会社の利益のうち、次のいずれか高い方を限度として毎年配当の形態にて、営業者に支払われ、その後匿名組合員に分配する。
(a) 純実現利益の一〇〇パーセント(ただし、投資元本を下回らない範囲内とする)
(b) 実現利益及び未実現利益を含む純利益の五〇パーセント
10 相続及び本件更正処分等
(一) 亡重人は、平成五年三月二五日、死亡し、原告さだ子が二分の一、原告展義、原告敬子が四分の一の割合で相続し、原告昌之は、死因贈与による受贈者となった。
(二) 同年一一月一日、原告さだ子、原告展義、原告敬子及び原告昌之は、岸原作成に係る亡重人死亡に伴う相続税確定申告書(甲三九の1)を西宮税務署長に提出した。
(三) 平成八年九月八日、個人原告らは、岸原作成に係る相続税修正申告書(甲三九の2)を西宮税務署長に提出した。
(四) 西宮税務署長は、被告スリーエス発案のA社B社方式節税方策を否認するとして、本件出資四五口の評価について、評価基本通達一八五、一八六ー二に定める方法によらず、相続開始時における原告ムクの各資産の評価額から各負債の合計額のみを控除し、法人税額等相当額を控除することなく、本件出資の評価額を一口当たり一六〇六万九二四四円、総額七億二三一一万五九八〇円と算出した上で、原告さだ子、原告敬子、原告展義及び原告昌之に対し、平成八年一〇月二四日付で、相続税更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした(甲四八の1ないし4)。右賦課決定処分による右過少申告加算税額は、原告敬子につき三八六万九〇〇〇円、原告展義につき三五六万九〇〇〇円、原告昌之につき一四九万六〇〇〇円であった。なお、原告さだ子も更正処分を受けたが、税額は零円であった。
(五) 原告敬子、原告展義及び原告昌之は、本件更正処分による過少申告加算税及び本件更正処分による増加納税の延滞分についての延滞税を次のとおり納付した。
(1) 原告敬子
平成九年一月三一日 物納分延滞税 四万一六〇六円
同年二月三日 本税延滞税 二〇五万〇八四〇円
二月一〇日 過少申告加算税 三八六万九〇〇〇円
(2) 原告展義
平成九年一月三一日 本税延滞税 一八九万二八四〇円
物納分延滞税 一万三〇六四円
同年二月六日 過少申告加算税 三五六万九〇〇〇円
(3) 原告昌之
平成八年一一月一八日 本税延滞税 七九万四〇〇〇円
同日 過少申告加算税 一四九万六〇〇〇円
11 本件ファンドの解約等
(一) 平成六年一二月二八日、岸原の判断により、原告上重が、STKに対し、本件ファンドのうち七口の解約を申し入れた。
(二) 平成七年三月七日、STKは、原告上重に対し、本件ファンドのうち、六口の解約を承諾し、その中途解約金から諸費用控除後の二億九六七八万六九九七円を、被告住商リースに同月二日送金した等の通知があった。被告住商リースは、右金員を前記7(二)の貸付金の返済の一部に充当した。
(三) 平成七年六月ころ、STKから、原告上重に対し、先物投資を中止する、本件ファンドの中途解約を受け付ける旨の申出があった。
(四) 平成七年六月三〇日、同日を基準日として、原告上重は、本件ファンド一六口を解約した。
(五) 平成七年七月一八日、被告住商リースから、原告上重に対し、前項の本件ファンド一六口の清算金処理について、次のとおり通知があった(甲四七)。
清算金合計額 八億〇九一一万〇六二二円
(一口 五〇五六万九四一四円)
被告住商リースに対する借入金返済 △五億〇六九三万四八一三円
銀行に対し支払う入金手数料 △ 四〇万四五五六円
差引き原告上重の預金口座への送金額 三億〇一七七万一二五三円
(六) 被告住商リースは、平成七年七月二一日、原告上重に対し、右清算処理に基づき、三億〇一七七万一二五四円を入金した。
(七) 平成九年一月二八日、STKから本件ファンドの残り一口について償還通知があり(償還手取り金額五六〇六万二五二二円)、原告上重に対し、五六〇二万八四九一円が入金された。
(八) 結局、原告上重は、本件ファンド二三口を、一一億五〇六九万〇七二一円で取得し、一一億六一九二万六一一〇円の償還金を受け取ったので、本件ファンドにより一一二三万五三八九円の利益を得た。
12 原告さだ子、原告敬子及び原告展義は、平成八年一二月二四日、西宮税務署長に対し、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として異議申立てをしたところ、西宮税務署長は、平成九年三月一九日、原告敬子及び原告展義に対する各更正処分及び各賦課決定処分の一部を取り消し(ただし、本件出資の価額についての認定は変更していない。)、原告昌之の異議申立てを却下する旨の異議決定をした。
原告さだ子、原告敬子及び原告展義は、平成九年四月一八日、国税不服審判所長に対し、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成一〇年三月一三日付で同原告らの審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
原告敬子、原告展義及び原告昌之は、平成一〇年六月一八日、神戸地方裁判所に対し、西宮税務署長を被告として、本件更正処分及び本件賦課決定処分の取り消しを求める訴訟を提起した(神戸地方裁判所平成一〇年(行ウ)第二三号相続税更正処分等取消請求事件)が、同裁判所は、平成一一年一二月一三日、本件更正処分及び本件賦課決定処分は適法であったとして、右原告らの請求を棄却する旨の判決をした(甲一〇六)。
二 争点
1 本件ファンドの勧誘は、商品の押付売りに当たり違法であるか。
2 本件ファンドの勧誘は、事実の不告知・不実の告知(商品ファンド法二三条一項)又は断定的判断の提供(同法二四条一項)に当たり違法であるか。
3 本件ファンドの勧誘は、商品購入資金の貸付又は貸付の媒介(商品ファンド法二二条)に当たり違法であるか。
4 本件変更通知は不実の告知に当たり違法であるか。
5 A社B社方式の勧誘についての違法性の有無
6 A社B社方式の勧誘について被告住商リースが責任を負うか。(主位的・予備的請求)
7 損害
三 当事者の主張
1 争点1(本件ファンド勧誘は、違法な商品の押付売りに当たり違法であるか。)について
(原告らの主張)
被告らには、商品ファンドの販売契約をする際には、顧客となるべき者の欲する商品を欲する量だけ販売すべきであるという条理及び省令、通達等に従い、顧客の欲しない商品を押し付け売りしてはならない注意義務があった。しかし、被告らは、口頭及び資料により説明した被告住商リースの信用を利用し、大蔵省、通商産業省二省共管の販売業務省令(以下「販売業務省令」という。)七条で投資者の保護に欠ける行為として禁止されている威迫行為又は同省令に関する通達で不当な勧誘行為として禁止されている勧誘に対する拒絶の意思を明らかにした者に対する執拗な勧誘を行い、本件ファンドを原告上重に押し付け売りした。被告らの勧誘が右禁止行為に該当する根拠となる事実は、おおむね次のとおりである。
(一) 被告礒田は、平成四年一月一六日の原告らとの第一回目の会合で、早くも本件ファンドの購入を勧め、更に平成四年一月二二日の第二回目の会合においては、原告らに対し、本件ファンドのうち当時の発行済み売れ残り金額と符合する一一億五〇〇〇万円分を購入するという提案を行った。そして、借入金を一五億円とする右提案に対し、過大な支払利息の発生を懸念した岸原が、被告礒田ないし荒木に対し、借入金を半額程度にとどめ、購入ファンドも少なくするように要請したにも拘わらず、被告礒田ないし荒木は、いずれも、一一億五〇〇〇万円の本件ファンドの購入と右購入に見合うだけの設立会社への出資及び金融機関からの借入れが最良として譲らず、これを押し付けた。
(二) 被告礒田が、本件ファンド一一億五〇〇〇万円分の購入案にあくまで固執したため、岸原が、危険性を考え、危険性の高いAユニットのみでなく、安全性の高いBユニットを一対一の割合で購入するように何回も要求し、Aユニットのみの購入を拒否したにもかかわらず、被告住商リースの担当者は、飽くまで売れ残りのAユニット二三口の購入を執拗に勧誘した。
(三) 原告上重の購入した本件ファンドAユニット二三口は、被告住商リースが当時保有していた本件ファンドの総額の四割弱、Aユニットでは五、六割強を占めるもので、原告上重が早急に購入しなければ、被告住商リースは収益面で大きな減収となり、その名誉にもかかわるものであった。
(四) 被告住商リースらは、各種資料を原告らに提供し、被告住商リースが住友系の大会社で商品ファンドでは業界のトップクラスの実績があるなどと説明して原告らを信用させた。
(被告住商リースらの主張)
岸原が、本件節税対策における借入金を半額程度にとどめ、購入ファンドを少なくするように要請した事実もAユニットとBユニットを一対一の割合で購入することを要求した事実はなく、被告住商リースの担当者が、本件ファンドの購入を執拗に要求して、勧誘した事実もない。
(被告スリーエスらの主張)
被告礒田は、本件ファンドが売れ残ったから勧めたのではなく、株式など元本保証のない商品よりも安全であるという意味で勧めたものである。原告ら側に勧めた金額が一一億五〇〇〇万円になったのは、被告杉山において、被告住商リースに一一億五〇〇〇万円の商品があることを知っていたからであり、売れ残り額を原告ら側に押し付けようとしたからではない。また、被告礒田が一一億五〇〇〇万円という数字に固執した事実や、岸原が、AユニットとBユニットを一対一の割合で購入するように何回も要求したり、借入金額の減少を強硬に主張したりしたが被告らがそれを頑強に譲らなかったというような事実はない。
2 争点2(本件ファンドの勧誘は、事実の不告知・不実の告知(商品ファンド法二三条一項)又は断定的判断の提供(同法二四条一項)に当たり違法であるか。)について
(原告らの主張)
商品ファンド法二三条一項、同法二四条一号にも規定されているように、被告らは、本件ファンドの勧誘の際、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項につき、故意に事実を告げず又は不実のことを告げてはならず、また、本件ファンドにより確実に借入金利息を上回る利益が生じるとの断定的判断を提供して勧誘してはならない注意義務があったにもかかわらず、これに違反した。被告らの勧誘が右注意義務違反に該当する根拠となる事実は、おおむね次のとおりである。
(一) 被告住商リースの従業員は、Aユニットの商品ファンドの収益性は不明であるのに、各種資料(甲一、一〇ないし一四等)を配付することにより、被告住商リースの信用性、本件ファンドの高い収益性、安定性などを強調し、保証した。
(二) 被告松本は、本件ファンドのAユニットは、平成四年一月末には、損失を生じる状況であり、甲二のチャートや甲一八の2のシミュレーションのような利益を生じる予想はできないのに、右チャートやシミュレーションを見せて、本件ファンドはこのシミュレーションによる予想どおりの利益が出ることは間違いないと言った。
(三) 被告松本は、本件ファンドの購入資金を借入金で賄って、その支払利息を負担できるほどの利益が出る見込みはなく、また、利益の配当はしない予定であったのに、原告らに対し、「およそ年一五パーセントの利益ないし配当があるから、亡重人及び原告さだ子が借入金の利息やそのほかの諸費用を払っても損をすることはない。」「任せて貰ったら大丈夫です。」などと言った。
(四) 被告松本は、原告ら側から、「被告住商リースから提供された資料には損することもあると書いてあるが、そんなに儲かることは間違いないのか。」と念を押して尋ねられたのに対し、「絶対儲かるものであれば節税商品として通用しないのでカモフラージュのため損することもあると書いてあるだけである。絶対儲かるものであることは部外に漏らさないようにして欲しい。」と言った。
(五) 被告松本は、Aユニットのみの購入による危険の回避のため、A、B各ユニットを同数購入したい旨の岸原の申入れに対し、「Aユニットで間違いなく借入金の利息分等経費以上の儲けがある。」と言った。
(六) 被告ら側の誰かが、「法人税の節税を考えなければいかん。」などと、本件ファンドで原告上重に多大の利益を生じるので、その税金対策を考える必要があると言った。
(七) 被告らは、原告らに対し、本件ファンドについて利益が生じることのみ記載され、投資家に確実な利益の発生を誤信させるような記載がある投資説明書等(甲二、二六)を交付した。
(八) 被告らは、本件ファンドは最後まで利益金の分配はあり得ないという仕組みになっていたにもかかわらず、これを秘匿し、あたかも先物運用会社により毎年利益が生じ、その利益の内の幾ばくかは毎年利益の分配、配当として投資家に交付されると誤信させる虚偽事項を記載した文書(甲四、二六)を原告ら側に交付した。
(九) 平成七年六月一五日ころ、本件ファンドの解約交渉の際、田中が原告さだ子らに「この商品ファンドは手持資金でやるべきで借金をしてやるべきではない。」旨、従前と反対趣旨の発言をした。
(一〇) 被告スリーエスらは、「被告らは原告らに単に節税対策だけを提案したものではない。投資案件と節税対策を提案したものである。巨額の借入れをおこすのであるから収益を期待できる案件でなければ提案するわけがない。」旨自認している(被告スリーエスら準備書面二)。
(被告らの主張)
(一) 被告らが、本件ファンドについて、多額の支払利息等を補って余りある利益や配当が得られるとの説明をした事実はない。原告らは、本件ファンドにリスクもあることを承知の上で買い入れたものである。
また、原告ら側から、本件ファンドの利回りに関して、借入金利との関係を質問された際、被告松本は、過去の例から見ると商品ファンドの利回りが借入金利を上回る可能性があるが、利回りは被告住商リースにおいて約束できることではないと回答している。
(二) 本件ファンドが、最後まで利益金の分配はあり得ないという仕組みになっていたということはない。
3 争点3(本件ファンドの勧誘は、商品購入資金の貸付又は貸付の媒介(商品ファンド法二二条)に当たり違法であるか。)について
(原告らの主張)
(一) 商品ファンド法二二条は、投資家保護のため、「商品投資販売業者は、その業に関して、顧客に対し、金銭等の貸付け、又は貸付けの媒介等をしてはならない。」旨定めているが、被告らは、顧客である亡重人及び原告さだ子に対し、右規定に違反して、本件ファンドの購入資金を自ら貸し付けたり、兵庫銀行に貸付けの媒介をしたのであるから、違法である。
(二) なお、被告らは、後記のとおり、本件勧誘時は、商品ファンド法が施行前であったことを根拠にその責任を否定するが、商品ファンド法が施行前であったとしても、被告らは、同法が公布されていることや、その施行予定期限を知っていたのであるから、被告らは、同法公布後で、その施行を間近に控えていた時期に、金銭貸付期間が同法施行後も続くことが予想される場合には、同法に違反して金銭の貸付け等をしてはならない注意義務があった。
(三) また、被告らは、後記のとおり、ファンドの購入者(原告上重)と購入資金の借主(亡重人及び原告さだ子)が異なることを根拠にその責任を否定するが、本件ファンドの購入者が原告上重であり、亡重人及び原告さだ子と形式的には主体が異なるとしても、原告上重は、本件節税対策のためのみに、亡重人及び原告さだ子のみが出資者となって、新しく設立されたものであり、本件ファンドの購入資金の原資は、亡重人及び原告さだ子の原告上重に対する出資金であるから、原告上重と亡重人及び原告さだ子は実質的に同視すべきものであり、被告らの右主張は失当である。
(四) また、被告らは、本件においては、商品ファンド法四六条が適用され、二二条の適用が除外される旨主張する。しかし、亡重人及び原告さだ子は、約一七億円の資産を持っていたにすぎず、ビル賃貸も営業というにはほど遠く、また、本件勧誘当時、原告らが相続税対策のプロを相談相手としていたわけではない。亡重人及び原告さだ子は、これまで商品ファンドを購入した経験はなく、原告上重の営業のため又は営業として契約したものではない。したがって、本件において同法四六条の適用はなく、被告らの右主張は失当である。
(被告住商リースらの主張)
(一) 本件勧誘時、商品ファンド法は施行前であったから、被告らの行為が、同法に直接違反することはない。
(二) 亡重人及び原告さだ子の被告住商リースからの借入れの目的は、原告上重の設立資金の調達にあり、本件ファンドを購入したのは原告上重であるから、商品ファンド法二二条に反しない。
(三) 亡重人及び原告さだ子が、兵庫銀行及び被告住商リースから金銭を借り入れた意図は、相続税対策として相続税の課税対象を減少させることにあり、兵庫銀行の協力依頼に応じて被告住商リースが行った貸付けは、資金力に反した無理な投資勧誘等を抑制するための商品ファンド法二二条の趣旨に反しない。
(四) 投資家が営業のために又は営業として契約を締結する場合には、顧客が自己の返済能力、担保余力等を十分に把握しているのが通常であり、不当に過大な融資を受けることは考えられないことから商品ファンド法四六条は、同法二二条の適用を除外している。亡重人及び原告さだ子は、多額の資産を持ち、ビル賃貸業等の営業を行い、不動産収益や相続税対策について複数の顧問税理士や銀行の支店次長等のプロを相談相手として、かねてから研究を怠らなかったのであるから、本件において同法四六条が適用され、同法二二条の適用は除外される。
4 争点4(本件変更通知における不実の告知等の有無)について
(原告らの主張)
被告住商リースは、商品ファンドの販売業者として、商品投資契約等の解除を妨げるため、契約等に関し顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要事項につき不実の告知が禁止されている(商品ファンド法二三条二項)から、これに違反してはならないことはもとより、一般的に顧客に対して重要な事項について真実を告知する義務、不実を告知してはならない注意義務があった。しかし、被告住商リースは、本件変更通知において、本件ファンドの売買契約を解除されることを防止するために、配当契約に関し顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要事項につき不実の告知等をなし、右注意義務に違反した。具体的な不実の告知等の内容は次のとおりである。
(一) 本件ファンドは、その組成が過去のパートナーシップ形態と異なり、そもそも配当はできない仕組みになっているのに、本件変更通知に、「配当機会を増やすため」と虚偽の記載をした。
(二) 日本の会計基準によると、本件ファンドには最後まで損益は発生しないから純利益はあり得ないのに、本件変更通知に、「営業者であるSTKが、日本の会計基準による、純利益の一〇〇%を優先的に配当を受けられる。」と、純利益が発生する旨の虚偽の記載をした。
(三) 本件変更通知は、前項記載の内容からすれば、匿名組合の経営者であるSTKが、商品ファンドに利益を生じた場合、その全部を顧客である組合員を排除して取得するという、商法五三五条に違反するものであった。
(四) 本件変更通知には、この配当方針の変更は、投資家の利益を害さないものであり、また、営業者の専属的裁量事項であると記載されているが、虚偽である。
(被告らの主張)
(一) 本件ファンドにおいて配当は可能であるし、過去の同種ファンドでは現実に配当がなされている。すなわち、本件ファンドにおいては、先物運用会社で利益が出た場合、匿名組合の営業者は先物運用会社から利益の一部の配当を受け、その配当で受領した現金を投資家に配当することが予定されており、「最後まで利益金の分配はあり得ない仕組み」というのは原告らの誤解である。
(二) 本件変更通知は、営業者が優先的に配当を受けられるという内容を持つものではない。営業者が先物運用会社から配当を受け、それを匿名組合員に配当するという二段階の手続を要するのは、営業者が先物運用会社に運用をさせているという本件ファンドのスキーム上当然のことであり、組合員を排除して営業者が自己の利益のために配当を取り上げるかのような原告らの主張は誤解に基づくものである。
5 争点5(A社B社方式の勧誘についての違法性の有無)について
(原告らの主張)
A社B社方式は、相続税関係の通達等の規定を形式的に利用する事により、相続税の負担を実質的理由なく減少させるものであり、法の規定を潜脱して実質的に租税負担の公平を害する違法なものであるから、A社B社方式が課税庁によって否認され、個人原告らが、過少申告加算税及び延滞税の納税を余儀なくされることを、被告らは、認識していたか、十分認識可能であった。よって、被告らとしては、A社B社方式を、適法、有効なものとして他人に勧めてはならない注意義務があったにもかかわらず、原告らにA社B社方式を勧めたものであり、被告らのA社B社方式の勧誘は違法である。なお、課税庁がA社B社方式による節税策を否認したのは、平成六年改正通達を遡及適用したことによるものではない。
(被告スリーエスらの主張)
A社B社方式による節税策は、本件勧誘がなされた当時の評価基本通達に適合した適法なものであり、これを否認した本件更正処分の方が、相続発生後に改正された平成六年改正通達を遡及的に適用するものであって、租税平等主義等に反する違法なものである。また、本件勧誘当時、一般的な税理士も、A社B社方式は適法であると認識していたのであるから、被告スリーエスらには、故意も過失もない。
6 争点6(A社B社方式の勧誘について被告住商リースが責任を負うか。(主位的・予備的請求))について
(原告らの主張)
被告住商リース及び被告スリーエスは、自らの利益のために、互いに協力することとし、通謀の上、違法なA社B社方式の勧誘をしたものであり、A社B社方式の勧誘について、被告スリーエスのみならず、被告住商リースも責任を負う。このことは、次の事実からも明らかである。
(一) 荒木が、今田に対し、商品ファンドとA社B社方式を組み合せる相続税対策がある旨申し向け、原告ら側に対し、被告杉山の考案した節税策であるから間違いないなどと宣伝していた。
(二) 被告礒田が、原告ら側に対し、本件ファンドへの投資を勧めた。
(三) 被告礒田が勧め、被告らが岸原の要請を拒否してまで固執した本件ファンドの購入額は、被告住商リースが早急に顧客に販売する必要があった売れ残りの額と一致するものであった。
(四) 被告スリーエスらは、「被告らは原告らに単に節税対策だけを提案したものではない。投資案件と節税対策を提案したものである。巨額の借入れをおこすのであるから収益を期待できる案件でなければ提案するわけがない。」旨自認している(被告スリーエスら準備書面二)。
(被告住商リースらの主張)
被告住商リースらが、被告スリーエスらと通謀した事実はない。相続税対策に関しては、被告住商リースらは、原告ら側に対し、被告スリーエスらを紹介したに止まるのであって、相続税対策を勧めたことはないし、本件相続税対策の具体的内容も知らないし、原告ら側の本件相続税対策の決定に影響を与えるような言動をしたこともない。
7 争点7(損害等)について
(原告らの主張)
(一) 原告ら及び亡重人は、被告らの前記違法な勧誘により、本件相続税対策を実施したため、本件口頭弁論終結時までに次のとおりの損害を被った。また、原告さだ子、原告敬子及び原告展義は、亡重人の損害賠償請求権を法定相続分に応じて、それぞれ二分の一、四分の一、四分の一の割合で相続した。
(1) 亡重人 一億六九一一万三二三四円
ア 被告住商リースからの借入れの際の金銭貸借契約証書貼用印紙代(以下「本件印紙代」という。) 一〇万円
イ 被告住商リースへの支払利息 八六四〇万一九五四円
ウ 被告住商リースへの支払利息送料 五〇四七円
エ 兵庫銀行に増担保するための担保権変更登記費用(以下「本件登記費用」という。) 一三三万六〇〇〇円
オ 兵庫銀行に対する支払利息 八〇一六万七七九〇円
カ 原告上重及び原告ムクの設立関係費用(出資金払込手数料、法人設立及び登記費用並びに印鑑代金。以下「本件設立費用」という。) 一一〇万二四四三円
(2) 原告さだ子 二億四〇六五万七四一九円
ア 本件印紙代 一〇万円
イ 被告住商リースへの支払利息 八六四〇万一九五四円
ウ 被告住商リースへの支払利息送料 五〇四七円
エ 本件登記費用(当座貸越契約による借入れを手形借入れに切り替えた費用も含む。) 一五六万五〇〇〇円
オ 兵庫銀行に対する支払利息 一億一四六五万一六三六円
カ 原告上重及び原告ムクの設立関係費用 一〇九万一五五二円
キ 亡重人の右(1) の損害賠償債権等の相続 八四五五万六六一七円
ク 弁護士費用 七一三万五九一九円
(3) 原告敬子 七四〇四万一八〇〇円
ア 過少申告加算税 三八六万九〇〇〇円
イ 延滞税 二〇九万二四四六円
ウ 亡重人の前記(1) の損害賠償債権等の相続 四二二七万八三〇八円
エ 弁護士費用 二二二万二八七三円
(4) 原告展義 七三五四万〇一九六円
ア 過少申告加算税 三五六万九〇〇〇円
イ 延滞税 一九〇万五九〇四円
ウ 亡重人の前記(1) の損害賠償債権等の相続 四二二七万八三〇八円
エ 弁護士費用 二二〇万七八一四円
(5) 原告昌之 二三六万〇八七八円
ア 過少申告加算税 一四九万六〇〇〇円
イ 延滞税 七九万四〇〇〇円
エ 弁護士費用 七万〇八七八円
(3) 原告上重 一一七四万五九四五円
ア 役員変更登記費用 三万七〇〇〇円
イ 官報公告掲載料(含送料) 二万七四一二円
ウ 減資登記費用 六万七〇〇〇円
エ 租税公課(設立以後平成八年一月三一日終了事業年度(第四期)分までの合計額) 三五四万三一二四円
オ 被告スリーエスに対するコンサルティング料等の支払 一八九五万四一六三円
カ 本件ファンドの益金による損益相殺
原告上重は、本件ファンドにより、一一二三万五三八九円の利益を取得したので、アないしオの損害金の合計額から、右利益金を損益相殺する。
キ 弁護士費用 三五万二六三五円
(4) 原告ムク 三二万九一一六円
ア 役員変更登記費用 三万六〇〇〇円
イ 租税公課 二八万三二三五円
ウ 弁護士費用 九八八一円
(二) 本件相続税対策を採用しなければ、前項記載の金員を支出することもなかったのであるから、違法な本件勧誘等と損害との間に因果関係はある。
(三) 原告らは、本件更正処分に基づき現実に過少申告加算税及び延滞税を支払っており、また、課税庁の課税処分には公定力があるから、原告らに損害は発生している。
(四) 亡重人の遺産に対して、原告上重と原告ムクの関係を除いて、相続人らに対しその取得財産が通常予定する分割によるものとして相続税額を算出し、各相続人にその税額を配分すると、原告さだ子零円、原告敬子三〇六八万九二九八円、原告展義三〇六八万九二九八円、原告昌之一三七一万四二九一円の合計七五〇九万二八八七円となる。
他方、個人原告らが、相続税・過少申告加算税・延滞税等として現実に支払った金額は、原告さだ子一三万三二〇〇円、原告敬子三一九七万一〇〇〇円、原告展義二九四八万九二〇〇円、原告昌之一五二九万二〇〇〇円の合計七六八八万五四〇〇円である。
(被告らの主張)
(一) 本件においては、本件相続税対策をとったことにより支払った税額と、本件相続税対策をとらなかった場合に支払ったであろう税額との差額を損害と見るべきである。
(被告住商リースらの主張)
(一) 被告住商リースらの行為と、原告らの損害との間に因果関係はない。
(二) 本件相続税対策においては、出資金の親子間売買や二次相続対策が予定されており、それが実施されなかったことにより原告ら主張の損害が生じたのであれば、本件相続税対策により損害が生じたとはいえない。
(三) 原告会社らは、二社で不動産事業を展開していく予定だったはずであるから、その設立費用は損害にならない。
第三当裁判所の判断
一 前記争いのない事実等及び証拠(甲一ないし二三、二五ないし五二、七六、七八 、八〇ないし八六、八八、一〇二ないし一一三、一一六ないし一一八、乙一ないし一七、二〇、二六、二八ないし四二、丙一ないし一一、証人岸原、同荒木、原告さだ子本人、同展義本人、被告松本本人、同杉山本人、同礒田本人及び弁論の全趣旨)によれば、次の各事実が認められる。
1(一) 原告さだ子は、平成三年一一月頃、兵庫銀行甲子園支店に赴いたところ、今田から、岸原を紹介された。
(二) 亡重人及び原告さだ子は、平成三年当時、亡重人が高齢で病気がちであったことから、当時の顧問税理士であった松本昭二(以下「松本税理士」という。)の助言等を得ながら、種々の相続税対策の検討をしていた。原告敬子及び原告展義を養子としたのも、相続税対策の一環としてであった。
亡重人及び原告さだ子は、平成三年末ころ、松本税理士から、節税対策として、同原告らの所有地への賃貸マンションの建築や生命保険への加入を勧められた。亡重人及び原告さだ子は、これに対し、マンション建築については、近隣の住民からの反対が予測されたため断ったが、生命保険を利用した節税策については、東邦生命との間で合計一億五〇〇〇万円の保険契約を締結した。しかし、亡重人及び原告さだ子は、平成四年一月ころ、岸原ないし被告礒田からの助言等を受けて、右保険契約を解約した。これらのため、亡重人及び原告さだ子と松本税理士の関係が悪化し、同年二、三月ころ以降は、岸原が亡重人及び原告さだ子の顧問税理士となり、税務・会計処理を行うようになった。
(三) 荒木は、平成三年一二月一二日ころ、兵庫銀行甲子園支店に赴き、今田に対し、本件ファンドの概要を説明し、節税対策として利用する方法もある旨告げて、投資家の紹介を依頼したところ、今田は、節税対策としての投資を見込める者に心当たりがあるとして、具体的なスキームの説明を求めた。荒木は、節税対策としての利用方法につき詳しい知識を有していなかったため、被告住商リース本社の業務部からしかるべき税務コンサルタントを紹介する旨回答した。
荒木は、帰社後、被告松本に対し、税務コンサルタントの紹介を依頼したところ、被告松本は、一〇数億円以上の資産規模でないと、コンサルタントへの依頼は困難である旨回答した。そこで、荒木は、数日後、今田に対し、心当たりの投資家の資産規模を尋ねたところ、同人から、ビル賃貸業等の営業を営む一〇数億円を上回る資産規模を有する者である旨の回答を得たので、松本にその旨報告した。右報告を受けた松本が、資産家の相続税対策実務指導で有名な被告スリーエスに連絡したところ、被告スリーエスから同月二六日に兵庫銀行を訪問したい旨の要請があり、荒木は、今田に対し、その旨を伝え、同日、兵庫銀行甲子園支店において、会合がとりおこなわれることとなった。
(四) 平成三年一二月二六日、荒木及び被告礒田が兵庫銀行甲子園支店の今田を訪問したところ、今田から岸原を紹介された。被告礒田が岸原に対し、コンサルタント協会の協会案内(甲九)を交付して、被告スリーエスの概要を説明したところ、岸原は、被告杉山が代表者であることに感銘を受けた様子であった。荒木、被告礒田、今田、岸原は、今田の提案により、右会合の終了後、亡重人方を訪問した。
右訪問時、原告さだ子及び原告敬子が亡重人方に在宅しており、紹介の後、被告礒田は、同原告らに対し、被告スリーエスの概要及び節税対策につき、パンフレット等(甲五ないし九)を交付して説明した。被告礒田は、その際、商品ファンドを節税対策に用いる方法がある旨説明した。
荒木は、被告礒田の右説明の後、本件ファンドのパンフレット(甲二、一二 、一三)を交付して、本件ファンドの概要について説明をした。右説明の概要は、利回りは過去の実績からすると五年間で元本額が倍になる可能性があること、本件ファンドについて、償還時まで待てば安定運用部分については元本は確保されること、元本確保について被告住商リースが保証するものではないが日商岩井が五年後買い戻すことを保証していること、本件ファンドの先物運用部分の運用が悪化して資産が半分となった場合には先物運用は止めて、確定利回りの商品に変更して損害の拡大を防止するようになっているので、本件ファンドの返還金は安定運用部分と合わせて五年間で一一〇パーセント程度となる見込みがあるが、右利回りについて住商リースが保証するものではないことであった。
(五) 平成四年一月一六日、亡重人方において、相続税対策についての会合が行われた。右会合の出席者は、原告さだ子、原告敬子、原告展義、今田、岸原、被告礒田及び荒木であった。被告礒田は、右原告らに対し、提案書(甲一五)を交付し、これに沿って相続税対策の説明をした。右説明の要旨は、原告側において銀行から六億五〇〇〇万円を借り入れ、そのうち三二五万円を資本金、残額を資本準備金としてA社を設立すること、A社は本件ファンドを一一億五〇〇〇万円分購入すること、右購入資金は、亡重人及び原告さだ子が本件ファンドを担保として八億五〇〇〇万円を借り入れたものとA社の自己資金から三億五〇〇〇万円を賄うことであった。
(六) 平成四年一月二二日、亡重人方において、相続税対策についての会合が引き続き行われた。右会合の出席者は、原告さだ子、原告敬子、原告展義、原告昌之、今田、岸原、被告礒田、荒木及び被告松本であった。
被告礒田が「メモ」と題する書面(甲一六)を原告らに交付して、A社B社方式及び本件節税対策の概要を一通り説明した後、被告松本は、右原告らに対し、本件ファンドの概要が記載された投資説明書(甲二六)を交付し、これに沿って、本件ファンドのAユニットの概要について、約一時間かけて説明を行った。右説明の要旨は、Aユニットは償還時まで待てば安定運用部分については元本が確保されること、右元本確保について被告住商リースが保証するものではないが、日商岩井が五年後元本額で買い戻すことを保証していること、過去の実績では利回りが元本の倍となることもあること、本件ファンドの先物運用部分の運用が悪化して資産が半分となった場合には先物運用は止めて、確定利回りの商品に変更して損害の拡大を防止するので、本件ファンドの返還金は安定運用部分と合わせて五年間で一一〇パーセント程度となる見込みがあるが、右利回りについて住商リースが保証するものではないことである。
被告松本は、右説明の後、原告らから本件ファンドの中途解約について説明を求められたのに対し、右投資説明書(甲二六)を示しながら、中途解約の場合の手続等を説明し、さらに原告らから本件ファンドの利回りと借入金利との関係を質問されたところ、過去の例からすると本件ファンドの利回りが借入金利を上回る可能性もあるが、被告住商リースにおいて約束できるものではない旨回答した。
(七) 平成四年一月二八日、亡重人方において相続税対策についての会合が引き続き行われた。右会合の出席者は、原告さだ子、原告敬子、原告展義、原告昌之、今田、岸原、被告礒田、被告松本及び荒木であった。
被告礒田は、原告らに対し、メモ(甲一七)を交付して、これに沿ってA社B社方式及び本件節税対策の概要を説明し、本件ファンドを本件節税対策における投資商品として採用する旨の提案をした。そして、被告松本は、本件ファンドは、先物運用部分の資産価値が半分に目減りした場合には、先物運用を中止して確定利回りの商品に変更し、損害の拡大を防止する仕組みとなっていること(ストップロス)、中途解約が制限されていること、節税対策はあくまでも被告スリーエスが行うもので、被告住商リースはあくまでも本件ファンドの販売を行うものであることについて説明した。また、被告松本は、右説明の際、本件ファンドの利回り計算の参考資料として、過去の先物資産の運用結果をもとに、当時より五年前に本件ファンドを組成し、それを一定条件の安定運用と併せて投資していたらどのようになっていたかを恣意的判断を入れることなく客観的かつ機械的に試算した結果を記載したシュミレーション(甲一八の2)をその旨説明した上で交付して、これに沿って説明をした。
(八) 平成四年二月六日昼ころ、亡重人方において、会合が行われた。右会合の出席者は、亡重人、原告さだ子、今田、荒木及び房本であった。亡重人は、その際、融資申込書(甲二一、二二)、保証書(甲二三)、投資説明書の受領書(甲二七)に署名、押印した。
同日夜、亡重人方において、引き続き会合が行われた。右会合の出席者は、原告さだ子、原告敬子、原告展義、原告昌之、今田、岸原、被告礒田、荒木、田中及び司法書士肥口ふみであった。右原告ら及び原告上重は、その際、亡重人が同日昼ころ署名、押印した右書面に、何ら異議を言わずにそれぞれ署名、押印した。右署名、押印に先立ち、右原告さだ子ないし原告敬子から元本確保について質問されたのに対し、田中は、本件ファンドの安定運用部分については五年後に日商岩井の子会社が買戻すことになっており、日商岩井がこれを保証していること、右元本確保については住商リースが保証しているものではないこと、先物運用部分についてはストップロスの効果により、損失の拡大が防止でき、安定運用部分と併せて五年間で約一一〇パーセントの返還金となる見込みであることを説明した。
(九) 亡重人、原告さだ子、原告敬子、原告展義及び原告昌之は、平成四年二月一〇日、投資説明書の受領書に署名押印して、被告住商リースに交付した。
(一〇) 被告礒田は、本件勧誘の際、右(四)ないし(七)における説明の他、原告らに対し、A社B社方式は、当時の法律及び通達に適合するものであり、税務当局に否認されるおそれはなく、仮に将来において右法令等が改正されても、右改正後の法令等が遡及的に適用されることはない旨断言して、A社B社方式の勧誘をした。
(一一) 被告杉山は、本件勧誘全般にわたり、被告礒田から会合の進行状況の報告を受け、被告礒田に対し、適宜指示を与えるなどして、本件勧誘に関与していた。
2(一)前項1(四)の認定に対し、原告らは、平成三年一二月二六日に荒木、今田、岸原及び被告礒田が亡重人方を訪問したことはないと主張し、原告さだ子も当公判廷において、同日に来訪したのは荒木、今田のみであり、被告礒田に会ったのは、平成四年一月一六日である旨供述する。しかし、荒木は、当公判廷において、同日、亡重人方を訪問し、原告さだ子及び原告敬子と面談した旨明言しているところ、原告さだ子の右供述を裏付ける的確な証拠はなく、かえって、被告礒田及び岸原も当公判廷において、平成三年一二月ころ、今田、荒木、被告礒田及び岸原の四名で亡重人方を訪問した旨一致して供述していること、荒木の手帳(丙六)には、同月二六日、兵庫銀行甲子園支店において被告礒田と面会する旨の記載がなされていること、前記(五)のとおり、被告礒田が平成四年一月一六日の亡重人方における会合の際に当時の亡重人及び原告さだ子の資産の現状に基づき具体的な相続税対策を提案した提案書(甲一五)を交付していることから、それ以前に原告らと被告住商リースとの間で何らかの会合が行われたと推認されることからして、原告さだ子の右供述は採用できず、平成三年一二月二六日に、荒木、今田、岸原及び被告礒田が亡重人方を訪れ、原告さだ子及び原告敬子と面談をしたと認められる。したがって、原告らの右主張は採用できない。
(二) また、前項1(四)ないし(七)の認定に対し、原告らは、荒木又は被告松本が、本件ファンドにより確実に銀行等からの借入金利を上回る利益が生じると断言して勧誘した旨主張し、これに副うものとして、原告さだ子及び原告展義の当公判廷における供述並びに原告敬子及び原告昌之の陳述書(甲一〇三、一〇四)がある。しかし、荒木及び被告松本は、本件勧誘の際、ファンドの利回りを保証したことも、本件ファンドにより利益が発生する旨断言したことはない旨明言しているところ、右原告らの供述及び陳述書の記載内容を裏付ける客観的な証拠はない。かえって、原告らに提出された被告スリーエス作成の平成四年一月二八日付・同月三一日付・同年二月一七日付各FAX文書(甲一七、二〇、三二)には、A社B社方式の説明として、A社で購入する投資商品は商品ファンドと特定金銭外信託(特金)とし、利回り五パーセントの特金は兵庫銀行と被告住商リースへの利払いのため順次取り崩し、商品ファンドの利回りは二年間〇パーセントと仮定して資金繰りを設定するとの記載があり、更に平成五年九月以降は、商品ファンドの利回りは五・五パーセント、借入金金利はこれよりも高い七・七パーセントと計画されていること、荒木及び被告松本が本件勧誘に際して原告らに交付した本件ファンドの説明書等(甲二、一八の1、二六)には、先物運用資産の運用リスク及び安定資産の運用リスクについての記載とともに、一定の収益を約束することはできない旨の記載が読みやすい位置になされ、荒木及び被告松本は、右説明書等に沿って本件ファンドの概要とともに右リスクについての説明も行ったこと、原告らは投資説明書を内容了承の上受け取った旨の記載がなされた受領書(甲二七、二八)に何ら異議を申し立てることなく、署名、押印した上で被告住商リースに差し入れていること、原告らは、被告松本が原告らから右投資説明書等の投資リスクの記載について質問されたところ、絶対儲かるものであれば節税対策として通用しないのでカモフラージュのためにリスクの記載がなされており、部外者に漏らさないようにと告げた旨主張するが、投資会社の社員が顧客を勧誘する際、右のような言辞をとることは通常考え難いことからして、荒木又は被告松本において、原告らの主張のような説明を行ったと認めることはできない。したがって、原告らの右主張は採用できない。
二 争点1(本件ファンドの勧誘は、商品の押し付け売りに当たり違法であるか。)について
1 およそ投資行為は、本来的に危険を伴う行為であって、市場価格の変動、投資資金の運用による利回りを確実に予想することは不可能であり、投資取扱会社等が顧客に提供する情報等も不確定的要素を含む将来の見通しにとどまるものであるから、投資家が投資行為を行う際には、投資家自身において、当該取引の危険性とその危険に耐えるだけの相当の財産的基礎を有するかどうかを自らの判断において行うべきものであって(いわゆる自己責任の原則)、このことは、本件のような商品ファンドの取引においても妥当するというべきである。
しかし、右自己責任の原則が投資取扱会社等の行う投資勧誘がいかなるものであっても良いことを意味するものではなく、投資取扱会社等が投資取引に関する専門家として豊富な知識、経験等を有し、一般投資家の多数がこのような投資取扱会社等の助言を信頼して投資行為を行うという現状に鑑みれば、投資取扱会社等の助言を信頼して投資行為を行う投資家の保護が図られるべきことはいうまでもない。
このようなところから、販売業務省令七条及び同省令に関する通達が、威迫して困惑させることによる勧誘及び拒絶の意思を明らかにした者に対する執拗な勧誘を、商品ファンド法二二条が顧客への金銭等の貸付及び貸付の媒介を、同法二三条が顧客への重要事項に関する事実の不告知及び不実の告知を、同法二四条が顧客に対する断定的判断の提供をいずれも禁止して、投資家の保護を図っているということができる。
もとより、これらの法令は、公法上の取締法規としての性質をもつものに過ぎないのであるから、これらの定めに違背した投資勧誘会社等の顧客に対する投資勧誘等が私法上も直ちに違法となって、債務不履行又は不法行為を構成するものではないことはいうまでもないが、右に述べた投資行為の性質と右法令等の趣旨をあわせ鑑みると、投資勧誘会社やその使用人は、投資家に投資商品を勧誘する場合には、不実の告知や断定的判断の提供をするなどして、投資家が当該取引に伴う危険性について正当な認識を妨げるようなことをすることを回避すべき注意義務があるのであり、投資勧誘会社又はその使用人がこれに違背したときは、投資家の職業、年齢、財産及び投資経験、その他の当該取引がなされた具体的状況の如何によっては、違法に投資勧誘を行ったものとして、私法上も違法となり、債務不履行又は不法行為を構成するというべきである。
2 本件において、原告らは、被告らが本件ファンドにつき、威迫して困惑させることによる違法勧誘や拒絶の意思を明らかにした者に対する執拗な違法勧誘を行ったと主張し、これに副うものとして、岸原がAユニットとBユニットを一対一の割合で購入することを要求したのに対し、被告らがAユニットのみの購入に固執した旨の原告さだ子及び岸原の当公判廷における供述がある。しかし、荒木及び被告松本は、当公判廷において、右事実につき否定しているところであって、仮に被告らが原告らに本件ファンドの購入を勧誘したとしても、それは資産・所得・経済的常識を備えている原告らに対し、原告らの取引銀行の関係者である今田もいる場所で、原告らが勧誘内容につき検討を加える十分な期間を置きながら、税理士として当時原告らのための配慮も行っていた岸原の意見も原告らは聴きながら、通常の商取引の一環として行われたものであって(丙五、証人荒木、被告松本本人、同礒田本人)、不当に原告らを威迫して困惑させることによる違法勧誘や拒絶の意思を明らかにした者に対する執拗な違法勧誘を行ったとは到底認めがたいところであり、原告らの右主張は採用できない。
三 争点2(本件ファンドの勧誘は、事実の不告知・不実の告知(商品ファンド法二三条一項)又は断定的判断の提供(同法二四条一項)に当たり違法であるか。)について
原告らは、被告らが本件勧誘の際、本件ファンドにより確実に利益が生じるとの事実に反する告知又は断定的判断を提供したと主張する。
しかし、前記一1(五)ないし(七)認定のとおり、荒木及び被告松本は、本件勧誘の際、原告らに対し、本件ファンドの利回りの見込みとして五年間で元本額が倍になる可能性があること、先物運用部分の運用が悪化して資産が半分となったときでも五年後に一一〇パーセント程度の返還金となる可能性があることを告知したに過ぎず、その他、被告らにおいて、原告ら主張のような断定的判断の提供があったとの事実を認めるに足りる証拠はないし、結果的にも本件ファンドによって右説明とさほどかけ離れていない利益が生じているのである。なお、原告らは、被告松本がシュミレーション(甲一八の2)を示して、利回りにつき断定的判断を提供したとも主張するけれども、前記一1(七)認定のとおり、右シュミレーションは、過去の先物資産の運用結果をもとに、当時より五年前に本件ファンドを組成し、それを一定条件の安定運用資産と併せて投資していたらどのようになっていたかを恣意的判断を入れることなく客観的かつ機械的に試算して、その旨説明した上で原告らに交付したものであって、将来の利回りの予測のための資料として用いたのではないから、右シュミレーションをもって断定的判断の提供の根拠とする原告らの右主張は採用できない。
また、原告らは、被告らが本件ファンドにつき最後まで利益金の分配はあり得ない仕組みとなっていたにもかかわらず、これを秘匿して原告らに売りつけた旨主張するが、証拠(甲四、二六、丙五、被告松本本人、弁論の全趣旨)によれば、本件ファンドにおけるファンドとは、営業者の事業、すなわち匿名組合契約上、安定・先物運用会社を通した資金運用事業を意味するものであり、右事業(ファンド)の結果、先物運用会社において決算期に配当可能利益が生じた場合、右会社の唯一の株主たる営業者による株主総会の決議を経て、株主(営業者)に利益の配当を行い、その結果、増加したファンドの利益、資産を、匿名組合契約に基づき本来の出資者たる匿名組合員に分配される仕組みであり、過去の同種ファンドでは現実に配当がなされていることが認められるから、本件ファンドが最後まで利益が発生しないことを前提とする原告らの右主張は採用できず、その他、全証拠によっても、被告らにおいて、原告ら主張のような事実の不告知・不実の告知があったとの事実を認めることはできない。
したがって、原告らの右主張は採用できない。
四 争点3(本件ファンドの勧誘は、商品購入資金の貸付又は貸付の媒介(商品ファンド法二二条)に当たり違法であるか。)について
原告らは、被告らが、本件勧誘の際、本件ファンドの購入資金につき、兵庫銀行に貸付の媒介をし、被告住商リースが自ら貸し付けたことは違法である旨主張する。
しかし、前記第二の一2のとおり、商品ファンド法が施行されたのは、平成四年四月二〇日であり、本件勧誘の際には、右ファンド法は未施行であり、本件ファンドの購入者(原告上重)と借主(亡重人及び原告さだ子)は別個の人格を有するのであるから、本件につき商品ファンド法が直接適用されないことに加えて、前記二1に判示のとおり、商品ファンド法はあくまで行政法上の取締法規に過ぎないのであって、右規定に違反したことの一事をもって直ちに私法上違法の評価を受けるわけではなく、当該顧客の職業、年齢、財産及び投資経験、その他の当該取引がなされた具体的状況に照らして社会的相当性を逸脱する場合に私法上も違法となると解すべきである。
本件において、亡重人及び原告さだ子は、本件勧誘当時、時価十数億円の不動産を有する資産家で、ビル賃貸業等の営業を行い、自由に税理士の指導を受けることも可能な状態の下で、税務対策についても種々の検討をしていたことからして、自己の返済能力、担保余力等を十分に把握していたというべきであるから、資金力に反した過大な投資勧誘を抑制するという商品ファンド法二二条の趣旨に照らして、被告らが、本件勧誘の際、本件ファンドの購入資金につき、兵庫銀行に貸付の媒介をしたこと及び被告住商リースが自ら貸付を行ったことが社会的相当性を逸脱する違法なものと認めることはできず、その他、本件全証拠によっても、被告らの貸付行為の違法性を基礎付けるに足る事実の存在を認めることはできない。
したがって、原告らの右主張は採用できない。
五 争点4(本件変更通知は不実の告知に当たり違法であるか。)について
原告らは、被告住商リースが本件変更通知において、本件ファンドにつき配当不可能であるのに配当可能である旨不実の告知をしたと主張する。しかし、本件ファンドに利益が生じ、その際には原告らに利益金の分配がなされ得ることは、前記三に判示したとおりであり、原告らの右主張は採用できない。
六 争点5(A社B社方式の勧誘についての違法性の有無)
納税者が節税対策を講ずる場合、節税効果を上げ得るか否かは、法令等に照らして一見して明白である場合を除いて、最終的には当該税務署の個別具体的な判断をまたなければならず、多分に不確定的要素を含むものであるから、納税者自身、自己の経理内容及び法令等を十分に検討して当該節税対策にのぞむことが要請されているというべきである。しかし、税務処理・対策は専門的知識を必要とするものであり、納税者はかかる知識の不足を補うために、税理士等の専門家と委任契約等を締結してその助言を信頼して節税対策を行うものである以上、税理士等の専門家が節税対策を提案して勧誘する場合、当該節税対策の概要を説明するにとどまらず、税務否認のリスクが予見される場合には、そのリスクについて具体的に指導・助言して説明すべき注意義務を負うというべきである。
本件において、A社B社方式により、人工的に評価差額を作出し、評価基本通達を形式的に適用すれば、評価額の引き下げは計算上可能であり、右当時、かかる場合に法人税額等の控除を認めないとの課税庁の正式な見解は未だ表明されていなかったことが認められる(弁論の全趣旨)。しかしながら、他方、かかる節税策を適法とする公的見解は全く存在せず、むしろ、証拠(乙五の一九頁)によれば、課税庁は、平成二年頃からかかる節税策を問題視し、課税上著しく不適当で弊害のあるものに対しては評価基本通達六項の適用等により是正する姿勢を示していたこと、本件節税対策は、原告らが高額の金利負担を負った上でほとんど経済活動を行わない二つの会社を設立するというものであって、もっぱら法人税額等相当額の控除の制度を利用し、評価差額を恣意的に創出して相続財産の価額を圧縮することにより相続税の負担を回避する目的でのみ原告上重及び原告ムクの二つの同族会社を設立するという全く経済的合理性のない不自然、不合理な行為であると評価すべきところ、このような場合にまで法人税額等相当額を控除することは評価基本通達の趣旨に反するだけでなく、右のような計画的な行為を行わない一般の納税者との間で実質的な租税負担の公平を著しく害することになり、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現しようという相続税法の立法趣旨にも反することは明らかであり、このような社会的常識に反する著しい不公平に対する社会的な批判も強いと考えられること、本件勧誘以前にも、相続財産中の土地についてではあるが、相続税の負担回避を目的とする行為があって、評価基本通達に定める評価方式によるのでは、実質的な租税の負担の公平を著しく害することが明らかである等特別の事情がある場合に、評価基本通達に定める評価方式によらない財産評価に基づく更正処分が行われており、その後、その取消を求めた訴訟において右更正処分を適法とした裁判例が多数存在すること(東京高裁昭和五五年五月二一日判決、同五六年一月二八日判決、名古屋高裁昭和五六年一〇月二八日判決、東京高裁昭和五八年八月一六日判決、東京地裁平成四年三月一一日判決・判例時報一四一六号七三頁、東京地裁平成四年七月二九日判決・判タ八四五号二四〇頁等)からすれば、本件勧誘当時、A社B社方式の発案者であり、税理士として経営コンサルタント会社である被告スリーエスを経営していた被告杉山において、少なくともA社B社方式による本件における節税策には課税庁により否認されるリスクがあることを十分認識可能であったというべきであり、被告杉山としては、本件勧誘の際、原告らに対し、右リスクを説明すべき注意義務を負っていたというべきである。
また、被告礒田は、住友生命保険会社から、資産家の相続税対策実務指導で有名な経営コンサルタントを業とする会社である被告スリーエスに出向し、同被告の取締役と、相続の事前対策の提案と実行の諮問を目的とするコンサルタント協会の副理事長秘書を兼務していた者で、税理士の資格は有していないものの、平成二年七月ころから、被告スリーエスの取締役としてその業務を行っていたのであるから、税務及び会計処理に関する専門家として相応の知識を有し、A社B社方式についても、被告杉山から直接説明を受けて、その内容等につき十分な知識を有し(被告礒田自身、本人尋問において、一般の税理士よりも知識があった旨供述する。)、又自ら本件節税対策の具体的内容を把握した上で原告ら顧客に対する積極的な勧誘を行ったことからすれば、被告礒田においても、少なくともA社B社方式による本件における節税策がその一般の納税者との著しい不公平の故に課税庁により否認されるリスクがあることを十分認識可能であったというべきであり、したがって、被告礒田としては、本件勧誘に際して原告らに対し右リスクを説明すべき注意義務を負い、また、被告礒田は自ら原告らに直接本件勧誘を行ったのであるから少なくともその際に断定的判断を提供することを避けるなどの注意義務も負っていたというべきである。
しかるに、前記一1(一〇)(一一)認定のとおり、被告被告杉山及び被告礒田は、右否認のリスクを説明するどころか、かえって、原告らに対し、本件相続税対策が否認されるおそれはない旨断言して誤った情報を提供し、そのため、原告らは本件節税対策を採用したのであるから、同被告ら及び被告住商リースは、原告らが同被告らの違法な勧誘によって被った損害を賠償すべき義務を負う(七一九条、四四条一項)。
なお、被告スリーエスらは、本件節税対策について税務否認した本件更正処分及び本件賦課決定処分の不当性を主張するが、前記第二の一12のとおり、右各処分に対する不服申立ての各手続及び取消訴訟手続において、右各処分が適法である旨判断され、取消し等がなされていない以上、右各処分は適法であると認めるべきであるし(行政行為の公定力)、前述したように本件勧誘にかかるA社B社方式に基づく税務申告は相続税法上も違法といわざるをえないので、右に判示したところと同旨の見解によって本件更正処分及び本件賦課決定処分を適法と判断した神戸地裁の判決内容は正当であって、右判決の上訴審においても右判決の結論はそのまま維持されることが予想されるので、被告スリーエスらの右主張は失当である。
七 争点6(A社B社の勧誘について被告住商リースが責任を負うか。(主位的・予備的請求))
原告らは、被告住商リースは被告スリーエスと共謀して、A社B社方式と一体をなすものとして本件ファンドを売りつけたのであるから、被告住商リースもA社B社方式の勧誘について責任を負う旨主張し、なるほど、被告住商リースは、本件節税対策の一部に組み入れることを前提として、本件ファンドの勧誘を行っていたものではある。
しかし、節税対策と商品ファンドを同時に勧誘する場合であっても、節税対策の提案をする税理士ないしコンサルティング会社と商品ファンドを顧客に売却するファンド会社とは、別個の(法)人格を有し、顧客との間で互いに目的を異にする別個の契約を締結し、別個の法律関係に立つのであり、また、被告スリーエスの勧める節税対策は必ずしも本件ファンドを当然の前提とするものではなく、他の投資商品を選択することも可能であり、両者の結びつきは強いものではないから(乙二八)、ファンド会社は、当該商品ファンドの勧誘についてのみ説明すべき義務を負うのが原則であって、例外的に当該ファンド会社の社員が税務のコンサルティング会社の担当者になりかわって積極的に節税対策の勧誘を行い、これによって顧客が当該節税対策を採用し、コンサルティング会社担当者から右節税対策についての説明が十分されていないことを認識し又は認識しうる場合のように、ファンド会社に節税対策について説明すべき義務を負わせることが相当と認められるような特段の事情があるときに限って、その責任を負うと解するのが相当である。
本件において、原告らは、被告らが共謀の上、本件勧誘を行った旨主張するが、右主張を裏付ける客観的な証拠はなく、かえって、前記一1(四)ないし(七)認定のとおり、原告らに対してA社B社方式につき積極的に説明を行ったのは被告礒田であり、荒木及び被告松本は、税務知識を十分に有していなかったこともあり、もっぱら本件ファンドの説明に専念していたこと、右勧誘の際、あくまで節税対策については、被告住商リースは無関係であることを明確化するために、投資説明書に記載された以外の本件ファンド購入に関する一切の税務・会計的な取扱い、手続についてはすべて税理士等と相談の上、原告側において責任をもって決定し、実行する旨の記載がなされた受領書(甲二七、二八)を徴求し、原告らはこれにつき何ら異議を申し述べることなく署名、押印した上で被告住商リースに差し入れていること、税務知識を十分に有していなかった荒木及び被告松本において、当時の評価基本通達を前提とした被告礒田の前記一1(二)ないし(七)及び(一〇)の説明もあいまって、本件勧誘当時、A社B社方式が否認されるおそれを十分に把握することは困難であったと認められることからして、被告住商リースにA社B社方式の勧誘について責任を負わせるのが相当と認められるような特段の事情を認めることはできず、その他、本件全証拠によっても、右特段の事情があったと評価すべき事実の存在を認めることはできない。したがって、原告らの同被告に対する主位的・予備的請求に関する右主張は採用できない。
八 損害等
1 原告らは、被告杉山及び同礒田の違法な勧誘行為により、A社B社方式を採用することを決めたものであるところ、同被告らが勧誘したA社B社方式は、銀行等からの借入金によって会社を設立して当該会社が本件ファンドを購入運用し、被相続人が負債を負うことにより相続税の節税を図ると共に、本件ファンドの運用益等で借入金の金利負担や会社設立費用等を回収することをその内容とするものであったというのであるから、同被告らの違法な勧誘行為により被った損害の額を算定するに当たっては、銀行等からの借入、会社の設立及び本件ファンドの購入運用とを一体のものと考えて、遅くとも、本件ファンドが全口解約処分されて償還金残金が全額被告住商リースから原告上重の預金口座に入金された平成九年一月二八日の時点で、被告杉山及び同礒田の不法行為により原告らが被った損害は発生してその額も確定したと認めるのが相当であるから、同日の時点において原告らの損害額を算定することとする。ただし、本件の違法な勧誘行為による本件節税対策においては原告さだ子(亡重人も同様)が兵庫銀行から借入をなして将来にわたって利息を支払っていくことは当初から予定されていたことであり、原告さだ子が右のような不利な法的地位に陥ったこと自体が損害であるといいうるところ、右借入利息については原告らにおいて右高利の債務を弁済するか又は低利の債務に借り換えるかする可能性も考えられるので、被告杉山及び同礒田の不法行為と相当因果関係のある損害は本訴口頭弁論終結直前である平成一二年六月一二日までに支払った利息に限るのが相当であり、これをもって原告さだ子が被った借入利息についての損害と評価すべきである。
2 亡重人の計算における損害 一億七〇一七万三七二四円
(一) 当事者間に争いのない事実に証拠(甲二二、五三の1ないし15、五四の1、2、五六、六〇ないし六五)及び弁論の全趣旨を総合すれば、亡重人は、被告スリーエス及び同杉山に勧誘されたA社B社方式を実行するため、平成四年一月三一日に兵庫銀行から三億二七〇〇万円、同年二月七日に住商リースから八億〇五〇〇万円(住商リースからの借入については、原告さだ子との連帯)を借り入れたこと(いずれも変動金利)、右借入金と原告さだ子が兵庫銀行から別途借り入れた三億二七〇〇万円の合計一四億五九〇〇万円のうち一四億五〇〇〇万円を出資して原告上重を設立したこと(なお出資持分は、亡重人が一四五分の七三、原告さだ子が一四五分の七二である。)、右借入金のうち残金九〇〇万円を現金で保有して原告上重及び原告ムクの設立等に要する手続費用に充当するものとしたこと、亡重人は、同年三月一〇日、原告さだ子とともに、原告上重の出資持分一四四口(各七二口)を現物出資したのに加えて現金で各一八〇万円を出資して原告ムクを設立したこと(出資持分は、亡重人及び原告さだ子それぞれにつき二分の一。)、住商リースからの借入の際、本件印紙代として一〇万円を支出したこと、兵庫銀行からの当座貸越金額を増額するための担保権変更費用として一三三万六〇〇〇円を支出したこと、原告上重及び原告ムクの設立関係費用として一一〇万二四四三円を支出したこと、平成一二年六月一二日までに発生した借入金に対する利息のうち、亡重人は、被告住商リースへの利息として八〇一六万七七九〇円、兵庫銀行に対する利息として八〇一六万七七九〇円を負担してこれを支払ったことの各事実が認められ、他方、原告上重は、出資金一四億五〇〇〇万円のうち一一億五〇〇〇万円を支出して本件ファンドを購入したが、本件ファンドの解約により、平成七年三月二日、二億九六七八万六九九七円(六口分)が返還され、これが亡重人及び原告さだ子の住商リースに対する借入金の一部の返済に充当されたこと、同年七月一日、八億〇九一一万〇六二二円(一六口分)が返還されて、このうち五億〇六九四万四八一三円が住商リースに対する借入金の返済に充当され(これにより住商リースに対する借入金残金は零円となった。)、兵庫銀行に対して支払う入金手数料四〇万四五五六を控除した残金三億〇一七七万一二五三円が原告上重の預金口座に入金されたこと、平成九年一月二八日、本件ファンドの残り一口が解約され、償還金として五六〇二万八四九一円が原告上重の預金口座に入金されたことの各事実が認められる。
(二) 以上を総合すれば、亡重人は、被告杉山及び同礒田の違法行為により、平成九年一月二八日の時点において、<1>兵庫銀行からの借入金三億二七〇〇万円の債務を負担していたほか(もっとも、本件とは無関係の借入金も右とは別に存在するため、同日の時点における借入金残高は必ずしも明らかではないが、仮に、一部弁済等により借入金残高が減少していたとしても、それは亡重人の別途出捐によるものであるから、計算上は借入金相当額がそのまま残っているものとして差し支えない。)、<2>平成一二年六月一二日までに、被告住商リースへの利息として八六四〇万一九五四円、兵庫銀行に対する利息として八〇一六万七七九〇円の合計一億六六五六万九七四四円の支払を余儀なくされ、さらに、<3>本件印紙代として一〇万円、<4>本件登記費用として一三三万六〇〇〇円、<5>原告上重及び原告ムクの設立関係費用として一一〇万二四四三円を支出したものである。他方で、<6>亡重人は、原告上重及び原告ムクに対する出資持分を有するから、その価値相当額を損益相殺として控除する必要があるところ、(ア)原告上重は、出資金として当初一四億五〇〇〇万円の入金を受け、その中から本件ファンドの購入資金として一一億五〇〇〇万円を支出した後解約返戻金として合計一一億六一五二万一五五四円を受領し(ただし、その一部は亡重人及び原告さだ子の住商リースに対する借入金債務の返済及び手数料の支払等に充当されたため、実際に原告上重が受領した金額は合計三億〇一七七万一二五三円と五六〇二万八四九一円の小計三億五七七九万九七四四円のみである。)、また、同原告は、右出資金の中から役員変更登記費用として一万八五〇〇円(甲六六。ただし、亡重人の死亡に伴うやむを得ない登記費用のみを損失として認めるのが相当であり、専ら原告らの都合によるそれ以外の登記費用を計算の基礎とすることは相当でないから、原告主張の費用の半額をもって損失と認める。)、官報公告掲載料として二万七四一二円(甲六七)、減資登記費用として六万七〇〇〇円(甲六八)、本件コンサルティング契約報酬として一八九五万四一六三円(甲二四の4、二五、七〇ないし七二)、租税公課として三五四万三一二四円(甲六九)を支払ったから、これらの入出金を差引計算した残額六億三五一八万九五四五円の一四五分の七三にあたる三億一九七八万五〇八一円が亡重人の原告上重に対する出資持分に相当する価格と認めるのが相当であり、また、(イ)原告ムクは、出資金として当初三六〇万円の入金を受け、その中から役員変更登記費用として一万八〇〇〇円(甲七三。原告上重の場合と同様に、原告主張の費用の半額をもって損失と認める。)、租税公課として二八万三二三五円(甲六九)を支払ったから、これらの入出金を差引計算した残額三二九万八七五六円の二分の一にあたる一六四万九三八二円が亡重人の原告ムクに対する出資持分に相当する価格と認めるのが相当である。さらに、<7>亡重人は、借入金のうち九〇〇万円の半額四五〇万円を現金で保有して会社設立費用に充てたというのであるから、これらを控除して損害額を算定すべきところ、<1>ないし<5>の合計四億九六一〇万八一八七円から<6>及び<7>を控除した残額は一億七〇一七万三七二四円となる。
なお、右<2>に関し、亡重人は、兵庫銀行からの前記第二の一7(一)の借入当時、同銀行から別途一億六三五九万九五四〇円借り入れており(甲五六)、同銀行に対する支払利息は、右借入金に対する利息と併せた金額であるから、右借入金の元利金を計算上完済したと認められる平成六年一月分(二月一〇日支払)までは、別紙二記載の数額によることとし、同年二月から原告さだ子の当座貸越口座に振り替えて平成七年九月一日に利息の支払が終了するまでの間は、口座別取引明細表(甲五六)に基づく数額をもって、支払利息とするのが相当と判断する。右計算によると、亡重人の口座から兵庫銀行に支払われた支払利息は、八〇一六万七七九〇円となる。
3 原告さだ子の損害 二億九四三四万二二五八円
(一) 原告さだ子の損害についても、右2判示の亡重人の損害額の算定方法がそのまま妥当する。
すなわち、原告さだ子は、被告杉山及び被告礒田の違法行為により、<1>平成九年一月二八日の時点において、兵庫銀行からの借入金三億二七〇〇万円の債務を負担し、<2>平成一二年六月一二日までに、被告住商リースへの利息として八六四〇万一〇五四円(甲五三の1ないし15)、兵庫銀行に対する利息として一億一四六五万一六三六(甲五七ないし五九)の合計二憶〇一〇五万二六九〇円の支払を余儀なくされ、さらに、<3>本件印紙代として一〇万円(甲二二)、<4>本件登記費用として一五六万五〇〇〇円(甲五五 の1、2)、<5>本件設立費用として一〇九万一五五二円(甲六一ないし六五)を支出した。右<1>ないし<5>の合計額(五億三〇八〇万九二四二円)から、<6>原告上重に対する出資持分(一四五分の七二)三億一五四〇万四四六四円及び原告ムクに対する出資持分(二分の一)一六四万九三八二円の合計三億一七〇五万三八四六円と、<7>借入金のうち現金で保有していた九〇〇万円の半額四五〇万円を控除した残額は、二億〇九二五万五三九六円となる。
なお、右<2>に関し、原告さだ子についても、亡重人と同様に、兵庫銀行からの借入当時、別途同銀行から一億〇二八一万一〇三三円を借り入れているので(甲五七)、平成四年一月分から同年三月分及び五月分は、別紙三記載の数額が現実に支払った支払利息より少ないから別紙三記載の数額によることとし、同年四月分と六月分以降は、実際に支払った利息が別紙三記載の数額よりも少ないから、口座取引明細表(甲五七)、利息計算書(甲八九の1ないし18、一一四の1ないし7)及び手形貸付計算書等(甲一一四の8ないし20)に基づく数額をもって、支払利息とするのが相当と判断する。右計算によると、原告さだ子が兵庫銀行に対して支払った利息は、一億一四六五万一六三六円となる。
(二) 原告さだ子は、亡重人から右1の損害賠償債権を法定相続分である二分の一の割合で相続し、その額は、八五〇八万六八六二円となる。
(三) したがって、原告さだ子は、本件に関し、右(一)及び(二)の合計二億九四三四万二二五八円の損害賠償請求権を有する。
4 原告敬子の損害 四三八二万五一三三円
(一) 亡重人の計算における損害の相続分 四二五四万三四三一円
(二) 原告敬子は、本件違法なA社B社方式の勧誘により、過少申告加算税三八六万九〇〇〇円、延滞税二〇九万二四四六円を支払っているが、他方右勧誘がないと相続税として三〇六八万九二九八円を支払った可能性が高いところ、実際には右勧誘により相続税・過少申告加算税・延滞税等として三一九七万一〇〇〇円を支払ったに過ぎないことは原告らの自認するところである。したがって、この関係の損害は一二八万一七〇二円となる。
5 原告展義の損害 四一三四万三三三三円
(一) 亡重人の計算における損害の相続分 四二五四万三四三一円
(二) 原告展義は、本件違法なA社B社方式の勧誘により、過少申告加算税三五六万九〇〇〇円、延滞税一九〇万五九〇四円を支払っているが、他方右勧誘がないと相続税として三〇六八万九二九八円を支払った可能性が高いところ、実際には右勧誘により相続税・過少申告加算税・延滞税等として二九四八万九二〇〇円を支払ったに過ぎないことは原告らの自認するところである。したがって、損益相殺として、一二〇万〇〇九八円を同原告の侵害から控除しなければならない。
6 原告昌之の損害 一五七万七七〇九円
原告昌之は、本件違法なA社B社方式の勧誘により、過少申告加算税一四九万六〇〇〇円、延滞税七九万四〇〇〇円を支払っているが、他方右勧誘がないと相続税として一三七一万四二九一円を支払った可能性が高いところ、実際には右勧誘により相続税・過少申告加算税・延滞税等として一五二九万二〇〇〇円を支払ったに過ぎないことは原告らの自認するところである。したがって、同原告の損害は一五七万七七〇九円となる。
7 原告上重の損害
証拠(甲二四の4、二五、六六ないし七二、乙一八、弁論の全趣旨)によれば、原告上重は、前記六の違法なA社B社方式の勧誘により、右方式を実行する目的だけのために設立された会社であるところ、同原告は、役員変更登記費用、官報公告掲載料、減資登記費用、租税公課、本件コンサルティング契約報酬等を支出し、本件ファンドからの利益を得るなどしているが、これらは最終的には出資持分権者である亡重人及び原告さだ子に帰属するものであって、前記2、3判示のとおり、同人らの出資持分に関する損益相殺として評価し尽くしているので、原告上重自体の損害・損益相殺としては斟酌しない。
8 原告ムクの損害
証拠(甲六九、七三、乙一九)によれば、原告ムクは、前記六の違法なA社B社方式の勧誘により、右方式を実行する目的だけのために設立された会社であるところ、同原告は、役員変更登記費用、租税公課を支出するなどしているが、これらは最終的には出資持分権者である亡重人及び原告さだ子に帰属するものであって、同人らの出資持分に関する損益相殺として評価し尽くしているので、原告ムク自体の損害としては斟酌しない。
9 過失相殺
前記六判示のとおり、当該節税対策を採用することにより節税効果を上げ得るか否かは最終的には当該税務署の個別具体的な判断をまたなければならないという性格のものである以上、納税者側においても、自己の経理内容に応じ、自ら十分な検討をして当該節税対策を行わなければならないというべきところ、前記一1(二)、(三)認定のとおり、亡重人及び原告さだ子は、本件勧誘当時、時価十数億円の不動産を有し、ビル賃貸業等の営業を行うとともに、税務対策についても種々の検討をしており、税務に関して相応の知識を有していたこと、前記六判示のとおり、本件節税対策は、全く経済的合理性のない二つの同族会社を設立するという経済的合理性のないものであり、原告らにおいても、本件勧誘当時、被告礒田からの本件相続税対策の内容の説明等により、その不自然性、不合理性を十分認識可能であったことからすれば、原告らが自らの判断で本件節税対策を採用したことについて、相応の落度があったというべきであり、右判示の事情に加え、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告らの右過失の割合は三割をもって相当と判断する。
10 小計
以上によれば、原告らの損害額は以下のとおりとなる。
(一) 原告さだ子 二億〇六〇三万九五八〇円
(二) 原告敬子 三〇六七万七五九三円
(三) 原告展義 二八九四万〇三三三円
(四) 原告昌之 一一〇万四三九六円
11 弁護士費用
本件事案の難易、訴訟物の価額、認容額、その他諸般の事情を斟酌すると、被告スリーエスらの不法行為と相当因果関係にある弁護士費用としては、原告さだ子につき九二五万円、原告敬子につき一四〇万円、原告展義につき一三〇万円、原告昌之につき五万円をもって相当と判断する。
九 以上のとおり、原告らの主位的請求は、被告スリーエス、被告杉山及び被告礒田に対し、不法行為に基づく損害賠償として連帯して原告さだ子は金二億一五二八万九五八〇円、原告敬子は金三二〇七万七五九三円、原告展義は金三〇二四万〇三三三円、原告昌之は金一一五万四三九六円及びこれらに対する不法行為の後である平成九年六月一五日(訴状送達翌日以後)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、右原告らの被告スリーエス、被告杉山及び被告礒田に対するその余の主位的請求、その余の被告らに対する主位的請求、被告住商リース株式会社に対する予備的請求並びに原告上重及び原告ムクの被告らに対する主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 坂本倫城 裁判官 増森珠美 裁判官 加藤陽)
別紙一~三<省略>