大判例

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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)5299号 判決

原告 株式会社 山善

右代表者代表取締役 中道真蔵

右訴訟代理人弁護士 阪口繁

同 阪口誠

被告 破産者株式会社丸福鉄工所破産管財人

島村和行

右常置代理人弁護士 田嶋伸幸

主文

一  被告は、原告に対し、四七五〇万円及びこれに対する平成九年六月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨。

第二事案の概要

一  本件は、原告が株式会社丸福鉄工所から製作機械を買い受けて合計五〇〇〇万円を交付したところ、同社が破産宣告を受けた(以下右会社を「破産会社」という。)ため、破産法(以下「法」という。)五九条二項に基づくみなし解除、法六〇条二項に基づき、交付した右金員の内金四七五〇万円及びこれに対する右解除後の日である平成九年六月一七日から支払済みまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  争いがない事実等

1(一)  原告は、工作機械、機械工具、住宅機器等の販売等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。

(二)  破産会社は、金属加工機の製造等を業とする株式会社であったが、平成八年八月二一日午前一〇時大津地方裁判所において破産宣告決定がされ(同裁判所同年(フ)第一五二号)、被告が同社の破産管財人に選任された(争いがない。)。

2(一)  破産会社は、原告に対し、平成八年六月一〇日、次の約定で門型複合CNCプレーナーDP三〇〇W-九M一台(付属品一式付)(以下「本件プレーナー」という。)を代金九八九八万円で供給する旨合意した(争いがない。以下、「本件契約一」という。)。

納入場所 愛知県丹羽郡大口町大字秋田字東郷前五二

株式会社セイブ

納入期限 平成九年二月二八日

(二)  原告は、破産会社に対し、平成八年六月二〇日、本件契約一に関し、満期を平成九年三月一日とする額面一〇〇〇万円の約束手形三通を振り出した(争いがない。)。

3(一)  破産会社は、原告に対し、平成八年六月一〇日、次の約定で<1>五面加工機DUC-六〇二〇〇JH一個及び<2>同上用ユニバーサルアタッチメント一式(以下、合わせて「本件五面加工機」という。)をそれぞれ代金七二八二万一〇〇〇円及び代金三三九万九〇〇〇円で供給する旨合意した(争いがない。以下、「本件契約二」といい、本件契約一と二とをあわせ、「本件契約」という。)。

納入場所 千葉県市川市田尻三-一-三五

東海工業株式会社(以下「東海工業」という。)

納入期限 同年一一月中旬

(二)  原告は、破産会社に対し、平成八年七月三一日、本件契約二に関し、満期を平成九年二月一日とする額面一〇〇〇万円の約束手形二通を振り出した(争いがない。)。

4(一)  原告は、被告に対し、平成八年八月二一日、本件契約一及び二を解除するか又は右契約に基づく債務の履行を請求するかを一〇日以内に確答する旨催告した(争いがない。)。

(二)  被告は、原告に対し、平成八年一〇月一日に至っても右催告につき確答しなかった(争いがない。)。

三  争点

1  法五九条の適用について

(一) 原告の主張

(1)  本件は、双務契約の両当事者が履行を完了していない場合であるから、法五九条が当然に適用される。

法五九条の趣旨は、破産管財人の主導の下に双務契約の両当事者の債務が未履行の場合の膠着状態を解消することにあり、その文言も「破産者及其ノ相手方カ破産宣告ノ当時未タ共ニ其ノ履行ヲ完了セサルトキ」とあり、両当事者とも履行が完了していない旨を要件としているのであるから、本件のように双務契約の一方当事者が一部履行したのみで残部の履行をせず、他方が全部の履行をしていない場合を含むことは文理上当然である。

(2)  本件契約は、売買契約であるが、製作物供給契約であることを否定するものでなく、請負的性格と売買的性格とを有し、請負的性格が希薄といえ、契約目的物に代替性があり、本件契約の代金を一部前払いする趣旨で破産会社に本件手形を交付した。

本件プレーナーは、破産会社の規格商品であり、テーブル作業面幅が一二メートルのものまでは規格商品として存在していたから、強度計算からやり直す必要はないし、本件プレーナーの制御プログラムは、ファナック株式会社(以下「ファナック」という。)が作成するものであり、破産会社の設備及びノウハウに基づいて作成されたものではない。

本件五面加工機に追加されたオプションのうち、追加プログラムは、ファナックが作成したものであり、他のオプションも他業者で容易に用意することができるものであり、現にユーザーである東海工業は、三菱重工業株式会社が製作した機械を本件五面加工機の代替品として買い受けている。右各機械を制御するコンピュータープログラムは、ファナックが作成したものである。

したがって、本件契約に基づく給付は代替的であり、判例(最高裁判所昭和六二年一一月二六日判決民集四一巻八号一五八五頁)に照らしても、法五九条が適用されることが明らかである。

(二) 被告の主張

(1)  法五九条の趣旨は、破産財団の積極的拡大又はその減少の除去の早期実現にあるし、また、その文言は双務契約の両当事者が一部履行済みである場合を想定したもので、一方だけが一部履行した場合は想定していないから、同条は、双務契約の一方のみが一部履行した場合には適用されない。

(2)  本件契約は、製作物供給契約であり、その目的物は非代替的であり、原告が破産会社に金融を与えた与信契約である。

本件プレーナーは、テーブル作業面幅が三一〇センチメートル、ベッドの部分が九メートルと規格外のもので、全体的に大型化するため、強度計算からやり直さなければならないし、制御用のプログラムを初めから作成しなければならず、そのための大規模な設備とノウハウが必要となり、他の会社が製作するには多大なコストを必要とするものである。また、そもそも、我が国では、破産会社が唯一のプレーナー製作会社である。

本件五面加工機は、ユーザーである東海工業から使用上の機能を追加するべくいろいろなオプションを追加するよう指示があり、破産会社はそれを検討した上で契約したのである。右各機械は、コンピューターによる制御が必要な機械であり、そのプログラム作成には、破産会社が有するソフト開発に関する多大なノウハウが必要である。

したがって、本件契約に基づく給付は非代替的であり、法五九条の適用はない。

また、原告は、与信契約の一種であるいわゆるアドバンス(前渡金)契約に基づいて破産会社に本件手形を交付したのであり、本件契約は、双務契約といえないか又は両当事者の債務が同時履行的担保に支えられたものではなく、法五九条の適用はない。

2  法六〇条の適用について

(一) 原告の主張

(1)  本件は、法五九条が適用される場合であるから、法六〇条が当然に適用される。

(2)  法六〇条二項の趣旨は、破産管財人が、双務契約の解除を選択した場合の相手方保護にある。

被告の主張は、総破産債権者の公平及び破産財団の利益のみを追求したもので、個別的公平の観点を無視するものである。

債権者が相手方の破産を予想して自らの債務を履行しないという行動を採ることは、現実的には考えられない。

(二) 被告の主張

(1)  法六〇条二項は、双務契約が解除された場合、当事者双方が原状回復義務を負っている場合に公平の見地から相手方の原状回復請求権が財団債権となる旨を定めたものであるから、双務契約の両当事者とも債務の一部を履行し、原状回復請求権を有している場合にのみ適用され、本件のように相手方のみが破産管財人に対して原状回復請求権を有している場合には適用されないと解すべきである。

(2)  相手方に原状回復義務がない場合に法六〇条二項の適用を認めると、相手方の債権は、破産者が破産しなかった場合、個別的強制執行において他の債権に優先しないのに、破産となると財団債権として優遇されることになり、一般執行としての破産制度の趣旨に反する。

法六〇条二項が全面的に適用されるとすれば、善意で自らの債務全部を履行した債権者は破産債権者としての保護しか受けられないのに対し、悪意で一部の債務の履行を残した債権者は財団債権者として保護されるという不公平が生じ、全債権者の平等が極めて厳格に要求される破産制度を揺るがせるおそれがあり、その適用範囲を限定的に解すべきである。あえて同時履行の抗弁権を放棄して前渡金を交付した原告に他の一般債権者と異なる優越した地位を与える必要はない。

法六〇条二項の無限定な適用を認めると、相手方は、自ら未履行の状態を作出し、担保を確保せず又は相殺権を行使せずに他の一般破産債権者に優先して自己の債権を満足させることができるという不合理な結果となる。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  本件契約は、売買契約であり、製作物供給契約である双務契約であって、請負的性格と売買的性格とを有しているが、請負的性格の質・量の如何にかかわらず、双務契約の両当事者が履行を完了していない場合であるから、法五九条が適用される。

すなわち、法五九条は、双務契約における双方の債務が、法律上及び経済上相互に関連性を持ち、原則として互いに担保視しあっているものであることにかんがみ、双方未履行の双務契約の当事者の一方が破産した場合に、法六〇条と相まって、破産管財人に右契約の解除をするか又は相手方の債務の履行を請求するかの選択権を認めることにより破産財団の利益を守ると同時に、破産管財人のした選択に対応した相手方の保護を図る趣旨の双務契約に関する通則であると解され、その文言も「破産者及其ノ相手方カ破産宣告ノ当時未タ共ニ其ノ履行ヲ完了セサルトキ」とあり、両当事者とも履行が完了していない旨を要件としているのであるから、本件のように双務契約の一方当事者が一部履行したのみで残部の履行をせず、他方が全部の履行していない場合を含むことは文理上当然である。

甲第二号証の1及び2、第四、第五号証、第八ないし第一〇号証によれば、本件プレーナー及び本件五面加工機の製作供給は、破産会社の取得する又は取得した部品その他を利用して同会社の技術により製作されることが認められ、そうすると、本件契約は、破産宣告後、破産財団と無関係に破産会社の労務のみで履行することができるものでなく、一つの財産関係として破産財団を管理する破産管財人に引き継がれるものということができ、管財人は、仮に、本件契約に基づく給付が非代替的であっても(もっとも、前記証拠、甲第一一及び第一二号証に照らすと、代替的であることがうかがわれる。)、破産会社の人的資源を活用し、破産財団から必要な物資、資金を供与して本件契約を履行しうる可能性があり、法五九条による選択をする余地があるといえるから、被告の主張は当たらない。

次に、前記証拠、甲第一号証の1及び2並びに弁論の全趣旨によれば、原告は商社であるところ、原告が被告に対して平成八年六月二〇日交付した額面合計三〇〇〇万円の約束手形は本件契約一の代金の前払の趣旨であり、原告が被告に対して同年七月三一日交付した額面合計二〇〇〇万円の約束手形は本件契約二の代金の前払の趣旨であったこと、本件契約一は、原告が破産会社から本件プレーナーを買い受け、リース会社、ユーザーと転売される取引の一環であり、本件契約二は、原告が破産会社から本件五面加工機を買い受け、商社、ユーザーと転売される取引の一環であったことがそれぞれ認められる。

そうすると、本件契約は、原告が破産会社に資金の供与を行う与信契約の性質を有しているということができるが、双務契約であることに変わりがないから、右性質を有していることによって法五九条の適用が否定されることにはならない。

二  争点2について

1  前記のとおり、本件契約については、法五九条が適用されるから、法六〇条二項が適用されることは明らかである。

2  被告の主張は、以下のとおり、いずれも根拠のないものであって、採用することができない。

(一) 被告は、法六〇条二項は、双務契約が解除された場合、当事者双方が原状回復義務を負っている場合に公平の見地から相手方の原状回復請求権が財団債権となる旨を定めたものであるから、本件のように相手方のみが破産管財人に対して原状回復請求権を有している場合には適用されない旨主張する。

しかしながら、法六〇条二項の趣旨は、破産管財人に解除権を付与したことに伴い、相手方が一方的に不利益を被ることを防止し、かつ、破産管財人が履行を選択したときに、相手方が有する債権が法四七条七号によって財団債権となることとの均衡を保つことにあるというべきである。

したがって、本件のように相手方のみが破産管財人に対して原状目復請求権を有している場合にも適用される。

(二) 被告は、相手方に原状回復義務がない場合に法六〇条二項の適用を認めると、相手方の債権は、破産者が破産しなかった場合、個別的強制執行において他の債権に優先しないのに、破産となると財団債権として優遇されることになり、一般執行としての破産制度の趣旨に反する旨主張する。

しかしながら、破産に至らなかった場合には、個々の実体的事情により異なる法律効果が生じ、相手方が取得する請求権もさまざまとなって、個別的強制執行の場合もこれに応じてさまざまな場合があり得るから、単純に一般論による比較対照をすることにより有意な結果は得られない。

(三) 被告は、法六〇条二項が全面的に適用されるとすれば、善意で自らの債務全部を履行した債権者は破産債権者としての保護しか受けられないのに対し、悪意で一部の債務の履行を残した債権者は財団債権者として保護されるという不公平が生じ、全債権者の平等が極めて厳格に要求される破産制度を揺るがせるおそれがあり、あえて同時履行の抗弁権を放棄して前渡金を交付した原告に他の一般債権者と異なる優越した地位を与える必要はない旨主張する。

しかしながら、自らの債務全部を履行した者は自ら同時履行の抗弁権を放棄しているのに対し、一部の債務の履行を残した者は同時履行の抗弁権によって自己の有する債権が担保されるという期待を有しているのであるから、その保護に差異が生じたとしても不合理であるとまではいえない。

(四) 被告は、法六〇条二項の無限定な適用を認めると、相手方は、自ら未履行の状態を作出し、担保を確保せず又は相殺権を行使せずに他の一般破産債権者に優先して自己の債権を満足させることができるという不合理な結果となる旨主張する。

しかしながら、右のような場合、相手方の権利行使は信義則に反して権利を濫用するものとして否定されようから、不都合は生じない。

(裁判長裁判官 若林諒 裁判官 河合裕行 裁判官 上村考由)

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