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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)6449号 判決 1998年7月09日

原告

時永達夫

ほか一名

被告

株式会社ピースデンタルラボラトリー

ほか一名

主文

一  被告らは、原告時永逹夫に対し、各自金三六一八万〇二八〇円及びこれに対する平成六年三月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告時永逸子に対し、各自金三六一八万〇二八〇円及びこれに対する平成六年三月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告時永逹夫に対し、各自金六六五五万七六一六円及びこれに対する平成六年三月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告時永逸子に対し、各自金六六五五万七六一六円及びこれに対する平成六年三月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告上田英利運転の普通乗用自動車(被告株式会社ピースデンタルラボラトリー所有)が時永由紀子運転の自動二輪車に衝突して時永由紀子が死亡した事故につき、同人の相続人である原告らが、被告株式会社ピースデンタルラボラトリーに対しては、自賠法三条に基づき、被告上田英利に対しては、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成六年三月九日午前八時二〇分頃

場所 大阪市住吉区苅田二丁目一五番二二号先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(なにわ五七そ六六六五)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告上田英利(以下「被告上田」という。)

右所有者 被告株式会社ピースデンタルラボラトリー(以下「被告会社」という。)

事故車両二 自動二輪車(大阪市天か六九二五)(以下「由紀子車両」という。)

右運転者 時永由紀子(以下「由紀子」という。)

態様 被告車両と由紀子車両とが衝突した。

2  被告会社の責任原因

被告会社は、本件事故当時、被告車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものである。

3  由紀子の死亡及び相続

(一) 由紀子は、本件事故により、平成六年三月一五日、死亡した。

(二) 由紀子の死亡当時、原告らはその父母であった。

4  損害の填補

原告らは、被告らから、本件事故に関し、四八八万七四〇〇円の支払を受けた(原告時永逹夫本人、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  本件事故の態様

(原告らの主張)

被告上田は、一旦停止をすることもなく、右側横断歩道の通行人にばかり目を向け、前方から走行してくる車両に注意することもなく、右折した不注意により、由紀子車両の発見が遅れ、衝突したのである。しかも、被告上田は、本来右折すべき地点よりも手前の地点で、いわゆる「直近右折」「早廻り右折」をした疑いがある。

なお、由紀子車両の速度は、時速五〇キロメートル内である。

以上のとおり、由紀子には何ら過失がなく、被告上田の一方的な過失により本件事故が発生したものである。

(被告らの主張)

本件事故は、本件事故現場の交差点において、北から南へ進行する由紀子車両と南から東へ右折しようとした被告車両との衝突事故である。

被告上田は、進行方向の対面信号が青色であり、南行きの対向車線に車両がなかったので時速約一〇キロメートルのゆっくりしたスピードで右折しようとした。そして、交差点に進入した瞬間、由紀子車両と衝突した。由紀子車両は、猛スピードで交差点に進入しており、本件事故直後、被告上田が、由紀子車両の速度メーターを確認したところ、時速九〇キロメートルを指していた。

以上のとおり、由紀子においても、大幅な速度違反及び前方不注視の過失があり、四割の過失相殺を行うのが相当である。

2  損害額

(原告らの主張)

(一) 治療費 二一六万七七四〇円

(二) 入院雑費 七〇〇〇円

(三) 看護料 三万五〇〇〇円

(四) 逸失利益

(1) 市職員給与分 五一一八万六二七七円

(2) 期末手当、勤勉手当分 三三八一万九四六六円

(3) 退職金分 九〇三万一二一二円

(4) 定年退職後分 三九一万六二七八円

(五) 入院慰謝料 一二万円

(六) 死亡慰謝料 三〇〇〇万円

(七) 葬儀費用 二七一万九六六〇円

(八) 弁護士費用(原告一人あたり二五〇万円) 合計五〇〇万円

(被告らの主張)

争う。

由紀子が生存していたならば、確実に定年退職(六〇才)まで勤務し、かつ昇級していたであろうとはいえない。

調整手当として、本給の一〇パーセントの手当が将来確実に支給されるとはいえない。

通勤手当、住居手当は、労働の対価ではなく、逸失利益の対象とならない。

期末手当、勤勉手当についても、給料の五か月分である根拠が明らかでない。

慰謝料の額も不相当に高額である。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(乙一、被告上田本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪市住吉区苅田二丁目一五番二二号先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場は、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とが変則的に交わる交差点である。南北道路は、制限速度が時速六〇キロメートルと指定されていた。南北道路を南北のどちらから走行してきた場合も、本件交差点における前方及び左右の見通しはよい。

被告上田は、平成六年三月九日午前八時二〇分頃、被告車両を運転し、南北道路の北行の第二車線を南から北に向けて走行していたが、別紙図面<1>地点で右折の指示器を点灯し、減速して右折車線に入り 対面信号の青色表示を確認した。同図面<2>地点で、同図面<甲>地点にいた歩行者を認め、再度、対面信号を確認したところ、青色であった。同図面<3>地点で、右折を始め、同図面<甲>地点の歩行者を見ながら、時速約一五キロメートルで進行し、同図面<4>地点で、南北道路の南行の第二車線を北から南に向けて時速約四五キロメートルで直進進行中の由紀子車両を発見し、急制動をかけたが、間に合わず、同図面<×>地点で由紀子車両と衝突した(右衝突時における被告車両の位置は同図面<5>地点、由紀子車両の位置は同図面<イ>地点である。)。衝突後、被告車両は同図面<6>地点に停車し、由紀子は由紀子車両から投げ出され、同図面<ウ>地点に転倒し、由紀子車両は同図面<エ>地点に転倒した。右衝突により被告車両は、前部バンパー右角から左側に一・一六メートルの箇所に衝突痕及び擦過痕、右前照灯破損、右前指示器脱落、フロントグリル内側へ曲損、ボンネット・右フェンダー曲損を残した。また、由紀子車両は、前部フォーク曲損、前照灯・速度メーター破損、右側カウリング破損等で大破した。

以上のとおり認められる。

これに対し、原告らは、由紀子車両が被告車両の前部右側に衝突したことを主たる理由として、被告上田が本来右折すべき地点よりも手前の地点でいわゆる「直近右折」「早廻り右折」をした疑いがあると主張するが、前記衝突痕等は、本件事故態様が前認定のとおりと考えて格別不合理であると感じさせるものではない。

また、被告らは、由紀子車両が時速約九〇キロメートルの猛スピードで進行してきたと主張する。しかし、別紙図面<4>地点で被告上田が急制動をかけたとしても、ブレーキが効き始めるには〇・八秒程度は要するから、同図面<5>地点では未だブレーキが効いていない状能であったと認められるところ、被告車両が同図面<4>地点から同図面<5>地点(その距離二・八メートル)に進むまでの間に、由紀子車両は同図面<ア>地点から同図面<イ>地点(その距離七・九メートル)まで進んでいるから、衝突直前における由紀子車両の速度は、被告車両の約二・八倍程度にすぎないと認められる。そして、本件事故現場付近において由紀子車両のスリップ痕が残っていなかったこと及び由紀子が左方に回避する措置を採っていないことに照らすと、由紀子が急制動をかけていたとは考えがたいから、由紀子車両は同図面<ア>地点の前でも、右速度とほぼ同様の速度で進行していたものと推認される。したがって、由紀子が被告ら主張のような速度で進行していたとはいえない。

他に前認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右1において認定した事実によれば、本件事故は、基本的には、被告上田が本件交差点で右折する際、歩行者に気を取られ、直進車である由紀子車両の動静に対する注視を怠ったという過失のために起きたものであると認められる。しかしながら、他方において、由紀子としても、前方に交差点が存することは容易に視認できるし、普段から南北道路を走行している以上、北行車線が本件交差点手前で右折車両に備え二車線から三車線になっていることもわかっていたであろうから、対向車線から車両が右折してくるかもしれないことは予想することができたというべきである。したがって、本件事故によって生じた損害の全てを被告らの負担とすることは公平を失するから、本件においては、一割五分の限度で過失相殺を行うのが相当である。

二  争点2について(損害額)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 治療費 二一六万七四〇〇円

由紀子は、本件事故による治療費として、二一六万七四〇〇円を要したと認められる(弁論の全趣旨)。

(二) 入院雑費 七〇〇〇円

由紀子は、本件事故後、病院に搬送され、死亡日である平成六年三月一五日までの七日間入院したから、右期間の入院雑費として、一日あたり一〇〇〇円として合計七〇〇〇円を要したと認められる(甲一、一七、一八、弁論の全趣旨)。

(三) 看護料 三万五〇〇〇円

由紀子は、病院に七日間入院したから、看護料として、一日あたり五〇〇〇円として、合計三万五〇〇〇円を要したと認められる(前認定事実、弁論の全趣旨)。

(四) 逸失利益

(1) 給与分、期末手当、勤勉手当分 五二〇六万八八四七円

由紀子(昭和四五年八月二六日生)は、二〇歳の時、大阪市の給食調理員となり 本件事故当時も大阪市の給食調理員として働いていたと認められるところ(甲一、三5、一八、弁論の全趣旨)、給食調理員として想定される勤務内容・勤務時間帯、職業としての安定性及び収入に照らすと、本件事故に遭わなければ、由紀子が自発的に退職するとは考えにくく、定年である六〇歳までは、右仕事を継続したものと認めることができる。

そして、大阪市の給与に関する条例及びその取扱いからすると、由紀子は、本件事故に遭わなければ、別表記載のとおり 昇級・昇格した相当程度の蓋然性が認められるところ、本件事故当時における由紀子の家族状況や別表記載の収入の金額にかんがみ、生活費控除率を五割として、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、定年退職までの給与分、期末手当、勤勉手当分の逸失利益を算出すると、別表記載のとおりとなる。

なお、被告らは、由紀子が確実に定年退職(六〇歳)まで勤務し、かつ昇級していたであろうとはいえないとか、調整手当として本給の一〇パーセントの手当が将来確実に支給されるとはいえないと主張する。確かに、逸失利益の立証責任はこれを主張する原告らにあるから、その意味で、将来の逸失利益を算定する際には被害者側に控え目な認定にとどまらざるを得ない。しかし、将来を予測するという事柄の性質上、確実性を要求することは相当ではなく 前認定の限度で昇級・昇格し、調整手当が支給されることには高度の蓋然性が存するというべきである(逆に、原告らも、前認定以上に昇格・昇級することを前提とする主張をしているが、昇格については、人数制限その他外部からうかがい知ることのできない運用方針があると予想され、前認定以上の昇格・昇級を裁判上認定することは困難である。)。また、被告らは、通勤手当、住居手当は、労働の対価ではなく 逸失利益の対象とならないと主張するが、右手当は実質的には給与の性質を有するから、これらも逸失利益算定の基礎とするのが相当である。さらに、被告らは、期末手当、勤勉手当についても、給料の五か月分である根拠が明らかでないと主張するが、大阪市の条例及び過去の支給率からみて(甲三3、八1)、給料の五か月分は支給されるものと認められる。

(2) 退職金分 六九五万九二六八円

由紀子は、前記のとおり、二〇歳で大阪市の職員になり、本件事故に遭わなければ定年である六〇歳までは給食調理員として右仕事を継続したものと認められる。

そして、大阪市の職員の退職手当に関する条例からすると、勤続三五年以上として、六二・七〇か月分の定年退職による退職金が支給されたものと認められ(甲三4)、定年時の給料は三一万六四〇〇円であるから(前認定事実)、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して(三七年の係数、〇・三五〇八)、退職金分の逸失利益を算出すると、六九五万九二六八円(一円未満切捨て)となる。

(3) 定年退職後分 三四四万〇〇八七円

由紀子は、本件事故に遭わなければ、定年退職後も六七歳までの七年間稼働することができたと認められるところ(弁論の全趣旨)、平成八年度賃金センサス産業計・企業規模計・女子労働者の平均年収は、六〇歳ないし六四歳までの四年間が三〇一万一九〇〇円であり、六五歳から六七歳までの三年間が二九七万一二〇〇円であるから(当裁判所に顕著)、これを基礎に、生活費控除率を五割として、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 3,011,900×(1-0.5)×(0.3448+0.3389+0.3333+0.3278)+2,971,200×(1-0.5)×(0.3225+0.3174+0.3125)=3,440,087(一円未満切捨て)

(五) 入院慰謝料 一二万円

由紀子の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は一二万円が相当である。

(六) 死亡慰謝料 一九〇〇万円

本件事故の態様、由紀子の年齢、家族状況その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、由紀子の死亡慰謝料は一九〇〇万円であると認められる。

(七) 葬儀費用 一二〇万円

本件事故と相当因果関係にある葬儀費用としては、一二〇万円をもって相当と認める。

2  損害額(過失相殺後) 七二二四万七九六一円

以上掲げた由紀子の損害額の合計は、八四九九万七六〇二円であるところ、前記の次第でその一割五分を控除すると、七二二四万七九六一円(一円未満切捨て)となる。

3  損害額(損害の填補分を控除後) 六七三六万〇五六一円

原告らは、被告らから本件事故に関し、合計四八八万七四〇〇円の支払を受けているから、これらを前記過失相殺後の金額七二二四万七九六一円から控除すると、残額は六七三六万〇五六一円となる。

4  相続

以上のとおり、由紀子の損害賠償請求権(元本)の額は六七三六万〇五六一円となるところ、これを原告ら各自が二分の一の割合(三三六八万〇二八〇円)で承継したことになる(一円未満切捨て)。

5  弁護士費用 合計五〇〇万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告らの弁護士費用は各二五〇万円をもって相当と認める。

三  結論

以上の次第で、原告ら各自の請求は、被告らに対して連帯して三六一八万〇二八〇円及びこれに対する本件事故日後である平成六年三月一五日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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