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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)7686号 判決 1997年12月24日

原告

安悦三

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

太田稔

鬼追明夫

的場俊介

佐古祐二

被告

日本有機化学工業株式会社

被告

安本産業株式会社

右両名代表者代表取締役

安本友信

右両名訴訟代理人弁護士

加藤幸則

有田義政

主文

一  本件各訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告日本有機化学工業株式会社の昭和五九年九月一一日開催の取締役会における「別紙1のとおり株式を譲渡することを承認する」旨の決議が存在しないことを確認する。

2  被告安本産業株式会社の昭和五九年九月一一日開催の取締役会における「別紙2のとおり株式を譲渡することを承認する」旨の決議が存在しないことを確認する。

3  北陸化成工業株式会社の昭和五九年九月一二日開催の取締役会における「別紙3のとおり株式を譲渡することを承認する」旨の決議及び平成元年八月二二日開催の取締役会における「別紙4のとおり株式を譲渡することを承認する」旨の決議がそれぞれ存在しないことを確認する。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文同旨

2  本案に対する答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者等

(一) 原告らは、昭和五九年九月一一日当時、被告らの取締役の地位にあった。

(二) 原告らは、同月一二日当時、北陸化成工業株式会社(以下「別件会社」という。)の取締役の地位にあった。

(三) 被告日本有機化学工業株式会社(以下「被告会社1」という。)は、平成七年九月一日、別件会社を合併した。

2  取締役会決議存在の主張

(一) 被告会社1は、昭和五九年九月一一日開催の取締役会(以下「本件取締役会1」という。)において、「別紙1のとおり株式を譲渡することを承認する」旨の決議(以下「本件決議1」という。)をしたと主張する。

(二) 被告安本産業株式会社(以下「被告会社2」という。)は、同日開催の取締役会(以下「本件取締役会2」という。)において、「別紙2のとおり株式を譲渡することを承認する」旨の決議(以下「本件決議2」という。)をしたと主張する。

(三) 被告会社1は、別件会社が同月一二日開催の取締役会「以下「本件取締役会3」という。)において「別紙3のとおり株式を譲渡することを承認する」旨の決議(以下「本件決議3」という。)を、平成元年八月二二日開催の取締役会において「別紙4のとおり株式を譲渡することを承認する」旨の決議(以下「本件決議4」という。)をそれぞれしたと主張する。

3  本件決議1ないし4(以下「本件各決議」という。)の瑕疵―決議の物理的不存在

被告ら及び別件会社は、本件取締役会1ないし4(以下「本件各取締役会」という。)を開催したことがない。

4  まとめ

よって、原告らは、被告1との間で、本件決議1、3及び4が、被告2との間で、本件決議2がそれぞれ存在しないことの確認を求める。

二  本案前の抗弁

1  原告らは、被告らの株主ではなく、また、被告ら及び別件会社の取締役に就任したこともない。

2(一)  原告ら、安昌柱、安昌成、安悦司、安光伸、安容嬉及び安容子は、安在(以下「在」という。)の子で、在は、平成六年三月二四日に死亡した。

(二)  被告ら及び別件会社は、在のいわゆる一人会社であったところ、在は、遅くとも平成元年九月一日までに、その保有する被告らの株式については原告安悦三を除くその余の子らに対し、その保有する別件会社の株式については原告らを除くその余の子らに対し、それぞれ贈与した。

(三)  原告らは、被告ら及び別件会社の発行済株式の全部が在の遺産であると主張して、在のその余の子らを被告として、遺産確認請求訴訟を大阪地方裁判所に提起した(同裁判所平成八年(ワ)第七五二四号。以下「別件訴訟」という。)。

(四)  仮に、本件各決議が存在しないとしても、被告ら及び別件会社は、本件決議1ないし3の当時、在の一人会社であったから、在がその保有する被告ら及び別件会社の株式を譲渡した場合、定款所定の取締役会の承認がなくとも、その譲渡は、会社に対する関係においても有効である。したがって、右各決議の不存在を確認する利益はない。

また、被告会社1及び別件会社は、本件決議1、3及び4の当時、その定款において、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨を定めていなかったから、右各決議の不存在を確認する利益はない。

三  本案前の抗弁に対する認否

1  本案前の抗弁1のうち、原告らが被告らの株主でないことは認め、その余は否認する。

2(一)  同2(一)は認める。

(二)  同(二)のうち、被告ら及び別件会社が在の一人会社であったことは認め、その余は否認する。

(三)  同(三)は認める。

(四)  同(四)のうち、被告ら及び別件会社が本件決議1ないし3の当時在の一人会社であったことは認め、その余の主張は争う。

3(一)  別件訴訟において、本件各決議に係る株式の譲渡の存否が争点となっているところ、右各決議の存否は、右譲渡の存否を基礎づける間接事実と位置づけられるから、右各決議の存否を確認する法律上の利益がある。

(二)  また、被告らは、本件各決議が存在するものとして、これを前提にした株主構成による株主総会を開催したと称し、取締役の多数を解任するなどしているから、右各決議の存否を確認する法律上の利益がある。

(三)  なお、被告ら及び別件会社は、いずれも在の全額出資会社であり、安家の同族会社であるから、本件各決議の無効確認判決は、対世的効力を有する。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、(一)及び(二)は否認し、(三)は認める。

2  同2は認める。

3  同3は否認する。

五  抗弁―本件各決議の存在

被告ら及び別件会社は、本件各取締役会を開催して本件各決議をした。

六  抗弁に対する認否

否認する。

第三  証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一1  確認の訴えにおけるいわゆる確認の利益は、判決をもって法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる。このような法律関係の存否の確定は、右の目的のために最も直接的かつ効果的であることを要し、通常は、紛争の直接の対象である現在の法律関係について個別にその確認を求めるのが適当であるとともに、それをもって足り、その前提となる法律関係、特に過去の法律関係にさかのぼってその存否の確認を求めることは、その利益を欠くものと解される。しかし、ある基本的な法律関係から生じた法律効果につき現在法律上の紛争が存在し、現在の権利又は法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず、かえって、これらの権利又は法律関係の基本となる法律関係を確定することが、紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合においては、右の基本的な法律関係の存否の確認を求める訴えも、それが現在の法律関係であるか過去のそれであるかを問わず、確認の利益があるものと認めて、これを許容すべきものと解するのが相当である。そして、株式会社の取締役会の決議は、会社の対内及び対外関係における諸般の法律関係の基礎となるものであるから、その決議の効力に関する疑義が前提となって、右決議から派生した各種の法律関係につき現在紛争が存在するとき、決議自体の効力を既判力をもって確定することが、紛争解決のために最も有効適切な手段である場合があり得ることは否定できない。

2(一)  しかしながら、取締役会決議であっても、それが何らの法律効果を伴わない単なる事実行為にすぎない場合には、たとえ事実上その決議を前提として何らかの紛争が派生する余地があるとしても、その決議の存否を確認する実益はなく、その不存在確認を求める法律上の利益を肯認することはできないというべきである。

ところで、証拠(乙五の1ないし3、六の1ないし4)によると、被告会社1及び別件会社は、本件決議1、3及び4の当時、その定款において、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨を定めていなかったことが認められ、右の当時右両社の株主がその保有する株式を譲渡した場合には、取締役会の承認がなくとも、その譲渡は、会社に対する関係においても有効と解されるから、右各決議は、何らの法律効果を伴わない単なる事実行為にすぎないということができる。

したがって、右各決議の不存在の確認を求める法律上の利益を認めることはできない。

(二)(1)  なお、原告らは、別件訴訟において、本件決議1、3及び4に係る株式の譲渡の存否が争点となり、右各決議の存否は、右譲渡の存否を基礎づける間接事実と位置づけられるから、右各決議の存否を確認する法律上の利益があると主張する。

しかしながら、右各決議の存否は、民事訴訟の一般原則に基づき当該紛争解決のための前提問題として、いつでもいかなる方法によっても主張することができ、これを別件訴訟において前提問題として主張することが、原告らその他の在の相続人間の紛争を解決する手段として最も有効適切と認められる。したがって、仮に取締役会決議の不存在を確認する確定判決が第三者に対しても効力を有するとしても、本件訴訟において右各決議の存否を明らかにしなければならない必要性はないというべきである。

(2) また、原告らは、「被告会社1は、本件決議1、3及び4が存在するものとして、これを前提にした株主構成による株主総会を開催したと称し、取締役の多数を解任するなどの行動に及び、原告らと同被告との間に紛争が生じているから、右各決議の存否を確認する法律上の利益がある。」旨主張する。

しかしながら、前示のとおり、右各決議は、何らの法律効果を伴わない単なる事実行為にすぎず、原告らが主張する同被告の行為は、右各決議に係る株式の譲渡そのものを基礎とするものであって、右各決議の法律効果によるものではなく、右各決議の存否と直接の法的関係を有するものではないから、本件訴訟において右各決議の存否を明らかにすることが、原告らが主張する紛争を解決する手段として最も有効適切であるということはできない。

3(一)  また、証拠(甲一四の10、乙八)によると、被告会社2は、本件決議2の当時、その定款において、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨を定めていたことが認められるところ、右の当時、被告会社2が在の一人会社であったことは、当事者間に争いがない。

ところで、商法二〇四条一項ただし書が、株式の譲渡につき定款をもって取締役会の承認を要する旨を定めることを妨げないと規定している趣旨は、専ら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、もって譲渡人以外の株主の利益を保護することにあると解されるから、一人会社の株主がその保有する株式を他に譲渡した場合には、定款所定の取締役会の承認がなくとも、その譲渡は、会社に対する関係においても有効と解される(最高裁平成元年(オ)第一〇〇六号同五年三月三〇日判決・民集四七巻四号三四三九頁参照)。

そうすると、本件決議2に係る株式の譲渡が有効に存在する限り、同決議の存否にかかわらず、右譲渡は、被告会社2に対する関係においても有効と解されるから、同決議の不存在の確認を求める法律上の利益を認めることはできない。

(二)(1)  なお、原告らは、別件訴訟において、本件決議2に係る株式の譲渡の存否が争点となっているところ、同決議の存否は、右譲渡の存否を基礎づける間接事実と位置づけられるから、同決議の存否を確認する法律上の利益があると主張するが、本件訴訟において同決議の存否を明らかにしなければならない必要性がないことは、2(二)(1)において判示したところに照らして明らかである。

(2) また、原告らは、「被告会社2は、本件決議2が存在するものとして、これを前提にした株主構成による株主総会を開催したと称し、取締役の多数を解任するなどの行動に及び、原告らと同被告との間に紛争が生じているから、同決議の存否を確認する法律上の利益がある。」旨主張する。

しかしながら、前示のとおり、本件決議2に係る株式の譲渡が有効に存在する限り、同決議の存否にかかわらず、右譲渡は、被告会社2に対する関係においても有効であり、原告らが主張する同被告の行為の基礎となるわけではないから、本件訴訟において右決議の存否を明らかにすることが、原告らが主張する紛争を解決する手段として最も有効適切であるということはできない。

二  以上の次第で、本件各訴えは、いずれも不適法であるから却下し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官松山恒昭 裁判官末吉幹和 裁判官小林邦夫)

別紙<省略>

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