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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)8213号 判決 1998年4月14日

原告

佐々木健太郎

ほか一名

被告

吉野亮

ほか三名

主文

一  被告吉野亮及び同吉野文美子は、各自原告佐々木健太郎に対し、金四九万六九三二円及びこれに対する平成九年三月二七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告吉野亮及び同吉野文美子は、各自原告佐々木忠彦に対し、金一七万一一〇〇円及びこれに対する平成九年三月二七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告吉野亮及び同吉野文美子に対するその余の請求並びに原告らの被告有村勝及び同有村智子に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告らに生じた費用の六分の五、被告吉野亮及び同吉野文美子に生じた費用の三分の二並びに被告有村勝及び同有村智子に生じた費用を原告らの負担とし、原告らに生じたその余の費用並びに被告吉野亮及び同吉野文美子に生じたその余の費用を被告吉野亮及び同吉野文美子の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告佐々木健太郎に対し、各自金一二三万七三三〇円及びこれに対する平成九年三月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告佐々木忠彦に対し、各自金七八万三七五〇円及びこれに対する平成九年三月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告佐々木健太郎運転の普通乗用自動車(原告佐々木忠彦所有)が電柱に衝突した事故につき、原告らが訴外吉野渉及び同有村簡が発射した空気銃の弾が同車両の後部ガラスに命中したことが原因であると主張して、原告らが被告らに対し、民法七一四条一項に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成九年三月二七日午後一時五〇分頃

場所 大阪府豊能郡能勢町柏原二一〇番地先(以下「本件事故現場」という。)

事故車両 普通乗用自動車(神戸五三に三八〇六)(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告佐々木健太郎(以下「原告健太郎」という。)

右所有者 原告佐々木忠彦(以下「原告忠彦」という。)

態様 原告車両が電柱に衝突した。

2  被告らの地位

(一) 被告吉野亮及び同吉野文美子の地位

訴外吉野渉(以下「訴外渉」という。)(昭和六〇年四月二三日生)は、当時一一才であり、責任能力はなかった。

被告吉野亮及び同吉野文美子は、訴外渉の親権者である。

(二) 被告有村勝及び同有村智子の地位

訴外有村簡(以下「訴外簡」という。)(昭和六〇年九月六日生)は、当時一一才であり、責任能力はなかった。

被告有村勝及び同有村智子は、訴外簡の親権者である。

二  争点

1  被告らの責任原因(訴外渉及び同簡の過失)

(原告らの主張)

本件事故は、訴外渉及び同簡が、原告車両に向けて空気銃を発射し、発射された弾が原告車両の後部ガラスに命中し、その衝突音に驚いた原告健太郎が運転を妨害され、電柱に衝突したというものである。訴外渉及び同簡には、漫然と原告車両に向けて空気銃を発射した過失がある。

(被告らの主張)

争う。

2  原告健太郎の過失

(被告らの主張)

原告健太郎は、運転を誤って電柱に激突したものである。

(原告らの主張)

争う。

3  原告健太郎の損害額

(原告健太郎の主張)

(一) 治療費(診断書代含む) 三万九四八〇円

(二) 休業損害 一万七八五〇円

(三) 通院慰謝料 一八万円

(四) 後遺障害慰謝料 九〇万円

(五) 弁護士費用 一〇万円

(被告らの主張)

不知。

4  原告忠彦の損害額

(原告忠彦の主張)

(一) 買替差額費 四五万円

(二) 代車使用料 二一万円

(三) レッカー代 一万五四五〇円

(四) 登録手続関係費 八三〇〇円

(五) 弁護士費用 一〇万円

(被告らの主張)

不知。

5  被告らの免責

(被告らの主張)

被告吉野亮及び同吉野文美子は、訴外渉の監督義務を怠ったことはない。

被告有村勝及び同有村智子は、訴外簡の監督義務を怠ったことはない。

(原告らの主張)

争う。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1、2及び5について

1  前記争いのない事実、証拠(甲九、一〇、乙一、一三、証人佐々木真二郎、原告佐々木健太郎本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府豊能郡能勢町柏原二一〇番地先路上であり、その付近の概況は別紙見取図記載のとおりである。同図面記載の道路はいずれも舗装されている。

原告健太郎は、訴外佐々木真二郎(以下「訴外真二郎」という。)を助手席に乗せ、バス通りを西から走行し、柏原バス停で右折し、南に向けて時速約二〇キロメートルで走行した。訴外真二郎は、原告車両が右折してすぐに、道路方向を向いて立っている訴外渉及び同簡を認め、訴外渉が南東にあるたんぼに向かって空気銃をもった腕を地面に平行にあげて今にも撃とうとする状態で構えていることに気づいた。原告車両がそのまま訴外渉及び同簡の横を通過した直後、ちょうど四つ角付近において、訴外渉が発射した弾が原告車両の後部ガラスに当たり、これが割れるような衝撃音が発生した。そこで、原告健太郎及び訴外真二郎は思わず、後ろを振り返ったところ、後部ガラスは割れたりしていなかったが、原告健太郎はハンドル操作を誤り、道路東側の電柱に衝突した。その後、訴外渉は、同簡に対し、「弾が当たったかもしれん。」と言った。訴外渉は、空気銃を発射する当時、原告車両が来ていることを認識していた。

原告健太郎は、衝突の衝撃でバックミラーに額を打ちつけ、額から出血していたが、訴外真二郎が「さっきの奴らが撃った。」ということを聞き、原告車両を降りて、訴外渉及び同簡のところに近寄り、訴外簡に対し、「銃を出せ。」と言ったところ、 「俺ちゃう。俺ちゃう。」と答えたので、思わず平手打ちを一回し、もう一度「銃を出せ。」と言ったところ、訴外簡は「俺ちゃう。こいつや。」と言って訴外渉を指さした。そこで、原告健太郎は、訴外渉に対し、「おまえか。銃を出せ。」と言ったが、無言であったので、二、三回平手打ちをした。原告健太郎は、出血していたので、近くの住民に救急車を呼んでもらい、川西市の協立病院に搬送された。

訴外渉が使用した空気銃は、俗にいう銀玉鉄砲とは異なり、いわゆるBB弾を使用してこれが二〇ないし三〇メートル先まで飛ぶというものであり、使用説明書によれば、人や動物に向けて発射しないこと、人や車が通る場所では決して発射しないこと、発射口を割れたり壊れたりする危険のあるもの(ガラス、蛍光燈、電球、家庭用電化製品、茶碗、皿、家具、自動車、ガスボンベその他)には決して向けないことといった注意が記載されていた。

以上のとおり認められる。この点、乙第一一号証(別事件における訴外渉の本人調書)には、訴外渉及び同簡が別紙見取図の西側のたんぼに向けて空気銃を撃っていたところ、訴外渉が空気銃の弾が残っていないかどうかを確認するために道路の方に向き直って、地面に向けて撃ったところ、弾が残っていて地面に当たった弾が眺ね返り、原告車両にあたったのであり、原告車両のどこに当たったかはわからないという趣旨を述べる部分がある。しかしながら、いったん地面に当たって眺ね返った弾が窓ガラスに当たって運転を誤らせるような衝撃音を発するとは考えがたいし、自動車は、金属、ガラス、FRP等種々の材料から構成されており、材料如何により弾が当たったときの音は異なると想定されることに照らすと、原告車両のどこに当たったかはわからないが、ともかく車に当たったような音がしたから車に当たったと判断したという趣旨の供述部分は信用できない。他に前認定を左右するに足りる証拠はない。

2  自動車を運転している過程において、ガラスが割れるかのような衝撃音が発生する事態は通常考えがたいことに照らすと、走行中の自動車のガラスに異物を当てガラスが割れたかのような衝撃音を生じさせるという行為は、運転者がこれに驚き運転を誤る可能性の高いものということができる。それゆえにこそ、前記使用説明書には、人や車が通る場所では決して発射しないこと等の注意書きが記載されているのである。したがって、訴外渉は、空気銃を発射しようとする場合には、弾の発射される方向に走行中の車両が存在しないかどうかに十分な注意を払い、安全を確認してから発射すべき注意義務があったというべきである。ところが、右認定事実によれば、訴外渉は、原告車両を狙って空気銃を発射したかどうかはともかく、少なくとも原告車両が通過することを認識しながら、右注意義務を怠って空気銃を発射したものであり、本件事故は右過失行為のために起きたものであると認められる。しかしながら、その反面において、原告車両の後部ガラスは弾が当たったことによって実際には割れてはいないこと(この意味で、実際にガラスが割れる衝撃があった場合と本件とを同視することはできない。)、原告健太郎としても、原告車両に何らかの異常を感知した場合には、ブレーキをかけ、安全を確認してから、原因を調査すべきであったにもかかわらず、後部ガラスに衝撃音を聴いてから後ろを振り返り約三〇メートル以上も走行して電柱に衝突したこと(原告佐々木健太郎本人)、前記事故態様によれば、原告健太郎は時速約二〇キロメートルで走行していたのであるから、比較的容易に停止することができたはずであることに照らすと、原告健太郎にも事故を回避するための措置について不適切な面があったというべきである。したがって、本件においては、前認定の一切の事情を斟酌し、六割の過失相殺を行うのが相当である。

また、被告吉野亮及び同吉野文美子が訴外渉の監督義務を怠らなかったことを認めるに足りる証拠はないから、被告吉野亮及び同吉野文美子の免責の抗弁は理由がない。

以上によれば、被告吉野亮及び同吉野文美子は、原告らに対し、民法七一四条一項に基づき、不真正連帯債務を負うことになる。

これに対し、前認定事実によっても、訴外簡の過失を根拠づける事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もないから、原告らの被告有村勝及び同有村智子に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

二  争点3について(原告健太郎の損害額)

1  証拠(甲二1、2、七)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告健太郎(昭和五一年一二月一〇日生)は、本件事故当時、「炭火焼鳥ひょうたん屋」においてアルバイトに従事していた。原告健太郎は、本件事故により、左前頭部打撲裂傷の傷害を負い、救急車にて協立病院に搬送され、同病院に平成九年三月二七日と同月二八日通院し、同月二九日からは、にしうら内科外科クリニックに転医し、同年七月三〇日まで通院を継続していたが、同日をもって頭部・顔面部に長さ約五センチメートルにわたる醜状を残して症状固定と診断された(実通院日数合計八日)。

2  損害額(過失相殺前の損害額)

(一) 治療費(診断書代含む) 三万九四八〇円

原告健太郎は、本件事故による傷病の治療費として、三万九四八〇円を要したと認められる(甲三1ないし6)。

(二) 休業損害 一万七八五〇円

原告健太郎は、平成九年三月二七日から二九日までの三日間アルバイトを休み、そのため二一時間分のアルバイト料一万七八五〇円を受けることができず、同額の損害を被ったものと認められる(甲八)。

(三) 通院慰謝料 一六万円

原告健太郎の傷害の程度、通院状況等を考慮すると、右慰謝料は一六万円が相当である。

(四) 後遺障害慰謝料 九〇万円

原告健太郎の後遺障害の内容・程度を考慮すると、右慰謝料は九〇万円が相当である。

3  過失相殺後の金額 四四万六九三二円

以上掲げた原告健太郎の損害額の合計は、一一一万七三三〇円であるところ、前記一の次第でその六割を控除すると、四四万六九三二円となる。

4  弁護士費用 五万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告健太郎の弁護士費用は五万円を相当と認める。

5  まとめ

よって、原告健太郎の損害賠償請求権の元本金額は四九万六九三二円となる。

三  争点4について(原告忠彦の損害額)

1  損害額(過失相殺前の損害額)

(一) 買替差額費 一八万円

証拠(甲五、一〇)及び弁論の全趣旨によれば、原告車両は本件事故後、助手席側のドアが開かなくなってしまったこと、本件事故によって廃車処分にされたことが認められるから、原告車両の受けた損傷はいわゆる全損であったものと推認される。そして、原告車両が平成元年度登録のトヨタマークⅡ(一八〇〇cc)であること(甲四2、五)、同車両の法定耐用年数が六年であること(当裁判所に顕著)にかんがみると、本件事故当時における原告車両の時価は少なくとも一八万円はあったものと推認されるから、原告車両の被った損害としては、一八万円の限度で認められる。

(二) 代車使用料 一七万四〇〇〇円

前認定のとおり、原告車両は全損であるが、新たな車両を購入し、納入されるまでの相当期間としては、一四日間をもって足りると解するのが相当である。そして、原告車両が平成元年度登録のトヨタマークⅡ(一八〇〇cc)であったことにかんがみれば、初日一万八〇〇〇円、その後一日あたり一万二〇〇〇円程度の料金を要するレンタカーを借りることで十分であったと認められる。したがって、代車使用料は、一七万四〇〇〇円の限度で認めるのが相当である。

(計算式) 18,000×1+12,000×13=174,000

(三) レッカー代 一万五四五〇円

原告忠彦は、原告車両のレッカー代として、一万五四五〇円を要したと認められる(甲四2)

(四) 登録手続関係費 八三〇〇円

原告忠彦は、原告車両の抹消登録費用として、八三〇〇円を要したと認められる(甲四1)

2  過失相殺後の金額 一五万一一〇〇円

以上掲げた原告忠彦の損害額の合計は、三七万七七五〇円であるところ、前記一の次第でその六割を控除すると、一五万一一〇〇円となる。

3  弁護士費用 二万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告忠彦の弁護士費用は二万円を相当と認める。

4  まとめ

よって、原告忠彦の損害賠償請求権の元本金額は一七万一一〇〇円となる。

四  結論

以上の次第で、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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