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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)8388号 判決 1998年7月24日

原告

石川初枝こと方元善

被告

藤山政吉こと金政吉

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金八九四万四八五四円及びこれに対する平成七年九月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(本件事故)

(一)  日時 平成七年九月二四日午後五時五〇分ころ

(二)  場所 大阪市生野区勝山南四丁目六番五号先路上

(三)  原告車両 原告運転の自転車

(四)被告車両 被告運転の普通乗用自動車(なにわ三三て九三六五)

(五)  態様 原告が原告車両に乗り信号機の設置された交差点を、北から南へ向かい横断中、東から西へ向かい走行してきた被告車両と原告車両が衝突した。

2(責任)

被告は加害車両の保有者として自動車損害賠償保障法三条により、原告の損害を賠償する責任がある。

3(傷害、治療経過、後遺障害)

(一)  原告は、本件事故により、左脛骨外顆関節陥没骨折、左膝高原骨折等の傷害を受けた。

(二)  原告は、右傷害のため、次のとおり入通院治療を受けた。

(1) アエバ外科病院

平成七年九月二四曰、同月二五日通院

(2) 育和会記念病院

平成七年九月二五日から同年一二月一〇日まで入院七七日間

平成七年一二月一一日から平成八年五月一三日まで通院(実治療日数五一日)

(三)  原告には、本件事故により左膝に後遺障害が残り、自賠責保険により一二級一二号の認定を受けた。

4(損害)

(一)  治療費 三七万三五五三円

(二)  入院雑費 一〇万〇一〇〇円

1300円×77日=10万0100円

(三)  休業損害 二八三万一四一七円

原告は、主婦業とともにパートとしてタレックス光学工業株式会社に勤務していたが、その収入は賃金センサスを下回るので、基礎収入は賃金センサスによる。

賃金センサスによれば、原告の年収は四一一万七四〇〇円であり、平成七年九月二四日から平成八年五月一三日までの二五一日間休業したので、原告の休業損害は、二八三万一四一七円となる。

411万7400円÷365日×251日=283万1417円

(四)  入通院慰謝料 一四〇万円

(五)  逸失利益 四五七万九七八四円

年収 四一一万七四〇〇円

就労可能年数 一〇年

411万7400円×0.14×7.945=457万9784円

(六)  後遺障害慰謝料 二三〇万円

(七)  合計 一一五八万四八五四円

5(弁護士費用) 八〇万円

よって、原告は被告に対し、自動車損害賠償保障法三条による損害賠償請求権に基き、損害合計一二三八万四八五四円から既払金三四四万円を控除した残額金八九四万四八五四円及びこれに対する本件事故の日である平成七年九月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3は知らない。

3  同4(一)、(二)は認める。

同4(三)は争う。

原告は、子どもたちから仕送りを受けながらパート勤めをしており、休業で損害を受けたのはパート収入である。

パート収入は、事故前三か月の合計が三九万五三六八円であり、日額に換算すれば、四三七三円である。

平成七年九月二五日から入院期間の七七日はその一〇〇パーセント、通院実日数五二日を五〇パーセントの休業損害が生じたと考えると、その額は四三万五一一三円となる。

同4(四)は認める。

同4(五)は争う。

損失の填補の趣旨より 事故前の実収入により算定すべきである。

後遺障害の保護期間としては、子どもらの助けがあることから、必ずしも今後長期間就業するとは考えられない。また、神経症状が主訴であることから、労働能力喪失期間は五年とするのが妥当である。

すると、逸失利益は、九六万六二一六円となる。

同4(六)は争う。

4  同5は争う。

三  抗弁

1  (過失相殺)

被告進行の東西道路は、中央分離帯のある優先道路であり被告進行方向の交差点の信号は青色表示であった。

原告進行道路は、一時停止線のある狭路である。更に、東西道路を原告が横断するには、信号に従い、自転車通行帯を通らなければならないが、原告は赤信号にもかかわらず、漫然と搭乗して自転車通行帯を通らず、交差点を北から南に向かったものである。

横断歩道を自転車に乗らずに進行すべき原告の過失は八割を下らない。

2  (損害填補)

三四四万円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

本件事故の態様は、原告が原告車両に乗り信号機の設置された交差点を、信号に従い北から南へ向かい横断中、東から西へ向かい走行してきた被告車両が信号を無視して原告車両に衝突させたものである。

2  同2は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故)、2(責任)は当事者間に争いがない。

二  請求原因3(傷害、治療経過、後遺障害)

1  証拠(甲三、七)によれば、原告は、本件事故により左脛骨外顆関節陥没骨折、左膝高原骨折の傷害を負ったことが認められる。

2  証拠(甲二、三、七)によれば、原告は、本件事故による傷害の治療のために、次のとおり入通院したことが認められる。

(一)  医療法人アエバ会アエバ外科病院(大阪市生野区勝山南四-六-五)

平成七年九月二四日、同月二五日通院

(二)  医療法人育和会記念病院(大阪市生野区巽北三丁目二〇番二九号)

平成七年九月二五日から同年一二月一〇日まで入院七七日間

平成七年一二月一一日から平成八年五月一三日まで通院(実通院日数五一日)

3  後遺障害

証拠(甲三、五ないし七)によれば、原告は、平成八年五月一三日、症状固定したが、後遺障害として、自覚症状は、両手の知覚異常、左膝痛、五ないし一〇分歩くと跛行する、正座不能、右目が見えにくい、他覚症状等は、頸椎のC5\6に狭小化、両手の知覚鈍麻、左大腿・左下腿に軽度の筋萎縮があり、左大腿部に約二五センチメートルの手術痕があり、自動車保険料率算定会により後遺障害等級一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)と認定されたことが認められる。

三  請求原因4(損害)

1  治療費 三七万三五五三円

当事者間に争いがない。

2  入院雑費 一〇万〇一〇〇円

当事者間に争いがない。

3  休業損害 一二五万五七七六円

証拠(甲四、原告本人)によれば、原告(昭和九年一二月一七日生。本件事故時満六〇歳)は、本件事故当時、タレックス光学工業株式会社においてメガネ加工業のパートタイマーとして勤務していたが、本件事故により平成七年九月二五日から平成八年一月三一日まで休業し、平成七年七月一日から同年九月二四日まで(八六日間)の給与は合計三八万九四二八円(日額四五二八円。一円未満切り捨て。以下同じ。)であったこと、原告の二男(三五歳)と原告の母(八六歳)と同居して生活し、生活費は右収入の他に長男及び二男からも支出してもらい、原告が同居家族の家事を分担していることが認められる。

右の事実からすると、原告の休業損害の算定については、賃金センサスによる女子労働者の平均給与額によるべきであるから、平成七年度賃金センサス産業計・企業規模計・女子労働者の六〇歳から六四歳までの年間給与額二九六万六九〇〇円を基礎にその日額を計算すると、八一二八円となる。

入院期間の七七日間(平成七年九月二五日から同年一二月一〇日まで)は一〇〇パーセント、その後の通院期間一五五日間(平成七年一二月一一日から平成八年五月一三日まで)は五〇パーセントの就労不能による休業損害が生じたものと認めるのが相当であるから、原告の休業損害は、次の計算式により一二五万五七七六円となる。

8128円×(77日+155日/2)=125万5776円

4  入通院慰謝料 一四〇万円

当事者間に争いがない。

5  逸失利益 三三〇万〇〇八二円

原告の逸失利益の算定の基礎とすべき額は、前記のとおり賃金センサスによる年収二九六万六九〇〇円であり、原告は症状固定時(平成八年五月一三日)から一〇年間就労可能であり、前記認定の原告後遺障害の部位、程度によれば、労働能力喪失率は一四パーセントと認めるのが相当であるから、原告の逸失利益の症状固定時の現価を新ホフマン式計算法により算定すると、次の計算式により三三〇万〇〇八二円となる。

296万6900円×0.14×7.945=330万0082円

6  後遺障害慰謝料 二三〇万円

前記認定の原告の後遺障害の部位、程度によれば、後遺障害慰謝料は二三〇万円と認めるのが相当である。

7  以上を合計すると八七二万九五一一円となる。

四  抗弁1(過失相殺)

証拠(乙一、二、検乙一ないし一二、証人東芳幸、原告本人、被告本人)によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、市街地で、歩車道の区別があり、中央分離帯が敷設されている東西道路(西行車線が二車線、東行車線が三車線〔ただし、本件事故現場の交差点の西側は二車線〕)(以下「本件東西道路」という。)に北側から幅員五メートルの道路が、南側に幅員四・五メートルの道路が交差する信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)であり 右北側から交差する道路(以下「本件北側道路」という。)は北から南に向けての一方通行で、本件交差点手前に一時停止規制があり、車両の南行横断・西行右折禁止(車両左折のみ)の規制がなされ、本件東西道路は指定最高速度を時速五〇キロメートルに制限され、本件東西道路の本件交差点西側には横断歩道が敷設されている(本件事故当時は自転車横断通行帯は設置されていなかった。)(別紙現場見取図記載のとおり。以下地点を示す場合は同図面による。)。

本件東西道路の中央分離帯上には高さ一メートルのフェンスが設置されており、東から本件交差点に進入する車両からは右側の見通しが悪い状況である。

2  本件交差点の本件東西道路の車両用信号機と本件交差点西側に敷設された横断歩道の歩行者用信号機の表示周期は、一周期九〇秒で、車両用信号機の表示は青五〇秒、黄三秒、赤三三秒、全赤四秒の周期であり、歩行者用信号機の表示は青二四秒、青点滅六秒、赤五六秒、全赤四秒の周期である。

3  被告は被告車両を運転して、本件交差点の東側にある大池橋交差点を左折して、本件東西道路に入り、すぐ(<1>地点)に本件交差点の車両用信号機が赤色表示であることを確認し、減速しながら本件交差点に向かい、本件交差点手前(<2>地点)で対面の車両用信号機が青色表示に変わるのを見てアクセルを踏んで加速し、本件交差点を通過しようとしたところ、<3>地点で進行方向右から進行してきた原告車両(<ア>地点)を右前方約四・二メートルに発見し、急制動の措置を講じたが間に合わず、<×>地点で衝突した。

4  原告は、原告車両に乗り、本牛北側道路を北から南に向かい進行し、本件交差点の手前において、本件交差点の西側に敷設された横断歩道の歩行者用信号機が青色点滅表示であることを確認し、そのまま本件交差点を横断しようと進行し(横断開始直後に右信号機は赤色表示となったものであるが、原告は右表示の変更を見ていない。)、<×>地点で被告車両と衝突した。

原告は、右衝突するまで被告車両に気づかなかった。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

なお、原告本人尋問の結果中には、原告は本件北側道路の本件交差点手前に敷設された一時停止線で停止した旨の供述部分があるが、証拠(証人東芳幸)によれば、本件事故後原告は警察官の事情聴取に対しては一時停止線で停止した旨を述べていないことからして、そのままには採用できない。

右に認定の事実によれば、原告としては、本件東西道路を南北横断するには、本件交差点西側に設置された横断歩道上を原告車両を押して横断すべきものであったのであり、しかも本件交差点手前で歩行者用信号機は青色点滅表示であったのであるから横断を控えるべきものであったことからすると、本件事故の原因の大半は原告にあるものというべきであり、これに被告の進路右側の安全確認不十分の過失を考慮すると、本件については、原告の損害額から七割を過失相殺すべきである。

よって、前記八七二万九五一一円からその七割を控除すると、二六一万八八五三円となり、原告が被告に対し本件事故による損害賠償として請求しうる損害額は右額である。

五  抗弁2(損害填補)(三四四万円の支払)は当事者間に争いがない。

すると、前記原告が被告に請求しうる損害額は二六一万八八五三円であるから、右については、既に填補済みということになる。

六  よって、その余の点について判断するまでもなく原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉波佳希)

現場見取図

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