大阪地方裁判所 平成9年(ワ)8788号 判決 1998年9月08日
原告
川口幸三
被告
渕上治則
主文
一 被告は、原告に対し、一六一万八一七五円及びうち一四六万八一七五円に対する平成七年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その八を原告の負担の、その余を被告の負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、九四六万五二〇二円及びうち八六六万五二〇二円に対する平成七年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、自転車に乗って停止中、被告の運転する自動二輪車に衝突されて負傷したなどとして、民法七〇九条に基づき損害の賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
以下のうち、1、2、3(一)は当事者間に争いがない。3(二)は乙一により認められる。
1 被告は、平成七年一二月二九日午後〇時五〇分ころ、自動二輪車(一大阪ぬ四七一二、以下「被告車両」という。)を運転して、大阪市寝屋川市寿町六〇番二八号先(旧国道一七〇号線)の信号機により交通整理の行われているT字型交差点(以下「本件交差点」という。)を西から東へ向けて進行するにあたり、同所歩道上を信号待ちのため停止していた原告の乗っていた自転車(以下「原告自転車」という。)に被告車両を衝突させた(以下「本件事故」という。)。
2 本件事故は、被告の過失によって発生した。
3 原告は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から左記の金額の合計三二三万〇一六〇円の支払を受けた。
(一) 後遺障害分 二二四万〇〇〇〇円
(二) それ以外 九九万〇一六〇円
二 (争点)
原告の損害
1 原告の主張
原告は、本件事故により、左前胸部打撲、左第七ないし第一〇肋軟骨挫傷、左下腿打撲、左足関節打撲等の傷害を負い、結局、左肋骨の変形及び疼痛、左足関節知覚鈍麻の自賠法施行令二条別表障害別等級表(以下「等級表」という。)一二級該当する後遺障害を残し、次の各費用の損害を受けた。
(一) 治療費及び文書料 二一万七七六〇円
(二) 入院雑費 三万七五〇〇円
(三) 交通費 五万三五二〇円
(四) 休業損害 一〇二万六〇〇〇円
(五) 入通院慰藉料 一八〇万〇〇〇〇円
(六) 後遺障害慰藉料 二七〇万〇〇〇〇円
(七) 逸失利益(後遺障害残存期間五年間で計算) 五七七万三五七二円
(八) 物損(自転車及び衣服) 六万〇〇〇〇円
(九) 弁護士費用 八〇万〇〇〇〇円
2 被告の主張
原告は公務員なので、休業損害や後遺障害による逸失利益はない。入院の必要性もないか、少なくとも一週間程度である。原告の症状固定は遅くとも平成八年三月末である。
第三争点に対する判断
一 前記第二の一の事実、証拠(甲四ないし七、一四、乙二ないし四、五1、2、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば(個別に標記したものはそれによる。)、以下の事実が認められ、右証拠中、右認定に反する部分は採用することができない。
1 原告は、昭和二一年一月一五日生まれの男性で、本件事故当時は四九歳で、寝屋川市水道局に勤務していた技術者であり、工事そのものを担当することはないが、仕事上、マンホールの中を調べる必要があり、そのため、自分でマンホールの蓋を開ける必要があった。
2 原告は、本件事故により路面に転倒して、左前胸部打撲、左第七ないし一〇肋軟骨挫傷、左下腿打撲、左足関節打撲の傷害を負い、救急車で寝屋川ひかり病院に搬送され、同病院で治療を受けたが、原告の家族の希望で、同日、医療法人協仁会小松病院(以下「小松病院」という。)に転院し、同病院に、平成七年一二月二九日から平成八年一月二二日までの間入院(入院期間二五日)し、その後平成九年一月一八日(実治療日数四八日、総通院日数五五日間。乙一によれば、原告主張の総通院日数五七日のうち、一日はポプラ薬局に、一日は関西医大病院に行ったと認められる。)まで通院した。
3 原告が小松病院に入院することになったのには原告本人からの子供が小さいので自宅での安静治療が難しいという希望もあった(乙三の看護記録部分)などからであった。同病院の看護日誌では「家での安静もOK」となっていた。また、同病院での原告の左前胸部のレントゲン検査の結果もはっきりせぬ程の軟骨の骨折であったし(右同)、同病院での治療も当初より保存的治療をしていただけであった。同病院では原告の退院前日の平成九年一月二一日には原告に対し、放置すれば自然治癒すると説明していた(右同)。しかしながら、治療を担当した西田豊医師(以下「西田」という。)は、専門的見地から原告の入院は必要であったと判断し(乙五2)、また、一般的にも一般成人の肋骨骨折後の固定に要する期間は三ないし四ヶ月はかかるという見解を示していた(右同)。西田は、平成八年九月一一日診断の後遺障害診断書と平成九年一月二七日診断の後遺障害診断書を作成し、平成八年の後遺障害診断書では症状固定日が空欄の、平成九年の後遺障害診断書では症状固定日が平成九年一月二七日と記載したが、西田は、右のような後遺障害診断書を作成したのは、平成八年九月一一日時点では、左前胸部痛、左下腿部痛が改善しているも、体動時に痛みがあることから、症状の固定しているかどうか判断できる状態でなかったためであると判断したからであった(右同)。さらに、原告には、左下腿部打撲による細かい神経損傷もあった(乙二の転棟退院時看護総括表部分)。西田は、右平成九年の後遺障害診断書で後遺障害として左前胸部に軽度の変形と疼痛が、左足関節に知覚鈍麻が残存したと診断していた。また、小松病院の看護日誌には、「悪い所は今のうちに言っておこうと思っているのかもしれない。」という記載があった(乙三の看護日誌部分)が、平成九年一月二九日以前では、原告には治療すべき持病は認められず、実際、同日以前の治療では、本件事故による傷害の治療しかされていなかった。
4 原告は、被告の自賠責保険担当の安田火災海上保険株式会社に後遺障害についての被害者請求をしたところ、同社は、平成八年一二月一九日付文書で、レントゲン上肋骨骨折の転移等はみられず、自賠責保険上の変形基準に至らないこと、疼痛についても改善傾向にあり、体動時痛とのことですが、訴え症状の将来的残存性を裏付ける有意な神経学的異常所見に乏しく非該当と判断した(乙一の自動車損害賠償責任保険お支払不能のご通知部分)が、前記平成九年の後遺障害診断書作成後の原告の異議申立てによる再判断では、平成九年六月一二日付文書で左肋骨の変形により等級表第一二級五号の判断に変えた。
二 以上から次のことがいえる。
原告は、本件事故により、左前胸部打撲、左第七ないし一〇肋軟骨挫傷、左下腿打撲、左足関節駄打撲の傷害を負い、平成九年一月二七日に症状が固定したが、総合して等級表第一二級に該当する左肋骨の変形(第一二級五号)、左前胸部の疼痛(第一四級一〇号)及び左足関節に知覚鈍麻(第一四級一〇号)の後遺障害が残り、それが少なくとも五年間は残存したものと認められる。
三 右を前提にすると、原告は、本件事故により次のとおりの損害賠償を取得したと認められる。
1 治療費及び文書料 二一万五五九〇円
証拠(甲一〇、一二、一三)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、治療費として二〇万九五四〇円並びに文書料として事故証明書及び印鑑証明書取付費用分九〇〇円、小松病院の後遺障害診断書分としての五一五〇円の合計二一万五五九〇円を負担したことが認められるが、原告主張のそれ以上の支出の主張については、本件事故との関連を認めるに足りる的確な証拠はないので、採用しない。
2 入院雑費 三万二五〇〇円
弁論の全趣旨によれば、原告は、小松病院に入院中の二五日間に、一日当たり一三〇〇円を下らない雑費を支出したものと認められるところ、右合計は三万二五〇〇円となる。
3 交通費 二万三五二〇円
乙一(通院交通費明細書部分)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成八年二月三日から平成九年三月一五日までの五五日間、バスで小松病院に通院し、そのために一日当たり四二〇円、合計二万三一〇〇円を支出し、乙一(通院交通費明細書部分)及び弁論の全趣旨によれば、一日間、ポフラ薬局にバスで行き、バス代四二〇円を支出したことが認められ、弁論の全趣旨から、右も本件事故と関連のある交通費と認められるので、合計二万三五二〇円となる。
4 休業損害 〇円
乙一の休業損害証明書部分及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により平成七年一二月二九日から平成九年三月一五日までの間二一日間欠勤したが、右欠勤期間中の給与は全額支給されているから休業損害は認められない(有給休暇利用日数六日分は慰藉料で斟酌する。)。
5 逸失利益 一〇二万六七二五円
甲一四及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、寝屋川市水道局に勤務していた技術者であり、工事そのものを担当することはないが、仕事上、マンホールの中を調べる必要があり、そのため、自分でマンホールの蓋を開ける必要があったが、前記認定の後遺障害の左前胸部の疼痛のため、胸に力の入れる必要のある前記マンホールの蓋を開けることが困難な状態にあり、今は代わりの人に右蓋を開けてもらっているが、いつまでも代わってもらえるか、そのため勤務評価が落ちるのではないかとの不安がある状態にあることが認められ、右事実からすると、原告は公務員ではあるが、一般事務職と違い水道局の技術職で、マンホールの中の調査はその職務上の要素になっているといえるので、それが右疼痛のため十分にできないことはその後の技術職としての勤続期間や昇給に影響するなどのことが考えられるが、他方公務員であることや原告も前記左前胸部の疼痛の後遺障害があっても十分に技術職として他にもこなせる仕事もあると考えられるから、これらを総合し、原告は、前記左前胸部の疼痛の後遺障害により症状固定時から五年間にわたり労働能力の二・五パーセントを喪失したものと認められる。なお、前記認定の肋骨の変形及び左足関節に知覚鈍麻は、原告の仕事の支障になると認めるに足りる的確な証拠はないので、これらをもとにした逸失利益は認めることはできない。そこで、甲八により認められる本件事故の前年度の年収入九四一万〇八六七円を基礎とし、右期間に相当する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除すると、原告の逸失利益の本件事故時の現価は、次のとおり一〇二万六七二五円となる(円未満切捨て。)。
計算式 9,410,867×0.025×4.364=1,026,725
6 慰藉料 三四〇万〇〇〇〇円
本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件事故によって受けた精神的苦痛を慰藉するためには、三四〇万円をもってするのが相当である。
7 物損 〇円
原告は、本件事故により、自転車及び本件事故当時着用していた衣服の損害を主張するが、損害の程度及び残存価値または再調達価格の確定のための証拠も含めこれを認めるに足りる的確な証拠がないので、右損害の主張は採用できない。
三 結論
以上によると、原告の損害は四六九万八三三五円となるところ、原告が自賠責保険から支払を受けた三二三万〇一六〇円を控除すると、残額は一四六万八一七五円となる。
本件の性格及び認容額に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は一五万円とするのが相当であるから、結局、原告は、被告に対し、一六一万八一七五円及びうち一四六万八一七五円に対する本件事故の日の翌日である平成七年一二月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 岩崎敏郎)