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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)9015号 判決 1997年12月04日

主文

一  原告が破産者株式会社ニシキファイナンスに対し、別紙手形目録<略>の手形金二億六六八三万九三四〇円の破産債権を有することを確定する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、原告が破産者株式会社ニシキファイナンス(以下「破産会社」という)に対する別紙手形目録<略>の手形金のうち一部弁済を受けた残額である金二億六六八三万九三四〇円の破産債権を有することの確定を求めた事案である。

一  争いがない事実

1  原告は、別紙手形目録<略>の適式な約束手形一六二通及び為替手形一通(あわせて、以下「本件各手形」という。)を所持している。

2  破産会社は、破産前に、手形割引を原因として、原告に対し、本件各手形に拒絶証書作成義務を免除して裏書譲渡した。

3  原告は、本件各手形をいずれも支払呈示期間内に支払場所で支払のため呈示したが、支払がなかった。

4  原告・破産会社間の取引規定により、原告は、破産会社に対し、本件各手形について買戻請求権を有している。

5  破産会社は、平成七年八月一六日破産宣告を受け、被告がその破産管財人に選任された(当庁平成七年(フ)第一七七一号)。

6  原告は、本件各手形につき、被告に対し、平成七年一一月一七日破産債権届出をしたが、被告は、平成九年七月二八日破産債権調査期日において、その全額に異議を述べた。

二  争点

原告が本件各手形金債権について、別除権者であるといえるか。

(被告の主張)

1 破産会社に対する債権が完済されれば、原告は本件各手形を返還すべき義務を負っており、また、本件各手形が不渡りとなれば、原告は被告に対し買戻請求をなしうるのであるから、原告のした本件各手形の割引行為は、その実質において、商業担保手形貸付と同じであり、原告は担保目的で本件各手形の所有権を有しているに過ぎない。したがって、原告は破産財団に属する本件各手形上に、担保目的でその所有権を有しているというべきである。

2 原告・破産会社間の取引約定によって、原告が占有する複数枚の手形は、相互に他の手形の買戻請求権の担保となっており、特定の手形について、破産会社に対する債権が完済されても、原告は他の手形の買戻請求権の担保として、当該手形を引き続き占有しうることなっている。

3 破産会社は、手形貸付や手形割引による金融を業としていたものだが、顧客に対して貸付を行う際に、額面合計が貸付額の数倍に及ぶ複数の手形を振り出させ、これらを顧客に無断で換金し、破産会社において各満期までに決裁資金を準備するという方法で資金繰りを行っていた。しかし、その倒産により、破産会社の顧客は、破産会社の手形再割引先からの手形金請求を受けることになり、その原因関係なき手形金を支払えば、破産会社に対し、不法行為による損害賠償請求権を取得することになる。ここで、原告など、破産会社の手形再割引先の金融機関が別除権者でなく、一般債権者であると仮定すれば、破産債権届出後、手形の振出人等から手形金の支払を受けても、その受領した範囲で破産債権届を取り下げる必要がないことから、前記損害賠償請求権分、破産債権が増大することになるという矛盾を生じ、実質的に不当である。

4 原告など、破産会社の手形再割引先の金融機関が別除権者であると解しても、振出人等、破産会社以外の手形債務者から現状以上に取立ができないと判断すれば、これらの者に対する手形金請求権を放棄することによって、一般債権者として配当に与りうるのであるから、不都合はない。他方、振出人等、破産会社以外の手形債務者から現状以上に取立ができると判断した手形については、将来これらの者から全額回収する可能性がある以上、二重に債権回収を生じないようにしている破産法の仕組から、原告が破産財団からの配当に与らなくてもやむを得ない。

5 以上によれば、原告の被告に対する本件各手形金債権は、別除権付債権として取り扱わざるを得ない。

第三  争点に対する判断

一  被告の主張1について

被告主張のとおり、破産会社に対する債権が完済されれば、原告は本件各手形を返還すべき義務を負っており、また、本件各手形が不渡りとなれば、原告は被告に対し買戻請求をなしうるのであるから、原告のした本件各手形の割引行為は、その経済的作用において、商業担保手形貸付に類似する。しかしながら、手形割引はその本質において手形の売買であって、本件各手形の所有権は完全に破産会社から原告に移転済みであり、原告はこれらを全く自由に処分できるのだから、もはや破産財団に属する財団とはいえない。破産会社が本件各手形金債務を弁済した場合、原告が本件各手形を返還すべき義務を負うというのは、手形の受戻証券性によるものであり、本件各手形が不渡りとなれば、原告は被告に対し買戻請求をなしうるというのは、取引約定上の原告の権利であって義務ではなく、いずれも、手形割引後、依然として破産会社が本件各手形に何らかの権利を有していることを意味しない。

二  被告の主張2について

被告は、原告・破産会社間の取引約定によって、原告が占有する複数枚の手形は、相互に他の手形の買戻請求権の担保となっており、特定の手形について、破産会社に対する債権が完済されても、原告は他の手形の買戻請求権の担保として、当該手形を引き続き占有しうることなっていると主張するが、被告の援用する取引約定の規定は、取立委任手形等、原告が占有する破産会社所有の手形等を担保となし得る趣旨の規定であって、割引手形を対象とすると解するのは規定の本来の目的に必ずしも合致すると言い難いところであるが、仮にこれらの規定が被告主張のとおり割引手形に適用されるとしても、割引手形が原告の完全な所有物たることをやめて担保手形となるのは、当該手形金債務弁済後のことであるから、本件各手形中に破産会社が手形金債務を弁済済みの手形が包含されていると認められない以上、被告の主張は前提を欠く。

三  被告の主張3、4について

1  そもそも手形権利者は、振出人、裏書人等の手形債務者のうち一名が破産した場合には、破産した手形債務者に対する関係で手形金全額をもって破産債権届をし、その配当後の残額全部をさらに他の手形債務者に請求することができるのであって、破産債権届をする前提として、他の手形債務者に対する債権放棄をする義務は存しない。そのような意味で、複数の全部義務者がいる債権について、破産法は抽象的な二重回収の危険を絶対に避けなければならないものとしていないことは明らかである。

なるほど破産会社が、顧客に対して貸付を行う際に、額面合計が貸付額の数倍に及ぶ複数の手形を振り出させ、これらを顧客に無断で換金し、破産会社において各満期までに決済資金を準備するという方法で資金繰りを行っていたものの、その倒産により、破産会社の顧客は、破産会社の手形再割引先から手形金請求を受けることになり、人的抗弁切断ゆえにその原因関係なき手形金の支払を余儀なくされているのは公知の事実であるが、破産会社のそのような行為のゆえに、原告の権利行使の方法が制約されるいわれはない。

2  また、破産会社が不正に取得した顧客の手形は、法的には破産会社から当該顧客に対し返還されるべきものであって、破産会社に属していた財産とはいえない。したがって、破産会社が顧客に無断でこれを換価することで得た金銭は、破産会社が当該手形の買戻ないしは受戻をしない限り、手形債務を負担した当該顧客に対し、当該手形の返還に代えて、損害賠償ないしは不当利得返還として支払われなければならなかったものと解される。しかるにここで、被告主張のように、破産会社によって手形を不正に換価された顧客の不法行為債権の破産債権届は、現実に支払った手形金の限度でしか認められず、かつ、手形債権者は、別除権者として扱われるのであれば、そのような顧客に対する手形金請求を手形権利者が維持し、かつ、当該顧客が手形金の支払を拒んでいる限り、不正な利益によって増大した破産会社の財産からの出捐が全くないことになる矛盾を生じる。

しかし、手形を不正に換価された顧客の立場から見れば、当該手形金請求につき、破産会社が相手方であれば人的抗弁をもって対抗できるのであるから、自己が手形金全額を支払うよりも、先ず不正行為によって蓄財された破産会社の財産からの配当によって手形債権者に手形金を一部なりとも支払わせ、その残額の限度で手形金を支払うことを望むのは自然であり、そのような解決が条理に適うものであることも多言を要しない。これに対し、被告の主張に沿う解決は、手形権利者が任意に債権の放棄をしない限り、手形を不正に利用された被害者の犠牲の下に、破産財団の財産を確保する結果となり、衡平を欠くものといわざるを得ない。

3  結局、破産会社の顧客が支払った損害賠償請求権分、破産債権が増大することを回避したいという被告の意図は理解できるものの、そのために原告が本件各手形金債権について、別除権者であると解するのは、実質的にもその回避しようとする不合理よりも、より大きな不合理をもたらすものである。

四  よって、原告が本件各手形金債権について、別除権者であるという被告の主張は採用できない。

第四  結論

以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

(別紙)手形目録<略>

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