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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)9397号 判決 1998年10月30日

原告

本田龍雄

被告

古藤一昌

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金六〇六二万〇七六〇円及び内金五五一二万〇七六〇円に対する平成六年一二月二一日から、内金五五〇万円に対する平成九年一〇月一七日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の負担とし、その九を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金六九三一万九九三〇円及び内金六三〇一万八一一九円に対する平成六年一二月二一日から、内金六三〇万一八一一円に対する平成九年一〇月一七日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、被告らに対し、原告が交通事故により損害を受けたと主張し、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠(弁論の全趣旨)上明らかに認められる事実

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成六年一二月二一日午前一時五〇分ころ

(二) 場所 大阪市淀川区西中島二丁目一四番先路上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(大阪七九の二七六五)

運転者 訴外大形佳弘(以下「大形」という。)

所有者 被告古藤一昌(以下「被告古藤」という。)

保有者 被告株式会社晃鳳建装(以下「被告会社」という。)

(四) 被害者 後部座席に同乗中の原告

(五) 事故態様 大形が加害車両を運転中、ハンドル操作を誤り、高速で道路の側壁に激突し、暴走して、駐車中の普通貨物自動車、ブロック塀などに衝突し、加害車両が大破し、助手席や後部座席に同乗中の原告ら四名が傷害を負った。

2  責任

被告古藤は、加害車両の所有者である。したがって、被告古藤は、自動車損害賠償保障法三条に基づく責任を負う。

被告会社は、被告古藤から加害車両を借り受け、営業用車両として使用していた。大形は、被告会社の営業社員であり、被告会社から、加害車両の使用を委ねられていた。したがって、被告会社は、自動車損害賠償保障法三条に基づく責任を負う。

3  傷害

原告(昭和一五年一〇月九日生まれ、当時五四歳)は、本件事故により、第六、七頸椎脱臼骨折による頸髄損傷、右耳介裂創、頭部外傷Ⅱ型、全身打撲、腰部捻挫などの傷害を負った。

4  治療の経過

(一) 医誠会病院 本件事故直後、搬送された。

(二) 摂津医誠会病院 平成六年一二月二一日から平成七年八月三一日まで入院

(三) 星ヶ丘厚生年金病院 平成七年八月三一日から同年一一月二二日まで入院

(四) 摂津医誠会病院 平成七年一一月二四日から同年一二月六日まで入院、その後平成八年八月三一日まで通院

5  後遺障害

原告は、平成八年八月三一日症状固定したが、次の後遺障害が残った。

自覚症状は、四肢のしびれ、コップで水を飲んだり、ズボン、シャツの脱着が困難、タオル絞りができない、杖歩行であり、二階の昇降には手すりが必要などである。他覚症状は、四肢、駆幹に知覚鈍麻、四肢の腱反射亢進、両手指巧緻運動障害あり、特に左手に著しく、拘縮を伴っている、両上肢筋力は三ないし四、握力右一六キログラム、左二キログラムなどである。

頸椎の運動障害は、前後屈とも三〇度、左右屈とも一〇度、右回旋二五度、左回旋三〇度などである。

自算会は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表五級二号(神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当する旨の認定をした。

6  損害

(一) 治療費 四三八万四三三六円

(二) 通院交通費 一四万九三五〇円

(三) 入院雑費 四五万五〇〇〇円

(四) 松葉杖及び装具 三万七九二〇円

(五) 休業損害 一〇七八万七八九八円

賃金センセス六三六万一二〇〇円(平成六年、産業計、企業規模計、五四歳男子)による一日あたりの金額に六一九日(本件事故日から症状固定日まで)を乗じた一〇七八万七八九八円

(六) 入通院慰謝料 三八五万円

入院期間は約一一・五か月、通院期間は約九か月

(七) 後遺障害逸失利益 四六三〇万九〇八四円

六三六万一二〇〇円に労働能力喪失率七九パーセントを乗じ、中間利息を控除したうえ就労可能年数一二年(ホフマン係数九・二一五一)を乗じた四六三〇万九〇八四円

(八) 後遺障害慰謝料 一三〇〇万円

(九) 弁護士費用 六三〇万一八一一円

7  既払額 一五九五万五四六九円

8  請求額 六九三一万九九三〇円

三  被告らの主張の要旨

1  既往症

原告には、本件事故前から、第三ないし第七頸椎頸域に高度の脊柱管狭窄を伴う重度の後縦靭帯骨化症(脊柱後縦靭帯が骨化変性を起こす疾患で、後縦靭帯は脊柱管腔内に存在し、その骨化、肥厚は脊椎管腔を狭小化し、脊髄圧迫となり、脊髄症となる。)が潜在的に存在した。本件事故前には、頸髄症として、発症していなかったかもしれないが、本件事故を発症機転として後縦靭帯骨化症が顕在化し、重篤な頸髄症が発症した。

原告に高度な後縦靭帯骨化症が潜在的疾患として存在していなかったら、つまり、第六、第七頸椎の軽度の脱臼、骨折だけなら、脊髄の圧迫を伴わないから、本件のような重篤な脊髄症は発症していなかった。

したがって、民法七二二条二項の類推適用により、五割の寄与度減額をすべきである。

2  過失相殺

原告は、大形といっしょに、本件事故前日の午後八時ころから本件事故日の午前一時三〇分まで、はしごをして、飲酒をした。

原告は、はしごをするため移動をする際に、飲酒のうえ、自動車を運転し、最後には、多量の飲酒をしていた大形が運転する加害車両に同乗して、本件事故が発生した。

したがって、原告は、飲酒運転を承知で同乗したのであるから、危険関与型の好意同乗として五割の過失相殺を主張する。

四  中心的な争点

1  既往症

2  過失相殺

第三判断

一  既往症

1  被告らは、原告には、本件事故前から、後縦靭帯骨化症が存在し、本件事故を発症機転として後縦靭帯骨化症が顕在化し、重篤な頸髄症が発症した旨の主張をする。

しかし、これを裏付ける証拠がない。

2(一)  かえって、証拠(乙二、調査嘱託の結果、弁論の全趣旨)によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 摂津医誠会病院整形外科医師は、裁判所からの調査嘱託に対し次のとおり回答した。

原告の傷害の内容は、第七頸椎椎体骨折、第六第七頸椎椎間関節脱臼であり、MRI検査によると、第六第七頸椎レベルで脊髄の圧迫が認められる。後縦靭帯骨化症の有無については、単純レントゲンでは頸椎後縦靭帯に骨化を認め、その領域は第三頸椎レベルから第六第七頸椎レベルであり、その程度はCT検査によると脊柱管占拠率約五〇パーセントの骨化である。本件事故前の発症については、原告から、本件事故による受傷前には頸椎後縦靭帯骨化症の諸症状を有していたとの申告を得ていない。後遺障害に対する寄与については、後遺障害に後縦靭帯骨化の寄与はほとんどないと考える。星ヶ丘厚生年金病院での手術の目的は、脊髄の徐圧であり、その内容は頸椎椎弓形成術である。

(2) 星ヶ丘厚生年金病院整形外科医師は、裁判所からの調査嘱託に対し次のとおり回答した。

原告の傷害の内容は、頸椎レントゲン像では第七頸椎前上方に骨折所見があり、頸椎手術時では第六頸椎と第七頸椎の間に棘上靭帯及び棘間靭帯の断裂が認められた。その際、頸椎不安定性を除くために、第六頸椎と第七頸椎の椎間関節固定と第三頸椎から第七頸椎までの徐圧を目的とした頸椎椎弓形成術を施行した。頸髄中心性損傷の発生機序は、頭頸部の外傷により頸髄損傷が生じ、頸髄の中でもその中心部の神経損傷が著しい。頸椎後縦靭帯骨化症の有無については、頸椎後縦靭帯骨化症が認められ、第三頸椎から第四頸椎及び第五頸椎に及ぶ連続型の後縦靭帯骨化が認められ、また、第一頸椎と第二頸椎にも連続型の後縦靭帯骨化が認められた。その狭窄程度は、第一頸椎と第二頸椎レベルでは約一〇パーセント、第三頸椎レベルでは三〇パーセント、第四頸椎レベルでは三〇パーセント、第五頸椎レベルでは五〇パーセントであった。本件事故前の発症については、本件事故前にはしびれはなかったと述べているから、後縦靭帯骨化症の症状はなかったと考えられる。後縦靭帯骨化症の治療は、頸髄圧迫に関与していたので、除圧を目的とした第三頸椎から第七頸椎までの頸椎椎弓形成術を施行した。後遺障害に対する寄与については、後縦靭帯骨化症の寄与は少ないと考えられ、寄与の割合は不明である。原告に施行された手術の目的と内容は、第三頸椎から第七頸椎までの椎弓形成術と第六頸椎と第七頸椎の間の椎間関節固定術である。

(二)  これらの事実によれば、医師は、後遺障害に対する後縦靭帯骨化症の寄与はほとんどないか、少ないと判断し、寄与の割合も不明であると判断していると認められ、そうであれば、なおさら、既往症がある旨の被告らの主張を認めることはできない。

二  過失相殺

1  証拠(甲二の三、二の四、二の八ないし一三、弁論の全趣旨)によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 河東正剛は被告会社本店の営業課長であり、大形は同社西支店の営業主任であるが、二人は、平成六年一二月二〇日午後八時ころから、大阪市淀川区にあるお好み焼き店で、ビールを飲むなど、飲食をした(大形はビール中ジョッキ二杯を飲んだ。)。河東は、その途中、電話で、直接の部下である営業主任の原告に連絡を取り、いっしょに飲食をしようと誘った。原告は、お好み焼き店を出る直前くらいに、飲食に参加した。同日午後九時四五分ころ、河東の知人から、電話で、スナックで飲もうと誘われたので、河東らは、スナックに移動することにした。大形と原告が自動車を運転して(大形は加害車両を運転して)、スナックに向かった。

(二) 河東、大形、原告、知人らは、同日午後一〇時ころから、大阪市東淀川区にあるスナックで、ブランデーの水割りを飲むなど、飲食を始めた(大形はブランデーの水割り一杯を飲んだ。)。同日一一時ころ、全員で、ほかのスナックに行くことになった。大形が加害車両を運転し、ほか四名は同乗し、スナックに向かった。

河東らは、大阪市淀川区にあるスナックで、ブランデーの水割りを飲むなどして、飲食をした(大形はブランデーの水割り一杯を飲んだ。)。

そして、帰ることになり、同月二一日午前一時三〇分ころ、五人全員でスナックを出て、大形が加害車両を運転し、ほか四名が同乗し、西中島方向に向かった。原告は、加害車両内では、酔いのため寝ていた。

(三) 大形は、加害車両を時速約七〇キロメートルで進行させ(制限速度は時速五〇キロメートル)、助手席の河東をちらちら見て話し続けながら運転していた。

大形は、交差点の手前約七〇メートルの地点で、対面信号が青信号であることを確認し、早く通り抜けようと思い、アクセルを踏んで加速し、時速約九〇キロメートルで進行した。

ところが、その際にも、助手席の河東をちらちら見ながら話に夢中になっていたので、大形が進行道路が右にカーブしていることに気がついたのは、交差点の中央付近に達したときであった。

大形は、このままでは歩道に乗り上げてしまうと思い、びっくりし、狼狽してブレーキを軽く踏みながら、右に急ハンドルを切った。そうすると、加害車両がスリップしてコントロールすることができなくなってしまった。

そして、加害車両は、交差点から約四〇メートル過ぎたあたりで、中央分離帯にぶつかりそうになり、あわててハンドルを左に切った。

そうすると今後は、街路樹にぶつかりそうになり、思い切りブレーキを踏み、その後の加害車両の軌跡は明らかではないが、街路樹に衝突し、駐車場に突っ込み、駐車車両やブロック壁に衝突し、転覆して停止した。

2  これらの事実によれば、本件事故の直接の原因は、大形の前方不注視と速度超過であるが、そのような運転をするに至った原因は、大形が酒気帯び運転をし、正常な判断をすることができなかったからであると認めることができる。

そして、原告は、大形らとともに飲酒し、大形が酒気帯び運転をすることを承知で同乗したと認められるから、原告にも責任があり、損害の公平な分担を図るという趣旨から、原告の損害額を減額することが相当である。

しかし、他方、前記のとおり、本件事故の直接の原因は、大形の前方不注視と速度超過であり、原告はこれに関与していないし、酒気帯び運転についても、飲酒の量が必ずしも多いとまではいえない。したがって、原告の責任は大きいとはいえない。

そうすると、本件では、損害額から一割を減額することが相当である。

三  損害

損害額は、第二、二、6損害の(一)ないし(八)の損害額合計七八九七万三五八八円の九割相当額である七一〇七万六二二九円から、既払額一五九五万五四六九円を控除した五五一二万〇七六〇円である。

また、弁護士費用は五五〇万円が相当である。

したがって、被告らは、原告に対し、各自合計六〇六二万〇七六〇円及び弁護士費用を除いた五五一二万〇七六〇円に対する本件事故が発生した日である平成六年一二月二一日から、弁護士費用五五〇万円に対する本訴状送達の日の翌日である平成九年一〇月一七日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

(裁判官 齋藤清文)

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