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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)9543号 判決 1998年12月15日

原告

荒野こと金一

ほか一名

被告

金村昌弘こと金昌弘

ほか二名

主文

一  被告らは、原告らそれぞれに対し、各自二五四三万〇四九六円及びうち二三一三万〇四九六円に対する平成九年三月三日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告らそれぞれに対し、各自二八七〇万九五〇二円及びうち金二六七〇万九五〇二円に対する平成九年三月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らの子である荒野元学こと金元学(以下「元学」という。)が同乗した被告大原重彦(以下「被告大原」という。)が所有し、被告金村昌弘こと金昌弘(以下「被告金村」という。)の運転する自動車と被告大村奉秀こと康奉秀(以下「被告大村」という。)が運転する自動車との衝突によって、元学が死亡した交通事故に関し、原告らが、被告金村及び被告大村に対し、民法七〇九条、被告大原に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下のうち、原告らと被告金村及び同大原間では、1(信号の色は明らかに争わない。)、4(運行供用の点は乙七、一二及び弁論の全趣旨により認められる。)、5、7は当事者間に争いがなく、6は甲三、四で認められ、原告らと被告大村間では、1(信号の色は明らかに争わない。)、2、3、5、6、7は当事者間に争いがない。

1  被告金村は、元学を同乗させて、平成九年三月一日午後一一時五五分ころ、普通貨物自動車(なにわ四一い八四二〇、以下「被告金村車両」という。)を運転して、大阪市生野区勝山北五丁目七番七号先の対面信号が赤色点滅している交差点(以下「本件交差点」という。)に進入したところ、被告金村車両の右方向から対面信号が黄色点滅で本件交差点に進入した被告大村運転の普通乗用自動車(なにわ三三ゆ二六三七、以下「被告大村車両」という。)と衝突した(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故は、被告金村の過失によって発生した。

3  本件事故は、被告大村の過失によって発生した。

4  本件事故当時、被告大原は、被告金村車両を所有し自己のために運行の用に供していた。

5  元学は、本件事故により平成九年三月二日死亡した。

6  元学死亡当時、原告荒野一こと金一はその父、原告朴英順はその母であった。

7  原告らは、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から三六七一万三六〇〇円の支払を受けた。

二  (争点)

1  本件事故態様(過失相殺は被告金村及び同大原が主張)

原告らの主張 被告大村は、飲酒運転や、最高速度時速二〇キロメートル規制があるのに、時速五、六〇キロメートルで徐行せず本件交差点に進入した過失があり、被告金村は、右方向安全確認を怠った過失がある。

被告金村及び同大原の主張 被告金村には過失がない。元学は、本件事故当時、シートベルト非着用であった。

2  原告の損害

3  好意同乗減額(被告金村及び同大原が主張)

元学と被告金村は中学時代の同級生であり、遊びに行く途中であり、被告金村が本件事故のわずか一一日前に普通免許を取得した事情を元学は知っていた。

第三争点に対する判断

一  事故態様、過失、過失相殺について

1  前記第二の一の事実、証拠(甲一、一三、一九ないし二三、乙一ないし一三)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右証拠中、右事実に反する部分は採用できない。

(一) 本件交差点は、南北に通ずる道路(以下「南北道路」という。)と東西に通ずる道路(以下「東西道路」という。)とが交差する交差点で、南北道路には黄色点滅の対面信号が、東西道路には赤色点滅の対面信号があり、南北道路、東西道路とも交差道路の見通しは良くなく、北東角にはミラーが設置されていた。東西道路は、東行一方通行で、南北道路は北行一方通行であった。南北の最高速度は、時速二〇キロメートルと規制されており、東西道路本件交差点西側には一時停止線が引かれていた。

(二) 被告大村は、平成九年三月一日午後一一時三〇分ころまで、友達とビールを飲んで、足はもつれはしないが顔がほてる程度の少し酔ったくらいの状態になっていたが、別の場所で飲み直すため、右友達数人を同乗させて、被告大村車両を運転して、同日午後一一時五五分ころ、前照灯を下向きに付けて南北道路を南から北へ時速約五八キロメートルで進行し、本件交差点をそのままの速度で進入しようとした時、東西道路西側から、被告金村車両が本件交差点に進入してきたのを発見し、危険を感じて急制動の措置を講じるも、発見した時の両車両の距離が約五・二メートルに過ぎなかったので、避けきれず、本件交差点内で、被告大村車両の前部を被告金村車両右前側面に衝突させた。本件事故一時間四五分後の呼気検査では、被告大村から呼気一リットル中〇・一五ミリグラムのアルコール量が検出された。

(三) 被告金村は、本件事故当時、友人の元学他一名を同乗させて、前照灯を下向きに付けて、時速約二〇キロメートルで西から東に向かって進行していたが、本件交差点の対面信号が赤色点滅であったので、交差道路南側の見通しが悪かったので、軽く減速した程度で本件交差点に進入して、本件事故に遭った。被告金村は、本件交差点に入る手前で北東角に設置してあるミラーで南北道路南側を見たが、被告大村車両に気づかず、衝突してはじめて被告大村車両が分かった。

(四) 元学は、被告金村車両に同乗中、本件事故にあったが、シートベルト非着用であったこともあって、本件事故の衝撃でフロントガラスを突き破って車外に飛び出してしまって(甲二〇、乙四)、死亡するほどの傷害を負ってしまったといえるが、同じ被告金村車両に乗っていた被告金村、磯部匡史もシートベルト非着用であったが、命は助かった。

2  右によると、被告大村は、酒気帯び運転、三〇キロ以上の速度超過、徐行義務違反の過失があるが、被告金村にも右方(交差道路南側)の確認不十分な過失があったといえる。そして、右両者の過失によって本件事故が起こったといえる。また、元学のシートベルト非着用によって損害の拡大した可能性は否定できないが、シートベルトを着用するよう被告金村が求めた事情も認められないだけではなく、被告金村自身もシートベルトを着用していなかったこと、被告金村車両の速度はあまり速くなかったことなどからすれば、元学のシートベルト非着用の事実をもって、被告金村及び被告大原に対する損害賠償請求権を減額する事由としての過失あるいは落度であるとまで考えられない。

二  原告らの損害について

右を前提にすると、元学は本件事故により被告らに対し次の1、2の損害について損害賠償請求権を取得し、原告らは、相続分に従いこれを二分の一ずつの割合で相続したものと認められる。また、弁論の全趣旨によれば、原告らは、3の費用を二分の一ずつ負担し、同額の損害を受けたものと認められる。

1  逸失利益 六三七七万四五九二円(原告らの主張どおり)

甲二ないし四、六、証人山地和明の証言及び弁論の全趣旨によれば、元学は、昭和五四年二月二二日生まれの男子で、本件事故当時一八歳(死亡時も同じ。)であり、潤和工業従業員として配管工事や現場監督の仕事をしており、平成八年一月から同年一二月までの年収が五二二万四〇〇〇円であったので、元学は、本件事故に遭わなければ、一八歳から六七歳までの四九年間就労し、その間に少なくとも前記年収を得ることができたと認められるから、元学の生活費として五割を控除し、右期間に相当する年五分の中間利息を新ホフマン方式により控除すると、六三七七万四五九二円(円未満切捨て、以下同じ。)を下回ることはないと認められる。

計算式 5,224,000×(1-0.5)×24.416=63,774,592

2  慰藉料 一八〇〇万円(原告らの主張 二四〇〇万円)

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、元学が本件事故で死亡したことによって受けた精神的苦痛を慰藉するためには、一八〇〇万円をもってするのが相当である。

3  葬儀費用 一二〇万円(原告の主張 二三五万八〇一三円)

甲一一1、2、一二及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、元学の葬儀を行い、そのために二三五万八〇一三円を下らない費用を負担したが、本件事故と相当因果関係のあるものは一二〇万円と認めるのが相当である。

三  好意同乗減額について

前記第二の一及び第三の一の事実、乙七、八、一〇によれば、被告金村と元学は中学時代の同級生で遊び仲間であり、同じく中学時代の同級生であった磯部匡史と遊びに行く途中に本件事故に遭ったこと、被告金村は、本件事故のわずか半月前の平成九年二月一八日に普通免許を取得したが、その前の平成七年二月七日には、原動機付自転車の免許、平成八年五月一三日に普通自動二輪車の免許を取得していたこと、被告金村は、元学を天王寺駅から同人の自宅まで被告金村車両で送って被告金村の自宅に戻った後、同日午後一一時ころ、右自宅から同車両で出発し、五分くらいで元学の自宅に着き、元学を同車両助手席に乗せ、次に右磯部の家から同人を同車両後部座席に乗せ、ガソリンスタンドで給油した後、どこで遊ぼうか考えて走行している途中に本件事故に遭ったもので、元学が同乗してから本件事故に遭うまで約五〇分に過ぎなかったこと、本件事故の付近は被告金村も良く知っていたこと、本件交差点に入る前の被告金村車両の速度は時速約二〇キロメートルの低速で、本件交差点進入直前でさらに軽く減速されていた事実が認められ、これと前記認定の事故態様を併せ考慮すると、たとえ被告金村の普通免許取得の事実を知っていたとしても、元学には好意同乗減額がされるべき事情は認められない。

四  結論

以上によると、本件事故による原告らの損害は、各四一四八万七二九六円になるところ、原告らは自賠責保険から三六七一万三六〇〇円の支払を受けたことは前記のとおり認められるところ、弁論の全趣旨によれば、原告らはこれを二分の一ずつ各自の損害のてん補に充てたものと認められ、そうすると、残額は、それぞれ二三一三万〇四九六円となる。

本件の性格及び認容額に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は、原告らはいずれも二三〇万円とするのが相当である。

結局、原告らは、それぞれ被告らに対し、各二五四三万〇四九六円及びうち二三一三万〇四九六円に対する本件事故の後の日である平成九年三月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩崎敏郎)

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