大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成9年(ワ)9644号 判決 1998年8月26日

原告

甲野春子

右法定代理人親権者母

甲野夏子

原告

甲野夏子

右原告ら両名訴訟代理人弁護士

田島義久

被告

有限会社ワールド牧場

右代表者代表取締役

海原壹一

右訴訟代理人弁護士

市橋和明

主文

一  被告は、原告甲野春子に対し、金四一万一四四一円及びこれに対する平成八年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告甲野夏子に対し、金一万六五〇〇円及びこれに対する平成八年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用中、原告甲野春子と被告との間に生じた分はこれを四分し、その三を同原告の、その余を被告の各負担とし、原告甲野夏子と被告との間に生じた分はこれを二五分し、その二四を同原告の、その余を被告の各負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告甲野春子に対し、金一七六万二七七四円及びこれに対する平成八年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告甲野夏子に対し、金四七万六〇四四円及びこれに対する平成八年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告の経営する牧場で放し飼いにされていた馬に頭部を蹴られて負傷したとして、受傷者とその親権者母である原告らが被告に対し、民法七一八条に基づき、損害賠償金及び事故日(不法行為日)以降の遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

原告甲野春子(以下「原告春子」という。)は後記事故当時六歳であり、原告甲野夏子(以下「原告夏子」という。)は原告春子の親権者母である。

被告は、肩書地において「ワールド牧場」を経営し、その中で馬を放し飼いにして占有し、子供を含む入場者に触れさせるなどしていた。

2  本件事故の発生

原告夏子は、平成八年一一月二三日、原告春子を連れて、ワールド牧場を訪れたところ、原告春子は、同日、同牧場内の「みどりの広場」で頭部を負傷した。

二  争点

1  原告春子の負傷は、みどりの広場において放し飼いにされていた馬が後ろ足で同原告を蹴飛ばしたことによるものか(加害行為)。

(原告らの主張)

当日、よちよち歩きの子(原告らとは別の観光客)が何頭か放し飼いになっている馬のうちの一頭に触っていたが、原告春子がその馬の前方右側から馬の後ろの回り込んだとき、その馬がいきなり後ろ足で原告春子を蹴飛ばした。

原告春子の身長は約一一〇センチメートルで、同原告は、右後ろ四五度くらいの角度から頭部を蹴られ、その馬の真後ろに約一メートル飛ばされた。

(被告の主張)

本件事故発生の具体的状況は不明であるが、その原因は、後記2の被告の主張のとおりであると考えられる。

2  被告は、みどりの広場に放し飼いにした馬を相当の注意をもって管理したかどうか(民法七一八条一項ただし書)。

(被告の主張)

被告が放し飼いにしていた馬は、シェトランドポニー(以下「ポニー」という。)という体長九〇ないし一一〇センチメートル程度の世界最小の馬である。ポニーは、人を攻撃することはなく、かえって、人から不快なことをされると逃げ出す性格の穏やかな動物である。そのため、本件事故の約三年前に放牧を開始して以来、一度も事故がなく、監視員を常駐させる必要もなかった。

ただし、常時、園内を一五人程度の従業員が単車で巡回し、かつ、「ポニーの嫌がることをしないでください。」、「追いかけたり、無理やり触れられたりしますと、蹴られることもあり、危険ですので、くれぐれもご注意ください。」などと記載した看板を入場口をはじめ園内一〇箇所程度に設置し、入場客に対して注意を喚起している。

ポニーの性質、被告の看板の設置状況、原告ら主張の事故態様からすると、原告夏子は、親権者として原告春子をポニーに蹴られるような位置に立たせないよう指導監督する義務があるにもかかわらず、これを怠ったことが本件事故の原因である。

以上のとおり、被告は、ポニーの性質に従い、相当な注意をしており、民法七一八条の責任を負わない。

(原告らの主張)

原告春子が蹴られた馬は、二、三頭いた馬の中で最も大きな馬である。被告は、監視員や指導員を常駐させておらず、仮に従業員による巡回がなされていたとしても、広い園内を少数の従業員で巡回することは事故防止に役立つものではない。現に、本件事故は、従業員がいない状態で発生したのである。また、原告らは、看板を目にしていないし、仮に看板が設置されていたとしても、入場者には注意喚起されておらず、不十分である。

したがって、従業員の巡回や看板の設置のみで被告が相当の注意をなしたとは到底いえない。

3  損害額はいくらか。

(原告らの主張)

(一) 原告春子の損害

(1) 慰謝料

ア 通院慰謝料 五〇万円

原告春子は、本件事故による受傷の治療を受けるため、平成八年一一月二三日から同年一二月二日までの間、医療法人正清会金剛病院(大阪府富田林市寿町所在)次いで医療法人仙養会北摂病院(大阪府高槻市北柳川町所在)に通院した。

イ 後遺障害慰謝料 一〇〇万円

原告春子の頭部には現状で約三センチメートルの線状の禿が残遺し、成長するに従い、その線状痕は拡大する。女児である同原告のこのような醜状に対する慰謝料は一〇〇万円を下回らない。

(2) 交通費 一万〇七一四円

ア 金剛病院までの近畿自動車道・阪和自動車道の高速道路料金(片道一〇〇〇円) 六〇〇〇円

一日二〇〇〇円で三日間の合計は六〇〇〇円となる。

イ ガソリン代 四七一四円

一リッター一一〇円。一リッターで七キロメートル走行可能であり、金剛病院まで一日一〇〇キロメートル走行し、三日間で三〇〇キロメートルを走行した。したがって、ガソリン代は、合計四七一四円となる。

(3) 着衣 五万円

原告春子の頭部の出血で同原告の着衣が血で汚れ、使用不能となった。その額は、ズボン一万五〇〇〇円、カーデガン二万五〇〇〇円、トレーナー一万円である。

(4) 文書料(北摂病院における診断書作成料) 二〇六〇円

(5) 弁護士費用 二〇万円

原告春子は、本件事故により、弁護士に訴えの提起・追行を委任することを余儀なくされた。本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の損害は二〇万円である。

(二) 原告夏子の損害

(1) 休業損害

ア スナック「A」減収分

二七万九〇〇〇円

それまでの一か月の平均給与六八万八五〇〇円が本件事故のため欠勤したことから、四〇万九五〇〇円に減少した差額分二七万九〇〇〇円が損害である。

イ B生命分 六万七〇四四円

事故前三か月分の平均給与一三万五〇四四円から現実の収入分(平成九年一月支給分)六万八〇〇〇円を差し引いた額が損害である。

(2) 着衣 三万円

原告夏子が原告春子を運ぶとき、原告夏子が着用していたジャンパー(三万円)が血だらけとなり、使用不能となった。

(3) 弁護士費用 一〇万円

原告夏子は、本件事故により、弁護士に訴えの提起・追行を委任することを余儀なくされた。本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の損害は一〇万円である。

(被告の主張)

仮に被告に損害賠償責任があるとしても、原告ら主張の損害額は過大である。

(一) 原告春子の損害

(1) 慰謝料

ア 通院慰謝料

原告春子の実通院日数は八日間程度であったと推測されるから、通院慰謝料は多くとも六万円程度である。

イ 後遺障害慰謝料

後頭部の髪が生えている部分の約三センチメートルの線状痕は、後遺障害に該当しない。成長後においても後遺障害に該当することはあり得ない。

(2) 交通費

原告ら宅の最寄駅である阪急茨木市から金剛病院までは公共交通機関を利用すると、平成九年の値上げ後の運賃で計算しても、片道九六〇円(阪急茨木市・梅田間二六〇円、地下鉄梅田・天王寺間二七〇円、近鉄阿倍野橋・富田林西口間四三〇円)であり、これとの対比で、原告らの計算は高額に過ぎる。高速道路を利用する必要性もない。

平成八年時点でガソリン一リッター一〇〇円を切るスタンドが出現していたことは公知の事実であり、一一〇円の計算は高額に過ぎる。また、仮に高速道路の使用を前提とすると、一般道路と異なり、走行が円滑であることから、燃費が一リッター七キロメートルということは考え難い。

金剛病院への通院日数は平成八年一一月二三日から同月二五日までの三日間であるところ、このうち同月二三日は本件事故日であり、仮に事故がなく、治療をしなかったとしても、往復の交通費を要したわけであり、同日分の交通費を含めるべきではない。

(3) 着衣

被告の従業員が原告らを最初に発見したとき、原告夏子が原告春子の頭部をハンカチで押さえているのを見たが、外見上、出血はなく、出血があったとしても、衣服を使用不能にするような多量の出血があったとは認められない。前記傷害の程度からしても、ズボン、カーデガン、トレーナーをいずれも使用不能にするような大量出血はあり得ない。

なお、右各衣服の価格は、同種のものとの比較において、いずれも極めて高額であり、信用しがたい。

(二) 原告夏子の損害

(1) 休業損害

幼児の通院付添看護費として実通院一日当たり二五〇〇円が相当である。

(2) 着衣

原告春子と同様、認めがたい。

4  過失相殺をすべきか。

(被告の主張)

仮に被告に損害賠償責任があるとしても、前記のとおり、ポニーは生来おとなしい性質であり、本件では、ポニーの後ろにいた原告春子をポニーが急に蹴ったという事故であるから、被害者側にポニーを刺激する何らかの所為があったと推定されるのであり、現場の近くで原告春子が遊ぶのを見ていた原告夏子にも過失があったというべきで、大幅な過失相殺をすべきである。

(原告の主張)

原告側に過失相殺の対象となるような落度はない。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  争いのない事実、証拠(甲六、乙一、三、四、証人河野良一、原告夏子本人)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 原告夏子は、平成八年一一月二三日、両親の乙山太郎、乙山花子、子の原告春子、甲野秋男とともにワールド牧場を訪れ、ポニーが放し飼いにされているみどりの広場に行った。

当時、みどりの広場には、原告ら家族のほかに四、五人の入場客がおり、ポニーは三頭いた。

(二) 原告ら家族がみどりの広場に着いてから、原告春子は、最初小さいポニーの頭に触って遊んでいた。その間、原告夏子は、原告春子から一〇メートルほど離れたところで、ポニーが危険であるとの認識もなく、同原告を見ていた。原告春子(当時の身長一一〇センチメートル程度)は、その後、大きいポニーの後ろに回ったところ、そのポニーが後ろ足を蹴り上げ、これが同原告の後頭部に当たり、同原告はそのポニーの後方に一メートルほど飛ばされた。その当時、そのポニーの顔の付近には、一歳くらいのよちよち歩きの子とその両親がおり、ポニーの顔を触っていた。

(三) 原告春子が蹴られたのを見た原告夏子は、すぐに原告春子のところに行き、頭が痛いと言って泣く同原告の頭部の髪の毛をかき分けたところ、血が出てきた。そのため、原告夏子は、ハンカチを出してその部分を押さえた。原告夏子は、原告春子を抱き上げて、側にいた父に係員に連絡するよう叫んだ。父は、助けを求めるため付近の小屋まで行ったが、そこには誰もいなかったため、原告夏子が原告春子を抱えて坂を走って下りて行ったところ、たまたま単車に乗った被告従業員と出会ったので、その従業員に子供が受傷した旨を伝えた。その従業員は、これを聞いて連絡のため単車で下まで下りて行った。一方、原告夏子は、係員が戻ってくるのを待っていたが、待っているよりも自分が走って下りた方が早いと思い、原告春子を抱きかかえたまま坂を下りて行った。その途中、原告夏子は、上がってきた被告従業員の運転する車に原告春子とともに乗り込んだ。その後、原告春子は、ワールド牧場の医務室で応急措置を受け、救急車で金剛病院(大阪府富田林市寿町所在)に運ばれ、六針の縫合手術を受けた。

2  争いのない事実及び右事実によると、原告春子は、被告の経営するワールド牧場内のみどりの広場において放し飼いにされたポニーに蹴られて受傷したものである。

二  争点2について

1  証拠(乙一、証人河野良一)及び弁論の全趣旨によると、被告は、平成元年四月二二日、ワールド牧場(面積約四〇万平方メートル)を開園したこと、ワールド牧場では、平成五年四月ころから、ポニーとの触れ合いを目指して園内にポニー一五、六頭を常時放し飼いにしていること、被告が放し飼いにしていたポニーは体長九〇ないし一一〇センチメートル程度の小さな馬であること、被告が本件事故の約三年前にワールド牧場でポニーの放牧を開始して以来、本件事故前までは一度もポニーによる事故がなく、本件事故後も同様であること、ポニーは、穏和な性質の動物で、通常、人を攻撃することはないが、状況によっては、後ろ足で人を蹴ったりすることもあること、そのため、ワールド牧場では、園内を一五人程度の従業員が単車で巡回していたほか、園内の一〇箇所程度に「ポニーの嫌がることをしないでください。」、「追いかけたり、無理やり触れられたりしますと、蹴られることもあり、危険ですので、くれぐれもご注意ください。」などと記載した看板を設置していたこと、しかし、みどりの広場等ポニーが存在する場所に監視員や指導員を常駐させてはいなかったこと、以上の事実が認められる。

2  ところで、ワールド牧場が目指す前記施設としての性質上、当然に子供が放し飼いにしたポニーの体に触れることがあるわけであるから、被告としては、事故防止のために十分注意を払うべきところ、右のようなポニーの性質、被告の看板の設置状況を考慮しても、被告が相当の注意を払ったということはできない。すなわち、ポニーは穏やかな性質であるとはいえ、後ろ足で蹴るなどして人に危害を加えることも考えられるのであるから、被告としては入場者にその危険性及び留意事項を理解してもらうために十分な内容、数の看板を設置するなど、適切な周知徹底の措置を講ずる一方、単に被告従業員の巡回にとどまるのではなく、ポニーの移動できる範囲に制限を設け、そこに監視又は指導員を配置して子供がポニーを刺激しないように常時監視する体制をとるなどして、事故発生の防止に努めるべきであったのであり、前記認定のような態様の本件事故が、被告において予見又は回避の不可能な異常な事態であったということはできない。

したがって、本件において、民法七一八条一項ただし書の適用はなく、被告は、原告らが被った後記損害について賠償すべき義務を負うといわなければならない。

三  争点3について

1  原告春子の損害

四九万九二〇二円

(一) 慰謝料 四九万円

(1) 通院慰謝料 九万円

証拠(甲一、二、原告夏子本人)によると、原告春子は、本件事故による受傷のため、平成八年一一月二三日から同年一二月二日までの間、医療法人正清会金剛病院(大阪府富田林市寿町所在)次いで医療法人仙養会北摂病院(大阪府高槻市北柳川町所在)に通院して治療を受けたことが認められる。

右通院に関する慰謝料としては、九万円が相当である。

(2) 後遺障害慰謝料 四〇万円

証拠(甲七、八、一一ないし一四)によると、平成一〇年五月一四日の診断の時点で、原告春子の後頭部には長さ三〇ミリメートル、幅四ミリメートルの白色の挫創瘢痕が存在しており、腫脹等は認められないが、その瘢痕上には数条の頭髪が認められるのみであること、今後、同原告の成長に従って瘢痕は拡大するが、瘢痕上に頭髪が生える可能性は低いこと、右瘢痕は、通常は頭髪に隠れるが、髪をかき分けると目立つこと、以上のことが認められる。

右瘢痕は、自動車損害賠償保障法施行令別表の後遺障害別等級表や労働者災害補償保険法施行規則別表第一の障害等級表の後遺障害のいずれにも該当しないが、右認定事実や原告春子が女児であることなどを考慮し、これに対する慰謝料としては、四〇万円をもって相当と認める。

(二) 交通費 七一四二円

(1) 金剛病院までの近畿自動車道・阪和自動車道の高速道路料金

四〇〇〇円

証拠(甲一、原告夏子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告夏子は、本件事故当日のほかに二日間、自家用車で金剛病院まで近畿自動車道・阪和自動車道(高速道路・料金片道一〇〇〇円)を利用して原告春子を通院させたことが認められ、この認定に反する証拠はない。そうすると、本件事故当日を除く二日間の右料金は合計四〇〇〇円となる。

なお、原告春子は、本件事故当日の分も請求しているが、本件事故当日は、本件事故の有無にかかわらず、往復の交通費を要したのであるから、同日の高速道路料金を損害と認めることはできない。他方、本件においては、高速道路の利用は、社会通念上相当な範囲内のものであると考えられる。

(2) ガソリン代 三一四二円

証拠(原告夏子本人)によると、金剛病院までは往復で約一〇〇キロメートルあること、原告夏子の自家用車はガソリン一リッター当たり七キロメートル走行すること、原告夏子は、本件事故当時、一リッター当たり一一〇円程度のガソリンを補給していたことが認められ、この認定に反する証拠はない。そうすると、金剛病院に通院するためのガソリン代の損害は、合計三一四二円(円未満切捨て)となる。

(計算式)二〇〇(キロメートル)÷七(キロメートル)×一一〇(円)=三一四二(円)

なお、本件事故当日の分が含まれないことは前同様である。被告は、原告春子主張のガソリン代が高額に過ぎるとしているが、右金額が社会通念上相当な範囲を逸脱しているとまではいえない。

(三) 着衣の損害 〇円

本件において、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

(四) 文書料 二〇六〇円

証拠(甲二、三)によると、原告春子の北摂病院における診断書作成料として、二〇六〇円を要したことが認められる。

2  原告夏子の損害 二万円

(一) 通院付添看護費相当額

二万円

原告夏子は、自己の休業損害を請求しているが、同原告が原告春子の付添い、看護等のため勤務先を休業する必要性があったことや原告夏子主張の差額が本件事故と因果関係のある損害であることを認めるに足りる証拠はない。そこで、幼児の通院付添看護費相当額である一日当たり二五〇〇円をもって本件事故と相当因果関係がある損害と認める。そして、証拠(甲二、原告夏子本人)によると、金剛病院には三日、北摂病院には五日、合計八日通院したことが認められるから、その金額が二万円となることは計算上明らかである。

(二) 着衣の損害 〇円

本件において、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

四  争点4について

前記二のようなことがいえる反面、入場客としても、穏やかな動物であるとはいえ、ポニーは馬であるから場合によっては蹴るなどのことも予測すべきであり、また、園内にはポニーの危険性を知らせる看板が設置されていたのであるから、相応の注意を払うべきである。

原告夏子は、原告春子(本件事故当時六歳)の親権者であり、同原告を保護すべき立場にあるところ、前記事実及び証拠(原告夏子本人)によると、原告夏子は、前記のような看板に注意を払うこともなく、また、ポニーの危険性について考えることもなく、原告春子から一〇メートルくらい離れたところで、漫然と同原告を見ていたことが認められるから、原告夏子にも落度があるといわなければならない。そこで、原告らの前記損害のうち三割について過失相殺をするのが相当である。

そうすると、原告春子の損害額は三四万九四四一円(円未満切捨て)、原告夏子の損害額は一万四〇〇〇円となる。

五  弁護士費用の損害

原告春子について 六万二〇〇〇円

原告夏子について 二五〇〇円

原告らが原告ら訴訟代理人弁護士に本件訴訟の提起・追行を委任したことは弁論の全趣旨により認められるところ、本件事案の性質、審理経過、認容額等にかんがみると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、原告春子について六万二〇〇〇円、原告夏子について二五〇〇円と認める。

六  まとめ

以上の次第で、原告春子の請求は損害賠償金四一万一四四一円及びこれに対する不法行為日である平成八年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、原告夏子の請求は損害賠償金一万六五〇〇円及びこれに対する前同様の平成八年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

(裁判官小佐田潔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例