大阪地方裁判所 平成9年(ワ)9750号 判決
原告 ジャパンプロパティ株式会社
右代表者代表取締役 マーガレット・グラント
右訴訟代理人弁護士 服部栄三
同 坂井尚美
同 坂井慶
被告 住商プラスケム株式会社
右代表者代表取締役 野ロ滋
右訴訟代理人弁護士 熊谷尚之
同 高島照夫
同 石井教文
同 池口毅
同 佐藤吉浩
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、別紙目録記載の帳簿及び書類を閲覧及び謄写させよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、被告の発行済株式総数一二〇〇万株中一二〇万六五〇〇株(発行済株式総数の約一〇・〇五パーセント)の株式を保有する株主である。
2 原告は、次の理由で、別紙目録記載の帳簿及び書類(以下「本件帳簿等」という。)の閲覧及び謄写をする必要がある。
(一)(1) 被告及び親会社である住友商事株式会社(以下「住友商事」という。)は、被告の株主に対し、過去数回にわたって、少なくともその時々における定期預金の金利程度の利益配当が可能である旨説明しながら、これを履行しなかったことから、その原因を明らかにする必要がある。
(2) 被告は、赤字経営の会社でありながら、住友商事から派遣された役員は、世間相場より高額の報酬を受けている疑いが強い。
(3) 被告は、住友商事との取引が異常に多いところ、その製品売買価格を自由に操作して住友商事が不当な利益を得る目的に利用されている疑いが強い。
(4) 被告は、(3) を隠ぺいするため、住友商事の関連子会社から低金利(年一パーセント以内)の融資を受けるなどして、住友商事から支援を受けている模様である。
(5) 被告は、第五五期から損失を計上するに至っているが、その理由、背景を解明する必要がある。
(二)(1) 各期の事業報告書に記載された貸借対照表、損益計算書及び損失処理表は、いずれも商法上要求される計算書類にすぎず、右計上損益を基礎として、所要の加算又は減算の作業(申告調整)を行って最終的に法人税課税所得を算出するのであるから、法人税確定申告書に記載された損益が当期における会社の実際の損益である。
(2) 商法が株主に会計の帳簿及び書類の閲覧及び謄写を認めた趣旨は、会社の業務運営につき株主の監督是正権を適切に行使させるためであり、株主が広く会社の経理及び業務の状況を知り得る状態になければならない。したがって、株主は、単に企業会計上の損益を知るだけでなく、その後の法人税確定申告の計算根拠となった加算(交際費、寄附金、役員賞与等)、減算(売上げ漏れ、減価償却費の調整、法人税、所得税の還付金等)の申告調整科目(法人税法施行規則三四条二項の定める記載事項)、特に「所得の金額の計算に関する明細書」の記載事項についても、当然に知り得る権利を有することは明らかであり、また、右加算、減算の申告調整科目は、法人税確定申告書及びその添付書類を閲覧することで初めて明らかになる。
(3) 計算書類の附属明細書及び有価証券報告書によっても、法人税確定申告書添付別表(四)の当期損益額(所得)の計算根拠となるべき「交際費等の損金不算入額」(加算金)、「寄附金の損金不算入額」(減算金)等の有無及び金額が不明であり、また、各役員ごとの報酬額も不明である。
(4) 以上のとおり、原告が知りたいのは企業会計(商法)上の損益だけでなく、税務会計上の損益(所得)であり、計算書類上の数字と法人税確定申告書上の数字に異同があるかどうかを確認する必要があるところ、法人税確定申告書及びその添付書類は、税務会計上の損益を示し、会社の経理状況の根幹を示す資料であり、会計の帳簿と一体不可分であり、仮にそうでないとしても、会計の帳簿を実質的に補充する書類として会計の書類に該当する。
3 よって、原告は、被告に対し、商法二九三条ノ六の規定により、本件帳簿等の閲覧及び謄写を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2(一)(1) 請求原因2(一)(1) のうち、被告及び住友商事が原告主張のような利益配当の方針を説明したにもかかわらず、これを履行しなかったことは否認し、その余は知らない。
(2) 同(2) 及び(3) は否認する。
(3) 同(4) のうち、被告が住友商事の関連会社から低利融資の支援を受けていることは認め、その余は否認する。
(4) 同(5) のうち、被告が第五五期から損失を計上していることは認め、その余は知らない。
(二) 同(二)は争う。
三 被告の主張
1(一)(1) 商法二九三条ノ六第一項にいう「会計ノ帳簿」とは、会計学でいう総勘定元帳、日記帳、仕訳帳及び補助簿をいい、同項にいう「会計ノ書類」とは、右会計帳簿を作成する材料となった書類その他会計帳簿を実質的に補充する書類をいうのであって、別紙目録二記載の書類は、同項にいう「会計ノ帳簿及書類」に該当しない。
(2) 被告においては、日記帳、仕訳帳に当たるものとして、それらに記帳すべき取引が発生すると、会計処理伝票を起票し、決裁権者の決裁を経てコンピューターに入力し、これを仕訳処理して各種元帳を作成し、更にそこから損益計算書等の計算書類を誘導した上、それをもとに法人税の申告をしている。このように、別紙目録二記載の書類は、各種元帳から誘導される損益計算書をもとに作成されるものであるから、「会計ノ書類」に該当しない。
(二)(1) 会社は、商法、企業会計原則、財務諸表規則等に基づいて会計処理を行い、他方、税法は、こうした経理処理によって確定された決算を前提に税法固有の立場から課税所得の計算を行うものである。法人の決算利益と課税所得とが異なるのは、企業会計では収益とされるが税法上は益金算入しないものや、企業会計では費用とされるが税法上は損金算入しないものなどがあること、企業会計と税法では資本取引の範囲や費用及び収益の認識方法が異なることなどが理由であり、課税所得が実際の損益であるとの主張には、何ら根拠がない。
(2) 交際費、寄附金、役員報酬及び賞与等の額は、法人税の申告内容をみなければ分からないというものではない。
ア 交際費については、計算書類の附属明細書(会社に常備され株主が閲覧できる)及び有価証券報告書(管轄財務局で公開されている)の「販売費及び一般管理費」の記載をみれば明らかであり、その内訳明細についても、会計処理伝票をみれば明らかである。
イ 寄附金については、右「販売費及び一般管理費」の雑費中に一括記載がされており、その内訳明細についても、会計処理伝票をみれば明らかである。
ウ 被告の役員のうち、住友商事からの在籍出向者には、住友商事から報酬が支給され、被告が住友商事に対して被告の基準で算出した報酬額に相当する額を戻入しているところ、右戻入額については、会計処理伝票に起票されて元帳に記帳されている。また、住友商事からの転籍者には、被告が被告の基準で算出した報酬額を直接本人に支払っているところ、住友商事からの転籍者とその他の役員との間で支給基準が異なることはない。
なお、役員に支払った報酬の総額については、使用人兼務役員の使用人給与額や退職慰労金の額も含めて計算書類の附属明細書に記載されており、附属明細書に記載されている支給対象人員の内訳と併せて検討すれば、一名当たりの平均支給額も容易に算出することができる。
エ 役員賞与については、株主総会における決議事項であるから、毎期の総会の決議事項をみれば、支給の有無は明らかである(被告において、第五三期から第五七期までの間、役員賞与が支給されたことはない。)。
2(一)(1) 被告の第五五期の決算は、取引先の倒産により特別損失を計上し、株主に対する利益配当を見送らざるを得ないこととなった。そのため、被告の役員は、原告の実質的オーナーである堀内正雄(以下「堀内」という。)に対し、平成七年六月八日、被告の完全子会社であるフジケミカル株式会社(以下「フジケミカル」という。)が所有する兵庫県伊丹市内の工場敷地約一〇〇〇坪(以下「本件不動産」という。)を売却して右特別損失の償却を行う予定であることを説明して理解を求めたところ、堀内は、本件不動産の売却計画に関心を示した。その後、堀内が代表取締役を務める大洋エステート株式会社(以下「大洋エステート」という。)は、マンションの建設用地として本件不動産の購入を希望するようになった。
(2) 堀内は、被告の役員に対し、平成九年五月一六日、「住友商事に利益が流れているのと違うか。他の株主は被告との取引があってメリットがあるが、うちは全くない。大株主として報われない分、非常勤役員を一人入れて配当の代わりに役員報酬をもらって穴埋めしたい。それがだめなら一度帳簿を見せてもらいたい。住商との取引がどんな具合になっているのか専門家に調べさせる。」などと述べるとともに、本件不動産を時価の一割ないし一割五分程度値引の上で大洋エステートに売却するよう要請した。また、原告の代表取締役高田誠起(大洋エステートの代表取締役も務めている。以下「高田」という。)は、被告の役員に対し、右取引の媒介を原告に担当させるよう要求した。
(3) 被告は、高田から、同年五月下旬、電話で、同年六月一〇日までに過去五年分の税務申告書の写しを持参するよう要求されたことから、顧問弁護士と相談して決めるとの返事をしたところ、原告から、同年六月五日、書面で右と同趣旨の要求がされるに至った。これに対し、被告は、同年六月九日、税務申告書は株主の帳簿閲覧請求権の対象外であるとしてこれを拒むとともに、商法二九三条ノ六の規定に基づく帳簿閲覧請求であることを明記した書面によって、閲覧・謄写を求める帳簿・書類の特定や具体的な理由等を明らかにするようにと回答した。
その後、高田は、被告に対し、本件不動産の売却に関する専任媒介契約の締結を繰り返し求めるとともに、大洋エステートは、同年七月二三日、本件不動産を坪当たり五四万円で買い受ける旨の買付証明書を提出した。これに対し、被告は、原告の申出を断るとともに、大洋エステートに対しては、第三者から高額の買受けの申出があったことを伝えて価格の引上げを求めるなど交渉を継続したが、大洋エステートは廉価売却を、原告は専任媒介契約の締結をそれぞれ求め続けた。
(4) 堀内は、被告の役員らに対し、同年八月二一日、被告が税務申告書の閲覧請求に応じないことなどを強硬に非難し、「大株主に対する礼儀を知らない。あんたがたにやいとを据えるぐらい簡単や。」、「宮原さん(住友商事の代表者)に会ってあんたらのやっている無茶苦茶なことを聞いてもらう。」などと申し向けた上、税務申告書の閲覧・謄写を求める訴訟を提起することを予告した。これに対し、被告の役員らは、堀内に対し、帳簿閲覧請求権の手続を踏めばこれに応じることを説明するとともに、最終的には税務申告書も含めて閲覧・謄写の要請に応じる旨の申入れをしたが、堀内は、既に高名な弁護士に依頼して提訴の準備をしたので手遅れであるなどと被告の役員らを難じ続けるとともに、住友商事を含む他の株主は被告との商取引による利益があるが、原告には被告の株式を保有していても何らの利益を生じないとの趣旨の言辞を繰り返すなど、暗に原告や大洋エステートに利益を供与するようほのめかし、話題を本件不動産の売却問題に転じた。被告の役員らが大洋エステートの希望価格の引上げを要請すると、堀内は、大洋エステートの買付証明書における価格の妥当性を強調するとともに、原告に専任媒介権を付与することを求めるなど、本件不動産の売却について原告及び大洋エステートに商機を与えるよう執ように要求し、被告の対応いかんでは提訴予定の閲覧謄写請求訴訟の取下げもあり得るとした。
(5) その後、堀内との交渉は、折合いがつかず、原告は、被告に対し、同年八月二六日、被告が過去五年分の税務申告書の閲覧・謄写を拒否したことを難詰して、訴えの提起を予告した上、同年九月二九日、本件訴えを提起した。
(6) 被告が、平成一〇年二月四日の本件口頭弁論期日において、原告がその時点で閲覧・謄写を求めていた帳簿・書類のうち、第五三期から第五七期までの総勘定元帳、補助簿及び振替伝票一式について、任意に閲覧謄写に応じる用意がある旨述べたことから、裁判所は、原告に対し、訴訟外でその閲覧・謄写を行い、その上でなおこれ以外の書類の閲覧・謄写が必要であれば、対象となる書類を特定するとともに、その必要性を具体的に主張するようにと促した。そこで、被告は、閲覧・謄写に応じる準備をし、同年二月九日、原告に対し、同月一二日から二七日までの間、被告の営業時間内に原告が閲覧・謄写をするための場所を提供するので来訪の日時を指定するよう連絡をした。ところが、原告は、被告に対し、同年二月一三日に公認会計士と打合せをした上で返事をする旨の連絡をしたものの、その後、公認会計士との打合せの結果、税務申告書の閲覧・謄写に応じない限りは他の帳簿・書類を閲覧・謄写しても意味がないとの結論に達した旨の回答をし、閲覧・謄写をしないまま現在に至っている。
(二) 右のような経過に照らすと、別紙目録二記載の書類についてはもちろん、同目録一記載の書類についても、原告が閲覧・謄写の必要性として主張するところは、口実にすぎず、請求の真の目的ではないということができる。そして、原告らの右要求に応じることは、商法二九四条ノ二の規定に違反する可能性が高いところ、原告の閲覧・謄写の請求は、その違法な利益供与の要求を実現するため、株主権の行使に名を借りて被告に対する牽制を目的としてされたものであって、同法二九三条ノ七第一号前段に該当する。
四 被告の主張に対する認否及び反論
1 被告の主張1は争う。
2(一)(1) 被告の主張2(一)(1) は認める。
(2) 同(2) のうち、堀内が被告の役員に対して平成九年五月一六日に「住友商事に利益が流れているのと違うか。大株主として報われない分、非常勤役員を一人入れたい。それがだめなら一度帳簿を見せてもらいたい。」などと述べたことは認め、その余は否認する。
(3) 同(3) のうち、高田が、被告に対し、同年五月下旬、電話で、同年六月一〇日までに過去五年分の税務申告書の写しを持参するよう要求し、被告から、顧問弁護士と相談して決めるとの返事を受けた後、原告が、被告に対し、同年六月五日、書面で右と同趣旨の要求をしたこと、これに対し、被告が、同年六月九日、税務申告書は株主の帳簿閲覧請求権の対象外であるとしてこれを拒むとともに、商法二九三条ノ六の規定による帳簿閲覧請求であることを明記した書面によって、閲覧・謄写を求める帳簿・書類の特定や具体的な理由等を明らかにするようにと回答したこと、その後、高田が、被告に対し、本件不動産の売却に関する専任媒介契約の締結を求めるとともに、大洋エステートが同年七月二三日に本件不動産を坪当たり五四万円で買い受ける旨の買付証明書を提出したことは認め、その余は否認する。
(4) 同(4) は否認する。
(5) 同(5) のうち、原告が、被告に対し、同年八月二六日、訴えの提起を予告した上、同年九月二九日、本件訴えを提起したことは認め、その余は否認する。
(6) 同(6) は認める。
(二) 同(二)は争う。
(三)(1) 被告が主張する本件不動産の売却問題と本件の帳簿閲覧請求とは全く別個の問題であり、被告は、ことさら本件不動産の売却問題と関連づけて本件の帳簿閲覧請求を拒否しているものである。
(2) 原告は、不動産の売買、仲介等を目的とする株式会社であり、本件不動産の売却に関する専任媒介契約の締結を求めることは当然のことであって、株主の権利行使に関し財産上の利益供与を請求したことはない。
(3) 原告は、被告に対し、本件不動産について、順次より高額の買手希望者(住友石炭鉱業株式会社、大成プレハブ株式会社及び藤和不動産株式会社)を紹介しており、不当違法な利益を要求していたものではないし、大洋エステートがその買付証明書における価格の妥当性を強調したり、同社に対する本件不動産の売却にこだわったりしたこともない。現に、被告は、本件訴訟係属中の平成一〇年四月七日、株式会社中村屋に対し、本件不動産を平穏に売却している。
五 原告の反論に対する認否
全部争う。
第三証拠関係
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(原告適格)の事実は、当事者間に争いがない。
二 請求原因2(二)及び被告の主張1(本件帳簿等が商法二九三条ノ六第一項にいう「会計ノ帳簿及書類」に該当するか否か)について判断する。
1 商法二九三条ノ六第一項にいう「会計ノ帳簿」とは、同法三二条一項にいう「会計帳簿」と同義であり、成立の時及び毎決算期における営業上の財産及びその価額、取引その他営業上の財産に影響を及ぼすべき事項を整然かつ明瞭に記載した帳簿であり(同法三三条一項参照)、具体的には、会計学における日記帳、仕訳帳、元帳及び補助簿を意味し、仕訳帳に代えて伝票を利用している場合には伝票を含むものと解するのが相当である。また、同法二九三条ノ六第一項にいう「会計ノ書類」とは、会計帳簿を作成する材料となった書類その他会計帳簿を実質的に補充すると認めるべき書類を意味するものと解するのが相当である。
2 これを本件についてみると、本件帳簿等のうち、別紙目録一記載の帳簿(総勘定元帳及びその補助簿)は、商法二九三条ノ六第一項にいう「会計ノ帳簿」に該当することになる。
3 次に、本件帳簿等のうち、別紙目録二記載の書類(法人税確定申告書及び添付書類)は、商法二九三条ノ六第一項にいう「会計ノ帳簿」に該当しないから、同項にいう「会計ノ書類」に該当するか否かについて判断する。
法人税法は、法人税についていわゆる申告納税制度を採用し、内国法人の確定申告について、各事業年度終了の日の翌日から二か月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき申告書を提出しなければならない旨規定している(法人税法七四条一項参照)。右申告に当たっては、内国法人が企業会計に従って計算し確定した決算上の損益を元に、税務会計上要求されるところに従って所要の修正(申告調整)を行い、誘導的に課税標準である所得の金額を算定することを要するものと解される。
証拠(乙五、証人伊藤正三)によれば、被告においても、各部署における入出金等が会計処理伝票によって起票され、仕訳伝票で一本化された上、コンピューター処理によって総勘定元帳及び各種補助簿が作成され、総勘定元帳から誘導されて損益計算書及び貸借対照表が作成され、そして、総勘定元帳、損益計算書及び貸借対照表の記載に基づき、所定の税務計算をして税務申告がされていることが認められる。
確かに、企業の経営における税務会計の重要性は原告指摘のとおりであり、企業における会計の実務では、申告納税額を企業経営におけるコストと捉え、これを節減するための税務計画を立て、商法上の会計処理を行うに当たっても常に税務会計上の処理に与える影響を考慮しているとの紹介も見受けられるところである。
しかしながら、制度の仕組みとしては、既に述べたとおりいわゆる確定決算主義が採られているのであり、法人税確定申告書及び添付書類は、株主総会において承認されるなどして確定した計算書類(商法二八三条、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律一六条参照)及び申告調整に必要な総勘定元帳を材料として作成されるものであって、会計帳簿を作成する材料となった書類その他会計帳簿を実質的に補充すると認めるべき書類には当たらないものというべきであるから、商法二九三条ノ六第一項にいう「会計ノ書類」には該当しないものと言わざるを得ない。
三 別紙目録一記載の会計帳簿について、原告主張の閲覧・謄写の請求理由との関連性の有無について判断するに、客観的にみて、原告が請求原因2(一)記載の諸点を明らかにする上で右帳簿を閲覧・謄写する必要がない、すなわち関連性を欠くとまではいえないものというべきである。
四 被告の主張2(拒否事由)について判断する。
1 被告の主張2(一)のうち、(1) (本件不動産の売却話が出た経緯など)の事実、同(2) のうち、堀内が被告の役員に対して平成九年五月一六日に「住友商事に利益が流れているのと違うか。大株主として報われない分、非常勤役員を一人入れたい。それがだめなら一度帳簿を見せてもらいたい。」などと述べたこと、同(3) のうち、被告が、高田から、同年五月下旬、電話で、同年六月一〇日までに過去五年分の税務申告書の写しを持参するよう要求されたことから、顧問弁護士と相談して決めるとの返事をしたところ、原告から、同年六月五日、書面で右と同趣旨の要求がされるに至ったこと、これに対し、被告が、同年六月九日、税務申告書は株主の帳簿閲覧請求権の対象外であるとしてこれを拒むとともに、商法二九三条ノ六の規定に基づく帳簿閲覧請求であることを明記した書面によって、閲覧・謄写を求める帳簿・書類の特定や具体的な理由等を明らかにするようにと回答したこと、その後、高田が、被告に対し、本件不動産の売却に関する専任媒介契約の締結を求めるとともに、大洋エステートが同年七月二三日に本件不動産を坪当たり五四万円で買い受ける旨の買付証明書を提出したこと、同(5) のうち、原告が、被告に対し、同年八月二六日、訴えの提起を予告した上、同年九月二九日、本件訴えを提起したこと、同(6) (被告が総勘定元帳等の閲覧・謄写に応じる用意をしたことなど)の事実は、当事者間に争いがない。
2 右争いのない事実に、証拠(甲六、七、八の1・2、九ないし一一、一四ないし一九、乙一ないし七、一〇、一三、証人伊藤正三)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(一)(1) 被告(旧商号・藤本産業株式会社)は、医療薬品の販売、化学工業薬品及び農芸用薬品の製造並びに売買等を目的として昭和一六年五月五日に設立された株式会社であり、昭和三八年九月に大阪証券取引所の市場第二部に株式を上場したが、昭和五五年六月に上場廃止となり、昭和五六年七月七日の減資により、発行済株式の総数は一二〇〇万株、資本の額は六億円となっている。
被告の発行済株式の総数の一パーセント以上に当たる株式を保有する大株主としては、被告の発行済株式の総数の五六・九六パーセントに当たる株式を保有している住友商事、同じく約一〇・〇五パーセントに当たる株式(一二〇万六五〇〇株)を保有している原告のほか、住友化学工業株式会社、旭化成工業株式会社、垂井化学株式会社、昭和電工株式会社及び積水化学工業株式会社があるが、このうち、原告及び垂井化学株式会社を除くその余の会社と被告との間には、取引関係が存在する。
(2) 原告(旧商号・堀内株式会社)は、不動産の売買、仲介及び賃貸等を目的として昭和五一年三月一八日に設立された株式会社であるところ、堀内は、原告の取締役を務める堀内正宏の実父で、原告の実質的なオーナーであるとともに、原告の関連会社である大洋エステート(土木建設工事の設計施行請負等を目的として昭和三六年三月七日に設立された株式会社であり、主としてマンションの建設、分譲等の事業を行っている。)の代表取締役の地位にある。なお、原告の代表取締役を務める高田は、大洋エステートの代表取締役も務めている。
大洋エステートは、昭和五五年ころ被告の株式を取得し、原告は、昭和五六年一〇月一三日、大洋エステートから被告の株式一二〇万六五〇〇株を譲り受け、現在も保有している。
被告は、堀内が原告の実質的なオーナーであることから、原告に対して決算終了後株主総会前に決算の説明をする際も、その説明は、堀内に対し行っていた。
(二) 被告の第五五期(平成六年四月一日から平成七年三月三一日まで)の決算は、取引先の倒産により特別損失を計上し、株主に対する利益配当を見送らざるを得ないこととなったことから、被告の役員は、堀内に対し、平成七年六月八日に決算の説明をした際、右特別損失を償却するに当たり、フジケミカル(被告の完全子会社)が所有する兵庫県伊丹市内の工場敷地約一〇〇〇坪(登記簿上の地積は三二九三・一六平方メートル)(本件不動産)を売却する予定であるなどと説明して理解を求めたところ、堀内は、本件不動産の売却計画に関心を示し、被告の役員に対して本件不動産の地積、用途指定、簿価、売出予定価格等を質問した。
その後、堀内は、同年七月、鹿島建設大阪支店を通じ被告の親会社である住友商事に対し、大洋エステートが本件不動産をマンションの建設用地として購入したいので仲介するよう申し入れた上、同月一〇日、被告に対し、大洋エステートを本件不動産の買主とする旨の書面の作成を求めたが、被告は、本件不動産上の工場が操業中であり、同不動産の売却を決定していないなどと説明し、これを断った。
なお、同じころ、別の建設会社の購入希望もあったが、右同様の理由から、本件不動産の売却の件は、それ以上進展することがなかった。
(三) 被告の役員らは、堀内に対し、平成八年六月一二日、第五六期(平成七年四月一日から平成八年三月三一日まで)の決算の説明をした際、堀内から本件不動産の売却について質問がされたことから、同不動産上の工場の操業及び税金の問題で進展していない旨答えた。これに対し、堀内は、非常に立腹し、「本件不動産を大洋エステートに売却すると約束したにもかかわらず、何の話もなかった。大株主をばかにしている。経営者を信頼することはできない。次回からは株主総会にも出席する。」などと被告の役員らを非難した。
(四) 本件不動産上の工場は、平成八年一二月に操業を停止し、平成九年三月には残務整理も終わったことから、被告は、同年四月下旬ころから、本件不動産の地上建物の撤去、整地等に着手した。
堀内は、同年五月一六日、被告の役員らを大洋エステートの事務所に呼び出し、「住友商事に利益が流れているのと違うか。他の株主は被告との取引があってメリットがあるが、うちは全くない。大株主として報われない分、非常勤役員を一人入れて配当の代わりに役員報酬をもらって穴埋めしたい。それがだめなら一度帳簿を見せてもらいたい。住商との取引がどんな具合になっているのか専門家に調べさせる。」などと述べた上、本件不動産の件を持ち出し、売却する方針であれば大洋エステートに売却するよう求めた。被告の役員が世間相場とかけ離れた価格での取引は困難である旨伝えると、堀内は、「土地の値段などはいくらにでもつけられる。世間相場から一割ないし一割五分程度低くするのは当たり前で、自分のところにもメリットを出してもらわな。土地の値段は建てたマンションがいくらで売れるかの逆算で決まる。」などと述べた。また、同席していた高田は、被告の役員らに対し、本件不動産の売却の媒介を原告にさせることを求めた。これに対し、被告の役員らは、確たる回答をしなかった。
(五) 被告は、高田から、平成九年五月下旬、電話で同年六月一〇日までに過去五年分の法人税確定申告書の写しを持参するよう要求されたことから、顧問弁護士と相談して決めるとの返事をしたところ、原告は、同年六月五日、被告に対し、書面で右と同趣旨の要求をした。これに対し、被告は、同年六月九日、<1>法人税確定申告書は株主の帳簿閲覧請求権の対象外である、<2>商法二九三条ノ六の規定に基づく帳簿閲覧請求には応じるので、同条の規定に基づく帳簿閲覧請求であることを明記した書面によって閲覧・謄写を求める帳簿・書類を特定した上、閲覧・謄写を求める具体的な理由等を明らかにするようにと回答したが、原告からの応答はなかった。
その後、高田が、原告の代表取締役として、被告に対し、本件不動産の売却に関する専任媒介契約の締結を繰り返し求める一方、堀内は、大洋エステートの代表取締役として、フジケミカルに対し、同年七月二三日、大洋エステートが本件不動産を坪当たり五四万円で買い受ける旨の買付証明書を提出した。これに対し、被告は、原告の申出を断るとともに、大洋エステートに対しては、第三者から高額の買受けの申出があったことを伝えて価格の引上げを求めた。
(六)(1) 堀内は、平成九年八月二一日、被告の役員らを大洋エステートの事務所に呼び出し、まず、被告が法人税確定申告書の閲覧請求に応じないことなどを強く非難し、「大株主に対する礼儀を知らない。あんたがたにやいとを据えるぐらい簡単や。」、「宮原さん(住友商事の代表者)に会ってあんたらのやっている無茶苦茶なことを聞いてもらう。」、「あんたらの息の根を止めるまできちんとやる。」などと申し向けた上、法人税確定申告書の閲覧・謄写を求める訴訟を提起することを予告するとともに、住友商事を含む他の大株主は被告との商取引による利益があるが、原告には被告の株式を保有していても何らの利益を生じないなどと述べた。
これに対し、被告の役員らは、堀内に対し、右会談の当初は、弁護士に相談したところ法人税確定申告書は閲覧・謄写の対象に含まれないとの助言を得ており、閲覧・謄写の求めに応じられないが、会計帳簿・書類であればいつでも閲覧・謄写の求めに応じるなどと説明していたが、堀内が法人税確定甲告書の閲覧・謄写に固執することから、被告の代表取締役社長である野口滋が「社長の責任において法人税確定申告書の閲覧・謄写の求めに応じる。写しを明日持って来る。」旨申し入れた。ところが、堀内は、「もう遅いわ。うちはスタートしたから。お金も払うたし。」などと述べ、既に高名な弁護士に依頼して提訴の準備をしたので手遅れであるとして、別紙目録二記載の書面の写しを任意かつ直ちに交付するとの被告の提案を拒否した。
(2) そして、堀内は、きら話題を本件不動産の売却問題に転じ、被告の役員らから本件不動産の売却話の進捗状況の説明を受けた上、坪単価八〇万円での買受希望者がいるとの説明に対し、「そんな馬鹿な値段でほんとに買う気があるのか。」、「本当に買うたらどんだけ損するかいうこっちゃ。最初から損しよう思うてやるデベロッパーはおらんはずよ。それは気違いざたの値段。」などと述べ、坪単価五四万円という大洋エステートの買受希望価格の妥当性を強調するとともに、坪単価八〇万円での買受希望者がだれであるか繰り返し質したが、被告の役員らから聞き出すことができないとみるや、同席していた高田ともども、原告に専任媒介権を付与することを繰り返し執ように求めるなど、本件不動産の売却について原告及び大洋エステートに商機を与えるよう強く要求した。そして、被告の役員らが堀内に対して法人税確定申告書等の閲覧・謄写を求める本件訴えの提起を思いとどまるよう懇請すると、堀内は、被告の役員らに対し、提訴を中止することはできないが、時機を見て取り下げることもあり得る旨答えた。
(七)(1) 原告から依頼を受けた原告訴訟代理人弁護士三名は、被告に対し、平成九年八月二六日到達の書面で、被告が過去五年分の法人税確定申告書の写し(謄写)の請求を拒否したことは商法二九三条ノ六にも違反することは明らかであり、近日中に法定の手続をとる旨通知し、本件訴えの提起を予告した上、被告が大洋エステートに対して本件不動産を売却する意思のないことを伝えた同年九月二九日、本件訴えを提起した。
(2) 原告の代表取締役である高田は、同年八月一八日に村角建設株式会社から坪単価七二万円の買受依頼書を取り付けていたが、同月二一日の会談後も本件不動産の買受希望者を募り、同月二六日に住友石炭鉱業株式会社から坪単価七〇万円の購入申込書を、同年九月一日に大成プレハブ株式会社から坪単価六〇万円の購入申込書を、同月二二日に藤和不動産株式会社から坪単価七〇万円の土地取りまとめ依頼書をいずれも取り付け、被告に対し、これを提示するなどとして買受希望者として紹介した。これに対し、被告は、原告に対し、同年一〇月六日、本件不動産の売却に関し原告に仲介を依頼する旨の媒介契約を締結する意思がないことを伝えたが、原告は、本件不動産を原告の仲介を経ないで売却した場合にも原告に媒介手数料を支払う旨被告が口頭で約束したと主張し、被告に対し、同年一〇月一三日付け通知書を内容証明郵便で送付するなど再三にわたり仲介手数料の支払を求めた。
(3) 他方、堀内は、大洋エステートの代表取締役として、被告に対し、平成九年一〇月七日に差し出した内容証明郵便による通知書において、大洋エステートと被告との間で、同年八月二一日、本件不動産について、原・被告が共同で買主を探した上、その買主との間で決まった代金額を一割減額して大洋エステートに売るとの約束が成立したにもかかわらず、被告がこの約束に反して勝手に本件不動産を売ろうとしており、被告が大洋エステートの意に反した行動をする場合には法的措置を講じるとの警告を発するなど、なおも本件不動産を大洋エステートに売るように求めた。
(八)(1) なお、被告が、平成一〇年二月四日の本件口頭弁論期日において、原告がその時点で閲覧・謄写を求めていた帳簿・書類のうち、第五三期から第五七期までの総勘定元帳、補助簿及び振替伝票一式について、任意に閲覧・謄写に応じる用意がある旨述べたことから、裁判所は、原告に対し、訴訟外でその閲覧・謄写を行い、その上でなおこれ以外の書類の閲覧・謄写が必要であれば、対象となる書類を特定するとともに、その必要性を具体的に主張するようにと促した。そこで、被告は、閲覧・謄写に応じる準備をし、同年二月九日、原告に対し、同月一二日から二七日までの間、被告の営業時間内に原告が閲覧・謄写をするための場所を提供するので来訪の日時を指定するよう連絡をした。ところが、原告は、被告に対し、同年二月一三日に公認会計士と打合せをした上で返事をする旨の連絡をした後、公認会計士との打合せの結果、法人税確定申告書の閲覧・謄写に応じない限りは他の帳簿・書類を閲覧・謄写しても意味がないとの結論に違した旨の回答をし、閲覧・謄写をしないまま、現在に至っている。しかも、堀内は、当法廷での証言において、訴訟外で閲覧・謄写をしなかった理由の一つとして、莫大な費用と時間がかかることをあげている。
(2) また、被告は、原告に対し、平成一〇年七月二七日の本件弁論準備手続の期日において、「原告に対して被告の第五三期から第五七期までの間の法人税確定申告書の写し(ただし、役員報酬に関する部分は役員の住所・氏名をマスキングした抄本)を任意に交付する」旨の和解案を提示し、さらに、同年八月三日の本件弁論準備手続の期日においては、役員の住所・氏名をマスキングするとの条件を撤回し、「原告に対して被告の第五三期から第五七期までの間の法人税確定申告書の写しを任意に交付する。ただし、原告は右書類を大洋エステート以外の第三者に開示しないことを約する。」旨の譲歩案を提示したが、原告が他の株主に対する開示を可能とするよう要求して譲らなかったことから、和解が調うまでには至らなかった。
(九) フジケミカルは、平成一〇年四月七日、株式会社中村屋に対し、本件不動産を坪単価一〇〇万円で売却した。
3 右認定に反する証拠(甲一三、証人堀内正雄)は、前掲各証拠に照らして、採用することができない。
4 以上認定の事実関係、とりわけ、原告の実質的なオーナーであり大洋エステートの代表取締役でもある堀内が、被告に対して、大洋エステートに本件不動産を売却すること、原告に本件不動産売却の専任媒介権を付与すること等の要求を行い、被告がこれに確答を与えなかった時期と相前後して原告が本件閲覧謄写請求をするようになったこと、堀内が、被告に対して、大株主である原告に利益配当以外の方法による利益の供与を行うように求めていたこと、本件訴え提起前の会談(平成九年八月二一日)において、堀内が、被告の代表取締役社長である野口滋から、法人税確定申告書を含む本件帳簿等の閲覧・謄写の請求に応じるとの申入れを受けながら、これに応じず、本件帳簿等の閲覧・謄写を実現するため必要のない本件訴えをあえて提起したこと、しかも、右会談において、堀内が、被告に対し、本件不動産の売却について原告及び大洋エステートに商機を与えるよう強く要求した上、本件訴えの提起を思いとどまるよう懇請する被告の役員らに対し、提訴を中止することはできないが、時機を見て取り下げることもあり得る旨答えていること等の本件訴えの提起に至る経緯、その後の経過等の諸事情によれば、原告の被告に対する本件閲覧謄写請求は、本件帳簿等の閲覧・謄写自体を目的とするものとは到底認められず、被告をして、原告の関連会社である大洋エステートに本件不動産を相場を下回る廉価で売却させるとともに、原告に右売却に関する専任媒介権を付与させることにより、利益配当以外の方法による利益の供与をさせようとして、被告との間で行われる交渉を有利に運ぶための手段としてされたものと推認される。
以上によれば、本件閲覧謄写請求は、株主の権利の確保又は行使に関する調査を目的とするものでない(商法二九三条ノ七第一号前段)と言わざるを得ない。
五 よって、原告の請求は、理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 池田光宏 裁判官 桑原直子 裁判官 小林邦夫)
目録<省略>