大阪地方裁判所 昭和19年(ハ)1068号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(事実)
原告は被告に賃貸していた家屋を自ら使用する必要があるので被告に対して賃貸借契約解約を申入れ、家屋明渡とともに延滯賃料及び損害金を法令によつて修正せられた割合によつて請求したが、被告は原告が請求原因を変更したのは請求の基礎に変更があるから許されない、そうでなくても原告には正当の事由がないから解約の申入はできないし、法令による修正の各時期において原告からは賃上げにつき何等意思表示がなく、仮に本訴においてそれがあつても過去に遡つて効力を生ぜしめることができないから、原告の請求は失当であると抗爭する。原告はこれに対して法令による賃料修正の都度被告に対し値上の通告をしたことはないが法令により自動的に値上げせらるべきものであると主張した。
(判斷)
原告一部勝訴。
裁判所は原告が請求原因を変更したのは何等請求の基礎を変更するものではなく、また原告の請求には正当な事由があると認めた後原告の賃料並に損害金の請求について次の通り判示した。曰く、
判示事項一「本件家屋の賃料は当初一ケ月金百十五円の定めで敷金として六百九十円を差入れていたが後に賃料認可申請の結果一ケ月百八円に訂正して認可せられたこと、昭和十九年六月末日迄の分は支拂済となつたが(解除の通知後昭和十九年七月四日頃原告に於て被告より送金して來た四百九十円を受領)それ以後の分は支拂われていないこと及び昭和二十二年九月一日以後数次に亘り行われた法令に依る賃料修正に除し原告が何等値上げの通告をしなかつたこと等は当事者間に爭がない。
原告は法令に依り賃料は自動的に修正されるもので別段値上げの意思表示を必要としない旨主張するが、たとえ値上げの意思表示をしなくても当事者間に法令の修正に從う意思あるものと推認せられる樣な状態(例えば賃貸借関係が双方の信賴に基いて円満に継続している樣な)にある場合ならともかく、本件に於けるが如く原告は既にそれより以前から被告に対し明渡しの訴を提起し賃貸借は消滅したと主張しているのであるから斯の如き場合に於ては最早賃料値上げの意思を推認し得べき状態にはなく、從つて法令に依り当然に如何なる場合でも自動的に賃料が値上げされるとの原告の主張は採用し得ない。
然しながら賃貸借終了後の損害金の請求については、損害金は即ち他に賃貸又は利用すれば得らるべき利益の喪失に外ならないから、若し原告が他に賃貸したとすれば法令に依る修正に應じて値上げしたであろうことは推認するに難くなく、且つ被告に対してでも損害金としてならば値上げの意思があつたであろうことは十分推認し得る状態にあつたと謂える。從つて斯る意味で損害金についてはたとえ原告が明示の値上げを通告しなくても法令の範囲内に於て請求する意思があつたものと認めるのを妥当とするから原告の主張を容認する。」
判示事項二「尚敷金六百九十円については、敷金の性質は賃借人が賃貸人に対して負担することあるべき賃料又は明渡義務不履行による損害の賠償その他の債務の履行を担保する目的を以て金銭の所有権を賃貸人に信託的に移轉し、賃貸借終了の際又はその後に於て賃借人に債務不履行があつたときはその金額中より当然弁済に充当せらるべきことを約して授受せられた金銭であると解するから、訴に於ては敷金による充当に関しては当事者双方から何等の主張がないのであるが当裁判所は原告が支拂を受くべき金額から当然控除さるべきものと判断する。」と。