大阪地方裁判所 昭和22年(ワ)183号 判決
原告 野村イマ 外三名
被告 大陽航機工業株式会社
一、主 文
被告は原告に対し別紙目録<省略>記載の機械類を引渡すこと。
訴訟費用は被告の負担とする。
本判決は原告において被告に対し金二万円の担保を供するときは仮にこれを執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に担保を條件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十一年十月十五日、被告との間に同日から六ケ月間被告の振出した約束手形を割引して被告に金員を貸與し被告はその債務の履行確保のため被告所有の別紙目録記載の機械類を賣渡担保として差入れ万一支拂を怠つたときは、原告は右物件を任意賣却して債務の支拂に充当し得るとの契約を結んだが、更に同月二十八日右契約を明白にするため、原被告間において、右物件は原被告間の内部関係においてのみならず外部関係においても、その所有権を原告に移轉し、爾後被告はこれを代理占有し、被告が右債務を履行したときはその所有権を被告に移轉するし、若しこれを怠つたときは任意これを賣却して、右債務の支拂に充当し、剩余あれば被告に返還し不足すれば不足分を請求し得るとの取り極めをした。よつて原告は同年十月二十九日被告の振出した約束手形二通金額合計金六万七千二百五十円を割引き同金額を被告に貸與したが、被告は右手形の満期に手形金の支拂をせず、原告の承諾を得て同年十一月二十六日右手形の書換手形として満期同年十二月二十日、振出地支拂地大阪市支拂場所野村銀行歌島橋支店とする約束手形一通を原告宛に振出した。そこで原告は右手形の満期に適法な呈示をしたが拒絶されたので、爾後被告に対し右手形債務の支拂を求めてきたが被告は未だこれが支拂をしないので、前記約旨に從い右物件の引渡を求めると述べ、被告の主張に対し被告会社の代表者は取締役箱田末治一人で、原告と前記契約を締結した木村豊が被告を代表する権限を有する取締役でなかつたことは認めるが同人は当時常務取締役兼工場長という会社を代表する権限を有するものと認められる名称を附していたから同人のした行爲に対しては被告は善意の第三者である原告に対しその責に任ずべきであり、被告会社が昭和二十一年十一月二十六日前記約束手形を原告宛振出したのは、右木村のした契約全部を認めたからである。右契約は被告会社の営業上必要な資金獲得のため締結せられたものであるから、右契約が被告会社の営業範囲内に属することは勿論で、右営業資金借入れのためには特に株主総会の決議を要しないと述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張事実中、被告が昭和二十一年十一月二十六日原告主張のような約束手形一通を振出し、原告が右手形につき適法な呈示をしたが拒絶されたことはこれを認めるがその余の事実は否認する。尤もその後訴外木村豊につき調査したところによると、同人が被告会社の代表資格を冐用し、被告所有の機械類を賣渡担保として原告から手形割引の形式で金員を借受けたことが、判明したが、このことは被告の帳簿に一切記載されていないからその詳細は不明である。仮りに同人が原告とした契約が原告主張のようなものであるとしても、同人は被告の單なる取締役で被告を代表する権限をもたないから、右契約は被告に対しその効力がない。仮りに右木村に被告を代表する権限があつたとしても、被告の主要設備を挙げて被告の債務の担保に供することは被告の営業に関するものとはいえないから、被告はこれにつき責はない。しかも右の行爲は万一の場合会社の営業全部を讓渡する結果を招來するから商法第二百四十五條に依り、同法第三百四十三條による総会の特別決議が必要であり、右決議なくして行はれた本件行爲は無効であると述べ、原告の表見代表の主張については原告が善意の第三者であることを否認し、更に商法第二百六十二條は会社が常務取締役その他代表権を有するものと認むべき名称を附することを許した場合に限り適用せられ、本件のように木村がその資格を冐用した場合にまで適用せられるべきでない。被告が昭和二十一年十一月二十六日前記手形を振出したのは、右木村の振出した手形債務を認めただけで、賣渡担保の契約を認めた結果ではないと述べた。<立証省略>
三、理 由
訴外木村豊が作成したことについては当事者間に爭のない甲第一号証の一、二によると被告会社の取締役をしていた同人が昭和二十一年十月十五日及同月二十八日原告との間に被告所有の別紙目録記載の機械類を担保として原告主張のような契約を締結したことを認め得べく、同人が原告主張のような手形二通を振出したが、満期に之が支拂をしなかつたので、被告が原告主張の日原告主張のような約束手形一通を原告宛振出したが、右手形も亦支拂が拒絶されたことは両当事者間に爭がない。
被告は右木村は被告の單なる取締役で被告を代表する権限をもたないから、右契約は被告に対しその効力がないと主張するので按ずるに、右木村は被告の代表権を有しない取締役であり、被告会社の代表取締役は箱田末治一人であつたことは両当事者間に爭なく、右木村の作成に係ることについては当事者間に爭のない甲第一号証の一、二に依ると同人は前記契約をなすに当り、原告に対し常務取締役或いは工場長の名称を使用していたこと明らかであり、証人丹治剛太郎の証言によると、同証人は被告会社の会社員であつた訴外佃親一より会社の運轉資金を融通して呉れと頼まれたので、原告は右佃や木村に紹介したが、その際同証人は佃等の言を信じ、木村は被告会社の常務取締役として業務の実権を握つていると原告に傳えたので原告も之を信じ木村等の申出に應じたことが認められ、右認定を覆すべき証拠がないから、原告は商法第二百六十二條にいわゆる善意の第三者に当り、被告会社は被告の取締役である木村のした行爲に対し責に任じなければならない。被告は右商法の規定は会社が取締役に代表権ありと認められるような名称を附することを許した場合に限り適用せらるべきであると主張するが、同規定は会社の代表権限を有しない取締役が会社を代表する権限を有するものと認むべき名称を附してなした行爲につき善意の第三者に対し会社が責に任ずべきことを規定したものと解すべきであるから、被告の右主張は理由がない。被告は更に会社の主要設備を挙げて讓渡担保に供するが如きは、営業の範囲外であり、仮りにそうでなくても株主総会の特別決議がなければ無効であると主張するが、会社の運営上必要な資金の供給を受けることは、会社の営利目的に反することなく、営業の範囲内に属すること勿論であるし、右資金獲得のため会社の設備を担保に供することは止むを得ないところであり、原告主張の契約は別紙目録記載の機械類を讓渡賃貸することを第一次的の目的として爲されたものでなく却つて被告の営業の維持継続を目的として爲されたものと認められ、この点につき特に株主総会の特別決議を要しないから、被告の右主張も採用できない。そして被告が前記書換手形の満期に手形金を支拂はなかつたこと前記認定の通りであるから、被告は原告に対し別紙目録記載の物件を引渡すべき義務があること明らかで、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、仮執行の宣言につき同法第百九十六條を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 乾久治 畑健次 朝田孝)