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大阪地方裁判所 昭和22年(ワ)888号 判決

原告 深美源太郎

被告 大元木材株式会社 外一名

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告会社は原告に対し別紙目録<省略>第一記載の各土地を明渡し、且昭和二十二年四月二十四日より右明渡済に至る迄一ケ月金五千二百八十六円九十銭の割合に依る金員を支拂え。被告松原和三郎は原告に対し別紙目録第二記載の土地を、其の地上に存する同目録記載の建物を收去して明渡し、且昭和二十三年十月三日より右明渡済に至る迄一ケ月金八百九十七円の割合に依る金員を支拂え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並に担保を條件とする仮執行の宣言を求め、其の請求原因として、「原告は昭和二十二年三月二十六日訴外脇坂要太郎より同人所有の別紙目録第一の(一)及同第二記載の各土地を賃借権の設定されていないものとして買受け、右第一の(一)の土地に付翌二十七日、第二の土地に付昭和二十三年十月二日夫々所有権移轉登記をなし、又別紙目録第一の(二)記載の土地を昭和二十二年四月二十二日前同様の約にて買受け、翌二十三日所有権移轉登記をなした処、右買受以前より被告会社は原告に対抗しうべき正当の権原なくして別紙目録第一記載の各土地を占有し、被告松原は右同様に同目録第二記載の土地に同目録記載の建物を建築して右土地を占有し、何れも原告の所有権を侵害しているものである。而して原告は右各土地を自己の木材営業の爲に使用すれば、一坪に付一ケ月少くとも金三十円の收益を挙げ得るに拘らず被告等の右不法占有に因り之と同額の損害を被つているものである。よつて原告は被告会社に対し別紙目録第一記載の各土地の明渡及右買受の後である昭和二十二年四月二十四日より右明渡済に至る迄右土地合計百七十六坪二合三勺に付一ケ月金五千二百八十六円九十銭の割合に依る損害金の支拂を求め、被告松原に対し別紙目録第二記載の建物の收去及其の敷地の明渡並に右土地の買受の後である昭和二十三年十月三日より明渡済に至る迄右二十九坪九合に付一ケ月金八百九十七円の割合に依る損害金の支拂を各求める爲本訴に及んだ。」と述べ、被告等の主張事実を否認し、「原告は別紙目録第二記載の土地を二十二番地の五と誤信して賣買契約及登記手続を爲し、本訴提起の後此の誤りを発見して更めて登記手続を爲したもので訴訟の目的物件には終始何等変動が無いから訴の基礎の変更があつたものではない。又仮に被告等主張の賃貸借契約があつたとしても、被告松原は昭和二十一年十二月二十一日附で自己の所有地である同所三十五番地二百二十坪の地上に建築面積三十坪の木林倉庫を新築する旨大阪府知事に許可願書を提出して認可書の下附を受け乍ら之と全く別個の本件土地に脇坂の承諾なくして右建物を建築した爲に、脇坂は契約違反を理由として原告の本件土地買受以前に被告会社に対し賃貸借契約解除の意思表示を爲した。仮にそうでないとしても、右賃借権には登記がないから之を以て原告に対抗することは出來ない。」と述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は、被告松原の本案前の弁論として、「原告は当初昭和二十二年三月二十七日脇坂要太郎から買受けた大阪市西区西長堀南通二丁目二十二番地の五宅地三十二坪七合の地上に別紙目録第二記載の建物が存在すると主張して其の收去及右土地の明渡を求め乍ら、後に右土地に右建物の存しないことを知り新に同目録第二記載の土地を買受けた上右建物の收去及敷地の明渡を求める旨請求の趣旨及原因を変更したが、右各土地は其の位置形状に於て全然別異の土地であり、新旧両訴は請求の基礎に変更があるから右訴の変更は許されない。」と述べ、本案に付、被告等の答弁として、主文同旨の判決を求め、「原告主張事実中、其の主張の各土地の買受及其の所有権移轉登記の爲されたこと及被告等が夫々原告主張の如く右土地を占有していることは別紙目録第二記載の土地買受の日が昭和二十二年三月二十七日であつたことを除き之を認めるが、其の余の事実は否認する。右第二記載の土地買受の日は昭和二十三年十月二日である。而して被告会社は昭和二十一年六月二十八日当時の所有者であつた脇坂要太郎より本件各土地を賃料一ケ年金四千五百円にて材木置場用として賃借し、同年八月十二日右地域内に事務所用建物建設の承諾を得て茲に建物所有を目的とする賃借権を得たものであるが、其の頃被告松原は被告会社との間に材木商共同経営の契約を爲し之に基く出資として前記建物を建築して被告会社に提供したものであるから轉貸関係でもなく從つて被告等の占有は何等不法ではない。」と述べ、賃貸借契約の解除に付ての原告の主張事実を否認し、登記の欠缺に関する原告の主張に対しては「被告会社の賃借権の登記の無いことは認めるが、本件土地は戰災地で荒野であつたのを被告会社に於て多大の費用を投じて清掃し現状に復したものであり、脇坂要太郎及原告と被告等とは永年大阪市に於て材木商を営んで來た同業者で旧知の間柄であつたから脇坂は勿論原告も右の事実を知らぬ筈はない。ところが原告は右土地賃貸借契約及地上建物の登記の無いことを幸に本件土地を安價に買入れ、第三者の地位を惡用して本訴請求に及んだもので取引の実情を無視すること甚だしいものである。建物保存登記の如きは建物の処分又は担保権設定の必要に迫られて初めて之を爲すのが通常であつて、此の登記が無い以上善良な賃借人が賃貸借契約を知つて買受けた第三者にも対抗出來ぬとすれば、社会生活の平穩は害せられ信義誠実は地を拂うに至る。又仮に原告が眞実被告会社の賃借の事実を知らなかつたとすれば、原告には重大なる過失がある。即ち土地買入に当つて予め現地を調査して賃借権の有無を確めることをもせず、土地の形状坪数位置番地地上建物の有無も知らずに買入れる如きは通常人のしないところであるから、斯様な場合には正当な賃借人たる被告等には土地所有権取得を理由に明渡を求めることは出來ないと解すべきである。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

先づ訴変更に関する被告松原の異議に付て考えると、成立に爭のない甲第六号証、証人脇坂要太郎の証言及之に依り眞正に成立したと認める甲第七号証並に原告本人訊問の結果を綜合すれば、原告は昭和二十二年三月二十六日別紙目録第二記載の土地を買受けたが之を同所同番地の五と誤信して登記手続を爲し其の儘仮処分の申請及本訴の提起を爲し、其の後右地番の誤りに気が付いて更めて登記手続を爲したものであつて昭和二十三年十月二日に始めて買入れたものではないことを認めることが出來、他に右認定を覆すに足る証拠はない。從つて原告が本訴に於て明渡を求める土地は終始同一であり、單に地番の訂正があつたにすぎないから所謂訴の変更に該当しないものであつて被告松原の右異議は採用出來ない。

次に本案に付て考えると、原告主張の各土地の買受及其の所有権移轉登記のあつた事実は、別紙目録第二記載の土地の買受の日の点を除き被告等の認めるところであり、右買受の日が昭和二十二年三月二十六日であつたことは前段認定の通りであるが、証人脇坂要太郎、同備前万吉、同西村賢次郎の各証言、被告会社代表者本人訊問の結果並に之等に依り眞正に成立したと認める乙第一乃至第五号証を綜合すれば、被告会社は前記賣買契約以前である昭和二十一年六月二十八日当時の所有者であつた脇坂要太郎より別紙目録第一、第二記載の各土地を被告等主張の如き約にて賃借し、次で同年八月十二日右借受土地の一部に事務所建築の承諾を得たことを認めることが出來る。又被告会社代表者並に被告松原各本人訊問の結果及之に依り眞正に成立したと認める乙第六乃至第八号証を綜合すれば、被告松原は昭和二十一年十一月二十日被告会社との間に共同出資契約を締結し之に基いて同会社の前記賃借地上に別紙目録第二記載の事務所を建築し、昭和二十二年四月之を現物出資として被告会社に提供した事実も之を認めることが出來る。而して原告は右賃貸借契約は原告の買受前既に解除されたと主張するのであるが、原告主張の事由に基いて契約解除の意思表示があつたことは甲第十号証の一、二に依つても認められず、他に何等の証拠がないから原告の右主張は之を採用出來ない。(尚証人脇坂要太郎及西村賢次郎は脇坂が右土地を他に賣却する場合は被告会社は土地を明渡すことを承諾したと供述するが、之は信用出來ない。

進んで本件賃貸借の登記の点に付て考えると、右登記の爲されていないことは被告等の認めるところであり、又前記事務所用の建物に付所有権保存登記の無いことも明かであるから、本件には民法第六百五條若くは建物保護法の適用の無いこと勿論である。併し乍ら本件係爭土地が戰災地で被告等が之を清掃の上原告の土地買受前に地主脇坂の承諾を得て其の一部なる別紙目録第二記載の土地に事務所を建築したこと前認定の如くであり、而して被告等の内部関係が前認定の如く共同出資契約であつた以上右建築は地主に対する関係に於て所謂轉貸と目すべきものでなく借主たる被告会社が自ら爲したものと同視して差支ないと考える。而して被告等は、原告が土地買受に際し右賃貸借契約の存在及事務所建築の事実を知つていたと主張するが、此の点に関する被告会社代表者本人の供述は信用出來ず、却つて証人脇坂要太郎の証言及原告本人の供述に依れば、右賣買に際しては双方共全く現地の調査を爲さなかつた爲原告に於ては全く建物の存在及賃貸借契約成立の事実を知らずして土地を買受けたことが認められる。併しながら、凡そ土地を買受けようとする者が其の土地の形状、賃貸借関係、地上建物の有無の調査をもしないで、軽々に之を買受ける如きは通常の事例とは言い難いものであり、すでに其の土地が賃借人より或程度まで清掃され其の一部に十二坪の本件事務所の建築されていることを知らずに買受けたことは社会取引上の注意を著しく欠いたものと謂う他なく、此の事実に前示の如く原告が本訴提起の後始めて地番の相違に気付いて更めて登記手続を行つた事実を綜合すると、原告は土地買受に際し被告会社の賃借権を知らなかつたことに付重大なる過失があつたものと謂わざるを得ない。それにも拘らず買主たる原告が、被告会社の賃借権の登記若くは地上建物の登記が無いからとて右建物の收去及土地の明渡並被告等の土地占有が不法であることを理由とする損害賠償の請求を爲すことは社会観念上適当な権利行使の範囲を逸脱したものであつて、被告等の認容すべき限度を越えて居り正しく権利の濫用と認むべきものである。仍て原告の本訴請求は全部失当として棄却を免かれないから、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 沢井種雄)

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