大阪地方裁判所 昭和23年(レ)59号 判決
被控訴人は控訴人に対し昭和二十一年一月一日より同年九月十九日まで一ケ月金十円の割合の金員を支拂うべし。
控訴人その余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し池田市東山町六百七十八番地の一地上木造瓦葺平家建住宅一戸一棟を明渡し、昭和二十一年一月一日より昭和二十四年十一月十七日まで一ケ月金十五円、同月十八日より右家屋の明渡ずみまで一ケ月金七十二円の各割合による金員を支拂うべし。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因としてつぎの通り述べた。
「控訴人は昭和十八年十月中旬被控訴人に控訴人所有の請求の趣旨記載の家屋を、賃料一ケ月金七円五十銭その支拂期を毎月末日と定め期間を定めず賃貸した。ところが被控訴人が賃料を拂わないので、控訴人は家屋使用の必要もあつたから、一旦昭和二十年十一月十六日被控訴人に書面で賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたが、訴外高田粂一の仲裁によつて昭和二十年十二月二十二日、賃料一ケ月金十五円、その支拂期を毎月末日と定めあらためてこれを被控訴人に賃貸した。しかるに、被控訴人は又、昭和二十一年一月分から同年八月分までの賃料を支拂わないので、控訴人は同年九月十六日到達の書面で被控訴人に三日内にこれを支拂うべく、もしこの期間内に拂わなければ賃貸借契約を解除するとの催告並びに條件附契約解除の意思表示をした。それにもかかわらず、被控訴人は右の催告に定めた期間内に延滞賃料の支拂をしなかつたから、右貸賃借は昭和二十一年九月十九日の経過とともに解除により終了した。だから、被控訴人は、直ちに、前示家屋を控訴人に明渡す義務があるのに、その履行を怠つて、控訴人に賃料と同額の損害をこうむらせている。
よつて、控訴人は被控訴人に対し右家屋の明渡並びに昭和二十一年一月一日より同年九月十九日まで一ケ月金十五円の割合の賃料と同年九月二十日より昭和二十四年十一月十七日まで一ケ月金十五円(賃料は賃貸借の当初は一ケ月金七円五十銭であつたが地代家賃統制令に基きその統制額が昭和二十二年九月一日以降は從前の二・五倍に、昭和二十三年十月十一日以降はさらにその二・五倍に、昭和二十四年六月一日以降はその一・六倍に修正され、結局当初の十倍に修正されたからその範囲内で)同年同月十八日より右家屋の明渡ずみに至るまで一ケ月金七十二円の各割合による賃料相当の損害金の支拂を求める(原審においては賃料請求部分について一ケ月金十円の割合により控訴人勝訴したがこの部分のほか上記のように当審において請求を拡張するものである)。」と述べ、被控訴人の抗弁に対し「上記昭和二十一年九月十六日到達の書面による催告の後被控訴人の妻女が控訴人方に延滞賃料を持参した事実は認めるが、持参した日は昭和二十一年十月一日で、すでに前記解除の意思表示が効力を生じた後十数日も過ぎてからのことであつた。從つて控訴人はその受領を拒んだ。なお、その後被控訴人が賃料を供託していることは認める。」と述べた。<立証省略>
被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴人の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁としてつぎの通り述べた。
「控訴人主張の請求原因事実中、被控訴人が昭和十八年以來控訴人からその所有の本件家屋を賃借してこれに居住していること、昭和二十年十二月二十二日訴外高田粂一の斡旋によりあらためて控訴人主張のように契約を締結し直したこと及び控訴人から書面によつてその主張のような内容の催告並びに條件附契約解除の意思表示のあつたことは認めるが、その書面の到達の日時及びその余の事実はすべて否認する。被控訴人は昭和二十一年一月以來毎月末に賃料を控訴人方に持参したのであるが、その都度控訴人が受取らなかつたものであつて、賃料の支拂を怠つたのではない。從つて、控訴人の契約解除の意思表示は効力を発生しないのみならず、被控訴人は控訴人の前記催告に対しても早速妻アキエに催告にかかる賃料額を持参させたが、控訴人が受領を拒んだので、昭和二十一年一月分より十月までの賃料合計金百五十円を同年十月十八日供託してその債務を免れた。以上の次第であるから賃料延滞並びに契約解除を原因とする控訴人の本訴請求は失当である。」と述べた。<立証省略>
三、理 由
控訴人が昭和十八年十月中旬被控訴人に控訴人所有の本件家屋を賃料一ケ月金七円五十銭毎月末日拂の約束で期間を定めず賃貸したこと及び昭和二十年十二月二十二日訴外高田粂一の斡旋で賃料を一ケ月金十五円、その支拂期を毎月末日と定め契約し直したことは当事者間に爭がない。
そして、眞正に成立したものと認められる甲第四号証、原審証人高田粂一、当審証人山脇正子(後記信用しない部分を除く)の証言、原審及び当審における控訴本人(後記信用しない部分を除く)訊問の結果、並びに原審における被控訴本人訊問の結果を総合して考へると控訴人は近く結婚すべき娘夫婦を別居させる必要上、昭和二十年十一月十六日賃料延滞を理由に被控訴人に本件家屋の明渡を求め、訴外高田粂一に依頼して被控訴人と交渉してもらつた結果、明渡の請求はこれを取止め同訴外人の斡旋で同年十二月二十二日上記の通り賃料を一ケ月金十五円、その支拂期毎月末と定めてあらためて賃貸しその際被控訴人から延滞賃料金額を受取つて一旦話はついたのであるが、その後に至つても控訴人はなお本件家屋の明渡を欲してやまず、昭和二十一年一月末日被控訴人の妻アキエが同月分の賃料を持参したのにその受領を拒み、二月分についても同様であつたので、被控訴人は三月分から後の賃料は持参しても受取つてもらえないものと考えて持参しなかつたため賃料が未拂になつていたことが認められるのであつて証人山脇正子の証言及び当審における控訴本人の供述のうち右の認定に反する部分は信用することができない。
控訴人が書面で昭和二十一年一月より八月までの未拂賃料の支拂を催告するとともに、三日内にこれが支拂をしなければ賃貸借契約を解除するとの條件附契約解除の意思表示をし、その書面が被控訴人に到達したことは当事間に爭がなく、その到達日時については爭があるのであるが、成立に爭のない甲第一号証の一、二によれば、右の書面は昭和二十一年九月九日内容証明郵便として神戸中央郵便局に差出し配達証明附でその後池田市の被控訴人のもとに郵送配達されたものであることが認められるところであるから、その記載内容から見て、右書面についての再発行の配達証明書であることが明かである右甲第一号証の二に配達の日が「21年9月6日」と記載されてあるのは明かに誤記であつて、右郵便物差出の日時、発送地たる神戸市と配達地たる池田市との距離、当時の交通関係、郵便事情などを考え合わせ右書面は神戸中央郵便局に差出された昭和二十一年九月九日から遅くとも一週間後である同月十六日には被控訴人に配達されたものと認めるのを相当と考える。
しかしながら原審証人山田アキエの証言と原審における被控訴本人訊問の結果とを総合すると、被控訴人は右の書面が到達すると直ちにその翌日その妻アキエに、催告を受けた未拂賃料全額を支拂のため控訴人方に持参させて控訴人にその受領を求めたのであるが、控訴人は一切を弁護士に委せてあるからといつて受領を拒んだことが認められるのであつて、この認定に反する当審証人山脇正子の証言並びに原審及び当審における控訴本人の供述は前段に認定した賃料未拂にいたつた事情や控訴人と被控訴人の住居が同一部落にあること、また前記書面の内容などから考え、さらに証人山田アキエの前記証言及び原審における被控訴本人の供述とくらべて信用することができないし、ほかに右認定を妨げる証拠はない。
そうだとすると控訴人の前記催告に対し被控訴人からその催告の趣旨にそう未拂賃料の提供があつたわけであるから、控訴人に前記賃貸借の解除権ができるわけはなく、右催告とともにした賃貸借解除の意思表示は効力が発生しなかつたことになる。そして、その外には右賃貸借の終了原因として何も主張がないのであるから、右賃貸借はその後今日までつづいているものと考える外はない。從つて、右賃貸借の終了並びにこれによる明渡義務の不履行を原因とする控訴人の本件家屋明渡並びに昭和二十一年九月二十日以降の損害金の請求は失当であつて、棄却すべきものである。
被控訴人が昭和二十一年一月から同年十月分まで一ケ月金十五円の割合の賃料を同年十月十八日供託したことは双方に爭がないところ、前認定のように被控訴人が同年一月から十月までの賃料を提供したのに控訴人はこれが受領を拒絶したのであるから、この期間の賃料債務についてはもちろん、その後の賃料についてもあらためて提供をしなくても右の供託は有効であつてこの期間の賃料債務はこれによつて消滅したものと認める。從つて控訴人の本訴請求中昭和二十一年一月一日から同年九月十九日まで一ケ月金十五円の割合の賃料を求める部分も失当であるけれども、その内一ケ月金十円の割合賃料請求については、原審において控訴人が勝訴の判決を受けているのであるから、この部分についての控訴人の控訴は不適法であり、当審としては原判決中右の部分は変更することができないからこれを維持し、その余の部分を失当として棄却する。
以上の次第であるから本件控訴は、原審が控訴人が何等請求していない昭和二十一年九月二十日から昭和二十三年八月三十一日まで一ケ月金十円の割合の賃料の支拂を命じた部分については理由あるに帰するけれども、その余の部分については失当である。なお控訴人は当審において請求を拡張したことと相待つてここに言渡す判決は原判決と一致しないので、民事訴訟法第三百八十六條、第八十九條、第九十二條、第九十五條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 濱本一夫 鈴木敏夫 麻植福雄)