大阪地方裁判所 昭和23年(ワ)673号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(事實)
原告は、昭和二十年十月原告はバラツク建設のため貸してくれとの被告井川の申込により原告の請求あるときはいつでも無條件で明渡すとの約束の下に本件土地を無償で貸與したが、同二十一年十二月末頃明渡を請求したと主張して建物收去及び土地明渡を求めた。
被告井川は、(一)本件土地の貸借は賃貸借であり借地法第二條に定める期間(二十年間又は建物腐朽まで)は明渡できない。(二)假に使用貸借であるとしても民法第五百九十七條第二項の場合に該當し契約に定めた目的(建物設置の目的)に從い使用收益を終つた時(建物朽廢の時)に返還すべきであり、原告主張のような特約を結んだことはなく、結んだとしても不可能を約したもの又は著しく公平の原則を無視したものとして無效である。(三)以上が理由ないとしても本件土地は特別都市計畫法に基く區劃整理により昭和二十四年九月一日道路敷地に豫定せられ、原告は既に假換地の割當も受けているので、被告に明渡を求めることは訴の利益がなく、そうでないとしても民法第一條の趣旨に反する權利行使であると爭つた。
(他の被告に關する部分は省略する。)
(判斷)
原告敗訴。判決は本件土地の貸借が使用貸借であること及び原告主張のような特約の存在を認めた上次のように判示した。
「然しながら既述の如く、被告井川がたとへ一時的にもせよ苟くも「住宅設置の目的」を以つて本件土地を使用貸借したものなる以上、「原告の要求あり次第理由の如何に拘らず何時にても直ちに無條件で土地を返還する」という特約の如きは、之を文字通りに解すれば建物設置後直ぐにでも原告の要求があれば建物を收去して土地を明渡させねばならないこととなり、斯くては土地借受人の爲に酷に失し又信義衡平の觀點よりするも妥當を缺くのみならず、「建物設置の目的」という契約の本旨にも通はないこととなるから、斯る特約はそのまゝ文字通りに之が效力を認める譯には行かない。とは言へ被告主張の如く「斯る特約は無效であるから契約に定めた建物設置の目的に從ひ使用收益を終る迄即ち建物が朽廢する迄借受けてゐる權利がある」と早急に結論し得べきものではない。思ふに建物設置の目的で土地を使用貸借したのであればたとへ其の契約上用ひられた文言が如何樣であつても當事者は其の契約の目的に從ひ相當期間土地の使用を爲し得べき權限を與へたものと解すべきであつて、此の「相當期間」は結局其の時の周圍の客觀状勢並に借主の資力等により借主が建物を他に移轉し又は該土地を返還し得る可能性及び貸主の該土地を必要とする緊要度等により具體的に伸縮性を以つて判斷せらるべきものと解し、斯く解することに依つて民法第五百九十七條第二項殊その但書は正しく理解されるものと考へる。」
そして本件については被告井川が移轉場所も資力もないこと、原告は本件地上に新に家屋を建築しようとしているが區劃整理が近く實施される豫定であるため新建築の許可を得ることは至難であること、また原告が換地豫定地として指定を受けた土地上には第三者が所有使用中の建物が存し原告が本件土地を大阪市に提供したところで直ちに換地豫定地を使用できないこと等の事情により使用貸借の相當期間は區劃整理の實施の際までと解するのが至當であると判斷した。