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大阪地方裁判所 昭和24年(ワ)785号 判決

原告 平岡良藏

被告 帝国人造絹糸株式会社

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、

原告が被告会社の昭和二十三年十二月一日資本増加登記をした増資新株式七百五十株の株主であることを確認する。被告が原告に対し被告会社の株主名簿に原告を右の株主として所定の事項を記載し、右増資新株式七百五十株の株券を引渡し且つ金十九万五千円及びこれに対する昭和二十四年十一月二十二日以降支拂ずみに至るまで年五分の割合による金員を支拂うことを命ずる。訴訟費用は被告の負担とする。

との旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

原告は從來被告会社の株式数千株を有していたが昭和二十三年五月頃から同年七月頃までにこれを他へ裏書譲渡し逐次その取得者において名義書換手続を了したがそのうち二百五十株のみは昭和二十三年九月一日に至るもその手続なく株主名簿には依然原告がその株主として登載せられていた。

然るところ被告会社においてはその昭和二十三年八月十六日開催せられた臨時株主総会において、「資本の総額を金二億六千万円に増加しその新株式はこれを株主、緑故者に割当て及び一般に公募する。その株主に割当てるものについては、これを昭和二十三年九月一日現在において被告会社の株主名簿に記載の株主に対しその有する一株について三株とする。」との旨などを決議し、その新株式募集については、申込期日昭和二十三年十月一日以降同月十五日まで、申込証拠金一株について金五十円、株金拂込期日同月二十日、その拂込方法は証拠金を以て振替え充当する、との要項が決定せられ、よつて被告会社は昭和二十三年九月二十一日附新株式割当通知書を以て、原告に対し、「新株式を割当てるからその申込を希望するならば期日迄に申込ありたい」旨を通知してきた。そこで原告は昭和二十三年十月七日その申込取扱場所である株式会社三和銀行東京支店において七百五十株の申込をなし(申込証番号第五六三三号)申込証拠金三万七千五百円を拂込み以てその新株式七百五十株の引受権を確保した。

然るに被告は同年十月一日頃原告の前記旧株式二百五十株を譲受けた訴外坪田武から株主名簿の書替を求められ、これを同年九月一日附でその書替手続を完了したように株主名簿と株券に虚僞の記入をなし以て原告の前記新株式の申込を無効と主張しその新株券を他の申込人に交付して原告にその引渡を拒んでいる。

そうして被告会社は更に昭和二十四年六月一日開催せられた臨時株主総会において資本の総額を金五億五千万円に増加しその増資新株式を同年六月十五日現在の株主に対しその有する一株につき二株の割合をもつて割当てる旨の決議をなし、その募集の方法として申込証拠金一株につき金五十円拂込金は右証拠金を以て之に充当するなどの要項を決定し、從て原告は右昭和二十四年六月十五日現在七百五十株の株主として千五百株の割当を受くべき権利があるので被告会社に対し同月二十五日附同月二十九日着の書面で右千五百株を原告に割当つべき旨注意を喚起しておいたのに、被告はこれを無視し原告に対する右割当を爲さず因て原告をして右千五百株の割当を受くべき権利を喪失しその結果右株式の時價金二十七万円(一株金百八十円)と拂込金七万五千円(一株金五十円)との差額金十九万五千円の損害をその履行不能によつて蒙らしめた。

以上の次第であるから原告は被告に対し

(一)  原告が被告会社の前記昭和二十三年八月十六日の増資決議(同年十二月一日登記)による新株式七百五十株を有することの確認

(二)  被告会社がその株主名簿に原告を右七百五十株の株主として所定事項を記載し、原告に右株券を引渡し且つ前記昭和二十四年六月一日の増資決議による新株式千五百株の割当を受くべき権利を喪失せしめたことによつて原告に蒙らしめた損害の賠償として金十九万五千円及び之に対するその請求を記載した準備書面の送達の翌日たる昭和二十四年十一月二十二日以降支拂ずみに至るまで民法に定める年五分の割合による遅延損害金を支拂うこと

を求めるため本訴に及んだ。

と陳述し、被告の答弁に対し、

(一)  仮に前記昭和二十三年八月十六日開催せられた株主総会の決議に「株主名簿記載の株主」なる文字が使用せられていないとしても右名簿記載の者全部についてその者が眞の株主であるかどうかを調査すること及びその眞の株主でない場合にその眞の株主を発見することは事実上不可能であるから、右決議の趣旨は被告の主張するような昭和二十三年九月一日現在の眞の株主というのではなくて、右同日現在において株主名簿に登載せられた者と解しなければならず、

(二)  また右決議はその実行方法を会社の執行機関に一任し執行機関の行爲によつて具体化せられるものであるところ、本件において会社執行機関は日本経済新聞紙上に、「昭和二十三年九月一日までに株式の名義を書換えなければ新株式の割当を受ける権利を喪失する」旨公告し、又各株主に対する割当通知書にも、「九月一日現在の株主名簿記載株数一株に付三株の割合をもつて割当てる」旨記載し、以て右決議にいわゆる株主を、「株主名簿記載の株主」と具体化したものである。

(三)  仮に右(一)及び(二)にいうところが失当であつて原告が前記決議による割当を有しない者であつたとしても、被告会社は原告に対し前記のとおり割当てる旨通知し、原告は之に應じて株金の拂込を了したのであるから、之によつて原告は右割当による権利を取得したのであつて、会社の執行機関が株主総会の決議に反する割当をしたことにより内部関係において責任を負うは格別、右原告に対する割当により外部の第三者たる原告の権利取得の効力に何等の影響を及ぼすものではない。

(四)  しかのみならず本來株式会社はその株主名簿に記載せられた者を眞の株主として取扱うことにより免責せられるものであるが、本件においても当初原告を株主として取扱つたのであるからここに前記割当の効果は右免責力により確定的に発生しその後において原告が眞の株主でないことを知つても右割当の効果が消滅するものではない。

(五)  原告の新株引受の申込は、(イ)被告会社の代理人たる株式会社三和銀行(東京支店)が有効に之を受附け、(ロ)その当時原告においては割当を受けるについて惡意又は過失なく、むしろ(1) 株式会社はその株主名簿記載の株主を標準として行爲をするのが常態であること、(2) 被告会社は特に右の常態に反することを表示せず反て前記公告及び通知においても右常態に從うことを表示し、(3) 株主総会の決議はその外部にある者においては、その具体化せられた執行機関の行爲によつてこれを知るの外なく、その具体化の方法として原告に対して割当通知が爲されたのであり、(4) 株式の譲受人がその名義の書替を会社に求めるや否やはその自由であり原告においても右九月一日において何人が眞の株主であるかを知らなかつたのであるから、原告は自己が本件新株式の割当を受くべき者であると信ずるについて正当の理由があつた者というべく、從つて原告の右申込は有効である。

(六)  そうして一たび新株の申込が爲された以上は如何なる理由によつても申込人は勿論会社も、更に両者の合意によつても後日之を無効とすることができず、又仮に被告の割当が事務上の過誤に由るものであるとしてもこれを相手方たる原告の不利益に轉嫁することを得ずかかる事由で右割当の無効を主張し得ないものであり、更に原告の右申込によつては未だ引受の確定を生じたものでないと仮定しても原告の申込証拠金の拂込及び被告の領收証の発行により原告との間に利害の関係を生じたのであるから被告はその後において右割当を撤回し又は取消すことができないのであり、結局原告の申込は有効であつて之に基く本件新株式引受の効果は確定的に発生し且つ後日失効したものでもない。

(七)  訴外坪田武は本件旧株式二百五十株を野村証券株式会社から譲受けたというのであるが昭和二十三年九月一日においては未だその名義書換手続を完了せず從つて同人は右当日においてはその取得をもつて第三者たる原告に対抗することができない。

(八)  以上被告会社の原告に対する行爲は英米法にいわゆる禁反言の法則の適用せられる一場合に外ならず被告は、原告に本件割当を受ける権利なし、ということはできない。

と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、

原告主張の事実のうち、昭和二十三年八月十六日開催せられた株主総会において同年九月一日現在の「株主名簿記載の株主」に対し新株を割当てる旨の決議が爲されたとの点、訴外坪田武が被告会社に対し株主名簿の書換を求めた日、被告会社が右に関し株主名簿及び株券に虚僞の記入をしたとの点は、いずれもこれを否認し、その余の部分はこれを認める。

原告は以下述べるように被告会社の増資新株式割当期日における被告会社の株主ではなかつたのであるから右新株の割当を受ける権利を有しないものである。即ち、昭和二十三年八月十六日開催せられた被告会社の株主総会においては「同年九月一日現在の株主」に対しその有する株式一株につき三株の割合を以て割当てる旨の決議が爲されたのであつて「株主名簿記載の株主」に割当てるとは決議せられていない。そうして原告はその自ら主張するように右昭和二十三年九月一日においては既に被告会社の株主ではなかつた。尤も原告は右期日における株主名簿には株主として登載せられていたけれども、当時既にその有する株式を他人に譲渡していたのであるから、右割当を受ける権利を有していないのである。

そうして右割当を受くべき者は訴外坪田武であつた。即ち、被告は原告に対し右新株式引受申込証用紙と共に割当通知書を送附したけれども、その後間もなく坪田武及びその前主なる野村証券株式会社から口頭又は文書を以て、「右株式は既に同年五月頃同会社から坪田に賣却した。」との旨通知があり被告会社においては之を調査の上同年九月一日における眞の株主が原告ではなく坪田であると確認し、よつて原告に対しては直に「先に被告会社の発した株式割当通知に対する引受申込は株主でない者の爲したものであるから無効である。」との旨通知しその後も之を繰返すと共に申込証拠金の返還手続をとり他方坪田に対しては新株式を割当て新株券を交付した。

そうして右坪田に対する株式譲渡については株券提供及び名義書換の日附を遡記したのであるが、法の規定は眞実の株主であつてもその名義書換の手続を了しない者はこれを以て会社に対抗することができないというに止まり、株主名簿に登載せられている者は眞実株主でない者であつても株主であると会社に主張し得しめるというのではないから、右被告会社の処置は毫も法に反せず原告の権利を侵害して不当に坪田のために利益を図つたのでもない。原告の請求は全部失当である。

と陳述した。<立証省略>

三、理  由

昭和二十三年八月十六日開催せられた被告会社の臨時株主総会において資本の総額を金二憶六千万円に増加しその増資新株式の一部を在來の株主に対しその有する株式一株につき三株の割合で割当てる旨の決議の爲されたことは当事者間に爭がない。

然しながら右決議がその割当を受くべき者を昭和二十三年九月一日現在における「株主名簿記載の株主」と定めたとの原告主張の事実は、成立に爭のない甲第一、第九号証によつてもこれを認めることができず、他にこれを確認し得べき証拠なく、反て成立に爭のない乙第一号証の一、二及び証人大橋保雄の証言によると右決議はその割当を受くべき者を右同日現在の「株主」と定めたものであることが認められる。この点について原告は、「(一)右決議にいわゆる株主とは株主名簿に登載せられた者を意味しその者が眞実の株主であると否とを問わない趣旨であり、(二)またはこの決議が会社の執行機関により右の趣旨に具体化せられたものである。」との旨主張し、原告が右昭和二十三年九月一日現在において二百五十株の株主として被告会社の株主名簿に登載せられていたこと及び被告会社が原告に対し右新株式七百五十株の割当通知をしたことは被告の認めるところであり、この通知書には注意の(一)として割当株数は昭和二十三年九月一日現在の株主名簿記載株数一株につき三株の割合をもつて割当てた旨の記載のあること成立に爭のない甲第一号証によつて明らかであり、また原告に対しかかる通知をした事実により一般に株主名簿に登載せられた者に対し同様の通知の爲されたことを推認し得べく、更に成立に爭のない甲第九号証によると、被告会社は昭和二十三年八月十七日附日本経済新聞紙上に増資新株式割当についての注意として、株式の名義書換未済の者は昭和二十三年九月一日午後四時までに一切の書類を完備して被告会社に名義書換を求めなければ新株式引受の権利を失うこととなる旨の公告をしたことが認められるけれども、右株主総会が原告主張のような意味で右一九月一日現在の株主」という言葉を用いたと認むべき証拠なく、また理論上右の意味に解すべきものともすることができず、唯株主はその名義書換手続を了しなければその株式取得をもつて会社に対抗することができない爲に会社は株主名簿に登載せられた者を株主として取扱うことによつてその責を免れるにすぎず、前記新聞公告及び割当通知書中の各注意書も右の趣旨を警告したものに外ならず、又会社の執行機関が右決議の趣旨を原告主張のように具体化したとの事実は、右割当通知及び新聞公告はその各記載が前記警告の趣旨であるから右事実を立証するものとなすことができないし、その他右事実を認むべき証拠がないのみならず、会社の執行機関が右決議を原告主張のように取扱うことは決議の具体化ではなくて決議の趣旨に背反することになるのであるから、右原告の各主張は失当である。

そうして原告が昭和二十三年九月一日当時被告会社の株主名簿に二百五十株の株主として登載せられていたこと前記のとおりであるが、右株式はこれよりさき同年五月頃から七月頃までの間に原告がこれを他へ讓渡したものであること原告の自認するところであるから、原告は前記株主総会の決議によつては本件新株式の割当を受くべき資格を有していなかつたといわなければならない。そこで原告は、仮に右割当を受くべき資格を原告が有していなかつたとしても、原告は、(三)前記のとおり被告会社から本件新株式の割当を受けたことにより、(四)又被告会社が本件新株式の割当を爲すに際りいわゆる免責力を利用したことにより、ここに右新株式の割当を受くべき権利を取得した、と主張するが、右原告に対する割当通知が本來割当を受け得ない者に対して爲されたものであること前記のとおりである以上その割当は常に無効であつて、そのために通知を受けた原告がその通知を信じたことによつて蒙つた損害の賠償を求め得るか否かは別論として、右通知によつて原告が株主総会の決議に反するにも拘らずその割当を受くべき資格を取得し得べき理由なく、又会社が一たびその免責力を利用して株主名簿記載の者を株主として取扱つても、後日これを撤回して眞実その株式を有する者を株主として取扱うことは何等妨のないものであるのみならず、本件においては前記被告会社の新聞公告及び割当通知書の各記載は單にかかる免責力を利用することあるべき旨を警告したに止まり、原告主張の新株式七百五十株について会社は未だその免責力を利用していない(右免責力を利用するとは、被告会社が眞の株主に対して爲すべき右七百五十株の割当を原告に対して爲したことにより免責せられたことを眞の株主(被告の主張によれば訴外坪田武)に対して主張することである。)のであるから、原告の右各主張も亦失当である。

右のとおり原告は本件新株式七百五十株の割当を受くべき資格を有しない者であり、そうしてかかる一定の資格を要する右株式につき、その資格を有しない原告が引受の申込を爲して受附けられ更にその株金の拂込を了しても、これによつて右株式を取得し得ないのは勿論であるから、原告は本件新株式を取得したものでなく、よつてその取得したことを前提とする原告の本訴請求はその余の点の判断をするまでもなく全部失当であり、なおそのうち損害賠償を求める部分は前記被告会社の執行機関が誤て原告に対し割当通知をしたことに因る損害の賠償を求めるものとしても直接の因果関係が無いから失当であり、また訴外坪田武の原告に対する対抗力に関する原告の主張は、原告において既に本件株式の割当を受くべき資格を有しないこと前記のとおりである以上被告会社が何人を眞の割当を受くべき者として取扱おうとも原告の請求の当否に影響がないからこれを判断する必要がない。

以上原告の本訴請求は全部失当であるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内貞次)

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