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大阪地方裁判所 昭和24年(ワ)978号 判決

原告 吉田茂夫

被告 三橋信次郎

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告は原告に対し別紙目録<省略>記載の建物を収去して其の敷地四十坪を明渡さねばならない。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、其の請求の原因として、原告は訴外斎藤みさほに対し原告の所有に係る請求の趣旨記載の敷地たる宅地四十坪を賃料一ケ月坪当金三十二銭毎月末日持参支払の約定で賃貸したところ、同訴外人は昭和二十一年五月二十七日訴外浜田筆次に対し右地上の別紙目録記載の建物を売却すると共に原告に無断で右敷地の賃借権を譲渡し、訴外浜田筆次は更に昭和二十四年四月六日被告に対し原告の承諾なしに右地上建物を売却すると共に敷地の賃借権を譲渡した。よつて原告は昭和二十四年五月十六日附書面を以て訴外斎藤みさほに対し右賃貸借契約を解除する旨通知し右書面は翌十七日同訴外人に到達し同日限り右敷地の賃貸借契約は解除せられた。従つて被告は原告に対抗し得る何等の権原なしに右建物を所有することにより右敷地を不法に占拠するものである。仮りに訴外斎藤みさほの訴外浜田筆次に対する右敷地賃借権の譲渡が適法になされたものとしても原告は被告の賃借権を終始否認するものであるから、改めて昭和二十七年五月十四日附書面を以て訴外浜田筆次に対し民法第六百十二条に依り賃貸借契約を解除する旨の通知を発し右書面は翌十五日同訴外人に到達したから同日限り原告と同訴外人との本件宅地賃貸借契約は適法に解除せられた。以上いずれにするも被告は不法に本件土地を占有するものであるから、本訴において原告は被告に対し所有権に基いて右地上建物を収去して該敷地四十坪の明渡を求めると陳述し、尚被告の抗弁事実を否認する。本件土地は近来異状に発展し布施花柳街入口の角地であつて家族七人を擁して生業のない原告が僅少の土地収入では到底将来の生計を維持し難いところから右地上に店舗を新築し質商並びに煙草小売店を経営することにより生活の基礎を確立しなければならない必要且つ正当な事由を有するものであるのに反し、被告はカキモチ製造卸売業者で別に工場を有し本件地上建物を事務所として使用するにすぎないのであるから、何等の権原なくして本件土地を占拠する被告に対し右土地の明渡を請求することは正当な権利行使であつてこれを目して権利の濫用とする被告の抗弁は当らないと附演した。<立証省略>

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中原告主張の土地が原告所有であること、原告と訴外斎藤みさほとの間に原告主張の土地賃貸借契約成立したこと、並びに原告主張の建物売買及び敷地の賃借権譲渡の各事実はいずれも認めるけれども原告主張の賃貸借契約解除の事実は不知、其の余の原告主張事実を否認する。本件土地の賃借人斎藤みさほは訴外浜田筆次に対し建物を売渡すと共に適法に敷地の借地権を譲渡し、被告も亦訴外浜田筆次より本件建物を買取ると同時に右借地権を譲受け原告の承諾を得て適法に右賃貸借関係を承継したものである。又被告は本件地上建物につき登記を経由したから建物保護に関する法律第一条第一項に依り敷地の賃借権につき登記なくとも賃借権を以て第三者に対抗することができる。土地賃借人に変更ある場合敷地の所有者も亦同条に所謂第三者に該当するから、たとい本件土地賃借権の譲渡につき原告の承諾が認められないとするも右法条に依り被告は本件土地の借地権を以て原告に対抗する。以上理由ないとするも原告は訴外浜田筆次より登記簿上一筆の建物を分割して買受けた被告外三名の建物買取人において各自納得する権利金の多寡によつて不平等な取扱をし、他の建物買取人に対しては賃借権の譲渡を承諾しながら被告に対して承諾を拒否することは正当な権利行使ではない。又原告は他にも相当の土地を所有し建物新築のための空地を有し、被告をして本件地上建物を収去させてまで右敷地を必要とする程の急迫した事情は毫末もないのに住宅の極度に払底する現状において敢て被告に対し建物の収去を求めることは権利の濫用であるから、原告の本訴請求に応ずることはできないと陳述した。<立証省略>

三、理  由

別紙目録記載の家屋の敷地四十坪が原告の所有であること原告が訴外斎藤みさほに対し右土地を賃料坪当一ケ月三十二銭毎月末日持参払の約定で賃貸したこと及び同訴外人が昭和二十一年五月二十七日訴外浜田筆次に対し右賃貸借地上の建物を売却すると共に敷地の賃借権を譲渡し、同訴外人が更に昭和二十四年四月六日被告に対し右建物を売渡すると共に右借地権を譲渡したことはいずれも原被告間に争がない。原告は賃借人訴外斎藤みさほが原告の承諾なしに訴外浜田筆次に対し右敷地賃借権を譲渡したので、昭和二十四年五月十七日訴外斎藤に到達した書面を以て同訴外人に対し右敷地の賃貸借契約を解除した旨主張し、成立に争ない甲第一号証の一、二に依れば右契約解除の意思表示がなされたことを認めることができるけれども、成立に争がない乙第二号証及び証人吉田ヤスノの証言に依れば原告が譲受人訴外浜田筆次に対し右賃借権の譲渡を承諾したことが明かであるから、右借地権の譲渡は適法でこれによつて原告と訴外浜田筆次との間に本件敷地の賃貸借関係が生じたものと認むべきで右解除の意思表示は無効であるから原告の右主張は理由がない。

次に原告が訴外浜田筆次と被告との間における本件建物の敷地の賃借権譲渡が原告の承諾なしになされた違法なものであることを理由として、昭和二十七年五月十五日訴外浜田筆次に到達した書面を以て同訴外人に対し右賃貸借契約を解除する旨意思表示したことは成立に争がない甲第四号証の一、二に依り認めることができる。被告が右賃借権の譲渡を原告が承諾したと抗争するから按ずるに成立に争がない乙第一号証、甲第二号証、同第三号証の一乃至三及び証人斎藤なか、同出口為治郎、同西岡照夫の各証言及び被告本人の供述を綜合すれば、被告が昭和二十四年三月二十日訴外浜田筆次より本件建物をその敷地賃借権と共に買取り、同年四月中頃原告に対し右借地権譲渡の承諾を求めたところ原告は北隣りの地価が急騰の状況にあつたので暗に一戸当り金二万円の借地権利金の交付を受けることを条件として承諾し、改めて賃貸借契約を締結することを暗黙に約諾したところ、被告において右権利金の交付を躊躇したため原告が被告の借地権を拒否するに至つたことが認められる。右認定に抵触する証人吉田ヤスノの証言及び原告本人の供述はにわかに信用し難く、原告の其の余の立証に依るも右認定を左右することができない。しかして借地権利金の授受は地代家賃統制令第十二条の二、第十八条に依り禁止せられているが当裁判所において顕著である当時建物の新築が極めて困難である社会、経済事情の下において右不法な事項を停止条件として附款することにより借地権譲渡に対する承諾という準法律行為自体に違法性を与えるものとは、にわかに断定し難いばかりでなく、賃貸人が民法第六百十二条に依り賃借権の譲渡に対し承諾を与えると否とは其の自由選択に委ねられているけれども、一旦承諾を与えるに当り其の承諾の効果発生を自己の恣意により不当且つ違法な条件にかからしめ賃借権譲受人の法律上の地位をして著しく不安定ならしめることは信義誠実の原則上許さるべきではなく、かような場合賃貸の承諾なる単独行為自体を無効ならしめる理由に乏しく、むしろこれを無条件の行為として其の効力を是認することが妥当と解する。果してそうであるならば被告が本件家屋敷地の賃借権を以て原告に対抗することができるから原告の前記賃貸借契約解除の意思表示は其の効果を生ずるに由がなく、被告が本件家屋の敷地を不法に占拠することを前提とする原告の本訴請求は他の争点につき判断するまでもなく失当として棄却を免れない。よつて民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 南新一)

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