大阪地方裁判所 昭和24年(行)108号 判決
原告 竹谷昭雄
被告 大阪府知事
一、主 文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、請求の趣旨
被告が大阪府中河内郡天美町大字芝六十五番地田七畝十九歩内畦畔六歩、同所七十五番地の二田三畝二十二歩についてなした自作農設特別措置法に基く昭和二十四年七月二日附買収令書の交付による買収処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。
三、事 実
原告訴訟代理人は、その請求の原因として被告は、昭和二十三年十月二日天美町農地委員会が原告所有の請求の趣旨記載の農地に対し定めた自作農創設特別措置法第三条第一項第一号による農地買収計画に基ずいて、原告に対し昭和二十四年七月二日付の買収令書を交付しもつてこれを買収した。しかしながら、
(一) 右農地は原告先代国三郎が昭和十五年七月末日訴外松本平吉に期間を昭和十八年七月末日までと定めて賃貸したものであるところ右訴外人はその後右の契約期間が満了してもこれを明渡さないので原告は(先代国三郎は昭和十九年二月死亡し、原告は家督相続によつてこれを承継した)右訴外人を相手方として大阪地方裁判所に明渡の調停を申立て、昭和二十年二日十二日の期日において右訴外人は昭和二十三年六月十五日までにこれを明渡す旨の調停が成立し、昭和二十四年六月二十七日に至り強制執行を俟つて漸く現実の明渡を受けた。従つて前記使用貸借契約は昭和十八年七月末日契約期間満了によつて終了したものであり、かりにそうでないとしても昭和二十年二月十二日の調停期日において合意解約により終了したものであつて、原告はたゞ右訴外人の明渡義務の履行を昭和二十三年六月十五日まで猶予したにすぎないものであるから、右農地は買収計画当時において自作農創設特別措置法第三条第一項第一号にいう小作地ではない。
(二) しかるに天美町農地委員会は曩きに昭和二十二年七月二十日これを不在地主の所有する小作地であるとして買収計画を定めたので原告はこれに対し天美町農地委員会に異議を申立て、その棄却の決定があつたので、更に大阪府農地委員会に右決定に対する訴願をしたところ、同委員会は同年九月右訴願を認容し右農地を買収してはならない旨の裁決をした。尤も大阪府農地委員会はその後再審議して右の裁決を取消した模様であるが、再審議すべき何等の理由がないのであるから右の取消は当然無効である。従つて天美町農地委員会は右の裁決により以後右農地に対する買収計画を定めてはならない拘束を受けているのに、右の形式的裁決取消があつたことに藉口して昭和二十三年十月二日再び同一理由によつて買収計画を定めたものである。
従つてこの買収計画は違法であるから、これを基礎とする被告の買収処分もまた違法である。よつてその取消を求めるため本訴請求に及んだ次第である。」と述べ、被告の本案前の主張事実を認めた。
被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として「本訴を却下する」との判決を求め、その理由として、「原告は大阪地方裁判所昭和二十四年(行)第一〇六号事件として、大阪府農地委員会を被告とし、原告が本訴において主張するところの昭和二十三年十月二日附買収計画が本訴と同一の理由により違法であることを理由として、右買収計画に対する異議申立を棄却した決定を不服とする訴願を更に棄却した裁決の取消を求める訴訟を提起し、目下継続中であるから本訴は不適法である。」と陳述し、
本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め答弁として、
「被告は原告主張の買収計画に基き原告主張の買収処分をしたこと、右買収計画に先立ち同一物件につき原告主張の買収計画が定められ、原告はこれに対する異議申立とその棄却の決定を経て大阪府農地委員会に右決定に対する訴願をなした結果、昭和二十二年九月二十三日これを認容する旨の裁決があつたこと、昭和十五年七月末日には原告先代が本件農地を訴外松本平吉に賃貸し原告が先代の死亡によりこれを承継したこと、原告と訴外松本平吉との間において原告主張の日にその主張の期日までにこれを明渡す旨の調停が成立したこと及び原告がその主張の日に右農地の明渡を得たことはいずれもこれを認めるが右賃貸借契約の存続期間が当初原告主張の通りであつたこと及び原告主張の日に右契約が合意解約せられたとの点はこれを否認する。農地買収計画に関する訴願認容の裁決があつても、市町村農地委員会は同一物件につき別の理由と見解で再度買収計画を定めることは許されるところである。又期間の定めのある農地の賃貸借契約は市町村農地委員会の承認を得た上予め更新拒絶の通知がなされなければ、その期間満了の際従前と同一の条件で賃貸借は更新されたものとみなされるのであるから、右の手続を経ていない前記賃貸借契約は調停条項所定の明渡期限である昭和二十三年六月十五日にこれを更新せられたものと見るべきであり、従つて本件買収計画当時右農地は小作地であつた。
よつて本件買収計画には何等違法の点がない。」と述べた。
四、理 由
原告は本訴において、天美町農地委員会が昭和二十三年十月二日原告所有の大阪府中河内郡天美町大字芝六十五番地、田七畝十九歩、内畦畔六歩、同所七十五番地の二、田三畝二十二歩について定めた自作農創設特別措置法に基く買収計画が違法であるから、これに基いて被告の買収令書の交付による買収処分も違法であると主張し、右買収処分の取消を求めるものであるところ原告が大阪地方裁判所昭和二十四年(行)第一〇六号事件として、大阪府農地委員会を被告とし、前記買収計画が本訴において主張するところと同一の理由により違法であることを理由として、右買収計画に対する異議申立を棄却した決定を不服として原告の申立てた訴願に対する大阪府農地委員会の訴願棄却の裁決の違法を主張し、右訴願裁決の取消を求める訴を提起し、目下係属中であることは、当裁判所に顕著である。
そもそも行政訴訟における確定判決は当事者たる行政庁のほか関係の行政庁も拘束するものであることは行政事件訴訟特例法の明定するところである。この規定の趣旨とするところは行政庁は国家若しくは公共団体の機関として訴訟の当事者になるものであつて判決の結果は結局国家若しくは公共団体に帰一すべきものである関係上当該行政処分に関する限り関係の行政庁を等しく拘束するに非ざれば行政の円満な遂行に支障を来すべきことは理の当然であるからである。従つてまた本件のように農地の買収を窮局の目的として買収計画の樹立これに基ずく買収(買収令書の交付)またこれらに対する異議、訴願についての決定、裁決というように段階的に行政処分がなされる場合に根本たる買収計画の適否についての行政訴訟の判断はそれが買収計画自体の取消を目的とする訴訟についてなされると或はまた買収計画に対する異議申立についての決定の取消を目的とする訴訟についてなされるとを問わず従つてその判断が判決主文に包含されるものであると否とを問わず、等しく関係の行政庁を拘束するものと解すべきである、このことはそのように解しないと行政の円満な遂行を阻害することは前の場合と理を異にするものに非ざるところから見て当然といわなければならない。飜つて本件においてこれを見るに、原告は前記買収計画が本訴において主張するところと同一の理由により違法であることを理由として、右買収計画に対する異議申立を棄却した決定を不服として原告の申立てた訴願に対する大阪府農地委員会の訴願棄却の裁決の違法を主張し、右訴願裁決の取消を求める訴を提起し、これが係属中であるのであるから右事件において本案に関する確定判決があれば、その判決理由に示された買収計画の適否の判断は本件被告たる大阪府知事を拘束するものであつて、被告はこれに反する行政処分ができなかつたことになり、その趣旨に副うような措置を採らざるを得ないことになるものといわなければならないところである。従つて原告としては、前訴である前記第一〇六号事件の訴を提起している以上、これによつて大阪府知事を被告とする本訴の目的も達し得るわけであるから、重ねて本訴を提起する必要がないものといわなければならない。しかももし前記第一〇六号事件のほかに本訴の提起も許されるとすれば、両訴訟とも前記買収計画の同一の違法性を有無について審理をすることになるから審理の重複を来して不経済無益であるのみならず、不幸両事件の判決における判断を異にする結果となんらか両訴の当事者が互に他の確定判決に拘束せられる関係上、右買収計画の違法性の有無について示された矛盾牴触する判断による混乱を生ずるおそれもあつて却つて有害である。従つて本訴は訴に関する正当な利益を欠くものとして却下すべきであると考えるのほかはないのである。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 浜本一夫 鈴木敏夫 坂井芳雄)